木ノ葉の里を後にし、森の中を物音を立てない様にゆっくりと歩く。
木ノ葉の里から無事に出れたといってもまだ里の近辺に任務に向かう、或いは里に戻る忍達と遭遇する可能性は十分ある。
早急に火ノ国を出れると一番良いのだが流石に大国…この歩く速度ではいつになることやら…。
とりあえず姿を変えれば多少急ぎ足で動いたところで問題はないだろうが、変化の術を使うとチャクラ反応でバレるリスクを考慮すると避けたいところだ。
ならば手頃な町で服と頭巾辺りの調達をする方が良いのだろうが…
「…大丈夫かな?」
消費したチャクラの回復に既に1日費やしてしまった。
近辺の町には木ノ葉の忍が数人は巡回しているかもしれない、果たして気軽に訪れて良いものか?
何とか火の国の国境を超えた先の小国に入ることを優先するのも良いがそれはそれで難しい、どうしたものか…。
火の国と周辺国の地図を脳内で思い返し次に取るべき行動を考え──すぐさま答えを導き出す。
そうだ、火の国にはあそこがあるんだった!
あの場所にいる人達ならばきっと救いの手を差し伸べてくれるはず…なにせそういう場所なのだから。
…問題は木ノ葉の里で窃盗を働いた私を救う対象と見做して貰えるかだが…それは正しく神のみぞ知るところだ。
そうなると神以外の人に悪事が伝えられる前に迅速に行動するとしよう、むしろ急いで向かって疲労困憊で辿り着いた方が真実味が増すというものだ。
大きく息を吸って森の中を駆けだす。
木ノ葉の忍に見つからない様に祈りながら必死に走り続け息が上がり、視界が霞んでいく…お腹の奥から苦い味が込み上げてくるのを必死に堪えながら這う這うの体で大きな鉄の門の前へ辿り着いた。
火ノ寺…火の国に火ノ寺ありと謳われた忍寺であり、そこにいる僧侶は皆"仙族の才"と呼ばれる特別な力を操ると言われるが…そんな特別な力を身に着ける為か、この大きな扉に施された強力な封印が示す通り村、町或いは一般的な寺などと比べて外からの介入を寄せ付けない環境となっている。
勿論。木ノ葉の忍との関係は良好なはずだから確実とは言えないが私の情報が行き届いていない可能性は十分にある。
そして何よりここはお寺だ──物乞いするには一番良い!
ここまで森の中を全力で駆け抜けて足も腰に巻いた布もだいぶボロボロになったことも合わせて中々に困窮している人に見えることだろう。
…寺を騙すなんて罰当たりだがそもそも先程触れたボロボロになった腰に巻いた布も本来能面堂の神前幕だったものだし、飾られていた般若面を装飾品として使っている私には今更だ。
覚悟を決めてこの鉄の門をノックしよう、次の町で目立たない為の服と出来れば水を一杯頂くだけ…厚かましく思われないように見た目通りに困窮した感じで頼み込む…よし!
「そんなとこで何をしてんだお前?」
意を決してノックをしようとした瞬間背後から男性の声がして慌てて振り返る。
まさか木ノ葉の忍の方に見つかってしまったか…と懸念したが、背後にいた2人の男性の額当てに印されたものはそれぞれ滝隠れと湯隠れの物であり…それどころかどちらもそのマークには横に一筋の傷の入った抜け忍の証だった。
だがそれ以上に目を引くのは彼らの着用する装束…赤い雲模様入りの黒い衣、それはサソリさんデイダラさん、イタチさん、鬼鮫さんが着ていたものとまったく同じ…"暁"の組織の装束だ──だが…
「…どなたですか?」
残念ながら目の前の2名にはまったくの見覚えがない。
恐らく彼らと顔合わせしたあの場に居なかった他のメンバーなのだろうが…と思い声を掛ければ訝しげな視線を向けられる。
「あぁ!? どなたか…って、俺らを忘れたとは言わさねぇぞ罰当たり女が!」
「罰当たり!?」
マズい心当たりが多すぎるぞ、暁の人かと思ったがこの人達ひょっとして火ノ寺の人もしくは能面堂の人達か?
い、いや火ノ寺にはまだ何もしていない、まだ罰当たりと言われる筋合いはないはずだ…能面堂の方については弁解の余地はないが…。
「落ち着け飛段、お前が言っているのはこいつの分身の方だろう。そもそもそいつはもう消えたと報告があっただろう」
「あ? …あー、そういやサソリの奴がそんなこと言ってたか? ダラダラ長ったらしい報告だったから聞き流したぜ」
「バカが…」
…私の分身? 偽雨のことか。
だとするとこの人はやっぱり暁の…というか罰当たりって偽雨一体何をしたんだ?
無意識の内に人を怒らせてしまうことはたまにあるかもしれないが、罰当たりなんて言われることはそうはないと思うのだが…。
「門前で何を騒いでいる! そこを動くなよ!」
っ! しまった、つい彼らの方に意識を割いていたがここは火ノ寺の正面だった。
こんなところで立ち話なんて流石に怪しまれる…私も彼らもだいぶ怪しい装いだし…
「…止むを得ん、一度退くぞ飛段。お前もついて来い」
黒いマスクの方も同じく状況悪しと踏んだのだろう。小さく舌打ちすると連れの大鎌を背負った男性の襟を掴みながら森の中へと姿を隠す。
彼らと偽雨の関係がどうだったかは分からないが、一応暁の方々とは悪い間柄ではない…ここは彼らについていく方が吉と見える。
鉄の門が開く前に急ぎ足で彼らが向かった方向へとついていく。
然程の苦も無く追い付いた時、木陰に潜んだ彼らは襟引っ張るなとか何で逃げるんだ…など隠れているという状況に似つかわしくない言い争いを繰り広げていた。
果たして声を掛けて良いものか…と悩んでいる内に黒いマスクの方…角都さんと言うらしい男性から一度アジトに戻る為ついて来いと逆に声を掛けられて少々困惑する。
暁の方々とは悪い関係ではないとは思っていたがだからといってアジトに招いて頂ける程とは…都合が良すぎる気もして身構えてしまったが何でも角都さんは個人的に"クシナダ"に期待していて偽雨とサソリさんに投資して頂いていたのだとか…。
──気が付けば疑心は消え失せて雲と木ノ葉の間にある湯隠れの里の領域にある洞窟に設けられた彼らのアジトに同行していた。
何でも彼らは雲隠れから木ノ葉まで移動してきたらしく無駄に戻ることに加えて自身が抜けた里に足を踏み入れることに飛段さんはあまり気分が良くないらしいが、私にとっては木ノ葉を無事に抜けられて渡りに船と言ったところだ。
問題はここからどうするべきか。
出来ればハレンチ博士の下に急ぎ帰還したいがサソリさんとデイダラさん以外には私は自来也さんの関係者という認識になっている…発言には気を付けなければ。
それに今は腰に巻いたのと別に神前幕をリサイクルした風呂敷に包んだ写輪眼と死神のお面を持っているのも少々問題だ。
暁の方々ほどの腕利きの忍ならこの有力な素材を目にして欲しがらないとは考えにくい…しかし折角の写輪眼を暁の方々に渡したとなるとハレンチ博士は良く思わないだろう、もしこの荷物がなにか? と聞かれたと上手く誤魔化さないと…
そんな今後の受け答えを事前に考えていると洞窟の中に何人かの幻影が次々と現れる。
ユラユラと揺らぐ姿では分かりにくいがデイダラさんに鬼鮫さん、イタチさんの姿が確認できる…サソリさんの姿は見えないのは少し気になるが角都さんが何も言わない当たり何かあった訳ではないのだろう。
「お久しぶりですねぇ…また少し大きくなりましたか村雨?」
「鬼鮫さんは…すみません、そのお姿ではちょっと分からないです」
「こちらは特に変わりありませんよ」
ホログラム状のお姿では実際はどうかは分からないが本人の言葉通り変わった風には見えない…まぁ壮健そうなら何よりだ。
「しかし…背が伸びたのはともかく、随分と様変わりした様ですね…」
「刀造りが立て込んでいて髪を切る時間も惜しくてつい伸ばしたままに…」
「確かに髪も凄い伸びてますけど服装について言っているんですがね」
「そちらでしたか。…ちょっと服装に拘る様になったので、試しに同年代の子の流行を追ってみることに…」
「…流行? 般若面を身体に幾つも巻くのがですか?」
「今の最先端は般若面…と皆言っています」
「若者の感性は分かりませんね…」
やはり般若面をあちこちに付ける服装は流石に目を引いてしまうか…しかし幸い暁の皆さんは比較的大人の方々が多く、また抜け忍という立場上情勢などには気を配っていても流行りのサブカルチャーには疎くなるはず…ここは木ノ葉での行動や能面堂で調達したなどということは伏せて多少強引にでも押し切るに限る。
…けど本当にこれは押し切れているのだろうか?
何だかお情けで流してくれただけでまったく信じてもらえている気がしない。
今更ながらせめて流行を追ってではなくオリジナリティのあるファッションを目指したといって私個人の趣味と言えばまだマシだっただろうか?
…でも私個人のファッションセンスがボロボロの布をスカート代わりにして般若面を巻き付けるスタイルだと思われるのはそれはそれでちょっと嫌だ。
とにかくこの話題を広げられるとその内ボロを出してしまいそうだし何だか精神的なダメージを受けそうだ、…それに何より、彼らにはどうしても問わないといけないこともある、早く話題を変えよう。
鬼鮫さんから視線を逸らしてちらりと幻影の集団の中から1人の人物を見つけて頭を下げる。
「…お久しぶりですリーダーさん。急に押し掛ける形になってしまい申し訳ありません」
「それは構わんが、角都から報告があったが火ノ寺の前で何をしていた?」
「あ…えっと…」
思った以上に話が早い…話題を変えたかった身からすれば有難いことだがこれはこれで気が休まらない。
実際問題私は彼らの中では自来也さんの周辺人物の把握とナルト君の情報集めをして近々その報告の為に落ち合う予定だったはずで、なのにその私が火ノ寺の前で立ち尽くしていたのはおかしく思うのも無理はない。
「──ならば質問を変える。何故俺がリーダーだと分かった?」
「…へ?」
何故俺が…って以前お会いした時に話して打ち合わせも…っ違う! その後私は記憶を消されたのだった!!
あくまで今の私はサソリさんと共同開発の打ち合わせをして別れただけで自来也さんの周辺人物の報告などについては記憶を消去されているはずなんだ!
だから改竄された記憶では私とリーダーさんとの面識はないはずで…先程の鬼鮫さんとのやり取りは辛うじて元々交流があったからで通るがこれは完全に無理だ。
背後でデイダラさんも思わず頭を抱えてしまっている…そうだ、記憶が戻ったことを知っているのはこの場ではデイダラさんだけ…やってしまった。
渡りに船かと思えば穴が開いて大量の水が浸水している船に叩き込まれていたとは…何てことだ。
…いや、落ち着け。
例の記憶の改竄はサソリさんの術であってリーダーさんの術ではない、そしてサソリさんには以前"降龍山"でお会いした時に全てをお話ししてある…ならば、多少嘘を言っても話を合わして貰えるはず!
「そ、そうでした。実は数日前に記憶が戻りまして…サソリさんが解いて頂いたものと思い、確認の為にも以前のアジトの方へお邪魔しようと思っていたのですが…里を出ようとしているのを自来也さんに気付かれて…その場は上手く誤魔化したのですが必死にその場を離れようとしたせいで方向も出鱈目になってしまって火ノ寺の近辺まで…」
「サソリがお前の記憶を戻すとは言っていなかったが…いや、降格してノルマが無くなったから前倒しにしたのか?」
…ご、誤魔化せた? 上手く誤魔化せた?
「まぁいい。それよりもよくもあの自来也から逃げ果せたものだな」
「き、記憶が戻った時が居酒屋で夕食していた時で、自来也さんベロベロに酔ってらっしゃったのが幸いしまして…」
「なるほど、らしいな」
誤魔化せた! ありがとうございます自来也さん、ハレンチ博士に聞いた通りお酒に弱いという情報が今凄く生きています。
「なら良い機会だ、今の時点で集めた情報を教えろ」
「あ、は…はい」
切り抜けられたのは良かったがやはり今度はそうなるか…しかし自来也さんの情報ならばハレンチ博士からある程度教えて頂いた"周辺人物の情報を集めろという記憶を封印し自然体として潜伏している"という状況の私が集めたにしては十分過ぎる程だ。
報告…という内容まで持ち込めた時点で安全ラインに入ったと見ていいだろう。
…ん? つまりこの状況になったのなら、むしろこの場は強気な姿勢を見せても良いでは?
私は記憶を失った状態でなお自来也さんの情報を完璧に入手し、逃げ切ったやり手の者という認識なんだ…ならば彼らにとっては些細な範囲に収まるぐらいの要求は上乗せで頼むぐらい自然の事…よし!
「幸い、この三年間で里を介さない自来也さん独自の他里とのパイプ、普段お使いにならない奥の手のほんの一端程度などを見ることが出来て、有益な情報が集まっていると思います」
「そうか。なら──」
「ですが、いずれも苦労して集めたものです」
「? いや、記憶を失っていたんだろう、何故苦労を──」
「そこでこれらの情報を提供する上で共同制作とは別に報酬を一つ要求したいです。記憶を失い何も知らぬまま協力するのではなく、正式に暁の皆さんに協力する相互信頼の品というものが今ほしいのです」
「……はぁ、つまりは強請りか。いいだろう、言ってみろ」
「服をください」
やっぱりこんなボロボロになった布と般若面をファッションと言い張るのは無理だ。
奇抜過ぎて目立つせいで町に入れないのも大問題だが、それ以上に般若面を身体に巻くのは結構怖い…お面造りも精巧な技術の結晶というのは理解しているが精巧が過ぎて威圧感を感じてならない。
それにボロボロの布を一枚というのも…ちょっと困る。
しかしこれなら服装問題を解決しつつスパイとしての役目を終えた私の在り方を自然に演出できる、そういった内心を含み少し上から目線の要求になってしまったが切実な思いと共に訴え掛けた時、リーダーさんが今まで向けて来た侮蔑を宿した様な視線が驚愕に変わった。
「我々に自らの意志に協力する…その相互信頼の為に、服を…だと?」
「はい。厚かましい要求だとは理解していますが…どうかお願いします」
訝しむかの様に見つめる波紋模様の瞳を真っ直ぐに見つめ返しもう一度要求を繰り返す。
気が付けばこの場に集まったホログラム状の皆さんも何だか深刻な表情をしている…確かに男性が大半の組織で私が服を要求するのはどうかと思うが然程高価なものでなくともいいんだ。
想像以上に緊迫した空気に自然と私も釣られて緊張し息を飲んでリーダーさんの返事を待つこと数秒…異様に長く感じたその沈黙を破り──
「…いいだろう。お前の言う様に相互信頼の証だ…改めてこれからよろしく頼むぞ」
その言葉と共にホログラム状のリーダーさんが地面に手を触れると足元に術式が広がる。
遠隔地からの物体の時空間移動…口寄せの類いだろうが器用な事をするものだ。
高レベルな術に関心するがそれよりも意識は足元に現れた衣装を手に取ることに傾く。
漸くこのちょっと無防備な服装を何とか出来ると安堵して──結構丈の長いその服をバサッと翻し羽織る。
我ながら結構カッコいい着方が出来たと思い、気分が良いまま洞窟の薄暗さを上回る漆黒の衣に赤い雲模様入りの服を身に纏い──
いや何で私は暁の方々の装束を着ているんだ?
今の会話の流れでどうして組織用の服を提供されることに!?
違う、私はただ目立たない普通の服を頂ければそれで良かったんだ…勿論、男性のリーダーさんから私に適した物を渡して貰えるとは思っていなかったが男性用のズボンとかでも次の町で自然と服を買える様なものなら何でも良かったんだ!
それが何でこの衣装!? まさか私を組織に正式に加入させようというのか? もう訳が分からない!
あとこれ結局上から外套を羽織っただけだから肝心の無防備さの改善が殆ど出来てない! 合わせて編み笠も頂いたがその気遣いは今に限ってはもの凄くどうでも良い!
もっと…もっと、普通の服が欲しかったんです。
もおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!