ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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第二十六話「ライセン大迷宮、攻略」

「あの〜いい雰囲気のところ悪いんだけど、そろそろいいかな?」

 

 確実にトドメをさしたはずのミレディが話しかけてきたことに驚き、全員戦闘態勢に入る。

 しかしミレディは抵抗する気はないらしく、慌てて戦闘の意思が無いことを伝える。

 

「ちゃんと核も壊されてるよ〜。残存している魔力で何とか意識を保ってるんだって〜。伝えなきゃいけないことがあるからね」

「なにを? 負け惜しみ?」

「……中々言うね、キミ」

 

 温厚なハジメがここまで言うとは、やはりストレスが溜まっていたのだろう。辛辣に吐き捨てるハジメの顔は能面のように無表情だった。

 

「神様殺せって話しなら願い下げだ」

「言わない言わない……けど、忠告は言わせてもらうね。君たちが神代魔法を手に入れるために旅を続けるのなら、確実にあのクソ神に目をつけられる」

「断言するほどなのかしら」

「うん。だって君たち、あの頃の私たちにそっくりだもん」

 

 懐かしむように瞳の光が細まる。親が子を慈しむような視線を向けられてむず痒くなったハジメが質問を投げかけた。

 

「旅を続けるにあたって困ることがひとつ、迷宮の場所が分からないんだよね。【オルクス大迷宮】と【ライセン大迷宮(ここ)】は辛うじて伝承が残ってたけど、他の迷宮に関してはこれっぽちも残ってなかったんだ」

「……そっかぁ。記録が無くなるくらい、長い時間が経ってたんだねぇ。ん……っかぁ……」

 

 残存魔力が切れかかっているのか、ミレディの声にノイズが混じり途切れ途切れになっていく。心做しか瞳の光も弱まっているように見える。

 同じように長い時を過ごしたユエはミレディの声が感傷的な響きを含んでいることに気づく。肉体を移し替えて不老不死になってまで叶えたかった使命が、願いが、彼女にはあったのだろう。

 

 ミレディはぽつりぽつりと力ない声で残りの七大迷宮の居場所を話し始める。

 

 全てを伝え終わったミレディはまるでやり残したことは無い、と満足したように息を吐く。

 

「なんか、最初と雰囲気がまるで違いますね」

「あはは……ごめんね、でも、あのクソ野郎は私以上にムクソ悪いことをしてくるからさ……これくらいで、へこたれて欲しくなくて……」

「ミレディ以上……考えたくない」

「あはっ、随ブと……嫌われ、ちゃったな……」

 

 いつの間にかゴーレムのボディが淡く輝き始めていた。ハジメは線香花火のような儚さを感じた。

 

「おっとと、そろそろ時間みたい……最後まあいつに一発かませなかったなあ……くくす……ダサいなぁ、わたし……」

 

 自分の死期を悟ったのか、自嘲気味に呟くミレディ。そんなミレディの傍にユエが近づき、ミレディの頭部を優しく撫でる。

 

「お疲れ様。ミレディ・ライセン、私はあなたのことを決して忘れない……誇り高き戦士だった」

「……っこう、嬉しいこと、言ってくれるじゃん。こもの癖に」

「む、私は子供じゃない」

「あはは、それはごめん

 

 

 ユエの行動に驚くが、ほんわりと柔らかな息遣いが聞こえた。

 

「──ありがとね」

 

 ボディが砂状に崩壊していき、青白い光が天に昇る。

 

「君らのこれからが……自由な意志の下に、あらんことを……」

 

 オスカーと同じ言葉を残してミレディの瞳から光が消えた。

 

「……いっちゃった」

「性格に難はあるけど、それも一生懸命なだけだったのかもしれないかしら……」

「ミレディさん、立派でした。私も忘れません……」

 

 しんみりとした雰囲気で言葉を交わす女性陣。対して男性陣も思うところがあるのか、どこか哀しげな空気が漂っている。あのシュウでさえ何も言わないのだから。

 と、奥の壁の一部が発光し、浮遊ブロックが五人の元へやってきた。

 

「行こう」

 

 ハジメに促されブロックに全員が乗り込む。するとブロックが移動を始め、光る壁の元へ戻っていく。

 何事もなく辿り着き、目の前に通路が現れる。恐らくオスカー同様、ミレディの住処に続いているのだろう。

 ブロックから降りて白い通路を歩いていくと、突き当たりに差しかかるが、到着を見越したように壁がスライドした。

 

「わわっ! 壁が勝手に動きましたよ!」

 

 シアが驚くが先頭を歩いてたシュウが構わずに扉の中へ入る。

 

「やっほー! さっきぶり! ミレディ・ライセンちゃんどぇーす!!」

 

 ニコニコフェイスのミレディゴーレムがいた。小さな体でぴょこぴょこと動き回るミレディは何も知らない人間から見れば可愛らしく見えるかも知れないが、ミレディのウザさが身に染み付いているハジメたちにとっては苛立ちを募らせるだけだった。

 

 今まで黙っていたシュウがツカツカとミレディの元まで近寄り、ニコニコフェイスにアイアンクローをキメた。

 

「あガガガガが!!?」

「俺の『超直感』が反応してたのはこういうことか……おいテメェ、なぜ生きている。とっとと死ね」

「し、辛辣ゥ! やめて! このボディ貧弱だから!! ほんとっ! 待って!!? メキメキ言ってるからあー!」

 

 空中でじたばたと暴れるミレディを心底不快だと言わんばかりに投げ捨てる。舌打ちのおまけ付きだ。

 

「ひ、ひど……」

「黙れ、それより俺ばかり注目してていいのか?」

「え?」

 

 シュウがちょいちょいとミレディの後方を指さす。ミレディが振り向く前に両肩に華奢な手が置かれた。しかしその力は強く、ミレディボディがギシギシと悲鳴をあげている。しかも耳元のすぐ側で「ふしゅー……ふしゅー……」と獣のような息遣いも聞こえるではないか。ミレディが人の身だったら涙目で歯がガチガチ震えていただろう。

 

「た、助けてくれたりとか〜」

「あるわけないでしょ」

「死ね」

「ひゃあああああ〜〜!!!!?」

 

 先程までの感動を台無しにされた三人の乙女の恨みをその身で味わうことになったミレディであった。

 

 


 

 

「すみませんでした……」

 

 説教、もとい躾をされること丸一日、ミレディは地べたに正座して深深と頭を下げた。土下座スタイルだ。

 

「本当に反省してるの?」

「反省してます……」

「嘘だったらまた凍らせるだけかしら」

「ひっ! やめて! やだ!! 体動かなくなるのやだ!!」

 

 解放者の威厳はどこへ行ったのか、レイシアに怯えジリジリと後ろに下がる姿はなんとも情けない。

 というのもレイシアが行った折檻が原因だ。身体を凍らせるという単純なものだけども内容に問題がある。ジワジワと関節駆動部を凍らせて体の端から動かせなくなるという、シンプルに怖いものだった。

 しかも動けない間、両サイドでは修羅とかしたシアとユエが延々と怨嗟を呟き続けていた。丸一日だ。頭もおかしくなる。

 

「凄まじいね……」

「おーこわ。くわばらくわばら」

 

 女性の恨みは何とも恐ろしいものだ。それを目の当たりにした二人はパートナーの変貌ぶりにも驚き、そして同時に誓った。『決して怒らせないようにしよう』、と。

 と言ってもミレディが拷問、もといお仕置を受けている間、何もしていなかった訳では無い。

 

 ミレディの宝物庫を探し出し、保管していたありったけの鉱石類をネコババした。そしてその鉱石を使い装備を強化していた。

『感応石』を加工してシュウの武装に音声認識で変形できる機能を追加した。これにより籠手から大砲に変形させる速度が向上した。

 それだけでは無い。ミレディ戦で最後に使っていた弓を籠手に取り込むことが出来た。これにより、いちいち装備を切り替えなくても籠手を装着していれば状況に応じて武装を切り替えることができるようになった。

 

「流石ハジメ、さすハジ」

「照れるね」

 

 そう言いながらも、その顔はどこか得意げだ。錬成師としての技術が向上していることを実感している。

 武器やアーティファクトのメンテナスの度に決して少なくない鉱石を消費する。まだまだ貯蓄はあるが、それでも減っていっているのは確かだ。その消費していた分を軽々と補完できる程の量を手に入れたことも相まって上機嫌なのだ。

 

「さて、と。止めに行こうか」

「もうちょいやらせとけよ」

「駄目だよ。そろそろ神代魔法を貰わないと」

「でもいいとこだぜ」

 

 ん、と親指を向けた先には吊し上げにされ火で炙られているミレディとそのミレディを囲んで謎の舞を踊っている女性陣がいた。

 

「ホントに何やってンの!?」

 

 急いで止めに入るとミレディに泣きながら感謝された。流石にハジメも同情した。

 

 気を取り直してミレディから神代魔法を貰う。五人全員が展開された魔法陣の上に乗ると淡い光に包まれる。

 

「ん、やっぱり重力魔法だった」

「これでブロックとゴーレムを動かしてたのか」

 

 オルクスの時のような強烈な頭痛は無く、ほんの少し頭がピリッとするような痛みだけだった。それでも初めての体験だったシアは呻いていたが。心配してハジメが声をかけたが「女の子なのでこの程度の痛み慣れっこです!」と言われた。女の子は不思議だ。

 

「ユーちゃんとシューくんは適正ばっちりだね。レーちゃんも中々の適正だよー! シーちゃんとハーくんはビックリするくらいに適正ないね!」

「まあそれはそうだよね」

「私とハジメさんは特化してますもんね〜」

 

 いつの間にかあだ名で呼ぶくらいに親しく思われていたことに驚くハジメ。つい先程まで魔女狩りのような扱いを受けていたというのに何故なのか、これも女の子だからと言われれば納得出来るのだから不思議だ。

 

「……ユエは分かるけど、俺は何でだ?」

「さあ?」

「『さあ?』ってお前」

「私にも分かんないことだってあるもんっ! 適正なんて人によってマチマチだよ! ひとつも持てない凡人もいれば複数持つ天才もいる!」

「じゃあやっぱりお姉様は天才ってことかしら!」

「ぶい」

 

 レイシアに持て囃されドヤァとVサインを見せるユエ。無表情なのにドヤ顔に見えるのは何故なのだろう。一般人から見れば十分レイシアも天才……というか化け物の類に入るのだが、それは置いておこう。

 

「神代魔法も手に入れたし、鉱石も補充出来たし、そろそろ行こうか」

やっと行ってくれる……ん? ちょっと待って、今なんて言った? 『鉱石も補充出来た』って言った?」

「うん。じゃあミレディ、ばいばい」

 

 すたこらと逃げるように大迷宮から出ていくハジメ、それに続いて四人も若干早足で出て行った。

 

「ほぎゃあああ!!? 貴重な鉱石類が根こそぎ奪われてるぅううううー!!?」

 

 ミレディの悲痛な叫び声が【ライセン大迷宮】にコダマした。

 

 ハジメたちの旅は、まだまだ続く! 

 

「迷宮修復作業が長引くうううー!!!」

 

 

 

 

 


 

 清水「うへぇ……大迷宮ってのはどこも恐ろしいとこなんだな。っと、それはともかく俺たちもそろそろ動くことにしたぜ。こっちの迷宮は天之河たちが受け持ってくれるらしいしな。しっかしホント変わったな、アイツら。

 

 次回、ありふれた親友!

『愛ちゃん親衛隊! ラブリー、アグリー、テンポラリー!』

 

 熱き闘志に、チャージ、イン!」

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