霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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神の慈悲なき決断

 ろくな思い出がねぇ…

 村雨の記憶を読み取ったペインはそのあまりの内容に絶句するばかりだった。

 

 抑圧される里と家のルールからの解放を求め霧の里を抜け出した…その行動はまだ理解も出来る。

 しかしそこから先は雑な目論見と目先の欲に任せた思い付きで突飛な行動を起こしては周囲を振り回し、どういうわけか一人勝ちをし続ける理解し難い光景を見せつけられた。

 

 強いて褒めることがあるとすれば最近木ノ葉に単身殴り込みを仕掛けた挙句にあの志村ダンゾウにやり方はさておき一泡吹かせた点だ。

 

 神としての視点を持った今となってはこの忍世界に平和を齎すべく、個人としては溢れる恨みも消えることのない痛みさえも飲み込み放置していたが、それでもあの怨敵が被害を被ったというは小気味が良いと感じたのも事実だ。

 

 ──だがそれはそれとしてこいつ写輪眼隠し持っていたのかという、別の問題がすぐに判明した。

 しかもその後にも三尾の欠片を勝手に持ち出していたりと暁加入前のあれこれを含めてとにかく問題行動は枚挙にいとまがない。

 

 手癖は悪く、自分本位、目的の為ならば他人を排斥するのに一切の躊躇いはない…組織に置くにはあまりにそぐわない人間性だ。しかし、その一方でそのろくでもない行動に他者を陥れようという悪意は一度もなかった。

 

 全ては自らの作品造りをより極める為という歪んだ向上心によるもので、その為ならば他者を出し抜き、殺め、一尾の人柱力や大蛇丸、あるいはサソリやデイダラといった人の枠組みから外れた者達にさえ心を開く。

 …確かに、サソリやデイダラ、そして大蛇丸が気に入りそうな奴だとは思った。

 

 

 もっとも、そんな行動を繰り返した結果──今、俺の手によって殺されるのだが。

 

 

 

 自らの理想の為ならばどんな犠牲も厭わず実現しようとする…その一点においては同じ穴の狢として共感もしてやる…だが真にその覚悟があるならば、こうして己以外の理想と潰し合う事も理解しているはずだろう。

 

 想像以上に破天荒極まる記憶に面食らいもしたが今度こそ。

 少女の頭を掴む右腕に力を入れた瞬間、新たな記憶の映像が流れだした。

 

 無視して魂を引き抜いても良かったのだが、偶然かそこに映っていたのが見知ったメンバーの顔だったこともあってつい手を止めた。

 

 干柿鬼鮫、霧隠れの里出身の男だ。

 身に纏う衣装が霧隠れの里のものであり、大刀・鮫肌とは違う刀を背負っていることからして彼が里を出る前の記憶なのだろうが──その場の雰囲気は重苦しいものだった。

 

 里内のどこかの地下水路の中、村雨の視点で見る鬼鮫の顔は落胆に満ちていた。

 

『──里の書物庫から巻物が一本消えたと大騒動…まさかとは思いましたがやはり貴女ですか。僅かしか残っていない貴重な二代目水影様の巻物を持ち出すとは…悪戯にしては度が過ぎますね』

『…貴重な資料を置き物して何になるの? 有力なものは使ってこそ意味がある』

『それが限られた者にしか見ることが出来ない物であればある程、それが報酬となった時の価値が跳ね上がる…水影の座についた者の術を授かるなど何人もの忍が命を賭す理由となる』

『勿体ない、私ならそれを利用して更なる刀を造れる…命なんて懸けなくとも何人もの忍が、それを持つだけで強くなるような刀を──そう思っただけ』

『それで? その行動の結果がその掌に乗る小さな蛤ですか?』

 

 鬼鮫の言葉で視点が彼の顔から自身の掌に乗る貝へと移る。

 口寄せ動物の一種…にしても随分と小さい、二代目水影が扱った術というにはあまりに矮小なものだった。

 

『まさか口寄せの術の契約用の巻物だとは思わなかった…でも折角だから使わせてもらった。契約出来たのはこの子だけだったけど』

『口寄せは多くの里で使われるメジャーな術ではありますが、そのイメージと違って大量のチャクラを要する時空間忍術です。随分と割りに合わない盗みでしたね』

 

 そう言うや否や鬼鮫は背負った刀をこちらに差し向け首に宛がう。

 それは自分が知る好戦的な様子とは違う。眼をギョロリと血走らせ必死に何かを確かめようとするかの様だった。

 

『…そういえば、この刀を造って頂いた時に言っていましたね…"ご要望通り、キレーにスパッと斬れる、斬られた相手が痛みを感じる間もなく息絶える様に仕上げた…もしも自分が斬られる立場になってもこの刀ならば受け入れられる程に"…と。どうですか? 本当に今、私に斬り殺されることを受け入れられますか?』

『勿論。今の私に造れる最高の品質、つまりは私の命と同価値の刀なのだから──と、思っていたけれど…ごめんなさい、やっぱり出来ない』

 

 そう言って村雨は蛤を持つ方とは別の手で差し向けられた刀の切っ先を優しく撫でる。

 指先が切れて血が滴り落ちるのを眺めながらゆっくりと言葉を続ける。

 

『至高の刀を造り続ける…その理想の為なら死ぬ覚悟は出来ている。でも今は夢も出来た。かつての戦いで行方知れずとなった"縫い針"、"兜割り"、"牙"、"飛沫"…それに伴い事実上崩壊してしまった忍刀七人衆を私の刀で復興させる…そう誘われてしまって。だから今はもう…こんなところで終わるつもりはありません──私には──』

 

 ──ボクはこんなところで終わるつもりはねーんだ

 

 かつての親友の言葉が脳裏を過ぎった。

 自分が抱く夢を最初に口にした…大切な、本当に大切だった親友も…真っ直ぐ、その言葉を口にしていた。

 

「私には──大きな夢があるんです」

 

 

 突如記憶の場面が変わる。

 地下水路らしき場所からどこかの鍛冶場へ、目の前にいた鬼鮫もいなくなり代わりに白髪の少年が怒りを露わに向き合っていた。

 

 こいつは…間違いない、読み取った記憶の中でもずっとこの女に振り回されてたあの不憫な少年だ。

 鬼灯兄弟の片割れの…名は水月だったか。

 

『バッカなの君は!? 何で七人衆復興計画に誘った即日に書物庫に突撃なんて自殺願望芽生えちゃった訳ぇ!?』

『別に死ぬつもりでやった訳じゃない、水月に頼まれた通り、七人衆の刀にも見劣りしないような…うぅん、それさえも上回る究極の刀を造る為には強力な術について深い知識が必要と思ったから』

『深い知識より先に常識が必要だから!』

 

 この頃から苦労しているなこいつ…そして残念ながら今に至るまで常識を弁えていない事実に気の毒になってくる。

 

『ほんっとに、早くも君を誘ったことを後悔しかけたよ! てか巻物の無断での持ち出しなんてどう考えても一発アウトでしょ、何で生きてんの君!?』

『鬼鮫さんが便宜を図ってくれた。紛失した七人衆の刀に代わる名刀を造ろうと子供が先走ってしまっただけで巻物もろくに扱えていなかった、何よりその犯人が元より里外へ出ることを禁止されている以上持ち出した巻物の情報が漏洩する心配は皆無だと』

『…つまり鬼鮫先輩がフォローしてくれなきゃ死んでたってことじゃん。そりゃ強い刀造ってくれって頼んだのはボクだけどさ、もう少しやり方ってのがあるでしょ』

『…七人衆の刀は正しく至高の作品達…どんな素材を使えば、どこまで技術を高めればその領域に辿り着けるのか分からない。…でも、いつか必ず私がそれを越える作品を造り上げてみせる。──方法よりも大切なこと、要はそれを信じる力が何より大切』

 

 お前…それは…

 そのセリフは…

 

 ──方法よりも大切な事…自分自身を信じる力

 

 今度はいつか自分自身が口にしたセリフが蘇る…が、この女は"己の作品造りの為なら方法は度外視する"という意味合いで方法よりも大切なことがあるのだとを口にした。

 

 かつての自分が意図した意味合いとはまるで違う…だが、今の俺は? 

 この忍の世界の呪いを解いてみせると誓ったあの頃と比べて、自分自身を…師の言葉を信じられているのか? 

 

 信じている。

 尾獣を利用した新たな禁術兵器、その痛みによる恐怖こそが人々から戦いの意志を抑制する、仮に何十年か先にその痛みを忘れ、再び戦争を始めようともその尾獣兵器を使えば真の痛みを再確認する。

 憎しみの連鎖の中に一時の平和を造り上げる…この計画こそが平和を築く方法だと信じている。

 

 だが俺は──そんな確実な方法よりも…もっと信じたいことがあったのではないか? 

 

 

 

 分からない。

 …ただ一つ言えることは──この女の記憶は酷く不快だ。

 こんな記憶をいつまでも覗き続けるのは耐えがたい。マダラから言われた内容の洗い出しは済んだ。

 

 

(もう、終わりだ)

 

 

 村雨の頭を掴む右腕に力を込めて一気に振り上げれば頭の先から足まで半透明な人型、即ち魂そのものが引き抜かれる。それは即ち、この女の死を意味している──はずだった。

 

 魂が引き抜かれた瞬間、村雨の肉体が跳ね上がった。

 あり得ないことだ、確かに人間道の能力は術者と対象の引っ張り合いだ…頭さえ掴まれなければ抵抗することも出来ないわけではない。そして頭を掴もうと魂を引き抜く瞬間は頭から手が離れる…だが、まさかその瞬間に魂を抜かれつつある肉体が動き出すなど到底信じられない。

 

 村雨はまるで昇華する魂を強引に繋ぎとめるかの様に自らの魂に纏わりついて再び取り込んでいき──亡者の如き様相で人間道の腕を掴んでくる。

 

「──そんなにあるなら、お一つ頂けませんか、輪廻眼?」

 

 自来也先生…これでも人は本当の意味でも理解し合えると言えるのか? 

 俺はこの生き物をまったく理解出来ん…

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 目の前が真っ黒になっていた。

 ただどこか、懐かしい夢をいくつか見た様な…そんな気もしていた。

 

 突然自分の中の何かが抜けていってしまうのを感じた。

 今まで積み上げてきたもの全てを刻み込んだ何かが私の中から離れていく──それだけは決して許すなと身体が跳ねた。

 

 絶対に放さない。自分の身体を無数の塵芥だと思い抜けていった何かを包み込むイメージで身体を動かす。

 朦朧とする意識の中でもこんなところで眠る訳にはいかない、たとえ視界が黒く塗り潰されようとその直前に見た光景が衝動となって私を突き動かす。

 

 硬直による痺れが未だに残る腕を動かして藁にも縋る思いで何かを掴む──その瞬間失っていた触覚が蘇り、嗅覚、聴覚も連鎖的に覚醒していく。

 勢い任せに両眼を開けば掴んでいたのは人の腕…リーダーさんのご兄弟らしき1人の腕だ──ならば言うべきことは一つだけ! 

 

「──そんなにあるなら、お一つ頂けませんか、輪廻眼?」

 

 まさか輪廻眼が六人分もあるとは…とても信じられなかったがそれが事実ならばあんな暗闇に囚われている時間も惜しい。

 無理は承知で必死に腕を掴んで頼み込んでみればその方は小さくため息を吐いた。

 

「…お前は、不思議な奴だ」

「え? ──ぐぅ!?」

 

 リーダーさんのご兄弟らしき1人の…長髪の方が目を伏せた直後、傍らに立っていた逆立った髪が特徴の大柄の男性に首を掴まれる。

 その瞬間、彼の背後に大きな顔の怪物が地面から噴き出してきた。

 

「お前は、我々暁を裏切るつもりはあるのか?」

 

 殺すつもりだと言っていたのに謎の問いかけ…真意が気になるがとにかく水化の術で逃れようと思った直後に息が詰まる。

 

「ぅ! …うえぇぇっ!?」

 

 口の中から何かが引きずり出されて怪物に掴まれる。

 何が起こっているのかまったく理解が追い付かないが、舌みたいなものが飛び出して自分がハレンチ博士みたいな様相になっていることは分かる。お揃いになるならもっと別のところでなりたかった。

 

「質問に答えろ、お前は、我々暁を裏切るつもりはあるのか?」

「…ありません、サソリさん、角都さんを始め作品造りに協力してくれる方々がいて、鬼鮫さんもいて…何よりハレンチ博士がいなくなって拠点がなくなった私に仕事場を与えてくれた大切な組織です」

 

 首を絞められ息苦しくなりながらも必死に答える。

 良く分からない問いかけだが状況が状況だ、真っ直ぐ心の内を明かせば謎の怪物はその手を放す。

 

「…どうやら本当の様だな。お前は大蛇丸の腕の封印解除の邪魔をしようと企んだり、三尾の一部を隠し持ったりしていた様だが…それでも組織を裏切るつもりはないと本気で思っているとはな」

「何でその事を!? そ、それは…ハ、ハレンチ博士の件はまだ付き合いの浅い頃でしたので…三尾については…つい」

「そういえば写輪眼も隠し持っているようだな。…輪廻眼と交換してほしいと考えていたそうだが」

「……どうでしょうか?」

「せめて否定をしろ、開き直るな」

 

 そう言われても…リーダーさんと関わりのない頃の、ハレンチ博士の下に入ったばかりの事まで知られている以上記憶を読まれたか、それに近しい何かをされたことは間違いない。

 だとするともう取り繕っても仕方がない、とにかく謎の怪物からも放されたんだ、こんどこそ水化の術で──

 

「では次の質問だ。お前はまた何か…自分の刀造りに暁に所属する以上に役立つと感じるものが目に付いた時、自分は衝動的に我々を裏切ろうとすると思うか?」

「思います──が、精一杯ご迷惑にならない様に気を付けます」

 

 再び謎の怪物に口から飛び出た何かを掴まれてしまった為はっきりとまた答える──と大柄の男性は深くため息を吐いた。

 

「──これで嘘ではないというのだから手に負えん」

 

 首を絞め上げる手が急に離されて尻もちをつかされる。

 さっきから一体何のつもりなのかとリーダーさんを含めて6人のご兄弟をキョロキョロと見渡すとリーダーさんを除いた五名は塔の上へと次々に飛び去って行ってしまった。

 

「…もういい。到底理解は出来ないが…それで良い。アジトに戻って、次の指示までは好きに刀を造っていろ」

「分かりました。…と、ところで輪廻──」

「…やはりこの場で死ぬか?」

「ごめんなさい、ではまた次の機会に…」

 

 ただただ振り回されるばかりだった気がするがこれ以上食い下がると本当に殺されそうだ、引き際は肝心…残念ではあるがリーダーさんの指示に従いその場を後にするのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 村雨が塔の階段を降りて行くのを確認した小南は正面に立つペインの1体、天道へと声を掛ける。

 

「…本当に良かったの? 彼からの指示を無視してしまうことになるけれど…」

「一度は殺した…自力で生還されただけだ。記憶を読んでも奴が警戒するような事はなかったし、地獄道を使っても裏切りの意志がないことは確認できた」

「アナタがどうしてあの子を生かす気になったのかは分からないけれど…彼はそれで納得しないわよ」

「それも問題ない、殺すことはやめたが…その代わりにアイツの管理に必要なものが分かった」

 

 記憶を読み取って分かった…あの娘を従えるのは恐らく無理だ。

 ならば必要なのはアレの行動を完全でなくともある程度予測し抑制できる存在…残念ながらそれが出来るであろう鬼鮫は多くのメンバーがいなくなった今、貴重な戦力…そんな役目には割けない。

 ならば新たに新メンバーとして人材不足を補いつつあの娘を管理できる人物を加えれば良い。

 

 つまり──

 

「──鬼灯水月を新たなメンバーとして勧誘する」

 

 神と名乗る男の無慈悲な決断が下された。

 

 幸い奴はうちはサスケと行動を共にしていた…デイダラとの戦闘位置からある程度の居場所は割り出せる、それに狙いは恐らく鬼鮫の持つ鮫肌ならば、鬼鮫と同じ組織に所属することでいつでも戦いを挑めるという環境には惹かれるものがあるはずだ。

 後でゼツに捜索命令に出す…そう決めると同時に雨隠れの里に密かに踏み込んだ侵入者を感知するのだった。

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