更に多くの九尾のチャクラを纏い、3本の尾を生やしたうずまきナルトの周囲の足場が陥没していく。
立っているだけで周囲に影響が及ぶ程の膨大なチャクラ量とその圧力が規格外なものだと伝わってくる。
突如出現した九尾の力、なにより3つ巴の状況にお互い出方を窺っている内にうずまきナルトが動き出した。
「グオオオオオオ──ッ!!」
「っ! ──カブト、木ノ葉の連中は任せるわ」
人の叫びではない、さながら獣の咆哮の様な大声を上げながらうずまきナルトが大蛇丸へと迫る。
即座に後ろに下がり、腕の薙ぎ払いを躱した大蛇丸が森の中へと後退すればうずまきナルトは即座にそれを追って森の中へと駆けていく。
さて…うずまきナルトの、と言うより九尾の力は大したものだがあの程度では大蛇丸には勝てないだろう。
お互いが消耗するなら好都合ではあるのだろうが…お零れで大蛇丸に勝ったなどというのは気に入らない、それにうずまきナルトが殺され九尾の人柱力が失われては目も当てられない。
ならば行動は決まりだ。
「行くぞトビ」
「オッス」
大蛇丸本人が出張ってきた以上最早カブトに用はない、当然後で始末する必要はあるが大蛇丸や九尾に比べれば些細な存在だ。
うずまきナルト以外の木ノ葉の連中に至っては言わずもがなだ。
カブトが木ノ葉の連中を足止めするなら好都合、トビを伴ってさっさとこの場を離れることにしようとして──「待て」と木ノ葉の小娘に呼び止められる。
「チヨバア様はアンタが──」
「またその話か? ババアもう死んだんだろ? どうでもいい話だ」
「……チヨバア様はアンタが自分を殺すことを躊躇っていたことに気付いていたわ」
思わぬ言葉に無意識に足が止まった。
「あの戦いで使われた傀儡の武器、チヨバア様のもアンタのも村雨って子が造った物らしいけど…チヨバア様は即席で集めた物よりもアンタが持ってた物の方が質が良かったって言ってたわ。砂鉄にしてもそう。武器や能力は上で確かに私達を殺すつもりでやっていた…でもどこか、決着を先送りにしているようだったって」
「…クク、久方ぶりに張り合いのある相手だから色々試したくて遊んでいたのを、まさか俺がババアに情を掛けていたと勘違いするとは…あのババアも死に際になってまでおめでたいな」
あまりに下らない話だ。
俺は血の繋がったババアが死のうと何も感じはしない。
今まで何百何千と殺してきたがその内の一人と同じ、『死』という単純な出来事があっただけだ。
…確かに今にして思えば殺そうと思えば武器や能力に物を言わせてああも長引かせることなく殺れたかもしれない,そういう意味では手を抜いていたのは事実かもしれない。
だがそうしなかったのはコレクションにする予定だった存在を必要以上に損傷させたくなかったから…それだけの事のはずだ。
「……くだらねぇ」
途端に馬鹿馬鹿しくなり鼻を鳴らしながら天地橋の奥の森へと向かう。
後ろで小娘がまだ何やら言っているがもうどうでも良い、追ってくるなら好きにすればいい…もっとも大蛇丸がカブトに木ノ葉の連中の足止めを指示していた以上追ってくるとも思えないが。
「いやー、木ノ葉の奴らには困ったもんっスね、サソリ先輩」
「そんな事よりも…大蛇丸に警戒しておけ」
大蛇丸はあくまで"木ノ葉の連中"の足止めを指示していた…つまり俺達を止めろとは口にしていない。
勿論、カブト程度では足止めできないという判断でもあるのだろうが、同時に大蛇丸自身は九尾と俺達を同時に相手して問題ないという判断でもある。
気に食わない奴だが力量を見誤る馬鹿ではない…両腕を封印され術が使えずとも何らかの手を隠し持っていることは間違いないだろう。
果たして何をしてくるか。
警戒を強めながら、激しい爆発と地響きを繰り替す戦場へと向かって行く。
▼▼▼
「フフ…面白いじゃない、まったくこの子は」
九尾のチャクラ…その尾を四本目まで出した瞬間、ナルト君の纏うその九尾のチャクラの質が途端に変貌した。
液体の様な透明感のある赤から血の様な赤黒い色へと変わり、目の前のナルト君の姿ももはやチャクラに完全に覆われて見えなくなった。
大波の如き大量の毒蛇は腕の一払いで葬られ、地面を穿孔するチャクラの手が枝分かれしながら幾度も襲ってくる。
肉体変化の術を用いて攻撃を捌きつつ反撃をするがこちらの攻撃も然程効いてはいないようだ。
さて、どうしようかしら…そう思っていた時、無数の刃が頭上から音もなく迫ってきた。
肉体を蛇の如く変貌させ地面に突き刺さる刃達の間をすり抜けて頭上を確認すれば大小様々な刀を手にした100体の傀儡人形達が空を覆っていた。
「あら、遅かったじゃないサソリ、待ちくたびれたわ」
「あれサソリ先輩が人を待たせるの嫌いなの分かってて言ってますよ絶対」
「構わねぇ、待たせた分…すぐに殺してやるさ」
言うや否や、50体近くの傀儡達が向かってくる。
性質変化や形態変化の特徴が見られるものが大半だが中には封印術の術式が刻まれたものまである…村雨自身の口から闇市でサソリに刀を売ったと言っていたが本当に惜しみなく売ってくれたものね…。
単純な攻撃ならば例え刀身に毒を仕込んでいたとしても効きはしない…が、封印術の類いはそうもいかないのはこの両腕が実証済みだ。
勿論村雨が刀に宿せるレベルの封印術である以上、屍鬼封尽よりは大きく劣るだろうが──村雨が造ったものだし当たらない様にしたほうが良いわね、何かあったら嫌だから。
この際他の単純な攻撃性の刀は多少喰らっても構わない。
即座に搦め手型の刀を見極め、それらを確実に避けつつ"潜影多蛇手"によって傀儡人形達を数体ずつ纏めて破壊を狙うが…どうにも一体を壊すのに手間が掛かる。
外付けの刀によって攻撃性能が向上したことでその他の攻撃用の仕込みを削り、一体毎の耐久性を向上させたのだろう。
…サソリの傀儡に村雨の刀、想像以上に厄介ね。
元々傀儡と刀類の親和性は極めて高い…そしてそれぞれの分野の最高峰の技術者の合作だ、弱いはずがないのは分かっていたがこれ程とは…。
腹部を貫き傷口を焼き続ける火遁刀を舌で引き抜きながら視線を動かせば、別の位置でナルト君も複数の人形達に囲まれているのが目に映る。
彼も身に纏うチャクラによって斬撃を防いでいるが切り掛かっては即座に退く傀儡衆に苦戦しているようだ。
──マンダを呼ぶ…にしてもカブトがいない以上マンダ程の大型の口寄せは無理──ならば、こちらも同じく彼女の作品を披露するか──それもサソリが持つものとは別格の"大業物"を。
「ガアアアアア──ーッ!!」
喉の奥に力を込め、体内に収納したそれを呼び出そうとした時うずまきナルトが吠えた。
チャクラの爆発で周囲の傀儡を大きく吹き飛ばすと、彼はそのまま自身の周囲に黒と白の異質なチャクラの球体を浮かべ──それらを圧縮、一つの塊へと変化させる。
「──あれはヤバいわね」
超高密度のチャクラ──アレを喰らったら私でも死ぬ。
サソリも同様の判断をしたのだろう。
傀儡の動きが一瞬止まり、直後に5体の傀儡をナルト君へと差し向けた。
「ウガガアアアア──!!」
ナルト君が超高密度のチャクラの塊を自ら体内に取り込み肥大化する。
この状況で自ら機動力を殺す自滅行為、どういうつもりか…というのは一瞬で理解させられた。
体内で膨張したそのチャクラを咆哮と共に吐き出した。
爆発的な勢いで放たれたそれはその衝撃波だけで周囲の木々や地面を崩壊させる──そしてそのチャクラの塊そのものが直撃すれば──間違いなく死ぬ。
「口寄せ──三重羅生門」
チャクラの塊と自身との間に最強防御を誇る壁を3枚呼び寄せる。
これで何とか凌げるか。
そう固唾を呑んだ瞬間、視界全てが爆発に埋め尽くされ響く轟音にその他の音全てが掻き消される。
身体が吹き飛ばされる感覚が落ち着いた時視界全てが真っ黒になっていた…恐らく羅生門でも防ぎ切れずに爆発を受け、地面に埋められたのだろう。
──ならば好都合。
体内に取り込んでいた"草薙の剣"を吐き出し、勝利を確信したうずまきナルトの真下から突き刺す。
切れ味だけならば村雨の造ったものの方が優れているが地面を掘り進みながらの奇襲ならば伸縮するこちらの方が都合が良い。
──残念ながら貫くには至らず、元の天地橋の辺りへと弾き飛ばすだけで終わってしまったが…ナルト君の力量はある程度把握できた、まぁ良しとしよう。
今回の本命の相手は──彼ではないのだから。
地面を掘り起こしながら飛び出て来た傀儡衆の刃を躱しつつ、少し離れた位置の地面へ先程使った草薙の剣を吐き出せば1人の影が飛び出てくる。
「…土遁の刃で地面を動かし地中に逃れていた様ね、傀儡達も随分と生き残っているようだし…やるわね」
地面から浮かび上がってきたのはおよそ70体近くの傀儡…逃がし遅れた傀儡は残骸となっているが地面の中に何体かはまだ伏兵として隠している可能性もある。
「…連れのお面の子は…死んじゃったかしら?」
「さぁな、所詮は代理だ。死のうが知ったことではない…そんな事よりも」
傀儡衆が再び襲い掛かってくるが、先程の攻防の反動か…身体にそろそろ拒絶反応が出つつある。
思った様に動かない身体では無数の刃は躱しきれず全身のあちこちに刃が突き刺さっていく。
「…どうやら適当な器に乗り移ったのというのは本当らしいな…随分と苦しそうだな?」
「クク…さて、どうかしらね。…ところで──」
頭上に並ぶ傀儡衆を眺める傀儡の術の中でも類い稀なる人傀儡という技術…そして刀造りの天才、村雨の作品達。
正しく技術の粋を費やした傑作だろう──だが。
「随分と安い刀で満足しているようね…アナタの作品への拘りも…大したことないわね」
「何だと?」
「──渦柘榴村雨の才能の…その神髄、その最も正しい利用方法を見せてあげるわ」
体内に蔵入りさせた蛇を口から呼び出し、その蛇に取り込ませていた骨刀を手に取る。
封印された両腕ではまともな剣術もできないが──この刀にはそんなものさえ必要ない。
「確かに、アナタという優れた傀儡師とあの娘の刀造りの才能は実に親和性の高い組み合わせでしょうね。──けれど、技術者という意味では…術開発の技術者として私も遅れを取ってなどいないのよ」
最も欲した身体、能力を持った君麻呂と最高峰の才を持つ刀匠、渦柘榴村雨が造り上げた骨刀"灰刃・遺骨"。
それをより強くする為にはどうすれば良いのか…術の力の引き出し方、高度な術式の効率的な運用化、それらを私自ら彼女に指導しそして初代火影、"千手柱間"の細胞を与えることで究極の域まで高めた"壊刃・遺骨"。
「量産型の刀とは違う──彼女自らが理想とする"究極の七刀"の一つと認めた作品の力、とくと見せてあげるわ」
その言葉と共に手にした刃の切っ先を足元の地面へと突き刺す。
刀の先端から地面へと…"柱間細胞"由来の膨大なチャクラが地面へと浸透していき…そのチャクラが無数の骨刃へと変化する。
「──舞いなさい、"壊刃・早蕨の舞い"」
「っ!?」
"死した彼"がかつて見せた5つの舞の1つ。
地面から無数の骨の槍を生やし敵を貫く超広範囲攻撃──それを元の"灰刃・遺骨"の持っていた細胞破壊の能力を宿したまま"必殺の刃"として更なる高みを以て村雨は再現を果たしたのだ。
刃状の骨が傀儡衆を貫き、人傀儡故の"人由来の細胞"を持った身体を崩壊させていく。
有象無象の…いや、上忍クラスの忍術であってもこれ程の無情な光景は造れないだろう…確かに私も術に効力の引き出し方など何かと指導はした点や"柱間細胞"による恩恵が大きいとはいえ、これ程のものを造ってしまうとは…まったく恐ろしい、そして面白い娘。
サソリの奥の手である100体の傀儡…やはり地面に潜んでいたものも含めて、その全てが──崩壊した。
ただ無数に生えた骨の刃によって視界が塞がった為、首を伸ばし高所から周囲を見渡してもサソリの姿が見当たらない。
傀儡共と一緒に崩壊してしまったのか逃げたのか…感知出来る範囲内にいない辺り死んだ可能性も十分あるが…仮に生きていたとしてもサソリの持つ人傀儡はこの"壊刃・遺骨"との相性は極めて最悪、然したる脅威にはならないだろうと判断しつつ周囲の観察を続ければサソリとは別の人物、木ノ葉の小隊の1人、黒髪の少年が顔を見せた。
その少年…サイと名乗る者はダンゾウの遣いとして、木ノ葉を潰す為の協力を結びに来たのだと言う…綱手を失脚させ、今度こそ自分が火影になる為に…などという話しだが、果たしてそれが事実かどうか…。
判断している内にカブトも合流し、サイとやらを抑えつけてしまったが、その際に彼の鞄から証拠として提示された封筒にあった火影直轄の暗部リストは本物の様だし、ダンゾウの思惑に乗って利用する価値はあるやもしれない。
とりあえずはサイを連れていく事を決め、この場を後にする。
サソリの死の確信は得られなかったが"壊刃・遺骨"の能力は確認でき、また戦闘になったとしても彼の売りである人傀儡に対しての有効性も分かった…試運転としての結果は上々だろう。
カブトと木ノ葉の連中はお互い睨み合いのまま、こちらの戦闘を見守っていたらしく追跡してくる可能性はあるとのことだがカブトのトラップで気を逸らし、走り抜ければ撒けないこともない。
拒絶反応が起こり始めた状態でわざわざ相手をする必要はない。
九尾を宿したうずまきナルト、初代火影の細胞に適合したヤマトという男は利用価値もあるだろうが…うずまきナルトを抱えると暁との戦争が本格化する…サスケ君の肉体に転生する前にその事態は避けたい。
木遁忍術は惜しいが、"柱間細胞"を活かした物ならば既に私の掌中にもある…今リスクを負ってでも手に入れたいものでもないと判断し2人を引き連れて森を駆け抜けアジトへの撤退を始める。
途中、カブトにトラップを仕掛けさせたことで追跡が止まったらしく、余裕が出来たことで道中の小河で休憩を挟めば死体偽装のトラップを造る際に使ったメスの手入れを始めたカブトに思わず呆れる。
「…カブト、そういうのはアジトに帰ってからにしなさい」
「いえね、なるべくすぐに血を落としておかないと落ち着かなくて…」
「それもあの娘が造ったものでしょう…多少手入れが遅れても切れ味に影響はないでしょうに…前に見た時よりまた増えているし」
広げた解剖セットは以前にみた時よりも遥かに小道具が増えている…一体いつの間に村雨に造らせたのか、最近の彼女は水月に言われたままに刀造りに奔走しているはずだが…カブトの事だ、間を見つけては上手く言いくるめて造らせているのだろう。
「…そうだ、村雨といえば…そういえばサソリがボクの裏切りを見抜いていたという話しですが?」
「そうね、状況からしてサソリが自力で気付いたか…告げ口をした誰かがいたのかだけど…」
まぁ恐らくは後者だろう。
サソリと結託して巨大傀儡の作成などを目指していたらしいがその対価にこちらの情報を売り渡した可能性は十分ある…帰ったら処刑しよう。
…と普段ならば即決したのだが…今回の"壊刃・遺骨"の出来を思えば未だ疑惑の時点で切り捨てるには些か惜しくも思える。
実際、彼女がサソリに情報を売っていたとしても今回彼女の造った作品でそのサソリを撃退、或いは葬ったのだから始末に困る。
それにこちらの情報が暁に渡った反面、イタチの能力などの情報もいくらか入ってきたのも事実。
…上手くいけばパイプ役にでもなるかと思ったが想像以上に双方向に情報が筒抜けだ、アレは精々が糸電話といったところだろう。
「まだ暫く様子見されるのでしたら、そこの彼にも彼女の監視、というよりも水月の補佐を任せてみればいかがでしょうか? ダンゾウとのパイプ役以外は暇になるでしょうしね」
「カブト…アナタ本当に嫌な性格しているわね」
仮にも客人にあの糸電話、もとい村雨の監視を任せるなんて容赦のない。
最近は大人しくなった結果マシになりつつあるが一時期の日に日に疲れていく水月を見ているとあまりに不憫だ。
…とはいえ、今回の様なことが続く様なら処分する必要も出てくる…そうならない為にも監視役を増やすのはアリか。
「見たところ彼、絵を用いた術を使う様ですし…そういうの彼女も好きそうでしょう」
「…それは確かに。──サイとやら、アジトに着いたら紹介したい娘がいるのだけど構わないかしら?」
途中から訝しげにこちらを見ていたサイに問い掛ければ彼はニッコリと…あからさまな作り笑顔を浮かべた。
「勿論です…ただ、あまり人付き合いの経験はないので仲良くできるかは分かりませんが」
「大丈夫よ、人嫌いするような子ではないからね。むしろ、案外向こうから仲良くしようと歩み寄ってくるかもしれないわね」
「そうだね、彼女が誰かと喧嘩しているところはあまり見ないし…心配は不要だよ」
言質はとった。
それに嘘は言っていない、本人は仲良くしようとして無意識に喧嘩を売って相手を怒らせているが彼女自身がその自覚がないのだから喧嘩に発展したりはしていない。心配したところで意味もない以上不要というのも事実。
精々その作り笑顔が続く限り頑張ってもらうとしよう。
…
……
………
まったくいつから私の下はこんなに居心地の悪い場所になったのかしら?