ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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第二十五話「ミレディ、決着」

 灼熱が、雷撃が、極光が、星となって降り注ぐ。星から見れば逃げ惑うハジメたちなど虫よりもちっぽけな存在に映るだろう。

 

「ユエ、シア! しっかり捕まって! シアは『未来視』で回避のサポート!」

「ん!」

「は、はいですぅ!」

 

 ユエとシアを両手で抱えて落ちてくる魔法群を躱すようだ。しかし両手が塞がっているため魔法を撃ち落とすことは出来ない。最も、魔力を制限されたこの状態では相殺することは不可能に近いだろうが。

 

「レイシア、同化しろ! 少しでも被弾の可能性を減らすんだ!!」

「わ、分かったかしら! 『魂躰同化』、発動! 対象は、シュウ!」

 

 焦った声でレイシアが魔法を唱えると、彼女の体は氷のように透き通り霧状となってシュウに纏わる。

 

 灰のように白いシュウの髪は蒼く染めあげられ、伸びた髪がバンダナから零れる。同じように瞳も蒼く変色し、傷だらけの身体には氷が水晶となって覆われる。

 

「行くよ! シュウも気をつけて!」

「お前らもな!」

 

 ひとつに固まるより別れた方が生存率も上がる。この場合は機動力があるもの限定だが。

 

「ふっ!」

 

 シュウと別れたハジメは瞳を紅く光らせる。

 極限まで知覚能力を引き上げる『瞬光』、そしてその限界を超える『限界突破』、どちらの魔法もこの空間では一瞬発動させるだけでかなりの魔力を消費する。しかし消費した分をユエが回復薬や自身の魔力で保管してくれることで補っている。

 

「次は左ですぅ!」

 

 シアの『未来視』による予測回避、しかしそれも限界がある。故にシアには『予めルートを知っていなければ躱せない時にだけ未来を見ろ』と伝えていた。

 鍛えられたとは言え、彼女の魔力総量はそう多くない。しかも迷宮攻略、ミレディとの戦闘と、かなり消耗している状態だ。使えてあと一回と言ったところだろう。

 

 視点を変えてシュウとレイシアに移す。

 

(三歩後ろに下がってシュウ!)

「くっ! 次はこっちか!?」

(反転して上の足場かしら!)

 

 シュウは他角度を見渡せるレイシアの指示と持ち前の『超直感』で魔法群から逃れていた。炎も赤黒い『嵐』の炎から橙色に燃える『大空』の炎に変え、機動力を上げていることも大きい。

 

「よし、この調子なら!」

(っ!? だめっ! 避けてぇえ!!!)

「曲がっ──」

 

 紙一重で躱したはずの熱球が折れ曲がり、シュウの身体を撃ち抜く。『魂躰同化』でステータスは上がっているが、それでもシュウは体をくの字に曲げ苦痛に顔を歪める。

 動きが止まったシュウに、追い討ち度ばかりに凶星が降り注ぐ。外から見れば美しい流星群のように見えただろう。

 本人たちにとっては天災に等しいが。

 

「シュウ!? くっ、当たるか!」

「っ! だめっ、後ろですぅ!!?」

 

 シアが悲痛な叫びを上げる。ハジメが躱したと思っていた凶星が動きを止め、新たに迫っていた凶星のルートを無理やり変更させたのだ。『未来視』で予測していた未来が変動したことでシアの身に危険が迫った時に発動する『天啓視』が発動した。しかし、それはほぼ意味なさなかった。

 凶星がハジメに着弾し、爆炎が一面を覆い尽くす。

 

 

 

「あらら……ちょっとやりすぎたかな? でもこれくらいで倒れるようじゃあのクソ神には勝てないしな〜」

 

 ミレディはそう言って爆炎を振り払おうと右手を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時──

 

 

 

 

 

「凍てつけ、『氷河樹(ひょうがき)』!!」

 

 

 

 

 

「んなあっ!?」

 

 可愛らしい声、聞き覚えのあるものだった。その声が耳に入ると同時にゴーレムの身体が氷漬けにされる。辛うじて動く首を可動域最大まで動かして声の方を見れば、そこには身体の端から霧のように溶けているレイシアが、苦しげな表情で右腕を掲げていた。そのレイシアを支えるようにユエが寄り添い、自身の体を赤い霧に変換させレイシアに分け与えている。

 

「これは、上級魔法!? なんで使えるの!? そもそもどうやって今のを防いだの!!?」

「ようやく余裕が消えたね」

 

 ぐるりと首を戻せば義手に二メートル半程の大筒型アーティファクトを取り付けたボロボロのハジメがミレディを睥睨していた。

 大筒の中には漆黒の杭が装填されている。魔力を流すと甲高い金属音とともに赤いスパークが飛び散り、中の杭が高速回転し始める。

 ハジメが錬成の派生技能、『圧縮錬成』を用いて質量四トンにも及ぶ鉱石郡を直径二十センチ、長さ一・二メートルの杭に圧縮し、アザンチウムでコーティングした破壊力抜群の兵器だ。しかも、贅沢に先端部分を丸ごとアザンチウムで構成しているので例え相手がアザンチウムでコーティングされていようが、打ち勝つことが出来る。

 

 六つのアームがミレディを挟み込み、杭を固定する。察しのいい者ならこの武器がどういった攻撃をしてくるのか分かるはずだ。ミレディもゴーレムでなければ確実に頬が引き攣っていただろう。

 

「喰らいなよ、パイルバンカー……発射(ファイア)!!

 

 大砲などとは比にならない爆発音が大筒の上部分から響く。原理としてはドンナーと同じだが、込められている量が違う。圧縮した燃焼石粉を着火させその爆破による推進力を電磁加速で強化する。

 パイルバンカーは容赦なくミレディのボディに突き刺さり、アザンチウムの装甲には一瞬で亀裂が生じた。

 

 

 

 

 

「──あっぶなかった……!!」

「くっ!」

 

 それでもミレディのヘッドから光は消えていない。魔力分解作用により、『纏雷』の出力が上がらず、電磁加速が足りなかったのだ。加えてミレディが咄嗟の判断で錬成機能を使い装甲部分に密度を集中させたのだ。

 しかし全く効いていないわけではなく、核まであともう少しというところで杭は止まっている。

 

「残念だったね、こんな氷すぐに壊して──」

「シア!」

「はいですぅ!」

 

 ミレディの言葉を遮りハジメは杭を残してパイルバンカーを『宝物庫』にしまい、その場から飛び退く。先程までハジメの陰に隠れて見えていなかったが、ドリュッケンを大きく振りかぶったシアが上空の足場から降りて来ていた。

 

「なっ!? くぅ〜、まだまだ〜!!」

 

 周りに浮遊しているブロックを可能な限り操り、シアと自身の間に滑り込ませる。これでドリュッケンの威力を少しでも軽減させようという考えだ。

 

 この調子ならブロックが到着する方が早い、そう確信し、ミレディがシアの攻撃を防いだあとのプランを練ろうとした。

 

 

 

 

 

「『赤竜巻の矢(トルネード・フレイムアロー)』!!!」

 

 

 

 

 

 ブロックを追従するように、横から飛んできた巨大な炎が操作していた全てのブロックをかき消した。

 

「んななあ!!?」

 

 視線を向ければそこには無骨なデザインの黒い弓を構えるシュウの姿が。限界を超えて力を振り絞った最後の一撃だったのだろう。糸が切れたように体が崩れ、ガクリと膝を着く。

 

「お膳立ては済んだぞ……ぶちかませぇ!

シアァアアア!!!!

 

 シュウの声に応え、突き立てられている杭目掛けてドリュッケンを振り下ろす。

 

「やぁああああああああ!!!!!」

 

 ドリュッケンに叩かれた杭がミレディのボディを突き進み、核を貫いた。

 

 


 

 

 粉塵が立ちこめる中、ドリュッケンを杖代わりにヨロヨロと立ち上がるシアの姿があった。『身体強化』の出力を最大にして叩きつけた渾身の一撃、肩で息をしながら必死にミレディが再起不能になっていることを願う。

 近くまで歩み寄ってみれば、ミレディが仰向けに倒れて胸部装甲に漆黒の杭が突き立てられている姿が目に映った。

 

「や……やった……? 私が、倒した……?」

 

 安心したら腰が抜けたようで、ストンと地面に座り込む。呆然としているシアの肩に手が置かれ、優しい声色が掛けられた。

 

「そうだよ。シアが倒したんだ」

「ハジメ、さん」

 

 振り返れば穏やかな笑みを浮かべる自分の想い人が、ハジメがそこにいた。肩に乗せられた手に自分の手を重ねる。暖かい、生きている、そう思うと今まで考えないようにしていた感情が、シアの心から溢れてきた。

 

「ハジメさん、私、頑張りました」

「うん」

 

 優しい声で相槌を打ってくれる。その声を聞くと何を言っても許してくれそうで、受け入れてくれそうで、シアの心境が吐露される。

 

「皆さんのお役に立てるよう、精一杯、精一杯頑張りました……」

「うん」

 

 ギュッ、とドリュッケンを握りしめる手に力が入る。

 

「ゴーレムの騎士に斬られそうになったり、ブロックに潰されそうになったり、されかけたり……痛かったです」

「うん」

 

 猛スピードで向かってくる浮遊ブロックに、自分の背丈より大きな剣を振り下ろすゴーレム。恐怖を思い出し、体が震え始める。

 

「……シュウさんに魔法が当たりそうになった時、怖くなりました。けど、一度考えると動けなくなりそうだから、必死に考えないようにしてました」

「うん」

 

 勝てない敵などいないと、神様でも倒せるんじゃないかと思っていたあのシュウがボロボロになって、諦めていた。シアの中で自分が思い描いていた『最強』が、死ぬ姿を幻視して、背筋に寒気が走った。

 

「い、ぃいわが、っ岩が飛んできた時、死ぬかと思いました……頬を掠めてっ、しんっ心臓が、音がやけに早く聞こえて……!」

「うん」

 

 ミレディが放った魔法、一歩間違えればシアの身体はぐちゃぐちゃに潰れていた。

 シアの声に嗚咽が混じり、目じりに涙が溜まる。

 

「あの攻撃だって、よけれる未来が見えなくてぇ! わたっ、わっわたしもハジメさんも、死んじゃうって、怖くて、怖くてっ……!!」

「……うん」

 

 一撃でも当たればどうなるか分からない、加えて未来もマイナスなイメージしか見えない。その時のシアの内心は絶望一色だった。寒くもないのに身体が震え、歯がガチガチと鳴る。

 

「でも何とかしなきゃって! そう思ったら、咄嗟に……頭の中に未来が見えて、それでっ」

 

 震えるシアの身体をハジメがそっと抱きしめる。

 

「シア、ありがとう」

「…………ほえ?」

 

 ゆっくりと髪を梳くように頭を撫でる。その際にハジメの指がシアのうさ耳に触れ、ピクリとうさ耳が揺れた。

 

「シアがいてくれなきゃ、この戦いは勝てなかった。僕は、いや僕らは皆、シアに感謝してるんだよ」

「ハジメ、さん……」

 

 シアと目を合わせて、語りかける。

 

「この迷宮に入ってから、シアは一度も弱音を吐かなかったよね。未来が見えなくても、生き延びること可能性を探し続けてくれた。だからあの魔法を躱して、ミレディに攻撃を届かせることが出来たんだ」

 

 最後の一撃だって僕じゃ足りなかったしね、と苦笑して付け足す。

 

「シアが諦めなかったから、僕達は勝てたんだ。そんな俯いてないで、胸を張ってよ」

「ハジメ、さん……ハジメさん……」

「うん、いいよ」

「ぅ、うえ、わああああん!!!」

 

 ハジメが抱きとめていた手を離し、「おいで」と手を広げる。緊張の糸が完全に切れたのか、ハジメの胸元に顔を埋めて腰に手を回すと、ダムが決壊したようにシアの瞳から涙が零れる。

 服が濡れることも気にせず、ハジメはシアの頭を撫でたり、背中を一定の拍子で摩ったりと落ち着かせるようにしていた。

 

 それを暫く続けているとシアは泣きやみ、多少名残惜しそうにハジメの胸元から顔を離す。ズビビっと鼻をすすり、涙を拭うと真剣な表情をしてハジメに向き直った。

 

「ハジメさん、私……ハジメさんが大好きです!」

 

 晴れ晴れとした笑顔で自分の想いを告げた。

 

 


 

 

 常日頃からハジメに自身の好意を伝えているシアだが、ハジメはやんわりと断り続けていた。

 自分にはユエがいるから、と。しかしそのユエも最近はシアのことを妹のように可愛がっている。出会った当初のユエはシアのことを『自分の愛している男を盗ろうとする泥棒兎』、と思っていたのが嘘みたいだ。

 

 シアは努力家で、献身的な女性だ。容姿も整っているし、スタイルも抜群。文句のつけ所がない。ユエも『シアならいい』と認める程だ。

 それでもハジメは首を縦には振らなかった。恐らく、心の底ではシアのことを信頼しきれていなかったのだろう。自分でも分からない、深層意識の中で。

 

 しかしそれも今ではすっかり氷解している。

 

 いつも元気いっぱいで、照れ屋で、少しおっちょこちょいで、純情で、でもたまに大胆で、可愛らしいこの娘が、シアが──

 

「うん、僕もシアが大好きだよ」

 

 一度認めてしまえば驚くほどすんなりと理解出来た。なんだ、気づかないうちに自分はシアに惹かれていたんだ、と。

 心の奥底でシアを信頼しきれていなかったのに、それでも惹かれていた自分がいたのだ。都合のいい自分にくつくつと笑いが零れる。

 

 期待してなかったワケじゃない。元々ハジメはオタク趣味の健全な男子高校生で、異世界に行って無双したい、なんて妄想もしたことがある。

 

 けど此方に来て、蓋を開けてみれば自分は落ちこぼれで足を引っ張る存在。クラスメイトには裏切られ、右眼と右腕を失った。

 

 だがそれと引き換えにハジメはユエというパートナーができた。

 シュウとの絆は更に深くなった。

 レイシアという可愛らしい妹のような存在ができた。

 そして、シアの好意を受け取った。

 

 今までシアの告白を受け取らなかったのはユエに対する罪悪感の意味が強かった。察しのいいユエのことだ、勿論ハジメのそんな考えなど分かっているのだろう。

 だけど彼女は何も言わなかった。ハジメの好きなようにしたらいい、自分はそれを受け入れる、と。

 

 ユエは自分がハジメに『シアを受け入れて』と言えばハジメが受け入れることを理解していたのだろう。だからあえて何も言わなかったのだ。

 口ではシアを否定していても、本心は受け入れて欲しいと思っていた。

 ユエにとって、ハジメは大切な恋人で、シアも同じくらい大切な存在だ。当然それはシュウとレイシアも一緒だ。

 

 ユエはハジメに考え抜いて、悩み抜いた先で結論を出して欲しかったのだ。

 ようやくそれに気づいたハジメは自分の鈍感っぷりに呆れてため息を吐く。

 

 今まで見守っていてくれていたであろう三人が近づいてくるのに気付き、シアの手を引きながら立ち上がった。

 

 ぽかんとしていたシアだったが、ハジメに起こされたことでフリーズした脳が再び動き始めたのだろう。みるみる顔が真っ赤になり、喜色に染まる。

 

 その後、シアが勢いよく抱きついたせいでハジメを押し倒すような形になってしまうのだが、五人を包む空気は暖かく、柔らかいものだったのは誰が見ても分かるはずだ。

 シアの頬は林檎のように熟れていた。

 

 

 

 

 


 

 ユエ「ミレディ・ライセンは勇敢で、優秀で、有能で、勇者だった。それは私たちが保証する……それはそれとして、シアと私でシュウの魔の手からハジメを守る……!!

 

 次回、ありふれた親友

『ライセン大迷宮、攻略! クリア、ウォリアー、エコラリア!』

 

 熱き闘志に、チャージ……イン」

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