霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

73 / 153
計算外の成功

 激しい戦闘により荒地と化し無数の骨の刃が地面から生えた森の中、サソリは周囲を見渡す。

『赤秘技・百機の操演』に用いる傀儡衆は全て芥となり、砕けたパーツの一部が辛うじて残っているぐらいだ。

 

「あーあー…こりゃあ造り直すのも無理そうっスねー」

 

 腹立たしいがトビの言う通り…これは到底直せるレベルではない。

 後々にまで残っていくはずだったお気に入りのコレクション…それがこの有様とは、普段ならばとても穏やかにはいられないが…今はそれ以上に気掛かりな事がある。

 

 …あの場にいた自分は、本来ならば恐らくこの傀儡達と同様に芥と化していただろう。

 触れた者を確実に葬る骨の刃…この傀儡衆を貫いた時と同時に自分にも迫っていたはずだ──しかしあの時骨の刃が触れるよりも先に足元に何かが触れた感覚があった。

 

 そしてその直後、ここではない別の空間…薄暗く足場があるだけの謎の空間に自分はいた。

 そこが一体何なのか、分析も出来ないまま暫くしてこの森の中に戻された。

 

 …分からないことばかりだが、状況からしても恐らく──

 

 ほぼ確実に、その件の原因へと視線を向ければどこから拾ってきたのか、木の枝で骨をつついて「もう効力はなさそうっスねー」などとおどけている面の男へ視線を向ける。

 療養中のデイダラの代理としてリーダーから推薦された…ただの後釜だと思ったが…

 

 …こいつは一体何者だ? リーダーはこいつを本当に"後釜"として抱えていたのか? 

 どうにも腑に落ちないが…今となってはもう興味もない、そんなことよりも意識すべきなのは…グレードアップした『赤秘技・百機の操演』までも容易く葬った大蛇丸の持つあの刀。

 

 オリジナルである渦柘榴 村雨が造った"本当の作品"

 …想像以上だと思うと同時に、少し前にこの手で殺した"同一体"の事を思い出す。

 

「…なるほど、確かにこれは受け入れられない訳だな」

 

 これ程の作品を造る腕と知識を持っていながら同一体として造られたが故に贋作としてしか作品を生み出せない。己の技術にプライドがあればあるほどその苦しみは増すことだろう。

 

「…トビ!」

「はい、何すかサソリ先ぱ──て、わわッ!?」

 

 左手の親指の指輪を外して投げ渡すとワタワタと落としそうになりながらも何とか手に納めたようだ。

 

「あの、サソリ先輩これ」

「…ヒルコ、三代目風影に続いてとっておきまで壊された以上俺の戦力は他の連中より大きく劣る…気に食わないがな。それに小娘2人とババアを逃がした挙句、今回の大蛇丸の処理にも失敗したんじゃ降格も妥当だろう…俺は暫く傀儡開発と下請けに回る…その指輪はお前にくれてやる」

 

 別段暁から脱退する訳でもない。正式なメンバーとしての立場をこのトビとやらに譲り、あくまで暁配下に降格する分には大したことにはならないだろう。

 ノルマを達成しないまま自主降格というのは良く思われないだろうが、有力な傀儡を失い現状戦力が低下しているのも事実、無理に人柱力に挑み情報を漏らす危険性を思えば傀儡開発に専念し戦力を整えさせる方がマシと思われるだろう。

 

 つまり、これで"クシナダ"完成に専念できる。

 頭部、胴体、手、脚…各パーツは既に完成済み…残るはクシナダに持たせる刀と仕込み、制御パーツだが…。

 その内運用に最も必要である制御パーツは既に当てが出来た。

 

 先の戦いで偽雨がチヨバア達を逃がした際にその場に取り残された"白秘技・十機近松の集"。

 質に優れたあの十体の人形をベースに他の人傀儡からチャクラを生み出す核を移植・改造し、傀儡糸を生成する仕込みを与えれば制御パーツとしての運用も出来なくはないだろう。

 当初想定していた傀儡師共を人傀儡化するという案の方が確実だが、暁のメンバーを外れる以上他里から目を付けられる行動は避けた方が良い。

 少なくとも不可能だと確定するまではそちらの方向で試してみよう。

 

(…そういえば、ババアの人形共があるなら俺の戦力が低下した…という程でもなかったか?)

 

 城一つを落とせる傀儡集だ、当然、俺が使えばその程度は出来るだろうし人柱力狩りにも…いや、それはもういいか。

 

 今となっては暁の人柱力狩りとやらにも然して興味は惹かれない。

 それよりもこの傑作である傀儡集さえも材料とする巨大傀儡"クシナダ"の完成を優先したい…目の前に広がる無数の骨の刃を見て改めてそう思う。

 

 あの大蛇丸が自慢気に語るわけだ…。間違いなく禁術指定を受けるであろう程の力を持つ刀…あんな物を造れるのならば、村雨自身が考案した"クシナダ"に持たせる刀にも期待が持てるというものだ。

 今まで造ってきたコレクションの比ではない、究極芸術の完成を予感し口角を吊り上げる。

 

 

 

 …その為にも、あの女には回収するまで大人しくしていて欲しいものだがな。

 

 期待すると共にかつて唐突に茶屋を開きだした偽雨のオリジナルという存在に若干嫌な予感をしながら、トビを引き連れてその場を後にした。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 自分達の前に無防備に姿を晒し、『木ノ葉に連れてって♪』などと宣う目の前の少女にヤマトは困惑するとすると今回の任務に当たる前に五代目と自来也様、カカシ先輩との打ち合わせの事を思い出す。

 

 ナルトに宿る九尾の暴走の可能性についての話が終わった後の事、大蛇丸の下にいるという"霧隠れの刀姫"渦柘榴 村雨についての話だ。

 風影とサクラからの情報で大蛇丸の下にいながら暁の連中とも関わりがあるという超重要な情報源と成り得る存在として、奪還対象のサスケに次いで確保の優先順位が高い少女だと告げられるとともに、その場にいた三者が揃って『予想も出来ない行動をとるから気を付けろ』と言っていたが…

 

(予想出来ないにも程がある…)

 

 思わず頭を抱えたくなるがそんな素振りを見せる訳にはいかない、何とか平静を装おうとして──血の気の多い部下の動きに目をギョッとさせる。

 

「木ノ葉に連れてけって、何無茶苦茶言ってんだってばよ! んな事よりサスケと大蛇丸について──」

「ストップだナルト!!」

「ヤマト隊長、何で止めるんだってばよ!?」

 

 今にも掴み掛ろうとしているナルトを後ろから羽交い締めにし、叫びに近い質問を無視しながら一度村雨から引き離す。

 

「…ヤマト隊長、確かに荒っぽいのはダメかもしれないけど…彼女は大蛇丸の部下で暁とも関わっている、色々と情報を吐かせた方が」

「それは間違いない…が、この場で彼女に何かするのは危険だ」

 

 サスケを逃したばかりで余裕がないのだろう、冷静を保とうとしながらも鋭い目で村雨を睨むサクラにもどうように諫めると村雨の動きに注意しながら口を開く。

 

「彼女が自ら縛られた状態を装いボクらを欺こうとした理由は分からないが…自らを"大蛇丸の下から木ノ葉に連れていってくれ"と頼むのなら…これは一種の亡命と取られる可能性がある…」

「え?」

「君達は知らないかも知れないが…彼女は霧隠れではかなりの名家の者だ…そんな彼女が木ノ葉の抜け忍であり重罪人の大蛇丸の下から助けてくれ…と、木ノ葉の忍であるボクらに求めているのなら…ここで手荒な真似をする訳にはいかないんだ…」

 

 万が一、無抵抗の彼女にナルトやサクラが掴み掛かった映像を大蛇丸が記録しているとしたら…そしてその情報を素性を偽り霧隠れに流されたとしたら…間違いなく大きな騒動になる。

 

 木ノ葉の里は自里の抜け忍に捕らえられていた亡命者を傷付ける非道の者達として周知されるし、霧隠れは名家の人物を傷付けられた以上他里に舐められぬ様、木ノ葉にそれ相応の対価か報復を求める姿勢を見せ自里の威厳を守らなければならなくなる。

 

 それは最悪、木ノ葉と霧の里の戦争になる可能性だってある。

 大蛇丸は木ノ葉を潰す為なら五大国の里さえ利用する、それはかつて大蛇丸が砂の里を利用し木ノ葉の里を襲ってきた例からして考慮しなければならないことだ。

 

 この場で彼女に手荒な真似をする危険性を説明すればナルト達は戸惑った顔で憤慨する。

 

「…んなバカな! こいつは大蛇丸と一緒に綱手のバアちゃんを襲ったし、暁と組んで我愛羅を──」

「そうですよ、本当に亡命者だったらヤマト隊長の言う通りですけど霧の里に事情をちゃんと話せば木ノ葉で彼女を事情聴取するぐらい」

「…確かに正しい手順を踏めばこちらで処分することも出来るかもしれない…だがそうすると今度は"大蛇丸に連れ去られた"という扱いになっているサスケの立場も危うくなるかもしれないんだ」

 

 恐らくだが、彼女は自ら望んで大蛇丸に協力している…そしてそれは今はまだ各里に抹殺許可を出していない状態のサスケも同じなのだ。

 霧の里に彼女の処置をこちらに委ねる様求めるならば…いざという時、こちらもサスケの処遇を守ることが出来なくなってしまう。

 

「──極端な話だが…ボクらは今、彼女に木ノ葉の里とうちはサスケの2つを人質にとられた様なものだ」

「そんな…」

 

 サクラもナルトも絶句し呆然とする。

 当然だ、重要な情報を持った女が自分達の前にのうのうと現れたのに一切の手出しが出来ないのだ…ついさっきまで無力感に打ちひしがれていた彼らにこの状況はあまりにも酷な追い打ちだ。

 

「……そういう訳だ、君の要求を僕らは飲むしかない。お望み通り木ノ葉へ連れていこう」

 

 そう言って要求に応えた自分とて、内心は同じだ。

 戦闘能力はこの場の誰よりも劣るであろう少女にこうも手玉に取られるなんて今まで一度もなかった。

 こちらが手出しできないことを分かって無防備に姿を晒し一方的な要求を…完全に舐められているのだと歯噛みすると共にある種の畏れまで抱く。

 

 確かにボクらは彼女に手出しできない…しかしだからといって戦闘能力を持たない身でこうも大胆に動けるのか? 

 一歩間違えれば木ノ葉に身柄を囚われ命を握られるし、大蛇丸と暁からも足手纏いとして消される立場になるやもしれないというのに…

 この女…一体どこまで先を読んでいるというんだ…

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 やった、何かよく分からないけど上手くいきそうだ! 

 

 水月に簡単に今後の行動だけ告げた後、木ノ葉に侵入する為に動きだしたのだが予定とは少し違うが見たところ悪くなさそうな流れになりつつあって安堵する。

 

 最初は自身の身体を緩く縛って彼らの前に姿を現した…それで彼らが皆"自分以外の誰かが捕まえたんだろうなー"…なんていう認識で私を木ノ葉まで連れていってくれれば一番良かったが…流石にそれは上手くいかなかった。

 という訳で第二の策、誠心誠意頼んでみるという手で『私を木ノ葉に連れてって♪』と怪しさを避ける為明るい音符のマークを添えた手紙を見せたところ一悶着ありそうだったが上手く纏まったらしい。

 

 …まぁ、途中戦争やら人質やらと物騒なワードが出た時は私も驚いたが…

 今回は木ノ葉の里に半ば盗掘に近い行為を働きにいく手前、彼らにあまり迷惑を掛けない様に穏便な運びを目指していたつもりだったのだが、まさかそんな風に思われるとは…何故だ? 

 

 しかしお陰で木ノ葉の里へ行けそうなのは事実。

 ちょっと想定より物々しい感じにはなってしまったが五大里の一つである木ノ葉の里に、こうも容易く侵入出来るとは我ながら中々鮮やかな交渉術なのではないだろうか? 

 

 流石に怪しい物を持ち込まれない様に…という理由で隊長さんに荷物は預けることになってしまったのは残念だがこれに関しては予想も出来ていたことだし何より"その対策"もある程度はしてある。

 何事も想定できる範囲の事は危機にはならないものだ、この程度で慌てることなどない。

 

 ──その後、念の為としてサクラさんに身体チェックを受けた際にどういう訳か僅かに殺意を感じる視線を向けられたのは完全に想定外だったが…特に怪しい物は"見えない"はずなのにどうして…。

 

 ともあれ交渉は成立。

 何と隊長さん、ヤマトさんと言うらしいが彼の木遁忍術で造られた籠で運んでもらえると言うのだから有難い限りだ。

 もっとも、それは先に言っていた通り私が木ノ葉へ運ばれる際に他里などと余計なトラブルを起こさない様に私の姿を外部に晒さないことが目的なのだろうが…こちらとしては楽な上に見事なまでの木造技術を特等席で鑑賞できるので良い事尽くめだ。

 

 それにしても…思えば木ノ葉から音隠れへ移る際は棺桶で運ばれ、今は音隠れから木ノ葉へ移る為に大名様が使いそうな籠で運ばれるとは、さながら大出世したかの様で何とも感慨深いものだ。

 

「…いや、浮かれてばかりはいられない」

 

 今回の木ノ葉への潜入は以前の様な旅行感覚のそれではない。

 恐らく木ノ葉の里へ入れば外傷を与えない手段での情報入手を仕掛けてくるはず…互いに相手を出し抜かねばならない"忍としての戦い"に臨むのだ。

 …霧隠れの下忍(中退)として積んだ僅かな経験全てを活かし──今回の計画を必ず成功させてみせる! 

 

 

 待っていて下さい、ハレンチ博士!! 

 

 

 …それはそれとして籠が揺れて少し眠たくなってきた。

 "壊刃・遺骨"の作成に最近は寝る間も惜しんで取り組んでいたからか疲労が大きいのだろう…木ノ葉の里到着までは暇なので暫くは休ませてもらうとしよう。

 

 おやすみなさい…と籠を運んでくれているヤマトさん達に心の内で呟きながら睡魔に導かれるままゆっくりと瞼を閉じるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 一方、別のアジトへの移動を完了した大蛇丸は引き連れてきた配下の者達を見渡し目を丸くした。

 

 サスケ君とカブト、香燐に重吾、そして水月。

 最も重要な次の器と最も信頼する部下…そして貴重な能力のサンプル達…ここまでは良い。

 問題はここにもう一人いるはずの問題児がいないことだ。

 

「…水月、村雨のバカはどこかしら?」

「木ノ葉に死神を捕まえに行くと言ってました」

 

 猿飛先生に問題児の抑え付け方を学んでおくべきだったかしら? …といっても猿飛先生も私を抑え付けられずに死んだんだったわね。

 

 

 

 …私って問題児だったのかしら? 

 

 

 

 そんなくだらない自問自答と共に無意識の内に深くため息を吐くのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。