百回目のハロハピ   作:学学 学

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「仕事仕事ー!よろしくー!」
「う~仕事が山積みだよ~・・・頑張ろー!」
「君に頼みたいことがあるんだけど、良いかなあ?」

上司をまりなさんに、変換完了




自分が誰なのか分からない

 

記憶とは想いであると同時に、自分が自分であるという証明だ。

 

記憶がなくなったということは、自分が()()()()()のと同義だ。

 

奥沢美咲というあたしは、もう存在しない。

 

 

死んだのだ。

 

 

 

百回目のハロハピ

 

第四話 白

 

 

 

動物園ライブのスケジュールもある程度定まり、大方の準備は完了した。

あとは、練習を重ねてリハーサルをするだけだ。そんな中、美咲を除くハロハピメンバーの4人はこころの部屋で秘密会議を開いていた。

 

「ん〜、素敵なライブが出来そうだわ! これで美咲も笑顔になるわ!」

 

「あぁ、この儚い作戦で、美咲も素敵な笑顔を取り戻すはずだ。」

 

「うん、みーくん、学校休んでから元気無かったからね!」

 

花音以外のメンバーも美咲の様子がおかしい事に気がついていた。

しかし、理由は聴かなかった。

美咲は悩んでいても人を頼ろうとしないことは知っていたし、こころが「美咲の気持ちなんて分かるわけない」という考えからだ。

それでもただ見守っているつもりはなかった。自分たちに何か出来る事がないか、と考え、思い浮かんだのがサプライズだ。

そもそも、動物園でのライブは美咲を元気付けるためのものだった。

彼女たちの目的は初めから変わっていない。元気の無い美咲を元気付ける。

悩みなんて吹き飛ぶくらいの最高のライブを開く。

それがハロハピのやり方だ。

 

「あとはミッシェルも練習出来れば良いんだけど……」

 

「でも、ミッシェルはいつも本番に強いから平気よ!」

 

(このサプライズ、美咲ちゃん(ミッシェル)も参加予定なんだよね。)

 

これは美咲へのサプライズだ。当然、彼女には伝えられてない。

しかし、このサプライズは本番中に行われるため、ミッシェルである美咲も当然参加することになる。

この企画は問題しか存在しないのである。

 

(ど、どうしよう……)

 

花音はチラリと黒服の方を見る。

すると、黒服はグッと親指を立てようとして、引っ込めた。

そのまま耳のインカムに手を当て、何か話していた。

花音にはその声は聞こえなかったが、何か、良くないことが起きている事だけは分かった。

 

少し時間は遡る。

 

弦巻家、別室にて、

 

複数のモニターが並ぶ部屋に美咲と2人の黒服がいた。

モニターにはこころの部屋が様々な角度で映されており、音声もかなりクリアに拾えている。

美咲は既にサプライズライブの内容を把握しているのである。

 

「よし、さすがは、かーー、! ハロハピをかろうじて纏めている!」

 

と、美咲は小さくガッツポーズをした。

その様は、スポーツの観戦をしているものに近い。

というか、彼女が応援でここまで熱くなることは滅多にない。所属するテニス部でも見せたことはないだろう。

そして、頭痛がしたのか1度頭を抑えた後に口を開いた。

 

「で、黒服さん、どうして、あたしにコレを見せてるんですか? 」

 

「? 貴女は何をするのか知っておかなければならないかと……。サプライズにならないのは、大変申し訳ありませんが……。」

 

「え? どうしてあたしが……? コレに参加するのはあの4人とミッシェル?って人なんですよね? あたしはまだ会ったことありませんが……。」

 

その言葉に黒服の2人は言葉を詰まらせた。

記憶がなくなる病気。

言葉の上では知っていたし、どうなってしまうのかも弦巻家が所有するコンピューターで何度もシミュレーションをしてきた。

そのため、心の準備は出来ていたつもりだった。

こうなることも分かっていた。

しかし、いざ直面すると辛いものがあった。

 

「……奥沢様、あなたが罹患(りかん)しているご病気は、覚えておりますか?」

 

「? 病気……? あれ? なんだっけ……。 あ、そろそろ時間なんで会議のほうに行ってきますね。」

 

そう言うと、黒服さんは首を横に振った。

そして、インカムを通して何か呟いた後、黒服は美咲に言った。

 

「……………いいえ、本日はお帰りください。ご自宅までお送りしますので……。保護者の方ともお話ししたいですし……。」

 

「え? それって……。ああ、思い出した。……。また、あたし何かを忘れてるんですね?」

 

頭痛がするのかこめかみを抑えながら美咲は言葉を続けた。

 

「……。もう、潮時ですかね?」

 

「……おそらくは、」

 

しばらくの沈黙、そして、意を決した。

いつになく真剣な表情となる。

 

「分かりました。全て、打ち明けます。」

 

日常が終わる。

きっと、彼女たちなら自分がどうなっても全て受け入れてくれるだろうと、確信できる。信じられる。

それでも、今までのようなバカみたいに騒がしい毎日は終わってしまう。

既にその思い出の殆どは思い出せないが、それでも、大切なことだったってことは()()()()()

 

「やだなぁ。」

 

そう呟きながら、美咲は黒服たちに連れられてこころの部屋に向かう。

見覚えのない広い屋敷。

前までならば、通い慣れたこころの部屋ならば1人で行けた。しかし、既にこころの部屋の場所が分から無くなっていた。

 

その時、

 

「ーーーーーっ」

 

美咲は強い頭痛に襲われた。

今までにない痛み。

頭の中から何か尖ったものが突き出してきているかのようだ、

彼女は立ってられず、その場に座り込んでしまった。

 

「奥沢様!」

 

黒服たちは美咲の元に駆け寄るころには頭痛は治っていた。

ゆっくりと美咲は立ち上がると、あたりを見渡した。

 

「あ、く、黒服さん。だ、大丈夫。ハロハピのところに急ごう。」

 

「……はい。」

 

まだ、頭はクラクラしているが、別に騒ぐほどでも無い。

軽い立ちくらみ程度だ。

 

(あれ、何んで急ぐんだっけ?)

 

ハロハピに何かを伝えるために、■■■の部屋に向かっている。

だが、何を伝えるかも、誰の部屋なのかも思い出せない。

何か大切なことだったはずだ。

ハロハピにとっても自分にとっても、決して小さくないことのはずだ。

 

そんな時、ふと、美咲の脳裏によぎった。

 

「あれ? なんで、あたしハロハピなんてやってるんだろ?」

 

その小さな呟きは黒服たちには聞こえなかった。

 

(そうだ。そもそも、あたしはバイトしてた所を、あの子に無理やり)

 

無くした記憶は思い出せなかった。

しかし、意地でも覚えていたかった、出会いの日を思い出した。

つぎはぎだらけの記憶を整理する。

出鱈目に残った記憶が、出鱈目に繋がっていく、

 

(あたしは……。)

 

 

こころの部屋に着いた。

 

「あ、美咲! ちょうどいい時に来たわね! 美咲の好きな食べ物は何かしら!」

 

出会い頭のこころのその問いに、美咲は瞬きした。

相変わらず唐突だ。しかし、不思議と驚きはしなかった。

 

「ちなみに、はぐみはコロッケが好きだよ。」

 

と、はぐみの言葉に美咲は短く深呼吸をした。

本当にこれでいいのか、と、彼女の中の何かがストッパーをかける。

理性ではなくて本能が、ここで踏み止まるべきだと訴えかける。

だが、それでも、美咲はどんなに思い起こしてもこの感情の理由は分からなかった。

 

「皆様、本日は奥沢様から重大なお話があります。」

 

黒服の言葉にハロハピメンバーは美咲のことを見た。

8つの瞳が彼女を捉える。

それに対して美咲は深く深呼吸をした。

もう引く事はできない。

 

「……。あたし、今日でハロハピを辞めるから」

 

美咲はそう口にすると、部屋の気温が10度くらい下がったような気がした。

何か、とんでもないことを言ったような気がする。

しかし、何がダメなのか理解ができない。

思い出せない。

 

「そもそも、あたしは、ただ、バイトしていただけで……。あの子に無理やり連れてこられただけで……。」

 

美咲の体温はみるみるうちに下がっていく。

大切な場所が悲鳴を上げている気がする。

何か、取り返しのつかないことをしている気分だ。

 

「だから、もう巻き込まないで。」

 

そう言い終わるり、あたりを見ると、周りはまるでお通夜のようだった。

何を言っているのは理解できない。したくない、そんな面持ちだ。

ハロハピメンバーは全員、誰もがこのバンドのことを好きだったし大切に思っている。そして、他のメンバーも()()だと信じていた。

だからこそ、大切な仲間の突然の告白がとても悲しく、そして、理解したくなかった。

 

そんななか、一瞬、不満そうな顔をしたこころはいつも通りに言った。

 

「それなら、どうして泣いているのかしら? 美咲の言っていることはよく分からないけど、笑ってないならそれは間違いよ!」

 

「え?」

 

こころに言われて頬を触れる。

確かに濡れていた。

どうして泣いているのか分からない。

何も分からないし、思い出せない。

それなのに、訳の分からないぐちゃぐちゃした感情が溢れかえった。

 

「あ、あああ!」

 

美咲自身もそれがどのような感情なのか分からない。

覚えていない。

しかし、だんだんとその感情の輪郭が顕になった。

 

恐怖、

 

理由は分からない。

ただ、怖くてたまらなかった。

訳がわからないまま、美咲はその場から逃げ出した。

 

 

「………申し訳ありません。私どもの判断ミスです。」

 

その後、黒服たちのうち1人が美咲の保護に向かい、残り2人はハロハピの元へと残り美咲の身に何が起きているのかを説明した。

ハロハピ達は戸惑いながらもそれぞれなんとか状況を理解した。

 

記憶がなくなる病気、

 

まさか、自分たちの大切な仲間がそんな病気になっていたなんて知らなかった。

どうして気がつかなかったのか、様子が変だと気がついた時点で話を聞いていれば良かったのではないか、

そんな、思いが彼女達に広がった。

そして何よりも……。

 

「みーくん。はぐみ達の事も忘れてしまったままなのかな? そんなの、寂しすぎるよ。」

 

ハロハピは楽しい思い出ばかりだ。

彼女達にとって、その思い出の一つ一つが大切なものだった。

しかし、それらを忘れてしまうのは、とても悲しくて寂しかった。

 

「……。そうだね。忘れられてしまうのもそうだが、きっと忘れてしまっている美咲にも辛いことだ。悲しすぎる。こんなこと……。」

 

「美咲ちゃん……。どうして、美咲ちゃんが……。」

 

どうして、美咲が病気にかかったのか、

どうして、美咲がこんな目に遭わないといけないか、

そんな考えても仕方がないことが脳裏に過る。

 

暗い淀んだ雰囲気が部屋を支配していた。

 

しかし、

 

「皆んなは何を悩んでいるのかしら? 私たちがやることは一つしかないじゃない。」

 

こころは、その空気を断ち切るようにそう言った。

ハロハピメンバーはその言葉に戸惑っているようだが、彼女は気にせず言葉を続けた。

 

「美咲は泣いてたわ。それなら、笑顔するのがハロハピよ!」

 

こころはそう断言する。

泣いていたから笑顔にする。

それが弦巻こころにとって当たり前のことなのだ。

しかし、いつもならばその話に誰かしら乗ってくるのだが、今回は誰1人として反応しなかった。

その様子にこころは少し不満そうな顔をした。

 

「……こころんは、悲しくないの? みーくんが、あたし達のこと忘れちゃって……。」

 

はぐみのその言葉にこころは頷いた。

 

「もちろん、悲しいし寂しいわ。なんだか、さっきから胸がギューってなりぱなしで、今にもへたり込んでしまいそうだわ。」

 

本当に悲しそうにそういう。

胸を押さえて、言葉を続ける。

 

「でも、ここでお別れなんてもっと悲しいに決まっているもの!」

 

笑顔を振り絞り、こころは言う。

その言葉に薫が目に涙を浮かべながら応えた。

 

「でも、こころ。お別れも何も、美咲は私たちのことを忘れてしまってるんだ。彼女にとって私たちは見ず知らずの人なんだよ。」

 

「それなら、もう一度出会えば良いのよ。美咲が私たちを忘れたままなんて、寂しすぎるもの。だから、美咲が忘れるたびに会いに行って知り合うしかないわ。でも、その為には私たちが笑顔にならないといけないわ。誰かと出会うのは、それだけで楽しいことなんだから!」

 

その言葉に花音は頷いた。

 

「……。こころちゃん。そう、だよね。 美咲ちゃんが忘れてても、私たちが覚えていればいいんだよね。忘れた程度で、私たちの絆は無くならないんだよね? 」

 

「そうよ! そして、たとえ美咲が忘れても、笑顔になる思い出を作り続けるの! そうすればずっと笑顔でいられるわ!」

 

こころがそうと、ハロハピメンバーは笑顔が浮かべ始めた。

無理しているようにも見えるが、それでもあのまま落ち込んでいるだけよりは断然良いだろう。

 

「ああ、そうだ。その通りだとも。かのシェイクスピアもこう言っている『物事によいも悪いもない。 考え方によって良くも悪くもなる。』と、」

 

「うん。はぐみも悲しいけど、みーくんと会う時は笑顔でいたいもんね!」

 

「美咲ちゃんに会おう。もう一度、ううん。何度でも、私たちはハロハピになろう。」

 

「そうね!花音の言う通りだわ! だったららやることは1つよ! 美咲を笑顔にするための、素敵なライブをやりましょ!」

 

そのこころの言葉にハロハピ一同は頷いた。

ハロハピのやるべきことは変わらない。

美咲を元気付けるライブをやるだけだ。

 

「さぁ、やるわよ! ハッピー! ラッキー! スマイル!」

 

「「「「イェーイ!!!」」」」

 

 





次回、最終回
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