裏テイワットガイド 〜水元素限界記〜   作:モンロー

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慶雲頂登ってるときに閃いたので殴り書き。
バーバラってアイドルアイドルしてるかと思ったら、ストーリー見ると意外と喜怒哀楽ハッキリしてますよね。そんなところが好き。



バーバラちゃんギリギリセーフ!前編

 テイワット大陸は璃月(リーユエ)の西。

 天を衝き聳え立つ山々と清らかな川の流れ、岩肌に力強くも根を張る木々が織りなす雄大な自然が、見渡す限りに広がっている。

 その中で、岩壁に張り付いて上へ上へと登る四人と一匹の姿だけが、幻想的な風景画に付いた塵埃のような異物感を浮かばせていた。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 額から流れ、頬を伝う汗。

 頭上を見上げ、手頃な場所にある出っ張りを掴んで身体を引き上げることの繰り返し。

 手を離してしまえば奈落へと消えてしまうような絶壁で、最早引き返すこともままならない高さに居る彼等は、息を切らせながらもその腕を止めずに登り詰めていた。

 

「山頂までっ、あとどのくらいなのっ……?」

 

 吹き荒ぶ風の中、四人の内の一人であるまだ年若い少女が、その淡いブロンドのツインテールを揺らしながら声を絞り出すように問い掛ける。

 また別の旗袍(チーパオ)の少女が強風に掻き消えそうなその声を拾い、足元にいるツインテールに対して答えた。

 

「何回聞くの()()()()。う〜ん、もう少し? かな? だよねパイモン!」

香菱(シャンリン)さっきからそればっかりぃ!」

「皆頑張れー!」

「パイモンちゃん浮かぶのずーるーいー!」

 

 半泣きで声を張るツインテールの彼女は、自由の都モンドで祈祷牧師を勤めていたバーバラ。対するのは彼女の反応を見てからからと笑う活発そうな少女・香菱と、空中をふわふわと浮かぶマスコット(兼非常食)・パイモンだ。

 

「でも香菱の言う通り、本当にもうすぐで山頂みたいだ」

「わ、わたくしが天の座に就くまであと少し……」

 

 彼女等の会話に混ざるのは金髪の旅人・(ソラ)と不思議少女・フィッシュル。

 そんな彼等を見たパイモンは、鼓舞するように空中を駆けて頂上を指差した。

 

「おう! 慶雲頂のてっぺんまでもうひと踏ん張りだぞお前ら!」

「よーし! グゥオパーとアタシが一番乗りするからー!」

「待つんだ香菱! 」

「断罪の皇女であるわたくしを差し置いて頂に登るなんて──!」

「ちょっ……行っちゃった……」

 

 元気いっぱいに先行する香菱に対し、クールな外見に反して意地っ張りな空と謎の設定を口走るフィッシュルが、彼女に追い付かんと闘志を燃やしてペースを早める。あっという間に置いていかれたバーバラは、呆れるように溜め息をついた。

 しかしその直後、ハッとした彼女はぶるるっと身を強張らせると、片手を岩から離しスカート越しに内腿を擦った。

 

「……ひゃうっ……うぅ……」

 

 ── 一見誰よりも冷静そうなその実、花も恥じらう年頃のバーバラはこの時、内心誰よりも激しく欲求に抗っていた。

 

 それは、世界を巡る冒険者にとって切っても切り離せない、日常的な非常事態。

 

(……おトイレしたい……!)

 

 下腹部に貯まった不要な水分が、その出口を刺激する。

 彼女は括約筋と指先に一層の力を込めて、慎重に慎重に身体を引き寄せた。

 

「んっ……! 」

 

 力を入れた反動からか、再びぶるりと腰を震わせ淡い息を吐くバーバラ。上へと伸ばす腕を止め、ひくひくと緩みかけた栓を再び締め直す。

 

 早く全て放出してしまいたい。もうどこでもいいから、皆に見えない所で……。

 

 山頂に身を隠せるだけの草むらがある事を願い、彼女は上を見据えた。

 乙女のダムの限界は近い。

 

 

 ◇

 

 

 時は数時間ほど遡る。

 冒険者組合から言い渡された任務をこなすために璃月を訪れていた一行。だが、その道中"仙人の住処に眠る聖遺物"の噂をたまたま耳にするや否や目を輝かせ、任務そっちのけでその場所を探すこととなる。

 浪漫を追い求めるのは冒険者(と中二病)の性。若干やる気のないバーバラを差し置いて、他三人と一匹は頭を突き合わせて真剣にその場所の検討をし始めた。

 

「仙人が住んでいるって話だし、高い山の上だろうな」

「果てまで続く空に、降り注ぐ星々にほど近い玉座……」

「うーん、高い()なんて璃月には()()あるぞ?」

「はいはい。パイモンは洒落も上手いな」

「おーい!? オイラは真剣に言ってるんだぞ!」

 

 日は直上へ上る頃合い。小高い丘の上で昼食の準備をする彼らは、丸焼きにする猪と香菱お手製のスープの完成を待ちつつ、石門で購入した茶を手に思考を巡らせていた。

 

「……そういえば香菱は璃月生まれだろ、なにか心当たりはないか?」

「ん? そうだなあ……」

 

 空に話を振られた香菱。一旦手に持つお玉を鍋に戻すと、顎に手を当ててコテンと首を傾げた。

 

「うーん……天衝山……瓊璣野の山……いや珉林のどれか……?」

「風神サマが酒場でグータラしてたんだし、意外と仙人の住処も俗っぽいとこにあったりしてな!」

「無限の選択肢から、未来が掌の上で分岐している……」

『お嬢様、流石に意味が分かりませんよ』

「お、オズっ!」

「うーん、うーん……」

 

 期待を込めて香菱を見つめる空、パイモン、霊獣オズに突っ込まれるフィッシュル。

 そんな周囲の視線を集めながらも、香菱はたっぷりと時間をかけて唸る。

 

 

「……」

 

 そんな彼等の様子を横目に、ズズと茶と啜るのはバーバラだ。

 

 かつてモンドを襲った龍災から都市を救ってくれた空に恩を返すため、彼に着いていくことを決めたバーバラ。

 空には感謝してもしたりない程だ。しかし、たまたま通りがかっただけの街のために自らの身を危険に晒すような彼の生き方は、とてもでは無いが褒められたものではなかった。おまけにモンドの秘宝も破損してしまったし。

 そのような危なっかしい空を支えるため、彼女はここにいる。バーバラは自身の本分である祈りと癒やしに専念し、パーティの意思決定は彼等に一任していた。

 

 それはどのような場所でも付いてゆく彼女の覚悟と、どのような選択も決して道を踏み外さない彼等への信頼の表れでもあった。

 

「望舒旅館から見渡せば……あっバーバラ、お茶入れるね」

「ありがとう、香菱」

 

 物思いに耽りながらも気配りを忘れず、バーバラの杯が空になるや茶を注ぐ香菱。

 受け取ったバーバラは改めてそれを口に含み、ごくりと飲み込んだ。

 喉を通り、丁度いい温かさが奥へと伝わってゆく。茶葉の芳醇な香りが鼻を抜け、ほうと息をついた。

 

 彼女がモンドで飲み慣れていた紅茶とは異なるその味わいに、新鮮な気持ちとなる。

 これの味の良し悪しには未だ疎いものの、石門の茶屋で休んでいた男性の"美味しい茶は後味が甘い、悪い茶は飲み込むまで岩の味"という言葉を信じるのであれば、これは間違いなく前者であると言えよう。

 

「バーバラ、お茶好き?」

「うん! 淹れてくれる香菱のお陰だよ」

「えへへ、ありがとう」

 

 茶屋の取り扱う品物の質と、茶を淹れる香菱の腕があってこその口当たりの良さなのだろう。バーバラは感謝の言葉と共に、幾度も喉を潤した。

 

 

 

 暫くして、璃月特産のスパイスの効いた昼食に舌鼓を打つ一同のど真ん中から、唐突に大声が上がる。

 

「……あーーーっ! 思い出した!!」

 

 張り上げた声の主は香菱だ。

 大袈裟な身振りと表情で彼女は空達へと振り向いた。

 

「どうした香菱!?」

「きゃぁっ!? っコホン……その内に秘めた思いをわたくしに捧げなさい」

「むぐっ、んんっ! んんっ……ゲホッ! ヴォエッ!」

 

 面喰らった彼等は手元の料理を手放しかける。パイモンが骨付き肉を喉元につっかえさせて青い顔をする脇で、目を輝かせた香菱は自信満々に言い放った。

 

「わかった! 慶雲頂だよ! ……"仙人の住処"!!」

 

 

 ◇

 

 

 新たな食材を漁りに璃月巡りをしていたとき、彼女はとある山の頂に浮かぶ小島と建築物を見たという。

 香菱がそう話した山こそが、璃月の中でも滅多に人の立ち寄らない珉林の名峰──慶雲頂である。

 

 空に浮く島なんて不便な所に仙人以外は住まないと、彼女の言葉を信じて珉林に辿り着いた一行は、その遥かな頂にあんぐり口を開けたバーバラは差し置いて、えっちらおっちら登り始めた。

 

 そして時は──バーバラの膀胱が満たされる程には経過し──今に至る。

 

「ついたーっ! 一番乗り!」

「勝てなかったか……」

「フン、おめでとう食材の魔術師よ……悔しいっ」

「お前らお疲れー!」

「ふぅ、ふぅ……なんであなた達、そんなに元気なの……」

 

 慶雲頂の頂、雲海が眼下に広がる高さにあるこの場所でようやく落ち着けた一行。

 山登りのレースに負けた空とフィッシュルが悔しがり、パイモンが笑顔で皆を労う。そんな表情の各々に僅かな達成感を混ぜたような空気が場を包んだ。

 

 ……一人焦った表情を隠せないバーバラを除いて。

 

(嘘……()()……!)

 

 そう。無いのだ。

 

 ここは岩が削られて出来た僅かな平地と低木、そして中央の謎のモニュメントだけで構成されている。

 つまり、バーバラが慶雲頂の頂に望んでいた場所が無い。

 それは身を隠せる空間。音を聞かれない距離。安心して呆けられる、その場限りのお手洗い──

 

(おトイレできる場所が無いっ……)

 

 ぎゅ、とバーバラはふわりとしたスカートの裾を握った。スカートの丈を下げるように僅かに引っ張ると、周りから見えないように白タイツ越しに両膝を擦り合わせる。

 

 そんなバーバラの緊急事態など露知らず、香菱は一番乗りの喜びをぴょんぴょんと全身で表している。

 ──が、数回跳ねた所で彼女はぴしっと固まると、僅かに内股の角度を狭めた。

 

「あっ……ちょっと……行ってくる!」

「は? どこに──」

「おしっこっ!」

 

 問い掛けに対し焦った声を上げる彼女は、山頂のモニュメントを挟んだ反対側の僅かな茂みに大股で向かう。

 何をし始めるのかと狼狽える彼等から出来るだけ離れると、香菱は旗袍(チーパオ)の下に穿く薄い生地のショートパンツを掴んで引き下ろしつつしゃがみ込んだ。

 健康的な柔肌が唐突に現れ空気に触れる。そうして一行の面前へ飛び出した彼女の桃のような臀部越しに、一筋の流れが放たれた。

 

 しょろろろろ……

 

「はぁぁ……」

 

 

 清水のような音と共に、香菱の溜め息がこちらに届いた。

 背を向ける香菱、その姿は素肌を晒した下半身すらまともに隠せないような低木越しに丸見えとなっている。

 

 理解が追い付かず、彼女を見守る一同の目が点になった。

 

 じょおおおおお──

 

 香菱の水音は次第に岩に打ち付けるような激しいものとなって、足元の岩模様を伝っていく。彼女のこれまでの我慢を示すような水流が、山肌に弾かれ慶雲頂に虹を描いた。

 

「わわ、ごめんなさいっ」

「空! 見ちゃだめっ!」

「ぐぁっ!」

 

 突然の事態ながら、彼女のお花摘みを見てしまったことに思わず素で謝りそっぽを向くフィッシュル。更には空の首がパイモンに捻られる鈍い音も響いた──が、その音に気付かないほどにバーバラの目は香菱に釘付けとなっていた。

 

「あ、アハハ、ごめんごめん! お茶飲みすぎちゃったみたい!」

「もー、唐突に駆け出すから何事かと思ったぞ」

「コホンッ、溜め込んだ魔力の渦は開放が必要……」

「パ、パイモン! 首、首っ!」

 

 恥ずかしい液体を放ちつつこちらを振り向く香菱の頬は微かに火照っている。その緩んだ表情は快感からか、それとも照れているだけか。

 

「……っ」

 

 バーバラはスカートの下の膝を先程より強く擦り合わせた。

 彼女が何時間も抵抗し続けている欲求を解決した姿が今、眼前に広がっている。

 知らぬ間に、握る手に力が籠もっていた。

 

 ほら、香菱もやっているように、あそこでしちゃえばいいじゃない。

 彼女と交代で。

 しちゃえば。

 おしっこを。

 

 天使──いや悪魔の囁きがバーバラの脳裏を過る。瞬間、彼女のティーポットの注ぎ口が僅かに傾いた。

 

「はふぅ」

「っん……!」

 

 ふるるっ、と香菱とバーバラの背筋が同時に震える。

 しかしその内情は正反対。放出した快感と漏れ出そうな警鐘。

 

 空達にバレないように俯き、バーバラは首を振る。

 できる訳無いじゃない。

 あれは、奔放な彼女だからこそできること。

 ごくごく一般的な生活しかしてこなかった(バーバラ)にはそんな英断はできない、と心がストップをかける。

 

(ああでも……気持ちよさそう……)

 

 一息ついてゴソゴソとチリ紙を取り出す香菱の背中を、恨みと羨望の綯い交ぜになった瞳で見つめるバーバラ。

 香菱はハリのある腿まで下ろしていたショートパンツと下着を穿き直し立ち上がると、火照った頬はそのままに一行の輪に戻る。

 

「ゴメンね、ようやく登ったのに水差しちゃって。我慢できなくて……ね? あはは」

「しょうがないよな。はは……」

 

 お転婆な彼女にも堪えたのだろう、彼女らしくもなく恥じらいを隠すように笑っているが、それが余計に艶っぽい表情を形作っている。

 妙に前屈みな空を始めとして、場は生温いような空気となる。それを察知した香菱は、どうにか雰囲気を紛らわすために本来の目的の話題を振った。

 

「……そ、そうそう。仙人の住処? はこの更に上なんだけど……どうやって行くんだろう? 」

「な、何だって!? ここじゃないのか!?」

「上を見てみなよ、ホラ」

「げぇー!? ホントだ!」

 

 空気を読んだパイモンが大げさなリアクションを取る。確かに見上げれば、不思議な結晶を利用して浮かぶ小島が目に入った。

 

「なになに……"雲の頂点に登りたくば、三つの山に叩頭せよ。月日と輝きは、三つの光を照らす。鳳凰鷹鳥、三つの瑞獣が来す"、 か」

「三つの山に叩頭……ここらの山々の頂に何か、光るものでもあるのかしら?」

 

 モニュメントに刻まれた碑文を空が読む。首を傾げるフィッシュルが推理を口にするが、それはあながち間違いでもなさそうだ。

 

「あ! おい皆! 琥牢山の頂上に鳳凰の像が見えるぞ! 奥蔵山にも!」

「えぇ? よく見えたね」

「へへん」

 

 パイモンが指差した先には、ここからでは米粒程の大きさでしか見えないものの、確かに自然の造形では無い何かが光っていた。

 

「琥牢山、奥蔵山、あとこの慶雲頂にも鳳凰の像があって、それを弄れば上の島に行けるってことなのかな?」

「成程。とはいえあそこまで行くのは骨が折れるな……パイモン行ってきてよ」

「オイラ非力だからギミックあったら何もできないぞ!?」

 

 それじゃあ三手に別れよう、と空が支持を飛ばそうとしたところで、バーバラの普段よりしおらしい姿が彼の目に止まった。

 その顔色はやや青ざめていて、何かに耐えているように伏せ気味の視線で震えている。空の経験からして、あれは──()()だろう。

 そう見当を付けつつ、空はバーバラに優しく問いかけた。

 

「バーバラ、どうした? 具合悪いのか?」

「──へっ!? な、なんでもないの! なんでもない……から……うん」

「いや、そうは見えない。……そうだな、鳳凰の像には俺達三人で手分けして行くから、バーバラはここで休んでいてくれ」

「あ……う、うん。ありがとう」

 

 元々はモンドで冒険とは縁遠い暮らしをしていたんだ、バーバラにこの山登りはキツかっただろう──と労りの気持ちを込めて空は彼女の肩を優しく叩く。

 それに対し「ひゃぅっ」と妙な声を上げたバーバラの態度にクエスチョンマークを浮かべながら、バーバラ以外のパーティはそれぞれの目標へと歩み出したのだった。

 

「空ぁ、オイラも休んでていーい?」

「何言ってんの、パイモンが3人のナビをするんだよ」

「ええー! 一番大変じゃないか!」

 

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