霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

95 / 153
激変

 遂に死神の小刀を片腕ごと奪うことに成功した感動に震える心を必死に抑えて頭を冷やす。

 目的を果たしたならば早くお面を剥がして香燐さんを解放し、斬り落とした腕も角都さんに縫合して頂かなくては…

 

「角都さん! 香燐さんの治療をお願いします!!」

「そういうことは始める前に言え!」

「おっしゃる通りです!!」

 

 つい気が逸ってしまっていたので…でもまったくもってその通りだ。

 まぁとにかく遅れた分は急いで取り戻さなくて、早くこの死神のお面を剥がして…

 

 香燐さんの顔を覆うお面を手に取った瞬間──心臓が跳ねた。

 香燐さんの背後、林を挟んだ奥に見える黒い炎…その中心から感じるこの気配は──

 

「──この…気配は…」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 数々の術の応酬の果てに崩れ切ったうちはのアジト、その瓦礫の中心でうちはイタチは目の前に現れた巨大な怪物を見上げて口を開く。

 

「──この感じ、大蛇丸の八岐の術か…」

 

 自身が頼んだ通り鬼鮫が上手く足止めしてくれたのか、もしくはサスケ自身が望んだのか…1人で自分の前に現れたサスケは予想以上に…しかし"想定通り"に強くなっていた。

 特に天候を利用し莫大な大気のエネルギーを使った雷遁忍術…あれは見事だった、国を跨ぎ名を轟かす手練れとて凌げる者は極僅かだろう。

 

 もっともサスケが誰よりもそれを当てたいと望んでいた者──即ち俺自身は"切り札"で防がせてもらったのだが…とにかくサスケの力はもう十分だ。これならば後はこちらがいくつかの仕上げをするだけ…

 そして遂にその仕上げの一つが目の前に現れたと微かに笑う。

 

 8つの頭を持つ大蛇の怪物、それを"月読"と"天照"さえ凌ぐ3つ目の瞳力であり"切り札"──"須佐之乎"の刃で斬り落としていく。

 迫る7つの頭を盾で弾き、あるいは斬り落とし続け、最後に残った頭をジッと見つめる。

 

 それまで一切攻撃に参加しなかった唯一の蛇は空を見上げ口を大きく開く。

 その口の奥から徐々に見えてくる黒い長髪と真っ白な肌…そして大蛇とまったく同じ不気味な瞳──

 

「アハハハ────!!」

「──出るものが出たな…大蛇丸」

「これよ! この時を待っていたのよ! アナタのお陰でサスケ君の抑えの力が消えてくれる時を! ──そして、あの娘とサスケ君のおかげでアナタの切り札が潰れるこの時を!!」

「!?」

 

 想定通り進んでいた計画に突然綻びが生じた。

 狂ったように笑う大蛇丸から視線を離して確認すれば大蛇の怪物の肉体に埋まるサスケの姿があった。

 

「…大蛇丸、まさか──」

「アハハハハ! 私はかつてダンゾウの下…"根"にいたのよ? アナタの秘密を知らぬとでも?」

 

 それは想定通りではあった…むしろ"里の機密を漏洩させる"という脅しが効かない分ダンゾウや木ノ葉の相談役以上に厄介なだけにこの場で処理するつもりだったし、この"十拳剣"ならばそれが可能なはずだった。

 

 だが大蛇丸はそれを知って自身の体をサスケに繋げたまま復活していた、今"十拳剣"で大蛇丸を貫けばサスケも永遠に幻術世界に封じ込めてしまう。

 

 しかし一度として見せていないこの"十拳剣"を大蛇丸が何故知っていた? 

 その疑問が湧くと同時に瞬時にこの刀の存在を見抜いた者と大蛇丸の先程の言葉を思い出す。

 

 渦柘榴村雨──初めて会った時にこの"十拳剣"に気付く素振りを見せていた霧隠れの刀匠の一族の娘だ。

 

(──しまった)

 

 今に至って自らの失敗に気付いた。

 

 あの時、彼女が"十拳剣"の存在を察知したことに衝撃を受けたが当時は彼女が口にしたハレンチ博士という呼び名を自来也さんの事だと半信半疑ながらも認識しており、それが大蛇丸の呼び名だとはまったく想定していなかった。

 それに何より彼女自身が暁と関係を持ちたがっていたことで見逃してしまったが──

 

(俺とした事が…)

 

 それから3年後、少し前に彼女が改めて組織と接触した際に彼女がうっかり口を滑らせて自らの言うハレンチ博士とは大蛇丸ことだと明かしていたというのに、その際に幻術で全ての情報を吐かせたことで"あの大蛇丸をハレンチ博士と呼んでいたこと"や"ノープランで暁を欺いて交渉を謀ったこと"や"木ノ葉に単身乗り込んで屍鬼封尽・解除のお面を持ち出したこと"など頭が痛くなりそうな情報を統括することばかりに意識が傾いてしまっていた。

 

 つまりは最初に自分達と別れて3年間、彼女は再び大蛇丸の下に戻って生活をしていたというのにだ。

 

「クククッ…正直言ってサスケ君に取り込まれることは計算外ではあったわ。だけど彼が私を取り込む瞬間にこの計画を決めたのよ。サスケ君にアナタを、そしてアナタにサスケ君を追い込んでもらい確実に彼の肉体を手に入れる計画をね」

「……」

「その"十拳剣"は私でさえも抗えない。もしも知らずにアナタの前に立っていたなら確実にやられていたでしょうね…しかし、その必殺の剣も状況によっては何の効力も持たない。ククッ皮肉なものね! 私もそうだったわ! だからこそこの計画が始まったのよ!!」

 

 狂気に染まった笑みと共に口の奥から草薙の剣を吐き出し、こちらを睥睨する大蛇丸に気取られない様に策を練る。

 

 チャクラは残り僅か、須佐之乎を長く維持し続ける余裕はない…だがそんな思考を乱す焦りを素早く殺して冷静に観察と分析を進める。

 "十拳剣"の剣の存在がバレていた事は想定外だったが、大蛇丸を引き摺りだした際にこうなる可能性は想定の範囲内だった。それに"十拳剣"による封印が使えないといってもあの"八岐の術"の怪物を切り伏せる事には何の問題もない。

 

 何より復活したと言っても大蛇丸の両腕の封印は残ったままだ、奴の強みである多彩な術も印を結べない以上存在しない、おまけにサスケに取り込まれていた事で手持ちの武器すら限られているようだった。

 …この程度ならばサスケと大蛇丸を切り離し、大蛇丸側だけを封印する…それは然程難しい事ではないと推測した瞬間だった。

 

「──は?」

 

 蛇の口内からこちらを見下ろしていた大蛇丸が、あの男に似つかわしくない"何が起こったのか理解できない"といった間抜けな声を上げた。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 すぐにでも香燐さんを解放しようとする手がその気配に一瞬止まった。

 この気配は間違いない"草薙の剣"だ…それもハレンチ博士が所持していた刀の気配だった。

 

 それが今突然現れたということは──ハレンチ博士は生きていたのか!? 

 

 だがもう一つ分かるのはそのすぐ傍にいる気配だ…これもまた"草薙の剣"だ──だが他の普通の刀とは明らかに違う、今私が手に入れたこの死神の刀と同質の気配。

 だとするならばこの気配は伝説の封印剣、"十拳剣"。

 

 

 

 感動以上に焦りが沸き上がる。

 やはりイタチさんはあの刀を隠し持っていたのか? 

 だとするとマズい! 状況はまったく分からないがハレンチ博士の持つ草薙の剣で"十拳剣"の相手をするのは不可能だ、絶対に勝てない。

 ましてや両腕を封印されている今のハレンチ博士では確実にやられてしまう…

 

 再び心臓が跳ねる音がした。

 両腕が封印されている今のハレンチ博士では? 

 …ならば封印が解けたなら? 

 

 今、私にはそれが出来る。──だがそれには香燐さんに更なる苦痛を…いや! 

 

 あの場で戦っていたのは間違いなくサスケ君とイタチさんだったはず、だとするとこのままではサスケ君とて無事ではすまないはずだ、それは香燐さんとて望まないことのはず──

 

「香燐さん、すみません緊急事態です。サスケ君が危機かもしれません」

 

 いくらうずまき一族の人間とてこれ以上の負担はマズい、それに今私が考えていることをしてハレンチ博士が生き延びたとして…サスケ君の危機の種類が変わるだけかもしれない。

 だからこそ香燐さんの耳元に口を寄せ、彼女に問う。

 

「今、サスケ君の戦っている場でハレンチ博士が復活しました──しかし、恐らく状況はイタチさんが優位だと思います…ハレンチ博士、サスケ君の勝機を上げる為、ハレンチ博士の封印を解く。その為には貴女のお腹を裂く必要があります。──必ず一命は取り留めて見せます…どうしますか?」

「──は、く…やれ!」

 

 やはり…この人は強い人だ…。

 

 香燐さんが微かに頷いた瞬間に刃を走らせる。

 鮮血が舞い、彼女の背後の死神が悲鳴を上げてその腹部が引き裂かれ中から5つの魂が解放された。

 内4つは瞬く間に昇華され、残る1つはやはり、予想通りの方向へ飛んでいく──がそれを見守る余裕はない。

 

「角都さん!!」

「貴様何故今腹まで斬った!?」

 

 緊急事態の為、またしても角都さんに説明もなく始めてしまい叱責されるがそれと同時にすぐさま縫合を進めてくれたことに安堵し、私も急いで香燐の顔を覆う死神のお面に手を掛けると彼女の身を包む青白い炎のチャクラに両手を焼かれる痛みが走る。

 ──ふと、彼女の背後の死神が恐ろしい形相でこちらを睨んでいるのが目に入った。

 

「…ごめんなさい。香燐さんの治療があるので、これにて失礼致します」

 

 最後の最後で断りを入れて香燐さんからお面を引き剥がすと彼女の左手を取って彼女の口元へ運び噛み付かせる。

 噛んだ者のチャクラと傷を回復させる香燐さん固有の治癒能力だが、それは彼女自身にも効果を発揮する。

 

 既に角都さんによってお腹も右腕も縫合手術は完了し、更にその能力によって傷口も完治に成功する…これで一安心だ──

 

「す"い"け"つ"──ー!! そ"い"つ"マ"ジ"でふ"ん"殴れ"──ー」

「お任せ!!」

 

 香燐さんのガラガラの絶叫と共に脳天に首斬り包丁の面が振り降ろされた。

 頭の中が大きく揺らぎ、目の前が真っ白になる…これが首斬り包丁の重み…

 

 未知の感覚と香燐さんへの罪悪感、ハレンチ博士達への心配、そして"死神の小刀"を遂に手に入れた多幸感…あらゆる感覚が混ざり合いながら意識を手放した。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 サスケ君が反旗を翻したあの日…大事な転生先の器を壊してはならないと"壊刃・遺骨"を振るえぬまま成す術なく逆に取り込まれたあの時から練っていた計画が遂に実を結んだ。

 あとはイタチがあの須佐之乎という術を維持出来なくなるまで確実に消耗させる…まずはサスケ君を切り離す術を考えているであろう隙に斬り落とされた7つの頭を再生させて…そう思っていた時だった。

 

「──は?」

 

 常に激痛に苛まれていた両腕に違和感を覚え、指を、腕を動かして確信する。

 

「…戻った…わ?」

 

 あまりの予想外の事態に脳で確信した事実を実感出来ずに声に出してしまう。

 

 屍鬼封尽の封印が破られ両腕が解放された? 

 何故今突然に? 誰がどうやって? 

 

 あらゆる疑問が先程自分が口にした娘に帰結する。

 私のアジトをこそこそと…本人的には思っているだろうが傍目からではあまりに堂々と漁り回して、遂には突然1人で屍鬼封尽の封印を解くお面を取りに行くと自白と同時に木ノ葉に乗り込んでいった大馬鹿者…いや、狂人がいた。

 

 だがまさか本当にたった1人であの封印を解いたというの? 

 それもこんなタイミングで? 

 

「フッ…ククッ…アハハハハッ!! まったく、どこまで楽しませてくれるというの!」

 

 全てを蓄積し積み上げていく私のやり方とはまったく違う、全てを巻き込み搔き乱す破天荒なやり方…そんな馬鹿な生き方はたとえ全てを蓄積し、完璧な自分に至れたとしても絶対に出来ない…というよりもやりたくない。

 …だが、その"違う生き方"の先を見てみたい。

 考えなしの行動をこちらが見逃してやらねばならない程愚かならば価値がないと思っていた…だがいつからか、あの"生き方"の果てがどの様なものになるのか興味を惹かれ、あの娘が次に何をしてくるのか期待する様になっていた。

 

 そして今、新たな考えが沸き上がる。

 あの娘に協力すれば…まだまだ楽しませてくれるというの? 

 それこそ良質な素材を鍛え上げ形にする刀匠の様に…心惹かれるものを衝動のままに磨き上げれば一体どんな作品に仕上がるというのか…

 

 

 ──あぁ、そういう意味では…消してしまうには惜しい素材がもう一つあったわね。

 

 

 天才と謳われた自分が惨めに思える程の才覚を見せ始め…それでもまだ真実を何も知らず、完成には至ってはいない未完の作品が今ここに…。

 ふと視線をそれに動かした瞬間、身体が硬直した。

 

 

 ──幻術・写輪眼

 うちはイタチの持つ最強の幻術"月読"には遠く及ばないが、うちは一族固有の強力な幻術だ。

 

「……何のつもりだ?」

 

 イタチが疑う様な眼でこちらが見ている。

 その眼はかつてどうしても欲しいと望んだものだが…今となっては然程でもない。

 

「…両腕の封印が解けたようだが、隙だらけだった。…何故だ? 何故今、ワザと俺の幻術を喰らった?」

「ククッ、流石ねイタチ」

 

 まさかワザと隙を見せたことを見抜かれるとは、ここに至ってその冷静さ…その真の意味での瞳力。

 先程まで薄れていた興味が再び惹かれるのを必死に抑えて真意を明かす。

 

「…この幻術空間ならば、盗み見している奴に気付かれずに話せるでしょう?」

「…ゼツのことか」

「リーダーの差し金かしら…それとも他に誰かいるのか。ともあれアナタの亡き後、残されるであろうサスケ君は無事では済まないわよ」

 

 イタチは暁の中でもかなりの実力者、それを打ち倒したとあれば暁としても放置は出来ない。

 勿論、イタチを倒したサスケ君がその後も暁とまだ対立関係を維持するかは分からないが、目的を果たしイタチを倒した功労者として木ノ葉へ迎えられれば本人の意志に関係なくそうでなくてはならなくなる。

 その可能性を思えば暁がここで放置はしない、仮にしたとしてもダンゾウを含めて彼への危険はまだまだ続くことだろう。

 

 だからこそ──

 

「──ねぇイタチ。私と組まない?」

 

 未完の作品のその先を見る為に、目の前の男にそれを告げるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。