「気持ちわりーんだよ!」
「白い髪とか変なのー!」
「お前化け物じゃん! 化け物はこっちに来んな!」
少年たちは髪が白い少年を囲むようにして暴言を浴びせる。
鉛筆は折られ、筆箱はボロボロ。机にはコレでもかというくらいの悪口が書かれており、ランドセルにまで書かれている。
無邪気というのは恐ろしいもので、他人と違うものをやたらと羨み、恐れ、煙たがる。
「やめて……やめてよぉ……」
「化け物が泣いてんじゃねー!」
「消しゴムあてよーぜ! 顔に当てたら十点な!」
白髪の少年は頭を抱えてしゃがみこみ、涙を流す。
「コラー!!! シュウをいじめるなー!!」
「シュウをいじめたら僕たちがゆるさないぞ!!!」
「げっ!? ひかりとなぐもだ!」
「にげろー!!」
強気そうな黒髪の少女と反対に少し弱気そうな黒髪の少年がいじめっ子たちに向かって走っていくといじめっ子たちはたちまち逃げていく。
「うくっ……ひっく……」
「シュウ! 安心して! わたしたちが守ってあげるからね!」
「またさっきみたいにイジメられそうになったら僕たちに言ってね! すぐ駆けつけるから!」
「ぐすっ……ありがとう……くろの、はじめ」
ピピピ、ピピピ、と目覚ましが鳴らす軽快な音で目が覚める。
どうやら夢を見ていた様だ、とシュウは体を起こしながら考えた。
彼の名前は澤田シュウ。生まれつき髪が白いことで昔いじめられてた。その時の夢を見たようだ。
「なっつかしいなぁ。カッコよかったな……あの時のハジメと黒乃」
シュウはその時のことを思い出しているのか、何故かは分からないが恍惚とした表情を浮かべる。
シュウが思い出に浸っていると突然ドアが乱暴に開けられる。
何事か!? と顔を向けてみるとそこにいたのはシュウの思い出に登場していた黒髪の少女だ。幼い頃とは違い、身長が伸び、シュッとしたスレンダーな美少女がそこにいた。
「おはようシュウ。今日もカッコイイね」
「おはよう黒乃。お前もいつもと変わらず可愛いな」
この美少女の名前は日狩黒乃。シュウの幼なじみの一人だ。
こんなアホ丸出しのバカップルのような会話を繰り広げているが勘違いしないで欲しい。彼らは付き合ってなどおらず、これが彼らの平常運転なのだ。
「さっ、さっさと着替えなよ。はやくハジメも迎えに行かないといけないからね」
「分かってるよ。じゃあ着替えるから待っててくれ」
「うん。了解したよ」
「…………黒乃、着替えたいんだけど」
「着替えればいいじゃないか? 僕はここでシュウの着替える姿を見てるだけから着替えたらいいよ」
首を傾げて当たり前のようにそんな事を言う黒乃にシュウはため息をつきながら黒乃に近づく。
「出てけ」
首根っこを掴み部屋の外に放り投げると扉を閉めてついでに鍵も閉めてから着替えた。
数分後、着替え終わりトレードマークのバンダナをつけたシュウが部屋から出てきた。
黒乃は不満そうに唇を尖らせてシュウを迎える。
「別に追い出さなくてもいいじゃないか……全く……」
「年頃の女子高生が何を言ってるんだか……ほら、ハジメの家行くぞ。いってきまーす」
「お邪魔しましたー」
「はい、行ってらっしゃい。二人とも気をつけてねー」
母親の声を聞き二人は家を出て目の前にあるハジメの家へ向かう。
インターホンを高橋名人ばりに連打して黒乃がハジメを呼ぶ。
「ハージーメー、迎えに来たよー」
「あああ! はいはい! 今出るから!! 行ってきます!!」
「おはようハジメ。今日も変わらずキュートだね」
「おっすハジメ。今日もセンシティブしてんな」
「おはよう二人とも。キュートとセンシティブしてるについて小一時問い詰めたいけど我慢して別のことについて話すよ。黒乃、毎回毎回うちのインターホンを連打するのは止めてって言ったよね!?」
インターホン16連打という小学生でもしない、むしろ小学生が引くレベルの嫌がらせを毎朝してくる黒乃にハジメはウンザリしながら声を大にして叫ぶ。
「まあまあ、細かいことは置いといて……早く学校に行こうよ。どうせ今日も徹夜だったんだろう? 早めに言ってホームルームまで寝てた方がいいんじゃないのかい?」
「確かに徹夜だったけどさぁ……はぁ、もういいよ。分かったよ」
「ドンマイ、ハジメ。元気出せって、厳選孵化用の6Vメタ○ンやるからさ」
「もう予備含めて三体いるよ……と言うかシュウ、いたんなら止めてよ……」
「ゴメンそれ無理。いくら俺でも黒乃の行動は止められない」
シュウの言葉を聞いてガックリと肩を落としてハジメは落ち込む。そんなハジメを見て、シュウは無言で優しく背中を叩いた。
そんなことは知らず、黒乃は呑気に鼻歌を歌いながら二人と並んで歩くのであった。
始業チャイムが鳴る十分前にハジメたち一行は到着する。
ハジメが教室の扉を開けるとクラスメイトから一斉に舌打ちや睨み、侮蔑の視線を受け取る。
それを受け取ったハジメはまたウンザリと憂鬱な気持ちになる。近くにいた黒乃はムッ、と顔を顰め、シュウは顔を般若のように変貌させるが被害の張本人であるハジメが何も言わないので我慢する。
しかし毎度のことながらハジメにちょっかいを掛けてくる者がいる。
「うわキモオタじゃん! 徹夜でエロゲとかしてんだろキッモ!」
「いや大介冴えてるわ〜。てかエロゲで徹夜とかマジキモイわ。流石キモオタだぜ」
一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒たち。空気を読まずに四バカのうちの二人がハジメに絡んできた。クラスメイトたちの視線は四バカに向かれ、皆は「おいバカ止めろ」と怖いもの知らずの四バカに視線を送る。
声を掛けてきたのは檜山。毎日飽きもせず日課のようにハジメに絡む生徒の筆頭だ。近くでバカ笑いをしているのは斎藤、近藤、中野の三人で、大体この四人が頻繁にハジメに絡む。
「あ゛? 何調子乗ってんの君たち。社会的に死にたいの?」
「それとも玉潰されて性別変えたいのか? それなら俺が手伝ってやるぞ」
「ふ、二人とも落ち着いて」
黒乃とシュウの言葉に若干ビビりながらも再びハジメを煽る檜山たち四バカ。それは勇気でもなんでもなく、ただの馬鹿がするだけの無謀な行動だった。
ハジメは確かにオタクだが、キモイと言われるほど見た目が悪いわけでもなく、言動が見苦しいわけでもない。むしろイケメン……ではないがお姉さん方が愛でたいと思うタイプの顔つきをしており、実際ハジメに好意を持っている人もいるくらいだ。
だが、その好意を持っている彼女こそがこの現状をもたらす主な原因となっている。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒がハジメの下に歩み寄った。このクラス、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外である。
その彼女の名は白崎香織。学校で三大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
……とまあギャルゲや少女漫画のヒロインのような美少女がハジメに好意を持っているという事に気に食わない者が多いわけで……こんな状況になっているのだ。
ちなみにハジメの方は香織の世話焼きな気質が自分に働いているだけだと思っているので香織がハジメに好意を持っているなど微塵も思っていない。
その事に気が付いているシュウと黒乃は「またか……」と同じタイミングでため息をつく。正直二人にとって香織はハジメに害をなす根源とも言える存在なのであまり関わりたく無いのだが彼女の人間性によって嫌うに嫌えない状態でいる。
むしろ黒乃は香織と親しく、親友とも言える仲なので強く言えないのだ。そして本人は気づいていないが黒乃も香織と並ぶ程の美少女なので当然、黒乃と親しくしているハジメは嫉妬の視線を浴びている。
一方シュウの方はというと相手が女子だろうが美少女だろうが黒乃の親友だろうが構わず口を開き、むしろ「美少女? なにそれ黒乃より可愛いの?」といった感じでズバズバと思ったことを口に出している。香織にはあまり効果が無いようだが。
そんな二人の気持ちに気付かないハジメと香織は会話を続ける。香織の言葉に答える度に突き刺さる嫉妬と殺気を孕んだ視線に冷や汗を垂らしながらハジメは、二人に助けの視線を送る。それに気づいた二人は慣れたようにすぐさま行動に移る。
「はいはい、香織っち。あっちで僕とお話しましょーね。ハジメは疲れてるんだよ」
「そこの考える力が胸に吸い取られている女は任せたぞ黒乃。さ、ハジメ。席行こうぜ」
「う、うん。またね白崎さん」
やっと解放されたと息を吐いて安心するのも束の間、後ろから声がかけられた。
「南雲君、黒乃、澤田君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、黒乃。また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織たちは優しいな」
「オッス澤田。南雲ぉ、お前も筋肉つけろ! 筋肉つけりゃ二人に世話焼かれなくて済むぜ」
三大女神の最後の一人で香織と黒乃の親友でもある少女は八重樫雫。黒髪のポニーテールと切れ長の瞳が女生徒の人気を集めており、剣道に打ち込む姿に惚れた少女たちがファンクラブを結成するほどである。
ハジメに呆れながらも香織と黒乃を褒めるイケメンの彼は天之河光輝。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人であり、老若男女問わず誠実に接する彼は誰からも好かれる存在だ。
その光輝の親友である大柄な体型の男子生徒が坂上龍太郎。その肉体は制服の上からでもわかるほど立派な筋肉をしており、その上腕二頭筋はまるで広大な大地に隆起するセドナのレッドロックを思わせる。
白崎香織、八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎。この四人が学校のスクールカーストの頂点に立つ者たちだ。
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。まあ、自業自得とも言えるし……仕方ないよ」
「おはよう雫っち。……あとついでに脳筋ゴリラもおはよう。早速で悪いけど香織っちをよろしく頼むよ」
「おっす八重樫に坂上…………あとついでに天之川」
ハジメ、黒乃、シュウの順番でそれぞれ挨拶をする。ハジメは三人に少しだけ苦手意識があるが、基本的に自分が悪いせいだと自覚しているので悪い態度は取らない。
黒乃は雫とは親友だが光輝と龍太郎はただのクラスメイトだと認識しているのでいつもスルーしている。最も光輝に関しては勝手に名前を呼ばれているのでイラつくことが多いが。
シュウに関しては雫の事を香織と光輝の保護者だと思っており、ちゃんと手綱を握っておいて欲しいと思っている。龍太郎とは格闘技繋がりで関わりがあり、よき友人と認識している。が、ただ一人光輝だけは彼自身の性格もあり煩わしいと思っている。
「南雲、それが分かっているなら直すべきじゃないか? 何時までも香織と黒乃の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織たちだって君に構ってばかりはいられないんだから」
光輝のその言葉を聞いてシュウと黒乃の額に青筋が浮かぶ。
そもそもハジメから香織に話しかけた訳でもないのに説教されなければいけないのか、百歩譲って香織が言うならまだしも何で何もしていないお前が言うんだとシュウと黒乃の怒りゲージが溜まっていく。
そして黒乃は「お前に名前呼びを許した覚えはねーぞああん?」と光輝に向かってメンチをきる。
それにいち早く気づいた雫が光輝と香織を回収して離れてくれた。ハジメはそのことに感謝して頭を下げたあと自分の席について夢の世界へと旅だった。
二人はと言うと先程まで怒り心頭と言った様子だったのだが席につきハジメの寝顔を見たことにより速攻で鎮まったようだ。
「ハジメ、起きろハジメ。昼だぞ」
「う、うーん……」
シュウの声によりハジメは夢の世界から覚醒の世界へと呼び起こされる。
「あれ……僕さっきまでドリームランドにいてでっかい蜘蛛に追いかけられてたはずじゃ……」
「SAN値削れてんじゃねーか。ほらよ、今日の授業のノート」
「あ、ありがとうシュウ。いつもゴメンね」
「謝るくらいなら起きてろ……とまでは言わんがせめて学校がある日の徹夜はやめとけ。お前が倒れるようなことがあったら俺も黒乃も悲しいからな」
「シュウ……」
「悲しすぎて徹夜の原因となったゲームを片っ端からBOOK・OFFに売っぱらちまうからな」
「台無しだよ!!」
そんな茶番を繰り広げながらお互い昼飯を取り出し食べる。シュウの昼食はカロリ○メイト(チョコ)一箱に菓子パン五つ、それとエナジードリンクが一本ある。
対するハジメの昼食はというと、十秒チャージで有名なウ○ダーinゼリーを一つ飲み干して終了。シュウに「おやすみ」と挨拶をするともう一眠りするために机に突っ伏そうとした。
「おいハジメ、いいのか?」
「え? 何が──あっ」
気づいた時には遅かった、ニコニコと笑みを浮かべながら香織がハジメの元へ向かってきていた。だがしかし、ここで焦らないのがハジメクオリティ。
もう一人の幼なじみにアイコンタクトを取って自分と香織の間に割って入ってもらう。
「南雲く──」
「おっと、香織っち。ここは通さないよ。ハジメの安眠の妨げになるからね……ここを通りたければ僕を倒してから──」
「珍しいね。教室にいるの。お弁当かな? よかったら一緒に食べてもいい?」
「スルー!?」
我らが女神様は意に介さず難無くと黒乃を躱してハジメの席にやってきた。それにより不穏な空気が教室を満たし始める。ハジメは冷や汗を流しながら心の中で悲鳴を上げていた。
そしてまるで自分などいないようにハジメにだけ視線を向けて話しかける香織を見て「あれ? 俺って存在してるよな?」とシュウは口に出して確認した。どうやらちゃん存在しているようでホッと一安心する。
「えっと……有難いんだけどシュウと一緒に食べてるし、それにシュウと黒乃に相談したいこともあったから」
「そうなの? でも南雲くん眠ろうとしてたよね?」
「えぇっとぉ……」
冷や汗をダラダラと流しながらシュウに助けを求める。シュウはため息をつくと香織に話しかけた。
「ハジメが眠そうだったから黒乃が食い終わるまで寝てていいって俺が言ったんだよ。分かったら八重樫のところに帰れ。Go Home」
「むぅぅ……なんか澤田くんって私にだけ意地悪だよね?」
「そんなことねぇよ。天之川と同じように接してるだろ? さ、ハジメはこれから眠りにつくんだ、止めないでくれ……コイツが決めたことなんだからな……」
「ねぇ別に僕戦場に赴いて永遠の眠りにつくわけじゃないんだけど、その言い方ちょっと悪意含んでない、シュウ?」
ハジメがシュウの悪意に気づいた時、まさかの光輝から救いの手がさし伸ばされる。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
「? 何で光輝くんの許可がいるの?」
「「ブフッ」」
香織のまさかの返しに同じタイミングで吹いてしまうシュウと雫。光輝は困ったように香織にあれこれと話をしているがその間ハジメは現実逃避をしていた。
もういっそのこと今流行りの異世界召喚でもしてくんないかなー。そう考えているとこじつけが出る出るわ。
この四人はどう見ても召喚されて勇者として戦うパーティーでしょ、や。あーどっかの世界の神でも巫女でも姫でも王でも盾の悪魔でもスライムでも誰でもいいから召喚してくんないかなー、とかなんとか。もちろん声には出していない。
ハジメがそう思った次の瞬間、光輝を中心に光り輝く幾何学模様の円が浮かび上がった。俗に言う魔法陣と呼ばれるものだ。
突然のことで何も反応できないでいるハジメたちを無視してあっという間に教室全体に広がり、輝きを増していく。
一番早く動いたのはシュウだった。
「ハジメ! 黒乃! 逃げ──」
「にげろ」、そう叫ぼうとしたが魔法陣の光が爆発したように光る方が早かった。
光が収まった時には、その教室には誰一人いなかった。
ハジメ「突然光に包まれた僕らが次に目を覚ましたのはあからさまに異世界だった!
そしてイシュタルとかいうお爺さんに話に流されるまま戦争に参加することに!?
ていうかシュウも黒乃も空気を乱さないで!! 胃が痛い!!
次回ありふれた親友、
『異世界召喚! サモン、ワールド、ウォーゲーム!』
熱き闘志を、チャージ、イン!!」
光輝の「俺が許さないよ」理論毎回笑われてるのでそろそろ笑わないでくれるキャラがいる作品が出て欲しい。まあ私は笑わせましたけど。