霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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十日後に備えて

 砂と木ノ葉の連合小隊と暁のサソリとデイダラが対峙した日の夜のこと。

 人型の石像、それぞれの指先にホログラム状の身体で集まった暁のメンバーは九尾を始め相手を取り逃がしたというその内容に呆れ、或いは無関心にサソリとデイダラの報告を聞いており、一通りの情報共有が終わった時鬼鮫は真っ先に口を開いた。

 

「…それにしても、アナタの本体を見たのは初めてですね。愛用の傀儡を破壊されるとは…はたけカカシと九尾のガキの小隊は思った以上にやり手の様ですね」

「ふん」

 

 普段自身の姿を隠す傀儡鎧、ヒルコを破壊されたことで本体の姿で招集に応じていたサソリはその言葉に不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 敗北した訳ではないが相手を取り逃がし、自身の十八番の傀儡を破壊されたという失態は話題に上がって気分の良いものではない、そんな態度が面白いと思ったのかここぞとばかりに飛段も口を開く。

 

「情けねぇなァ、老いぼれたババアと小娘どもに人形壊された挙句逃げられて、デイダラちゃんも両腕潰されちまって暫く戦線離脱ときたもんだ。腕くっつけに行ってあげなきゃならねぇこっちの身にもなってほしいもんだぜ?」

「テメー、飛段!」

「腕を付けるのは俺なんだが何故お前が威張る?」

「だからオメーと組んでる俺もわざわざ一緒に行ってやらなきゃいけねぇって話だろうが、くだらねぇ水差すんじゃねぇ角都!」

「やめろお前達」

 

 気が付けば言い争いが勃発している状況に彼らのリーダー、ペインは若干語気を強めて仲裁の声を出す。

 

「一尾捕獲後、3日間の封印術を続けた上での戦闘だ…万全とは程遠い状態での戦闘なら遅れを取ることもあるだろう、今回の件はもう良い。…九尾を逃したのは少し惜しいが、そもそも九尾は最後に封印しなければバランスが崩れて封印像の方が砕けるからな、次の機会でも構わんさ」

「おいおい、随分と甘いじゃねぇのリーダーよォ?」

「深刻な情報が漏れたわけでもない、わざわざこの程度の事で足並みを乱すこともないだろう。…ただし、報告であったように相手小隊を前に半ば仲間割れしたことについては反省してもらうがな。芸術に拘るのは結構だがそれで足を引っ張り合うのはやめろ」

「チッ」

「ふん」

 

 飛段の様な煽り目当てに喧嘩を売ってくるなら反論もするのだが、不本意ながら擁護された上で真っ当な注意を受けてしまえば2人はもう何も言い返すことも出来ない。

 不機嫌そうな態度を隠しはしないが地面に埋まった案山子の様に大人しく釘を刺されることにした。

 

 どうにも重苦しい空気になってしまった…もっとも、メンツがメンツだけに陰鬱な空気感はいつもことだと思いながらも、今回の言い争いの発端が自分のお喋りだったことも鑑みて鬼鮫は別の話題を口にする。

 

「…そういえば、村雨…あぁいえ、偽雨は敵の攻撃に巻き込まれて死んだと言っていましたが本当ですか?」

「あぁ、お守りしながら戦うなんぞ里を抜けて以来なかったからな、気付いたら死んでやがった」

「──そうですか、やれやれ…大方アナタの傀儡人形の仕込みにでも見入って注意力が散漫になっていたのでしょうね」

 

 憐み半分、呆れ半分に苦笑する。

 どういう縁なのか、旧知の間柄の少女とまた顔を合わせる様になったと思っていたのだが…まぁあれはあくまで同一体である分身故に少し残念だと思いながらもそこ止まりの感想だ。

 そんな事よりも、偽雨が死んだのなら別の問題がある。

 

「お前が進めていた"クシナダ"とやらはどうなる?」

 

 既に材料入手の為莫大な量の資金提供をしていた角都が深刻な様子でその問題について言及する。

 

「別にどうという事もねぇ…もう"クシナダ"そのものは完成も見えてきている、後はそれに持たせる武器と仕込みを造る方が主だからな…その刀についても奴が造っていた刀の設計案の資料はあの茶屋に残っている、オリジナルの方にそれを渡せば何も問題はねぇ」

「そうか、なら良い」

 

 サソリやデイダラの芸術への拘りにも負けず劣らず"金"というものへ執着する男があれ程投資したのだからそれが頓挫したとなれば穏やかではいられないのだろう、安堵した様子の角都にサソリを除いてその場にいる全員が「本当に金にうるさいな」と思わずにはいられなかった。

 

「まぁあの女の事は後で良い、それよりも問題は…十日後の件だ」

「あぁ…確か大蛇丸の下にいるアナタの部下との密会の日でしたか」

「大蛇丸の人体実験データと穢土転生の術についての情報収集に潜らせたんだ。順当にいけば問題ねぇが…相手は大蛇丸だからな、奴が付けられて戦闘になる可能性もなくはねぇが」

 

 この場で言えば余計な事に発展する為言いはしないが、スパイであるカブトが元々大蛇丸側の人間であった以上ほぼ確実に戦闘になるであろうことをサソリは伏せながら話を続け、自身の相方へと視線を向ける。

 

「10日後じゃデイダラは使えねぇ、俺1人でも構わないがどうする?」

 

 一尾の人柱力に左腕を潰されはたけカカシに両腕を千切られた…一応角都の処置を受ければ千切れただけの右腕は何とかなるかもしれないが潰された左腕はそれなりの治療期間が必要だ、少なくとも十日後には無理だろう。

 

 デイダラとしても大蛇丸は個人的に気に入らず自らの手で始末したいと思ってはいるが、先程釘を刺された直後であるのと、仮に無理についていったとしても術が使えない以上足手纏いになり他人の手で大蛇丸を始末されるよりも遥かに歯痒い思いをするであろうことも分かっている為清聴している。

 

「…相手は大蛇丸だ、確かにお前の言う通り万が一ということはある」

「デイダラは療養、飛段と角都はその治療に移動…という事は?」

 

 万が一という事態に対して人員を使うにしても既にその3人の予定は確定済み、そして戦闘要員ではないゼツを除けば選出は限られている。

 鬼鮫、そしてイタチは半ば確定した指示を静かに待つのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 天地橋から幾分か離れた荒野に位置するアジトにて大蛇丸とカブトは十日後に迫った騙し討ちの計画の打ち合わせを進めていた。

 

「──では私の出現に対して退避したと見せかけてサソリに不意打ちなさい…恐らく仕留めるまでは無理でしょうけど私が追撃を狙うわ」

「分かりました」

「それとサソリの他に相方がいる様なら不意打ちの後にそちらを攻撃して邪魔されない様にしておきなさい」

「やれやれ、また難しい要望を…」

 

 ため息を吐いて愚痴を言いながらも無理と拒否しない自身の腹心に大蛇丸は笑みを浮かべる。

 

「確かに難しい要望ではあるわね、──ならサソリへの不意打ちと同時に仕留めるのはどうかしら?」

 

 無茶振りを取り消すのではなく、むしろより困難な事を言い放つと同時に大蛇丸はそれを可能にし得る物をカブトへ投げ渡す。

 

「この刀ならサソリへの不意打ちと同時にもう1人を仕留めることも出来るでしょう?」

 

 "蛇刀・蝕"

 8つの関節で繋がれ、チャクラの形質変化によって伸縮する両刃の鞭剣であり、その刀身に傷付けられた者は瞬時に身体の動きを封じる呪印と細胞を破壊する毒蟲に身体を蝕まれる正しく必殺の刀だ。

 これならば確かに通常の刀よりも遥かに広いリーチとその殺傷能力故にサソリへの不意打ちついでに彼の傍にいる相方に致命傷を、そうでなくともサソリへの援護を封じるぐらいは出来るやもしれない。

 

「使い方には癖があるけれど、お前なら十日もあれば十分使いこなせるでしょう?」

「天地橋への移動を考えれば十日丸々は使えないのですが…それによろしいのですか? これは大蛇丸様の武器でしょう?」

「そうね、確かにソレも中々気に入っているけれど…もっと良い刀が私にはあるからね」

「"灰刃・遺骨"でしたか? 確かにあれも優れた性能ではありましたが、現状ではまだこちらの方が──」

 

 刺した相手を崩壊させる君麻呂の骨とうちはサスケ、綱手の血を素材に造られたもう一つの村雨の作品。

 確かに"蛇刀・蝕"と違い呪印や毒蟲という媒介がない為治療する術もなく相手を葬れる武器ではあるが、出力不足故に崩壊させる範囲が狭く、接触位置によっては致命傷に至らないという欠点があるのだ。

 

「ええ、確かにアレはまだ"未完成"だけど…だったらここで"完成"させれば良いのよ」

「…ッ! まさか!?」

「そう、以前この刀を造る前にあの娘が推測した話があったわね。かぐや一族と千手一族の繋がり…そして私達が導き出したあの仮説」

「うちはマダラの死が偽装の可能性…そして写輪眼と輪廻眼の関係性」

「私達の仮説が確かならば…この刀と例の"細胞"をあの娘に与えればどうなるか…クク、楽しみじゃない」

 

 そう言ってゆっくりと立ち上がる大蛇丸が今から"忍の神"たる男の細胞を保管室に取りに行くのだと確信したカブトは懸念の声の出す。

 

「よろしいのですか? あの細胞は貴重な…それに彼女をそこまで信頼して良いのか…もしかしたらそれを持って逃げ出すやも…」

「なに、別に全ての細胞を渡す訳じゃないわ。それにあの娘を信頼なんてしているつもりはないわ」

 

 大蛇丸とて村雨が数年前から自身のアジト内を何やらコソコソと漁っているのは知っている、勿論、刀造りの為に色んな資料を手当たり次第目を通しているだけかもしれないが、何やら思惑があってのことの可能性の方が高いと思っている。

 

 それに外出と言いつつ自覚なく暁と関わり良いように利用されかけていたり、香燐に見張らせていた通り、自分に隠れてどこかへ出て行ったりと怪しい素振りはいくらでもある。

 

「ただし、極上の素材を前にして彼女が私達から逃げようとするなんてあり得ないわ。そんな事をして殺されたら、その素材で刀造りが出来なくなってしまうもの…いえむしろ、私達から逃げようとする時間さえ惜しくてそもそもそんな発想自体が出てこないでしょう」

「…確かに、それもそうですね」

「……実を言うとね、香燐から無断外出の報告を受けた時点で処分しようとも考えたのよ。ただどうやら水月が上手く誘導したようで、この3年間はずっと大人しかったから…まぁ気が変わったのよ」

 

 自分に隠れて上手くやるのなら、その危うい生き方でどこまでやれるのか見てみたくて敢えて見逃してやろうとも考えた。しかし彼女は隠れきれていなかった、情けをかけてやらねば生きられないならばその時点で価値はないと処分してやろうとも考えたのだ。

 しかし水月の指示で大人しく武器を造り続けるのならばいずれ資金源として使えるだろうとその処分を暫く見送った。

 

 その見送りの末に、あの終末の谷におけるうちはマダラの死が偽装であるという仮説が生まれ…そして写輪眼と輪廻眼の関連性と彼女が推測したかぐや一族と千手一族の繋がりという可能性が噛み合ったことで確信した。

 

 …まだ村雨には試してほしいことが…いや、村雨で試してみたいことがある。

 

 だったらまだ生かして好きにさせておこう。

 その中で村雨が何か不都合な事をしようと、それこそ村雨自身が造った作品で切り捨ててしまえば良い。

 

 あの娘を上手く使うのは暁でもあの娘自身でもなく私なのだと大蛇丸は邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 …その後、極上の素材を手に村雨の下を訪れるとかつてない程に目を輝かせながらも先客である水月の要望を後回しに別の仕事に着手するわけには…とさめざめと涙を流しながら断られたせいでわざわざ水月に優先の許可を貰いにいかなければならないという非常に無駄な1工程が挟まった。

 

(…使いにくいわね)

 

 先程の内心を口に出してカブトに聞かれてなくて良かったと思いながら、扱い易いのか扱いにくいのか…どうにも掴みどころのない娘に頭を悩ませるのだった。

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