ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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第十四話「シア登場」

 魔法陣の光が収まると空気が変わった。奈落のどこかどんよりとした空気とは違い、新鮮な涼やかな空気……ハジメが目を開けるとそこには、草木の緑と青い空が──

 

「見えない!?」

「洞窟だな」

「ん……隠し通路。秘密だから目につかない場所に隠すのは当然……」

「むしろ何でいきなり外に出ると思ったのかしら」

 

 反逆者の住処へ直通する道が隠されていないわけない。ユエとレイシアは当然のようにそう話す。ハジメとシュウは思っていたより浮かれていたらしく、それぞれ顔を赤くしたり頭をガリガリと掻きたりと照れ隠ししている。

 真っ暗で常人なら何も見えないだろうが、ハジメには『夜目』という技能もあれば『宝物庫』もある。宝物庫から緑鉱石のランプを取り出して灯りをつけ道なりに進んでいく。

 

「これは封印? ってあれ……勝手に開いた」

「オスカーの指輪が反応しているみたいだな。俺の『超直感』も収まった」

 

 シュウの言葉通り、封印もトラップも解除されたようで何事もなく外へ出ることが出来た。

 四人が待ち望んでいた外の景色。地上の人間にとっては地獄の、絶望の処刑場である【ライセン大峡谷】だが、四人にとっては天国だった。

 太陽から降り注がれる暖かな日差しに青々とした木々たちから香る緑の匂い、戻ってきた。これ程実感の湧く証拠は無かった。

 

「戻ってきた……やっと、地上へ戻ってこれたよぉ〜!!」

「おっしゃあ帰ってきたぞゴラァあああ!!!」

「んっ! 戻ってきた……!!!」

「待望の陽の光かしら! 太陽ってあったかーい!!!」

 

 ハジメはユエと抱き合いながら、シュウはレイシアと抱き合いながらそれぞれ思い思いの言葉を叫ぶ。

 ハジメの涙腺が緩み、涙がこぼれる。それはシュウも同じで、本心だろうが恥ずかしさを誤魔化すように誰よりも叫んでいる。

 いつも無表情なユエも三百年振りに浴びた日光に思わず頬が綻んでおり、レイシアは太陽顔負けの輝かしい笑みを浮かべている。

 

 そんな風には四人が喜びを分かちあっていると、その声を聞いてか魔物が次々と集まっており、笑いがおさまる頃にはすっかり囲まれていた。

 

「おいおい、折角俺らが久々に日の光を浴びて喜んでいるって言うのによぉ……燃やし尽くすぞこの野郎」

「待ってよシュウ。ここ【ライセン大峡谷】じゃ魔法は分解されてまともに使えないんだ」

 

 試しに火球を作ってみようとするが火は付かずにガスが漏れるように魔力だけが放出される。魔法使いにとってここは鬼門の場所なようだ。

 

「でも力押しでいける……」

「魔力効率は?」

「……十倍くらい?」

「それなら僕がやるよ。シュウもこの程度の魔物相手に魔法なんか必要ないでしょ? 肉体強化くらいで十分だよね」

「まあな。ん? 待てよ……」

 

 何かを考え始めたシュウ。周りは魔物でいっぱいであるが慌てず騒がず落ち着いて思考する。少しは焦って欲しいが如何せんステータス差というものは絶対的なもので、奈落の魔物と地上の魔物ではステータス差が激しすぎる。今のハジメとシュウにダメージを与えられる魔物はここにはいないだろう。実際、ハジメは魔物たちが散らない程度に『威圧』を発動させており、魔物たちは逃げたくでも逃げられない蛇に睨まれた蛙のようになっている。

 

 そして考えた結果、納得したのか手をポンと叩いた。

 目を閉じて心を落ち着かせる……するとシュウの額に橙色の炎が灯った。

 

「出た、炎モード」

「ちょっと試したくてな。よっ、と」

 

 掌に火球を生み出してそこら辺の魔物に投げつける。火球を喰らった魔物は断末魔を上げながら消し炭になった。

 

「やっぱりか……」

「えっと、どういうこと?」

「俺のこれは魔法じゃないんだよ。俺の体質的なやつなんだ、超能力みたいな感じのな。多分、魔力を通して魔法として使うパターンと体力を使って超能力のように使うパターンで分けられる」

「つまりさっきのは超能力として使っていたから魔力分解を気にせずに使えるってこと?」

「ああ。まあその分体力とか精神力を消費するから長時間の戦闘は厳しいがな」

 

 シュウが普段魔法として使っているのは『炎属性適正』やその派生技能の『性質変化柔炎』、『性質変化剛炎』だ。それに『大空七属性適正』の派生技能、『調和』を付与しているのだが、それらは魔力を消費して使っている。

 一方でシュウの体質として使う炎は、魔力ではなく体力や精神力に依存して扱うようだ。

 勿論出力的には両方を組み合わせて使った方が強いのだが、この程度の雑魚ならどちらか片方だけで十分なのだ。

 色々と説明したが、つまるところ『魔法が使えない場所でもシュウは炎を扱える』という事だ。

 

「額の炎は?」

「これは……これも俺の推測になるが、額に炎が灯っている時は体質として炎を扱う力を発動させているんだろう。感覚的にもそうだと思う」

「はあ〜……なるほどね。じゃあここは僕とシュウで蹴散らしていこうか」

「だな。二人はもしもの時に備えて待っててくれよ」

「……ん」

「不本意ながら分かったかしら……」

 

 話し合いが終わり、ハジメとシュウが威圧で動けなかった魔物たちに向き直る。満面の笑みを浮かべながらハジメはホルスターから二丁拳銃を抜きガンカタの構えを取り、シュウは両手のガントレットに炎を灯す。

 このガントレットはハジメ作の武器兼防具なのだが、兎に角物理耐久と耐熱性に特化させており、想定ではヒュドラの極光も耐える耐久性になっている。

 そして前腕部を覆うこのガントレットは鎧部分をスライドしてグローブに変形させることが出来るのだが、それはヒュドラクラスのボスを相手にする時の武装なので暫くは出番が無いだろう。

 

 そんなこんなで三分も掛からずに百体近くいた魔物を片付けたハジメとシュウだったが、あまりの手応えの無さに二人同時に首を傾げる。

 

「弱い……いやこの場合は奈落の魔物が強すぎたのかな……?」

「二人が化け物……」

「ユエさん酷い」

「でも事実かしら。それよりもこれからどうするのかしら? 断崖を登る? それとも砂漠横断?」

 

 トコトコと近寄ってきたユエとレイシアをそれぞれ抱きしめながらこれからの行動方針を決める。レイシアの言葉に首を振りながらハジメは提案する。

 

「折角七大迷宮があるって噂されているライセン大峡谷にいるんだ。樹海側なら街も近そうだし、そっち方面を探索しながら進もうよ」

「異議なーし」

「ん……私も」

「私も特に反対する理由はないかしら。それに峡谷を超えて砂漠横断は嫌かしら……」

 

 意見が纏まったので宝物庫から魔力駆動四輪、通称『アルファジェネラル』を取り出す。ちなみに命名はハジメである。

 車の免許は誰も持っていないがこの世界に車が無いので、必然的に知識があるシュウかハジメのどちらかが運転しなければならない。実際に運転してみた結果、シュウの方が上手かったので彼がハンドルを握ることになった。

 

 樹海という悪路の中の悪路を走れるのかという疑問だが参考にした車のタイプ上、ちょっとやそっとの悪路ではビクともしないようになっており、尚且つ車体底部の錬成機構のおかげで整地しながら進めるようになっているので振動に揺れることも無く快適だ。

 

 勿論魔物もこちらに気づき襲いかかろうとするが、相手が攻撃する前にハジメが正確に眉間を撃ち抜いているので先程からドシン、ドシンと魔物たちが倒れる音だけが響いている。

 暫く走り続けていると、魔物の唸り声が聞こえた。各探知系能力からも察せれるに、今までの魔物たちとは一線を画すようだ。それでも手応えは無さそうだが。

 

「少ししたら見えるだろうな。ハジメ」

「分かってる。見敵必殺、だね」

 

 アクセルを踏み込み加速させて突き出した崖を回り込む。向こう側には先程の唸り声の主であろう双頭のティラノサウルスモドキが見えた。先程ハジメが屠っていたのは頭が一つしか無かったので、この峡谷のボスなのかもしれない。

 

 しかし注目すべきはティラノではなく、その足元でぴょんぴょん跳ねているうさ耳の美少女だろう。ティラノから逃げているようで顔から汁という汁を出して必死の形相だ。そしてうさ耳美少女が跳ねるごとにその胸元の大きな二つの果実がたゆんたゆんと揺れる。その大きさに思わずハジメは目を奪われてしまうが膝に座るユエに太ももを抓られて呻き声をあげる。

 

 アルファを止めて怪訝そうな目でうさ耳少女を見つめるシュウ。

 

「なんだ、あれ?」

「本で見たことあるよ、確か名前は……兎人族、だったかな? 兎人族だけじゃなく亜人族は樹海が住処だって書いてあったけど……」

「確かここは昔処刑場だったはず……あの兎は悪兎かもしれない」

 

 困惑しているハジメにユエが聞いたことのある伝承を教える。処刑場という言葉を聞いて、ハジメとシュウのうさ耳少女を見る目がジト目になる。

 

「無視するか?」

「うーん……厄介事持ち込まれても困るけど見捨てるのも後味悪いよね」

「シュウ、ハジメさん。私は助けてあげたいかしら……」

「そらまたどうして?」

 

 後ろの席に乗っていたレイシアが体を乗り出して意見する。シュウに理由を聞かれ、少し悲しそうな顔をしながら答えた。

 

「……助けられるなら助けてあげたいの。ただの私のワガママなんだけど……だめ、かしら?」

 

 かつてユエを助けられる唯一の存在だったレイシアは、結局救うことが出来ず一緒に封印されてしまった。助けられるのに助けられない苦しみをこの中で一番知っているのは彼女だろう。

 それに加えて、上目遣いの涙目で懇願されたら頷くしかない。シュウはハジメに視線で『いいか?』と聞き、ハジメも『いいよ』と言わんばかりに頷く。

 一旦車から降りて額に炎を灯し、右腕を上げてティラノに狙いを定めて火球を放った。

 

「Xカノン、爆散(ブラスト)

「待ってシュウ、それだとあの娘も巻き込まれ──」

もぎゃあああああああ!!!!? 

 

 火球はティラノに吸い込まれるようにぶつかり、爆発した。その爆発に巻き込まれたうさ耳少女は余波でまるで戦隊モノの変身シーンのように吹き飛ばされた。

 女子とは思えない叫び声を上げ、ギャン泣きで手足をじたばたさせながらこちらに飛んできた少女をハジメが跳躍してキャッチする。

 

「よっと、大丈夫?」

「じぬがどおぼいばじだぁ〜」

「うんまず顔を拭こうか」

 

 涙に鼻水、ヨダレに汗と汚液セットの顔面を至近距離で見てしまったハジメは表情を固まらせ、宝物庫からタオルを取り出して少女の顔に押し当てた。

 

「ぷわっ、むう、ぬ、ぷはぁ! あ、ありがとうございます」

「どういたしまして。助けたのは彼だけどね」

 

 そう言ってハジメが指差す方を向く。シュウの鋭い目付きと目が合ってしまい「ぴぃ!」と悲鳴をあげる。しかし命の恩人にこんな態度は失礼だと思い直したのか、ハジメに降ろして貰いシュウの近くに歩み寄った。

 

「そ、その。怖がってごめんなさい! あと助けてくれてありがとうございますです!!」

「助けることを提案したのはこいつだ。感謝するならこいつにしろ」

 

 隣にいたレイシアを引っ張り少女の前に突き出す。少女は慌ててレイシアにも頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございますぅ! 私、兎人族ハウリアのシアっていいます!」

「ハウリアのシアさんね、私はレイシアって言うの。ふふ、名前が似ていてなんだか親近感が湧くかしら」

「ほえ……レイシアさんって言うんですね。綺麗な髪の毛ですねぇ……私もハウリアの中じゃそこそこ綺麗な方だと自負しているんですけどこれは自信なくしますぅ……ってそうだ! すみません! 助けていただいた分際で厚かましいとは思いますが、話を聞いて頂けないでしょうか!?」

 

 二人の美少女が話している様子は絵になるが、何やらシアには事情がありそうだ。レイシアの意向もありハジメたちは話を聞くことにした。

 

 シアたちハウリアは仲間同士の絆が深い種族で、【ハルツィナ樹海】で集落を作りひっそりと暮らしていた。しかし兎人族は他の亜人族と比べて全体的にスペックが劣る。聴覚や隠密行動に優れているが、温厚で争いを嫌う性格のせいで戦闘で役立てることが出来ないでいるので他の亜人族から見下されているらしい。

 

 通常魔力を持たない亜人族だが、シアは何故か魔力を持っており、しかも直接魔力を操れ更には『未来視』という固有魔法まで使えるというではないか。そんなシアは亜人族から見て魔物と何ら変わりのない存在だった。本来なら魔力を持つ亜人族は処刑されてしまうのだが……そこは家族愛が深い兎人族、シアを見捨てることなど出来ず十六年間バレないように育てていた。

 

 しかもシアの髪色は青みがかった白髪という濃紺の髪がデフォルトのハウリア族からはかけ離れた髪色をしている。一目見れば「なんだそいつは!」と言われてしまうだろう。

 

 しかしある日、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】にシアの存在がバレてしまった。捕まればシアを隠していた一族諸共処刑されてしまう、それを恐れたハウリア族はフェアベルゲンに捕まえる前に樹海を出ることにしたのだ。

 だが樹海を出てすぐ巡回中だった帝国兵に見つかってしまい半数以上が捕らえられてしまった。全滅を避けるため、帝国兵が手出しを出来ないここライセン大峡谷へ逃げたハウリア族だったが入口は帝国兵に抑えられ、しかも魔物に襲われてしまい峡谷の奥へ追い込まれてしまった。

 

 一通り話し終えたシアはその顔を悲痛の表情で歪め大粒の涙をポロポロと零した。

 

「……自分がどれだけ都合のいいことを言っているかは分かっています……けど、ダイヘドアを一撃で倒した貴方たちなら、いえ貴方たちにしか頼れないんです!! お願いします!! 助けていただいたら皆さんが望むものを私の命を賭してでも手に入れて差し上げます! お金や武器が欲しければ国に忍び込んで盗みますし、あ、愛玩用奴隷が欲しければ私がなります! だから、だからどうかお父様を、ハウリアの皆を……!」

「もう大丈夫よ。だからそんな悲しい顔をしないで……」

「あ……うえ、うえええ〜ん! レイシアさぁ〜ん!」

 

 体を震えさせて土下座するシアの頭をふわりと抱きしめ撫でるレイシア。涙で服が汚れることも気にせずにシアが泣き止むまで抱きしめ続けた。

 

「シュウ、ハジメさん、お姉様」

「……しゃあねぇな」

「ここまで聞いたら流石に、ね」

「ん。シアは可哀想……私も賛成」

 

 シアの生い立ちを聞いて思うところがあったのか、レイシアに名前を呼ばれた三人は三者三様に答える。頭を掻きながらシアの元へ近付いたシュウが未だにレイシアの腕の中で鼻を鳴らすシアの尻に蹴りを入れた。

 

「おら、いつまでもべそかいてないで案内しやがれウサ公」

「キャンッ!? 女の子のおしりを蹴飛ばすなんて酷いですぅ!」

「……コイツうっせぇなあ」

「兎人族は耳がいいって言いましたよね!? 聞こえてますからね!?」

「コイツうっせぇなあ」

「あー! 隠すことすらしなくなりましたぁ!」

 

 さっきまで大泣きしていたのが嘘のようにギャーギャーと喚くシアと耳を塞いで「あーあーきこえなーい」と言い張るシュウ。レイシアに抱きしめられてたシアへの当てつけなのだが、それに気づいていたのは長年の付き合いのハジメだけだった。くやれやれと肩を竦めて二人の間に割って入る。

 

「こんなことしてないで、助けに行くなら早く行こう、ね?」

「わっかりましたぁ!」

「おいハジメに媚び売ってんじゃねぇよその耳引きちぎるぞクソ兎」

「ぴぅ!? なんでこの人私にこんな当たり強いんですかぁ!?」

「あはは……多分嫉妬、いやツンデレだから気にしなくていいと思うよ。ほらシュウは運転席に行く」

 

 ハジメに促され渋々運転席に乗り込むシュウ。全員がアルファに乗車したのを確認してアクセルを踏み、シアに方角を指示されながら車を走らせた。ハンドルを握りながら質問攻め似合うシュウは喧しい同行者が一人増えて内心ウンザリしていたた。

 

「うっせぇなあ」

「また言いましたぁ!?」

 

 

 

 

 


 

 シア「なんて凶暴な人なんでしょう! でも何だかんだ助けてくれましたしやっぱり優しい……? あっ! レイシアさんはとても優しいですぅ! 凄い可愛いですし、何よりもあの包容力! まるで母様みたい……ってああ次回予告!? 

 

 次回、ありふれた親友! 

『ハウリア族邂逅! キリング、ジャミング、ライジング!』

 

 熱き闘志に〜、チャージイン! ですぅ!」




キレ悪いかもしれませんが無理やりぶった切らないと15000超えちゃうの…許し亭許して
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