集中力を巡らしながら鎚を振るい続ける。
金属音が響く中、どうにも違和感が拭えずもやもやとする。
…というのも先日造った"壊刃・遺骨"という力作の反動というべきか。
ハレンチ博士によって提供された"柱間細胞"なる初代火影様の細胞と君麻呂さんから頂いた彼の最後の力の結晶たる骨、そして追加で提供してもらったサスケ君の血。
あれほどの物を揃えて造ったあの刀は正しく私の作品集の中でも最高のものであり、"七刀"の内の一つとして決定するに至った。
しかしあれを造った直後では普通の素材で造る作業にいまいち昂揚感を得られないのも事実。
本来ならばアレを造ったからこそ次もまた優れたものを造ろうとより一層力を込めなければならないのだが…情けない話だ。
…とはいえ、こんな心境で刀を造ってはいけない。
"壊刃・遺骨"を造る際に随分とチャクラを使ったし、おまけに暫く寝ずの作業だった…ここらで切り換えも兼ねて一度休憩を挟もう。
…そういえば今日は部屋の隅で水月が頭を抱えているがどうしたのだろうか?
作業している内は気にならなかったがこうしていると流石に気になる。
「水月、どうかした?」
「どうしたもこうしたも…大蛇丸に渡したアレ…君の"七刀"の一つとして認めたんでしょ? ──つまりあの変態がボクが造る新生忍刀七人衆の1人になっちゃうってことじゃん!?」
「あぁ…それで」
確かに私が"究極の七刀"の一つとして認めた以上…あれは新生忍刀七人衆の一振りに他ならない…そしてそれが意味するところはつまり…ハレンチ博士も新生忍刀七人衆の一員というわけだ。
前にそんな感じの話になった時は他の刀を独占しそうで、団体行動の組織に入れるのは怖い…と思ったが。
「…でもあの刀は君麻呂さんが他でもないハレンチ博士の為に提供してくれた素材で造ったものだから、その使い手はハレンチ博士以外にあり得ない、少なくとも存命されている限りは。…それにハレンチ博士自身も他にも貴重な素材を沢山提供して頂いて…あれ程協力して頂いたのに私の方は信用しないなんてあまりに失礼、私はハレンチ博士を信じることにした」
「君に今更失礼だとか口にする資格ないからね!?」
「それをいうと水月が他の新生七人衆の候補を探していないことにも責任があると思う…私はあくまで刀を用意するのが役目だったのに、現状候補のハレンチ博士もサソリさんも…あと再加入になるけど鬼鮫さん、故人ではあるけど君麻呂さんも私が見つけている」
「色々とツッコミたいけどそのメンツをボクの新生七人衆に入れようとするのホント止めて!?」
何をそんなに躊躇うのだろう。
皆優秀な忍だし他の正規の里に所属していない関係で勧誘はしやすい方だ。
…確かにハレンチ博士とサソリさんの間で確執はあるがそれさえ改善出来れば歴代でも最強の七人衆に大きく近づくというものだ。
「勿論隊長として水月にアレよりももっと良い刀を用意してみせるから心配はいらない」
「マズい…このバカの脳内ではボクがあの変態と暁2人を率いる予定になってる…今の内にサスケや重吾辺りにでも声掛けといた方がいいかも…」
予定も何も七人衆の復興とその隊長になるのは水月の夢のはずだが…
でもサスケ君や重吾さんに声を掛けるのは良いかもしれない、特にサスケ君は既に刀を扱っているしイタチさんを倒した後の予定がないのも都合が良い。
最優先の目的達成後になら加入してもらえる可能性もある。
「…でもそうなるとイタチさんと対立するから暁の方々の勧誘が難しい。あ、でもそれを言うならハレンチ博士がいる時点で…ひょっとしてこのメンバーを集めるの凄く難しいのでは?」
「難しいどころか実現不可能だよ!」
うぅん、人材集めとは難しい。
素材の長所を引き出し整えるだけで良い刀造りと違って個人個人の人間関係、所属する組織同士の関係など障害となる要素が多すぎる、皆が仲良くしてくれれば良いのに。
やはり私は刀造りに専念すべきだと痛感すると共に急激に作業への意欲が湧いてくる…気分はアカデミーでのテスト前日だ。
休憩もここらで終了、早速刀造りに戻ろうとした時、背後のドアが静かに開く音に振り返るとカブトさんと見慣れない少年がいた。
「カブトさん、外出から戻られたのですね。…そちらの方は?」
「彼はサイ、…別の組織に所属する人間だけど事情があってうちに来たんだ…暫く君達と一緒に過ごしてもらおうと思ってね」
「よろしくお願いします」
カブトさんにサイと呼ばれた男性はニッコリと笑みを浮かべ、見たところ穏やかな印象を受ける。
一緒に過ごしてもらう…という理由は分からないが親しみやすそうな感じで安心する。
「…はぁ、そんなわざとらしい作り笑顔を浮かべて…大蛇丸に関わろうなんて何のつもりなわけ?」
作り笑顔だったのか…危うく騙されるところだった。
…とはいえ初めての相手に挨拶するのなら作り笑顔だとしても明るく振舞うのは別に悪いことでもないような…
「…木ノ葉を潰す為大蛇丸と手を結ぶ、その結託の切っ掛け作りをする…それがダンゾウ様から与えられたボクの役目です」
「はぁ!? なにそれ…ダンゾウってのが誰だか知らないけどまた木ノ葉崩しする気なのアンタら?」
「さぁ…大蛇丸様次第だよそれは」
木ノ葉崩しか…木ノ葉の里は良いところだけになくなってしまうのも勿体無いと思うのだが、私が止められるものでもないし、ハレンチ博士が望むなら止める理由もないか。
それよりもそれが起こった後では例の死神のお面を探すのも困難になる、少し方法を考えておいた方が良いかもしれない。
…とはいえハレンチ博士も本命のサスケ君への転生が済む前にそんな大きな行動をするとも思えないしまだ暫く先になることは間違いない、焦る程の事でもない。
「…とりあえずそういう事なら私にはあまり関係ない。事を起こす時に備えて作業に戻る」
「少しは話の内容や新入り君に興味持ってあげなよ、例えば彼、結構上手い絵を描くよ?」
「それは少し興味がある」
「絵に…ですか?」
「彼女、根っからの芸術家肌でね。良ければ何か描いてあげてくれないかい?」
「えぇ、良いですよ」
カブトさんの要望にサイさんは再びニッコリと笑みを浮かべて快諾する…やっぱりこの人凄く良い人なのでは?
「じゃあボクは大蛇丸様からビンゴブックの作成を頼まれているから…これで失礼するけど、仲良くね」
「はい…あ、カブトさん。頼まれていた新作の解剖キットが完成したので、そちらの棚に置いてあります」
「あぁ本当だ、ありがとう。もらっていくよ」
「アンタまだ造らせてんの? そんな持ってて全部使うの?」
四万本の刀造りを要望してきた水月がそれを言うのか…まぁ私としてもカブトさんがちゃんと全部使い分けているのか若干疑問だが刀造りで消耗した体力とチャクラを回復する息抜きに造っている様な物なので使われてなくとも別に構いはしないが…。
…いやでも折角造ったのだから使ってほしいし、あの子達の為にも使ってあげてほしいな。
解剖キットを片手に部屋を出ていくカブトさんにどうか有効活用して下さいと祈りながら見送るとスケッチブックを手にしたサイさんが穏やかな笑みのまま口を開いた。
「それで何を描けばいいですか?」
好きな絵を希望出来るのか、何かに限定しない辺り中々に期待が高まる。
ここはやはり刀の絵…いや流石にここは定番の動物の絵にしておいた方が良いだろうか?
「では秋刀魚と太刀魚をお願いします」
「絶対字面だけで選んでるでしょその好きな動物のチョイス…」
水墨画を始め魚は絵ではメジャーなモデルだと思うだが何故こんな冷やかな目で見られるのだろうか?
曲線的な見た目や鱗など描く上で描き手の腕の見所も沢山あると言うのに…
「その…あまり描いた経験がないモデルですが、頑張ってみます」
「何かごめんね、アレなら鯉とか鯛とか鯰とか…メジャーなので良いよ?」
「良くない…」
果たして私の要望は叶うのか、筆を走らせるサイさんを眺めながら完成するまで次に造る刀の案を練っていると水月が唐突に「あ!」っと声を上げた
「アイツ、ビンゴブックの資料ファイル忘れてるし…」
「本当だ…珍しい」
棚の解剖キットを手に取る際に一旦置いた時に忘れてしまったのだろう、カブトさんにしては珍しいうっかりだ。
「…仕方ない、届けに行こう。多分途中で気付いて戻ってきているだろうしすぐに済む」
「…寄り道せずに帰ってきなよ、あんまり君がうろつき過ぎると何が起こるか分からない」
外ならともかくアジト内でそれ程大したことが起きるとは思わないのだが…まぁいい、サイさんの絵は早く見たいし刀造りも再開したいと思っていたところだ、ここは寄り道などせずトラブルなく帰ってくるのだということをしっかりと見せてやろう。
…よくよく考えたら何でそんなアピールが必要なんだ?
私今年でもう18なんだけど…
それはともかくとして、廊下を歩いて暫くしたところでカブトさんと鉢合わせた。
やはり途中で忘れ物に気付いて引き返してきたらしい
あまり必要はなかったかもしれないがそれでも些細であっても役に立てて何よりだ。
さて届け物も済んだことだし、早く鍛冶場に戻ろうと思ったところでカブトさんから「そうだ」と声を掛けられる。
「丁度良いタイミングだから言っておこう。あのサイという少年だけど…ボクはあまり信用していない」
「……では私はどうすれば?」
何故か? などという質問は必要ない。
かつてスパイとして五大国を渡り歩き、サソリさん相手でさえ諜報活動をしているカブトさんの見立てならばそういうことなのだろう、私が今更問い質す程の事でもない。
「…彼の上司のダンゾウという男は目的の為なら手段を選ばない男だからね…その彼がスパイを差し向けたのだとしたら…その目的は機密情報の奪取…或いは自分達にとっての危険人物の抹消」
「っ! だとしたら彼と今二人きりの水月が危険では?」
「…可能性はなくはないが、今の水月ならそう遅れを取ることはないだろう。…それに言ってはなんだが水月がターゲットである可能性は低い。彼を見縊ってるわけじゃないがダンゾウが危険視するなら"元・自里の人間"の可能性が高いからね」
「…っ! つまりハレンチ博士…」
「間違ってはないけど…サスケ君ね、元木ノ葉の」
「……あぁ」
そこまで推測しているなら勿体振らないでほしい、完全に間違った答案をして無駄に恥ずかしい。
「とにかくそういう訳だから彼が怪しい動きをしたら教えてくれ。ボクや大蛇丸様が一緒だと警戒して尻尾を出さないかもしれないからね」
「分かりました、タイミングを見て水月にも伝えておく」
「頼むよ」
そういうとカブトさんは今度こそ自室へと向かって行った。
しかし凄い洞察力だ…ひょっとして私が隠れて何かとしているのもバレているのでは?
…思えば今更ながら自らの行動の迂闊さときたら呆れるばかりだ。
暁の方々と接触したことに関しては仕方ないにしても屍鬼封尽についてはハレンチ博士に素直に相談しても良かったかもしれない。
私を信じて初代火影様の細胞まで提供してくれたんだ…それぐらい私の方から明かしても何も問題なかったはずだ。
…うん、一度水月に相談して…問題ないと言うならハレンチ博士に正直に話そう。
「……と、思ったのに水月がいない」
鍛冶場に戻れば水月の姿はどこにもない。
…おまけに、感覚的な話ではあるが僅かに部屋の空虚感が変化している…まさかここで何かあったのか?
水月と同様に姿を消したサイさんと先程のカブトさんの話に嫌な予感がする。
──意識を集中し感覚を研ぎ澄ませばアジトの外から首斬り包丁の匂いがする──周囲にはいくつか手裏剣類の気配も感じる。複数人に囲まれているのか?
「──口寄せの術」
久しぶりに小蜃を口寄せする…これで蜃気楼で身を隠しつつ様子を窺う。
場合によってはカブトさんに報告を…
「大きくなったね」
久しぶりに見る相棒は掌サイズから大きめの座布団ほどの大きさに変化しており思わずほっこりする。
3回程撫でて右腕で抱きかかえるとずっしりとした重みを感じる…硬い殻に覆われた中身もきっとプリプリになっていることだろう…いや、別にだからと言って食べよう何て微塵も思わないが。
些か機動力は失われた感があるが幻術範囲はより広くなったはずだし、その精度も向上しているはず…とりあえずはこれで首斬り包丁の下へと向かうとしよう。
外に出て、水月の姿を探せばアジトから幾分か離れた岩陰に角材の様な木に拘束された水月の姿があった。
水月を囲むのは額当てからして木ノ葉の小隊…あのナルト君も一緒とは…どうにも奇妙な縁というのはあるものらしい。
可能な限り近づくと微かに彼らの話し声が聞こえてくる。
「…サイ、一体どういうつもりだってばよ? お前は大蛇丸に取り入る為にって自分で…」
「君とサスケ君のつながりというのを…確かめてみたくなった、ボクと兄さんのつながりというのが君達を見たら分かるかもしれない。そう思っただけさ」
…良くは分からないが、状況からしてサイさんは元々は本人が言っていた様にハレンチ博士に取り入る為に来て…ナルト君達と合流して心変わりした…ということか?
水月も彼らにも目立った怪我がない以上戦闘が始まる前に不意を突かれて捕まった…といったところか?
「くっだらないなぁ…サイだっけ? 君あんな絵本の、兄さんとの思い出なんかの為に大蛇丸を裏切る気?」
拘束されたままの水月が呆れた様な様子で口を開いた。
水化の術を使えばあの手の締め詰めるタイプの拘束は簡単に抜け出せるはずだがそれをしない辺り、あの木にはチャクラを抑える何かの効力があると見ていいか。
「忍だって感情を捨てきることなんて出来ない。サイにとって兄さんとのつながりはそれだけ大事なものだったってことよ」
「そうかな? ボクも兄さんが死んだ口だけど、これと言って未練なんてないけどね、君も妙な行動する前に考え直した方が良いと思うよ?」
「霧の里出身らしい感覚だな…血霧の里の悪習は改善されたと聞いたが人の感覚は変わらずか?」
「どうかな? 君らのとこも似たようなもん…ていうよりもっとじゃないの? 丁度ここには自分の兄を殺そうと必死な奴だっているんだからさぁ?」
「っ! サスケの事か! あいつは今どこに──」
「さぁね、今頃修行を終えて部屋で寝てんじゃないの?」
うぅ…強気で受け答えしているのは心強いが正直見ている側としては怒らせて殺されてしまわないか気が気じゃない…状況がマズそうならカブトさんに報告に戻るつもりが心配で離れられない…拘束されて敵に囲まれているのにどうしてあんな平然としていられるんだ?
いざという時は蜃気楼による不意打ちで救出できなくもないが…一度に4人となると成功率が低い。
ここは逸らず冷静に…話の内容からして彼らの目的はサスケ君。
ならばいつまでもここに残ったりはしないはず…道案内の為水月を連れていく可能性もあるが、拘束したままここに放置する可能性だってある。
勿論、侵入前に殺しておく可能性だってある…いざという時に備えてジッと待っていると…隊長らしき男性が木を媒介とした分身を造り、分身と水月のみを残してアジトへと潜入して行った。
…相手が1人、それも分身ならば問題ない。
すぐに動けば分身の消滅を察知し引き返してくるかもしれない為、彼らが離れた数分後ゆっくりとにじり寄る。
蜃気楼で感知は出来ないこの優位性を活かし、蜃気楼とは別にもう一つの"感知不能"の性質を持つ刃で分身の男性の背後からその身体を袈裟斬りにする。
「大丈夫水月?」
「ビッッックリしたぁ! 突然目の前の奴がぶった斬られるとか心臓に悪いって!」
「それは…ごめん、でも不意打ちでないと私ではどうしようもない…っと、それより何があったの?」
確かに突然目の前の人の胴体が斬り落とされる光景はショッキングだとは思うがそれよりも問題は今の事態だ、水月の身体を縛る木を斬り落としながら確認を取るとうんざりとした様な様子で口を開いた。
「ボクも何が何だか。急に木ノ葉の連中が鍛冶場に入ってきたと思ったらあのナルトって奴とその連れの女がサイと言い合いを始めて…隣で木遁使いの隊長と戦ってたんだけど急にサイの奴が裏切ってきてさぁ、それで今に至るって感じ」
「それで私の鍛冶場の空気感がおかしかったのか…」
「言っとくけどボクは何もしてないからね…おかげでどれだけ戦い難かったか」
あぁ、通りで然程争った痕跡がなかったはずだ…大方首斬り包丁を使わず水鉄砲の術や体術などで応戦していたのだろう。
流石に状況が状況だけに咎めたりはしないのだが…いやどっちにしても室内で首斬り包丁は大きすぎて使い難いか。
「…と、無駄話が過ぎたね。さっさと侵入者の事を大蛇丸に報告しないとね。…まぁとっくに香燐が気付いたかもしれないけど」
「アジトの中で短時間でも水月と戦闘した以上、チャクラを練ってなかったとしても香燐さんなら気付くと思う」
今頃ハレンチ博士自身が迎撃しているかもしれない。
心配無用…とまでは言いはしないが然程慌てる必要もないかもしれない…と思っているとアジトの天井が爆ぜた。
「…サスケの奴かー…寝起きは機嫌悪いからね、アイツ」
にしても凄い力量だ…ナルト君達の今の実力は知らないが恐らくサスケ君が敗れることはないだろう。
とはいえここまで大きく地形を変えてしまってはこのアジトはもう放棄されることだろう。
「移動に備えて荷物纏めておかないと…」
「だね、まったくサスケを連れ戻す…なんて仲間思いなのは結構だけどいい迷惑だよ」
また別のアジトの環境に慣れるところからやり直しになるのが確定して顔を見合わせてため息を吐く。
出来れば気温や湿度が極端な環境でなければ良いのだが…果たして次はどこに移動を…
…そこまで考えた瞬間、天啓に打たれたかの如く脳内で画期的な考えが思い浮かぶ。
兼ねてから思いを寄せていた存在に手を伸ばす…今はまさにその絶好調のチャンスなのだと。
「…水月、一つ確認したい」
「…………嫌だ」
「あくまでハレンチ博士にメリットがある内容で、私が危険な行動をした時…水月に処罰はあると思う?」
「…度合にもよる…けど、多分ないんじゃない? あるならとっくにボクら殺されてそうだし…それにサスケの修行の為に今やボクと重吾は貴重な存在だからね、サスケにご執心な以上何もないんじゃない?」
なるほど確かに…殺しはせずとも肉体的な罰をしても修行相手として不向きになってはハレンチ博士自身が困る以上何かある可能性は低いか。
「…ただそれはあくまでボクの予想だし…何より君自身はどうなるかとか知らないよ」
「それは構わない、なら水月…一つ頼みがある」
「…何させる気?」
「四万本、少し遅れるけど許してほしい」
返事は小さなため息だけだった。
その寛容な姿に感謝しつつ小走りでアジトの中へと向かう。
荷物…は殆ど持ち込めないだろうからごく一部を除いて隠しておいておく。
必要なのはロープ、そしてダメだった時に備えて紙だ。
…さぁ、大一番の勝負に出よう。
大丈夫、絶対に上手くいくはずだ!
▼▼▼
「また…止められなかった…俺は、何も出来なかった…」
無力感と自己嫌悪で頭の中がぐちゃぐちゃになる。
サスケとの戦いで何も出来なかった。
言葉でも力でもアイツを止められなかった…三年間の修行は一体何だったんだ。
俺は…弱ェ
「泣いたってサスケ君は帰ってこないでしょ! 私もいる! 私だって一緒に強くなる!」
「時間、あと半年近くあるんだよね。二人より三人の方が良いに決まっている。ボクは結構強いですしね」
涙声で…自分だって辛いのに励ましてくれるサクラちゃん。
それにあんなに突っかかってしまっていたのに声を掛けてくれるサイの言葉に胸の奥が熱くなる。
そうだ。
クヨクヨなんてしてられねぇ! 今回がダメでも──
「そうだよナルト、それに何も出来なかったなんてことはないじゃないか…確かにサスケは止められなかったけれど…大きな成功だよこれは」
「…へ?」
決意を新たにしている最中にまったく心当たりのないヤマト隊長の称賛の言葉の意味が分からず自分でも間抜けと思う程変な声が出た。
「あ、あれ? ナルトが捕まえたんじゃないのかい? …じゃあアレはサイが?」
「え…いえ、ボクもまったく…」
この数日間で聞いた中でも最も戸惑いを含んだサイの声も合わせていよいよ涙も引っ込んでしまった。
思わず顔を上げてヤマト隊長の指が示す方を向けば誰がやったのか、ロープに縛られた女の子…全く手入れしていないのか前に見た時よりもかなり伸びた髪が印象的だが…その顔には見覚えがあり過ぎた。
こちらの様子を見て「だめだった」と残念そうな表情を浮かべて小さく呟いた後、自力でロープを解いた村雨の姉ちゃん…いや、村雨は服の内側から一枚の紙きれを取り出して──
『私を木ノ葉に連れてって♪』
音隠れのマーク付きの意味不明の文字を見せつけてきた。
「どーーーいうことだってばよ!?」
シリアス「お疲れ様でした」