霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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エルデンリングがエンディング迎えたと思ったらEDF6がきてずっと遊んでましたが漸く一段落しました。
これでポケモンSVまでは大丈夫…なはず。


村雨と偽雨

偽雨活動日誌

 

 

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 1日目

 私が造られて1日目、分身という存在である以上万が一消滅してしまった場合に備え、オリジナルの私へそれまでの間に私の進捗を報告出来る様に記録を付けることにした。

 幸いにして与えられた設備は上々、仕事そのものに支障はないと思うがその一方で暁の方々との交流の機会を得るのは難しそうに感じた。

 …という訳で茶屋を設立して彼らの方からここに来る頻度を上げようと思う。

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「天才なのでは?」

 

 何故鍛冶場に茶屋を? と思ったものだがそんな考えがあったとは…自分で言うのもなんだが私の分身とは思えない程の戦略性だ。

 例のハレンチ博士の正体についての件で暁の方々が即処断に踏み切らなかったのは偽雨が彼らとの交流を結んでくれていたからなのかもしれない。

 

 それだけに彼女の消滅は痛手だった。

 これ程の発想とその実績を生み出した彼女の存在を惜しみながら、次のページへと視線を移す。

 

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 2日目

 周囲の竹を斬り落とし看板を造る。

 折角の景観を崩さない様に目立たないところから持ってくる必要があった為結構な重労働になってしまった。

 しかし外装は勿論として内装も少し整えたい…今更ながらこの発想の過酷さを実感してしまう、正直ちょっと後悔。

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「あれ?」

 

 天才かと思った彼女が一日にして心が折れかけている、まさかこの茶屋の設立って画期的な閃きとかではなく勢い任せの思い付きだったのでは? 

 2日目の記述の時点で先行きが不安になってきて恐る恐る翌日のページへと読み進める。

 

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 3日目

 並行して進めていた要望の忍具類の作成が終わった。

 クナイに手裏剣、投擲型の小型を幾らか造ったがどうも自分の脳内で描いた完成図に対し実際に造っていく工程で要所要所で乖離していくのを感じた、やはり事前に説明された様にオリジナルに比べて幾らか能力が劣っているいるのだろう。

 …完成した子達は皆使用には問題ないレベルには達しているとは思うが…本来ならばもっと優れた存在として造れたはずだと思うとどうしても胸が苦しくなる。

 

 いや、これは最初から分かっていたことだ。

 とにかく本来の仕事は終わったのだから、暁の皆さんが引き取りに来る前にお店を完成させるとしよう、お店の名前も考えないと

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 前日までと比べて僅かに震えた筆跡で書かれた字を見て心臓が締め付けられる様な感覚に襲われる。

 やはり…偽雨にはあまりに酷な思いをさせてしまっていたらしい、私も彼女もこうなるであろうことは予想の上でのことだったが…いざこうして感情そのものに直接触れると忍びない。

 

 この三年間、偽雨は一体どれほどの思いで過ごしたというのか…

 

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 4日目

 看板が完成し店構えも漸く人を招くに値するレベルに達したと思う。

 店の名前"刀架"という名も自画自賛ながら非常に良いと思う。

 さて、形ができればあとは中身、最近あまりお茶出しをしていなかったから練習しておかないと。

 がんばろー

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「……? 読み飛ばしちゃった?」

 

 3日目の内容と比べてあまりに内容が違い過ぎる。

 念の為確認してみるが何度見ても書かれた日付は4日目、確かに3日目にお店を完成させようとは言っていたが切り替えが早過ぎる。

 自分の同一体である存在の思考が理解出来ず、さっきまでの感情をどうすれば良いのかと途方に暮れる。

 

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 5日目

 数回やり直しを要したけれど十分な味を出せるようになった、幸運なことにこちらの腕は刀造りと違って然程同一体としての劣化の影響はないらしい。

 もっとも、チャクラの量もコントロールも必要としない作業なのだから当然といえば当然なのだろうけど…やはり複雑に思えてしまう。

 

 

 

 6日目

 一日が過ぎていくのを妙に長く感じてしまう。

 刀造りから離れたせいで時間を持て余してしまっているのだろう、せめてクナイなり手裏剣なりでも造っていたいが素材もない為それも出来ない。

 仕方がないので茶菓子造りにも挑戦してみる…が、これが中々上手くいかない、ひょっとしてやっぱりこっちの腕も劣化しているのでは? 

 要検証。

 

 

 7日目

 本日サソリさんとデイダラさんが遂にご来店された。

 造り置きしておいた忍具についてはそれなりの評価を頂けた、オリジナルが造っていた記憶と比べて少なからず劣化している為果たしてどう評価されるか不安だったが良かった。

 そしていよいよクシナダの制作が始まるらしいがそれに当たり先日指摘を受けた傀儡故の耐久性の問題の対処として降龍山の源龍の鱗を使うのはどうかと進言したところ早速向かうことが決まった。

 私も同行して良いとのことなので準備をしないと…楽しみだ

===

 

 …5日目、6日目と比べて明らかに上機嫌だと分かる7日目の筆跡。

 その後の日付の内容を見ても誰も来なかった日はただ退屈そうに、デイダラさんの作品を見せてもらった時や鬼鮫さんが訪れた日の時は少し楽しそうに、そしてクシナダの進捗の内容は本当に活き活きと…自分の同一体だからこそそれぞれの日に綴られた彼女の感情が流れ込んでくる。…いや流れ込んできて"いた"。

 

 活動日誌の内容が1年程経った頃から徐々に徐々に、偽雨の感情を読み取れなくなっていくのを感じる。

 少しずつ私と彼女がズレていっているのだろう…当然だ、この活動日誌の中で彼女が忍具類の制作をした日の内容は幾らかあったがそのいずれの日からも"楽しい"という感情が一つもなかった。

 勿論、鍛冶をすることへの楽しさ自体がない訳ではないがそれ以上にオリジナルである私への羨望と劣化した自分に対する悲観が大部分を占めている。

 

 

 

 ふと、先日のカブトさんの話を思い出す。

 自らを証明するものが失われ自分自身を見失ってしまった彼に私はそれでもその腕の技術は真実であり、様々な人との繋がりの証だと訴えた。

 

 今でもその考えは変わらない…しかし偽雨の場合はどうか? 

 

 彼女に組み込まれた"私の記憶"に対して"彼女の技術"は劣化している。

 存在は偽り、記憶は与えられたもの…それでも刀を造りたいという欲求は本物で、なのに造れるものは理想のものに届かない。

 

 彼女は…そして私とてカブトさんと同じだったんだ。

 刀造りという自身を形成するものが無くなってしまっては自分を証明できなくなっていく…私は、何も分かっていなかったのだろうか? 

 

 活動日誌を読み進めれば偽雨が過ごした日々の記録が更に綴られている。

 

 彼女は、私が思う以上に器用な人だったのかもしれない。

 暁の方々から望まれる忍具を出来る限り最高の品質で造り上げ、その傍らでお茶や茶菓子を造り、同時にクシナダに持たせる刀のアイディアが思い浮かべばこうして私宛ての記録帳に残していく。

 本人としても無意識だったのだろうが自然と環境と役目に合わせた自分を形成し生きていた。

 

 だからこそ、暁の方々が不審であった私を不自然な程あっさりと受け入れられたのだろう。

 利用価値があったから…というのも大きいが、それと同じぐらいに彼女が彼らの中に彼女自身の居場所を造り上げていた。

 それはきっと…私には出来ないことだっただろう。

 

 他人の物だと思う様になった活動日誌を元の場所にそっと戻すと顔を上げる、3年分の記録を読み続けていた事もあって気が付けばだいぶ時間が過ぎていたらしい。

 

 本来の仕事もあるのだろう、デイダラさんとトビさんはいつの間にかいなくなっていて、今回の件で付き合わせてしまったお礼は改めてしなければと思いつつ、今はずっと確認したかった事の為にもサソリさんへと向き直る。

 

「サソリさん…偽雨は、どうして死んだのですか?」

 

 本来ならばチャクラを使い果たすか過剰なダメージを受けない限りは解除されないという特殊な分身。

 そして刀匠として戦場には無縁な偽雨が過剰なダメージを負うことは考えにくい、かといってチャクラの大量の消費も鍛冶仕事を抑え気味で行い彼女がするとも思えない…ならば一体何故か? 

 

 

 

「……奴は木ノ葉と砂の連中を逃がした。その粛清として俺が殺した」

 

 

 

 …我愛羅君の体内に宿る一尾を巡る争いで、同時にクシナダの制御パーツとしてサソリさんが捕らえたカンクロウと彼らの救出に来たテマリさんとサクラさん、そしてもう一人チヨバアという方を逃がしたのだという。

 

 意外だった…カンクロウもテマリさんも私にとってはそれなり以上に交流があって出来ることならば無事に生きていてほしいと思える人達であるがその一方で彼らは忍、常に死と隣り合わせに生きる人達だ。

 もしも私の理想とする刀造りの道と相反することがあるならば──彼らに限らず他の忍の方達と袂を分かつ覚悟はあるはずだった。

 

 それでも私の同一体であったはずの偽雨は彼らを生かした。

 それはもしも私も同じ状況ならば…同じ選択をするという事なのか、或いはやはり彼らと袂を分かつのか──

 

「俺もお前に一つ聞いておきてぇ。もしもお前がかつての仲間を殺すことで作品を完成させられるとしたら、お前はそいつらを殺せるか? それともお前も偽雨と同じ様に躊躇うか?」

「…きっと私は偽雨と違い殺せるんだと思います。そうでなければ偽雨が羨望してくれた私でなくなってしまう。何より私自身が妥協した作品造りなんて許せるはずがないですから」

「即答とはな」

「当然です。…ただ、一つ訂正させて頂けるなら、誰かを殺さなくては完成させられない状態ならば…ですが。殺さずとも解決できるのなら出来ればしたくはないと思います。皆が無事に生きているのが一番良いことですから」

「…なるほど、アイツが自分を狂えなかったと評した理由が何となく分かった」

 

 狂えなかった…か、そう聞くと偽雨の変化も腑に落ちる。

 …だからこそ、彼女が出来なかったことをオリジナルの私が全力を尽くさずにいて良いはずがない。

 

 つい罪悪感に戻してしまった彼女の活動日誌を再び手にとってあるページを開く。

 彼女が心から楽しみながら記録したクシナダに搭載する仕込みのリストを記録したそのページに再び目を通す。

 

『飛行機能が欲しい』

『水中戦に対応』

『土中潜行が出来る』

『拳の射出機能と分離した腕からチャクラの気弾の放射、弾道弾による爆撃攻撃』

『ジャシン様像なるデザイン案』(不採用)

『甘味製造機能』(要説得)

『自爆機能』(不採用)

『千本の腕』(流用可能)

 

 何だか頓珍漢な内容がいくつか混じっている気がするが幾つかに不採用などの補足がある辺り偽雨とサソリさんが相談した結果の記録なのだろう。

 確かにデザイン案は寄せられても採用出来ないし、搭乗型の傀儡に自爆機能は付けたくはない…甘味製造機能が要説得になっている辺りサソリさんが採用を渋っているのだろう、これは確かに後で説得が必要だ、…が、とにかく今は他の採用が決まっている物に注目しよう。

 

 唯一"流用可能"という補足がされている『千本の腕』は恐らくだがサソリさんの傀儡に似たような仕込みがあるのだろう…ならばそれはもう良い。

 残る項目だが──簡単なことだ。

 

「サソリさん、早速ですがこちらの機能の為に造ってほしいものがあるのですが──」

 

 脳内で偽雨が遺したものを活かす為の仕込みを思い描きながらサソリさんへ発案する。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 その日から3日後、密閉された空間に設けられた座席に背を預ける。

 

 各パーツの結合を終え、遂に起動可能になったクシナダ、正式名称"巨大傀儡人刀・櫛儺娜(クシナダ)"

 この巨躯に対して仕込みはまだ完全に埋めれていないがそれでも実戦可能のレベルまで達した事、そして暁を騙した件に対する責任としてある役目を請け負った事から実戦テスト兼特殊任務を行うことが決まったのだった。

 

 緊張を抑え、腕や脚といった各所の配置された十体の傀儡人形から張り巡らされた傀儡糸一つ一つに目を通し、そのいずれにも問題は見られないことに安堵する。

 

「こちらは問題ありません」

「こっちもだ…なら、動くぞ」

 

 無線を使い、クシナダ内の別の位置に設けられた座席に着いたサソリさんと伝達を交わし安全棒を握り込むと一度大きく息を吸い、声を張り上げる

 十体の傀儡の精密な操作に集中するサソリさんに代わり、行うべき行動を順に読み上げる。

 

「"巨大傀儡人刀・櫛儺娜"──飛行形態へ移行!」

 

 ガラガラと鈍い駆動音を立てながらクシナダの背に装甲として縫い付けられた源龍の甲殻が開く。

 その奥にある仕込みこそが偽雨の遺した機能案を実現させる為のもの、呪印状態になった重吾さんの身体にある器官を参考にしたチャクラ噴出口だ。

 

 

「"源龍炉心"起動! ──火遁チャクラ、風遁チャクラ放出開始!」

 

 重吾さんはここからチャクラを放出することで拳に推進力を加え破壊力を増したり高速での移動を行う…つまりそれと同じ仕組みでより高出力、そして更に"風"と"火"の性質変化を加えれば──武器を仕込む為中身の大半が空洞である傀儡ならば飛行できる!! 

 

 膨大なチャクラを宿す源龍の核である心臓を利用した炉心。

 そこから流出したチャクラが噴出口から放たれクシナダは宙へと浮かぶ、そこから更に火遁と風遁による爆発的な推進力によって空中を高速で移動する。

 

 耳に響く風を切る音が、モニターに映る高速で過ぎ去っていく地上の映像がどうしようもない程に高揚感を湧き上げる。遂に、遂にこの光景を見る事が出来たのだと心臓の鼓動が高鳴る。

 

「……見ている? 偽雨」

 

 辛い思いをさせてしまった、最早私とはまったく異なる存在へとなったもう一人の自分へ思わず呼び掛ける。

 貴女がいたからここまでたどり着けた。この光景を得られた。

 他者の身体を上書きした分身体である彼女に果たして死後の世界というものはあるのか? そもそも死後の世界の存在さえも不確かなのだから、分かるはずもない。

 ならばこそ、きっと彼女もどこかでこの光景を見ているはずなのだと信じ、それに応えたいと強く思う。

 

「…見ていて」

 

 例え自らが認める刀造りが出来ずとも、それでも偽雨も夢見たこのクシナダの初陣をどうか見守っていてほしいと小さく呟く。

 

 

 

 

「目的地に到着! クシナダ空中制御、急降下!!」

 

 やがて任務遂行の為、目的の湖に到着したのを確認しサソリさんへ声を送る。

 返事はないもののサソリさんが操作を行ったのだろう、チャクラ放出が減衰し機体全体がガクンと揺れて、激しい揺れと共に一気に地上へと降下する。

 

 かなりの深さの湖だが巨躯のクシナダの両足はその水を跳ね上げながら悠々と湖の底へと着地する。

 クシナダの着水によって湖全体が激しく揺らぐが、幾分か離れた位置の水面だけがより大きな波紋を広げる。

 

 そこにいたのは3つの尾を持つ巨大な亀。

 頑強な甲殻に覆われた只ならぬ威圧感を放つ巨大な亀、サソリさん曰く三尾という我愛羅君が体内に宿したという一尾と同様のチャクラの怪物はその隻眼をこちらへ向けて──

 

『……な、何これ?』

 

 戸惑いの声を上げるのだった。

 

 ……喋れるんだ。

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