霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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巨大生物VS巨大人形兵器 忍界SOS

三尾と呼ばれる巨大な亀が呆然とこちらを見つめているのを確認する。

 

さて…今回クシナダの実戦テスト兼暁を欺いた件の責任として彼らの目的である尾獣なるものの捕獲任務としてこの湖に訪れた訳だが…。この三尾、チャクラの怪物という存在だと聞いたが先程の人語を介した様子からして意思疎通は可能だと見受けられる。

 

怪物というのだから破壊の限りを尽くしているのかと思ったがこの住処も荒れている様子もないし、ひょっとしてこの湖で大人しく過ごしているのだろうか? 

だとしたら一方的に攻撃するのは少し気が引ける、水月も良く言っていたが動物は大切にしてあげるべきだ。

 

勿論わざわざ捕獲という任務を課す辺り、あの三尾に何らかの危害は最終的には免れないのだろうがそれでも避けられる限りの争いは避けても良いはずだ。

そうと決まればまずは彼(?)に大人しく同行してくれないか、代わりに望む条件があるのならば何としても用意する旨を伝えねばと無線を手に取り──

 

「…しまった」

 

手に取った無線はあくまでクシナダ内での伝達用にサソリさんの物と連動している無線であって外部に伝達するものではない、これに声を通したところでサソリさんに意味不明の伝達をしてしまうだけだ。

 

無線から手を放して周囲を見渡すも外部用のマイクは見当たらない、思えばクシナダ単体の実用化を考えるあまり見落としていたが"七人衆の武器"として運用するのならば組織的な運用も出来なくてはならないんだ、外部の仲間には勿論敵方にも内側から声を届ける用に拡声器か何かは必要だろう。

 

…まぁ無いものは仕方ない、今回は諦めてクシナダの運用テストに集中するとしよう。

なにせ私の傀儡技術ではこんな巨大な傀儡を動かすなんてとても出来ないし、サソリさんといえどもかなりの集中が必要なのだ、ならばサソリさんが戦いに集中できる様にその他の役目はしっかりと遂行しなくては…こうして同行させて頂いているのもそれが理由だ。

 

手に持ったメモ帳に"外部用の拡声器の追加"と記入だけすると、僅かに振動を感じ再び視認用のモニターへと視線を戻すとカメラの角度が変わっておりクシナダの姿勢を動かしたのだと判断する。

見れば眼前の三尾も戸惑いから立ち直り、敵対心を露わにしている。

 

 

 

…遂に、これまでの忍の戦いと一線を画す新たなステージが見れるのだと息を飲む。

 

 

 

「グオオオオオオオ──ーッ!!!」

「っ…!」

 

周囲の水を跳ね上げながら三尾が雄叫びを上げながら猛進してくるのをクシナダはその四本の腕で真っ向から受け止める、巨大生物の突進による激しい揺れに座席から身体が投げ出されそうになるのを安全ベルトによって辛うじて縫い留められるのを感じながら状況を確認するが──あまり好ましい状況ではなかった。

 

というのも以前申告された通り傀儡人形は本来耐久性に難がある、甲羅や鎧を使うことで改善する例もあるそうだがクシナダの場合は空中飛行を可能とする為軽量を意識した設計となっている…勿論そもそもが巨大である為並の攻撃ならばびくともしないはずだが相手もかなりの巨体となると力押しではやや不利か…

 

飛行の際に用いるものと同じく肘に搭載した噴出口から噴き出すチャクラの推進力で持ち堪えてはいるがこのままだと消耗が重なるばかりだ…

 

「…でも武器、及び仕込みなしの本体性能だけでこれなら十分。それにちゃんと"抑えられた"」

 

そう、ここまではあくまでクシナダの基本性能だけの評価…傀儡人形としての本質はこれからだ。

何より真っ向から受け止めたことでちゃんと頭部を捉えることが出来た…"例の仕込み"の威力が万全に発揮できる。

 

「全腕"響鳴スピーカー"起動、『響鳴穿・咆哮』最高出力」

「ふん、大蛇丸のおさがりってのはどうも気に食わねぇが…まぁ良い」

 

サソリさんのうんざりとした声と共にクシナダの4つの腕全てに搭載したこの傀儡の肝たる仕込みが起動する。

 

内部で発した音を五源龍の膨大なチャクラによって極限まで増幅し、猛々しくも荒々しい龍の咆哮を解き放つその仕込みはハレンチ博士の保管していた資料にあったあの方のかつての部下、ドス・キヌタという人物が用いたという音響装置型の忍具を参考とした超音波兵器だ。

 

音による攻撃はその特性上質量を持たずクナイなどの鉄製の武器を何十、何百と仕込むよりも遥かに軽量化を保つことが出来、更にこのクシナダ程の規模となればオリジナルの忍具とは正しく桁外れの威力となる。

…今回こそ必要ないが、忍との戦いならばこれほどの音量となれば耳を塞がずにはいられない…つまりは印を結ぶことも出来ず、高威力の忍術を完全に封じることが出来る。

 

相手の術自体を使えなくしてしまえばこちらは過剰な耐久性は必要ない、これこそが私の出した"傀儡の耐久性難の改善とクシナダの規模の両立"に対する答えだ。

 

チャクラコントロールによって音響装置から放たれる爆音は狙った標的に集束出来る為私達は勿論、周囲の味方への影響も皆無であり集団戦闘であっても絶大の効果を発揮が期待できる。

現に今、突進を受け止め身体を押さえつけられた三尾が絶叫を上げながら身を捩るも私達には耳を劈く程のその音は一切届いていない。

 

…性能テストとしては◎として良いだろう。

 

「グガァアアアアア──ーッ!!」

 

三尾が4つの腕から放たれる超音波の中心から抜け出そうと必死に藻掻き出した。

その巨体ごと大きく首を振るうその力もまた絶大でチャクラ噴出で圧力を増しているはずクシナダの4本の腕でさえ振り払われる。

 

「──逃がすか」

 

しかし、このままでは力負けをすると瞬時に見抜いたサソリさんが即座に次なる仕込みを動かした。

クシナダの背中が開き口寄せ術式から無数の腕が飛び出して本来の4つ手から抜け出そうとする三尾の身体を取り囲み拘束する。

 

これは角都さんの希望された仕込みだ。

元々同様の仕込みをサソリさんが実用化していたのもあって口寄せの術式での展開、腕の中からクナイ付きロープと毒霧まで搭載の充実ぶりだ、呼び出しから拘束まで無駄もなく圧巻の一言だ。

…ただやはり角都さんの希望した腕そのものでの攻撃は木造なのもあってあまり破壊力は出ておらず、三尾を攻撃した数十本はむしろその頑強な甲殻に阻まれて砕ける始末だ。

 

クナイ付きロープや毒霧も三尾程の巨大生物相手には効き目もいまいち薄い様子だ、もっとも流石にこれは特殊なケースであり人相手ならばこうはならないはずだ、性能テストとしては◎。

しかし要望通りかについては…残念ながら△といったところか、暁の皆さんの中でも角都さんはとても大事なスポンサーだ、これは改善の必要があるだろう。

 

「っ! サソリさん!!」

 

追加の腕の効き目はいまいちながらもメインの4つ手から放たれる超音波攻撃は有効として放出を続けていたのだが突如その音の放出に異変が起きる。

メインカメラ以外に身体の各所に仕掛けたサブカメラで全身を確認するとクシナダの音響装置が珊瑚に覆われていた。

 

危ない、音の放出口が塞がれた時に行き場を失ったチャクラが暴発しない様に放出を止めるセーフティ機能を付けていなければ腕が吹き飛ぶところだった。

 

「…なるほど、接触した相手に珊瑚を生やす能力か…厄介だな」

 

見れば腕部分だけでなく手の部分まで珊瑚が広がってきている、4つ手の下側2本に至っては既に手全体を珊瑚に覆われて掴むことさえままならない状態だ、止むを得ず4つの手を放すと三尾は身体に巻き付けたロープを引き千切り身体を丸めて転がる様に距離を取ってしまった。

流石に一筋縄ではいかない様だが…構わない、これで他の性能テストも進むというものだ。

 

「あれじゃ最悪全身珊瑚に塞がれて仕込みも使えなくなるな…直接触れるのは避けるか」

「ではまずはこの珊瑚をお返ししましょう──『械腕ノ火矢』射出」

 

プシュ―ッという噴出音を響かせ完全に珊瑚に覆われていた下側の両手が分離し三尾へと射出される、火遁の加速を用いたその拳は計算上では岩をも粉砕する威力を発揮するはずだが…やはり三尾の甲殻はかなりの硬度なのだろう、鈍い激突音が響くがまったくダメージを受けた様子がない。

 

それどころか再び身体を丸めて回転を始める。

最初の単純な突進ではなく、回転による加速と全身の甲殻の硬度を活かした必殺の一撃を放つつもりなのだろう、だがこちらも先程の攻撃は"主砲"を放つ前段階でしかない。

 

拳を射出した両腕から大砲を展開する。

これらはリーダーさん希望の仕込みだが…実に素晴らしい発想だと感服する…充電音と共に雷遁チャクラが集束し大砲がバチバチと帯電する。

 

「グオオオオオオオ──ーッ!!」

「っ! 三尾、動きました! 充電70%、フルチャージ間に合いません」

「仕方ねぇ、『雷轟砲』発射」

 

…言われた、折角の花形の仕込みなのに。

ともあれ両腕の大砲から放たれた雷遁チャクラを圧縮した光線が転がり迫る三尾を捉える。

超高速による回転エネルギーに光線が周囲へ霧散するが徐々に徐々に三尾の回転が弱まり、こちらへ迫る速度も低下する。

 

…このまま押し切れるか? 

そんな期待を持つが三尾の動きが完全に止まる素振りもない…やはり充電が間に合わなかったせいか威力不足だ。

充電速度は十分の性能のはずだが…これほどの巨躯に見合わない程の機動力を持つ三尾の力に舌を巻く。

 

最上位の口寄せ動物さえも凌ぐ巨体、頑強な甲殻と特異な能力、何より高密度のチャクラの砲撃を受けても平然とする桁外れの生命力…生物としての格の違いを感じずにはいられない。

 

けれど…生物の格が違えど今やこちらは生物ではなく兵器だ、恐れはない。

 

雷遁チャクラの放出を止めて背中の放出口からチャクラを噴き出し再び宙へと飛翔する。

寸前に迫った三尾の突進を躱し滞空すると三尾も回転を止めて即座にその名の象徴たる3本の尾を槍の如く伸ばしてくる。

 

源龍の鱗を張り巡らした腕で弾くも伝わる衝撃がそう何度も防げるものではないとはっきりと伝えてくる。

鱗は耐えたとしても衝撃に間接部分が損傷していく…かといって先程までの仕込みで三尾に決定打を与えるには至らなかった。

…となれば、いよいよ奥の手を使うしかないだろう。

 

 

約3年間…待ち望んでいた光景が迫っていることに高揚感が止まらない。

 

 

首後ろから肩部分が開き巨大な刀の柄が飛び出すとクシナダは健在な上側の腕でそれを掴み構える。

二代目水影様の術、デイダラさんの芸術観を参考とし、水月のチャクラ、そしてガマブンタさん能力と刀を基に成立した"無限爆刀・蒸気荘怒"が上空故に普段よりも強く感じる日差しを受けて美しく輝く。

 

背の噴出口から再びチャクラを放出し、頭部から一気に三尾目掛けて急降下する。

 

またもや襲い掛かる三本の尾の槍を今度は刀身によって受け止める。

ガキンッガキンッと金属と鉱石がぶつかる様な音が、ガリガリと擦れる音が幾度に渡って響き、その度に"蒸気荘怒"の刃は赤く赤熱していく。

 

尾の槍を潜り抜け、三尾の脳天へとその刃を振り降ろす──悔しいが頭部を覆う殻を斬り裂くことは出来なかったが──その衝撃にて臨界点に達した刀身が爆ぜる。

 

湖の水を爆風が跳ね上げ、轟音が響き渡る。

激しい振動に必死に耐えて水飛沫に埋め尽くされるカメラを凝視する。

 

"蒸気荘怒"とクシナダの腕に損傷はないか? 

三尾はどうなった? 

考え得る状況に対する対応を何通りも考えながら祈る様に息を飲む。

 

やがて水飛沫が収まりカメラに映ったのは衝撃を加え続けたことで幾らかの刃毀れをしつつもその勇ましさを一切損なわない"蒸気荘怒"とそれを握るクシナダの両腕。

気を失い、背と腹部を逆にして浮かぶ三尾の姿、そして──

 

 

 

爆発によって浮かび上がる水月の顔だった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

「ぁ…うぅ」

 

不機嫌さを露わにしたサソリさんの傀儡糸に腕を逆方向に捻られ耐えがたい痛みに情けない呻き声を上げる

 

「おい、あの"蒸気荘怒"とやらの威力自体は良い、爆発ってのもどうも気に入らないが性能としては認めてやる…だが最後のあの顔は何の嫌がらせだ? それとも質の悪い幻術なのか?」

「い、いや、幻術ではなく参考とした術からしてそういうものなので…仕様です」

 

返答した瞬間に腕を締め上げる強さが更に増した。

本業の刀造りに影響があると嫌なので腕を狙うのは出来ればやめてほしいのだが…。

 

「ふざけるな、合作とはいえ仮にも俺の力作にあんなバカみたいなもん持たせるな」

「バ!? ──そ、その個人的には愛嬌のある顔をしているかと?」

 

身内贔屓はあるかもしれないが少なくとも悪く言われる様な容姿ではないと思うのだが…。

 

「あの顔の美醜はこの際どうでも良いんだよ…大体愛嬌がどうとか言ってるが何であいつ妙に困惑してる顔なんだ? まさか爆発する度にあの間抜けな顔が浮かぶのか?」

「言われてみれば…割とよく見る表情だから違和感がなかったけど何故? …あ、"蒸気荘怒"を造ったタイミングが我愛羅君と戦闘中で切迫した時だったから水月の焦りの感情が出てしまったのかもしれない。今度会った時に落ち着いた環境で造り直してもらえば…木ノ葉の雑誌で見た…ないすがい? のポーズとかで…」

「待て、脱線させた俺が悪かった、顔を浮かび上がらせること自体まずやめろ」

 

そうは言われても…先にも述べた通り顔が浮かび上がるのは参考にした二代目水影様の術自体がそういうものなので私としても如何ともし難い。

とはいえこのままでは折角実用可能になった"蒸気荘怒"がお蔵入りになってしまう…それではクシナダを造った意味が…。

 

どうすれば良い? 

術の仕組み上水月の顔が浮かび上がるのは仕方ない…かといって今のままだとサソリさんが納得されないのも事実。私としても共同開発者であるサソリさんが納得できないクオリティではクシナダを完成と豪語する訳にはいかない。

 

"蒸気荘怒"に代わる新たな巨大刀を考えるか? 

基となったドス刀がガマブンタさんからの借り物であるという点を考えればいずれはそうする必要もあるかもしれないが現状あれ以上の物を生み出す案も素材もない。

 

どちらかを立てるとどちらかが折れなくてはならない。

私とサソリさん、両者が納得できるにはどうすれば…思わぬ難問に頭を悩ませる。

 

 

 

…しかし、よくよく考えればサソリさんが難色を示す部分に私はどうして抵抗感がないんだ? 

傀儡師と刀匠…分野は違えど優れた忍具を造ろうと合作しているのならば欠点と感じる部分は似通うはずだが…

 

──っ! そうか! 

 

さっきの会話でもあったが私としては親しい間柄なのもあってあの顔に愛嬌を感じるが、水月と殆ど接点のないサソリさんにとっては余計なものと感じるのも無理はない。

要は私とサソリさんにおける水月の印象の差によるものだと考えられるわけだ、ならばここから見出せる解決法が一つある。

 

 

 

つまり水月とサソリさんが仲良くなってくれれば良い。

 

 

 

そうすれば浮かび上がる水月の顔に対する印象も変わるはず。

それにゆくゆくはサソリさんは新生七人衆に勧誘する予定なんだ、水月と仲良くなってもらうことはそういう意味でも有意義だろう。

 

我ながら実に良い考えだと自画自賛すると同時に明確な解決法が閃いたことに安堵する。

といっても残念ながらこの案をすぐに実行できないの問題なのだが…さて──

 

 

──水月…いまどこにいるかな?




巨大傀儡人刀・櫛儺娜
仕込み一覧
源龍炉心:尾獣に匹敵する源龍を利用した炉心、莫大な必要チャクラの供給源
噴出口:全身の各部位にある機動力の要、これにより飛行、水中での移動も可能
械腕ノ火矢:4本の腕に搭載した所謂ロケットパンチ
轟雷砲:ロケットパンチしたあと残った腕が主砲に変形
千手操武:背中から無数の腕を展開、三代目風影に搭載していたものを流用
響鳴スピーカー:ドスの使っていた忍具の大型版、巨躯の上に騒音、隠密性は捨てた
無限爆刀・蒸気荘怒:水月の肖像権も捨てた

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