霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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三つ巴の天地橋

 暁の手から無事…とは言い難いが風影、我愛羅の救出が果たされた。

 救援として任務に大きく貢献した木ノ葉の2小隊は休息及び、捕縛されていた砂の傀儡部隊の解毒と我愛羅蘇生の為に転生忍術を行使したことで殉職となったチヨバアの葬儀に参加する為3日間砂の里に滞在することとなった。

 

 傀儡部隊全員に解毒薬が行き渡った事で漸く休息となった春野サクラの下へ彼女と共に戦ったテマリが訪れた。

 

「済まないな、あんな戦いの後に薬の調合まで…おかげでカンクロウ達は皆もう動けるようになったらしい」

「いえ、彼らに使われた毒はただの痺れ毒でしたので…調合も私達が使ったものよりはずっと簡単なものでした」

「それでもうちの連中では手の施しようがなかったんだ。…砂も医療忍者の育成をもっと進めなければな──っと、そうだった我愛羅からお前に伝言を預かっていたんだ」

「私に?」

 

 サクラにとってその言葉は意外なものだった。

 確かに自分も我愛羅救出の為に戦ったが彼個人との接点はほぼ無く、伝言があるとすればナルトの方に…と思ったのだが。

 

「──大蛇丸についての情報、だそうだ」

「っ!?」

「だが…正直言って出所からして信憑性のない話だ。信じれるかどうかは…」

「大丈夫、聞かせて!」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 テマリとサクラが話している頃、医務室では蘇生後の硬直が残る我愛羅とチャクラの消費によって身体に大きな負担を掛けたはたけカカシ、そして彼らの見舞いに来たカンクロウも同様の話を聞いていた。

 

「…渦柘榴村雨…の同一体がそんな事を、しかもその話が確かなら所謂死後の世界ってところでだ」

「我愛羅…お前の話を信じないわけじゃないが、そりゃいくら何でも」

「そうだな、スムーズに話を進めるなら…捕まっている間に暁の連中が話しているのが耳に入ったとでも言うべきだったが、これはナルト達にとって重要な話だ。だから俺が聞いた通りに春野サクラに、そして彼女とナルトの担当上忍であるアンタに伝えた」

「一先ず、ナルトがいない場で話してくれたことに感謝するよ」

 

 間違いなくこの話を聞いただけで動き出そうとする自身の部下の事を思いながらカカシはそう頭を下げると思案に暮れる。

 

 普通に考えて、死後の世界で他人と出会い情報を共有するなんてお伽噺の様な事だ、確かな情報として忍が動くにしては浅はか過ぎる…だが。

 

「…確かに、俺が見た限りでもあのバカの姿は3年前から何も変わってなかったじゃん。あれが村雨の同一体って話は本当かもしれねぇが…」

「俺達もガイ班もそれぞれ暁のメンバーの特殊な分身と交戦した、確かに一部の術や記憶を共有した同一体を造る術が奴らにはあるらしい」

「…にしてもあのバカ、暁の連中と一緒に砂の里に攻め入るなんて何考えてやがる…同一体ってことは今回は分身だったが本体だって同じことをするってことじゃん?」

「いや…アレと本体は別物だ。もしも奴らと一緒にいたのが村雨だったなら…恐らく俺達はあのまま死んでいた」

「より酷ぇじゃんよ!?」

「ま、まぁ村雨本体の事はともかく、サクラ達の報告が確かならその偽雨とやらは最後には暁を裏切ってサクラ達を逃がしたって話だし…誘い出しの罠である可能性はないでしょ」

 

 わざわざそんな回りくどいやり方をせずにそのまま戦っていれば済む話なのだから罠の線は薄い…ならばこの情報の懸念は一つ、死後の世界で得たという信じらない出所だ。

 

「…ま、どっちにしても十日後じゃあ俺は動けないしね。サクラと五代目の判断に任せることにしよう、この話は俺が責任を持って五代目に通しておくよ」

 

 班員の命を預かる上忍としては信じるに値しないと判断するべきかもしれないが、自分の班員達の思いを知る身としては危険を承知で挑む価値はある内容だ。

 確かな情報を全く掴めない大蛇丸、そしてサスケに繋がるのならば──彼らを行かせてやるべきかもしれない。

 

「…それにしても、死後の世界ねぇ」

 

 

 …そんなものが本当にあるのなら。

 いつか自分が死んだら父や師、そして友と再び出会い話せる日が来るのだろうか? 

 そんなもしもを思いながらカカシはほんの僅かに笑うのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 そしてその日から十日後、カカシとサクラの話を受け五代目火影、綱手はその情報を信じるに値すると判断しナルト、サクラの所属するカカシ班に代理の隊長であるヤマトと同じく代理の隊員であるサイの2名を補充し再編成した新たなチームに出撃を命じた。

 

 その任務はサソリの部下である"スパイ"の確保であった。

 それは先の戦闘データを基にサソリとその部下の両者を同時に相手取るのは危険と見ての判断だった。

 

 サソリの持つ100体の傀儡に対抗するには2小隊でさえ数が足りない、かと言ってそれ以上の大隊を編成し動かしては隠密行動が難しく、気取られ逃げられる可能性が高い。

 なにより近隣の里を刺激してしまう危険性も高かった。

 中忍試験が近く人や忍が行き交う状況で木ノ葉という砂と並び最も大きな里が大掛かりな部隊を動かせば中忍試験そのものへ再び影響が出てしまう、それらの要因故に今回の任務では暁側への接触は禁止とし、大蛇丸に繋がるスパイのみを狙いと定めるのだった。

 

 

 急造のチームによる衝突を繰り返しながらも天地橋へと到着した彼らは当初の予定した行動の1つをとる。

 

 天地橋到着時、サソリ及びサソリのスパイの両者がいなければ付近の草陰に隠れて様子見。

 もしもサソリのスパイのみがいれば変化したヤマトがその人物に接触。

 もしもサソリが先にいるのなら彼らが接触し、別れた後スパイのみを狙い追跡する。

 

 無事に真昼より前に到着した彼らは1つ目の選択肢の通りに近くの茂みに身を隠す。

 出来ることならばスパイが先に来て、彼らが余計な情報を共有したりする前に確保と撤退を済ませたいところだと祈るが、その祈りも虚しく、ほぼ同時のタイミングで橋の両側からフード付きのコートで全身を隠した1人の人物と暁の装束を纏った2人の人物が歩いてくる。

 

「っ! やはり…そう上手くはいかないか」

「人を待たせるのが嫌いとは言っていたけど…徹底しているわね」

 

 こうなってしまっては一番慎重に動かざるを得ない、彼らは可能な限り気配を殺し互いの動きに警戒する。

 その際にサソリと共に来た暁の男に目が止まる。

 

「…あれ? サクラちゃんが言ってた様にあの赤い髪の奴がサソリなら…あのダッセーお面付けてる奴は誰だってばよ?」

「前に一緒にいた奴とは別人ね」

 

 サソリと共にいた爆発物を使う金髪の男ではなく、橙色のお面をした見知らぬ男だった。

 

「五代目の話では彼の相方はカカシさんと風影様に両腕を潰されたという話だ…恐らく、代理の者だろうが…能力のデータがない奴がいるというのは厄介だな」

「纏めて相手をするのはリスクが高い…ここは当初の予定通り彼らが別れるまで待つのが正解ですね」

「…出来れば暁に余計な情報が渡るのは阻止したいが…やむを得ないな」

 

 欲を出して返り討ちに合えば捕まって木ノ葉の情報を奪われる、何よりナルトが捕まればそれだけで九尾が暁の手に落ちる…迂闊に手を出せばこちらの被害は計り知れない。

 ヤマトは全員に待機の命令を出して橋の上で落ち合った奴らの動向を静かに窺う。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 デイダラの代理であるトビとかいう頭の軽い奴を連れ天地橋に訪れれば、丁度同時に反対側から来た男がフードに隠した顔を僅かに動かした。

 そういえばこいつにはヒルコの姿でしか会っていなかったから暁の装束の見知らぬ男が約束の場所に来れば警戒もするか。

 

 …その警戒の通り、今からこの男を始末する予定だが──警戒されている以上逃げられるのも面倒だ、それに向こうも大蛇丸側の人間である以上、いつ攻撃してきてもおかしくない。

 一度落ち着かせ、油断を誘う方が良いか。

 

「…五年ぶりだな、カブト」

「っ! 申し訳ありません、お姿が違ったもので…サソリ様」

「それはもう良い、それよりさっさと本題に入るぞ」

「はい、サソリ様より命じられていた件ですが…大蛇丸は転生後も使い捨てた遺体の細胞標本にも封印術でプロテクトを掛けていて、その細胞データを解析することは出来ませんでした」

「…そうか、穢土転生についての情報の方はどうだ?」

 

 所詮この眼鏡は大蛇丸側の人間、こいつの口から出る報告に信憑性は欠片もないのだが…それ故に生きたまま本当の情報を引き抜く必要がある、確実に捕獲する為にもう少しだけ会話を続ける。

 

「申し訳ありません、そちらについてもまだ…」

「あらら、じゃあ何にも情報掴めてないって事じゃないっすか、この人使えないっすねサソリ先輩」

「まぁいい…それについては奴を始末した後探る」

 

 一先ず以前に命令した内容の確認は済んだ…このまま会話を続けて揺さぶりと探りを掛けてもいいが、いちいちそんな事をするのも面倒だ。

 装束の袖で隠したまま腕の仕込み刀を抜く…定石なら狙うならまずは足、逃走の可能性を潰すべきだがこいつは医療忍術の天才だ…ならばまずはその腕から潰しておくべきだろう。

 

 気取らない様に殺気を抑えつつカブトが息を吸う一瞬を狙い──

 

「予定変更よ、カブト」

「「っ!?」」

「うひゃあ!? 出た──ーっ!?」

 

 突如音もなくカブトの背後に黒い影が差し込みトビが驚いた様に間抜けな声を上げた。

 長い黒髪に白い肌そして特徴的な声…何よりカブトと自分達を遮る様に割り込んだ口寄せ蛇…それが誰かなど間違うはずもない──

 

「大蛇丸」

「その装束、懐かしいわねサソリ…そちらの面の男は新入りかしら?」

「大蛇丸様…予定変更とは?」

「なに、ほんの僅かだけど殺気がしていたからね…大方このタイミングでアナタを始末するつもりだったのでしょう。用済みと判断したのか貴方が二重スパイだと気付いてのことは分からないけれど…恐らく──」

 

 なるほど、こちらの魂胆はお見通しとでも言いたい訳か…まぁこちらからわざわざ明かしてやる必要もないだろう。

 

「さぁ、どっちだろうな…しかしあれだけ抑えた殺気がバレるとはな。木ノ葉崩しをしくじった挙句三代目火影に両腕をやられた事が堪えて鍛え直しでもしたか?」

「クク、どうでしょうね。アナタの隠密性がそれほどもないだけ…と言うとカブトが可哀想かしら。そんなことよりアナタこそ愛用のヒルコはどうしたのかしら? いつも傀儡に隠れていたアナタが…引き籠り癖が改善できたのかしら?」

「口が減らねぇのは相変わらずの様だな…殺し甲斐は残ってる様で安心したぜ」

「今度こそ、完全な敗北とやらを振舞ってくれるのかしら?」

 

 こいつが暁に加入しようと接触してきた際に一度戦い──結局有耶無耶になった時の事を掘り返してくるそのわざとらしさに神経が逆撫でされるところだが…その相手を今から殺せるというのだからこの怒りも上等だ。

 三代目風影がバラされ手元に残った他の傀儡では大蛇丸を相手にするのに釣り合う物はない、ならば"これ"を出し惜しむ必要もない。

 

 数日前に使ったばかりのとっておきをこうもすぐに再び使おうとするのは些か格好もつかないが、それは精々目の前の連中の死を以て晴らすとしよう。──と、その前に。

 

「…それで、あっちのネズミ共はいつまで隠れさせておくつもりだ?」

「──あら、あのネズミ共はアナタの部下じゃなかったのね。…一応言っておくけどアレは私の伏兵なんかじゃないわよ?」

「何だと? ──トビ」

「カブト」

 

「オッス!!」

「ハッ!」

 

 後ろに控えさせていた新入り候補に指示を出せば、ほぼ同時に大蛇丸もカブトへと命を下し、短い返事と共に手裏剣とメスを橋の傍の草陰へと投擲させる。

 風切り音と共に草むらを刃が斬り裂くとそれより一瞬早く刃の軌道から逃れた連中が目の前に並ぶ、それはつい最近見たばかりの連中だった。

 

「…また君か」

「クク、幾度か見た顔ね。九尾の子もいるみたいだし…サソリの相手をするついででよければ少しぐらい遊んであげようかしら…サスケ君とどっちが強くなっているか、見てあげるわ」

「…サスケを…返せ…」

「あ──ーっ! サソリ先輩、あの金髪のガキ九尾の人柱力っスよ! あの赤いチャクラ間違いない…ってサソリ先輩達ってこの前会っちゃってるんでしたっけ、取り逃がしちゃったけど、アハハ」

 

 空気の読めないバカが何か言っているが…そんな事よりも、目の前に並んだ木ノ葉の小隊の1人の小娘に目が留まる。

 生きている…とは思ってはいたがこうも早くまた会うとはな。

 

「暫く振りだな木ノ葉の小娘。お前が生きているという事は…あのババアも」

「…残念だけど、チヨバア様は亡くなられたわ。あの時の時空間移動とは別件だけど──アンタ達がしでかした事のせいでね!」

 

 怒気を孕んだその声は噓偽りを感じない。…忍としては愚かなものだが、情報源としては都合が良い。

 それにしてもババアは死んだのか──

 

「そりゃ…残念だ」

 

 空虚感に思わず無意識の内に言葉が出ていた。

 残念…そう、残念なんだろうな。

 

「あれ程の傀儡師は他にいねぇからな、さぞや良いコレクションになったと思うんだがな」

「ッ! アンタは人の命を、肉親を何だと思ってんだ!?」

「落ち着けサクラ! …今回の狙いはあくまで大蛇丸だ、気持ちは分かるが冷静に」

「何だ、どうやらこいつらお前の客らしいぞ大蛇丸」

 

 てっきり先日の続きを求めて追ってきたのかと思ったがどうやらそうでもないらしく、大蛇丸へと視線を向けると大方の心当たりはあるのか薄気味悪い笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

「サスケ君の事を知りたければ力尽くで私から聞き出してみなさい。出来ればの話だけれどね」

 

 サスケ…確かイタチの弟だったか。

 ──前にあの小娘が大蛇丸の情報を聞き出そうとしてきたのもそれが理由か。

 

「ふん、抜け忍の為にあの変態に関わろうなんざご苦労な話だな」

 

 だがまぁ…そんな事の為に一度は逃がした連中が再び目の前に来たのなら好都合だ。

 折角のお気に入りをバラされた相手に逃げられたというのも気に食わないと思っていたところだ──まぁもっともこの場で優先すべき相手はまずは九尾の人柱力か。

 

 …いや、そういえばアレは最後に封印しなきゃならないんだったか。

 現状3匹しか封印してない以上今捕まえても仕方ない…むしろ木ノ葉の連中が今まで以上に動くとなると些か面倒、つまりあの九尾のガキは後回しでも良い…ならばやはり戦場でもっとも厄介な者を一番最初に叩くのが基本か。

 

 もっとも厄介な者…大蛇丸へと狙いを定めた瞬間──奴は赤いチャクラで型取られた獣の様な手によって跳ね飛ばされた。

 橋の中心から背後の森の中まで木々を薙ぎ倒し、砂煙を巻き上げながら吹き飛んでいく。

 

「…ほぅ、面白い。これが九尾の人柱力の力か」

 

 恐らくまだまだほんの一部だろうが、それで尚これ程の力なのだから、リーダーの奴が欲しがるのも分かる。

 といっても、この程度で大蛇丸が死ぬとは到底思えない…恐らくその内何食わぬ顔でひょっこりと戻ってくるだろう。

 

 ならば俺も見物はここまでにして、そろそろやるとするか。

 九尾のガキは今必ずしも狩る必要はないが、大蛇丸は確実にこの場で仕留める。

 

 装束を脱ぎ払い人傀儡としての姿を晒せば、それと同時に草木を掻き分けて大蛇丸も戻ってくる。

 顔は破れ、乗り移った者の素顔が露出しているが、案の定その表情にも態度にも先程のダメージに堪えた様子はまるでなく極平然としている。

 

 つまり…この戦いはこれからが本番だ。

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