霧隠れの里長、五代目水影である照美メイは彼女に与えられた水影室にて先日国中に流した一枚の資料を手に深くため息を吐く。
三年前に里を抜けた霧隠れ有数の名家の娘、渦柘榴村雨の抹殺許可を含めた指名手配書。
里抜け当初は彼女の父から今回の一件は自らの落ち度だと言う擁護の声と里抜けの理由に霧隠れの里そのものへの敵意はないという理由で里抜け時点から重鎮達から上がっていた彼女の抹殺命令を抑えていた。
それからというもの…長期に渡って捜索命令を出していたが箱入り娘の家出程度…すぐに足取りが掴めるだろうという予想に反し、どこかの大国に潜り込んだのかその足取りは掴めないままだった。
だが先日木ノ葉の火影様からの証言で彼女達の里に抜け忍にして大罪人である大蛇丸の配下として木ノ葉の里での狼藉振りと更には暁との関係性も含めての情報が入ってきた。
内容に対して火影様からの追及は不思議と少なく、あくまで彼女の処遇をこちらに委ねるとされていたのだが…流石にここまでの大事となれば水影として責任のある決断を下さねば──と彼女の父である渦柘榴白雨様を呼び寄せた。
…結果は驚く程にあっさりと、彼は村雨の抹殺許可を容認したのだった。
仮に彼が容認せずとも彼女の抹殺許可は揺るがない…むしろその断りを父親に告げる身としては気が楽であったことは事実だが…それでもかつての血霧の里の悪習を断絶した身としては身内切りを受け入れる姿を見てしまうと鬱屈感を覚えてしまう。
そんな心境を察してなのだろう、机を挟んで控えていた霧の上忍、青が口を開いた。
「…白雨殿とて簡単な決断ではなかったはず。しかし今の彼女を放置していてはいずれは他里からの詰責を受ける、現に今回の木ノ葉の対応が異常な程なのですから。ましてや我々霧隠れは暁発祥の地と疑われている身、里そのものに甚大な被害が及ぶ可能性がある以上、無責任に娘を庇うぐらいならば、父親として決断を下すことを選んだのでしょう…彼も実直な職人でしたから」
「…そうね」
血霧の里と呼ばれた時代を忍と刀匠として共に生き抜いた同士として白雨様の心情を語る青に小さく頷く。
苛烈な時代を生き抜いた経験故か少々気難しい彼が心を許す程の人物なのだ、娘の抹殺許可を容認するなど簡単だったはずがない。
それでも苛烈な時代を知るが故にこそ今の里の安定と平和を保つ為、そして事実彼女が行った悪事の責任を取らせる為にも苦渋の決断をした彼に心の内で深く感謝する。
せめてもの線引きとして抹殺はあくまで命令ではなく容認という形で指名手配を広めた。
これを見て彼女が今すぐに霧隠れに自首するなりせめて霧隠れの忍に捕まれば良いのだが…そう思わずにはいられない。
──が、おそらくそうはならないのだろう。
残念ながら彼女の悪評…あえて言い換えるならば武勇伝は里の実力者達ならば知るところだ。
特に七人衆の筆頭候補として幼い頃から刀を振るっていたが故に彼女と関わりが深かった長十郎に至っては今回の事情を知るや否や開口一番「…殺した方が良いと思います、多分」と言い切る程だ。
優柔不断なところが目立つ彼がまさかの即断を決めたことに私も青も度肝を抜かれたものだ、それだけで彼女がこの程度で動じるはずがないのだとはっきりと分かる。
だからこそ、もしもの時は水影として私自身も動くべきだろう、そう決意を改め──その昔、他でもない彼女から唐突に押し付けられた刀をカチャリと鳴らす。
▼▼▼
「これが…芸術!! ……芸術?」
デイダラさん監修の下、新たに洗練された蒸気荘怒の爆破を見てその威力に心震わせたものの…爽やかな笑顔でサムズアップする水月の顔が浮かび上がったのを見て何かちょっと発展させる方向性を間違ってしてしまったのでは? と今更ながらに首を傾げる。
「こんなもんが芸術なもんか! 新手の幻術だろ最早!」
爆発の刀の改良をお願いしたところ結構ノリ気で協力してくれたデイダラさんだったが作業の詳細を聞いた途端に物凄くやる気をなくされて…それでも何とか必死に協力を要請した結果無事に改良を果たしたのだが…歯切れの悪い反応をしてしまったせいだろう、いよいよ完全に怒ってしまった、これはまずい。
「い、いえ、でも爆発の威力はかなり向上しました、本当に感謝しています」
「爆発の威力はっつってる時点であの顔についてはお前も若干後悔してんじゃねぇか!」
「それは…で、でも当初の困惑顔だとちょっとカッコよくなかったから改良は必要でしたから…これはこれで若干決め過ぎた感もあるかなーと思わなくもないですが…」
いや…実際造っている最中は絶対良くなると思っていたんだ、でもいざ完成形を見てしまうとちょっとやり過ぎたという印象が途端に襲ってきた。何事も想像だけでは上手くいかないのだと実感してしまう。
折角顔が浮かぶのなら一番決め顔の方が良いだろうと思ったのだが…何かもっとこう、平常の表情の方が落ち着いた印象で良かったのでは? とか、木ノ葉の顔岩みたいな方が威厳やアート性もあったのでは? とか後になって色んな候補が浮かんでくる始末だ。
しかしデイダラさんの教えを受けて爆発の威力向上の為術式の最適化と並行して表情の調整をしたこともあって今更変更も出来ない。ここは最初の直感を信じてこれで良いのだと胸を張るべきだろう。
「……旦那的にこれ傀儡に搭載はアリなのか? うん」
「んな訳ねぇだろ、馬鹿かテメー」
「だよなぁ、うん」
打ち上がった水月の顔を見てか、クシナダの点検をしていたサソリさんが合流しており物凄く嫌そうな顔を浮かべている…さて、この場で下手に言い訳をしたり当初の困惑顔よりは良くなったでしょう、などと宣わったとしても碌なことにはならないだろう。ここは話題を変えることで対処しよう。
「そういえばサソリさん、クシナダの様子はどうでした? 例の三尾に生やされた珊瑚などは…」
「特に異常はない。あれもあくまでただの拘束技で取り除いてしまえば何の害もねぇ、動かそうと思えば今すぐ動かせる」
「それは良かった」
逆に言えばあの珊瑚自体から三尾の力を得ることは出来ないということだろうがクシナダに悪影響がない方が大切だと安堵する。
「まぁ、爆発の威力は上げといてやったから使うか使わねぇかは旦那が決めるこったな、うん。じゃあオイラ達はもう行くぜ?」
「はい、お世話になりました。お茶のご用意はしておりますのでまたいつでもお越し下さい」
「おう、──おいトビィ! どこ行った、うん!」
そういえば…私達3人はそれぞれ作業をしていたがトビさんはずっと待ちぼうけさせてしまっていた。
慌てて首を振り回して周囲を見渡すがトビさんの姿はどこにも…あ、いた、大福片手に戸棚を漁っている。
「何してんだお前」
「ん? あぁデイダラ先輩もう終わったんですか? いやー暇だったんで茶菓子の食べ比べやってて…もうちょっと食べたいんでまだ続けてて良いスよ?」
「あー、待たせて悪かったな、うん。もう済んだからぼちぼち発つぞ」
「そっすか。じゃあいよいよ俺のノルマ探しっスね…イタチさん達が四尾捜索中っスから、俺達は六尾っスかね?」
「八尾と九尾は居場所自体は割れてるからそうなるな、うん」
デイダラさんと和やかに話しているトビさんだが…今のは茶菓子を漁る振りをしていただけではないだろうか?
ハレンチ博士の下で屍鬼封尽について調べていた時の自分と不思議と重なって見えた。
…三尾の欠片を隠し持っているのがバレたか?
それとも屍鬼封尽? 穢土転生? どうも良質なサンプルをいくつも抱えているせいか推測も儘ならない。
…しかし、どういうことだろう、もしもトビさんが私の持ち物の何かに目を付けているのなら普通に組織の立場で物申せば良いはずなのにどうして隠れて漁る様な真似を?
ひょっとしてトビさんも暁という組織の影で何か別の狙いが?
…まぁいいか、ハレンチ博士も私に対してそういう疑いを持っていても自然に接してくれていたのだろう、私もそういう広い心を持ってあげるべきだろう。
というか、手口に対して共感できる辺りだいぶ盗人寄りの思考回路が完成しつつあるのかもしれない…いやそもそも三尾の欠片も隠し持っている辺り直近も直近で盗人だ。
ならば猶更トビさんに文句も言えないな、というか仮に弾劾して戦闘になったとしたら勝ち目もないんだ、とりあえず貴重品の類いは肌身離さず、それが無理なら見つからない場所に隠す様に気を付けよう。
「──あぁ、そうだ、六尾の捜索は勿論だが…うちはサスケも捜索だ、見つけ次第そいつも殺るぞ。うん」
「!?」
防犯意識を強めていると不意にデイダラさんが予想外の発言をした。
先程の会議ではうちはサスケは遭遇したならば拘束、抹殺と言っていたが積極的に狙いにいく必要がある程重要視はされていなかったはず。それが何故?
「やっぱ獲物を横取りされたのは気に入らねぇし、何よりあのイタチの弟だからな、うん」
「…奴は暁に加入する時にイタチとやり合ってな…結果は言うまでもねぇだろ?」
不思議そうにしているのが分かったのだろう、隣にいたサソリさんが小声で告げた内容に漸く納得する。
それにしても…デイダラさんの直接な戦闘を見ていない身としても彼の飛行能力や爆発の威力を総合するとその戦闘スキルは全ての忍の中でも上澄みも上澄みであることは疑いようもない。
そんな彼でも及ばないとは、イタチさんの実力は如何ほどなのか…彼からは妙な刀の気配も感じるし興味が溢れて仕方ない。
…っと、いけない、今はそれよりもデイダラさんだ。
暁のメンバーとサスケ君との戦闘は出来れば避けたいんだ──でも…
「…デイダラさん、サスケ君は強いですよ。ハレンチ博士を倒したのも色んな要素があったとしても決して偶然などではない。油断はしないで…頑張って下さい」
私の計画としては…暁のメンバーとサスケ君の衝突は避けたい、けれどデイダラさんの判断基準において彼の持つ芸術の価値観、美学が根底にあるのは分かっている。
こうしてはっきりとサスケ君、ひいてはイタチさんへの敵愾心を持つのも自らの芸術にかけるプライド故の事なのだろう。
…だとしたらどうして私がその挑戦を止められる?
同じ物造り家として彼の決断を尊重し、ただ手短に進言だけするとデイダラさんは小さく鼻を鳴らして粘土の鳥へと飛び乗る。
「──言われるまでもねぇ。まぁうちはサスケの死体が上手く残ったら写輪眼ぐらい持ってきてやるよ、オイラには要らねぇもんだしな、うん」
「デイダラさんだと…あまり期待できないですね」
勿論、その言葉は決してデイダラさんを見下してなどではない、むしろその逆だ──
「芸術は爆発…ですからね」
「ハッ分かってんじゃねぇか、うん」
彼が自分で言ったように、写輪眼を持ち帰るにはサスケ君の死体が上手く残ることが大前提だ。
ならば爆発を信条とするデイダラさんにそれを期待するのは難しい、なにせ今回の場合は組織の仕事ではなく彼の芸術性を懸けての戦いなんだ、余計な土産を気にして半端な爆破なんてして欲しくない。
ただただ彼の勝利を願いながら飛び立つデイダラさん見送って──そういえばデイダラさん的には因縁があるのはサスケ君だけなので同行しているであろう水月達とは殺し合うまではいかないでほしいと伝えておくべきだったと今更ながら思い至る。
「──しまった」
水月は勿論、重吾さんも香燐さんも、合流しているのならばカブトさんも…皆貴重な能力を持つ人達だ、失うのは惜しい。
中でも香燐さんは少々協力してもらいたいことが出来た、出来れば無事にいて欲しいのだが…
…ついさっきまでデイダラさんの勝利を願っていて今では水月達の無事を願う。
我ながら適当なものだと思ってしまうが考えてみれば近しい者の無事を願うのは当たり前の事か、少し安心出来た。
▼▼▼
その後は丁度調整も終わったというサソリさんとクシナダのテスト飛行を行うことにした。
三尾との戦闘で目立った損害もなく、例の珊瑚もほぼ無害とのことだが念には念を。
クシナダのサイズでも目立たない様かなりの高度での飛行を続けること1時間と少々…正直途中からテスト以上に最大高度と最大速度での飛行を楽しみ出していたのが本音だ。
やはりこれ程の大作が動く姿を見ると言うのは無条件で歓喜してしまう。
さて、気が付いた時には訪れていたこの一面に広がる森はどこだったか? と、冷静さを取り戻すと飛行を開始した方角的に考えてこの辺りは火の国の領域内だったかと思い至る。
今後の策を練るのも作品を満喫するのも良いが、流石に木ノ葉付近では警戒をしておくべきだろうと気を引き締める。──異常なまでの疾風が吹き荒れたのはその直後だった。
クシナダの機体が揺れるのを感じ慌てて無線を手に取る。
「今のは!?」
「風遁の術か…それもかなりの術だな──あの辺りか?」
周囲の森と違い枯れ木が目立つ一角…あそこで戦闘でもあったのか?
それにしても先程の術はかなりのものだ一体誰が。
カメラをズームさせ、砂煙の舞い上がる戦場を注視する。
荒れた地面に立つ複数の人影…あれは、木ノ葉の忍達だ、その中心にいる子は…ナルト君? それと少し離れた位置の抉れた地面にボロボロの状態で倒れる男性が1人。
…状況からしてあの男性と木ノ葉の方々が戦っていたのか?
「あれは…まさか、角都か!?」
「え?」
サソリさんの言葉にボロボロの男性に目を向ける……が?
身体の節々から繊維状の黒い物質が無数に生えた黒髪の男性…私の知る角都さんの特徴と一致するものが何もない、あ! 大柄なところは同じだが?
「角都さん? ……すみません、私の記憶にある角都さんと些か見た目が不一致で…別人なのでは?」
「黒マスクと頭巾のせいで碌に特徴捉えてねぇだけだろうが!」
「い、言われてみれば! ──ではあれは角都さん!?」
「さっきからそう言ってるだろうが!」
「助けましょう、大事なスポンサーなんです」
「だからさっきから言ってんだよ!」
「と、とにかく急降下!」
キィ──ンッと甲高い風切り音を奏でながら超高度から地上へ一気に急降下、砂煙を巻き上げて、周囲の地面を震撼させながらクシナダが地面に降り立つ。
…巨大傀儡の着地ってカッコいい。