凝った首をぐるりと回す。首からはごき、と大きな音がした。
既に空は朱く染まっており、太陽の沈んでいく反対側に月が見え始めていた。哲邇は短く溜め息を吐いた。
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「_____つまり、もうこの調査が始まり数年が経つというのに君は未だに何の手がかりも掴んでいないということかね?」
嘆かわしい、無能だ。そんな罵詈雑言を、哲邇を取り囲む上層部の人間たちは何の躊躇いもなく浴びせた。
「………お言葉ですが、奴が姿を現すことは少なく、それゆえに手に入る情報も少ないのです。ましてや、この件に関する調べ手が私一人ということもあります。
それほど不満に思われるのであれば、そちらからも人を寄越してくださっても良いのではないでしょうか」
場が静まり返る。その静寂から数秒後、一人の老人が口を開いた。
「勘違いするな、蘆屋哲邇。貴様は貴様にしか遂行できない命があるゆえに生かされているのであり、その命に価値はない。
それにこの一件も片付けば貴様は“封印”される運命にあるのだからな」
「これにてこの一件に関する定例会を終了とする」
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自分は生かされてる。これは哲邇にとっても確かなことだった。この一件が終われば彼女は用済みになってしまうのだ。
「私はいつから間違えていたのだろうな……」
一人虚しく呟いたそれは、深い紺色の空に吸い込まれていった。
明日も別の任務がある。今日だけでも早く寝よう。そう意気込むとすると、タイミング良く哲邇のポケットが振動した。
哲邇は、今日は緊急でも任務は引き受けないと事前に伝えていた。というのに電話がかかってきたということは、この電話の主はただ一人だった。
「あ、ようやく出てくれた!」
「今日はもう何もしないからな」
案の定、五条だった。哲邇はさっきよりも深い溜め息を吐いてすぐに切ろうとした。
「今から寿司食べに行くんだけど哲邇も行かない?もちろん僕の奢りでね」
終了ボタンにかけかけた親指をぴたりと止める。
「………お前の奢りだな?」
哲邇はもう一度スマートフォンを耳元に持っていく。五条は「そう、僕の奢りだよ」と上機嫌に言った。
電話越しなので完全に信用するのは少し難しいが、まぁ嘘であったとしても後日彼の残高から引き抜けばいい話だった。
「分かった。今から向かうよ、場所を教えてくれ」
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指定された場所に着いて手早にバイクを駐める。ギターケースを背負い直して店の前に行くと、あの見慣れた白髪頭以外に三人の子どもがいた。
「五条」
「あー、こっち!もう席は取れてるから中に入るだけだよ」
私が一同に寄っていくと、三人のうち一人は恵だということが分かったが、それでも残りの二人は知らない顔だった。恐らくは先日五条から聞いてきた、高専の新しい一年だろう。
「うっわー、スッゲー美人!!先生の彼女?」
「流石悠仁!そうそう僕の…」
「違うだろ」
否定しないこの馬鹿の脛を蹴る。拳骨を食らわせてやりたくとも、残念だがこの身長ではジャンプでもしなければ届かないのだ。脛で勘弁してやろう。
いいところに入ったようで、この大きな男は患部を押さえて震えながら静かに悶えていた。
「蘆屋哲邇だ」
怪訝そうな顔をする二人の前に手を前に差し出する。すると、いかにも高校生らしい少年が先に手を握り、「俺、虎杖悠仁!よろしく!」と笑う。
「虎杖、哲邇さんは三年生だ」
虎杖が敬語を使わなかったことに恵が遠回しに注意する。
「構わないさ。ただ便宜上仕事では男としてやっているからその点だけはよろしく頼むよ」
「こんな美人が男として生きてるだなんてつくづく分からない世界ね…」と茶髪の少女が呟く。この界隈で渡っていくには十分なくらい気が強そうだ。
「釘崎野薔薇よ、よろしくね先輩」
そう言って手を出す釘崎。私は軽く彼女の手を握って「あぁ」と短く返した。