これから十日間毎日更新やで、みんな見てってな〜
その階層は異様だった。まさにラスボスの部屋という言葉が似合う階層だった。
「これはこれは……奥に見える大きな扉、かな? あの向こうには……」
「反逆者の住処……多分」
「燃えてきたかしら!」
「どうせ門番がいるだろうけどな」
警戒はしているが技能に今のところ反応はない。けれど本能は違う、何かがいる、出てくると警鐘を鳴らしているのだ。
暫く歩いていると、巨大な魔法陣が空間に浮かび上がった。赤黒い光が脈打つように溢れ出る。それはハジメとシュウには見覚えがある光だった。
「またベヒモスか? あいつ程度なら……」
「いや……大きさからしてベヒモスじゃない! あれはもっと……」
魔法陣から現れたのは優に三十メートルを超える巨体、六つの頭に繋がる首はひどく長い。六つの頭の色は異なるが、全てが鋭い牙を持っていた。
名前をつけるならそう──
「湖獣……ヒュドラ……!!?」
「おいおいおい、パッと見で分かるぜ。こいつは強ぇってなあ!!」
「作戦通り動くよ! ユエ! レイシア! シュウ! 散って!!」
ハジメの声と共に散開する三人。ユエは左、レイシアは右に移動して上級魔法を放つ。
「『緋槍』!」
「『氷牙』!」
炎は渦巻き槍の形を成し、氷は龍の顎を象りそれぞれ赤頭と緑頭に向かい、二頭を吹き飛ばした。シュウもそれに続いて上空に飛び上がり青頭に向かって爆発力の高い火球を放った。
「Xカノン、
「よしっ! あいつら耐久力はあんまりない! それなら……!」
「クルゥゥァアアン!!!」
突然白頭が咆哮を上げた。すると吹き飛ばしたはずの赤、青、緑、の頭が逆再生のように復活した。
「んなっ!? くっ!!」
ハジメが白頭にドンナーとシュラークを向け発砲するが隣の黄頭が頭部を肥大化させて割り込んだ。他の頭であれば簡単に撃ち抜いたのだろうが、黄頭は淡く輝かせた頭部で弾丸を難なく防いでみせた。
「攻撃、回復、んで防御か。バランスいいなぁおい」
「防御を上回る攻撃を叩き込めばいい! 遠距離攻撃は僕が防ぐから三人は撃ちまくって!! 『錬、成』!!」
ハジメが上手くヒュドラの攻撃を防ぎ、錬成の隙間からユエとレイシアが魔法を撃つ。シュウもヒュドラの背後に回って白頭を狙おうと火球を放つが他の頭が壁になるせいで上手く当たらない。
「くそがっ、この、
壁になろうと青頭が割り込むが火球は青頭を避けて後ろの白頭に当たった。
「クルゥアア!!?」
「よし、今だ! ユエ! レイシア!」
黄頭も魔法を受け続けて消耗している。ここがチャンスだ、そう思い二人に声をかけたのだが、反応は返ってこなかった。
「いやああぁああぁあ!!!!」
「きゃあああぁ!!!」
「なっ──ユエ!?」
「レイシア!? ちぃ、黙ってろ蛇頭共!! GAOOOOOO!!! 」
放心したように動かなくなるユエとレイシアに容赦なく炎の弾と風の刃、氷の槍が降り注がれる。それらを『縮地』、『空力』で飛び回り咆哮や火球、弾丸で撃ち落としながらハジメはユエ、シュウはレイシアを回収した。呼びかけても揺さぶっても反応がない二人、ここでハジメは一頭だけ攻撃に参加していない頭がいることに気付く。
「黒頭か!!」
ドンナーとシュラークによる集中砲火、黒頭は簡単に吹き飛び、それと同時にユエとレイシアの意識が戻った。二人が糸の切れた人形のように倒れ込むところを受け止める。
「くっ、攻撃が激しい……! シュウ、錬成で壁や
「任せろ!」
ハジメが地面に触れると隆起し、大小様々な壁とヒュドラの近くに無数の土人形が出てくる。ヒュドラが狙いのいくつかを人形に変えたことで攻撃の激しさが少しだけ和らいだ。
「ついでにこれも食らっといてよ!」
そう言って放り投げたのは『閃光手榴弾』と『音響手榴弾』、どちらも鉱石や魔物の特殊な器官を加工してつ作り上げたハジメ自慢の一品だ。部屋を埋め尽くすほどの光量がヒュドラの視界を潰し、花火が爆発したような音がヒュドラの鱗を震わせる。視覚と聴覚を失ったヒュドラの攻撃精度は格段に下がることだろう。
「流石ハジメ。さてこっちは……しっかりしろかしら女」
「…………ぁ」
徐々にレイシアの瞳にハイライトが戻ってくる。光が戻ったレイシアはシュウと目が合うと涙を溢れさせ抱きついた。体全体が震えている。寒さからではない、恐怖からだ。
嗚咽を漏らしながら何度もシュウの胸板に顔を擦り付ける姿は普段のレイシアからは想像が出来ない姿だった。
「ひっく…………シュウぅ……」
「おいおい……どうしたレイシア」
「みんなが、お姉様も……ハジメさんも……シュウと……みん、みんな私のことを置いていって……それで、体が動かなくなって……」
「なるほどな。黒頭はデバフ要員ってことか、畜生が」
「シュウ……置いてかないで……!」
潤んだ瞳の奥には恐怖や不安が見え隠れしていた。いつもの溌剌とした笑顔は潜まり、怯えきった小動物のようになっていた。シュウの服を掴みいやいやと首を振る。ショックがデカすぎたのだろう、精神が幼くなっている。
「レイシア」
「いやぁ! いや! 助けてシュウ! 置いてかないで! 置いてかないでよぉ……!!」
「レイシア」
不安を払拭するためにレイシアを優しく抱きしめる。慰めるには時間が足りないし、生半可な言葉をつらつらとなぞるだけでは逆に傷を抉るだけだろう。
ならどうするか、簡単だ。行動で示せばいい。生半可な気持ちがダメなら心の底から思っていることを言ってあげればいい。
「大丈夫だレイシア……俺はどこにもいかない。ずっとお前のそばにいる。だから、大丈夫だ」
「シュウ……本当に……? ずっと隣にいてくれる……?」
「ああ。だから、まずはアイツを倒すぞ。ほらハジメたち、も──」
ハジメとユエを見て言葉を止めた、というか出なかった。何故なら二人が唇を合わせていたから、つまりキスをしていたからだ。
「んな、んなぁ!? はあ!? なにハジメとキスしちゃってるわけぇ!? はあ!? はああぁん!?」
「シュウ。台無しかしら……くすっ……」
「ぐんぬぬぬぬぬ……!」
「もう……ん……」
触れるだけ、触れるだけの軽いものだったが、確かにキスだった。レイシアがシュウの唇に自分の唇を重ねたのだ。
「な、なっ、んなにしてんの!?」
「くすっ、うふふ。なによ案外初心なのね、シュウったら」
容姿は確かに子供だ、だがその顔は、その妖艶な笑みは、その色気は──
「っ!!」
シュウの顔を真っ赤に染めるには十分だった。
口をパクパクと開閉させるシュウの腕に組み付き、耳元に口を近づけて囁いた。
「大好きよ、シュウ──さあ! お姉様とハジメさんばかりにカッコイイ思いはさせないかしら!!」
「……そうだな、レイシア。こっちはハジメと黒乃と一緒に故郷に帰らねえと行けねえんだから、さっさとあの蛇野郎を……なんだよ」
「……その時々出てくる黒乃って人の話、後で詳しく聞かせてもらうかしら。あと私とお姉様もシュウの故郷に行くかしら」
「好きなだけ聞かせてやるし、勝手に着いてこい。…………ずっと隣にいるんだろ」
「──うん!」
「くっ! ユエ! 黒頭に注意して!!」
「ん! 大丈夫! もう、効かない……!!」
一度収まった不安が再び湧き上がってくる。しかしユエの心は挫けない。その不安に押し潰されそうになるたびに、先程のハジメからのキスを思い出し、体の芯が熱くなる。気持ちは高揚し、不安は霞となって消え失せる。
「『砲皇』! 『蒼天』! 『天灼』!」
巨大な竜巻が真空の刃で赤頭の首を切り刻み、蒼炎の球体が緑頭を焼き尽くし、雷球が雷撃を生み出して青頭を吹き飛ばした。
「クル──」
「ユエの邪魔はさせないよ」
回復しようとした白頭にハジメが銃口を向ける。が、その攻撃を黄頭が許さない。ハジメと白頭の間に入り込み、防御しようとする。
「おおっと、お前の相手は俺だ、よっ!」
「クルァン!!」
「そして黒頭! 貴方は氷漬けの刑かしら!! 『
黄頭にシュウが接近して炎を纏わせた蹴りをぶち込む。レイシアは黒頭の動きを円形の氷の枷で封じ込め、冷気で首全体を凍結させ、砕いた。
「燃え尽きろ! Xカノン、
「クルァ、ルァアア!!」
タダの魔法なら防がれていただろう、だがシュウの炎は調和の炎。いかに魔法防御力が物理防御力が高くとも、調和の力によって周りの石壁と同化させられ石化してしまう。脆くなった防御には何の意味もない。黄頭は塵となって果てた。
「そして、君で最後だ」
奈落に落ちたての頃、熊の魔物を食べたことで得た『風爪』という技能による攻撃。ハジメが腕を振るうと爪の形を象った斬撃が白頭の首を三枚におろした。
首が全て無くなったヒュドラの体はグラりと倒れ、それを見てハジメはユエにサムズアップする。しかしヒュドラを倒したというのにシュウの『超直感』は警笛を鳴らしていた。
そして、それは目を覚ます。
「ハジメェ!! 避けろぉお!!」
余裕が無い、切羽詰まった声だった。あのシュウが焦っているのだ。何故? 振り向くと、ヒュドラの胴体部分から銀色の頭が生えていた。七つ目の首、鈍く光るのではなく暗月のように輝く銀の頭は暗闇に浮かぶ月のようだった。ユエと違うのは、ユエが神々しい紅月だとするのなら、ヒュドラは禍々しい暗月、不吉の象徴だ。
そのヒュドラが鋭い眼光でユエを睨みつけていた。そして予備動作も無しに全てを滅ぼすような巨大な光線を放った。
「ユエ!」
「くそっ! 間に合うか……!!」
「シュウ!!」
「レイシア! 魔力枯渇中だろうが! お前は隠れてろ!」
「違う!!
「何!?」
銀頭に重なるように金の頭が現れた。赤い双眸はレイシアに向けられている。そして、銀頭と同様に極光を口内に溜めていた。
「マズイ!」
掌から純度の濃い橙色の炎を噴射させレイシアの前に滑り込む。
「くっそ、
が ぁ あああAAAAAAAA!!!!! 」
調和作用を持つ咆哮を上げつつ手を前に突き出して極光に向かって炎を噴射させる。
「燃え、ろぉおおおおおお!!!!」
極光と炎がぶつかり混じりあう。最大出力でも押し切れない程の威力、体全体から魔力を絞り出してもまだ足りない、燃やせ、命を燃やして生命エネルギーまで絞り出さなければこの攻撃には敵わない。
シュウの額に炎が灯り、激しく燃える。
「ぉ、お、おおおおぉおおお!!! 死、ね、え、えええええ!!!」
橙炎が極光を飲み込み飛沫となって弾け飛んだ。限界を超えた過剰な魔力放出に加え、生命力の魔力変換、シュウの身体は消耗でボロボロだった。
「ハッ……げほっ、がほっ……や、やった……!」
カッ、と金色に光ったかと思うとシュウの身体は極光に飲み込まれた。
「けほっ、けほっ、ハジメ!」
自分と極光をの間に割って入ったハジメの姿を見て焦燥に駆られた。全身から煙を上げているが、特に酷いのは左腕だ。恐らくもう使い物にならないだろう、医療に関して素人のユエでも分かるほど損傷していた。いや、むしろ損傷と呼ぶレベルではなかった。
極光を凌ぐために『金剛』で肉体を強化しながら錬成で壁を作り続けていたのだ。左腕は炭化しており、肩までヒビが入り、左半身は焼け爛れ、顔半分は骨が露出している。脇腹や足も顔や腕に比べたらマシだが、それでも酷い有様だった。
ユエは痛む体に鞭打ちハジメを抱えて柱の影に隠れる。銀頭と金頭は極光を圧縮した光弾をガトリング砲のように放ち続けている、柱は一分も持たないだろう。
ありったけの神水をハジメの身体に浴びせ、自力で飲むのは厳しいと思い、口移しで神水を飲ませた。
「どうして!?」
いつもなら直ぐに再生するはずの肉体は何かに阻害されているかのように遅かった。止血の効果はあったが、それでも完治には至らない。
ユエはパニックに陥った。今までどんな傷でも神水を飲ませれば治っていたのに、と。
ヒュドラの極光には肉体を溶かし続ける永続溶解という毒の効果が含まれている。神水の回復速度、効力はそれをも上回るが如何せん喰らった範囲が広すぎる。ハジメは魔物の血肉を取り込んだ強靭な肉体を持っているので時間をかければ治りそうであるが、それを待ってくれる敵ではない。
ここももう持ちそうにない。ユエはハジメの手からこぼれ落ちたドンナーを広い立ち上がった。
「私が、助ける……!」
神水は在庫切れ、魔力も最上級魔法一発分のみ、身体強化を施した吸血鬼の肉体と『自動再生』で乗り越えるしかない。迫り来る光弾を躱しながらヒュドラに立ち向かった。
ユエがヒュドラの元へ駆け出す少し前、レイシアとシュウが隠れている柱の影では。
「起きなさいシュウ! シュウってばぁ!!」
全身に酷い火傷を負ったシュウとその体に必死に神水をかけるレイシアの姿があった。骨が露出している箇所はハジメより多く、前述の通りヒュドラの極光には強力な溶解作用がある。
ハジメと同じく魔物の血肉を取り込んでいるシュウの体だが、『調和』の力によってそれは限りなく人間に近い肉体となっている。ステータスは化物、しかし肉体は人間、なんともあやふやな存在だ。
そのあやふやな部分が今回は命の危機を招く。
「神水が効かない……!? それじゃあ、このままじゃ……!」
このままではシュウは間違いなく──
「死んじゃう」
神水をかけ続けて、回復魔法をかけ続ければ可能性はあるかもしれない。が、神水はもう無くなり、回復魔法をかけ続ける程、レイシアの魔力は残っていない。
しかしシュウを救う方法が無い訳では無い。ただこれはレイシアも試したことはないし、あくまで可能性に過ぎない。けれど、大切な人を助けれる可能性が1ミリでもあるのなら、それに掛けてみるしかない。
レイシアはおもむろに指を噛み、噛み口から流れる赤い鮮血をシュウの口元に当てる。
「……『
蒼い光が淡く輝きレイシアとシュウを包み込む。レイシアの体が氷のように透け始めたかと思うと砕け散り、霧になる。そして、シュウの体に溶け込んだ。
(シュウ……貴方は死なせない!)
視界いっぱいに映る白の世界。ここは確か、自分の深層心理の世界だ。
「シュウ」
「レイシア……? なんでここに……」
「今、私は貴方と同化しているの。だから貴方の意識の中にも入り込めるし、貴方の身体を私の意思で動かすことも出来る」
レイシアが腕を上げればつられて自分の腕も上がる。自分の体を操られているというのに不思議と嫌悪感はなかった。レイシアは真剣な表情でシュウに語りかける。
「現実の貴方の身体は、直ぐに治療しないとまずい状態だった。けど神水も無くて、回復魔法も使えない……貴方を治療する手段が無かったの……だから、私は『魂躰同化』を使って貴方の体と融合した」
「これは……レイシアの知識が、頭に……」
「同化しているからね、貴方の記憶も私は読み取れる。そして、貴方の身体の負傷している箇所を、私が補うことも出来る」
シュウの手を取って自分の手と重ねる。俯くレイシアの表情は読めないが声が震えていることから察せる。
「……本当は使いたくなかった。戦えるようになったら、また貴方が傷ついてしまうから……でも、同時に貴方を生かすには、これしか手段がなかった……」
「レイシア……」
「だから、お願いシュウ。絶対に無茶をしないで……どうか、死なないで……!」
「……ああ、しねぇよ。というかお前も身体を動かせるんだろ? 無茶しそうになったらお前が止めてくれよ」
「元々の肉体の所有者は貴方だから、貴方が本気で拒めば私が操作することは出来なくなるわ……」
元々『魂躰同化』は相手に乗り移り内部から敵を殺す技だ。ユエが吸血鬼の王なら、レイシアもまた王族に近い血縁の一人。この能力は吸血鬼族の中でもレイシアしか持っていない特別な能力であった。まさかこんな風に使うとはレイシア自身も思いもしなかったが。
「ふうん……まあさして関係ないな。要するに、死なないであの蛇をぶちのめせばいいんだろ?」
「そうだけど……言い方が野蛮ね」
「よせやい」
「褒めてないわよ。全くもう……」
レイシアは困ったように笑い握っていた手を離しシュウに抱きついた。
「私も精一杯サポートするわ……だから……」
「俺は死なねぇよ。勿論ハジメもユエも、そんで……レイシアも、死なせねぇ」
レイシアの身体がシュウの身体と混ざり合う。白い世界は水晶のような氷に覆い尽くされ、そして砕けた。
目が覚めてまず最初に頭に思い浮かんだのは、そう──
「レイシア!」
(はいはい何かしら?)
「うおぁ!? 頭の中に直接声が!?」
(同化しているって言ったでしょ。今はお姉様が一人でヒュドラと戦っているからさあ、急ぐわよ!)
「ハジメは」
(ハジメさんなら大丈夫、もう少しで目が覚めるはずよ)
「……分かった」
レイシアが言うのなら大丈夫なのだろう。信じよう。それよりも今はユエの方が危ない、まだ被弾はしていないとはいえ先程から光弾が掠めている。既のところで避けているとはあれではそのうちマトモに喰らってしまうだろう。
と言っている間に光弾がユエの死角から撃ち込まれる。避けて前に進むのに必死なユエは気づいていない。
(お姉様! 危ない!)
「間に合、ぇえええ!?」
「んむぎゅ!?」
ユエを助けるために掌から炎を噴射させた途端、物凄い速さでユエの元へすっ飛んで行った。シュウの超人的な反射神経によりなんとかキャッチすることが出来たが、もし少しでも位置がズレていたらとんでもない事になっていただろう。
一体何が起こったのか、急激にかかったGと回る視界に頭がおかしくなりそうだったユエであったが、シュウを視界に捉えたことで持ち直す。
「シュウ! 無事で、良かった……!」
「レイシアのおかげだがな」
「その姿……そう……大体分かった」
現在、シュウの体のあちこちは氷のような結晶で代用されており、短かった髪もバンダナからはみ出る程伸びてレイシアと同じ髪色になっていた。
ユエはレイシアから『魂躰同化』について話を聞いたことがあるのでなんとなく今の状況も把握した。
「ユエ、俺たちがあの金頭を止める。だからお前はあの銀頭を殺ってくれ。なるべくサポートはするが……できるか?」
「……難しい、けど……やる……!」
「こらこら、ユエ一人でやろうとしないでよね」
ドンナーを握りしめ、此方を睨みつけている銀頭をユエもまた睨み返す。すると、ドンナーを握るユエの手に自分の手を重ねるようにハジメが現れた。神水でなんとか持ち直したのだろうが、体はボロボロで、左眼は光を失っていた。
「ハジメ!! 大丈夫!?」
「なんとかね。おっと、錬成」
ヒュドラの光弾を岩の壁が阻む。ポーチから今まで採取した鉱石を投げ入れているので少しは持つだろう。
「さて、ユエ。僕の血を吸うんだ」
「え……で、でも……ハジメ……ボロボロ。血を吸ったら……」
「大丈夫、僕は死なないよ。ユエの魔法が頼りなんだ。ユエ、お願い」
「……ん、分かった」
ハジメの優しくも強い笑みに目を細め、首筋に噛み付く。ハジメの血液がユエの体に流れこみ、隅々まで行き渡る。傷が癒され、魔力が回復するのが感じ取れる。ハジメはぐらつく意識を根性で押さえつけユエを抱きしめる。
「ぷはぁ……ごちそうさま」
「うん、お粗末さま。じゃあ……あの蛇を倒そうか。シュウには金頭をお願いしたいんだけど……何その体と頭?」
「レイシアがボロボロの俺の体を守ってくれてるんだ。気にするな、あの金頭をぶっ殺すくらいは動ける」
「ならヨシ。色々聞くのはこの戦いが終わったあとにしようか。じゃあユエ、落ちないように僕にしっかりしがみついていてね」
「ん!」
ユエを抱え上げて、ユエ自身もハジメの体にがっしりと抱きつく。と、錬成で作り出した壁に亀裂が入り始める。
「おっとと、もうヤバいね。それじゃいち、にの、さん。で飛び出すよ。いいね? いち、にの、さん!」
「ふっ!」
壁が砕けると同時に三人は飛び出した。銀頭の方にハジメとユエが、 金頭の方にシュウが、それぞれの攻撃範囲が被らないように意識して正反対の位置にいる。
ハジメたちの姿を視認した銀頭はまるで雨のように光弾を降らせる。一撃でも貰ったらアウトだろう。しかしハジメは焦らない。表情には余裕が見える。
その理由がこれだ、死の淵をさまよった結果覚醒した『天歩』の最終派生技能『瞬光』。知覚機能を拡大し、合わせて『天歩』の各技能を格段に上昇させる。人間死にかけると走馬灯と呼ばれるものを見るが、その状態は五感が平常時の二百〜三百倍に跳ね上がると言われている。
何としてもユエを、レイシアを、シュウと共に地上へ出る。その強い思いが影響したというのもあるだろう。
「遅いね」
「違う……ハジメが速い」
『縮地』で滑るように地を駆け飛び上がる。身本来動きの取れないはずの空中でも『空力』で縦横無尽に動き回り光弾を躱す。
痺れを切らした銀頭が今までの量とは比べ物にならないほどの光弾を放つ。それは雨と言うよりは天に近かった。空が降ってくるというのにハジメは未だ焦らない。光弾の隙間を縫うようにドンナーから発砲された弾丸が天井を穿つ。少し遅れて橙色の炎弾も近い位置に穴を開けた。
「気づいてくれたんだね」
移動速度、範囲ともに拡大した『空力』で飛び回りながらどんどん発砲する。撃ち尽くしたらリロードし、また天井に向けて発砲する。
それを三度ほど繰り返した辺りで、それは起こった。爆発音と衝撃が部屋全体に響き、数秒の間を開けて天井が銀頭に向かって落ちてきた。
もちろん避けることも出来ず銀頭に直径十メートル、重量数十トンの超特大の重しがのしかかる。合わせて落ちてきた瓦礫も忘れずに踏みつけて銀頭に落とす。あっという間に超質量の拘束具の完成だ。そしてこのチャンスを逃すわけには行かない、すかさずユエに指示を出す。
「ユエ、今だ!」
「ん、『蒼天』!!」
青白い太陽のような火球が銀頭を押しつぶす。同時に鱗を融解させダメージを与えていく。重しにからだをおさえつけられ、その上から太陽に潰される。最早逃げ場ない。銀頭は断末魔を上げてその首を融解させた。
同時に氷で体と首を拘束されていた金頭に向けて極太の橙炎が放たれる。
「X・BURNER!
(いっけぇええええ!!!)
「グルルァアア──」
迎え撃とうと極光を放った金頭だったが、その極光ごと金頭は橙炎に飲み込まれた。
額の炎を消してシュウは膝を着く。流石に限界を超えすぎたようだ。ただでさえ瀕死だった身体が悲鳴をあげるように軋む。
「うぐっ……」
(シュウ!?)
ハジメも銀頭、金頭、両方の消滅を確認し、感知系技能からもヒュドラの反応が消えてることからヒュドラの死を確認した。確認して気が緩んだのか、グラりと体制を崩して前のめりに倒れこんだ。
「ハジメ!?」
「もう……ゴールしても……いい、よね……」
その言葉を最後にハジメとシュウの意識は途切れた。
ユエ「激闘を制した私たち……でもハジメとシュウは重傷を負って生死をさ迷っていた……ハジメ、シュウ、死なないで……!
あなたが死んだらこの小説はどうなるの……!?
山場を乗り越えれば天国が待っている……はず。
次回、ありふれた親友
『反逆者とは。リフレッシュ、リフレイン、リベレーション』
熱き闘志に、チャージ…………んっ!」
出た!レイシアさんのヒロインムーヴだ!(テテ-、テテ-、テ-テテテテテ-!)
黒乃?知らない子ですね……
あと金頭はオリジナルです。金頭って言いづらいんで金たまって読んでください。きんたま。