本年も何卒、よろしくお願いいたします。
鮫肌にチャクラを吸われ苦しむ水月が微かに左手を動かすのが見えた。
鬼灯一族の水鉄砲の術──指先だけの僅かな構えで人体を貫く水の弾丸を射出する彼ら固有の術。
自身の腹にめり込む鮫肌にチャクラを吸われながらもその刀身の影を利用し、こちらに気取られない様に術を構えるという肝の据わり様には感心する。
しかし水鉄砲の術はその特性故に不意打ちや他の術との合間の使用に向いた一方で急所を的確に狙わなければ致命傷には至らない術だ、鮫肌がチャクラを吸い続けている今、多少当たったところですぐに治せる。
──避ける必要もない。
ドンッと乾いた音が耳に響いた瞬間に自らの判断を後悔する──鮫肌を封じる手を打ってきた水月と村雨。
彼らの作戦としては当然、あのチャクラを吸えない刀で押し切れるのならばそれがベストだったろうが…あんなものを用意する周到さがあるのならばその刀だけに勝負の全てを委ねるか?
──そんなはずはない。ましてやこうして鮫肌さえも利用して仕掛けてくるのなら…これは直前の起爆札付きクナイの様な苦し紛れの攻撃ではないはずだ!
一瞬でも油断した自身に苛立ちながら、鮫肌を手放して右の掌を水の弾丸へと向ける。
鮫肌に自身のチャクラを喰わせ、それを使い傷を修復したがそれまでの負傷で血に塗れた手であったが故に準備が済んでいるのが幸いした。
水鉄砲の術の弾丸が掌に達する直前に口寄せに成功する。
そこからは凄惨の一言だった。
水の弾丸が身体に打ち込まれた口寄せ鮫の身体から刀身が生え、水風船の破裂の如き勢いで血が噴き出した。
肉を食い破り体内から生えてくる血塗れの刃を見つめ──彼らの狙いにゾッとする。
「──危ないところでした」
自身の足元に転がる胴体から刃を生やして絶命する口寄せ鮫の亡骸を見て咄嗟の口寄せが間に合わなければ自らがこの無惨な死体になり果ててだろうと確信する。
「血を吸収し再生する"断刀・首斬り包丁"の破片を水鉄砲の術の弾丸に潜ませることで相手の体内にその破片を撃ち込む…撃ち込まれた破片は体内の血液を急激に吸収・不完全ながらも刃を再生させ、肉を引き裂き飛び出てくる…手足で防げば壊死、胴体にでも当たれば確実に死に至ることでしょうね」
「……くそ」
こちらが口寄せをする為鮫肌から手を放した隙に拘束から抜け出した水月は忌まわしそうに舌打ちした。
恐らく先程の攻撃こそがトドメの一手として練っていた切り札だったのだろう、それが通用しなかったのだから無理はない。
──もっとも、こちらも盾に使った鮫の肉体を食い破って出てきた刃に脇腹をやられてしまっているのだから相手にとやかく言える立場ではないが。
おまけにこちらが鮫肌を手放した瞬間に屋根から蹴り落とした目敏さにも舌を巻く、おかげで傷の修復も出来ずにいる。
鮫肌が自律行動が可能な以上対応は可能ではあるが、相手がこんな必殺の手段を持っているとなると刀を掴む、即ち印を結べなくなる一瞬の隙が命取りである為油断が出来ない。
当然、そんな素振りは一切表に出さず、むしろ余裕を浮かべて声を掛ける。
「…兄である満月の後塵を拝していたアナタがこうもねぇ…まったくあの娘も大した影響力だ」
「勘違いしないでほしいな。この『斬烈水鉄砲の術』はアイツは関係ない、このボク自身の発想さ」
「クク、それは分かっていますよ。再生能力を殺さないよう調整した破片を確保するのには何度も首斬り包丁を壊して試行錯誤したはず…自ら刀を何度も壊すような発想はあの娘には絶対できませんからね──ただそういう型破りで恐ろしい発想が出てくるのがあの娘の悪影響だと言っているんですよ」
自分の功績だと思われていないことに明らかに腹を立てる子供らしさとそれに似合わない発想に思わず苦笑すると水月も満足気に笑って肩を竦めた。
「鬼鮫先輩こそ恐ろしいことを。それを見切って口寄せの鮫を盾にするなんて酷いなぁ──サスケといい先輩といい、動物はもっと大切にしなきゃさぁ」
「おっと、それを言うならアナタこそ先輩から引き継いだ刀を大切にすべきですよ。再不斬の小僧と村雨が化けて出ても知りませんよ?」
「ハッ何をバカな──」
「──う~ら~め~し~や~…なんてね」
「うわッ!?」
突如屋根からふざけたセリフと共に真っ白の人間が飛び出し水月が腰を抜かした。
──それは普段見る姿とは違う個体だが間違いなく同じ組織に所属する者の姿だった。
想像以上に手応えのある戦いに高ぶっていた感情が急激に削がれるのを感じながらも口を開く。
「何の真似です、ゼツ?」
「やあ鬼鮫、実はとんでもないことに──」
「──な に を し て い る の ?」
「「うわあッ!?」」
突如屋根の端に手を引っ掛けてボロボロの女が掠れた声と共によじ登ってきて一同が驚愕する。
ボロボロの恰好にボサボサの髪…平常から逸脱した身なりと目一杯恨みを宿したかの様な声…あらゆる要素が不気味さを醸し出し亡霊かと思わせた。
足を引き摺りながらもゆっくりとゼツに近づく亡霊の様相に皆、金縛りにあったかの如く動かず見守っているとその女はゼツの両肩を掴み掛かり口を開く。
「──お願いですから…邪魔をしないで下さい…」
「な、なんだよお前!? って、その声…」
妙に掠れた声とボロボロの恰好で気付くのが遅れたが──それが誰か気が付くともはや呆れの方が先にくる…恐らく水月も同感なのだろう、物凄く曖昧な表情を浮かべている。
「はぁ…何をしているのですか村雨、そのボロボロの恰好はどうしたんです?」
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鮫肌と首斬り包丁の気配を感じそちらに向かって歩き続けること暫く、やっと気配の下に辿り着いたかと思ったらどういう訳か爆発に見舞われた。
一体どうして? 何か悪いことをした天罰? 心当たりがない…とは決していえないが爆撃を受けるほどなのか?
姿の見えない神様に疑問を投げかけるも当然、答えはない。
…だったらもう気にしても仕方ない、幸い近くの木が壁になってくれて重度の負傷は受けずに済んだ、というわけ早速水月と鬼鮫さんの状況を確認しなくては──
そうして目の当たりにしたのは体内から刃に貫かれ大量の血しぶきを上げて絶命する口寄せ鮫と、その刃に諸共脇腹を切られた鬼鮫さんだ。
体内から刀というあらゆる意味で衝撃的な光景に一瞬戸惑うもその刀身が首斬り包丁と同一の気配を放っていて合点がいった。
なるほど首斬り包丁の破片を何らかの手段で体内に打ち込むことで直接相手の血を吸収させ、敵を体内から貫くという首斬り包丁の新しい活用法というわけか…。
…そんな凄い発想をどうして私に黙っていたんだ?
私の信条的に刀を自分から壊して破片をストックしておくやり方に異議を申し立てるとでも思われたのか…そんなことはない──とは言い切れないがそれでも首斬り包丁の性能を十全に活かす発想なんだ、私もその新術の開発には混ぜてほしかった…。
疎外感の様なものを感じ今すぐ水月に詰め寄りたいところだがこの勝負の邪魔だけはしたくなくてジッと我慢する。
首斬り包丁の破片を活かした攻撃で水月が優位に立っているかに見えたがどうやら水月もスタミナ切れの様だ。
──二人は屋根の上に立っているが、"鮫肌"も"叢蜘蛛の剣・金雲"も屋根の下に落下している、互いに互いの武器を手放させた均衡状態といったところか…
チャクラ切れ寸前の水月と深手を負った鬼鮫さん。
果たして勝負の行方はどうなるのか、固唾を呑んで見守っていたのだが──突如二人の間に真っ白な人間が生えてきた瞬間に爆発を受けて負傷した身体を無意識のうちに動かしていた。
結果として私も二人の戦いに水を差す形になってしまったが、それでも真っ白な人、ゼツさんに掴み掛かっていると鬼鮫さんから呆れた様子で話しかけられた
「──何をしているのですか村雨、そのボロボロの恰好はどうしたんです?」
「雨隠れの里へ行っていたのですがその帰り道で首斬り包丁と鮫肌の気配を感じたもので…この恰好は何故か先程近くで爆発が起こって…」
「え? あー…珍しいこともあるもんだね…日頃の行いが悪いせいじゃないかな?」
「…やっぱりそうなのかな? あ、水月、それに香燐さんも重吾さんも暫く振りです」
「暫く振りじゃねぇよ! 1人で木ノ葉乗り込んだ挙句暁に加入しやがって…何で生きてんだお前はよ!?」
怒涛の勢いで香燐さんに怒られる…あまり暁で怒られることがなかったせいかどこか懐かしささえ感じるが言われてみればハレンチ博士のアジトに木ノ葉の方々が来てからここに至るまで中々に変遷を辿ったものだ、命を懸ける覚悟で挑んでいたが本当に良く生き残ったものだと今更ながら思う。
──やはり事前の緻密な計算の賜物か…もしくは案外日頃の行いが良かったのか…
「まぁそれはともかくとして…ゼツさんは一体何故二人の戦いの邪魔を?」
「人聞きが悪いなぁ…それにこれはボクじゃなくてリーダーの命令だし、その原因は君だよ?」
「どういうこと?」
思わぬ言葉に首を傾げる。
リーダーさんとは少し前に話し合いをして今まで通りの関係を続ける様に決まったはずだ…それが何故? それに私が原因だとは一体どういう…
「単刀直入に言うね──鬼灯水月、君をスカウトしたい。新たな暁のメンバーとして組織に加わってほしい」
「絶対ヤダ! もうさっきの原因はそいつって話でどういう理由での勧誘かすぐ分かったよ! 絶ッッ対ヤダ!!」
ど、どういうことだ? 何故リーダーさんが急に水月の勧誘を?
水月はリーダーさんの意図を見抜いたそうだがまったく話が見えてこない、慌てて鬼鮫さんの方を向けば妙に渋い表情を浮かべていた。
「あの…鬼鮫さん、一体どういうことですか?」
「さて…私の方にリーダーさんから連絡はありませんでしたから何とも…ただまぁ一つ言えるとしたら──これは確かにアナタに原因がありますかね…」
「どうして…」
「大体ね! 君らの組織があのバカを利用価値があると思って引き取ったんでしょ!? だったら自分達で責任とって面倒みなよ! 思い付きでペット飼おうとする子供じゃあるまいし!」
「そりゃそうだけど…あの子元々は君達のところに帰ろうとしてたけど丁度その時大蛇丸が死んじゃって、君達もイタチを倒す為に移動した訳じゃん…状況的にはボクら暁が保護してあげてたとも言えると思うんだよね。だったら元の飼い主の君達が責任持つのも筋じゃない?」
「そもそもボクはそこの大刀・鮫肌を狙って鬼鮫先輩と敵対してるんだ! 君らの組織とは敵同士、それが何だって君らの組織に加わらなきゃいけないんだ、ナンセンスもいいとこだよ」
鬼鮫さんからも原因が私にあると言われて愕然としている内に水月とゼツさんの言い合いが激化していた。
ペットや飼い主というワードが飛び出しているがさっきの会話からしてペット=私なのか!? 不本意極まりないが、それ以外では正直水月の言い分の方がもっともだとは思う、水月達と暁という組織は敵対関係…それがどうして味方になるというのか。
あまりに無理のある提案だろうと思っているとゼツさんが肩を竦めた。
「まぁそう言われるのは当然だと思ってね──従う理由を用意しておいたよ」
「っ!? 何だこのチャクラは──」
香燐さんのその声と共に突如風を切る音が上空から響き渡り頭上を見上げると巨大な人形が飛来し、その着地の衝撃に吹き飛ばされそうになるのを必死に堪える。
「な、なんだこいつは!?」
「これは──クシナダ!?」
「は!? クシナダって君が言ってた例の巨大傀儡の…完成してたの!?」
「うん、サソリさんの協力のおかげで…だけど何故ここにクシナダが?」
一体どういうことなのか、目の前に着地したクシナダを見上げているとハッチが開き中から1人の人影が出てきた…あれは──角都さん!?
「クク…ククク…柱間ァ! 俺は貴様の景色に今…辿り着いたぞォ!!」
「…ねぇ村雨、あのテンション高い人は誰?」
「角都さん…だとは思うんだけど…あんな人だったかな?」
いや、私が角都さんと関わった時間なんて極僅かだ、任務中は寡黙なだけで案外素は明るい人の可能性も…いやでも空を仰ぎ喝采の声を上げる角都さんを見ると「絶対におかしい」という感情が溢れて止まない。
元気になられたことは実に喜ばしいのだが…ひょっとして柱間細胞を注入して何か悪影響でもあったのかもと思うと不安でならない。
「…サソリさん、角都さんは一体どうしたんですか?」
「俺が知るか、クシナダに乗せて空を飛んだ途端にこれだ」
クシナダが動いている辺り間違いなくいるのであろう方へ声を掛けると別の位置のハッチが開きサソリさんも姿を現した。
サソリさんの反応からしてもやはり角都さんの今の様子は珍しいのだろう…まぁクシナダに喜んでくれている様子なので造った側としては嬉しいものだからよしとしよう…そんなことよりも。
「一体どうしてクシナダをここに?」
「そこの奴を勧誘する為に一緒に来てくれとゼツに言われてな」
「まぁそういうこと…うちは勧誘の相手が応じないなら無理やり従えるのが恒例だからね。デイダラとか飛段とか…あぁ君達もそうだったっけ?」
ゼツさんの言葉にサソリさんもさっきまで歓喜に震えていた角都さんも忌々しそうに顔を顰めた。
…しかしゼツさんの言わんとしていることは大方理解出来た、要するにこの場で従わなければサソリさん、角都さんも含めて水月達の敵になるということなのだろう。
現に水月は勿論、香燐さんも重吾さんも平静を装ってはいるがこの状況に明らかに苦悩している様だ。
1人1人が並外れた戦闘能力を持つ暁のメンバーが4人、ゼツさんは以前に自分は戦闘向きではないと言っていたがそれでもまともに戦って切り抜ける状況ではない。
…かといって悲願の戦いを遮られ、その上で平伏を受け入れるなんて出来ないはずだ。
もっとも、それはゼツさんも承知の上らしく言葉を続けた。
「勿論、君の仲間だってメンバーとして加入させる、そこの彼らを裏切れなんて言わない」
「随分と気前がいいね、余程人材不足な組織なのかな? それともそんなにそこのバカに苦労してんの?」
「さ、さぁ…どうだろーな?」
ゼツさんの顔が途端に曇った…痛いところを突かれたというのがはっきりと分かる程に。
「…ゼツさんって嘘が苦手なんですか?」
「普段のゼツなら黒い方も一緒にいるので問題ないんですがね…交渉事ならアナタの方が余程厄介かもしれないですね」
「恐縮です、ところで──私ってそんなに苦労をお掛けしているんですか? その…迷惑を掛けている自覚は当然ありますが水月どころか重吾さん達まで勧誘するほどに?」
「…コメントは差し控えておきましょうか」
そんなになのか。
正直暁に水月達が加わってくれるのならば私としては願ってもないことだが私が原因で二人の勝負を止めてしまった挙句に双方に苦労を掛けてしまうというのは些か心苦しいものがある。
「そ、そうだ。仮に君達がこの交渉を蹴って逃げたとする…でも確実にうちはサスケは助からない。それでもいいのかな?」
「──チッ、香燐…いいかな?」
「良い訳ねぇだろ! …クソ」
この場にいないうちはサスケ君。
恐らくだが彼一人、別の場所でイタチさんと戦っているのだろう…だとすると確かにゼツさんの言う様に水月達が上手くこの場を切り抜けたとしてもサスケ君と合流するのは不可能だ。
そしてイタチさんと戦っている場に鬼鮫さん達が加わってしまえばサスケ君といえども生き残る可能性は皆無だ…
それ故に…完全に人質を取られてしまっている状況に水月は諦めた様に両腕を降ろしてしまった。
「……悪かったな」
「ったく、サスケの奴…今度これをネタに弄ってやる」
「そう気に病むな二人とも…サスケが勝利し戻ってくれば奴らの前提も崩れる、信じて待てば良い」
仲間の為に、そして私のせいで水月にこの場で悲願を達成するチャンスを手放させてしまった…香燐さんもそれが分かっているのかばつが悪そうに謝罪を口にし、重吾さんもそんな二人を気遣った様に肩に手を置いた。
…気が付けば案外良い小隊になっていたらしい姿に微笑ましくも思うが──その瞬間に乾いた音が再び響いた。
──水鉄砲の術がゼツさんの首を打ち抜いたのだ。
急所を的確に貫かれ、グラリと地面に倒れたゼツさんからつまらなさそうに視線を外して水月はサソリさんの方を向いて口を開く。
「サスケがもし負けていたら素直に君らに従う、そうでなければ好きにさせてもらう…それでいいでしょ?」
「俺と角都はそいつに頼まれただけでリーダーからは何も言われてねぇんだ、好きにしろ。仲間になろうがなるまいが俺個人としてはお前の顔はどうも好きになれないしな」
「なんで今ボクの顔の話になるわけ!?」
ゼツさんが殺されたにも関わらずサソリさんの反応は平坦なものだ…いや、そういえばゼツさんは何人もいるのだったか? ならばその反応も当然なのか?
…それにしても水月とサソリさんが早くも険悪な雰囲気だ、今後の新生七人衆結成の為にも出来れば二人には仲良くしてほしいのだが…
──あぁ、しかし…どうもその事で二人を止める気にはなれない。
やはり私が原因で二人の勝負を止めてしまったことや、その結果私ばかりに都合の良いことが続いて逆にわだかまりが残ってしまった様だ。
…いや、ダメだ。
私の気分はともかく、私の理想にとっては実に良い流れになっているんだ。
──そう、むしろ今この瞬間こそが待ち望んでいた状況ではないか…何せ必要な物も人も揃っているんだから。
「──角都さん、身体の方はもう大丈夫なのですか?」
「あぁ、むしろ心臓のストックを5つ全て埋めている時以上にチャクラの流れが活発だ…正直、腑には落ちんがな」
「それは良かった──なら安心して始められる」
「ん? 何の話だ?」
目の前で横たわるゼツさんの亡骸を跨いで水月達に歩み寄る──厳密には水月の隣にいる"うずまき一族の人間"に…だが。
ボロボロになった暁の装束の内側に隠した巻物に収納していた"仮面"を取り出して香燐さんの腕を掴む。
「香燐さん、恐らく凄く苦しい思いをさせてしまいますが…ごめんなさい」
「は!? お前、何言って!? 何だその気味悪──グアアウウッ!?」
「「なッ!?」」
素早く香燐さんの顔にお面をはめ込むと彼女の全身が青白い炎の様なチャクラに包まれ、痛ましい程の悲鳴を上げる。──そして徐々にその身を包む炎がゆらゆらと揺らめいて人の形を造り出す。
あぁ…あの日からずっと、ずっと…目に焼き付いていた存在が漸く、再び私の前に現れた。
「こいつは…まさか」
「これが例の屍鬼封尽の死神ですか、大蛇丸の魂を喰らったというあの…」
屍鬼封尽の封印を解くにはこのお面を被り、死神を特定の人物を人柱とし憑依させる必要がある…それには多大な負荷がかかるらしいが、この術は元来うずまき一族の封印術だ。
香燐さんならばある程度は耐えられるはず…勿論、急いであげる必要はあるが。
そして死神を憑依させた人柱と死神の意志と身体はリンクし、人柱が死神に自身の腹を引き裂かせれば封印は解ける…当然、身体をリンクさせている人柱のお腹も裂かれるのだが…
「村雨…明らかにヤバそうなんだけど大丈夫なの? 香燐のやつもだいぶキツそうなんだけど」
「問題ない、屍鬼封尽の人柱に負荷がかかるのは分かっていた…香燐さんにその激痛に耐えながら死神を操作してもらう必要はない」
そう、そもそも私がハレンチ博士の下へいった切っ掛けがこの死神なのだ。
だから、そのこの死神を呼び出す方法を知ってからそれに合ったやり方はずっと考えてある。
本来は己の体でやるべきだとは思うが──
「──こうやるの」
死神に憑依され両腕を真っ直ぐ横に広げる香燐さんの右腕に傀儡糸を繋げるとゆっくりとそれを動かす。
肘を曲げて…その掌を口元へ。
そうすれば──ほら、思った通り香燐さんとリンクした死神の腕も動き出した。
そのまま香燐さんの手を操作して死神に自身が咥える小刀を握らせると傀儡糸の役目は終わりだ、あとは──巻物から"霊剣・飛過刀"を一本口寄せすると早く香燐さんを解放する為にも急いで振り上げて──右腕に向かって振り降ろす。
「「ギャアアアアアア──ー!!」」
それは香燐さんか、はたまたその後ろで揺らめく死神か。
絶叫と共に死神の小刀は腕諸共地面に向かって落ちてゆく…が、そんなことは許さない、飛過刀を霊体化させて死神の腕と重ね合わせると実体を持たない存在同士は混じり合いその存在を新たな一個体として昇華させてゆく。
再び実体化させた飛過刀…あぁいや、今やもう新しい刀ならば新しい名が必要だろうか?
新たな存在、新たな忍刀七人衆の一振り…その名は"
再び実体化させて両手に握れば本来の重み以上にズッシリとした重みを感じる。
3年…恋焦がれていた存在を漸く手に出来たからだろう…まだまだ道半ばであるにも関わらず湧き上がる達成感を感じずにはいられなかった。
胸が一杯になって思わず溢れ出そうになる涙を堪えて震える声を絞り出す。
「…ご協力ありがとうございます。香燐さん──死神様」
Happy New Year