霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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パルデアに出張してました。
図鑑完成でやっと一段落ついたので出来れば年内にもう1~2話は出せる様頑張ります。


暁波乱万丈ノ巻

 ポチャン、ポチャン…と調合器具に絞り取られた樹液? が滴り落ちる。

 初代火影様の細胞、通称柱間細胞とやらの採取方法としてこれは多分正攻法ではないのだろうが、肉体の移植なんて本格的な手術なんて私には出来ない。

 そもそもハレンチ博士ですら多くの被検体を死なせてしまったらしい手術だ、最初から上手くいくかどうか分からないのならばこの点滴形式での接種に賭けてみよう。

 

 幸いにしてこのアジトにも私の鍛冶場を作ってくれていたおかげで仙人モードになることが出来た、仙人モード特有の感知能力を以ってすれば角都さんの経絡系の状態も多少が分かるはず…点滴を入れる位置も割り出せるというもの。

 

 …でも何というか、この樹液…樹液? 仙人モードになって分かったが何だか凄い力を感じる。

 勿論、そういう力があるからこそハレンチ博士が目を付けたのだろうが、果たしてこれは本当に大丈夫なのかと不安になってくる。

 

 …ちょっと水で薄めてみようかな? いや駄目だこれ点滴なんだから、素材の良さに期待しよう。

 この樹液らしきものも十分な量が溜まった…いつまでも不安になってはいられないということだろう。

 

 それはそうだ、一体世界のどこに自らの不安を患者に晒す医者がいるというのか。

 一番不安なのは死の危機に瀕した患者なんだ…たとえ重圧に押し潰されそうになったとしても、その不安を上回る誇りを持って手術を遂行する──それが医者というものだろう! 

 

 

 

「サソリさん…手術を開始します」

「それ点滴じゃないのか?」

「…そうでした」

 

 使命感に駆られるあまり発想を飛躍させ過ぎてしまった…

 医療室に戻るなりサソリさんに至極尤もな指摘を受けてしまい、思わず目を逸らす。

 

 ま、まぁ点滴だって誤った位置にしてしまえば一転して重度な危機となる行為であることは間違いないんだ、手術をするのと同じ様に細心の注意を払う様にするのは大切なはずだと自分にエールを送りつつ医療ベッドに安置された角都さんを見下ろす。

 

 息も絶え絶えで全身はボロボロ…仙人モード特有の感知能力に集中すれば全身の経絡系がズタズタに切り裂かれていることが分かる。

 クシナダで救助した時にはまだ辛うじて意識もあったが今では言葉は愚か、その息遣いさえもろくに聞き取れない。

 

 一刻の猶予もないのは明白だ、ならばもう躊躇う理由もない。

 樹液の様に見える何かを溜めたパックを点滴の器具にセットしてそこから伸びた管の先端を角都さんの損傷したチャクラ経絡系に沿って差し込む。

 

「…どっちにしてもじきに死ぬだろう負傷だから何も言わんが…本当に大丈夫なのかその薬品は?」

「分かりません…そもそもが適合しなければ拒絶反応で死に至る危険な代物ですから…おまけに点滴での投与も私が勝手に決めたやり方ですし…もっと言ったら私、人に点滴を打つのも初めてです」

「正気かお前」

 

 私だってそういう理由で出来るならばもっと別に接収方法を考えたんだ、例えばあの柱間細胞で出来た木を磨り潰して漢方団子みたいにして100個ぐらい食べれば良くなったりしないかなー…とか。

 でももう角都さんまともに物を食べることも無理そうだし…考えた末にこれしかなかったんだ。

 

「…今の内に角都の身体を素材にした人傀儡でも考えておくか」

「助かります」

 

 治療の失敗したケースを既に想定し始めたサソリさんの言葉に安堵する。

 

「角都さん…治療は生きるか死ぬかの五分と五分…もあるかどうかすら分かりません。しかしこれはそんなじゃんけんの様な確率論ではありません。この柱間細胞? …というものに適合すれば自然回復力を含めた多くの効果を得られる、そうなればきっと良くなります」

 

 出来ることならばそうであってほしい、しかしノウハウを得たハレンチ博士でさえ成功例はほぼ皆無な移植手術を私が勝手に真似たものだ、その確率は五分なんて期待できるものではない。もっと言えば確率はゼロの可能性だって十分ある…それでも──

 

「仮に治療に失敗し角都さんが亡くなったとしても、共に夢見てくれたクシナダは既に実用化し今も改良を続けている。加えて角都さんの亡骸はサソリさんが余すところなく活用して頂ける…そして地獄の沙汰も金次第、です。治療が失敗しても角都さんの夢も御身体も魂も…何一つ失われることはない。力を蓄え、お金を集め、研鑽を続けてきた角都さんの治療は成否に関わらず天国の未来を呼び寄せます。だから──」

 

 聞こえているのかどうか…意識を確認できない角都さんの様子からしてそれは分からないが、それでも少しでも安心して頂ける様に傷だらけの掌を握ってそう語り掛け──遂にパックの留め具を外す。

 

「──もし1兆分の1成功することがあれば、一緒に笑いましょう」

「……お前本当に最悪だな」

 

 点滴の管を樹液…だと信じたい何かが通って行くのを見守りながら告げた直後に何故かサソリさんから冷やかな視線を受けてしまう…うん、酷い言い分なのは分かっている、…でも実際言われるとちょっと辛い。

 

 いや、いじけている時間はない、そんなことよりも角都さんは無事だろうか? 

 

「ぐあああああああああッ!?」

「サ、サソリさん! 角都さんが悲鳴を!? これは…今まで意識もなかったことを考慮すると成功なのでしょうか?」

「──角都の奴は元から腕やら足を切り離ししてやがったからな。体格も大きい分何かと仕込みの拡張性がありそうだからそれを活かして…」

 

 駄目だ、既に角都さんの身体を傀儡化する際の内容を考え始めていらっしゃる、治療は失敗だったようだ。

 

「ぐ…おぉおお…お、俺は…生きて、いるのか?」

「っ! サソリさん、角都さんが今度は言葉を!」

「何だと!?」

 

 いや、一応治療だったんだからそこまで本気で驚かなくとも…

 

「角都さん、私の言葉が聞こえますか? 先程角都さんに初代火影、千手柱間様の細胞から採取出来た樹液…みたいなものを点滴として投与し角都さんの回復力の向上を図ったのですが上手く適合出来たのかもしれません! 何か分かったりしますか?」

「……何も分からない」

「な! …まさか──記憶喪失?」

「いや、多分そういう意味じゃねぇ…もういいからお前下がってろ」

 

 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべたサソリさんに肩を引かれ医療ベッドから少し離れるとサソリさんが事情説明を進めていく。…折角治療が成功したのに私1人若干離れているのは喜びを分かち合えない疎外感を覚え少し勿体なさを感じる。

 

「…つまり、瀕死の俺によりにもよってあの柱間の細胞を植え込んだのか? しかもそんな訳の分からん方法で?」

「まぁ…そういうことになるな。恐らくだがお前の他人の経絡系ごと心臓を取り込む術が適合率を上げたのだろうな、木遁と言えば土遁と水遁の合わせ技だ…血継限界にどこまで耐性が出来るかは分からんが土遁と水遁を含めて五大性質変化を扱える点も上手く作用したのかもな」

「そんな推測よりも…何故止めなかった?」

「明らかに致命傷だったから何もしなかったらしなかったでどうせ死んでいただろう。まさか成功するとも思わなかったしな……まぁ、すまん」

「お前、ぐうぅ…」

 

 どうやら角都さんは意識を取り戻したものの身体にまだ痺れがある様だ…柱間細胞というのもやはり木から絞りとったものでは純度が悪かったのだろう、傷の再生もハレンチ博士の資料の適合した場合の推測記述と比べても明らかに全然足りてない。

 

 包帯などはこの場にもあるが痛み止めの薬は確かハレンチ博士も使っていたな、その余りとか薬棚に幾らか残ってなかっただろうか? 

 一先ず角都さんの事はサソリさんに任せて見に行こうと廊下に出てふとハレンチ博士を思い浮かべたことで忘れていたことを思い出す。

 

「そうだった…ハレンチ博士の供養をちゃんとしないと」

 

 前に来た時に去り際に早いうちにまた来て供養すると予定を立てていたのにすっかり忘れてしまっていた。

 とりあえず前回と同じミスをしない様にハレンチ博士の身体から漏れ出る痺れ毒を吸わない様に暁の装束の左腕部分を肩の辺りから切り取ってマスクの代わりにする。

 

「…ちょっと切り過ぎたかな?」

 

 マスク代わりなら肘辺りからで十分だったかも? と思うがまぁ毒対策と思えば少しでも重ねられた方が良いだろう。組織の衣装をちょっと改造したみたいで次に集合する時が怖いがまぁ良しとしよう。

 

「確か…ハレンチ博士の自室はここの…あれ?」

 

 扉が壁ごと切り倒され廊下にまで血が溢れた痛ましい一室、間違いなくハレンチ博士がサスケ君に葬られた場所だ…そのはずなのに何故…

 

「ハレンチ博士の遺体が消えた?」

 

 白い鱗の大蛇…この大部屋の殆どを埋め尽くす程巨大なその姿がどこにもない。

 

「これは…一体どういう?」

 

 どこかの里がハレンチ博士の死の情報を得てアジトを探索、そのご遺体を持ち去ったのか? 

 それにしては他の貴重な資料や素材を持ち去った形跡はないし、調査の為にこのアジトに滞在している忍の姿もない。

 

 …この部屋以外にも、謎の血痕とカブトさんに渡したメスの破片といい、このアジトで一体何があった? 

 

 既に所属する組織は変わり、このアジト自体には私が滞在したことはない…それでもここはハレンチ博士のアジトである以上私にとっての仕事場だ。

 そんな大切な空間で奇妙な何かを起こされているということに気分が害されるのを感じる。

 

 小さくため息を吐いて巻物から一本の刃を取り出す、──ハレンチ博士のアジトに招かれてすぐに造った名も無い失敗作…多由也さんの笛にくっつけて外す様に怒られた刃だ。

 色んな素材や新しい環境に刺激を受けて、際限なく溢れた発想任せに造ったせいで元の笛を活かすことを失念していた、思い出すと少し恥ずかしい失敗作。

 

 …けれどそんな衝動任せな行動を起こす程に、多くの刺激をハレンチ博士には貰った。

 これはその感謝を込めた墓標だ…功績もなく名もない刃で出来た…亡骸もなく名も刻んでいないただの墓標…そんな空っぽな器にこそ、ハレンチ博士への感謝が詰まると信じて手を合わせる。

 

「ハレンチ博士…供養が遅くなったせいでこんなことになって申し訳ありません。どうか安らかに。──あ、それと角都さんに必要なのでお薬、拝借致します、お許し下さい」

 

 ベッドの傍の壁棚に丁度薬があった為それを手に取って部屋を出る。

 いや、やっておいてなんだが…私はハレンチ博士の供養に部屋に訪れたのか遺品の持ち出しに訪れたのか、これでは分からなくなってしまうな。

 また今度供え物でも持って来なければそれこそハレンチ博士が化けて出てきてしまいかねない…まぁ、それならそれでまた会えて嬉しいものだが。

 

 …ご遺体があればいっその事カブトさんから頂いた穢土転生でこちらからハレンチ博士を呼ぶことも出来たやもしれないのだが…そう思えば本当に残念だ。

 一体誰の仕業なのやら…もやもやとした気分になるが私とて刀造りの素材となるなら人のご遺体を持ち出すことだって厭わない…とやかく言う資格はないだろう。

 

 …そんな自覚があるからこそ、なおのことやりきれなさを感じてため息を吐きながら、角都さんの下へ戻るのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 それから数時間後、角都さんにある程度の処置を済ました後に竹林の中の私の今の仕事場に帰還すると丁度リーダーさんから招集が掛かった。

 座布団の上に座りホログラム状の身体で意識だけを飛ばすと既にメンバーの大半が集まりだしていた…幸いホログラム状の姿で投影される都合上衣装を改造したことがバレなさそうで安堵する。

 

 ──さて、鬼鮫さんとイタチさんと思わしき幻影も現れたことでこれで残るはデイダラさんとトビさんだけだが…

 

「デイダラが死んだ、最後は己で大爆発だ」

「っ! …そう、ですか」

 

 デイダラさんがサスケ君と戦いに赴いたのは知っていた…しかし、そうか…

 

「負けて…しまったんですね」

 

 あの人の事は…好きだった。

 自らの芸術に並々ならぬ拘りを見せて、それを周囲の人にも誇示し続ける姿勢は傲慢にも見えるだろうが、物造り家としては尊敬せずにはいられなかった。

 

 それだけにその報告はあまりに残念だった。

 

「まぁでも、最後の自爆でサスケも死んだみたいだよ」

「道連れですか」

「感謝するんだなイタチ、デイダラが命懸けで厄介払いをしてくれたんだ」

 

 …そうか、サスケ君も。

 相討ちなのだから当然とも言えるが知っている人がこうも立て続けに亡くなってしまうとどうしても気が滅入る。

 

 おまけにどうやら爆発に巻き込まれてトビさんまで亡くなっているという。

 あの人とは付き合いが深い訳ではなかったけれど折角同じ組織に所属している以上、今後も長く付き合いたかったのだが…それに恐らくだが彼は私の所持品に探りを入れている様子だったからその真意も分からず終いというのも座りが悪いという意味でもやはり残念だ。

 

「ところで…飛段と角都も見えませんがもしや…」

「あ、それは私が報告します。お二人は木ノ葉の2小隊と交戦し敗北、クシナダの性能テスト中に偶然合流したことで重傷でしたが角都さんは何とか救助出来ましたが飛段さんは残念ながら…」

「そうか、こうも立て続けにメンバーを失うとはな」

 

 リーダーさんも思惑はどうであれ、メンバーの死に思う所はあるのだろう、ほんの少しだが惜しむ感情が見て取れた。

 

「一度に3人…いえ、角都も重傷だと言うのなら4人もですか」

「1人分はサソリをまた使えば良いが…トビはともかく他2人分の穴埋めは難儀だな」

「あ、いえ角都さんはある程度治療出来たので数日程あれば大丈夫そうだとサソリさんが言っていましたよ」

「なに、そうなのか?」

 

 しまった、しまった、重傷を負った角都さんを救助したとだけ説明して以降の出来事の報告を忘れていたせいでつい皆さんを勘違いさせてしまっていた。

 しかし図らずも仲間を失い続けた報告会で良い知らせが出来たのは良い結果になったのかもしれない。

 

「偶然とはいえお手柄ですね村雨。…しかし、治療したとは? 貴女そんなこと出来ましたか?」

「あ、いえ本当に重傷だったので良い薬がないものかとハレンチ博士のアジトに運び込んだのですが、そこで偶然柱間細胞についての資料を見つけたので、同じく偶然私が柱間細胞を持っていたのでそれを採取して点滴として投与したらいい感じに──」

「そうか…俺はもう行く。せめて静かにデイダラと飛段、そして角都を弔うとしよう」

「リーダーさん!? 角都さん生きていらっしゃるんですよ、リーダーさん!?」

 

 どうして角都さんを死んだものとして扱うのか、あとそこまで合同で弔うならばトビさんも一緒に弔ってあげましょうという反論も許さぬままリーダーさんの幻影は消滅してしまう。

 

 ……どうして? 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 報告会を終え、暁のリーダーであるペインは自身の治める雨隠れの里で最も高く建設された西の塔にて自身の右腕であり暁のメンバー、小南と共にある男と向かい合っていた。

 橙色の面で顔を隠した暁のメンバーの1人、トビ──そう名乗っていた男だった。

 

「──では、うちはサスケの事はこちらに任せてもらおう。九尾の方はお前が狩れ、リーダーとして失敗は許さんぞ?」

 

 暁のリーダーに対してメンバーの1人であるはずの男の主従逆転した物言いにペインは静かに頷く。

 それは誰も知る由もない、彼らが表のリーダーと裏のリーダーであるという関係の証拠であった。

 

「話は終わりだ、他のメンバーに残りの人柱力狩りを急がせろ」

「分かっている…あぁ、そうだ、アンタがいなかったさっきの招集で妙な情報が入った、一応伝えておこう」

「なに? ──それはまさか、あの小娘か?」

「うずまきナルトとの戦闘で重傷を負った角都に対し、初代火影の細胞を利用して治療を施したそうだ」

 

 ほんの僅かにだが、面の男が驚愕に息を飲む音がした。

 やがて仮面に手を当てて数秒間考える素振りを見せて彼は決断を下す。

 

「…どうやら、あの大蛇丸でさえも手綱を握れなかっただけはあるようだな──いったいどこまで知っているのか…これ以上はリスクが増すばかりかもしれないな」

「…なら?」

「渦柘榴村雨をここに呼べ。そして人間道の能力で引き出せる情報を抜き取れ…柱間細胞について知っていること、それと穢土転生の術については絶対だ」

「あの術は情報を抜き取ると対象者の命も奪うのだがな」

「躊躇う理由があるか?」

「いいや…何もないな」

 

 自身と同様に冷酷な決断を淡々と下すペインに「それで良い」と満足気に頷くと仮面の男は壁に掛けた暁の装束を身に纏い、ゆっくりと歩き出す。

 

「いよいよだ…我らが目的を達成するのもあと僅か、そうなれば全てが本来の形に戻るのだ。──写輪眼の本当の力が、このうちはマダラの力が」

 

 ──うちはマダラ

 

 告げられたその名に怯えるかの如く、雷鳴が世界を震わせた。

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