カブトさんと別れて数分後、水月が保管しておいてくれた私がハレンチ博士から頂いていた素材達と自作の刀達を収納した巻物を回収した後、合流したデイダラさんと暫く資料室を漁っていたがこれら全てを読み漁るには時間が足りないと巻物、本全てを持ち帰ることにするとデイダラさんが決めた。
カブトさんが推測するに彼らの目的は穢土転生の書、しかしその巻物は既に私が隠し持っている為ここで読み漁ったところで出てくるはずがない、誤魔化しながら資料を漁る必要がなくなったのは助かった。
「チィ、にしても…トビのやつはどこ行きやがった、うん! あの野郎サボってんのか?」
内心で安堵しつつ荷造りを終えるとデイダラさんが不意に舌打ちをして何か気に障ることをしてしまったのかとビクリと肩を跳ね上げるも、怒りの対象は彼とペア行動をしているトビさんだった。
そういえばカブトさんと話し込む前にデイダラさんと一緒に資料室に向かったはずだがどこにいったのだろうか?
「デイダラ先輩──!」
「トビ! テメェどこほっつき歩いてやがった!?」
噂をすれば何とやら、ドタドタと忍らしかぬ足音を響かせながら勢いよくドアを開け放ちお面が特徴的な男性が飛び込んでくる。
「これこれこれ!! 指輪見つけたんスよデイダラ先輩!」
「…あ、あの左手の切り身に着いてた指輪」
「そうそう、なんか蛇やらネズミやらのホルマリン漬けだらけの部屋に置いてあった左手に着いてました」
「お前らよくそんなもん平然と話せるな、気持ち悪ィ」
「やだな~デイダラ先輩の手だって口が付いてて気持ち悪、ギャアア──ッ!?」
爆ぜた…。
流れる様にデイダラさんに対して爆弾発言をしたトビさんが案の定デイダラさんの爆撃を受けて吹き飛ばされる。
のびてしまったトビさんの首根っこを掴んで引き摺るデイダラさんの「さっさと帰るぞ」という指示に黙して従い束ねた荷物を持ってデイダラさんの後ろを歩く。
出来ればハレンチ博士が持っていた残りの素材は勿論、ハレンチ博士自身の亡骸も折角ならば頂きたいところだが目の前で爆撃されたトビさんを目の当たりにした都合上、その辺りの要望をするのを躊躇わずにはいられない。
幸い穢土転生の術に関する書物を探しているとのことだからこのアジトを破壊することはしないだろう、今回は大人しく戻ることにして、また後日ここに来ればいいだろう。
忘れ物した…とかそんな理由でなんとか要望を出そう。
そんな算段を立てながら外に出るとデイダラさんの造り出した粘土細工の鳥に乗り、かつての組織のアジトを後にする。
今なおアジトの中で眠るハレンチ博士の姿が脳裏に浮かび後ろ髪を引かれる、別れは寂しいし、その原因が私の行動だということに悔やんでも悔やみ切れない、そして終ぞ木ノ葉の里で手に入れた貴重な品を分かち合うことが出来なかったことが何よりも悲しい。
…それでも、それでも私は前に進むんだ。
私達が持つ技術には死に別れた方々との繋がりの証明なのだと私自身がカブトさんに口にしたことだ、あれほど語っておいて私がこの生き方を変えていいはずがない。
だから──
「……さようなら、ハレンチ博士。どうか、これからの歩みを見守っていて下さい」
あの方が遺していった"壊刃・遺骨"を握りしめて別れを告げる。
……まぁ、さっきまた後日帰ってくる予定を立てたばかりなのだが。
…
……
………うん。
「また来ますハレンチ博士、その時はちゃんと供養しますので」
何とも締まらない出発だが、私達らしい。
さて、これからはまた新しい日常が始まって今までとはまた違う景色を見ることになるのだろう、ハレンチ博士の下で詰んだ研鑽と、心に刻んだ後悔と…様々な経験を糧に新たな環境で生きていこう。
…思えばハレンチ博士の下では少し好き勝手にし過ぎて、その結果ハレンチ博士に死を招いてしまったのだ…次の環境では少し自制を気に掛けた方がいいかもしれないな。
▼▼▼
「…これは、何ですか?」
デイダラさんの鳥で運ばれること4~5時間(参照腹時計、正確さはない)、偽雨が存在していた頃に彼女が使っていたという鍛冶場に到着した…が最初に飛び込んできたのは『茶屋・刀架』と書かれた看板だった。
はて、私達が向かった先は鍛冶場だったはずだがこれは道を間違えた、若しくは探し物の前に茶でも…といった気分なのかとデイダラさんを見れば──
「……お前が理解できねぇのにオイラが分かるわけねぇだろ、うん」
と、妙に苦い顔色で言われる始末。
その様子からして道間違いというわけではなさそうだが…それならそれで何で鍛冶場が茶屋になっているんだ? 意味が分からない。
困惑頻りの中、地面に降り立つも鍛冶場(茶屋?)が近づくと意味が分からないままでも気分が良くなってくる。
何と言ってもこの竹林の中に隠れた鍛冶場は林の清廉な匂いと鉄と灰の独特な匂いが混じる歪な空間だがそれが実に居心地が良い…鍛冶場近くに生えた竹の幾つかは刀によって斬り落とされており試し斬りに困らない様子が見て取れるのも良い。
人里離れた林の中ということもあり正規の忍里の者達に見つかる可能性の低さも素晴らしいが、何より景観が良い。
他の木々とは一風変わった見た目である竹が一面に広がる風景は新鮮だし、庭に造られた池には大きな鯉や亀が泳いでいて人里離れた隠れ家ながら物寂しさを感じないのも居心地の良さを感じさせる。
…時期によっては旬のタケノコが取り放題にできそうなのも実に素晴らしい、折角竹が豊富なので後でししおどしでも作って収穫時期にはその音色に耳を傾けながら旬のタケノコと"選栄蛇酒"を味わうのも良いかもしれない、美しい景観に音色、旬の作物とお供のお酒…正しく最高の組み合わせだ、それらを同時に堪能出来たらさながらスポーツの大会で決勝戦を勝ち抜いたかの様な多幸感に浸れることだろう。
…まぁ私はそんなにお酒に慣れていないので飲んだらその間の記憶が曖昧になることが多々あるのだが。
そう思うと1人で晩酌というのは危険かもしれない、実行する際には誰かを誘った方がいいだろう、考えておこう。
「おい、いつまでキョロキョロしてんだ。着いてきな、うん」
「すみません、つい。──これは!?」
デイダラさんの後ろを歩き、鍛冶場の角を曲がった瞬間目に入った物に言葉を失う。
木造の身体に無数の術式を刻んだ上半身のみの四本腕の巨人がそこにいた。
上半身のみでもすぐ傍の鍛冶場とほぼほぼ変わらない、見上げる程の巨躯であり、近くに安置された脚部分のパーツとの結合が完成し自立を果たしたならば一体どれ程の威光を示すのか…思わず息を飲む。
「……ん? 来たか」
目の前の巨人に目を奪われて呆然としているとふと声がして慌てて周囲を見渡すと巨人の傍に立つ赤髪の男性が無数の工具が入った箱を片手に立っていた。
「ようサソリの旦那。連絡してた通り連れて──」
「こ、これクシナダですか!? 凄い、もう上半身が完成している! 脚部分も出来ていますし結合さえすればもう実用可能なのでは!?」
「うるせぇ」
「デイダラ先輩も自分の作品語りしてる時こんな感じッスよ?」
「うるせぇ!」
ヒートアップしかけていたところに聞こえてきたデイダラさんの声が聞こえて何とか踏み止まる。
巨大傀儡クシナダがこれ程まで設計が進んでいるとは夢にも思わずつい夢中になってしまったがそれはそれとして…
「あの、こちらの方がサソリさん…ですか?」
「…? あぁ、そうかそういえばお前の方はヒルコしか見ていなかったか」
「傀儡を鎧としているのは何となく分かってましたがまさかこれ程若い方だとは思わず…あれ? でも今のお姿からも刃物の気配が体内から…これは一体?」
「……まぁ、その事は良い。そんなことよりもだ、こいつは実用化はまだ無理だ。ガワは出来たが肝心の仕込みが未着手、これじゃデカい張りぼてだ」
そうか…そういえば最初にサソリさんと取引を結んだ際にもクシナダの…というよりも傀儡人形自体の耐久性難についての話があった、やはりそう簡単に実用化まではいかないのだろう。
「…にしても、ボクは噂で聞いただけでしたけど随分とデカいもの造りましたね~」
「まぁ…完成すれば規模だけで言えば過去最大の超大作であることは確かだな」
サソリさんにそれ程言って頂けるとは…となるとなおのこと、仕込みと刀をちゃんと用意して"質"としても過去最高の超傑作と言えるものになる様に私も頑張らなくては。
「規模がデケェのは良いがその分雑にならなけりゃ良いけどな、うん」
「あぁ? 何が言いてぇんだデイダラ?」
「造形家としての一意見だっての。普段はキッチリ細部まで拘ってる割りにコイツ髪やら服やらの飾りが無ぇし、顔に至ってはヒルコや三代目風影と違って目が閉じちまってる、これは手抜きだろ、うん」
「規模がデケェから装飾品の類いは脚部との結合が終わってからバランス調整しつつ着手する予定だ! 顔のパーツも眼球や口内にも仕込みを入れる場合があるから仮組みしてるだけだ!」
「後回しばっかじゃ気がつきゃ駄作になっちまうもんだぜ、うん。オイラのC4カルラはその辺キッチリしてんぜ? アクションに合わせて表情の移り変わりまで完璧だ、うん」
「再現の楽な簡単な顔に救われたな、技術力の低さを誤魔化せて何よりじゃねぇか」
「止めてくれません? あの2人」
「流石に怖い…」
物造りについての討論ならば是非とも混ざりたいがアレは途中からただの言い争いに発展してしまっている、あれに積極的に入っていくのは流石に躊躇する。
そもそもデイダラさんの意見も物造り家としては同意出来るが、かといってクシナダの規模からして細部にまで手を回し続けていてはいつまで経っても進捗が悪いのも事実、ある程度完成してから細部を調整するというサソリさんのやり方も間違いではないはず──なんて思っていたら物造りの関係ない言い争いになっていてもう口を挟むことができない。
…とりあえず現時点でのクシナダを眺めながら嵐が過ぎ去るのを待つとしよう。
うん、やはり素晴らしい、実用化はまだ無理だとしても"無限爆刀・蒸気荘怒"で軽い試運転ならば今すぐにでもしたくなる。
思えば霧の里を出て最初に訪れた砂の里で過ごした時からここに至るまでを思い返せば実に長く激動の続く日々だったと感慨深くなる、果たして何分程感傷に浸っていたのか…流石にお二人の喧嘩ももう収まって──いなかったの様なのでとりあえず鍛冶場の中を見に行くにしよう。
サソリさんが作業している庭と直通の居間に靴を脱いで上がるといくつかの巻物や本が纏められた本棚や囲炉裏が目に入る。
大きさに合わせた本や巻物の配置の仕方、部屋の隅に積まれた座布団や畳まれた布団…それら全てが奇妙なまでに自分の置き方だとしっくりきて、初めて来たはずなのにずっと私がここにいたのかの様な不思議な感覚にこの部屋に"もう一人の私"がいたのだと実感する。
ふと戸棚に茶器が揃っているのを見て未だ言い合いの続くお二方の仲裁とトビさんにも労いも兼ねてお茶でも入れようと手に取ると傍に降りたんである紙切れが目に入りそれを手に取る。
鬼鮫さん:お茶濃いめ(ただしイタチさんを優先してほしいとのこと)、団子
イタチさん:お茶薄め、団子(甘味はどれも好きそう)
サソリさん:飲食不要(?)
デイダラさん:お茶薄め、茶菓子に拘りなし
角都さん:お茶濃いめ、羊羹はダメ
飛段さん:飲めるけどあんまり好きじゃなさそう、
ゼツさん:お茶濃いめ、煎餅
小南さん:来店不足、要観察
これは…暁の皆さんのお茶の好みなのだろうか? 一部の人にはお茶菓子の好みまで…思った以上に徹底した茶屋ではないか、本当に何をしていたんだ偽雨は…
まぁしかし皆さんの好みを纏めてあるなら助かる、早速参考に…ってサソリさんは何故か飲食不要とされているしトビさんに至っては書かれていない、デイダラさんの事を先輩と呼んでいることからしても案外最近入った人なのかもしれない。
しかしそうなると今回はデイダラさんの好みに合わせれば良いか、不要と不明という分からないことだらけというメンツだが悩まなくて良いのは助かる。
早速囲炉裏を活用し茶葉をちょっと少な目にした茶を淹れる。
メモ書きに目を通したり、偽雨の仕事にちょっと困惑したりしていたせいか少々時間が掛かった結果サソリさんとデイダラさんの言い合いの何らかの決着がついていたらしく仲裁としては無意味だったがそれならそれとして、ここまでの移動とハレンチ博士のアジトへ付き合って頂いたお礼にと、ゼツさんの好みらしく日持ちも良いこともあって沢山備蓄されていたのであろう煎餅とセットでデイダラさんとトビさんにお出しする。
「わー煎餅なんて久しぶりだなー、これは美味そうだ!」
…ふと煎餅と湯呑を手に取ったトビさんをジッと見る。
失礼なのは承知だがお面の下の素顔が気になる、声からして比較的若い男性だとは思うが各里の名残らしきものを身に着けている様子もなくどこの里出身の人なのかも分からないこともあって興味が擽られる。
煎餅を顔部分に近づけ、お面に手をつけて…いよいよという瞬間、突然トビさんが背後を振り返ってバリバリと煎餅を咀嚼する音を鳴らす。
「おぉ、中々美味しいですねこれ。どこのお店のだろう」
…ご機嫌に食べられているようだがその素顔が一切見れず、肩透かしを食らってしまう。
いや、わざわざそんな風にする辺りあまり素顔を見られたくないのかもしれない、抜け忍の集まった組織なんだ、複雑な経歴を持つ人だって少なからずいることは想像に難くない。
そう思えば少々不躾が過ぎた、今後は気を付けよう。
「んん? …ちと薄いな。うん」
トビさんの行動に気を取られている内にデイダラさんから少し不満気な発言が出たことで慌てて向き直る。
偽雨のメモ書きを参考に茶葉の量を少し調整したつもりだったが減らし過ぎた様だ。
「すみません、薄めが好みとメモ書きがあったのでそうしたのですが」
「流石にこりゃ薄すぎだ、うん。次はもう少し濃いめで頼む」
…お茶出しに苦手意識はなかったが相手の好みに完璧に合わせてというのは思いの他難しいらしい、偽雨が何を思ってこんなことをしていたのかは分からないがデイダラさんの反応からしても彼女は完璧に対応していたのが窺え、内心彼女に敬意を抱く。
「まぁ最初は偽雨が脈絡なく造った意味不明な茶屋だったがそれなりに使わせて貰ってたからな、どうせなら上手く使ってくれ、うん」
「あ、はい。お茶出しくらいなら幾らでも任せて下さい」
…小南さんという方に来店不足と記入する辺り他の方々はそれなりの頻度で利用しているのかと疑ったがまさか本当にそうだとは…話の流れで請け負ってしまったが三年近く刀造りをしていたせいでお茶出しなんて暫くやっていない、後で練習しないと…。
あ、いやでもこの三年で"選栄蛇酒"…つまりはお酒はそれなりに造ったぞ、いっそ茶屋を諦めて居酒屋に路線変更するのは手か?
…あぁでもお茶を飲みに来ている人にお酒をお出しするのはな…というか私はともかく皆さん忍だ、出して良いわけない、やっぱりお茶出し練習しよう。
「あぁそうだ、偽雨といえば奴がクシナダの進捗状況を纏めたメモが居間の棚に置いてあるそうだ、オリジナルのお前宛てだろう、眼を通しておけ」
デイダラさんとトビさんが飲み終えた湯呑を受け取って盆の上に片付けながら今後の予定を立てていると不意にサソリさんから声を掛けられて棚へ視線を向けると暁の方々に用意してもらったのだろう、忍具類の参考書などに混じって小さなメモ帳が置かれている。
最初のページを開くと随所に見慣れた筆跡が見受けられる自分の字で1日の記録が書かれていた。
偽雨が遺した彼女の日記ということか、他人の日記を読むというのは少々抵抗を感じるがこれは割り切ってしまえば自分の日記だ。
そもそもサソリさんの言うようにこれはクシナダ完成の為に偽雨が遺した記録帳でもあるのだろうから読まずにいたらそれこそ偽雨の進めてくれた仕事を無駄にしてしまう。
…それに偽雨について丁度確かめたかったこともある。
既に消滅してしまった彼女に内心で断りをいれて改めて彼女の遺した記録帳兼日記帳の冒頭からゆっくりと目を通していく。
──そこに記されていたのは決してあり得るはずのない人生を過ごしたもう一人の私の人生だった。