暁の装束を身に纏い呆然としたまま立ち尽くす。
一体何故こんな事になってしまったのか…木ノ葉で窃盗を働いたことで暫くは木ノ葉近辺は出歩けないな…なんてことを思ってもいたが、こんな格好ではもうどこも出歩けない…。
…まぁだからといって元の恰好も外を出歩けるものではないのでだったらまだこちらの方がマシか。
「──しかしまぁ何というか、アナタにはあまり似合いませんね…その恰好は」
「鬼鮫さん…それは、その…さっきまでのボロ布と般若面の恰好は私に似合っていたという?」
「いえ別にそういう訳では…というかあの恰好は流行のものなのでは?」
「そ……そう、ですけど…」
「自分でも扱いに困る言い訳ならもう諦めた方が良いのでは?」
「な、なんのことやら…」
マズい、やはりあの恰好を流行と言い張るのは無理があった…それはそうだ、世間であんな恰好見た事ないのだから。残念ながらまともな服装をもらうことが出来なかった以上服装についての話題が続くと危険だ。
しかし迂闊な発言で話題を進めれば自らの首を絞めるのは正しくそのファッションの件で実感済みだ、ここは冷静に今の状況と今後の私の取るべき行動を整理し、その実現に向けた話題を切り出さなければ──
そう、そもそもこの装束を与えられたという状況に頭がパンクしそうになっていたが冷静に考えてみればリーダーさんの中では私は3年前に協力関係を取り付けた存在であり、記憶の改竄を受けながらも自来也さんの情報を集め、合流を果たしたという存在なのだから多少の不信感があっても、この待遇も納得できる範囲ではある。
…勿論それは私が彼らに何かしらの離反行為を働いたとして、私程度容易に葬れるという考えも込みでのものだろうが。
しかしそういう事ならこの状況に然して問題はない。
彼らとの交換条件である自来也さんの情報はある程度ハレンチ博士から得ているから求められたら提供できる。
そして万が一の場合に私を簡単に殺せる様な相手と関わるのももう慣れたものだ、何なら直近でも木ノ葉の里に入る際にも賭けたばかりの命をこうして暁の方々と正式に繋がりを持つ為に再び賭ける事に今更抵抗などない。
…ただ一つ困る事があるとするならば──このままではハレンチ博士の下に戻ることが難しいことだ。
暁の方々とハレンチ博士の間に存在する溝は実に大きい…新生七人衆の結成の為にも出来ることならこの溝を何とかしたいと思ってはいるのだがどうにも良い案が思い浮かばない。
といっても、そもそもで仲違いの理由も知らないのだから当然ではある…むしろそういう意味でも暁の方々の下に身を置くのはそう悪いことではないだろう。
彼らの下で働きつつさり気なくハレンチ博士の評判を上げて関係修復を目指してみるのも良い。
最も、私は現時点ではハレンチ博士ではなく自来也さんの関係者という認識でここにいる…その立場で如何にしてハレンチ博士の印象を良くするかというのも現状まともな案の一つもないが…気長に頑張ろう。
とにかく今の目標は彼らの目を逃れた上でハレンチ博士の下に帰還。
今回の木ノ葉侵入による戦利品の扱いを決めた後に暁の方々との関係を報告し、同意を得た上で暁の方々の下へと再度帰還するということだ。
今更ながらもしかして今の私は凄い立場にいるのではないか?
まぁいい、とにかくその目標を達成するには一度彼らと離れて行動する必要があるのは絶対だ。
さて、それをどう申請したら良いものか…
「──では村雨、お前が集めてきた情報についてだが…」
どうしたものか…と、表情には出さぬままに脳内で行き詰りになりつつある問題に悩んでいる内にリーダーさんから声を掛けられ慌てて顔を上げる。
「念の為書面に記録もしておきたいから少し後にしてくれ。ひとまずは先に今後のお前の役目ともう一つ、先日入ってきた情報についての共有から進めさせてもらうぞ」
「分かりました…では、私の役目とは?」
「お前の同一体、偽雨の消滅については感知しているな? 奴の残した仕事を受け持ってもらう」
「クシナダの武器造り…それと皆さんの手裏剣、クナイ造りですね」
「そうだ。しかし手裏剣、クナイに限定していたのはあくまで偽雨の意志を酌んでのものだったが、オリジナルであるお前なら別に刀であっても問題ないと考えていいのか?」
「そうですね、むしろ私としては刀造りの方が得意であり、慣れてもいますのでむしろそちらの方に専念したいです」
「そうか、ならそれで良い。後で奴に与えていた仕事場に連れていく、今後はそこでサソリの指示の下作業しろ」
なるほど…やはりこの場にサソリさんがいなかったのは別の場所で何らかの作業中だったからなのか、ともあれそれは好都合だ。
こちらの事情を知るサソリさんの指示下ということなら私の立ち回りも幾分か自由なものになる、ほんの少しだが希望が見えてきた。
…それに、出来ればサソリには確認したいことがあった。
クシナダの進捗状況もそうだが、それとは別にもう一つだけ…
「──なぁリーダーよォ、それはともかく俺らはいつまでここにいりゃいいんだ? 一応俺らアンタに命令された人柱力狩りを真面目にやろうとしらみ潰し始めようとしてたんだがな」
「確かにそうだな。…だが全員集まっているのだから丁度良い、さっきも言ったがお前達に共有しておかなければならない情報がある。最近流れ出した"ある噂"についてだ」
「噂?」
「──大蛇丸が死んだ」
……え?
今…何て言った?
「奴が組織を抜けて十年…殺す手間が省け──」
「ハレンチ博士が…死んだ?」
想像だにしない話に頭の中が真っ白になる。
あの人が死んだ? 普通に考えてそれはないはずだ、如何なる外傷さえも瞬時に再生する特殊な肉体と、寿命を超越した転生忍術…それこそ不老不死として言って良い存在があの人だ。
確かに屍鬼封尽の後遺症に苦しんでいる時もあった、だが、それでも…。
…それでも、やっと私が死神のお面を手に入れてその後遺症もなくなるはずだったのに。
写輪眼も手に入れてこれからもっと、互いの研究を高め合うはずだったに…一体どうして──
「ん? いや自来也じゃなくて大蛇丸……え?」
「……あ」
「あ? …え?」
や、やってしまった。
リーダーさんと向き合ったまま互いに硬直し言葉が続かない。
重苦しい沈黙が他の方々にも波及し気まずい空間が完成する。
一体どれ程の時間が流れたのか…やがて静寂の世界に鬼鮫の歯切れの悪い言葉が響く。
「──村雨、少し聞きたいのですが…アナタ今」
「…あっ! 声が上手く届かなかったのかもしれないですね、こちら今洞窟の中なので皆さんの術の通信に少し影響が出ているのかも、環境悪いですねここ」
「まだ何も言ってませんが…、あの、まさかとは思いますがアナタがハレンチ博士と呼ぶ人物は自来也ではなく大蛇丸だったと? え、本気で言ってます?」
「じょ…冗談はよせ鬼鮫…。確かに大蛇丸ならば才能のある者ならば子供でも配下にするだろうが、あの慎重な男が配下の者を火ノ国の近辺を1人で歩かせないだろう…そもそもそんなふざけた名前で呼ぶことを許すはずがない」
「同感だ、あの大蛇丸がハレンチ博士などとバカみたいな呼び名で──」
「バレてしまった以上…仕方ない」
リーダーさん、角都さんなどが戸惑いながら鬼鮫さんの言葉を否定した。
しかしそれはありえないと断言しているのではなく、明らかに現実を受け入れまいとしているようだった…それはつまりほんの数秒で冷静さを取り戻し、今度こそ私に容赦のない追及をしてくる前触れでしかない。
ならばもう私はここで腹を括り、自らの発言を認めるしかないだろう。
「…いえ、バレてしまったというか自白でしかないような」
「本当…なのか? 何があったんだ大蛇丸に…」
ハレンチ博士に何があったのかというのはむしろ私が聞きたいことだ。
何故あの人が死んでしまったのか…お陰でとんでもないことになってしまった、こんな貰い事故で殺されてしまっては化けて出てしまうことだろう。
…いや、でも今回の私の木ノ葉への独断で乗り込みなどを考えるとむしろ化けて出るのはハレンチ博士の方かもしれない…あんまり怒ってなければいいが──
「んー、まぁでもその人が大蛇丸側の人間ってことはスパイとしてボクらを騙してたってことっスかね?」
「っ!? …そ、その。ハレンチ博士…って言うのは大蛇丸さんであって自来也さんはエロ仙人さんという愛称で親しまれていて…だから誤解が生じたのだと思うのですが騙すつもりはなかったんです。気が付けば皆さんの中で私は自来也さんの弟子という事で話が進んでいて…思わず──」
「…なるほど、確かに我々の方でも自来也は九尾のガキからエロ仙人と呼ばれているのを確認していましたから、大蛇丸と自来也、2人の愛称と伝説の三忍の弟子という情報のせいで勘違いした…貴女の言う通りですよ」
やはりそうか、しかしこれならばお互い複雑な立場であるが故に限られた情報しか開示出来なかったという事情を酌んで許して貰えるかもしれな──
「ところで思わずというのは、誤解を解いたら処分されるのでは…という恐れから思わずなのか、サソリとの共同制作やイタチさんに目を付けるのに都合が良かったから思わず乗っかってしまった…の、どちらの事ですか?」
「……駄目だ」
仮にその情報が限られていたが故の悲しいすれ違いが許されたとしても、その後彼らと再会した際にそれを訂正せずに、むしろ暁の方々と交流するのに好都合として利用したのは私だ、許されるはずがない。
そして鬼鮫さんだけでなくデイダラさんの隣にいる人も私をスパイと見做しているようだし…どうすれば…。
訂正しようにも騙していたのは事実ではある、かといって逃げるのも無理だし折角彼らと出来た繋がりが完全に切れてしまうのも勿体ない。
せめてこの場の誰かが味方について弁護してくれれば良いのだが──
「…あれ? デイダラ先輩顔色悪いですけどひょっとして知ってました? …知ってました?」
「い、いや、俺は知らねぇな、うん! …もしかしたら旦那なら何か知ってるかもな、うん」
案の定デイダラさんに切り離された!
トカゲの尻尾…というには事の発端が私である以上不適切かもしれないが見切りが早過ぎる!
「正直、自来也さんの弟子というには行動がおかしいとは思っていたが…まさか大蛇丸側の者だとはな」
「……師と弟子の行動が一致するかは関係な──」
「長…ペイン、落ち着いて。問題はそこじゃないわ」
イタチさん、リーダーさんとその隣の女性らしき人物も今回のトラブルが未だに尾を引いている様だ…助け船があるとは考えにくい。
…残るは飛段さんと角都さん、あと何やらアロエの様なトゲトゲの外殻を生やした人…人(?)だが、この調子では果たして救いの手を望めるものか…まぁ普通に考えて無理だろう、暁の方々から見た私の行動は救うに値するとは到底言い難い。
やはりここは自らの価値を今一度証明するしかない…だが、ハレンチ博士のスパイと断定された今、それを覆す程の売り込みをこのマイナスからのスタートの状況で如何にしたものか…。
あくまで平然とした表情を装いながら頭を悩ませる。
交渉材料がない訳ではない、今私の手元には忍の誰もが恐れる眼…写輪眼がある。
イタチさんとリーダーさんは例外としても、他の方々ならば皆が垂涎ものの代物であるはず…だがこれはハレンチ博士と分けっこする予定のものだ。
ハレンチ博士が死んだという情報の事実確認もせぬまま他の誰かに命乞いの為に差し出すというのは出来れば避けたいものだが…。
背に腹は代えられない…ならばもっと別物で代用出来ないものか…。
しかし残念ながら私の手元にあるのはその写輪眼を実らせる謎の木の一部、死神の面とそれにそっくりの般若面(多数)、"霊剣・飛過刀"のみで作品集を束ねた巻物すらない。
この中に彼らが求めるものがあるのか?
でも謎の樹木は写輪眼と癒着している以上あまり差し出したくない。死神の面も同様だ。
──般若面とかに興味はありませんか? …とでも言ってみるか?
…ないな。
正直私としてもこれは要らないものだ。
勿論お面としては中々の出来だとは思うが他の品々と比べては遥かに価値の劣るものだろう…なんなら死神の面の持ち出しを防ぐ為のダミーでしかない可能性すらある。
これと私への信頼を交換というのは流石に無理だ。
どうすればいいのか…頭の中で更なる策を練ってはみるが良い案が浮かぶこともなく、もはや猶予もないというのに途方に暮れる。
「ひとまず、ハレンチ博士の正体が大蛇丸だったという件は置いておくとして、まずはこの女の処遇を決めることが優先だろう」
「っ!」
「そ、そうだな。すまない…少々取り乱していた」
「まァそういうことなら任せな…俺がこの罰当たり女に相応しい最高の死を与えてやるぜ」
角都さんの言葉を皮切りにいよいよ良くない展開になってきた。
特に飛段さん何かは大鎌を構えて早くも私を殺す気だ…かなり禍々しい外見だがそれに比例した重苦しい威圧感がまた味わい深い刃だ、見ているとドキドキする…違う、いや違くはないがそれどころではない。
スパイと見做されたこともさることながら罰当たり女という飛段さん個人からの怒りを感じる、恐らくだがやはり偽雨が何かしたんだろう、何てことをしてくれた! このままでは間違いなく殺される。
幸いあの大鎌そのものに特殊な能力は感じられない、単純な攻撃ならば水化の術で凌げるが何らかの忍術と併用されてはその限りではない。
それに飛段さんの攻撃を凌げたとしても角都さんにも通用する保証はない…いやむしろツーマンセルとして行動しているのならば互いの弱点を補うのが定石。
飛段さんが物理攻撃を主にするなら角都さんは忍術主体と見た方がいいだろう、今更言うのも何だが迂闊な行動は出来ない。
慣れない環境で自力になるのは苦手だが…仙人モードになるしかないか──
「待て飛段…この女を殺すことは簡単だがその前に確認しておくべきだろう」
「あぁ!? 確認だァ!?」
「小娘、貴様が本当に大蛇丸の部下だったとして…その大蛇丸が死んだ今…貴様は今後どうするつもりだ?」
角都さんの言葉を脳内で何度も繰り返す。
今後どうするか…ハレンチ博士が死んだということが事実ならば、確かに今までの生活は不可能…それどころか多くの里に追われる身になるだろう。
ここから逃げたところで私の未来はない…しかし、もしも…私が勘違いではなく正式に彼らの組織に所属する意志を示したならば?
私が彼らの情報を流していたとされるハレンチ博士が死に、今までの裏切り行為の意味もなくなった現状…今や彼らにとって私個人の危険性はゼロ。
もしも私が改めて彼らの部下として忠実に働くというのならば…受け入れることに何の問題もない。
…しかし、それはあくまで客観的に見れば、だ。
当の彼らからしてみれば私が裏切っていたのは事実、そして本命の組織がなくなったからとすぐさまスパイ先の組織に加えてほしいという人物を信用できるのか?
無理だ、信用がなさ過ぎる。
それに彼らは非正規組織だけに末端とはいえ裏切った者は厳格に処断しなければ必ず不和を生む…にも関わらず私にそれを確認する真意とは?
「…先程も言ったはずだ、俺は個人的にお前とサソリの合作には興味があってな。既に多くの投資もしている、今更打ち切られてはたまらん」
まさか裏切り者の処断と秤に掛けてまで選んで頂けるとは…一体どれ程の手腕でこれ程の信頼を勝ち取ったというんだ偽雨! 何て素晴らしいことをしてくれた!
「オイオイ馬鹿言ってんじゃねぇーよ角都ちゃんよォ、そんな簡単に許していいもんじゃねぇだろ?」
「…マァ、今更『従イマス』ト言ワレテモ信用ハデキナイナ」
角都さんの言葉は有難いが、やはり組織の総意としては譲ることは出来ないだろう。…それに──
「私とてもこの場で皆さんに従うと誓うことは出来ません…ハレンチ博士は私にとって大恩のある人物です。少なくともあの方の生死を確認するまでは…私はあの人の配下として動きます」
「…この状況で…おまけにあの大蛇丸に忠誠を誓うとは、狂人振りにますます磨きがかかってますね」
「義理を通すのは常人の証かと?」
「それを裏切った組織を前に言うのは狂人ですがね」
「……確かに」
ひょっとしてまた失言だったか?
まぁ言ってしまった言葉を引っ込めることは出来ないのは身を以て知ったばかりだ、悔やんでいないで話を進めよう。──まずは事実確認をしなくては。
「リーダーさん、私の処遇を決める前に教えて下さい。ハレンチ博士が死んだというのは本当ですか? …本当だとした一体誰が?」
リーダーさんは私の言葉に応えないままゆっくりと波紋模様の目を閉じる。
私の要望も含めて…その処遇を考えているのだろう。
正直、こちらの要望を無視して殺されることも覚悟していたのだが、やがて再びゆっくりと目を開けたリーダーさんは鋭利な視線を向けたまま「良いだろう」と答えてくれた。
…それはつまりハレンチ博士の死が紛れもなく確かな情報であり、そしてその原因となった人物の情報もはっきりと掴んでいるということだろう。ならば一体誰が──
「うちはサスケだ」
固唾を呑んで次の言葉を待っている私に告げられたその裏切り者の名は…ある意味では当然の人物だった。
裏切り者という抹殺対象への意識をハレンチ博士という謎の愛称やその死の噂で攪乱する大蛇丸様、これが師弟の絆!