ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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第二十三話「ミレディ・ライセン」

【ライセン大迷宮】に潜ってから丁度十日目、ハジメたちは騎士甲冑に身を包んだゴーレムに追われながら通路を走り抜けていた。それだけな何も変わったところはないのだが、このゴーレムたちはなんと、壁や天井を走りながら追いかけてきているのだ。まるで重力など知らんとばかりに全力疾走している。

 

 かと思えばそれはゴーレムだけではなくハジメたちが走っている通路も同じだった。所々足場が崩れておりブロック状の足場になっているのだが、どれもこれも宙に浮いているのだ。自分たちの常識が崩れていくのがなんとなく分かる。

 

 突然必死に足を回していたシアが踏み出した左足が空を切る。足場が音もなく移動したのだ。『未来視』が発動するのが遅かったのか、それとも単純に対応が遅れてしまったのか、バランスを崩してしまったシアは手をワタワタとさせて空中へ身を投げ出す。

 

「ぴえええええ〜!!?」

「シア!」

「きゃふんっ! た、助かりました〜。ありがとうございますハジメさん!」

「礼はいいから、走るよ! もうすぐで終点だ!」

 

 咄嗟にハジメが『空力』を使い空中に足場を作ってシアの身体を抱きとめたことで難を逃れた。

 

 ハジメの言う通り、目と鼻の先に出口らしき扉が見える。先頭を走っていたシュウが勢いよく扉を殴りつけると扉はクッキーのように簡単に砕け散った。

 

「っ!? 全員飛べえええぇ!!!」

 

 突然シュウが叫んだ。何故そう言ったのか、直ぐに理解した。

 ハジメたちが入ったこの空間は道が無く、踏み出した瞬間真っ逆さまに落ちてしまうようになっていた。しかし五メートル程前に空中に浮いた足場が見える。

 シュウの言葉を聞いた四人は『身体強化』を最大限に発動せて必死に飛んだ、否、跳んだ。

 

『身体強化』が得意なシアは問題なさそうだが 、そこまで得意ではないユエとレイシアは飛距離が足りておらず、このままでは落ちてしまいそうだ。

 

「くっ、おおお!!!」

 

 それを見たハジメが二人の手を掴み、『空力』を発動させて何とか足場に辿り着いた。

 無事足場に降りたてて安堵したのもつかの間、ハジメたちを追いかけていたゴーレム騎士たちが今しがた通ってきた扉をくぐってぞろぞろと現れたではないか。足場同様重力を無視してハジメらを取り囲む。

 包囲されたことを知り、この空間を見回してようやく気がついた。

 

 五人の目の前にいる二十メートルを軽々と超える巨大なゴーレムがいることに。

 

「おい、おいおいおい」

「これは……流石に驚いたね」

 

 ゴーレム騎士のように甲冑に身を包んでおり、眼光をギラりと光らせる。右手は熱されているのか赤熱化しており、左手には直接鎖が巻きついた状態のモーニングスターが括り付けられている。

 なんと言っても凄まじいのは放たれる圧力(プレッシャー)だ。体感ではヒュドラすら凌駕する威圧感にハジメもシュウも冷や汗を流す。

 

 よく見てみればこの空間は球体上になっているようだ。ゴーレム騎士たちの方位が上下に円を描くような形になっている。しかしかなり広く作られているようで、目を凝らしても先が見えない。つまりはゴーレムたちは距離を気にしないでハジメたちをタコ殴りすることが出来るということだ。

 

 ピリピリとした緊張感が場を支配する中、一番最初に口を開いたのはハジメでもシュウでもなく、目の前のゴーレムだった。

 

「やっほ~! はっじめまして~!! みんな大好き♡ミレディ・ライセンだよぉ~」

「……は?」

 

 底冷えする声は誰が出したのか、全員だったかもしれない。あんまりの反応にゴーレムは「えぇ……?」とドン引きしている。その様子を見てドン引きしたいのはこっちの方だとハジメは脳内で独り言ちる。

 凶悪な装備に全身甲冑、そしてその威圧感、RPGよろしく堅苦しい話し方をするのかと思っていたのに口を開けば随分と軽い口調。イメージぶち壊しである。

 

「ミレディ・ライセンって言ったかしら?」

「うんそ〜だよ〜。私が天才美少女魔法使い、ミレディちゃんだよー!」

「いやどう見てもゴーレムですよね?」

 

 思わずシアがツッコミを入れればミレディと名乗るゴーレムはやれやれと肩をすくめる。妙に人間くさい動きにイラッとするがドリュッケンを構える程度で抑える。シアに変わってハジメが話を継ぐことにした。

 

「えっと、オスカー・オルクスの手記には人間の女性として書かれていたんですけど……長い年月が経っているから魂をゴーレムの肉体に移し替えた、とかかな? 神代魔法ならそう言ったものもあるんじゃないかな」

「おお、いい線いってるよキミ! ……ん? ちょっと待って、今オスカー・オルクスの手記って言った?」

「え? はい、言いましたけど……」

「じゃあ君たちはオーちゃんの大迷宮を攻略してきたんだ。てことはもう結構攻略してるってことかな? ここは五つ目? 六つ目?」

「いえここが二つ目ですけど」

「うええ!?」

 

 首の駆動部をギュルリンと回して驚きのリアクションを取る。ゴーレムの癖に先程からリアクションが激しく人間くさい。ハジメが言った予想はほぼほぼ合っていると言っていいだろう。

 今まで黙って話を聞いていたシュウだったが、痺れを切らしたのか苛立った声てミレディに話しかけた。

 

「何がそんなにおかしいんだよ。お前のその身体や性格よりおかしい事なんて存在しねぇだろ。いいから早く神代魔法の在処を教えやがれ」

「え何この子。久々に人と話して内心ウッキウキだったテンションが急速に冷えていくんですけど。まあミレディちゃんは大人だからちゃんと答えて上げますけどね〜」

 

 イラッ、とシュウの額に青筋が入る。

 

「い〜い〜? 【オルクス大迷宮】って言うのはね、七つある大迷宮のうちでも終盤の方に攻略されるのを想定した迷宮なの。上層はタダのフェイクで下層からが真の大迷宮、出てくる魔物もトラップも他の大迷宮とはひと回りもふた周りも違うんだから。ホント、たった五人で良く攻略できたね。それとも誰か死んじゃった?」

「いやあの時はまだシアがいなかったから四人でしたよ」

「四人!? しかも犠牲者無し!?」

 

 ミレディが『嘘でしょ……ラストダンジョンにするつもりで殺意満々トラップマシマシにしてたのに……』などと呟いているが【オルクス大迷宮】を攻略した四人は『だろうな』という感想しか思い浮かばなかった。ハジメもシュウもユエもレイシアも、規格外のステータスだったがそれでも苦戦を強いられた。だとしてもウザさでは【ライセン大迷宮】の方が勝るが。

 落ち着きを取り戻したミレディが汗を拭う仕草をしてハジメたちに視線を移す。

 

「ま、まあ君たちがそれなりに強いのは分かったよ。それじゃあ今度はこっちが質問するね」

 

 今までふざけていた雰囲気が一瞬にしてピリピリとしたものに変わる。──もしかしたら、本来の彼女はこちらなのかもしれない。『解放者』である彼女はここに辿り着いた者にこの世界の真実を伝えなければならない。彼女らが存命してい時代から今までずっと待っていたと考えると、ある意味拷問よりも酷なのではないだろうか。

 レイシアはその事に気づいたのだろう。険しい顔をしたあと、悲しそうに瞳を揺らす。ハジメたちもミレディの雰囲気を感じ、表情を険しくした。

 

「あはは、そんな警戒しなくてもいいよ。私はただこれを教えて欲しいだけなの。──君たちは、神代魔法を得て何をするつもり?」

 

 口調は変わっていないが声色は真剣そのものだ。シアはミレディの発言に気圧されて思わず一歩後ろに下がってしまう。そんなシアを庇うようにハジメが前へ出て答えた。

 

「……僕たちはただ元いた世界に戻りたいだけだ。世界を超えて転移できる神代魔法を手に入れるのが僕たちの最終目標であって……悪いけど、あなた達に変わってこの世界の狂った神様とやらを倒す義理はない」

「まあ俺たちの前に立ちはだかるんだったら、たとえ神であろうがなんだろうがぶっ倒すだけだ」

「ふぅん……」

 

 ミレディはジィっとハジメとシュウを見つめた後、納得したのかゆっくりと頷いた。

 いい加減痺れを切らしたシュウがミレディを睨みつける。一方のミレディは真剣な雰囲気を霧散させて元のおちゃらけた空気に変わる。

 

「さあ話は終わりだ。ミレディ・ライセン、お前の神代魔法はなんだ? 転移系じゃないなら興味ねぇんだが」

「ふっふっふーん。それはね〜……教えてあーげないっ!」

「じゃあ死ね」

 

 辛辣な言葉と共にシュウの右手から火球が放たれる。ノーモーションの不意打ち、図体のでかいゴーレムが躱せるわけもなく直撃した。

 爆煙がミレディを包み込み、姿を隠す。

 

「ん、先手必勝。『破断・斬』」

「ああ〜もう! こうなったらしょうがないかしら! 『氷牙・貫』!」

 

 シュウの攻撃に便乗するように今まで静観を決めていたユエとレイシアがそれぞれ魔法を繰り出す。強力な魔力分解作用が働いているこの大迷宮では、中級魔法を使うだけでも多大な魔力を消費し射程と威力を減少させるのだが、ハジメが制作したアーティファクトを介すことでその効力を半減させている。

 このアーティファクトの名前は『マジック・サポーター』。待機状態は腕輪の形になっているが、魔力を流すことで剣、槍、槌の形状に変形出来る。ユエは剣に、レイシアは槍に変形させて攻撃したのだ。

 

「やりました!?」

「いや、あんな程度でやられるはずないでしょ、っと」

 

『宝物庫』からミサイル&ロケットランチャーの『オルカン』を取り出す。持ち手のトリガーを引くと蓋が開き、装填された六つのミサイルが発射される。尾を引きながら依然煙に隠れるミレディに当たった。

 

「も〜いったいなあ〜!! とでも言うと思った?」

 

 煙をなぎ払い姿を現したミレディ。先程の攻撃は両腕で防いだのだろう、赤熱化していた右腕は肘から先が無く、左腕は半壊しており辛うじて繋がっていると言った状態だ。

 ミレディは近くに浮いていたブロックを握り潰すとそれを右腕に押し当てた。

 

「錬成機能付きか……」

「オーちゃんの迷宮を攻略したなら分かるよね? これもオーちゃん印の錬成修復機能だよーん!」

 

 そう言っている間に右腕はすっかりと元通りになっており、同じように左腕も修復が進んでいた。ミレディは大きく両手を広げ、凄みのある声でハジメたちを威圧する。

 

「さあ、力を示しなさい」

「言われなくても、やってやるよ!!」

 

 額に炎を灯し、ミレディを睨みつける。ニヤリと、ゴーレムであるミレディが笑ったように幻視する。

 

「っ躱せぇ!」

 

 シュウが叫ぶと同時にミレディが装備しているモーニングスターが飛んできた。ミレディは何も動いていない。重力を無視して弾丸のように飛んできたのだ。

 

 持ち前の『超直感』で攻撃に反応することが出来たが、ノーモーションの攻撃は想像以上に厄介だ。加えて周りには総勢五十のゴーレムがいる。

 

「ハジメ!」

「わかってる!」

 

 シュウがハジメに視線を向けると、既にハジメは行動に移していた。

『宝物庫』からガトリング砲『メツェライ』を取り出し六砲身のバレルを回転させる。毎分一万二千発の弾丸を放つこの兵器は殲滅を目的としており、まさに今の状況にうってつけだった。

 ユエとレイシアも弾幕に加わり、ハジメの弾幕から逃れたゴーレムたちを両断していく。そのゴーレムの残骸や弾丸の光に紛れながら『身体強化』で最大限まで強化したシュウがとシアがミレディの死角に忍び寄る。

 

「ちょっ! 何それ!? そんなの見たことないんですけどぉ!? ──おっとぉ! 見え見えだよ!」

「チッ」

 

 ミレディの背後から飛び出したシュウが橙色の炎を纏った蹴りを打ち込もうとするが、ミレディはそれを予見していたようで二人の間に障壁となるようにブロックが滑り込んできたことで防がれる。

 

「織り込み済みだ、シア!」

「ハイですぅ!!」

 

 ドリュッケンを大きく振りかぶったシアが姿を現し、ミレディの頭上にそれを振り下ろす。

 

「む、だ、だ、よ〜ん!!」

「ぎゃぴぃ!?」

「シア! ちいっ!!」

 

 シアの一撃を軽々と受け止めたミレディが勢いそのままにシアを投げ飛ばした。思わず意識を逸らしてしまったシュウに向けて無数のブロックが殺到する。

 

「Xカノン! 『爆散(ブラスト)』!」

 

 火球がブロックにぶつかり爆煙が巻き上がるが、相殺するには至らなかった。壊しきれなかったブロックがシュウを押し潰そうと雪崩のように降り注ぐ。

 

「クソっ!!」

 

 掌から炎を噴射しその場を離れる、が──

 

「何!?」

 

 ブロックは先程までシュウがいた足場に激突せず、直角に折り曲がってシュウを追跡してきた。

 今の光景を見たハジメは違和感を覚えていた。

 

「おかしい……シュウの『調和』の能力があればあの程度簡単に壊せるはずなのに……」

 

 メツェライでゴーレムを掃射しながら考える。ちなみにその殲滅力を見て内心ミレディが焦っていることには気づいていない。

 

『鉱物系鑑定』でブロック、ゴーレム、ミレディ、部屋全体に範囲を広げて鑑定を開始する。

 

「これは……そうか、そういうことか。シュウ! こいつらに『調和』の能力は効かない!! この空間に存在する鉱石全部、硬度八以上の鉱石なんだ!」

 

 硬度八以上、つまりは『タウル鉱石』や『アザンチウム鉱石』と言った屈指の硬度を誇る鉱石しか使われていない。タウル鉱石もアザンチウム鉱石もハジメの造る武装やアーティファクトにも使われている鉱石だ。

 アザンチウムは世界最高硬度を誇っており、薄くコーティングするだけでもドンナーの最大出力を防ぎ切る。

 

 では何故『調和』が効かないのか、それは能力の説明から入らなければならない。

 

 そもそも『調和』の仕組みは『調和』を受けた相手を周りの性質と同調させるものだ。攻撃する時は相手を石や土などといった脆い性質の物質に同調させ、防御する時は空気などと同調させてかき消しているのだ。

 

 この空間では硬度が高い鉱石しか無く、種類も少ない。故に同調しようにも変化が起こりにくくなっている。

 

「あらら〜、バレちった☆でもだから何? 君たちじゃ私の装甲を完全に破ることは出来ないよ〜ん! ぷぎゃあああ!」

「イラッ」

「本当に人の神経を逆撫でするのが上手いかしら……!」

 

 迫り来るブロックを捌きながらユエとレイシアが怒りを顕にする。

 

 そこから少し離れた位置で、シュウが縦横無尽に飛び回っていた。先程のハジメの言葉はしっかりと届いており、この状況をどう打開するかも考えていた。

 

「……仕方ない、か」

 

 ジワジワと距離を詰められるだけでなく、周りのブロックやゴーレムも集まり始めている。このままでは体力と気力を無駄に消耗してしまうだけだと判断したシュウは近くの足場に立ち止まり、敵を見据えた。

 

「ミレディ、貴様に見せてやる。嵐の、『分解』の力をな」

 

 突如、シュウが額と拳に灯していた炎の色が鮮やかな橙色から荒々しい濃黒の赤色に変わる。同時にシュウは両手のガントレットのパーツをを取り外し、砲身のように変形させ右腕に装着する。変形が完了したことを知らせる様に熱風が荒ぶりシュウの髪を靡かせた。

 掌を包む砲口を絞り、炎を収束させる。

 

「果てろ!! 『赤炎の矢(フレイムアロー)』!!!」

 

 狙いを定め、収束された炎が解き放たれた。

 

 朱色の尾を引いた赤黒い火焔が螺旋を描きながブロックとゴーレム騎士を飲み込む。轟々と燃え盛る炎は飲み込んだ全てを焼き尽くすまで収まらない。

 

「熱っ! なっ、何この火力……!!」

 

 ゴーレムのボディであるミレディでさえ余りの熱量に思わず顔部分を腕で覆ってしまう程だ。

 

 漸く炎が収まった後にはゴーレムもブロックも何も残っていなかった。ここが草原だったら焼け野原を通り越し、荒野に変わり果てていただろう。

 

 圧倒され怯んでいるミレディを指さして、吼えるように言い放った。

 

「ミレディ・ライセン!! 俺たちは、貴様を、死ぬ気で果たす!!」

「……やってみなよ。ここからは、私も本気で行くからね」

 

 ゆらりとゴーレムの巨体が不気味に動く。

 

 本当の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 


 

 ミレディ「はいはーい!清く正しいミレディちゃんでーす☆いやーこの子達おっそろしく強いね〜。まあミレディちゃんには及ばないんですけど〜……って、待って!?その炎なに!?うぎゃー!?

 

 じっ、次回、ありふれた親友!

 

『ミレディ・激戦! クロス、フィアス、ロワイヤル!』

 

 熱き闘志に、チャージイン!燃やさないでー!」

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