雨の降り頻る中フード付きのコートで雨を凌ぎながら周りを見渡す。
色々な里を渡り歩いたつもりだが他の里とはまったく傾向の異なる造りの建物に目を奪われる。
無数のパイプが複雑に繋がった高い塔が幾つも並び一般的な一軒家などはほぼほぼ見掛けない、さながら鉄の森と言ったところだ。
「…雨隠れの里…凄い」
先日の報告会を終えて数日、未だにダメージの残る角都さんの容態を見つつ、久しぶりに落ち着いて刀造りを続けていたのだがある日ゼツさんが庭から生えて「リーダーが呼んでいるから雨隠れの里へ向かえ」と急に伝えてきた。
…リーダーさんからの用ならば何度もやっている遠隔での連絡用の術を使えばそれで良いはずなのだが何故突然? と疑問に思ったりもしたが立場的に断ることは出来ないとゼツさんの案内の下赴いた次第だ。
…何だか妙な感じがするし、移動も楽ではなかったが今まで直接顔を合わせることも出来なかったリーダーさんと会えるというのはまぁ悪いことではないだろう。
急な招集だった為お近づきの品を自作で用意することが出来なったのが残念だが、代わりに道中に菓子折りは買えたし一先ず不足はないだろう。
…しかし、雨隠れの里は火、風、土の3つの大国に囲まれた結果、それらの戦争の地になることも多く内政も安定しない国だと伝えられることもあって事前に買い物をしたのだが…この里の異様さはあるがしっかりとした街並みはとてもそうは思えない程の発展振りだ。
「…あまりキョロキョロするな。天使様の客人と言えど不審な行動をするようなら相応の運び方をするぞ?」
「すみません、独特な景観でしたものでつい」
「ふん、まるで観光気分か? …こんな小娘に天使様は一体何の用なのやら」
入国に当たっての審査と滞在期間中の監視役だという女性に釘を刺され謝罪をすれば呆れた様に鼻を鳴らされる。
「観光は良いですよ。その地域特有の歴史を肌で感じられますから」
「…この里の歴史は戦争の歴史だ」
「そうかもしれないですね。…では今のこの里の様相は戦争を乗り越えて発展を始めた、その不屈の精神の証ですね」
「…ある意味では、その通りかもな。ペイン様は遂に旧雨隠れの残党共を排斥し内戦を勝利に導いて下さったのだからな」
旧雨隠れ? …確かに案内役の女性の額当てには抜け忍の証である一文字の傷が刻まれている。
3国間の戦争の影響か、多くの難民が集まった結果が雨隠れ内でさえ戦争が起きていたということか…身内殺しの里としての歴史を持つ霧隠れの里出身としてはあまり良い気にはなれないが…戦争が終わり、里の人々が往来を行き交う光景が作れたこと自体は良かったのだろう。
「──っと、着いたな」
「これはまた随分と高い」
周囲の鉄塔と見比べても遥か高く聳える塔…ここに暁のリーダーさん、そして雨隠れの里の長ペインさんがいらっしゃるのかと思わず背筋が伸びる。
無意識に身を引き締めていると鉄塔の扉が開きホログラム状で見慣れた姿の女性が現れる。
「っ! 天使様、例の娘をお連れしました」
「ご苦労…ここから私が連れていく、下がりさない」
「ハッ!」
案内役の女性はその命令に即座に従うと一瞬の内に近くの鉄塔に飛び移り、去っていく。
仮にも監視対象である私と上役の人間を2人だけにするなんて本来ならば本人の命令であっても食い下がりそうなものだが、一切そんな素振りを見せない辺りこの方がどれだけ里の者達から崇拝されているのかが分かる。
リーダーさんとツーマンセルを組んでいる暁のメンバーの1人、小南さん。
偽雨の情報では茶屋への来店回数が少なくお茶もお茶菓子の好みもまだ分からない観察対象…クシナダの仕込みには飛行機能を要望する女性。
…
……
………あまりに情報不足では?
「良く来てくれたな…彼が待っている、着いてきなさい」
「はい…あ、これここに来る前に買ってきました。魚と花の形の落雁です。急なご連絡だったのでお店で買った物で申し訳ございませんが、大変美しい出来栄えのものなのできっとご満足頂けるかと」
「…わざわざ買ってきたのか?」
「はい、リーダーさんと直接お会いするのも初めてですから挨拶の品は必要と思いまして心ばかりの物ですが…あ、ひょっとして甘いものはお嫌いでしたか?」
贈り物としてはお菓子が無難だと思って買ったが失敗だったのだろうか。
「いや、いい。花と魚は好きだから」
形で評価された。
……これはもしや小南さんは案外芸術家肌の方なのでは!? 実際髪飾りにしている折り紙のコサージュなんか見事なものだ、機会があれば是非ともその辺りの話もしてみたいものだが…残念ながら今は先行して下さっている小南さんに大人しく付いて行こう。
無数のパイプで壁が出来た独特な内装の塔の階段を上り続ける…これでも大国間を歩き続け、中には平坦とはとても言えない悪路だって踏み越えて体力にはそれなりに自信もある方だがここまで長い階段を上り続ける経験は初めてだ、一段一段上るごとに膝が重くなっていく感覚に襲われる。
一体何時まで…という絶望さえもやがて消え、ただただ無心になりかけた時、風が吹き抜けてくるのを感じて顔を上げると独特な様式だがテラスの様に外に開けた一室に辿り着いた。
壁もなく、外に飛び出した塔の外装を飾る人の顔の装飾が突き出した舌の先に1人の男性が立っている。
──黒い衣に赤い雲模様…今や私も着ている組織の衣装がそれが誰なのかを教えてくれる。
「──初めまして…というべきでしょうか? 本日はお招き頂きありがとうございます。リーダーさん」
外の景色を静かに見下ろし続けていたリーダーさんにこちらから声を掛ければ彼はゆっくりと振り返る──そうすることではっきりと見えた波紋模様の瞳、三大道術でも崇高とされる眼…輪廻眼。
あの六道仙人と同じ眼…直接見るとなおの事、その神聖さをも感じる瞳に心奪われる。
…私の持つ写輪眼全部と交換してもらえたりしないだろうか?
「そうだな。お前の同一体を含めれば3年前から指示を出していたのだが──直接会うのはこれが初めてだな」
良からぬ発想が出てきたが幸いにしてリーダーさんの言葉に意識が引き戻される。
そうか、確かに偽雨のメモにはリーダーさんが彼女の下に訪れたという記述はなかったが彼からの指示で忍具を造っていたという内容は何度かあった。
私としてはその3年間はハレンチ博士の下にいた為実感がないが、リーダーさんからすれば私とは結構な付き合いなのだろうか? と思い改めてリーダーさんの顔を窺う。
年齢は見た限り25~30歳程か…実力者揃いの暁を束ねる人物としては思った以上に若い気もするがそれだけ才と実力、カリスマ性を併せ持つということなのだろう。
他の特徴としては鼻に6つ、両耳に7つずつとかなりの量のピアスを付けている…絶対痛かったはずだ。
さて、あまりジロジロと観察し続けるのも失礼だ、とりあえずどうしても気になることから聞いてみよう。
「──私、何かしてしまいましたか?」
リーダーさんからの突然の呼び出しだったんだ、私としてはそれはもう…絶対怒られるんだろうな、と思ってしまう…が、その一方で怒られる原因に特に心当たりがないのが問題なんだ。
別に怒られる様な事なんて何もしていないはず、という訳では決してない…三尾の欠片をこっそり持っていることやそもそも最初に勘違いを利用していたこととか怒られることは幾らでもあるにはある。
でもその件に関しても今更ながら呼び出して叱責するというのはどうも不自然だ、そのつもりがあったならもっと早いタイミングでお声がけが掛かったはず。
…では直近でなにかあったか? 特にないはずだ。
いや、ある!
そういえば直近で私は角都さんの救出に成功し、治療を成功させた…つまりこれはお怒りの呼び出しではなく、褒賞のお話なのでは!?
なんてことだ、まったくそんなつもりはなかったのだが評価が上がってしまった!
どうしよう、ここはやはりただ角都さんを助けたかっただけですと謙虚さをアピールして更にイメージUPを図るべき…いや、折角評価が上がったのなら少しは欲張っても良いのでは? つまり今こそ輪廻眼と写輪眼の交換の頼み時!?
「そうだな…単刀直入になるが──お前にはやはり死んでもらうことになった」
「──なるほど」
「…大して驚かないとはな…最初から覚悟の上だったということか?」
「いえ、正直ついさっきまでは角都さんの件で評価されてその両目を頂けるものかと思ってました」
「……おめでたさも度が過ぎると言葉を失うな」
心底呆れたと、リーダーさんから殺気が途端に消え失せる。
…もっとも恐らく彼からすれば私程度、"殺そう"と意気込む必要がないからこそなのだろうが…それにしても今になって私を処断する気になるとは、何故こんな唐突にと理解が出来ないが何であれ残念だ。
さて、ここはかなり高い塔の上…おまけにリーダーさんと小南さんに挟まれた状態だ、どう足掻いても逃げられそうにない。仮に逃げられてもここは雨隠れの里、地の利は彼らにある…配下の人間も数多くいるとなれば逃げ切るのはとても出来そうにない。
ならば戦うにしても厳しい入国制限の為に殆どの荷物は置いてきていて持ち込めたのは財布と小南さんに渡した落雁ぐらいだ、勝ち目は無い。
「……一応、聞いておきたいのですが…何故そんなことに? 考え直して頂くことは?」
「…悪いが、答えるつもりはない。お前はもう死ぬ人間だ」
「残念です」
無情な宣告を受けると同時に自らに追従させていた"霊剣・飛過刀"をリーダーさんの喉元へ放つ。
念のために用意していた感知、視認不可の霊体の刃による完全な不意討ちだった…が、その刃がリーダーさんに触れる直前、見えない力によって飛過刀は弾かれ、私の足元に突き刺さる。
「驚いたな。入国時の検査だけならともかく俺や小南にさえ気取られない様に刀を隠していたとは。…実戦経験が足りないのが惜しいな」
リーダーさんの言う通り、霊体の刃故に必要な攻撃時の実体化…それが早すぎたようだ。
勿論、並の忍ならばそれでも大丈夫だったのだろうがリーダーさんはいとも容易く何らかの術で刀を弾き飛ばしてみせた…。その術の発動に印も一切の動作さえも必要としなかったことからしてその術こそが輪廻眼の瞳術なのか?
まぁそれは然して問題なかった、上手くいけばなお良かったが一瞬でも足止め出来れば口寄せの術によって小蜃を呼べば良かったのだが──
「凄い、印もなく攻撃を弾くとは…これが輪廻眼の能力!?」
「なっ!?」
「──あ…」
それを忘れる程にやはりその両眼に魅入られ無意識のまま全力で駆け寄っていた。
気が付けばリーダーさんの肩を掴んでその両眼を覗きこんでいたのだが…幻術の能力があるかどうかは定かではないが写輪眼をも凌ぐ瞳術に対してあまりに迂闊だった。
「──すみません、今のは無しでお願いします」
一度咳払いしてリーダーさんから離れて元の位置に戻る。
…あれ? そういえばさっきは飛過刀を弾いたのにどうして私は弾き飛ばさなかったんだ? 思わずリーダーさんを見てみると驚愕の表情からまた酷く呆れた様な表情を浮かべていた。
「お前は…つくづく調子が狂う」
「……っ!? ──あ…」
妙に脱力した様子のリーダーさんの様子に今なら塔から飛び降りるぐらいは出来るかと思った直後、頭頂部を誰かに掴まれ、それと同時に身体が一瞬で硬直する。
揺らぐ視界に映ったのは橙色の髪と顔にいくつものピアスを付けた、リーダーさんに酷似した装いの方々…それが5人もいつの間にか集まっていた。
だが、驚くべきはそんなことではない、彼らの外見でもっとも重要なことは──
「──そ」
声を出そうとした瞬間、電源が落ちたかの様に意識がプツリと途切れた。
▼▼▼
6体のペインの内の一体、人間道に頭を掴まれたことで瞳孔を開きながら固まる村雨を見て小南はペイン達の中心である天道へ声を掛ける。
「何も6人全員を動かさなくても…」
「…この女は行動が読めん、ついさっきもこの天道のインターバルを初見で潜り抜けてきたほどだ…」
確かにこちらから殺す意は伝えたが、村雨はそれに戸惑いながらも即座に、そして正確に急所を狙って反抗をしてきた上に偶然か、天道の能力の隙を分析もせずに突いて接近してきた。
…かと思えば特に何をするのでもなくジッとこちらを見つめてきた挙句に気まずそうに距離を取っただけという不可解さだ。
「…正直、この女の過去の行動からしてもあまり深読みしない方が良い気もするが…念には念だ」
不可解ではあるが…そんな風に深読みした結果があの"ハレンチ博士騒動"だ、小南の言う通り過剰戦力、"本体"への余計な負担な気がしてならないが、どっちにしても人間道が頭を掴んだ以上はもう済んだことだ。
さっきの不可解な行動も含めて、抜き取れる情報を抜き取ってそれでこの女は終わりだ。
──そう思った直後人間道と繋がった"本体"及びペイン達へ村雨の持つ情報が流れ込んでくる。
『あぁ…これが六道仙人と同じ眼、輪廻眼の能力! もし、もしも刀に利用できたらどんな恩恵が──あ、しまった瞳術相手に眼をジッと見てしまった…どうしよう、写輪眼の様に強力な幻術スキルがあったら…マズい、元の位置に戻れば仕切り直しとかしてくれないかな…』
思った以上に間抜け極まりない行動理由が流れ込んでくる。
(やはり取り越し苦労だったか、もう良い。マダラが言っていた穢土転生と柱間細胞とやらの情報を…ん?)
直近の記憶から更に深い記憶へ踏み込もうとした瞬間、彼女の脳内に鎖状の施錠の存在を感じる。
「…情報奪取の防衛か、やはり多少は身体を弄られてはいるようだな」
忍世界では名のある一族はその一族由来の情報漏洩を防ぐべく生まれ落ちた瞬間、或いは成長の節目で多少の肉体改造、或いは呪印などの手段は常道だ、この女も例に漏れないようだ。
(…かなり厳重な封印だな。人間道に抗う程とは…仕方ない)
本来ならば頭に触れれば望む情報を一瞬で抜き取れるのだが…しかし、別段不都合はない。
狙った情報が抜き取れないのならばそれに当たるまで無作為に引き出せば良いだけだ──と渦柘榴村雨の記憶を片っ端から引き出していく。
──それは想像も絶する程に…言葉を失う記憶ばかりだった。
『柱間細胞…そんなものがあったとは、それにまさかダンゾウさんから拝借した木がそれだとは何という偶然。良し、角都さんはもう経口摂取も無理そうだしこの調合釜で液状にして点滴にしよう。もう他に選択肢もないし一か八だ──あ、何か樹液みたいなのが出てきた…これは…大丈夫かな?』
…この女自身が柱間細胞とやらを適当な知識で使っていた。やっぱり角都は死んでいるのではないだろうか?
『…穢土転生の術、凄い術だけどカブトさんが言っていた様に周囲にバレた時のリスクが大き過ぎる…一先ず必要になるまでは読まずに保管するとして常に持ち歩くのも危険、かといって鍛冶場の箪笥に入れておくわけにも…そうだ! クシナダの中の私の座席に置いておこう! 他の人がクシナダに触れることはサソリさんが絶対許さないし、サソリさんも整備の時以外は私の区画には入らないから完璧な保管場所だ!』
…禁術を椅子の上に放置している!?
万が一にも情報を抜き取られることを憂慮し、必要となるまで自分自身も読まずにおいておくという判断は流石、霧の里の名家出身の判断と言えるがそれ以外の発想が愚かにも程がある。
あまりに杜撰な行動を連続で脳内に叩き込まれて眩暈がしてくるがそれだけではない。
渦柘榴村雨の脳に施された封印のせいで彼女の記憶を片っ端から読み漁ったことで、それ以外の記憶までもが大量に、それも人間道の圧倒的な読み取り速度故に瞬く間に襲い掛かってきた。
『──刀一本如何ですか? 脇差一本、背中に一本、おまけに懐に忍ばせ一本、合わせて三本如何ですか?』
『ハレンチ博士!』
『あ、水月! 久しぶり』
『──先日手に入った毒蟲を短冊街中に散布する』
『お水とお粥をお持ちしました』
『"無限爆刀・蒸気荘怒"──『火遁・蝦蟇油爆弾』!』
『──私が増えた』
『…暁?』
『
『この龍食べる』
『
『私を木ノ葉に連れてって♪』
『──
『"巨大傀儡人刀・櫛儺娜"──飛行形態へ移行!』
『──私、人に点滴打つのも初めてです』
──ろくな思い出がねぇ……