霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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九死に一生

 暁のメンバーの1人、角都と死闘を繰り広げた木ノ葉の忍達は皆己の目を疑った。

 うずまきナルトの新術、風遁・螺旋手裏剣…その規格外の威力で角都を一撃で討ち果たした直後、頭上から巨大な人形が飛来してきた。

 

「な…なんだこれは?」

 

 見上げる程の巨躯、四腕の化け物…その異様な姿にカカシさえも戸惑いに目を見開く。

 しかし良く見れば鱗に覆われた身体の造りは木造であることが見て取れる、だとするとこれは巨大な傀儡人形なのかと推測する。

 

「これは…まさか…」

「っ!?」

 

 陥没した地面の底で角都が息を詰まらせながらも歓喜に震えた声を上げたことで確信する。

 これは傀儡人形、そしてこれ程のものを操ることが出来るのは間違いなく忍界でもただ一人、以前の風影救出任務で相対した赤砂の──

 

『角都さん、ご無事ですか?』

(あいつかぁ…)

 

 赤砂のサソリかと思ったら予想だにしない声がして途方に暮れる、いや…大方サソリも中に搭乗しているのだろうが…渦柘榴村雨、先日木ノ葉で大暴れし遂に霧隠れの里から指名手配された少女の声が巨大傀儡に装着された拡声器からして頭を抱えたくなってしまう。

 

 しかし、巨大傀儡の腕が動くのを見てそれどころではないと即座に判断する。

 

「テンゾウ!」

「分かってます!」

 

 土流壁を造りたいところだったが角都との戦闘で残りチャクラも乏しい状態では難しく、後ろに控えていた後輩に指示を飛ばせば木遁の壁が自分達を覆い隠す。

 

 巨大な腕が押し潰しに掛かっているのだろう、ミシミシと軋む音が響く中思考を巡らせる。

 暁は基本的にはツーマンセルで動くはず…それが何故このタイミングでもう一組が? 

 目的の人柱力であるナルト確保に来たのならば最初から2組揃ってくれば良いはずだ…村雨達が来た目的はナルトではない? ──だとすると…

 

「っ! ──雷切!!」

 

 すぐさま右手に雷遁チャクラを纏い、陥没した地面を駆け抜ける。

 

「駄目だ! カカシ先輩!!」

 

 狙いは恐らく敗れた角都の回収。そう判断し先にトドメと刺そうと駆け出したがそれよりも一瞬早く頭上の木の壁が破られ、それぞれ刀を握りしめた無数の腕が降ってくる。

 

「……くそ」

 

 木の壁が破られて再び広がった視界に二本の腕で慎重に角都を拾い上げる巨人の姿が映り歯噛みする。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 危なかった。

 何とか角都さん救出が間に合ったが、カカシさん達がクシナダに驚いていなければどうなっていたか。

 

「……クク、三尾捕獲の際に使用したと…聞いてはいたが…本当に、これ程のものを…完成させたとはな」

「全て角都さんの協力あっての事です」

 

 …クシナダの掌の上で感嘆の声を上げる角都さんは息も絶え絶えで救出出来たとはいえ速やかに治療しなくてはこのまま死んでしまってもおかしくない程の重傷だ。一体どんな術を受ければこんなことに…

 

「…やれやれ、暁のところにいたと思ったら本物は大蛇丸の下にいて…と思ったらまた暁と一緒にいるとは、随分と忙しいようだな」

「それを言うならそちらもかと…。我愛羅君の件にハレンチ博士のアジトに今回とまたナルト君達の班なんですね…他に誰かいないのですか?」

 

 暁の方々と戦うのもハレンチ博士のアジトへの潜入も任務のランクで言うならAランク、あるいはSランクに値する危険極まりない任務だ。

 確かにそんな任務を引き受けられる人材は限られるだろうがだからといってこうも彼らばかりに任されるものだろうかと疑問を口にすれば皆さんの顔が僅かに顰められている。

 

 …今更ながらさっきの発言は聞き取り方によっては木ノ葉の里に対しての悪口に捉えられるかもしれないことに気付く。違う、そういう意図はなかったんです。

 あんまり人と仕事以外の会話しないことでのコミュニケーション能力不足を久しぶりに実感する…いやよくよく考えたら最近暁に本格的に入社? できたのもそれが原因だった。

 

 

 …そう考えたら悪いことばかりでもないのかもしれない、でなければ最悪殺されてたかもしれないし。

 

 

「渦柘榴村雨…最後の忠告だ、刀造りをしたいだけならば今すぐにでも霧隠れの里に帰った方が良い。今や君は霧隠れの指名手配された身だが自ら戻れば今ならばまだ処刑は免れるやもしれない」

 

 ヤマトさん…の双子なのだろうか? 彼にそっくりなテンゾウさんと呼ばれた男性の言葉に驚く。

 そうか、遂に霧隠れの里は私を捜索から指名手配に切り替えたのか…まぁ木ノ葉の里での一件は秘匿するようなことではないだろうしそうもなるか。

 

 むしろ思った以上に遅かった、疾うの昔からなっているものと思っていた。

 ──まぁ、こんなに指名手配が遅くなったことからして、里の誰かが私の弁護をしてくれていたであろうし、それが誰かという予想に少し心は痛むがそれだけだ、いずれなるであろうと分かっていたことで里帰りをする気にはならない。

 

「ご忠告には感謝します。ですが里には帰りません…今ご覧頂いているこの"巨大傀儡人刀・櫛儺娜"のような優れた作品を造るには一つの里ではあまりに足りない。もっと広い見聞と素材、繋がりが必要ですから」

「そうか──なら、最早容赦はしない」

「っ!」

 

 その言葉と同時にクシナダの足元から猛烈な勢いで無数の木々が巻き付いてくる。

 木遁忍術…確かこれにはチャクラを抑制する力があるはず…だとすると完全に巻き付かれると傀儡人形であるクシナダは機能停止する可能性がある。

 

『飛行する──落ちるなよ角都』

 

 サソリさんもそれを警戒をしたのだろう。

 背中の放出口からチャクラを放ちクシナダを再び飛行させる。

 

「逃がすな、チョウジ!」

「う、うん──"超倍化の術"」

 

 隊の後方に控えていたナルト君と同い年ぐらいのふくよかな男の子が巨大化しクシナダの腕を掴む。

 驚いた…クシナダに匹敵する程の巨躯…忍術とはいえこれ程巨大化出来るものとは…。

 

「──あぁ、この子は確か…」

 

 そうだ、巨大化してはっきりと顔が視認出来たことでその少年が以前に焼肉店で同席した男の子だと気付く。

 男子三日会わなければなんとやら、こんなに大きくなるとはと感慨深くなる。

 

「皆! アレはなに!?」

 

 瀕死の角都さんを4本中2本の手で包んでいることもあってチョウジ君を引き剝がすのに手間取っている内に別の方向から3人の木ノ葉の忍が合流する。

 サクラさんとサイさん…あともう一人は確かチョウジ君と一緒に焼肉店で同席したシカマル君だったか? 

 

 しかし慌てて駆け付けた様子から見てもやはりクシナダは大きい分、戦場だと相手の援軍が駆け付けやすくなってしまうようだ。もっともそれは一網打尽にしてしまえば欠点ではなくなる、つまり問題はない。

 

「暁の増援だ、やれるね」

「僕らが着いた時には彼が1人で暁を仕留めていたのでね…チャクラはたっぷり残ってます」

「…サソリ、いるんでしょう」

 

 サクラさんが不意にサソリさんの名を呼ぶ──確か我愛羅君の一件でお二人が戦ったのだったか? 

 しかしサソリさんはそれに何も答えず静かに「ふん」と鼻を鳴らすだけだ、それはクシナダの操作に集中しているのか、ただ何も受け答えをする気がないのか、私には分からない。

 

「ナルトさっきの新術まだやれるか?」

「いやカカシ先輩、修行でも2発が限界で…さっきの戦いでもう3発も──」

「あ、いや…それが、何か九尾の奴があんなもんさっさと壊せってチャクラを…」

「なに?」

 

 サソリさんの様子を窺っている内に奇妙なやり取りが聞こえてナルト君達の方向のモニターを確認すると分身を含めた3人のナルト君が異常なチャクラを練り上げいた。

 

「よく分からないが…いけナルト! さっきの奴より的はデカい──お前としてはやり易い相手だろう」

「オッス! "風遁・螺旋手裏剣"」

 

 あれが少し前の突風の原因か。

 以前に会った時彼が必死に修行していた螺旋丸…あれを更に進化させた術だろうか一目見ただけでアレが常軌を逸した術でありそれを習得するのにどれ程の苦難があったのか窺い知れるというものだ。

 

 出来ることなら…真っ向から受けてクシナダの性能と比べてみたくもあるが、残念ながら今は角都さんの救命が最優先だ。

 

「確実に逃げましょう。"響鳴スピーカー"起動」

「いいだろう、九尾は最後に封印だとか言っていたからここで狩っても余計なリスクを負うだけだからな。──『響鳴穿・咆哮』出力最大」

 

 クシナダの腕に装着したスピーカーから巨龍の咆哮を解き放ち、チャクラによってその音波を増幅…さらにその規格外の音の範囲を彼らの両耳のみに集束させる。

 

「ぐあああっ! う、うるせぇってばよ…」

 

 大規模な術に対するチャクラコントロールはかなりの集中力を要求される…ましてナルト君のあの術は"手にチャクラを集める術"…その特性上耳を塞ぐには術を消さなくてならない。

 …前に使った三尾の時は亀の耳ってどの辺りか良く分からなくて効果が薄かったが人相手なら十全に使えるというものだ。

 

「こ…この術は…」

「音隠れの…えっと三人組の…」

「包帯巻いてた奴の!」

「あいつの!!」

「誰だってばよ!?」

『"ドス"、ザク、キン』

 

 超音波に顔を歪めながらもシカマル君、チョウジ君、いのさん、サクラさん、ナルト君の順でそれぞれ反応を見せ、更にサイさんが筆記でドスさんの名を上げる。

 え? 一度もお会いしたことなかったのだがドスさんってひょっとして木ノ葉で有名なのだろうか? 居合わせた人数に対して知っている人が多過ぎやしないか? …その割に記憶が曖昧なのも少し気になるところだが、有名なのかそうでもないのかどっちなんだ? 

 

 まぁ良い、とにかく隙は作れた、これ以上戦闘も無駄な詮索…といってしまうのはドスさんに悪いが不要だ。

 

「それでは木ノ葉の皆さん、機会があればまたお会いしましょう」

 

 もっとも暁という組織に所属する以上、その機会というのはうずまきナルト君を捕獲しようとする時なのだろうが。あらゆる意味で出来ることならばその機会には居合わせたくはないと思いながらもそれでもまだまだ彼らとは付き合うことになる予感がして自然と口に出ていた。

 

 挨拶が済む頃にはクシナダの放出口から更に大量のチャクラが集まったらしく更に空中に上昇し、そのままキィ──ンと甲高い音を奏でてその場から飛び去っていく。

 一応両手で包み込んでいるが角都さんが無事か気が気でないが、今はこの場を離れることを優先か…

 

「しかし、どうするかな…角都の傷…とても治せるものじゃないぞ?」

「暁に医療忍者は?」

「いねぇな。強いて言うなら角都自身がそうだ…まぁ腕の欠損程度なら俺が義手ぐらいなら造れるが…」

「──分かりました。ではサソリさん、暁のアジトではなく私の言うところへ向かって頂けませんか?」

「どこだ?」

「以前にデイダラさんとトビさんと向かったハレンチ博士のアジトです…あそこならば或いは…」

 

 カブトさんがまだいたら最良。

 勿論もうとっくに出発してしまったと思うが、あのアジトならば特殊な薬品も幾らかあった…おまけに几帳面なカブトさんが薬品毎の資料も保管してある…上手くアジトの物を使えばきっとなんとかなるはず。

 

 莫大なチャクラで飛行するクシナダは数分でハレンチ博士の亡骸の眠るアジトに降り立つとサソリさんが口寄せした別の運搬用の傀儡に角都さんを慎重に移しアジトの中へ入る。

 ハレンチ博士がこちらのアジトに移った時、私は1人木ノ葉に侵入していたこともあってここで生活はしていないが、大体の部屋は以前にデイダラさん達と来た時に把握している。

 

 とにかく薬品を探す前にまずは角都さんを少しでも負担がない場所に移すべきだろうとゆっくりと、それでいて急いで医療室に角都さんを運ぶ最中だった。

 

 

 

 ──なんだ? 

 

 薄暗い廊下に残る黒いシミ…これは血か? 

 医務室に向かう廊下の途中に血溜まりの跡らしきものが目に付いて足を止める…こんなもの、以前来た時にあっただろうか? 

 

 見ればすぐ傍の部屋のドアが壊れている…まさか、ここに誰か? 

 

 

 

 

「え? ──これは…」

 

 

 

 そこにあったのは廊下にあったものと同じ血溜まりだった、人の身から出たのであれば致死量を超える量だと一目で分かる。

 そしてその血溜まりの中にもう一つ、私にとって良く知るものが一つだけ。

 

 

 

 それは鉄の破片だった。

 流石に破片だけでは分かり難かったが間違いない、これは私がカブトさんに造った医療メスの破片だ…何故これがこんな血の中で? 

 

 

 

「──まさかカブトさん、こんなところで解剖を?」

 

 

 …いや、流石にそれはないだろうが…多分。

 そもそも普通に使う分には刃毀れだってそうそうしない様に造ったものだ、扱いが悪い人ならばともかくカブトさんならばそんな杜撰な扱いはしないだろう。

 

 だとすると…何かにぶつかった拍子に壊されたと考えるのが妥当か? 

 

「え? だとするとこの血ってまさか…カブトさんの?」

「おい、何をしている?」

 

 夥しい血の量とその血が誰のものかという推測に寒気がしていると背後からサソリさんから呼ばれて肩を跳ね上げる。

 

 そうだ、確かにこの血の正体と原因は気にはなるが今は角都さんが一刻を争う状況だ。

「すみません」と謝罪すると共に小走りで廊下に出るとそのまま角都さんを医療室に搬入する。

 

 医療ベッドに寝かせると角都さんはサソリさんに任せ、今度は調合室へ駆け込む。

 カブトさんが造った薬が大量に並んでいるが果たしてそれぞれがどんな効果だろうか、調合室に置かれた本棚から資料を引っ張り出しては外傷用の薬のリストは読み漁る。

 

 …しかし、優先して造っているのはどうやら病に対しての物が中心だ、これはハレンチ博士や君麻呂さんの為のものか。

 あとは…呪印の症状を和らげるなどか…よくよく考えてみればハレンチ博士もカブトさんも治癒能力に優れた人達だった、案外外傷用の薬というのは必要ないものなのだろうか? 

 

 …いや、だとしてもサスケ君の修行などもハードなものだったし必要性が皆無というわけではないだろう。

 きっとどこかにあるはずなんだが…

 

「これは…柱間細胞について? これもあまり関係ない…ん?」

 

 手にした巻物に気になる記述があって読み飛ばそうとした目を止める。

 柱間細胞…初代火影の細胞を移植することでチャクラの増幅、術の効力の底上げ、自然治癒力の向上の効果を確認…一部を志村ダンゾウの右腕に提供──って。

 

 まさか、ダンゾウさんから回収したあの木が柱間細胞なのか? 

 だとすればそれを移植することが出来れば…あぁでもどうすれば良い? 木の形を整えて角都さんの身体に刺せばいいのか? 多分違う気がする。

 

 惜しいがこれは無理かと顔を上げると、巨大な調合器具が目に映る。

 幾つものパイプと繋がった巨大な大釜の様な器具、確かあれは…だとすると…。

 

 ゴクリと息を飲む。

 柱間細胞…適合すれば先程の様な多くの恩恵を得られるがもしも適合出来なければ拒絶反応によって死に至るか、細胞に取り込まれて木となる…と資料にあった。

 

 分の悪い賭けだ、いやそもそも私の様な知識もなく、資料を見ただけの者に扱い切れる物ではないかもしれない…だがこのままでは角都さんは死ぬだけだ。ならば──

 

 収納用の巻物からダンゾウさんから回収した写輪眼の成る木改め柱間細胞を口寄せする。

 部屋にあったビニール手袋を付けてその木から写輪眼を抉り取って、同じく部屋にあった保存液の入った筒の中に一つ一つ入れていく。

 

 これで良し…後は──

 

「…出来ることなら、自分用に使いたかったんだけど…仕方ない」

 

 柱間細胞…なんてこんな素晴らしいもの惜しくないはずがない。

 それでも、お世話になった人を助けられるかもしれないのなら…うん、仕方ない。

 

 そうだ、もしもこれで助けられたのならスポンサーを改めて水月の結成する新生七人衆に勧誘してみよう、そうすれば形は違えど私の作品として利用できたと言っても過言ではないだろう。

 

 …どうか成功します様に。

 

 そう祈りながら巨大釜の中に柱間細胞である巨木を押し込むのだった。

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