ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

12 / 30
 今回ちょっと長いですよ。あと冒頭飛ばしてくれて構わないんで。読み飛ばして、どうぞ
 あとハジメくんはやはりヒロインです。


第十二話「反逆者とは」

「おつかれ。段々上手くなってきたじゃんか、炎の使い方」

「当たり前だろ、俺だぞ」

「ええ……?」

 

 気がつくといつもの白い空間、またか、思わずため息をついてしまったシュウを責める者は誰もいない。

 

「いやため息て」

「今度はなんだよ」

「……まあいっか。さっきも言ったけどお疲れ様、今回は頑張った君にご褒美を上げに来たんだよ」

「きっしょ」

「あのさあ……」

 

 何故前世の自分に対してこうまで辛辣に当たれるのか、同族嫌悪を通り越して同人嫌悪に辿り着いている。今度は彼がため息をつく番だった。

 

「……はあ。はい、これ」

「なんだこれ? 弓?」

 

 渡されたのは骨を紡ぎ合わせて作ったような弓、境目には黒いリング状の物質で固定されており、持ち手も同じ素材で作られている。どこから取り出したのかは分からない。

 

「今度はそれを使えるようになってもらうよ」

「何でお前にそんなこと指図されなきゃ……」

「ハジメくん、守りたいんでしょ?」

「……あ?」

 

 シュウの睨みも涼やかに受け流しフッと笑ったあと目付きを鋭いものに変貌させる。

 

「守るためには力が必要だ。それともなんだ? 守りたいってのは嘘なのか?」

「……おもしれぇ、そのくだらねぇ挑発に乗ってやるよ……!!」

「どうせ目が覚めればまたここであった出来事は忘れる。前も言ったが、たとえ記憶が忘れても身体が覚えているように叩き込む」

「上等だ! 前はいいようにボコボコにされたが今回はそうはいかねぇからな!!」

「ああ。本気でかかってこい」

 

 額に橙色の炎を灯し、心の奥を見透かすような瞳でこちらを見詰められ、シュウも同じように額に炎を灯す。

 拳に炎を灯そうとして気づく、自分の炎の色が橙色ではなく赤色だったことに。

 首を傾げるシュウに目の前の彼はこう言った、

 

「言い忘れていたが、今回は肉弾戦禁止だ」

「は?」

「あと炎も大空の炎ではなく嵐の炎を使ってもらう」

「は??」

「最後に、武器は(それ)を使え」

「は???」

「構えろ、こっちから行くぞ」

「は????」

 

 

 

 

 

「は?????」

 

 

 

 

 


 

 

 柔らかい、心地よい感触が体を包み込んでいる。深海から水面に浮上するように段々と微睡んでいた意識が覚醒していく。

 

(この感触は……布団にベッド……? 迷宮にいたはずなのになんで…………なんか柔けぇな)

 

 ふかふかの布団とは違う柔らかく、そして暖かい感触が自身の体を覆っていることに気づき視線を布団に向ける。不自然に盛りあがっているソレは、呼吸に合わせて上下に動いていた。

 バッ、と布団を剥いで漸く分かった。暖かな感触の正体はレイシアだった。しかしその格好は素肌丸出しというなんとも扇情的な格好をしていた。

 

「んぅ〜……さむいぃ……」

「んな格好でくっつくな露出かしら女!」

「むぎぃい!? 痛い痛い痛い!!? 何事ぉー?!」

 

 寝ぼけて裸のままシュウに抱きついてくるレイシアの顔面を思い切り鷲掴みにする。寝起きの女子にアイアンクローをかける男、澤田シュウ。鬼畜である。

 突然の痛みに目を白黒させていたレイシアであったが、シュウを視界に捉えるとフリーズしたように動きを止めた。

 

「お、おいレイシア? やべえ強くやりすぎたか……?」

「しゅ」

「しゅ?」

「シュウ──!!!」

「のわぁっ!?」

 

 完全に意識を覚醒させたレイシアはシュウの胸元に飛び込んだ。いくら見た目が年下とはいえ裸の女子、黒乃以外に興味はなかったシュウでもこれには動揺してしまう。

 ひっぺ剥がそうかと思ったが自分の胸元に顔を埋めながら鼻を鳴らしているレイシアを見てバツの悪い顔になった。先程はアイアンクローをかました癖にこれは流石に邪魔できないらしい。鬼畜のシュウにもほんの少しだけ良心は残っていたようだ。

 

 暫く抱きつかせてされるがままにしていたシュウだったが、レイシアが落ち着いたのを見計らって話を聞くことにした。

 

「……心配した……魔物を倒した後、直ぐに倒れたから……シュウだけじゃなく、ハジメさんまで倒れて…………私もお姉様もどうしたらいいのかって……!」

「あ〜……なんだ、その…………すまん」

 

 ヒュドラを倒した後、二人揃って意識を失ってしまったハジメとシュウ。少しして奥の扉がひとりでに開いたのだそうだ。

 時間経過で少し回復したユエが扉の奥を確認したところ、中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったというのだ。神水の効果で回復しているといってもハジメもシュウも重傷だ。ユエとレイシアは力を振り絞り二人を住居内に連れていくことにした。

 ハジメはユエが抱えて、シュウの方は『魂躰同化』が維持されていたのでレイシアが体の主導権を握り、動かして移動した。

 

 使いすぎからか最近めっきり出にくくなった神結晶から神水を絞り出してハジメとシュウに飲ませ続けた。自分たちも魔力が回復したら治癒魔法をかけたりとそういったことを何時間も繰り返してやっと二人の治癒力がヒュドラの極光の毒素を上回った。

 ようやく正念場を乗り越えたことで安心したのか、今までの疲れがドッと溢れてきた。このまま柔らかい布団の中で寝てしまいたかったがまだやることがある。

 

 ユエとレイシアはここを探索することにした。まだ魔物が現れる危険性もあるし、罠の可能性もある。安全マージンを取れるまで油断はできない。気張りながら探索した結果、ここは安全であるということがわかった。

 どうやらここは反逆者が住んでいたと思われる階層らしく、近くには住処らしきものもあったようだ。外には畑や滝、家畜小屋に岩壁を加工した建築物等など……このベッドルームといいなんとも豪華な作りになっている。

 建築物の中はあかない部屋も多く探索出来そうな箇所はあまり無かったが、三階だけは封印も鍵がかかってなかったようだ。調べるのは二人が起きてからということで落ち着いた。

 部屋のエントランスから医療セットを見つけ出し、ベッドルームに戻ってハジメとシュウを治療していく。シュウの体に包帯がグルグル巻かれているのはそれが理由だ。

 

 一気に話して疲れたようで、レイシアはふぅ、と息を吐いた。

 

「なるほどな……ありがとな、レイシア」

「ん……えへへ。もっと撫でるといいかしら」

「はいはい。ところでハジメとユエはどこ行ったんだ? 見当たらないが……」

 

 何だかんだ自分も甘くなったな、と思う。今までは黒乃以外の異性に魅力を感じることは無かったし、それはこれからもずっと変わらないと思っていた。

 しかしレイシアと出会い、助け合い、喧嘩して、彼女の図々しさや喧しさ、意地っ張りな外面で隠す寂しがりなところ……愛らしさを感じていた。まさか自分が黒乃以外の女子に、しかもレイシアに惚れるとは……吊り橋効果擬きはなんとも恐ろしいものだ。なんてふざけて考えみるがこれが吊り橋効果でないなんてことは当事者であるシュウが一番わかっている。

 

 不意に頬に手を当ててみると口角が上がっているのが分かる。無意識に感情が顔に出ていたようだった。頬を抑えて平常心平常心と心の中で唱えているシュウを知らずにレイシアがのほほんと答える。

 

「ハジメさんとお姉様なら外にいるはずよ。今頃お風呂にでも入ってるんじゃないかしら?」

「ハジメと風呂、だと……!? ん? ハジメはもう目が覚めたのか?」

「昨日ね。一応私とお姉様で貴方たちの体を拭いてあげたのだけどそれでも臭いはするし、気になるでしょ?」

「ああ、それでか……ん? まて、今俺たちの体を拭いたって言ったか?」

 

 ハジメとユエが一緒に風呂に入っていると聞いて様々なことがぶっ飛んだシュウ。本来なら『何故こんなところに風呂があるのか』、や『ハジメは無事なのか?』など色々と聞きたいことがあったのだろうに……こんな残念な男だっただろうか? 

 風呂の衝撃ですっぽ抜けそうになったが、レイシアたちが自分たちの身体を拭いたと聞いて目を見開く。そして今の自分の姿を確認する。

 

 そう、全裸だった。恐らくアダムの方がまだ着ている。

 

「痴女か……!?」

「痴っ!? 違うかしら!!? 発案はあくまでお姉様で私はベッドを汚すと悪いから拭いたのかしら!! 別にやましい気持ちなんてないかしら!!」

「でも俺のち〇こ見たんだろ?」

 

 どストレートである。身も蓋もない。

 

「……」

 

 耳まで真っ赤にして露骨に目を逸らす。口笛をふこうとするが吹けていない。掠れた音が響くだけである。

 

「目を逸らすな、おい。こら」

「…………お父様のしか見たこと無かったから、少し驚いたわ……」

「……むっつり痴女め」

「んなっ!?」

 

 痴女だけでなくむっつりの称号まで手に入れてしまったレイシア。恥辱に顔を染めているかと思いきやなにやら満更でも無さそうだ。これはむっつり。

 

「レイシア〜、シュウは起きた……ってシュウ!」

「おわっ、危ないだろハジメ」

 

 扉を開けて見慣れない服を着たハジメとユエが入ってきた。ユエに至ってはカッターシャツ一枚なので見慣れてたまるかという格好だが。

 

 ハジメはシュウを見るやいなや超速でシュウに飛びつく。美少年が背中に手を回し抱きついている光景はご腐人方からしたら宝石のような光景だろうが当の本人たちは真剣だ。ハジメはシュウの意識が回復したことを涙を流して喜んでいる。ハジメの後頭部に手を当てて落ち着くまで撫でてやることにした。

 数分たって落ち着いたのかハジメは照れ笑いを浮かべながらシュウから離れた。

 

「あはは……シュウごめんね、情けないよね」

「んなことねぇよ。俺の方が先に起きてたら同じことしてたに決まってる」

「そう、かな? そうだったら嬉しいな……」

「ん。シュウも無事でよかった」

「おうユエ。ハジメとの風呂は堪能してきたか?」

「ん……いいお湯だった。心做しか若返った気がする」

「そうかそうか。後で屋上来いよ、久しぶりに切れちまったよ……」

 

 とことこと歩いてハジメの腕に抱きつくユエにマウントを取られキレ散らかすシュウであったが、傍観していたレイシアがシュウの腕をちょい、ちょい、と叩く。

 

「なんだ?」

「そ、その……わ、私たちもお風呂に入りに行かないかしら……? ……だめ?」

 

 照れくさそうに、恥ずかしそうに、そしてこてりと小首を傾げ訪ねる姿にドキッとする。頭をガシガシとかいて大きく息を吐くとベッドから起き上がりレイシアを抱き上げる。

 

「きゃわっ! ちょちょっとシュウ!? 恥ずかしいかしら!!」

「今更だろ気にすんな」

「そうじゃなくて、お互いの格好よ!!」

 

 言われて自分の姿を見る。パンツすら履いていない全裸。対するレイシアも同じく全裸。

 

「まあこれから風呂入るんだしいいだろ」

「よくない!!! ちょ、ほんとにこの格好で行くの!? ねえってば!!」

「俺ら以外誰もいないならいいだろ。ハジメと俺はガキの頃一緒に風呂はいってたしな」

「謎理論やめなさい!!」

 

 レイシアの言葉を無視して全裸のまま風呂へ向かっていくシュウ。レイシアは抱き抱えられている分隠れているがシュウは両手を使っているので男の象徴を隠すことが出来ない。ハジメは顔を赤くして目を逸らしていたが、ユエは興味深そうにジィっと見つめていた。むっつり吸血姫め。吸血鬼は全員むっつりスケベなのだろうか。

 

 諦めたレイシアに風呂の場所へ案内されながら歩く。いくら人がいないからとはいえこんな解放的な場所を全裸で歩いていると性癖がねじ曲がりそうな気がしてならない。風呂が見えると早足で向かい、到着してすぐ飛び込んだ。

 

「おおあったけぇ」

「ぷはぁ! 乱暴なのよあなたは!」

 

 多少口論もあったが湯に浸かればなんとやら、風呂の温かさにまったりとする二人。迷宮内では体を拭く程度で済ませなければいけなかったので風呂に入るのは数ヶ月ぶりになる。まさに極楽といった様子だ。

 シュウから離れていたところで湯船に浸かっていたレイシアがスススと肩と肩が触れ合う距離まで近づいてくる。

 

「どうした?」

「……ようやく貴方とゆっくり出来るんだもの。こうして寄り添うくらいいいでしょ?」

「……かしら忘れてるぞ」

「あら、顔が赤いわよ。魅力的だったかしら?」

「抜かせ貧乳」

「むきぃー!!」

 

 ポカポカと殴りつけてくるが威力はさしてない。シュウは景色を見渡すよう顔を背けていたが、その頬はリンゴのように赤くなっていた。ツンデレめ。

 

 風呂を十分堪能したあと、二人はハジメが持ってきてくれた服に着替えて反逆者の住処と思わしき建築物に探索することにした。

 

 一階にはリビングらしき部屋に台所とトイレと言った裕福な家庭の部屋のような内装だった。しかし長い間放置されていたと思えないほど隅々まで手入れが行き渡っていたことに首を傾げる一行。二階には書斎や工房と思わしき部屋があったがどうやら扉に封印が掛けられているらしく、現状ではどうしようもできないようだった。

 

 そして三階、一つしかない部屋の扉を開けて四人は中に入る。そこには直径七、八メートルの大きさの魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。王国の図書館で魔法関係の本を読み漁ったハジメでも、古い魔法陣を知っているユエでさえも見たことも無い幾何学模様の魔法陣はとても細緻なものだった。

 

 しかし魔法陣よりも気になる存在がある。魔法陣の向こう側、そこには装飾が施された椅子に座ったまま朽ちている骸がいた。死亡してから長い時が経っているようで、死体は既に白骨化していた。高位の魔法使いが羽織るようなローブを纏っているその白骨化した死体は、椅子にもたれ掛かりながら俯いている。わざわざ魔法陣があるこの部屋で死を選んだのはなにか意味があるのか……。

 ハジメが思考しているとユエが袖を引っ張る。

 

「ハジメ……多分あの骸骨は、反逆者の一人」

「まあ、ですよねーって感じだな……」

「このままじっと待ってても何も起こらないと思うし、魔法陣に触れてみようか」

 

 そう言ってしゃがみ、ハジメが魔法陣に触れた瞬間、部屋が神秘的な光で満たされる。光収まるとそこには後ろの骸と同じローブを着た黒髪の青年が魔法陣の中央に立っていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

「オルクス大迷宮……そういうことかよ。おいオルクス、アンタは──」

「ああ質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられないんだ」

「何?」

「ホログロムみたいなものなのかもね」

 

 問い詰めるために近寄ろうとしたシュウだったが、幻影に行動を予測され疑問符を頭に浮かべる。それをハジメが冷静に補足した。

 オスカーは話を続ける。

 

「だがね、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

 オスカーから話される内容は四人全員が息を飲むものだった。ハジメたちがこの世界に呼び出された日に聞いた内容と全くの正反対の話、この世界の人間は神々の駒で戦争は遊戯に過ぎない。そんな狂った神々たちの目論見を阻止しようと立ち上がったのは神々直径の子孫たち。後に解放者と呼ばれる人間たちだった。

 オスカー・オルクスもその解放者の一人、その中でも先祖返りと呼ばれる凄まじい力を持った七人のうちの一人でもあった。

 

 紆余曲折ありながら神々がいる神域を探し当てた解放者たち、しかし狂った神々は解放者たちの狙いに気づき最悪な手段で心をへし折りに来る。人々を言葉巧みに操り、解放者たちは神敵であるの唆したのだ。解放者が反逆者と呼ばれることになった所以である。

 守るために得た力を守るべき人々にぶつける事も出来ず、次第に解放者の人数は減っていく。最後に残ったのは先祖返りの力を持つ七人のみだった。神々だけでなく世界を敵に回した彼等は自分たちでは神を討つことは不可能と悟り、世界の果てに迷宮を作り潜伏することにした。いつか自分たちの意志を継ぎ、神々を討ってくれる者が現れると信じて……。

 

 長い話を終えてオスカーは微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか……」

「オスカーさんは悪い人では無さそうだね」

「少なくともこの世界の神よりはな」

 

 オスカーの言葉に嘘偽りないと思ったハジメと若干ツンデレっぽい口調でオスカーを認めるシュウ。

 

「君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい……話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを……」

「ぐっ!?」

 

 話を締めくくるとオスカーの姿は消える。同時に酷い頭痛に襲われるが、頭の中で魔法陣が刻まれるようなイメージが刷り込まれる。魔法陣の光が収まると額に手を当てていたハジメが大きく息を吐いた。

 

「ふぅ……はあ〜……」

「大丈夫かハジメ?」

「うん。確かに頭は痛いけど成果が無かったわけじゃないよ」

「その心は?」

「神代魔法を手に入れたんだ。名前は生成魔法、鉱物に魔法を付加して特殊な性質を持った鉱物を作れるみたい。錬成師のためにある魔法だね」

「神代魔法ねぇ……俺たちも魔法陣に触れば覚えられるのか?」

「多分ね。ユエとレイシアも覚えてみたら? 試練がどうとか言ってたし僕が貰えたんだから多分皆も貰えるはずだよ」

「私、錬成使えない……」

「私もかしら……」

「貰っといて損はないだろ。神代魔法って言うくらいだしな」

 

 三人はそれぞれ魔法陣に触れて生成魔法を取得する。その度にオスカーが同じ話をするのだが……なんというか、哀れに思ったのはハジメだけではない気がする。

 

 全員が神代魔法を会得し、オスカーの亡骸を外へ連れ出し滝の近くに墓を立ててやった。理由としては『冷たくて気持ちがいいだろう』という適当な理由、心做しかオスカーの墓石が濡れているような気がしたが、恐らく滝の飛沫が当たったのだろう。多分。

 ハジメが石を錬成して造花を作って敷き詰めたところで本題に入る。

 

「さて、とんでもない話を聞いちゃったけど……どうする? オスカーさんには悪いけど、生憎僕はこれっぽっちも関わりたいとは思わないんだよね」

「まあ勝手に呼び出されて神の掌で踊らされるくらいならオスカーの意志を継いでやってもいいが……あくまで俺らの目的は元の世界へ帰ることだ。戦争どうのこうのはここの世界の住人たちで解決して欲しいってことだ。まあ帰るための手段を探しに地上へ行かないといけねぇんだけどな」

「僕とシュウはそんな感じだけど……ユエとレイシアはどうする?」

 

 正直こんな危険な世界とは今すぐおさらばしたいのがハジメの本音だ。この世界に来てからいい事などひとつも無かった。辛いし苦しいし最悪だった、それでも乗り越えてこれたのは一重にシュウと黒乃という親友達(存在)のおかげだった。そしてユエとレイシアという心を許し合える仲間が増え、今ハジメはこうして生きている。三人に感謝することはあってもこの世界に感謝することは無い、

 シュウはただただハジメと黒乃を無事に元の世界に返したい一心で生きている。勿論自分も帰りたいが最優先なのは二人の無事だ。二人に危害を加えるものは容赦はしないし、たとえ神が相手だろうが殺してみせる。最近その二人だけでなくもう二人優先される少女たちが増えたのだが、これは蛇足だろう。

 

 ハジメに問われ、二人は悩む素振りも見せずにユエはハジメに、レイシアはシュウに、それぞれ正面の相手に抱きつく。

 

「私たちの居場所はここ……」

「二人が行くところが私たちの行くところかしら」

 

 方や自分の国のために尽くした結果裏切られ、方やはそれを止めようとして同様に封印された。老いることも死ぬ事も出来ない肉体を持つユエにとっては、この世界は牢獄のようなものだった。それはレイシアも同じで、氷の結晶に閉ざされている間、時折意識が戻ることはあったがそれでも瞼ひとつ動かすことは出来なかった。声もあげることが出来ないこの世界に希望などない、そう思っていた。

 

 その二人の絶望を砕き、暗闇から助け出してくれたのがハジメとシュウだ。二人が自分たちの全てであり、生きる意味なのだ。

 

「そっか……二人が一緒なら心強いよ」

「まあハジメの隣はユエ、お前だけのものじゃないけどな」

「むっ……独占するつもりは無いけどさせるつもりも無い……」

「じゃあシュウの隣は私だけのものかしら?」

「レイシア、僕も独占するつもりは無いけどさ、させるつもりも無いよ?」

 

 ワイワイと談笑し合う様子は、第三者から見たらまるで家族のように映ることだろう。

 

 オスカーの墓石に風が吹き、かさりと造花を揺らした。

 

 


 

 

 オスカーの住処には工房に書斎と学べるものが多かった。そこでハジメたちは療養の意味も込めてここを拠点としてしばらくの間滞在することにした。

 そしてハジメたちがオスカーの拠点に滞在してから二ヶ月が経とうとしていた。

 

「ハジメ、どうだ? 腕の調子は」

「うん。だいぶ馴染んできたかな」

 

 そう言ってハジメは左腕の義手をぐるぐると回してみせる。ヒュドラの極光によりハジメの左腕と左眼は使い物にならなくなってしまい、どうしようかと困っていたところ、オスカーの工房で発見した。しかもこの義手、アーティファクトである。魔力操作によって本物の腕と変わらないよう動かすこともでき、なんと擬似的な神経機構のおかげでものを触った時の感触も再現される物凄い性能だ。

 ちなみに工房や書斎はオスカーの骸が身につけていた指輪を拝借したことで入れるようになった。シュウ曰く、「重要アイテムっぽいし貰っておこうぜ」とのこと。貰えるもんは全部貰っておこう精神、血も涙もない。

 

 左眼は神結晶に『先読』、『魔力感知』などの探知系技能を生成魔法で付与した義眼を作ることで事なきを得た。左眼も左腕も、ヒュドラの極光により欠損していたので神水でも治ることは無かったのだ。炭となった左腕を切り落とし、機能しなくなった左眼を抉り出すのは少し前のハジメの精神では出来なかっただろう。何だかんだ迷宮を乗り越えるうちに逞しくなっていたようだ。

 

「この眼はまだ慣れないけどね」

「暗闇なら光って便利なんだがベッドでまで光られると流石に困るからなぁ……」

「でも義手に眼帯ってちょっと、ほら、ね……?」

 

 そう、神結晶を使用していることにより常に左眼が青白く発光しているのだ。夜のトイレで出会ったりしたらチビってしまいそうな怖さがある。レイシアはチビった。

 落ち込むハジメをシュウが慰める。

 

「まあまあ、これで元通りって訳じゃねえけどかっこいいからいいじゃんか。俺は好きだぞ?」

「そ、そう?」

「おう」

「えへへ……」

(可愛い)

 

 頭を撫でると嬉しそうに微笑むハジメを見て和むシュウ。

 

「そういえば、すっかり黒髪にもどっちまったな」

「元々根元だけだったしね」

「んー……少し残念だな。お揃いみたいでちょっと嬉しかったんだが……」

「あ、そうだったの? それなら……」

 

 そう言ってハジメは指輪型アーティファクト、『宝物庫』から缶詰のような容器を取りだした。この宝物庫はオスカーが保管していた物でゲームなどでよくあるインベンドリ、道具袋のようなアーティファクトだ。中には今まで採取してきた鉱石やこの二ヶ月で作り上げた兵器やアーティファクトの数々が入っているのだが、容量にはまだまだ余裕がありそうだ。

 

 取りだした容器に指を入れすくい上げると、白く濁った液体が指先から垂れている。ハジメは白く汚れた指で前髪の一部をつまみ上げ塗り込むように何度も擦る。軽く擦った部分を水で長し、汚れた指を洗いシュウに見せる。

 

「どう? メッシュみたいな感じだけどこの部分はお揃いだよ!」

 

 ハジメの髪は一部分だけ白く染まっておりちょっとしたメッシュのようになっていた。今髪を染めるのに使った液体はオスカーの工房にあった塗料を薄くしたもので少量なら人体に害はない。シュウは一部分とはいえ、自分と同じ髪色に染めてくれたハジメに感激し抱きついた。

 

「可愛い愛してる!」(やっぱりハジメは最高だな!)

「うぇえ!?」

 

 二人がイチャついていると家の方からユエとレイシアが出てくるのが見えた。ユエは二人がイチャついているのを見てハジメを独占された事に怒りを覚え「むきー!」とプンスコし、レイシアは『またか』とため息をつく。

 

「シュウ……またハジメとイチャついている。何度も言うけど……ハジメは私の嫁」

「じゃあ、俺も何度も言うがハジメは俺の嫁だ」

「僕は女の子じゃないんだけどなぁ……」

「そもそもシュウのお嫁さんは私かしら」

 

 シュウとユエが言い争い、レイシアが的はずれな意見を言ってハジメが苦笑いを浮かべる。いつも通りの平和である。

 

 


 

 

 人口太陽が沈み夜が耽ける中、ハジメは工房にこもりある物を製作していた。

 

「よし……これを付ければ……完成っ! ふぅ〜……ようやく終わったぁ〜!」

 

 背もたれに寄りかかり足を投げ出す。相当集中力を使う作業だったようだ、ハジメは服の上からでもわかるくらい汗をかいていた。ベタつく肌に気づき顔をしかめる。

 

「お風呂行こっと……ユエたちを起こさないようにしないと……」

 

 毎回入浴する時、気がつけばユエがおり、結局毎日ユエと一緒に風呂に入ることになっていたハジメ。その度に毎回精を搾り取られる幸福な苦行を味わっていた。一昔前のハジメなら大層羨んでいたであろう状況だが、実際にヤられる側に回ると辛いものもあるのだとか本人談。贅沢な悩みである。

 ちなみにレイシアの方はそう積極的でもないらしく、三日に一回シュウに求める程度の頻度だ。ユエが大人の階段を登ったと聞き、自分も負けては居られないと奮起したレイシアがシュウを求め、意外なことにシュウもレイシアを受け入れた。表では『ハジメマジLOVE1000パーセント』などと謳っているが、何だかんだレイシアとそういう関係になってもいいと思っていたのだ。

 

 まあそういうこともありハジメは一人で入浴できる時には細心の注意を払っている。今も実際に寝室に行きユエたちが寝ているのを確認してから風呂場に向かった。

 

「ふうー……極楽極楽……ちょっとジジくさいな僕」

 

 伸びをしてみればボキ、ゴキ、と背中や肩から骨の音が鳴る。いくらステータスが化け物じみててもやはり机に向かい続けての徹夜は精神的にも肉体的にも辛いようだ。

 

「ええっと……兵器シリーズは一通り作り終えたし、移動用アーティファクトも作ったし、シュウの武器も作って、これで魔晶石シリーズも完成したから……うん。必要なものは全部作り終えたかな」

 

 移動用アーティファクトと言うのは『魔力駆動二輪車』と『魔力駆動四輪車』のことだ。簡単に言うと、魔力をガソリン代わりとして動かせるアメリカンタイプのバイクとハマータイプの車だ。

 魔晶石シリーズは神水が出なくなった神結晶を加工して魔力をストックできるアクセサリーのことだ。ユエやレイシアは最上級魔法などを使う場合が多く、魔力枯渇に陥りやすいのでこういった魔力を貯蔵しておけるものがあったら便利だろうと思い、ハジメが制作した。ちなみに後日これをユエに渡した時プロポーズと勘違いされたのは割愛させてもらう。

 

「やることも終わったし、傷もすっかり治ったし……そろそろここを出るか」

 

 ここはとても住みやすい。なんならここで一生暮らせる程だ。しかしそれではダメだ。元の世界に帰れないし、黒乃とも再会できない。

 

「早く会いに行かないと……黒乃が怖い」

 

 見える。瞳からハイライトを失った黒乃が幽鬼のようにユラユラと揺れながらこちらへ歩み寄ってくる姿が……。

 

「うん早く帰ろう」

 

 湯に使っているはずなのに震える体を無視して湯船から上がり脱衣所へ向かう。その時に気づいた。脱衣場の向こうに人影が見えることに。

 

「…………え?」

 

 シルエットから察するに背丈は小さく、体つきは女性、つまりは少女だ。シルエットの女性がガラガラと戸が引かれ姿を見せた。

 

「ハジメ……一人でお風呂なんて……めっ」

「ゆ、ユエ……なんで、寝てたはずじゃ……!」

「ん。吸血鬼の嗅覚、聴覚、舐めないで欲しい。でもハジメにならどこを舐められても構わない」

「おいコラ」

「ということで……」

 

 何がということでなのか、にじり寄ってくるユエ。冷や汗を流すハジメ。ここは風呂場である。

 

「ちょちょ! 待った、待った!!」

「ダーメ♡待たない……!」

「ひうっ、あ、アッ! ──」

 

 その後ハジメは美味しくいただかれました。

 

 


 

 

 そんなこともあり十日が過ぎた頃、ハジメたちは三階の魔法陣を起動させ、遂に地上へ出ようとしていた。

 神妙な顔持ちでハジメが話し始める。

 

「僕たちのこの力は地上では異端扱いされると思う。それに教会や国が兵器やアーティファクトを寄越せと奪いに来たり戦争に無理やり参加させられることになるかもしれない」

「誰が来ようと邪魔するならぶっ殺すまでだ」

「殺しちゃダメかしら。徹底的に痛めつけて二度と私たちに歯向かおうとしないようにした方がいいかしら」

「ん……同感」

「あのさぁ……」

 

 世界を敵に回すかもしれないというのに何とも頼もしい仲間たちだ。ハジメの苦笑いも呆れた物に変わっている。

 

「僕も皆を傷つけられて黙っていられるほど大人じゃないし、お人好しでもない。立ち塞がる相手は容赦はしない。僕たちは、皆で世界を超えて、帰るんだ」

「おう」

「ん」

「はい」

「ふふっ……じゃあ行こうか。オスカーさん、ありがとうございました!」

 

 今は亡きオスカーに礼を言ってハジメたちは魔法陣の光に包まれた。四人ならどんな困難も乗り越えられる、そう信じて……。

 

 

 

 

 


 

 メルド「ハジメのボウズたちがヒュドラに挑む少し前、同時刻、光輝たちの方では帝国からの使者が来るとの事で迷宮探索を中断して謁見することになった。

 勇者の実力を見せて欲しいと言われ光輝と使者の護衛が模擬戦をする事になったが、あの構え……どこか見覚えがあるような……

 

 次回、ありふれた親友

『光輝の受難! バトル、トラブル、アグレッシブ!』

 

 熱き闘志に、チャァアアジ! イン!」




 次回はハジメ達のステータスとかオリジナル魔法挟んで光輝sideかなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。