ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

13 / 30
 いつの間にか消えてたベヒモス戦、完全に忘れてました。
 感想と評価増えまくってランキング乗ったりしないかな(ダイマ)


第十三話「光輝の受難」

 ハジメたちがヒュドラとの激闘を制した辺りに時を戻す。勇者一行は迷宮攻略を中断してハイリヒ王国に戻っていた。

 

 ハジメとシュウの生死が不明になり、香織と黒乃はショックのあまり一時昏睡状態に陥った。だが目を覚まして、皆が二人が生きていることを信じて迷宮を攻略すると知り、檜山も反省して二人を救出した後に二人から直々に罰を受けると言われ、黒乃と香織はなんとか持ち直したのだ。黒乃は檜山にキツめのリバースブローを数十発ぶち込んだことでどうにか落ち着いた。

 

 そしてかつての悪夢、ベヒモスを討伐することに成功した勇者一行はそれより先の階層に進んでいた。

 

 マッピングが行われていない階層では、今まで通りの攻略速度で順調に進めることなど出来ない。魔物の強さも手強くなっており、疲労も蓄積されていく一方では迷宮探索もままならないと判断したメルドが、休養を取らせるべきだと判断したのだ。

 

 わざわざ王国まで戻っているのは、ヘルシャー帝国から勇者一行を確認するために使者が送られてくるからだ。何でもエヒト神から神託がなされてから勇者召喚に至るまでほとんど間がなかったようで、同盟国である帝国に知らせが届くのが遅れてしまったらしい。

 と言っても帝国は実力主義らしく強者にしか興味がなく、勇者だからといって人間族を指揮されても納得は出来なかったようで、今回人類史上最高記録である六十五層を突破したことで帝国側が興味を持ち、会いに来たと言うわけだ。

 

 馬車に揺られて王国に戻った光輝たちを出迎えたのは、十歳くらいの美少年。大きくなれば光輝のようなイケメンになるのだろう、しかし今は幼くやんちゃそうな雰囲気が強い。その美少年はランデル・S・B・ハイリヒ、ハイリヒ王国王子である。

 キョロキョロと勇者一行を見渡し目当ての香織を見つけると、ランデル殿下は駆け寄ってきた。ブンブンと元気よく振られる犬の尻尾を幻視する。

 

「香織! 待ちわびたぞ!」

「お久しぶりです、ランデル殿下」

 

 態度からわかるように、ランデル殿下は香織にホの字なのである。わざわざ他の生徒たちを無視して香織にだけ挨拶する態度で丸わかりだ。精一杯彼なりにアプローチをかけているのだが香織には少し年の離れた弟のようにしか見られていない。加えて香織の心は既にハジメという男に取られていることを知らないランデルはなんと不憫なことか。おいたわしや殿下……。

 

「香織。お前が迷宮に行っている間、余は気が気がでならんかった……香織にはもっと安全な仕事についてもらいたいのだ……そ、その、余の専属侍女とか」

「侍女ですか? でも私は治癒師なので……」

「な、なら医療院に入ればいい! 王宮からも近いし疲れたらこちらに来てお茶でも飲めばいい!」

「前線でなければ皆の治療が出来ませんから。お気持ちは嬉しいですが、ごめんなさい」

「うう……」

 

 香織の微笑みに顔を赤くさせ、同時にどうやっても香織の気持ちを動かすことが出来ないと悟り唸るランデル殿下。その様子を面白そうに眺めていた雫に光輝が話しかける。

 

「なあ雫、あれって……」

「しっ、面白いから静かにしてなさい。光輝の思った通りだから」

「面白いって……あのなぁ……」

 

 少し変わってしまった幼なじみに呆れた視線を向ける。光輝はベヒモスを倒した後、香織からハジメに対する好意の切っ掛けなどを教えて貰い自分の気持ちに折り合いをつけた。

 昔だったら素直に気持ちに向かうことは出来なかっただろうが、こちらの世界にやってきてからハジメとシュウの存在に色々と感化されたようで自分でも驚くくらいすんなりと納得することができた。

 他人の恋路に対してちょっかいをかけると酷い目にあうことを知ったので、ランデル殿下のやり取りもただ見守るだけにしている。

 

 未だに香織をどうにか王国に残せないか画策しているランデル殿下の後ろから、威厳ある涼やかな声が響いた。

 

「ランデル、いい加減にしなさい。香織が困っています」

「あ、姉上!? し、しかし……」

「しかしではありません。ただでさえ迷宮攻略で疲れている皆様を更に疲れさせる気ですか?」

「ううう……! 急用を思い出しました!!」

 

 ランデル殿下は逃げるように香織たちに背を向けて家臣と共に去っていた。そんな様子を見て溜息をつくこの美少女の名前は、リリアーナ・S・B・ハイリヒ。この国のお姫様である。

 リリアーナは十四歳という若さで国民からの多大な支持を得ている。金髪碧眼の美少女で性格は真面目で温和だが硬すぎず融通も利き、使用人たちとも気さくに接する人当たりの良さを持つ。

 光輝たちにも自分たちの世界の問題に巻き込んでしまったと罪悪感を抱いており、王女の立場としてだけでなく、リリアーナ個人としても心を開いている。 

 

 容姿も性格もリリアーナが光輝たち親しくなるのにそう時間はかからなかった。特に同年代の香織や雫などの女性陣との関係は非常に良好で、今では愛称で呼ばれたり、タメ口で言葉を交わす仲である。

 

「ごめんなさい香織、弟が失礼しました。皆様も、疲労が溜まっていらっしゃるだろうに拘束してしまい……」

「そんな謝らなくてもいいよリリィ。私は気にしていないし、殿下も殿下なりに気を使ってくれただけだよ」

 

 弟の恋心に気づかない鈍感な香織に苦笑するリリアーナ。こほんと息をつき、微笑む。その微笑みに男女問わずほとんどのクラスメイトが顔を赤くして魅了される。香織や雫、黒乃と言った美少女を見慣れている彼らでも、本物のお姫様の洗練された気品や優雅さには見惚れてしまうようだ。

 

「改めまして、皆様、おかえりなさいませ。無事の帰還、心から嬉しく思いますわ」

「ありがとうリリィ。君からそう思われているだけで迷宮攻略の疲れも吹っ飛ぶよ。俺も無事に戻ってこれて、リリィにまた会えて嬉しいよ」

「え、あ、その……そうですか? あ、ええっと……」

 

 王族ということもあり、国の貴族や帝国の使者等から下心が覗かれるお世辞混じりの賛辞を貰うことには慣れているリリアーナには他人がどういう目で自分を見ているのかを見抜く目が鍛えられている。だから光輝の言葉には下心の欠片も持ち合わせおらず、素で言っている事が分かってしまう。尚且つ光輝の整った容姿でこうも直球に言われてしまえば、王女である前に一人の乙女であるリリアーナもたじろぎ顔を赤くする。

 リリアーナがモジモジとしているのを不思議そうに見つめる光輝の背中に軽く叩かれる程度の衝撃を感じる。振り向くと笑っているのに笑っていない笑みを浮かべた中村恵里が立っていた。

 

「光輝くん。そういう言い方続けているといつか背中から刺されちゃうかもしれないよ」

「え、恵里。なんか怖いぞ……」

「何が?」

「いえ、何も……」

 

 落ち着いているはずなのに何処か恐ろしさを感じる声に何も言えなくなる光輝。

 光輝はシュウに言われたのに檜山を止められなかった自分を責め、今度こそは失敗しないようシュウが『注意しろ』と言っていたもう一人の恵里に対して注意するようになった。と言ってもあからさまに警戒するのでは相手も気分が悪くなるだろうと思い、迷宮攻略の休憩中に隣に座って談笑したり、怪我をしていないか、疲れていないか気遣ったり、髪型を変えればそれを褒めたりと傍から見れば付き合いたてのカップルのように光輝は恵里を構い続けた。

 

 そしてその結果──

 

「光輝くんが悪いんだからね……! ああやって僕をその気にさせて……! 誘惑してしたんだから……っ!!」

「え、恵里!? お、落ち着くんだ!! ちょ、待っ、アッ──ー!」

 

 迷宮内で出現した『発情させるフェロモンを放つ魔物』にフェロモンを浴びせられた恵里に光輝は食われてしまった。そう、性的な意味で。急におっぱじめた二人にメルドたちは慌てて状態異常回復魔法をかけようとしたが行為を邪魔されないために恵里は鈴を拉致して脅し、モザイク付き結界を張らせた。

 クラスメイトたちは同級生の生々しい喘ぎ声や水音を聞いて顔を真っ赤に染める者や、突然の行為に宇宙の真理にたどり着いた猫のようにフリーズする者、そして脅されてとは言え親友が友達を性的に食らう手伝いをしてしまい羞恥心と罪悪感から頭がパンクした谷口鈴に別れた。

 

 それから恵里は自身の好意を隠すことはせず、光輝に想いを伝えた。散々搾り取られたのだろう、ゲッソリとした顔で光輝は『責任は取る』と言った。

 

 リリアーナは二人の雰囲気が恋人のそれであることに気付き、頬を膨らませてむくれた顔で一行を促す。

 

「……兎に角、お疲れ様でした。お食事も、お清めの準備も出来ておりますので、どうぞお寛ぎ下さい。帝国の使者様が来られるのにも数日はかかりますので……お気にならさず」

 

 ニコッと、貼り付けたような笑みを光輝に向けて一言。

 

「光輝さんも、どうぞごゆっくりしてください」

「えっと、リリィ? なんか怒ってる?」

「何も怒ってなんかいませんよ。ええ全く、これっぽっちも、ええ」

「クスクス……自分が相手にされないからってそういう態度は王女様としてどうなのかなぁ、ねぇリリィ?」

 

 光輝の腕に絡み、『女』の笑みを浮かべた恵里に挑発気味にそう言われ、リリアーナの笑顔の仮面にヒビが入る。どこからか「カッチーン」と効果音が聞こえてきそうだ。

 

「……ええ、ええ、そうですね。はしたなかったですね、まあ? 周囲の目を気にもとめずに殿方の腕に抱きつくいやらしい女性には言われたく無かったですけどもね?」

「好きな人に、恋人同士がくっ付き合ってなにが悪いのかなぁ? そもそも、周囲の目を気にして野外セッ〇スが出来るかって話なんだよね」

「んなっ!? や、や、野外セッ──ハレンチですよ!? 光輝さん!!」

「お、俺!? いや、一応俺も被害者なんだけど!?」

「あんなにおっ勃てて被害者はダメじゃないかな光輝くん?」

「……ノーコメントで」

 

 光輝を挟んでリリアーナと恵里が言い争っている姿をクラスメイトたちは遠巻きに見ていた。代表して龍太郎が口を開く。

 

「なあ、あーいうのが痴話喧嘩って言うんだったか?」

「龍太郎くん、多分あれは修羅場の方が近いと思うよ」

 

 鈴が己を縛っていた枷から解放された親友を遠い目で見つめながら間違いを正す。

 

「……はあ、すみません。案内を頼んでも?」

「……あっ、ああ、はい。こちらです」

 

 溜息をつき、未だに言い争っている三人グループを放っておくことに決めた雫は近くにいたリリアーナの護衛の一人に案内を頼んだ。呆然としていた護衛も呼びかけられて、目を覚ましたように案内を始めた。

 

「ふ、二人ともその辺で……雫たちが移動を始めたから」

「「光輝くん/さんは黙っていて! /下さい!」」

「はい」

 

 結局、雫が様子を見に戻る一時間後までずっと修羅場っていたらしい。

 

 


 

 

 

 それから三日後、帝国の使者が見えたそうで光輝たちも対面することになった。

 すると会談中、帝国の使者が勇者の実力を測りたいと言い出し使者の護衛の一人と光輝が一対一で戦うことになってしまった。

 

 訓練場に移動し、刃引きされた大剣を持ち待機する護衛に目を向ける。平凡な容姿、特徴といった特徴がない男、一時間後には忘れていそうな見た目だ。しかし、その佇まいは強者のソレ(……)を表している。雫と龍太郎も気づいたのだろう、光輝に注意するよう声をかける。

 

「光輝、あの男……只者じゃないわ。油断しないで」

「雫の言う通りだ。アイツは強ぇぞ、気ぃ引き締めていけ!」

「ああ。分かっている」

 

 訓練場に足を踏み入れ、護衛と相対する。構えるわけでもなく、だらりと無造作に下げられた大剣。しかし少ないが死線を潜り抜けた光輝には分かった、この男、隙という隙が見当たらないのだ。無策で突っ込めば返り討ちに合うだろう、そんな予感がした。故に光輝が取った行動は『待機』、待ちの姿勢だった。

 

「……ほお。がむしゃらに突っ込んでこないのを見るに少しは死線ってもんを通ってきたようだな」

「あなたは油断すると痛い目を見る気がした。だから本気で行かせてもらいます」

「はっ、最初からこっちもそのつもりだ。手加減なんかするんじゃねぇぞ」

 

 平凡な見た目とは裏腹に男の口調は荒い。先に動いたのは男だった。大剣を引き摺りながら駆けた、と思いきや目の前で既に大剣を振り上げる態勢に入られていた。

 咄嗟に『縮地』を使い半歩下がると光輝の眼前を大剣が通過していき、空を斬る音と剣圧が風となって肌を撫ぜる。

 ステータスでは大きな差があるだろう、しかし目で追えなかった。今のは歩法、つまりは技術である。相当に洗練されたものだ、やはりこの護衛の男は只者では無い。

 

 男は鞭のようにしならせた剣撃を光輝に浴びせる。光輝は冷や汗を流しながらも、『先読』で剣筋を見極めて捌いているが、如何せん不規則で軌道が読みづらく、対処するのに精一杯で反撃に移れないでいた。

 勇者のステータスを持ってしても、剣技では敵わない。そう覚った光輝は、短い詠唱を呟いた。

 

「“(くるめ)く光よ”『眩光(げんこう)』!」

「ぬぅ!」

 

 模擬刀が閃光を放ち男の目を潰しにかかる。男はすぐに目を閉じようとしたが間に合わず唸る。数分の間は視覚を頼ることは難しいだろう。これを好機と思い、模擬刀を振りかぶり男の大剣の横っ面を叩く。が、驚くことに剣を引いて躱すと踏み込んで上段から大剣を振り下ろした。

 

「ちょこざいな!!」

「なっ!? 見えないはずじゃ!」

「んなもん『気配』と『敵意』で分かる!! お前の真っ直ぐすぎる剣なら尚更なぁ!」

「無茶苦茶だ……! ならっ!」

 

 目を瞑ったまま斬り合う男に畏怖の視線を向け、光輝は構えを変える。今までの構えが正統派と言うのならこの構えは邪道と言う感じのものだった。半身を捻りながらの突貫、姿勢を低くしているため相手は剣筋を下段か振り下ろしに固定される。

 男も急に動きが変わった光輝に驚くが、剣撃の勢いは衰えない。

 

「ここ、だぁ!!」

「むおおお!!?」

 

 右上段からの袈裟斬りと見せかけた左中段を狙い澄ました突きに反応しきれず、男は苦し紛れに大剣を振るう。しかし刺突から切り上げに移行した光輝の剣に大剣は弾き飛ばされ回転しながら数メートル先の地面に突き刺さった。

 

「……そこまでですな。この勝負、光輝殿の勝ちで宜しいですな? ガハルド殿」

「……ちっ、やっぱりバレてたか。食えない爺だぜ

「えっ?」

 

 イシュタルが右手を上げ光輝の勝ちを宣言すると、ガハルドと呼ばれた男が舌打ちをして周り聞こえない声量で忌々しげに呟く。近くにいた光輝には聞こえていたようで目を白黒させているが気にせずガバルドは光輝から離れて右耳につけていたイヤリングを取り外した。

 

 すると男に纏わりつくように靄に包み込まれ、体の輪郭がボヤけ始めた。靄が晴れると全くの別人、四十代位の銀髪碧眼の男が現れた。男の体は大柄な方ではないが、服の上からでも分かるくらいに筋肉がミッシリと詰まっている。

 それを見た龍太郎が思わず感嘆の声を上げた。

 

「おおっ! なんつー筋肉……!! あれはナイスマッスルを言わざるを得ないっ!!」

「突然どうしたの龍太郎くん!?」

 

 拳を握りしめ声高らかに叫ぶ龍太郎に隣にいた鈴がツッコミを入れる。しかし周囲の人間はそんなことを気にすることが出来ないほど喧騒に包まれ、ガハルドに注目していた。

 

「が、ガハルド皇帝陛下!?」

「え!? 皇帝陛下!?」

「いかにも、ヘルシャー帝国現皇帝、ガハルド・D・ヘルシャーだ。宜しくな勇者殿」

「これは一体どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

 

 額に手を当てながら疲れたようにガハルドを睨みつけるエリヒド。その表情から察するにガハルドは似たようなことを何度もしてきたのだろうと伺える。そして睨みつけられたガハルドは物怖じもせずに飄々と話し始めた。

 

「これはこれはエリヒド殿、ろくな挨拶もせずに済まなかった。どうせなら自分で確認した方がいいだろうと思い、一芝居打たせてもらった次第よ。皇帝としても一人の武人としても試してみたかった相手でもあるが、今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

「……はあ。もういい」

 

 反省の色が見えないガハルドに溜息をついて被りを振るエリヒド、苦労しているのだろう。胃薬があったら渡してあげたいと雫は思った。

 ガハルドは光輝に向き直り先程の攻防を賛辞する。 

 

「それにしても勇者殿、最後の剣撃、あれは『幻撃』だろう? ハイリヒ王国騎士団団長メルドの太刀筋を錯覚したぞ。まさかメルド直伝か?」

「あ、はい。メルドさんから教えてもらいました」

「カーッ! あんの『曲者』、こんなステータスの暴力に小技なんか仕込みやがって!!」

「あの、『曲者』って言うのは?」

「あん? 知らねぇのか? 奴は派手な大技を好まず小技でちまちまと相手をいたぶって行くんだよ。だから『曲者』って言われてんだ。一体一で奴に勝てる人間は少ねぇだろうな、俺でも微妙だからな。是非帝国に欲しい人材だ」

 

 あの実力主義を謳う帝国の皇帝にここまでべた褒めされるメルドに尊敬の念が更に強くなった光輝だった。その場にいなかったメルドだが、後の訓練の時に問い詰められこう白状した。

 

「その名前はやめてくれ! 傭兵時代や騎士団に入隊したばかりの時期には生き残るのに必死で小技を多用してただけなんだ。今は騎士団の団長らしく一体一の時は正々堂々と戦っているだろう?」

 

 とのことらしい。魔物相手に正々堂々もクソもないが、人相手の正式な決闘の時などではやはり正々堂々とした剣技を好まれるようで、小技はあまり使わないようにしていたらしい。

 光輝たちには魔物、引いては魔人族との戦いのために自分が『曲者』と呼ばれてたことを隠して教えていたらしい。

 

 ガハルドは満足して用意された客室へ戻って行った。その後、夜の晩餐会で帝国は勇者一行を認めると言った旨の話をしたことで今回の訪問の目的はたち成された。なんとも嵐のような訪問であったが……。

 

 そして翌日、ガハルドが帝国へ帰る際、体裁のため光輝たち勇者一行も見送りに来ることになったのだが……その時にまた嵐が吹きすさんだ。

 馬車に乗り込もうとしたガハルドが雫と目が合ったようで動きを止める。

 

「中々収穫のあるいい訪問だった! では──む? そこの女、お前も勇者の仲間か?」

「え? え、ええ。そうですが……」

「名は?」

「八重樫雫です……どうかされましたか?」

「いや、ふむ……成程な」

 

 舐め回すと言うよりは見定めるように雫の体を頭頂部から爪先まで眺める。雫は明らかに品定めされていることにウンザリしながらも相手が皇帝陛下なので、無礼なことは言わずじっと口を噤む。

 そして眺めるのに満足したのかガハルドは口を開いた。

 

「おい雫」

「はい、何でしょうか?」

「俺の側室になれ」

「はあ…………はあ!? い、いきなり何言ってるんですか!?」

「冗談でも何でもねぇぞ。お前のその鍛えられ引き締まった体、そして幼い頃から剣を握ったことで出来たあろう掌、何よりもその容姿、俺の側室に相応しい。俺は雫という女に惚れた」

 

 恥ずかしげもなくペラペラと惚れた要素を挙げて求婚され、口をパクパクとさせて固まる雫。それから持ち直して懇切丁寧に断ったことで、その場はなんとか諦めて帰ってもらえることになった。しかしガハルドは「気長に待つ」と言い残して帝国へ帰って行った。

 

「嵐みたいな人だったな……」

「……最悪、もう完全に目ぇつけられてるじゃない……! 目立たないように黒乃の影に隠れていたって言うのに……!」

「雫っち? それは僕の影が薄いから目立たないって言いたいのかな? ねえ? どうなんだいおい? 何とか言えよこら?」

「く、黒乃……? 顔が怖いわよ……?」

 

 ハジメとシュウがパーティから居なくなったことで最近黒乃から覇気や存在感が薄くなった気がするのは雫の思い過ごしではない。今の黒乃はあのクラス一影が薄く、自動ドアも三回に一回は反応しない男、遠藤浩介に勝らぬとも劣らぬ影の薄さだった。

 

「出番を寄越せ!! 僕から僕っ子属性を奪うな!」

「急にこっちに飛び火が!?」

 

 怒りの矛先が自分に向いたことに驚く恵里。

 

「ちくしょう不幸だ!!」

 

 王国の正門の前で膝をつき叫ぶ美少女。『不吉』の派生技能、『不幸』が追加されていたせいかもしれない。

 

「お母さんあれー」

「しっ! 見ちゃ行けません」

 

 色々と残念なことになっていた黒乃であった。

 

 

 

 

 


 

 リリアーナ「オルクス大迷宮を抜けてライセン大峡谷に出たことに喜びを分かちあっている南雲さんたち。

 あの……一応そこ処刑場って呼ばれてるんですけど……。

 こほんっ! そんな辺鄙なところで魔物に追われる一人の兎人族がいて……? 

 

 次回、ありふれた親友

『シア登場! スピード、ラビット、キューピッド!』

 

 熱き闘志に、チャ〜ジ、イーン! 

 一度やって見たかったんですよ!」




 メルドさんはもっと強くていいと思う。
 黒乃はその…ごめんな……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。