キーコンフィグが脳内でバグって綱手戦でのカブトさんの異常さを実感してました。
一時はどうなるものかと思ったが無事、暁という組織に正式に収まれた。
これに関しては彼らにとって想定外の事が重なった混乱で判断に迷いが生じた結果であり、物凄い幸運で命を拾ったことであることは間違いない。
今なお自らの命が保たれている偶然に感謝しつつ、改めて彼らと向き直る。
運良く生き残れた幸運に感謝は必要だが、そんな偶然に甘んじているだけでは駄目だ…何せ今の私は彼らにとっていつ切り捨てても良いものであることに変わりはないのだから彼らの意志が変わらない内に自らの立ち位置を確かなものとして築かなければならない。
…思えば今亡きハレンチ博士の下へ行った時もそうだった。
あの方のアジトに招かれたばかり頃は死神の面を求めて自ら望んだこととは言えSランクの抜け忍の方の下という多大な緊張感の中で必死に優れた刀を造ろうとして…"牢の者を好きにして良い"というお言葉を"配下の者を好きにして良い"とお言葉を頂いたと偽って四人衆の方々に絡みに行っていた…
今更ながら当時の私は何を考えていたんだ?
今生きていることが幸運ではなく何かの間違いな気さえしてくる。…いや、もしや案外それぐらい大きく動いた方がハレンチ博士レベルの忍にとっては価値を見出して貰えるのかもしれない!
何せハレンチ博士は術開発の為の人体実験を行う人であり、目の前の方達もそんなハレンチ博士が肩を並べた程の大物人物の集まりなんだ、むしろ小さく縮こまっていては配下として抱え込む程の器だと思われるのがオチではないのか!?
…うん、ここはこの勢いのまま大きく出るべきだろう!
ならば最初にすべきことは1つ。
一度小さく息を吸い、意を決して口を開く。
「それでは私は皆さんの忍具造りとクシナダ開発…以前の偽雨の仕事を引き継がせて頂きます──が、その前に1つお願いを聞いて頂いてよろしいでしょうか?」
「おいおい、今の今までスパイやってて寝返ったやつが言うじゃねぇか?」
飛段さんのお言葉は尤もだ。
本来ならば私は寝返った立場として自らの意志は控えるべきだが…ここは敢えてそれをしない方が上手くいくはず! 過去の経験からして間違いない!
飛段さんの言葉に小さく頷き「勝手は承知です、それでもお願いします」と懇願する。
「木ノ葉に侵入するにあたってハレンチ博士のアジトに荷物の大半を置いてきたので、それを回収したいんです。一度ハレンチ博士のアジトに帰還をさせて頂きたいです」
「…それは…本気で言っているのか?」
「道具はやはり慣れたものを使いたいですし、それに作品集をいつまでも手元から放しているのは落ち着かなくて…本気です」
リーダーさんの厳しい声色の言葉をはっきりと肯定する。
明らかに私の要望は不審なものだ。
このアジトの場所の報告、彼らの下からの逃亡、誘い出し…スパイとして彼らへの敵対行為を企んでいると思われるには十分だろう。
「ハレンチ博士のアジトには貴重な素材も情報も多くあります。きっと皆さんのお役に立てるかと…」
「つまりは大蛇丸の遺産目当てか…お前、かなりろくでもない奴だな」
「…ハレンチ博士から頂いたもののまだ手を付けていないものが残っているので自分の物を回収して、もしハレンチ博士の遺した物に引き取り手がいなければ、です!」
別にハレンチ博士がお亡くなりになったから嬉々として…何てつもりは毛頭ないがそれでもハレンチ博士が集めた貴重な素材をあの方の死に伴って失わせるにはあまりに惜しい。
例えハレンチ博士が想定していた使い方と異なったとしても誰かが引き取り、活かさなければ勿体ない。
勿論、カブトさん辺りが引き取っている可能性も十分あるが…いや、そもそも本当にハレンチ博士が亡くなっていたとしてカブトさんは無事なのか?
サスケ君の反逆によってハレンチ博士と共に殺されたのやも…。
やはり一刻も早く今回の事件の詳細を調べたい…その為には暁の皆さんの説得を早くしなければ。
しかし何と言えば…
「……あれ?」
確かに私が今からハレンチ博士の下へ戻ろうというのは少々怪しいのは事実ではあるが、かといって暁の皆さんにとって全て悪いことばかりという訳ではないはずだ。
そもそもまだハレンチ博士死亡の事実確認が出来ている訳ではない。仮にサスケ君がハレンチ博士を伴うことなく里間を移動している姿が目撃されたとしても、元々ハレンチ博士はサスケ君の身体を乗っ取ることが目的だった以上、そのサスケ君が本当にサスケ君なのかも分からない。
何らかの狙いの下で自らの死を偽装している可能性がある以上暁の皆さんにしても、その事実確認はきっちりとしたいはず。何より──
「私はハレンチ博士の部下ですからあの方のアジトに自由に出入りも出来ます。…ですからハレンチ博士の死亡の事実確認も容易に、確実に可能です。今回の一件についての調査も兼ねて行えます。皆さんにとっても有意義な行動であるかと」
「……そうだな。いいだろう、だが念の為保険はかけさせてもらうぞ?」
何よりまだ私が彼らと関わって間もなく加えて信用も浅い…つまりはいつ切り捨てても問題ない存在なんだ。
だからこそ何かしらの制限は付くだろうが、何かしようものならすぐに殺せば良いだけと意外と許可を得やすいものだ。
問題は彼らの言う保険が何か…恐らくだが口封じの呪印や呼び戻し用の時空間忍術のマーキング、あるいは…起爆札、封印札といったものか…何通りかの予測とそれに応じて万が一の為の対処法を脳内で思い描く最中、頬に一筋の赤い軌跡が走る。
飛段さんの大鎌が丁度掠める程度を狙い、振るわれた。
あの大きな鎌でなお、紙で指を切る程度に納める見事な技量に頬を伝う血よりも意識を奪われる。
素晴らしい技術だ、刀剣ではなく大鎌というのは一風変わっているがこれはこれで良い。
ホログラム状の姿を見る限りでも鬼鮫さんと並んで大型の武器を持つ人の様だし、もしも暁という組織が解散する時があれば新生七人衆への加入などを検討してもらえないだろうか?
…何故か罰当たり女と私の印象が悪いせいで声を掛け難いのが難点なのだが…一体どういう理屈でそんな偏見を抱かれることになるんだ。
偽雨が何かやらかしたのは間違いないのだろうが…一体どうしたものかと飛段さんへと視線を向れば、彼は手にした大鎌の刃を自らの顔の前へと構え、その刃の血の付着した部分をペロリと舐めとって──
「~~~~~っ!? 貴方もですか! 貴方もそんなことするんですか飛段さん!?」
「何の話だよ急に!?」
「……そういえば大蛇丸がアレ切っ掛けでハレンチ博士認定されたって話でしたね…」
「飛段の場合は能力の一環だから失念していた…すまん、飛段」
「ハレンチ教徒…いや、ハレンチゾンビか?」
「ふざけんな! テメェら!?」
何故か全身が変色した飛段さんが遠巻きに見守る人達に怒りは露わにし、会議は暫く収拾がつかなくなってしまうのだった。
一先ず飛段さんを新生七人衆への加入は見送りにさせて頂こう、彼は刃物の扱いに大いに問題が見受けられる…何より今回の一件でより一層関係が悪化してしまった。…いやでもこれはしょうがないだろう、飛段さんが悪いというか、飛段さんの刃物の扱い方が悪い。
▼▼▼
「………」
粘土の鳥に乗り、どうにも落ち着かないまま上空を運ばれる。
普段ならば素晴らしい造形美である粘土細工や、およそ人の身で体感するなど到底出来ないであろう数年ぶりの空の旅に気分も最高潮に高まったのだろうが…今の状況ではそうはいかない。
例の突然刃を舐め出した飛段さんの問題行為は別段彼がハレンチだからということではなく、相手の血を取り込むことで呪い、対象の者と自身の肉体の損傷を共有する術を発動する条件なのだという。
それならそれで指で掬い取って舐めてくれたりしてくれれば私としても余計な誤解をしなくて済んだのに…
……いやでも鎌の刃部分を指でツーっと撫でて血を掬い取るのはそれはそれでちょっと…
いや、問題はそれではなくその飛段さんの能力によって現在私は飛段さんの外傷は私も受けることになっている。
そして今から2日以内に先程の湯隠れの里のアジトに帰還しなくては飛段さんが自らの心臓を貫くのだという。
保険といっていたがこれは最早脅しだ…だってこれでは私は元より飛段さんまで死んでしまうじゃないか!
確かに関係性が最悪と言って良い相手ではあるが私の我儘で道連れさせてしまってはあまりに申し訳がない、急いで帰らないと…。
というか飛段さんも何でノリノリでこの脅しに加担しているんだ? いくら何でも私への保険の為なんかに命を賭けなくとも…組織の決定といえども嫌なことは嫌と言っていいだろうに…案外任務に実直な人なんだなと思わずにはいられない。
心臓を握られるだけならともかく握らされるというのは難儀なものだと物思いに耽っているとふと視界の端でお面をしたトビと呼ばれる男性が映る。
私が生じさせてしまった誤解をサソリさん共々隠蔽していた責任として、デイダラさんが今回のハレンチ博士のアジトへの帰還に同行することになった為、彼とツーマンセルを組んでいるこの方も巻き込まれる形で同行することになったのだろう。
大変申し訳ない気持ちになり思わずそろそろと近づいて声を掛けてみる。
「えぇっと…すみません、他のお仕事もある中で付き合わせてしまって」
「んー、まぁリーダーの決定だしね。それにボクとしても大蛇丸の死亡確認はしておきたかったしヨシってことで」
「そう言って頂けると嬉しいです」
トビさんは各里の暗部衆がつけるものとも趣が違う独特なお面も相まって正直怪しい印象を受けたが話してみると明るい声色やパタパタと全身を動かす仕草など意外と人当たり良さそうな雰囲気を感じる。
本来の仕事を後回しにさせ、更には遠い場所からわざわざ迎えに来てくれて、何とお詫びを思っていた身からすると例え気遣いでの言葉だとしても有難い限りだ。
「おい、それで行き先ってのは天地橋の近くなんだな、うん?」
「あ、はい。そちらへ行けば私の置いてきた時空間移動用の刀が隠してあるので、それでマーキングした対の刀の下、つまりはハレンチ博士が最後に使ったアジトへ飛ぶことが出来ます」
「…でも君の話じゃそのアジトって木ノ葉の連中に見つかったんでしょ? その刀ももう持ち去られてるんじゃないの?」
「一応見つからない様に隠しています。…勿論木ノ葉の方達も優秀ですから絶対とは言えないですが恐らくは大丈夫かと」
木ノ葉の人達は調査において忍犬の嗅覚を用いることが多い。
その辺りを考え臭い消しを施した箱に入れ崩落した瓦礫の中に隠した、予め場所を把握してなければそうそう見つからないだろう。
懸念があるとすれば捜索に日向一族、即ち白眼を用いる方がいた場合だが…何分拠点の一つが崩壊したことで市販の忍具類も多く散乱していたし、一つ二つ、箱入りで保管されている刀剣があったとしても新品の刀だと思われる可能性は十分ある。
そんなことよりも問題はその時空間移動用の刀"閃刀・黄華"の移動は私や水月でなければ肉体がズタズタになってしまうことを完全に忘れていた事だ。
どうしたものか…私1人で時空間移動します、というのは流石に無理だろう怪しすぎて飛段さんに自害させてしまう。かと言って何も言わずデイダラさん達を時空間移動させたらお二人の身体が大変な事になる。
…ここで悩みの種はもしもハレンチ博士の死が偽装だった場合、デイダラさん達をボロボロの状態にした上でアジトに帰還という形となり最上の戦果と言えるのがまた問題だ。
ハレンチ博士への貢献で考えるとお二人には本当に申し訳ないがその選択肢も十分アリなのが困る。
(でもハレンチ博士の死亡が事実だったならデイダラさん達との関係が…そもそもこんなに協力してくれているのに騙し討ちしてしまうのもちょっと…)
しかしこのまま悩んでいては時空間移動の直前に話すか騙し討ちの二択になってしまうのも事実、やはり早めに打ち明けて相談した方が良いだろうかと思った瞬間、記憶に新しい匂いに意識が傾く。
鳥の背から身を乗り出して地上を見渡せば林の一部分が荒れていて、眼を凝らせば倒木の間に地下へと続く階段が見えた。
「っ! デイダラさん、あの林の中に降ろして下さい!」
「うん? 何だありゃ、妙に荒れてるな…」
「…恐らくハレンチ博士のアジトで、きっと戦闘の痕です」
階段の奥から感じる匂い…それは数日前にハレンチ博士に造った"壊刃・遺骨"のもの。
あれをハレンチ博士が手放すとは思えない…ならばあそこにはハレンチ博士がいるはずだが、それにしてはこれ程目立つまで荒れたアジトを隠蔽することもせず、また立ち去っていないというのはおかしい。
考えられる可能性としては…信じたくない噂と事実が結び付くのを感じながら、モヤモヤとした思いのまま地面へと降り立つと、倒木の間を身を屈めて地下へと続く階段を降りていく。
日の光の当たらない地下を何本もの蝋燭で僅かに照らす様式はこれまで見てきたハレンチ博士のアジトとやはり共通する。
さて、誰か事情を確認できる相手はいないものかと念の為注意を払いながらアジト内を探索する。
何せ結局デイダラさん、トビさんを連れて暁の装束に身を包んだまま帰還してしまったのだ。
場合によっては事情説明をする間もなく、出会い頭に殺される可能性もあるから気は抜けない。
「しっかし大蛇丸の奴も湯隠れの里にアジトを造っていたとは灯台下暗しって奴スね、ここは地下なんで暗くて当然なんですけど、アハハ」
「オイラ達もあの蛇野郎も各地にアジトを造ってんだ、おまけに戦闘を避けるぬるま湯の里なんて呼ばれる湯隠れの里は絶好の隠れ場だ、そんなこともあんだろ、うん」
トビさんの微妙に反応に困るがギャグを完全にスルーしてデイダラさんはそう答える。
デイダラさんはあくまで自然体で冷静だが、やはりどこかピリピリとした空気を纏っている…とはいえデイダラさん達からすればここは敵地、それも当然な反応だろう、むしろトビさんの方がどこかおかしい。
気さくな印象を受けたがここまでくるとむしろ異常さを感じずにはいられない、死亡の噂があるとはいえあのハレンチ博士のアジトなんだ、もう少し緊張感や警戒心などがあって然るべきだと思う。いや、まぁ緊張感や警戒心のないまま行動していたらこんな状況になってしまった私個人の所感でしかないが。
それにしても、アジト内を結構動き回っているが見張りや移動している人達ともまったく遭遇しない。
明らかに変だと感じながらも、ゆっくりと刀の匂いの下へと近づくとやがて異様にまでに荒れた一角に辿り着く、恐らくだがこの辺りが地上の林が荒れていた部分なのだろう。
廊下の一部は焼けた痕跡、落雷が落ちたかの様な後と無数の蛇の亡骸が錯乱していた。
「……これは…」
「大蛇丸の蛇か、──っ!」
胴体を斬られ、或いは焼かれた無残な亡骸を冷たく見下ろしていたデイダラさんが急に背後を振り返り、何事かと彼の視線の先を追えば──
「………今更、こんなところに誰がと思えば…君か、村雨」
一瞬亡者かと思う程に空虚感を纏う人物がそこにいた。
何度も見て見覚えのあるはずの顔は記憶とまったく一致しない程に陰り、魂を抜き取られた抜け殻の様に感じてしまい、思わず震えた声が出る。
「……カブトさん」
暁の衣装を纏う私にも、デイダラさんやトビさんにも一切の反応を見せず、ただただ静かにこちらを見つめる憔悴しきった彼の姿にずっと信じない様にしてきた噂が遂に現実として重たく圧し掛かる。
──ハレンチ博士は…死んだのだと。