百回目のハロハピ   作:学学 学

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最期の

記憶とは"想い"だ、

 

この病気にかかって私は、そう感じるようになった。

 

記憶がなければ、どんな大切なものだってただのガラクタだ。

 

だから、記憶がなくなると言う事は想いがなくなると言う事、

 

大切なものがじわじわと、そして、確実に消えていく。

 

そして、()()()()()()()()()()()()()

 

それが、たまらなく怖い。

 

 

 

百回目のハロハピ

 

第二話 最期の

 

 

 

記憶がなくなる病気。

病院で診察されてから、美咲は心に穴が空いたような気分だった。

これからどんどんと記憶をなくしていき、最終的には1日しか記憶が持たなくなる。今の全てを忘れ、どんなに頑張っても次の日には真っ白に戻ってしまう。

医者が言うには、命に別状はない。

数ヶ月か数年かは分からないが、自然と治ることが多いらしい。しかし、治ったとしても忘れたことを取り戻せるかどうかはわからないという。

数日で症状は無くなり、すぐに全てを取り戻せる人もいれば、

数年にわたり症状が続き、新たな思い出は忘れないが、忘れた記憶は思い出せない人もいるという。

思い出せるかどうかは、なにを思い出せるかも人それぞれだという。

もし、全てを忘れてそのままだったら?

そう思うと寒気がした。

今のところは暫く考えれば思い出せているが、しかし、常に確かな恐怖が纏わりついているようだった。

 

「書くとしますか……。」

 

美咲は医者の勧めから、日記を書くことにした。

その日あった事を寝る前に書いていく。そして、朝起きたら読み返す。これで、症状の進行が分かるという。

 

(今日は、病院に行って来ただけ……。)

 

問診からすぐに、ct検査、そして、様々な試験を受けた。

もともと、紹介されたのは交通の便の悪い大学病院で、家からかなり遠かった。父に車で送って貰ったとはいえ診察と移動で1日すべてが消えてしまった。

 

「ああ、やだなぁ」

 

日記を書き終えて、呟いた、

言っても仕方がない、子どもみたいな文句。

家族との記憶、

そして、高校に入ってから騒がしいハロハピとの記憶、

 

その全ては美咲にとってかけがえの無いものだ。

 

それらを無くすというのは、とても怖くて、たまらなく悲しかった。

 

 

翌日

土曜日ということもあり、今日は朝からハロハピで集まることになっていた。(昨日は平日だったが学校を休んで病院に行った)

なんでも、ハロハピ動物園を作るらしい。

自分がいないたった1日に一体なにがあったんだ、と、美咲は疑問に思わずにはいられなかった。しかし、すぐに「考えても意味はない」と、思い直した。

 

「奥沢様。少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?こころ様の許可は取っております。」

 

美咲がこころの家に着くと黒服の1人が美咲を止めた。

黒服の様子を見て美咲は「ああ、やっぱり」と思った。

美咲を昨日診察した医師は健忘症の第一人者で世界的な名医だ。そんな医師を紹介して、しかも診察の予約まで取ったのは他でもない黒服だった。

だから、何かしらアクションがあることは分かっていた。

 

「……黒服さん。はい、わかりました。」

 

そして、美咲が通されたのは、初めて来る部屋だった。

部屋の真ん中にはこじんまりとした机と椅子があるだけで、弦巻家にして小さな部屋で装飾も少ない。

剥き出しのポットやスマホの充電器などが、生活感を醸し出している。

 

「申し訳ありません。本来なら客間にすべきでしたが、こころ様達が来る恐れがありますので、我々の休憩室にしました。」

 

「い、いえ、お構いなく……。」

 

使い捨てのコーヒーカップを差し出しながら、黒服は言った。

そのカップを見ながら、なんだか弦巻家の庶民的な一面を見たような気がして美咲は笑いそうになってしまった。

そんな彼女に気がつかず、黒服は美咲の向かい側に座りつつ話を切り出した。

 

「大変、聞きづらいのですが、奥沢様、病院の方はどうでしたか?」

 

その言葉に、美咲は言葉をつまらせた。

認めたくない。心配をかけたくない。ここで話したくない。など、美咲自身、理解できないほどの混沌とした感情が渦巻いた。

しかし、ここで黙っていても仕方がない。というよりも、黙っていたところで何も変わらないし、黒服達ならばそれだけで察してしまうだろうと、美咲の冷静な部分が思い至った。

 

「………。不特定健忘症……でした。」

 

捻り出すような美咲の言葉に黒服は目を伏せた。サングラス越しでも分かるほど辛そうなだ。

彼女達黒服はこころを1番に考え、こころを支えるのが仕事だ。しかし、それでも、この1年以上もの間、美咲とも関わって来たのだ。

助けたいと思えるほどに情は湧いている。

出来ればこのまま、仲のいいハロハピを観ていたい。悲しむ顔なんて見たくない。それが彼女の思いだ。

 

「……そう、ですか。こころ様、ハロハピの皆様には?」

 

その問いに美咲かぶりを振った。

 

「いいえ、まだ……。その、自分で伝えるので、それまで、黙っていてもらえますか?」

 

自分の記憶は無くなる。そんな大切なことを人伝というのは、大切な人たちを裏切るような気がしたのだ。

それに、ギリギリまでいつも通りに過ごしていたかった。

学校へも先生には話したが生徒には伝えない事になっている。

騒がしい日常に少しでも浸っていたかった。

 

「そう……、ですか。分かりました。しかし、本当に危なくなったら私から話します。それでもよろしいですか?」

 

その言葉に美咲はうなずいた。

 

「では、こころ様のところへ向かいましょう。それから、何かありましたらお申し付け下さい。出来る限りのことはします。」

 

「……………ありがとうございます。」

 

その後、美咲はこころの元へと向かった。

そこでは、いつも通りの光景が広がっていた。

分からない事を言う、こころと、はぐみ、

儚いって言っている薫、

ふぇえ〜と言っている花音、

会議というよりはパーティだ。とは、美咲は言わなかった。

というよりも、こういう状態に慣れてしまって感覚が麻痺している。

訳がわからない、これがいつもどおりだ。

 

「あ、美咲、遅いじゃない。もう、会議は始まっているわよ!」

 

「ああ、美咲、待っていたよ。皆で意見を出しあったが、やはり全員揃わないとはじまらない。」

 

「そうだね! みーくんも来たし、後はミッシェルも来れれば良いんだけど……」

 

「そうだ、はぐみ。美咲、ミッシェルはまだかい?」

 

「はは、み、ミッシェルは……。今日は用事があって来れないんだ…………。あの、花音さん、会議の内容というか、状況の解説をお願いします。」

 

「はは、えっと、あのホワイトボードは……。役に立たないね。」

 

花音から状況を聞きながら、美咲は少し安心した。

 

(私はまだ、覚えてる。)

 

大丈夫だと、美咲はそう言い聞かせ、この日常を楽しむ事にした。

 

「どうしたの? 美咲、奥歯に鶏肉が挟まったような顔して」

 

こころのその言葉に美咲は首を振り応えた。

 

「なんでもない。…………さて、とりあえず。動物園は無理だから」

 

「「「!?」」」

 

思考を切り替え、美咲はとりあえずハロハピの暴走を一刀両断した。

それに、こころ達3人はショックを受けたような顔をした。

その三馬鹿にため息をつきながら美咲は花音に聞いた。

 

「えっと、そういえば、どうして動物園なんて作る事になったんですか?」

 

「えーと。美咲ちゃんが休んでるようだから元気付けようって話になって、それならライブをしようとして………。」

 

花音の話をまとめると、

昨日学校を欠席した美咲を元気付けるために、何かをしようとなった。

学校で話し合っていたらポピパメンバーと合流、そしたらウサギと一緒にライブをやろうとなった。しかし、その後、いっその事動物園を作ろうとなったらしい。

 

(あー、その場に市ヶ谷さんは居なかったのかな。……いや、いても無理か)

 

ハロハピとポピパの両方の手綱を1人に任せるのは流石に厳しすぎる。

そう思った時、美咲はある意味同士である市ヶ谷有咲の顔が思い出せないことを思い出した。

その事実に美咲は叫びそうになったが堪えていつも通りに振る舞った。

 

「いや、無理でしょ。」

 

「どうしてやる前に無理なんて決めつけるのかしら?」

 

そういうこころに美咲は頭を悩ませた。

どうすれば止められる?

それと同時に折衷案や、こころの満足する方法を模索する。

そんな中、ふと、思った。

 

(もしかしたら、こんなこと出来るのも最後かもしれないんだよね。)

 

もう自分は最後なんだ。

だったら最後くらいは最高のものにしよう。

そう思い、美咲は決断した。

 

「分かった。やろう、動物園。」

 

 

 

 

 

 

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