雨が降る中、瓦礫の山と化したうちは一族のアジトの跡地で1人の男が立ち尽くしていた。
「これは…どういう事だ?」
振り返ることなく自身の背後の地面から生えてきた人外の者、ゼツへと問い掛けるかつてトビと名乗ってした男、うちはマダラのその声は不機嫌な感情を露わにしていた。
彼は先程までうちはイタチとうちはサスケの殺し合いが終わるまで、彼らを追って迫っていた木ノ葉の小隊を相手に時間稼ぎをしていた。
そして遂に、彼らの戦いを監視していたゼツからうちはイタチの死亡の報告を聞いて飛んできた。
──だが辿り着いた時にはうちはサスケの姿がないどころか、うちはイタチの亡骸さえも消えていた。
…うちはイタチの敗北は予測していた。
彼の抱えた重度の病、事情、あらゆる要素から彼がサスケを殺す事なくこの場で死ぬことは分かり切っていたが…その代わりにうちはサスケに更なる飛躍と大蛇丸の呪印からの解放を促す為にサスケもかなりの疲弊するまで追い込むつもりだったはず。
少なくともイタチに勝利した後、サスケがイタチの亡骸を抱えてこの場を立ち去る余裕などないはずだ。
「…ゼツ、一体どういう事だ?」
「ボ、ボクにもサッパリ…あの時、サスケから出てきた大蛇丸がイタチの幻術を喰らって倒れて…その後気絶していたサスケから目を奪おうとしたイタチが力尽きて倒れて…」
「…待て、幻術を喰らった大蛇丸はどうなった? イタチが死んだ以上幻術が解けるはずだ」
「イヤ、奴ハ幻術を喰ライ倒れた時ニ近クノ天照ニ触レテシマッテイタ…幻術デ硬直シテイル内ニ全身黒炎デ燃エ尽キタ。生キテハイマイ」
ゼツの報告にどこか違和感を覚えマダラは仮面に手を添え考え込み──違和感の原因に思い至る。
「大蛇丸はかつてイタチを狙い返り討ちにあった…奴が容易に再び幻術を喰らうとは考えにくい、勿論イタチ相手では絶対とは言い切れないが須佐之乎まで使ってしまっていたのなら最早イタチにそこまでの余裕はなかったはずだ…大蛇丸にどこかおかしな様子はなかったか?」
「──ッ! ソウイエバ…突然"戻ッタ"ト」
「戻った? …まさか、両腕の封印が?」
大蛇丸の両腕の封印が解けたのなら、奴の数多の術が復活する…だとすると黒炎から逃れることさえ可能かもしれない…もしもそうだとするとこの状況は生き残った大蛇丸がサスケと、亡骸となったイタチを持ち去ったのか?
あの大蛇丸が遂に写輪眼を手に…それに奴は暁の情報を握っている、面倒な事になるかもしれないが…そもそも何故このタイミングで大蛇丸の両腕の封印が解けた?
「──まさかあの小娘か…」
屍鬼封尽の死神を狙い木ノ葉に乗り込み、その面を持ち出した渦柘榴村雨の事を思い出す。
奴は信用できないとペインに始末を命じたが、少し前にペインの方からあの女の処分は取り止める、それどころか奴の仲間を新たに引き入れる様にゼツに命令を出したという連絡が寄越されていた。
あの小娘が生き残ること自体は大したことではないがペインがこちらの命令に背いたことの方が厄介だと思っていた…大切な外道魔像とリンクした男だ、万が一にも離反されてしまっては本来のシナリオに支障をきたす。その代わりと成り得る存在として、やはりうちはサスケを引き込まなければと思っていた矢先にこれとは…
ペインの命令無視
大蛇丸の完全復活
そしてうちはサスケの消失…計画が一気に崩れ始めている予感に苛立ち以上に困惑が走る。
これ程の事態がこうも連続して起こるのか?
まさかこの事態は全て一連の計画だとでも言うのか?
「…確かあの小娘の味方の…鬼灯兄弟の片割れの勧誘に白ゼツを一体向かわせたと言っていたな? そっちはどうなった?」
「それが…鬼鮫と戦闘中だったのを止めに行かせたんだけどそれきり連絡がなくて…」
「恐ラク、ヤラレタナ」
そちらも失敗か、だが村雨が既に暁に加入しているにも関わらず村雨の仲間である者が勧誘を断ったということはどういうことだ?
…いや、待て。ここまで完璧なタイミングでの大蛇丸の復活と封印解除、最初からこれが狙いだったのではないか? 大蛇丸と結託し、イタチと引き合わせた瞬間に封印の解除を、隠れ蓑とした暁から脱退を…だが、以前に幻術で奴からの情報を引き出した時はそんなことは口にしなかった。
ではこれは偶然なのか? …偶然であのペインから見逃されるのか?
…全く読めん、だがいつまでもここに残っていてもその内木ノ葉の小隊とまた鉢合わせするだけか。
幸い奴との関わりが深い鬼鮫がこちら側であることは誰にも知られていないはず…まずは鬼鮫と合流しこちらの正体を明かしつつ情報を共有しなくては…
▼▼▼
パチパチという小気味の良い音色とじんわりと温かい…いやヒリヒリと肌を刺激する熱に目を開く。
何とビックリ、腰の辺りを縄で縛られ仰向けに、そしてお腹に刀を乗せた状態で木に吊るされブラブラと揺らぐ背中に当たるか当たらないかギリギリの規模で燃える焚火に炙られていた。
「これは…一体」
「気が付いたかこの刀バカ」
「香燐さ──え?」
怒りに染まった声の方へ目を向けるとお面は剝がしたはずなのに般若を彷彿とさせる表情を浮かべた香燐さんが私の鎚を握りしめ仁王立ちしていた。
…ふむ、仰向けに火の上に吊るされた私とその上に刀…そして怒りを露わに鎚を振り被る香燐さん…この状況はつまり…
「そんなに刀に夢中ならテメー自身の身体で刀を造ってやらぁ!! ついでにその狂った性根も叩き直しやがれ!!」
暴力反対!
という言葉はこの場で私こそが最も口にする資格がない為言いはしないが…とはいえこれでは性根が叩き直される前に死んでしまう。必死に身体を揺らして振り降ろされる鎚を回避するがその度に背中に炎が当たり身が焼かれる…それに大きく動くとお腹に乗った刀が炎の中に落ちてしまう、何と言う拷問かと戦慄するが、それはそれとして香燐さん自身の能力と角都さんのおかげで腕もお腹も治りこうして元気な様子が見られるのは喜ばしいことだ。
…あとは、私が無事にここから切り抜けられれば良いのだが──救いを求めて周囲の様子をちらりと窺う。
どうやら私が気絶した場所からどこかの森の中に移ったらしいが、その場に居合わせた人達は皆変わらずに揃っている…勿論、水月達と暁の方々で一定の距離を保ったままではあるがこの場で争う気はなさそうだ。
ただ水月達も鬼鮫さん達もどちらも香燐さんを止める気はないらしい…実際のところ今回の一件に関しては私が悪いのだから当然ではあるが…しかしそれでもこの場で撲殺されるわけにはいかない。
このまま身体を揺らして背中に炎を掠めて…よし、身体を縛る縄に着火した!
皮膚を焼かれる激痛を歯を食いしばり必死に堪え、縄が焼き切れた瞬間に即座に体勢を整えながら焚火の中に着地し一気に炎の外に転がり出るとそのまま何度も横転を繰り返して炎を揉み消す。
「…逞しいな、アイツ」
「鍛冶屋だからな、炎と向き合う経験は人並み以上なんだろ…いや、炎の中に全身で突っ込んだ経験はないと思うが」
「炎に全身を突っ込んだことなんてありません…爆発を爆炎と捉えるなら何度か…」
「逞しいな」
おかしい、逞しいという言葉は本来褒め言葉に該当するはずなのに何故かそういった感情を一切感じられない…いや、今はそんなことよりもすべきことがあった。
改めて香燐さんに向き直り深く頭を下げる。
「申し訳ありませんでした、香燐さん。死神の憑依とその後の肉体切断…あまりにもご迷惑をお掛けしました」
「申し訳ないで済むか! 今までも散々振り回されたが今度という今度ばかりは許さねぇ! 最低でもウチと同じ苦しみを味わってから──」
「ごめんなさい、香燐さんと同じだと腕の負傷が大きいので困ります。他のことでしたらどの様な罰も受け入れますので──」
「知るか! 人様の腕斬り落としておいて自分の時はやめてとかどんだけ身勝手なんだテメー!」
「まぁ落ち着きなよ香燐。そいつの身勝手は今に始まったことじゃないんだからさ」
怒涛の勢いで怒りを露わにする香燐さんに対して膝を着いて深く下げていた頭をいよいよ地面に当てて謝罪した直後に意外なことに先程まで"魂刀・屍鬼切"を観察していた水月が静止を掛けた。
「甘ぇこと言ってんな! ウチこいつに腹まで斬られたんだぞ!?」
「キツいこと言ってこれが反省するならとっくにまともになってるよ。それに…一応こいつには刀を造ってもらわないとそれこそ今までの苦労もあったもんじゃないんだから、他の罰は何だって良いけど腕ぶった切るのはやめてくれよ」
「他に罰って…こいつ刀造りに影響ない罰じゃ欠片も堪えるイメージがねぇんだよ!」
「…そうでもないさ」
ふと、水月がいつになく静かな様子でそう言った。
いつもと様子の異なる仕草にどの様な罰でも受け入れると言った先程の言葉が少し不安になる、一体どんな事をする気なのか? 内心で身構えた瞬間に──水月が手にしていた物を投げ渡された。
「──え?」
それがどういうことなのか。
意図は伝わったが理解は出来なかった。
──どうして、漸く手に入れた死神の力を宿した刀を興味もなく投げ捨てた?
「…どういう事、水月?」
「そいつは要らない。仮にも仲間を裏切って造った刀なんて使いたくなくて当然でしょ…ま、このボクがこいつらを仲間だとか言うなんて柄ではないとは思うけどさ」
「…あ、……ぇ…」
言葉が…何も出なかった。
分かっている。
今回の一件は香燐さんに対し悪意が無かったとしても許される程度を越えていた。
許されなくて当然であり、この場で香燐さんとの関係が修復不可能になることも考えてはいた。
そうなっても構わないと思っていた。
大切な事は屍鬼封尽の死神の力を手にすること…そしてその為の人柱としてしまう香燐さんの命の保証だけ。
角都さんの縫合能力と香燐さん自身の生命力と治癒能力…それがあれば死に至ることはないという算段があった、途中死神の──即ち香燐さんのお腹まで裂いてしまうことになったのは想定外であったがその算段自体に狂いはなかった。
だからそれで良いと思っていた。
勿論、許されるのならば香燐さんとは今後も良い関係を続けたかった…それが可能なら一番だ。けれど…もしそれが叶わないなら仕方ない。
その代わりせめて彼女が望む報いは…刀造りに支障が出ないことならば受け入れるつもりだった。
しかしそんな私の考えは…どうやら致命的なまでにズレていたらしい。
香燐さんの腕を、お腹を斬って目的の物を得るというやり方に対する忌避感は造られた刀そのものにまで波及し、本来それを手にするはずだった水月から返却される迄に至ってしまった。
…3年間追い続けた最高の素材…それを遂に手にした果てがこの様な事になるとは…そしてその原因は私の行動なのだ。私のやり方が悪かったせいで折角優れた性能を持って生まれたこの刀を貶めてしまった。
自分の行いが如何に愚かだったのか…漸くになって理解した。
「ごめん…なさい、ごめんなさい」
"魂刀・屍鬼切"を抱きしめ、罪悪感に打ちひしがれながら絞り出した声は自分でも分かる程に震えていた。
「──なぁ、あのごめんなさいはウチに対してか? 刀に対してか?」
「どうだろ…まぁ今回ばかりはちゃんと堪えたことは確かじゃない?」
「いやでもこれ結局ウチ腕と腹斬られ損だろ?」
「うん、そうだね」
その通りだ。
"魂刀・屍鬼切"は使われず、これではただ香燐さんを無意味に傷付けただけだ。
「皆落ち着け。村雨、香燐から聞いたがサスケが戦っている位置で大蛇丸が復活したというのは本当なのか?」
「……確実とは言えませんが…突然ハレンチ博士の持つ草薙の剣の気配が出現したので間違いないかと」
「もし本当に大蛇丸が復活したなら転生の器としてサスケは必ず守るはずだ。既に一度破られた転生の術を再びサスケに使うかは分からないがな…。とにかく屍鬼封尽を解除した事が無駄かどうかはサスケの無事を確認してから決めれば良い」
「ふん、サスケがホントに無事だったら腕の事は前払いってことで許してやらぁ」
重吾さんの仲裁、そして香燐さんの言葉に沈みかけていた意識がほんの少しだが楽になる。
「香燐さん…ありが──」
「待て」
鼻を鳴らして不機嫌そうに…しかしそれでいて寛大な香燐さんにお礼を口にしようとした瞬間、気が付けば傍に立っていた角都さんに呼び止めれ、その突然の事にビクリと肩を跳ね上げる。
「例の"魂刀・屍鬼切"とやら…そいつらが要らんというなら俺が貰う」
「…あの、ひょっとしてどこかの忍具屋に売ってお金にするつもりですか?」
水月が使う気がない以上この子を求めてくれるのは本当に嬉しいが角都さんの性格上そのお求めの目的が果たして"どちら"なのか読めずおずおずと返事してしまう。
昔霧の里にいたころに造った刀をただ使って貰えればそれで良いと安値で売っていたら買った人が密かに小国に売り捌いて利益を得ていて最終的に追い忍衆に殺されたという私も怒られてしまった一件を思い出してしまう。
「勘違いするな使うのは俺だ。屍鬼封尽と言えば大蛇丸の木ノ葉崩しの折に三代目火影が初代、二代目火影の魂を封じた術だろう…あの柱間を破った術の刀…金は惜しまん、言い値で買おう」
「え…あ、…その、私は良いので今回の功労者である香燐さんに」
「そうか。そこの女…望むだけ言え」
「え? ──じゃ、じゃあ…さ、3億?」
「3億…地陸10人分と言ったところか、安くはないが柱間の魂をも封じる術と考えたら悪い取引ではないな、謙虚だな小娘」
誰だ?
知らない名前だが誰かがお金の単位として使われているのだが色々な意味で大丈夫だろうか?
「さ…3億、そんなにあれば今のよりもっと良い香水も買い放題、今度こそ寝込みのサスケを…いや、それこそサスケが勝って帰ってきたらもうアイツも目的ないんだし豪邸を構えて二人っきりで…ウヒヒ」
謎のお金の単位に些か倫理観というものが不安になってくるが何だか香燐さんも大金が入って嬉しそうだし水を差すこともあるまい。それに考えてみれば私が言えたことでもない、気にしても仕方ないだろう。
「え? 金であっさり機嫌直すの香燐? そんなあっさり直るんならボクの方が刀手放し損じゃない?」
「そこは大丈夫、確かに私としても水月に使ってもらう予定で造ったつもりだったけど、これはこれで悪くない…だって──」
そう、私の行いは悪いことだったかもしれないが、今の流れは悪い訳ではない。
なにせ角都さんがこの"魂刀・屍鬼切"を購入するということはつまり──
「新生七人衆のメンバーがまた1人埋まった!」
「だから! 暁のメンバーを当然の様にボクの新生七人衆に加えるのやめてってば!! てか"また1人"ってこいつの前の1人誰なの!?」
「え? ──あぁ、サソリさんの事。こちらの赤い髪の方」
「だからそいつも暁のメンバーじゃん!」
そうは言われても…現状新生七人衆の忍刀の一振り"巨大傀儡人刀・櫛儺娜"の運用はサソリさんにしかできない。
理想としてはおいおいメンバー内や後継者達に傀儡糸の極意を広めていきたいところだが──
「おい、俺達も聞いちゃいないが新生七人衆ってなんの話だ? 名前からして霧隠れの忍刀七人衆のことか?」
「そうでしたか? てっきり幻術を掛けられた時にその辺りのことも話したと思っていたのですが…」
「幻術で口を割られることを前提に生きてんじゃねぇよ」
いやそういう訳ではないが…てっきり幻術で情報を吐かされた以上その辺りのことも抜かれているものかと…そう言えばあの時私に幻術を掛けたのはゼツさんが化けたイタチさんだったな…やはり本人でないことでいくらか幻術が劣化しているのか? それとも幻術を掛けることに不慣れで情報の吐かせる当たっての質問が下手だったのかもしれない。
ともあれそういう事ならば改めて話しておいた方がいいだろう。
「すみません。それで…忍刀七人衆の刀はほぼ全てが里外に流出し、その在り処も最早不明…その為私の造る刀とより優れたメンバーで新たに部隊を結成する…それが私と水月の目標です」
「"クシナダ"も"屍鬼切"もその刀の一部という訳か…で、使いたければその新生七人衆とやらに加入しろと?」
「そうですね。…ただ"クシナダ"に関しては組み立てたのはサソリさんですし、何より制御パーツにサソリさんの傀儡を使っていますのであくまでお願い…という形ではありますが」
「いやだからね、暁のメンバーをボクの部隊に入れないでって…大体今は休戦中だけどサスケが戻り次第また敵同士になるんだよボクら」
確かに…ゼツさんが持ち掛けたのは水月達が暁に降らなければサソリさん達がイタチさんの増援に向かうという内容だった。
つまりサスケ君が自力で戻ってきたらその交渉は無意味…再び水月達と鬼鮫さん達は敵対する訳だが──
「でもその場合はイタチさんを倒し終えた以上サスケ君側が暁の皆さんと対立する必要もなくなる。だったらリーダーさんが仇討を求めないのなら争う必要もないのでは?」
「え? …いやでも仲間やられたんだからケジメはきっちり取りに来るでしょ…ねぇ?」
「当然だ。──だが、どういう訳かリーダーの野郎…ゼツや俺達を使ってお前らをわざわざ勧誘させる程だ。もし、万が一にもイタチがうちはサスケにやられたとして、お前らがこれ以上組織に敵対する気は無く、むしろイタチが抜ける穴を埋めるってんなら…もしかするかもな」
「ねぇ何でそんなボクらの受け入れ態勢が出来上がってるの? てか君らは七人衆に加入するのはアリなの?」
少なくとも暁側は状況次第では受け入れ可能という喜ばしい返答に何故か顔を蒼ざめさせた水月が今度はサソリさんと角都さんに問いを投げる──不思議なことにそれは確認というよりも縋りつく様な必死な様子だった。
「…霧の七人衆に興味はねぇ。そもそも俺達が五大国の部隊に所属出来るはずもねぇだろうが」
「だ、だよね。ほら聞いた村雨。何とか刀返してもらって別の人探そう」
「──もっとも、三尾を捕獲して暁のノルマも終えている以上暇ではあるがな…万が一、お前らが霧の連中を黙らせるってんなら…考えてやる」
「嘘でしょ…何で割りとノリ気なのこの人…」
「言っただろ、暁でのノルマを終えて暇だから先の目的が欲しいだけだ。──芸術家ってのはより強い刺激を求めていないと感情が鈍っちまうものらしいからな」
妙に実感の籠った言い方が少し気になるところだが、ひとまずサソリさんの勧誘は大きな課題は残るが成功したのでまずはそれを喜ぼう。
そしてそうなると次は角都さんだが…
「生憎だが…俺は本来チームワークなどというものに縁遠い人間だ。忍刀七人衆などという一つの部隊に属するなど俺の好みの仕事ではない。…それこそ、他のメンバーの心臓を抜き取ることになるやもな」
「ぶっちぎりで同じ部隊にいてほしくない人なんだけど!?」
「…だが、そのチームワークとやらを我慢すれば、この"クシナダ"や"屍鬼切"を扱えるというなら…忍び耐えるのも悪くない」
「だからなんでそうなるの!?」
おぉ…まさか角都さんからも良い返事を貰えるとは予想外ながらも嬉しい限りだ。
それにしても…最初は水月達の勧誘にサソリさん達が来たはずなのに気が付けば私の方が彼らを勧誘している。
──これはいよいよ交渉役としての才能も開花しているのではないだろうか?
確かな自信と手応えを感じて、思わず拳を握り絞めていた。
…あぁ、そうだ。
そういえばもう一人、この場で勧誘しておきたい人がいるのだった、この勢いに乗って誘っておくのが良いだろう。
「──鬼鮫さん。良ければ鬼鮫さんも水月が発足させる新生七人衆に改めて加入されませんか?」
鮫肌を抱えて木に凭れながらこれまでのやりとりをずっと静観していた鬼鮫さんに声を掛ける。
昔からずっと計画していた七人衆復興だが、やはり以前の七人衆を詳しく知る人がいないというのは悩ましいものだ、だがもしも鬼鮫さんが加わってくれれば知識も実力もこれ以上ない存在だ。
「悔しいですが、鮫肌ならばそのまま流用も可能ですし、お望みならそれ以上の刀をいつか私が──」
「……冗談じゃない」
是非ともどうか…そう思いながら紡いだ言葉は酷く恐ろしい──冷たい声に遮られた。
一瞬、それが誰の声なのか分からなかった…それほどまでにその声は目の前の人物の聞き慣れた声とはかけ離れたものだったから。
心臓を鷲掴みにされたかの様に呼吸が止まり、背筋を凍る感覚に襲われた直後──鬼鮫さんの傍らの空間が渦巻いた。
黒い小さな点を中心とした黒い渦…それがやがて収まった時1人の男性がそこにいた。
橙色の渦巻模様のお面をした暁の装束を身に纏った男性…その特徴は紛れもなく──
「トビさん…生きていたのですか?」
「トビか…別にその名でも構わんが…それは最早かつての名だ、改めてここに名乗っておこう」
改名?
一部の魚は成長…所謂出世によって名を変える種類のものもいるが…いやトビさんは魚じゃない人間だ、だがトビという名前が暗部などの何らかの役職で与えられる名なら同じ様に出世したり仕事内容の変化で名も変わるか…だとすると本人は構わないと言っているが新しい名で呼ぶ方が無難だろう。
では一体なんと呼べば…トビさん改め何某さんの新たな名は?
名乗りを待つ私達に告げられた名は──想像もしないものだった。
「俺は──うちはマダラだ」
うちはマダラ
──古き忍界大戦にてその圧倒的な力で名を馳せて…その末に初代火影の座を懸けて千手柱間と争い果てたと伝えられる伝説の忍、目の前にいるこのお面の男性が──そうだというのか?
あり得ない、だが…だとするとこれは──
「かの終末の谷の石像の出来栄えを確認したいのでお面を取って頂くことはできますか!?」
──これはとんでもないことになった!