ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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第二十四話「ミレディ・激戦」

 天を衝く様な爆撃音が鳴り響く。

 

「やぁあああああ!!!!」

 

 渾身の力で振り抜いたドリュッケンがゴーレム数体を纏めて砕き飛ばす。しかし肝心のミレディにはあと一歩届かず灼熱の右腕で殴りつけられ吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛ばされた先には武器を構えた無数のゴーレムが待ち構えていた。

 

「ぴゃああ!?」

 

 咄嗟に近くにあったブロックを蹴り方向転換したことで難を逃れた。シアのしぶとさに内心舌打ちをするミレディだが、そんな彼女の頭上から赤黒い焔が滝のように降り注ぐ。

 ミレディは右手を構え自分を睨みつけるシュウを睨み返し、モーニングスターを振り回した。

 

「くううっ! うっざいなぁ〜もうっ!!」

「喧しい!!! 散々ウザイことしてきた奴が何言ってんだクソアマ! お前の相手はこの俺だ!!」

「っ〜! 執拗い男は嫌われるよ!」

「生憎だが惚れあった女がもういンだよ!!」

 

 重力に逆らった不規則な動きをする鉄球を躱しながら隙を探し、『炎の矢(フレイムアロー)』を放つ。死ぬ気の炎に加え『分解』という強力な能力によって強化された炎はたとえアザンチウムであろうが焼き焦がす。

 

 確かにあの炎は凶悪だが、それ以上にミレディは自身に対するシュウの執着心の強さに恐れを抱いていた。『何がなんでも倒してみせる』、そう言った気概が見て取れる。

 

 と、考えていたからか、それを隙と見たシュウがギラりと砲口から火を覗かせる。

 

「果てろ! 『炎の矢』!!」

「こんのっ、いつまでも調子に乗らないでよ! 『極大・蒼天槍』!!」

 

 ミレディがそう叫ぶと、青白い炎が槍状に形成される。これはユエが良く使う炎属性最上級の魔法『蒼天』、実に三発分の威力を持つ魔法だ。強大な威力に骨すら焼き溶かしそうな熱量、ユエでさえも使えるかどうか怪しいだろう。その証拠に、遠くから様子を伺っていたユエも目を見開いている。

 初めて見る魔法にシュウは怯みつつも直ぐに持ち直し、目付きを鋭くした。

 

 灼熱と灼熱がぶつかり合い辺りの空気が一瞬で沸騰したかの様に熱っされる。

 

「くっ、おおおおおおぉ!!!!」

 

 威力、出力だけみれば当然有利なのはミレディだ。彼女は長年蓄えてきた途方もない魔力と、培ってきた魔導の才、そして先祖返りというまさに魔法使いの王とも言える実力がある。

 一方シュウは常人と比べれば此方も枠外に飛び出ている存在だが、如何せん魔力量と魔法に対する知識量の差が激しい。

 しかしシュウには勝るものがある。それは死ぬ気の炎の原動力ともなる『覚悟』、所謂気力だ。ハジメが、レイシアが、ユエが、シアがいる限り、自分は負ける訳には、倒れる訳にはいかない。そう言った覚悟が炎となって絞り出される。

 更に今シュウが纏っている炎は『分解』の力を持つ。同属性のせめぎあいの場合、一方的に相手を焼き尽くすことが出来る最強の矛になるのだ。

 

「果てろぉおおおお!!!」

「嘘っ!? まだ上がるの!!?」

 

 獄炎が蒼炎を飲み込みミレディの身体を包む。直撃した。

 

「はあっ……はあっ……!」

 

 肩で息をしているのを見るに、想像以上に炎を使ってしまったらしい。気力、体力ともに尽きかけており、滝のように流れる汗も拭う気が起きない。

 

 動くなと願うが、その願いも虚しく、白煙の中でゆらりと影が動いた。

 

「すこ〜しビックリしたよ」

 

 自身と炎の間に滑り込ませたであろうブロックが炭化して崩れ落ちている。ただそれでも完全には防ぎきれなかったようで、胸部装甲が融解しており、沸騰して気泡が出たアザンチウムの装甲が覗いていた。

 

「もう少しだったね。じゃあバイバイ、『極大・天雷槍』」

 

 バチバチと雷が爆ぜる。先程同様、エネルギーが槍状に形を成していた。

 これは雷属性最上級魔法の『天灼』三発分をひとつに纏めて練り上げた魔法で、『極大・蒼天槍』と同等の威力を持つ。

 

「……畜生が」

 

 忌々しげに吐き捨てるシュウに向けて、怒槌()が落とされた。

 防御する力もなく、跪き項垂れるシュウに防ぐ手段は──ない。

 

「ハジメ……すまん──」

 

 雷光が視界を埋め尽くす。もう終わりだ、そう思っていた。

 が、いつまで経っても衝撃が来ない。

 

 

 

 

 

「なにを……!!」

 

 

 

 

 

 聞きなれた声、顔を上げてみるとそこには──

 

 

 

 

 

「なにを勝手に、

諦めてんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 大盾を広げ、雷槍を防ぐハジメが立っていた。

 

 


 

 

「ぐぐぅううううう!!!」

 

 重く、激しい攻撃にハジメの身体が悲鳴をあげる。右手の義手を大盾に連結(ドッキング)し、魔力効率もお構い無しに『金剛』を発動させ防御力を底上げしているが、勢いは殺しきれず徐々に押されている。

 本来なら大盾に備わっている錬成機能により傷を負っても即座に修復されるのだが、魔力消費が激しいここでは微々たるものになっている。

 

 蛇口を前回にした様にガリガリと削れる魔力、耐えきれるかどうか分からない威力、ただただ焦燥が募っていた。

 そのハジメの焦りが見えたのか、後ろからシュウが掠れた声を掛けてきた。

 

「逃げろハジメ。いくらお前でも……」

「うるさいっ! 動けないなら黙って回復に務めてて!!」

「だが……」

「だがもしかしもない!! あーもうっ! 気が散るから黙っててよ!」

 

 弱気な発言をするシュウに苛立ちを隠さないハジメ。そこに更に声が付け足される。

 

「ハジメさんの言う通りかしら! 『絶氷盾・衝』!!」

「レイシア!? お前まで!」

 

 レイシアが駆けつけ、大盾に槌を打ち付けて白銀の氷盾を展開させた。レイシアは正面を向いたまま声を荒らげた。

 

「なに珍しく弱気になってんのかしら!! シュウはシュウらしく強気にどーんと構えてればいいかしら!!」

「レイシア、ゴーレム騎士たちの相手は大丈夫なの!」

「そっちは大丈夫かしら! 元々ハジメさんが大半を減らしてくれていたし、あの程度の数ならお姉様とシアだけでも充分かしら!!」

 

 レイシアが来てくれたことで多少負担が軽くなったようでお互いの状況を把握することが出来た。

 

「レイシア、このままじゃジリ貧だ! だから!」

「ええ! 分かってるかしら! いっせーのーで、でやるかしら!」

 

 お互い何をやろうとしてるのか話さなくても意思疎通が出来ている。二人の信頼関係はいつの間にか、かなり硬い絆を深めていたようだ。

 タイミングを見計らい、呼吸を合わせる。

 

「オーケー! 行くよ! いっせ──」

「のー、で!!」

 

 ハジメは連結していた義手を解除して、大盾に拳を打ち付ける。『身体強化』に『豪腕』を重ねた『振動破砕』、その一撃を大盾越しに雷槍へぶつけた。

 一方のレイシアも同じように槌を大盾に打ち付けて『氷牙・衝』を雷槍に放つ。

 二つの異なる衝撃を受けた雷槍は槍の形状を崩しスパークする。その隙を逃さずハジメはレイシアとシュウを抱えて別の足場に飛び退いた。

 

「はあー……はあー……」

「大丈夫ハジメさん!?」

 

 魔力枯渇により激しい頭痛に襲われ、玉のような汗が顎から滴り落ちる。どうやら予想以上に魔力を使いすぎてしまったようだ。疲労困憊、とまでは行かないが暫くは頭痛に苛まれるだろう。

 

「どうってことないさ。このバカを助けるためならね」

「どうしてそこまで……」

「どうして、だと!? シュウがそれを言うのか!!」

 

 頭痛も無視してシュウの胸ぐらを掴む。いつも温和なハジメからは想像出来ない剣幕だ。これにはシュウも面食らって口を噤む。

 

「言ったよね! みんなで帰るって!! その『みんな』に、お前は入ってないのかよ!!」

「ハジメ……」

 

 何故忘れていたのだろう。確かに自分はハジメと黒乃を故郷に連れて帰ると誓った筈だ、それを思い出した瞬間、シュウの瞳に力が戻る。

 

「すまん、ハジメ。もう間違わねぇ」

「そうだよ、その目だ。シュウにはその目が似合ってる」

 

 険しい表情から一転、見慣れた穏やかな笑みを浮かべるハジメに釣られてシュウも表情が和らぐ。

 

「ハジメ」

「うん? なに」

「俺を殴ってく──ごホッ!?」

 

 先程見た、『振動破砕』の拳がシュウの腹に突き刺さる。苦痛に顔を歪め、体をくの字に折りその場に跪いた。

 容赦ない、躊躇ない一撃に見守っていたレイシアも思わず頬を引き攣らせる。

 

「僕を置いて勝手に死のうとしたバカにはこれくらいが丁度いいでしょ」

「ゲホッ! ゴホッ! へ、へへ……流石ハジメ……そこにシビれる憧れる、ってな。そういうところも好きだぜ」

「……ばーか」

「よっし、根性注入気合満タン!!」

 

 赤くなった顔を隠すようにそっぽを向くハジメと額に炎を灯しニカッと牙を見せ笑うシュウ。その様子を見守っていたレイシアは安心したように微笑む。

 

「あー、もう終わったー? 甘酸っぱい青春劇を見せてくれてどーもありがとうございますぅ」

 

 今までのやり取りを見ていたミレディがわざとらしく息を吐き口を開いた。

 

「わざわざ待っててくれたの?」

「お前本当にミレディか?」

「何こいつらすっごいムカつく〜」

 

 生身だったら確実に青筋が出ているだろう。しかし大人の女性のミレディはする意味があるのか分からない深呼吸をして心を落ち着かせ、話し始める。

 

「さっきの攻撃、よく凌いだね。でも大丈夫? 白髪の君も錬成師の君もどっちもボロボロじゃない。魔力もない、武器も通用しない、勝ち目がない、諦めたりとかしないわけ?」

「ねぇよ。ハジメに根性入れて貰ったんだ。今度こそ、死ぬ気でテメェをぶっ倒す!」

「僕もシュウと同じ気持ち。ていうかさ、余裕ぶってるように見せてるだけでホントは焦ってるでしょ」

 

 拳を手のひらに打ち付けて音を鳴らすシュウ。ハジメも同意するように頷きシュウの横に並んだ。

 一方ミレディはハジメに自分の図星を突かれ激しく動揺していた。

 

「そ、そっそそんなことないしぃ〜!? 別に炎なんか怖くないもんねー!! むしろかかって来いって感じぃ!」

「ならお望み通りくらわしてやんよ! 果てろ!!」

「うそうそ! やっぱ無理ぃー!!」

 

 シュウの右腕から赤黒い炎が放たれる。ミレディは焦ったように炎と雷を生み出し壁とすることで防いだ。

 

「ハジメさーん! ゴーレム騎士たちはあらかた倒し尽くしましたよお〜!!」

「ん、あれなら暫くは再生できないはず」

「うっそあの数を!? というか、えっ!? 本当に再生できないんですけど!!」

 

 此方に向かいながら報告するシアとユエ。ミレディの反応を見るに奴の戦力にかなりの大打撃を与えられたようだ。

 ニヤリと口角を上げ、獲物を見るような目をハジメは向ける。

 

「行くよ、ミレディを囲んで総攻撃(リンチ)だぁー!!」

「応っ!」

「やったるかしら!」

「やってやるですよぉ〜!」

「今まで空気だった分、弾ける……!」

 

 ハジメの声に、思い思いに答える四人。一人悲しい本音が出ている者もいるが、そこは気にしないでおこう。

 

 ハジメとシアが『身体強化』の出力を上げて縦横無尽に足場を飛び回る。どちらも無視できない力を持つ相手だ、ミレディは気が抜けないだろう。その集中を削ぐようにユエとレイシアが遠距離からチクチクと魔法を撃つ。

 

「くうう、鬱陶しいなぁもう!! っとお!?」

「外したか、ならもう一発だ! 『炎の矢』!!」

 

 そして忘れては行けないのがシュウの存在だ。一発一発が『分解』という凶悪な効果を持つ強力な砲撃に当たる訳にはいかない。ハジメとシアに牽制され、ユエとレイシアに動きを阻害されながらも砲撃を躱すミレディは流石と言わざるをえないだろう。

 

「いい加減に、しなよっ!! 『轟天・石嵐礫』!!」

 

 周りに浮遊していたブロックやゴーレムの残骸が砲弾となって四方八方に発射される。一つ一つに高密度な魔力が練り込まれているので掠る程度でも致命傷になりかねない。それぞれ妨害、錯乱、攻撃を止めて回避、防御行動に専念する。

 

「ふっ!」

 

 迫り来る砲弾に銃弾を放ち撃ち落としながら回避するハジメ。十の質量に対して一で対処できるのは流石と言うべきだろう。

 

「ひいっ! ほわあぁ〜!?」

 

 そんなハジメとは対照的にシアはぴょんこ、ぴょんこ、とバッタのように足場と足場を行ったり来たり跳ね回り器用に避けている。

 

「『雷壁』、『風壁』」

 

 一番の年長者であるユエは落ち着いた様子で砲弾を捌いていた。右手に雷の障壁を、左手に風の障壁を展開することで雷で砕いた砲弾を風で吹き流すという繊細な魔力操作が出来るからこその防御を取っていた。

 

「っ! この威力、流石と言うべきかしら……!」

 

 そう言いながら最小限の動きで避けるレイシア。ハジメほどではないが、彼女も多大な魔力を消費してしまっている。こんな状態ではユエのように魔法を使って砲弾を捌くことは出来ない。よってレイシアは『身体強化』と吸血鬼という種族の特性によって常人より鋭くなっている五感で砲弾を避けねばならない。

 

「果てろぉおお!!」

 

 シュウは飛んでくる砲弾を燃やし尽くすことで対処している。まさに力技だ。

 しかし息を吹き返したとはいえボロボロの体の何処にまだそんな力が残っているのか、何度地に伏しても立ち上がってくるその姿は相手をしているミレディからしたら恐怖モノだろう。

 

「……今のも凌ぐんだ。やるね」

 

 癪に障る甲高い声ではなく、冷たく平坦な声。しかし声色に反して含まれる感情は『期待』と『喜悦』。正反対のモノだった。

 

「お姉さんもそろそろ魔力が底につきそうだから、次が最後の攻撃にするよ。この攻撃を耐えて見せたら迷宮を攻略したと見て攻略の証と神代魔法を授けるよ」

「随分と自信があるんだな」

「当たり前でしょ? 私はあの時代最強の魔法使いだったんだから」

 

「さあ」、と続けてミレディが上空を指さす。同時にユエとレイシアが目を見開いて上空を見上げた。

 

「な、なにこの魔力密度……! こんなの、こんなのまるで──」

「星……!!」

 

 遅れてハジメたちも視線を向ける。そこには先程受けた魔法よりも高威力、かつ高密度な魔法が所狭しと並んでいた。

 

「こ、れは……」

「おいおいおい、流石にやべーぞ」

「ダメです……避けきれる未来が見えません!!」

 

 シアが悲痛な叫びを上げる。『未来視』を持つ彼女が言い切ったのだ、生存は絶望的と言えるだろう。

 

 だが──

 

「それがどうした」

 

 シュウ()は不敵に笑う。

 

「この程度の理不尽、こちとら乗り越えてきてんだよ!」

「その通り」

 

 隣に並び立つハジメも同じように口角を上げる。その顔は絶望とは程遠い自信に満ち溢れた顔だった。

 

「僕らはどんな障害が待ち受けていようとも突き進む。絶望なんか、蹴散らしてあげるよ」

「ふぅん。かっこいいこと言うねぇ男の子たちは。じゃ、これをくらって無事だったらもう一度聞かせてね」

 

 ゆっくりと指を下ろし、ハジメに向ける。

 

「『全天・星落とし』」

 

 それを合図に、()降っ(落ち)てきた。

 

 

 

 

 


 

 ハジメ「やっぱり解放者ってのは頭のネジが吹っ飛んでるくらい強いんだね。オスカーの大迷宮もぶっ飛んでたし……でも、負けるつもりは毛頭無いからね!

 

 次回、ありふれた親友! 

『ミレディ・決着! エンド、アベント、セツルメント!』

 

 熱き闘志にチャージイン!!」

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