ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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 こうしたらいいみたいな指摘も貰えると助かるんで(建前)、感想下さい(本音)


第十九話「地獄訓練」

「オラオラオラァ!! ガキ一人にいいようにやられて悔しくねぇのか!?」

「ぐっ! うおおおおぉぉぉおおおお!!?」

 

 霧が立ち篭める樹海の東側では、早朝から野太い声と数人の叫び声がこだましていた。

 

「根性見せてみろやぁ!!」

「ひぃっ!?」

「怯むなぁ!! フェイントに気をつけるんだ! うおりゃあー!」

「声が小せぇんだよ!! んな声じゃ蚊も殺せねぇぞ!!」

「ひでぶっ!?」

 

 ハウリア族数人を相手取り立ち回っているのはシュウだ。これは戦闘訓練、シュウを相手に模擬戦をしているのだ。勿論シュウは魔力を使わず身体能力と武術だけで戦っている。対してハウリア族はハジメが用意した模擬刀でシュウに立ち向かう。

 最初は武術を学ばせようか考えたが、たった五日で教えられることなどたかが知れているし、シュウは人に武術を教えられるほど器用ではない。そういう事で実戦形式に似せた戦闘訓練を行っているのだ。

 一応ハウリア族にも勝利条件があり、シュウに一撃でも入れれば勝ちなのだが……。

 

「「「うおおおおお!!!」」」

「後ろ取れてんのに叫ぶやつがあるかダァホ共がああ!!!」

「「「ええええええ!!?」」」

 

 シュウという男は理不尽の塊である。

 

 一撃当てるのも難しい。

 

 ハウリア族の明日はどっちだ! 

 

 


 

 

 次に悲鳴が聞こえるのは樹海の西側、そこの区域はまるで真冬の雪山のように寒かった。

 

「寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い…………」

「うふふふ……あたたか〜い……お花畑が見えるわ〜……うふふふ〜……」

(寝たらダメだ死ぬぞ起きろ!)

「zZZ……」

 

 そのには身体を凍りつかせて雪に埋もれるハウリア族の姿があった。

 この訓練は忍耐力を鍛える訓練、この世で肉体に一番負荷がかかるのは痛みでも熱さでもなく冷たさなのだ。冷気というものは弱いときは『冷たい』で済むのだが、それが酷くなっていくにつれて『痛い』、『辛い』、『眠い』と変化していく。一度で二度も三度も苦しみを味わえるということでレイシアは忍耐訓練の担当となった。

 流石レイシアと言うべきか、冷気をギリギリ死なない辺りで調節しておりハウリア族は生死の境を彷徨う臨死体験をする程度ですんでいるのだ。

 

「眠くなった人は手をあげるかしら〜、氷柱を当てて起こすから〜!」

 

 勿論レイシアの言葉に反応する者はいない。いたとしで手を上げれるはずがない。体が動かないのだから。

 

「誰も手をあげない……ならまだまだ大丈夫そうかしら!」

 

 レイシアはどうやらハウリア族を殺しにかかるようだ。頑張れ、ハウリア族。

 

 


 

 

 そして視点は変わり樹海の南側では、ハジメが銃を連射していた。戦闘、耐久ときたら次に来るのは『回避』の訓練である。訓練の内容はこれまた単純、雨のように降り注がれる弾丸を避けるだけだ。ちなみに弾の素材はゴムなので殺傷性は無い。当たっても少し痛い(三メートル程の大きさの岩に亀裂が入る)程度だ。

 

「避けないと痛いよー」

 

 既に30分程連射しているのだがハジメは撃ち始めてから一切リロードをしていない。なのに弾切れを起こす気配は全くない。

 その理由は『宝物庫』と『瞬光』にある。宝物庫から弾を取り出し、瞬光で転送する弾の位置を調節する。簡単に言うと、弾倉に直接弾丸を転送するノーモーションリロードをハジメは会得していたのだ。

 戦闘中はタイミングならなんやらがもっとシビアになるのだが、今は訓練、ハジメは一歩動いていないどころか腕すらほとんどブレないので楽々とノーモーションリロードしている。

 

 そんなことを知らないハウリア族にとって、銃という武器は弾を無限に撃ち続ける最強のアーティファクトに見えるだろう。実際は宝物庫に貯蔵してある弾丸が消費されているので無限では無い。だがハウリア族がそれを知ることはない。

 

「ほらほら、動かないと痛いよー」

 

 気絶したハウリア族にも気付けの一発として銃弾を撃ち込んでいる。これが俗に言う死体蹴りである。

 銃撃で気絶したのに銃撃で起こされるハウリア族、どちらにしろ痛みを伴うという鬼畜仕様だ。

 ドンマイ! ハウリア族! 

 

 


 

 

 最後に樹海の北側、こちらではハウリア族の集団はおらず、代わりにユエとシアが睨み合っていた。

 周りは炭と化した木々や岩、隕石でも降ってきたのかと錯覚してしまうクレーター。この光景が半径一キロ程の範囲で見られた。

 何も環境破壊をして気持ちよくなりたいわけではなく、これはシアが個人でユエに鍛えて欲しいとお願いしたからだ。

 

 理由を聞いてみると、ハウリア族を守るため、だそうだ。

 たとえハウリア族が独立しても自分が残っていればトラブルに巻き込まれる危険性は高いままだ。それはハジメたちに着いてきても変わらないのだが、どっちみちトラブルに巻き込まれるのなら、巻き込まれても対処出来る方について行けばいい。

 そう言った考えから旅に着いて行きたいと懇願してきた。しかしそれをユエは一刀両断した。

 

 まず第一に、この旅はハジメたちが元の世界に戻るための旅であるため、シアが着いてきても結局は別れることになるのだ。

 

 次に、危険が伴うから。元の世界に戻るためにハジメたちは神代魔法を手に入れようと大迷宮を巡る。シアが挑むにはまだ実力が足りていない。

 

 最後に、シアがハジメに惚れているという理由で着いて来ようとしているから。これはユエの勘だったのだが……。

 

「な、なんで分かったんですかぁー!?」

「ん。女の勘……シア、ぽっと出の女にハジメは渡さない……! 諦めること……!」

「いーやーでーすー!! 不肖シア・ハウリア! 心から惚れた男の人はしがみついてでも離れるなと母様から教わりました!! なので誰になんと言われようと絶対に諦めません!」

「シアのお母さんの教えは素晴らしいと思うけど……それとこれとは別! どうしても着いてきたければ……私に一撃でも当ててみること……!」

「上ッ等ですぅ! 一撃でも二撃でも何撃でも当ててやるですよぉ!!」

 

 ついついノリで「一撃でも当てたら着いてきていい」と言ってしまったことに現在進行形で後悔しているユエ。シアは日が経つ事にどんどん腕を上げてきている。このままでは言葉通り、一撃貰ってしまいかねない。

 

(シュウだけでも大変なのに……これ以上ライバルを増やしてたまるか……!)

 

 それはもう切実だった。最近、ユエが見てないところでハジメとシュウはイチャついていることが多い。実際はそんな事ないのだが、ユエから見ればイチャついているようにしか見えない。これ以上ハジメに攻略対象を増やさせないためにも、ここでシアを食い止めなければならないのだ。あとどこかの残念系ヒロインは一生残念になっていればいいと思う、ユエはそう思っていた。

 その思念を感じ取ったのか、どこかの迷宮で般若のオーラを纏った治癒師がいたとかいないとか。

 

「いい加減ぶち当たってくださいよ〜!!」

「ん、そう簡単には行かない」

 

 シアはその細腕からは考えられない力で大木をへし折りユエに投げつける。ユエは炎で大木を焼き払うがその隙に跳躍、どこぞのダークなソウルの世界の処刑人が持つような大きさの大槌を振りかぶった。

 

「どぉおおおおりゃあああああ!!!!」

「っ、『氷牙』!」

 

 牙を象った氷が形成されシアの柔肌を食い破らんと襲いかかる。が──

 

「しゃらくせぇえええええ!! ですぅ!!!」

 

 ハンマーを振り下ろすことで氷を粉砕する。それだけに留まらず、回転を加えて破壊力を加算。竜巻を纏ったかのような大槌がうねりを上げてユエに振り下ろされる。

 

「──『風壁』、『雷壁』」

 

 ユエとシアの間に風と雷の障壁が展開される。大槌と接触すると岩盤を巨大なドリルで切削するような轟音が響き続け、同時に風雷が火花となって弾かれていた。

 せめぎあい、せめぎあい、徐々に押し込まれていく大槌に流石のユエも冷や汗を流す。

 シアは勝利を確信したのか、自信満々に笑みを浮かべて言い放った。

 

「これで私の勝ちですぅぅぅうう!!!」

「……『風刃』」

「ギャピィ!?」

 

 ドヤ顔が気に食わなかったのか、少し顔を顰めながら手を横に振ると風の刃がシアの脇腹を斬り裂いた。しかし身体強化しているシアの前ではダメージはそれなりに抑えられている。と言っても鞭で打たれるくらいの痛みはあるが。

 

「『氷蛇』、『炎虎』」

「ちょ、ちょっとま──」

「ん、トドメ。『雷牢』」

「あばばばばばばッ!?」

 

 氷の蛇がシアの足に絡みつくと、瞬く間に細足を凍りつかせる。回転が急に止まり不安定な体制になった大槌は炎の虎が弾き飛ばし、シアの上半身は熱に包まれた。

 更に追い打ちとばかりにシアを中心とした半径一メートル程の空間に電流が走り、鳥籠の形を成す。電流は実体を持っており、触れる度にビッタンビッタンと身体を跳ねさせる。

 

「調子に乗るのは百年早い……」

「うぎぎ……ま、まだ……です……よぉ……!!」

「シア……負けを認めないのは美しくない」

「違い、ます」

 

 ニヤリ、シアは不敵に笑う。電流で身体をビクビクさせているのを見なければ格好良く映るだろう。怪訝そうな瞳を向けるユエに答えるように上を指した。

 

「……? ……っ!?」

「もう遅いですぅ!!」

 

 ユエの頭上に、先程炎虎が弾き飛ばした大槌が降ってきた。

 弾き飛ばされたように見せかけて、わざと上空へ投げたのだ。ユエが油断するまで待ち、タイミングを見計らって『魔力操作』の派生技能、『遠隔操作』で大槌を降らした。

 身体強化しか出来ないと思い込んでいたユエは無表情を崩し驚愕に染める。

 

 隕石が落下したような衝撃と轟音が辺りに響いた。

 

 


 

 

「……無茶をする」

 

 大槌が降り注いだあと、ユエは自身を中心に風の障壁を展開させることで衝撃と飛んでくる岩の破片を防いだ。が、不意打ち気味の攻撃だったため、防ぎきれなかった箇所も存在する。

 脚に付いた細かな傷を『自動再生』で治癒しながらシアの無鉄砲さを指摘した。

 

「しなきゃ勝てませんでしたから。というかユエさん、出力強すぎません? まだ身体が痺れてるんですけど……」

「ん、八割」

「ほぼ本気じゃないですかぁ!」

 

 八割出力の電撃を食らっても『痺れる』程度で済んでいるシアに内心舌を巻いている。しかもこれでまだ発展途上だという。

 

(やっぱりシアも化け物……)

 

「ぴえんぴえん」と嘘くさい泣き方をする目の前のうさ耳少女を見つめる。視線に気づいたシアが小首を傾げ「ほえ?」と言った。あざとい。

 

「……あざと兎、略してあざ()。旅についてくることは許してもハジメに擦り寄ることは許さない」

「あざと、ってそんなこと言ったらユエさんの方があざといじゃないですかぁ!」

「アピールに余念はない。ぽっと出の女に愛した人を取られること程惨めなことはない……」

 

 

 ──

 

「うぐはぁっ!?」

「ひでぶっ!?」

「香織!? 黒乃!? どうしたの二人共! 急に喀血なんかして!!」

「な、なんか……凄く胸に突き刺さる言葉が……ハジメくんの制服で回復しないと……」

「ぼ、僕が何をしたって言うのさ……シュウの制服で回復しなきゃ」

「なあ龍太郎、覚えてるか? あれは確か小学二年生くらいの……」

「光輝、辛いのはわかるが現実逃避はあとでもっと辛くなるからやめとけ……」

 

 

 ────

 

 

 どこかで二人の少女が苦しんでいる光景が見えた気がした。

 

 それは置いておいて、条件を満たしたシアの同行を許したユエはその事を報告するためにハジメたちの元へ向かっていた。

 

「あ、ユエにシア」

「どうだったんだ……ってその様子じゃシアが勝ったみたいだな」

 

 駆け寄ってくるユエに気づいたハジメは両手を広げて受け止める。それを羨ましそうな目で見ながらユエの表情を確認して納得するシュウ。

 

「お姉様に勝ったの? シアは凄いかしら!」

「レイシアさ〜ん! やっぱり私の癒しはレイシアさんだけですぅ〜!」

「シュウ、顔、顔」

 

 レイシアに褒められて抱きしめられて撫でられるというハッピーセットを貰ったシアを物凄い形相で睨みつけるシュウ。思わずハジメがツッコムが、シュウは器用に顔半分を普通に、もう半分を般若に変えるというテクニックを披露していた。

 

「ハジメ殿、よろしいでしょうおっ!?」

「ああ、気にしないでカムさん。何かな?」

「え、ええ。隠密訓練をしていた際に完全武装した熊人族の集団を見つけまして……恐らく襲撃部隊だと思われるのですが、如何しましょうか?」

「お互い不干渉で行こうって言ったんだけどね……目的地の目の前で殺そうって魂胆かな?」

「殺すか?」

「悩みどころだね」

 

 笑みを浮かべているハジメだが、目は笑っていない。シュウの言葉に乗ろうとしているのが証拠である。

 二人の話にカムが割って入る。

 

「そこでお願いがあるのですが、我々に任せていただけないでしょうか?」

「ふーん……それはなぜ?」

「ハッ、我らハウリア族は皆様に鍛え上げられました。この力が亜人族最強種と呼ばれた熊人族にどこまで通用するのか知りたいのです。それになにより……」

 

 ギロリと瞳を釣り上げて低い声で話す。

 

「我々は弱くないということを教えてやりたいのです」

「へぇ……」

 

 カムから目を離してみれば、子供たちを除いた他のハウリア族も全員同じような目をしていた。

 

「……いいんじゃないですか? でも、やるからには二度と反抗する気が起きないくらい、完膚無きまで叩き潰してくださいね」

「勿論です」

 

 カムが頷くと控えているハウリア族も頷く。

 

 それから少しした後、樹海に野太い悲鳴がコダマした。

 

 

 

 

 


 

 シア「ハジメさんたちの訓練によって圧倒的な力を身につけた私たち! ユエさんに比べたら熊人族なんて虫さん以下ですう!! 

 そしていよいよ旅立ちの時、踏ん切りをつけなくちゃいけませんね……

 

 次回、ありふれた親友

『ハウリアとの別れ! ベイビー、バイビー、リターンミー!』

 

 熱き闘志に、チャージ! イン! ですぅ!」




 次回は短いです
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