ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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久々に他者視点です。愛ちゃん親衛隊!出動!


第二十七話「愛ちゃん親衛隊」

 南雲ハジメと澤田シュウが生死不明という凶報を耳にして、社会科担当教師、畑山愛子は泡を吹いて倒れた。

 

 高校生の生徒たちより若く見えるが、こう見えても二十五歳、とっくに成人済みだ。

 彼女は子供扱いされるのを嫌い、精一杯大人に見えるよう振舞ってきた。しかしそれは空回りしてばかりだった。生徒たちからは慕われているが、友達や姉、あるいは妹という目線でしか見られていなかった。

 それを不満に思いながらも愛子は教師として生徒たちに親身になり続けた。その結果『愛ちゃん親衛隊』などという組織が出来上がってしまったのは割愛しよう。

 

 クラスメイトが行方不明、生存は絶望的、しかも犯行に及んだのは同じクラスメイトだというでは無いか。

 愛子は考えた。どうすれば生徒たちの心の傷を癒せるのか、どうすれば生徒たちに戦いを辞めさせることが出来るのか。

 

 一週間経っても何も思いつかなかった。

 

 愛子が部屋から出れば、生徒たちは報道陣のように愛子を取り囲んだ。彼らも愛子が心配で仕方がなかったのだ。

 

 愛子は驚いた。生徒たちは既に立ち直っていたのだ。友を許し、友を助けるために、前を向いていた。蓋を開けてみれば、傷ついたままだったのは自分だけだと知り、失意の底に沈みかけた。

 

 塞ぎ込み部屋に篭もる毎日、誰が訪ねてきても愛子は返事を返そうとしなかった。

 そんな中、根気よく通い続けた生徒たちがいた。

 

「愛子先生、ご飯持ってきましたよ〜」

「……園部さん」

 

 ショートヘアをライトブラウンに染めた少女、園部優花だった。少し勝気な性格も相まって不良っぽい見た目だが根は真面目な子だ。愛子もそれを理解している。

 彼女は地球では愛ちゃん親衛隊の一人だった。しかしこの世界に来て、唯一の大人である愛子の頼もしさと脆さに気づいた。

 訓練が辛い時、愛子に愚痴を聞いてもらうのが日課だった。彼女は嫌な顔せず褒めてくれるし、心配してくれる。優花は愛子に甘え続けてしまった。

 その結果がこれだ。愛子が倒れた時、優花は後悔した。自分のせいで、自分が甘え続けたから、と。

 

「また寝てないんですか? ちゃんと寝なきゃダメですよ愛子先生」

「……寝れませんよ」

 

 優花は愛子のことを『愛ちゃん』と呼ぶことはなくなった。愛子先生、そう呼ぶ彼女の声には後悔の念が含まれている。

 

「……そんなに気に病むことないですよ。愛子先生は悪くないんですから」

「…………気に病みますよ」

 

 ふっ、と自嘲気味に呟く。その顔に愛らしい面影は残っていない。

 

「生徒が死地へ向かっている中、私は一人安全なところでぬくぬくと過ごして……南雲君と澤田君が行方不明になったことだって、受け止めきれなくて……」

 

 体が震える。寒さではなく、恐怖から。

 

「大丈夫だよ」

 

 ふわりと愛子の体を優花が包み込んだ。

 

「愛子先生は悪くないよ。それに二人だってきっと生きてる。みんなだってそう信じて迷宮を攻略してるんだから」

「園部さん……」

 

 震えが収まるまで優花は愛子を抱きしめ続けていた。

 

 


 

 

「ふう……」

「よお」

 

 愛子の部屋から出て話しかけてきたのは陰気そうな少年、清水利幸だった。手には二本の水筒を持っていた。

 

「ほらよ」

「ありがと」

 

 一本投げ渡されたものを受け取り、早速口をつける。乾いた喉に水が流し込まれ潤いを与える。

 

「ぷはぁ……はあー」

「大変そうだな」

「そう思うなら……いや何でもないわ」

「代わらねぇぞ俺は。愛子先生には悪いけどな」

「いーのよ。私から頼んだんだから」

「優しいな」

「……偽善者なだけよ」

 

 そっぽを向いて突っぱねるが、その耳は赤い。ニヤリと清水の顔にあくどい笑みが浮かぶが以前からかいすぎた結果鉄拳を顔面で受け止めた経験があるので笑みを浮かべるだけで留めた。

 

「そうだ、そろそろ行けそうだぜ。例の件」

「ホントっ!?」

「あ、おっ、おう」

「はっ、ちょっと離れてよ!」

「んな゛!? お前から近づいて来たんだろ!」

 

 興奮のあまり思わず詰め寄ってしまい清水との距離が鼻先数センチ程まで近づく。慌てて距離をとるが水を飲んだばかりだというのに二人の頬は赤く火照ったままだ。

 

「……ご、ごめん」

「お、おう」

 

 気まずい沈黙が流れる。目を合わせずよそよそしい態度は付き合いたてのカップルのようだ。

 そしてその二人のことを見つめる影が五つ。

 

「おいおい、なんだアイツら」

「くそう清水の野郎! イチャイチャしやがって!」

「バカ、あんまり大きな声出すなって!」

 

 羨ましそうな目で見つめるツーブロック少年が玉井淳史。その隣で嫉妬しているくせ毛の少年が相川昇。相川を咎めているセンター分けが仁村明人だ。

 

「男の嫉妬は醜いわよ」

「そうそう。優花も幸せそうだし〜、私としてはくっついてくれた方が嬉しいんだけどね」

 

 そんな男子たちに呆れた視線を向けているのはライトブラウンの髪をサイドアップにしている宮崎奈々。微笑ましそうに二人の様子を見守っていたのはツインテールの少女、菅原妙子だ。

 

「あっ! みんな何見てんの!?」

「多いなおい!」

「げ、見つかった!」

「逃げろ逃げろ!!」

 

 ドタバタと廊下を逃げ回る少年少女らの顔にはマイナスの感情は乗っていなかった。

 

 日付が変わって三日後。愛子の部屋に優香一行が押し入って来た。突然の来訪に目をぱちくりとさせ驚く愛子。そんな愛子の手を取り、優香が言った。

 

「愛子先生! 旅に出ますよ!」

「……ほえ?」

 

 そう言われるやいなや、生徒たちはぽかんとしている愛子をよそにせっせと準備を進めていく。準備というのは主に愛子に対するもので、自分たちの着替えや食料などは既に済ませていたようだ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってください! 一体どうしたんですか!?」

「愛子先生がいつまでもウジウジしてっから、園部が愛子先生を立ち直らすための計画を練ってたんですよ」

「計画……? どういうことですか清水くん」

 

 混乱している愛子に清水が説明をすることになった。なおその間にも他の生徒たちが準備を進めているのは変わらない。

 

 清水の話を聞くと、優香が落ち込んでいる愛子の気を紛らわすために旅行に行けば気分転換になるのでは、と考えたそうだ。

 

 ただこのご時世、旅行に行きたいと言うだけで行かさせるほど王国や教会は甘くない。どうすればいいか悩みに悩み、そして思いついた。農地調査という体ならどうだろうか、と。

 

 そこからは早かった。愛子は生徒たちが迷宮に籠っている間、何もしていなかったわけではない。愛子の天職は【作農師】、その能力の希少性から王国でも屈指の実力を持つ騎士に護衛されながら、国に指定された荒れ果てた農地の改善及び開拓を行っていた。

 

 要はその仕事の延長だ。各地の農地を調査するためなら生徒たちも護衛に着くことが出来るので愛子とコミュニケーションを図ることも出来る。

 

 勿論王国や教会の重鎮たちは渋った。何せ強力な使徒たちが迷宮攻略から離れるのだから、その分攻略速度は落ちるだろうと危惧していたのだ。優香たちが誠心誠意頼み込んでも重鎮らは中々首を縦に振らない。このままでは有耶無耶にされてしまう、そう焦っていた優香に思わぬ人物から加勢が入る。

 

 光輝と檜山だ。二人は優香たちがパーティを抜ける分、自分たちが頑張ると重鎮たちに訴えかけたのだ。勇者に頭を下げられては重鎮たちも頷かないわけにはいかず、渋々と優香たちの頼みを了承した。

 

 優香が二人に礼を言いに行き、何故賛成してくれたのか聞いてみた。

 

「元々は俺が無責任に戦争するって言ったのが原因だしさ、贖罪みたいなものだよ」

「俺も天之河と同じだ。お前らの分まで戦うからよ、お前らは先生を助けてやってくれよな」

 

 とのこと。光輝は光輝なりに、檜山は檜山なりに負い目があったようだ。

 

 そんなこんなで今に至り、愛子たちは無事旅に出ることができた。

 しかし誤算が一つ、愛子の護衛に着いていた騎士も旅に着いてくることになったのだ。優香たちは自分たちだけで大丈夫と言ったがこれには教会側が断固として拒否した。

 神の使徒である愛子と生徒たちに何かあれば王国、ひいては教会の威信に関わるとのことらしい。これには監視の意味もあるのだが生徒たちにはそこまで分からない。

 

 四人の騎士を同行することになったが、それでも旅に出れることは変わらない。気持ちを切り替えて優香はこれから始まる旅に対する期待に胸をふくらませた。どうか愛子先生の心の傷を癒せますように、と。

 

 なお、これは蛇足なのだが、護衛に着いた騎士は神殿騎士と呼ばれる騎士の中でも高位に位置する者たちで確かに実力はあるのだが考え方に難があった。

 それは亜人に対する偏見と差別だ。王国の人間、特に聖教教会の人間は魔力を持たない亜人を神に嫌われた人種として忌み嫌っている。

 

 会話の流れで亜人の話が出てきた時はそれはもう親の仇かと言うくらいに罵っていた。容姿が整っていることも相まってそれっぽく見えてしまうのがなんとも言えない。

 勿論愛子はこれに異を唱えた。亜人だろうが同じ人間、差別していい道理はないと。

 

 騎士たちは愛子の護衛を通して愛子の無償の優しさや内に秘める儚さや危うさを感じ取った。気になり話しかけて見ればどうだろうか、元々ハニートラップ要員でもあった自分たちが逆に愛子に絆されていた。

 

 騎士というものは常に危険と隣り合わせ、神殿騎士ともなれば任務は通常よりも危険度は高くなる。故に彼らの心がすり減るのは仕方がない事であった。

 その心を癒したのが愛子だった。親身になり、否定せず、自分も辛いであろうに真剣に悩み聞いてくれる。

 彼らの気持ちが愛子に堕ちるのは早かった。彼らは最早愛情を超え狂信に近い想いで愛子の護衛をしている。

 

 とまあそんな彼らには愛子が亜人を擁護するのがどうしても許せなかったのだろう。どれだけ亜人という存在が醜く恐ろしい生き物なのか自分たちの持ちうる語彙力総動員で説明した。

 彼らの中での亜人は教会によって歪められた知識しか持たず信ぴょう性など皆無なのだが、彼ら自身はそれを知らない。

 

 どうしたものかとオロオロする愛子と騎士の間に割り込んだのは以外にも清水だった。

 

「お前らそこに並べ! 俺が獣っ娘の素晴らしさを教えてやる!!」

 

 オタクであった清水は亜人、所謂獣人に対して夢を持っていた。ファンタジーの世界に入り込んだから一度は目にしたい存在だ。そんな自分の憧れの存在を貶されて落ち着いていられるほど冷めた人間ではない。

 清水は騎士たちに懇切丁寧に、それはもう丁寧に亜人の、というよりは獣フェチの素晴らしさを語った。その熱量に男子は引き、女子も引き、先生も引き、騎士も引いた。

 しかし神殿騎士の中でリーダーを務める彼、デビットはその話を真剣に聞いていた。

 

「成程……つまりケモ耳は性感帯でもあると?」

「そのとおり! しかしな、その限りじゃないんだよ。先天性で性感帯であるケモ耳と開発して後天的に性感帯にするケモ耳があるんだ。ちなみにだけどな、ケモ耳だけじゃなく尻尾というのもまたいい。なんせ尻尾なんてシリに直接着いてるんだ、感度だって耳より高いはずだ。つまり……」

「つまり、性感帯枠が一つ増えるのか!?」

「Exactly!!」

「いぐ……? まあ、理解した。亜人は忌むべき種族ではなく、愛でるべき種族だったのだな!」

「その通りだ! なんだよ話せば分かるじゃねえかデビットさん」

「デビットでいい、清水殿」

「なら俺も幸利でいいぜ。改めて宜しくなデビット!」

「こちらこそユキトシ! 部下には私から獣っ娘の素晴らしさを教えておこう!」

 

 固い握手を交わしたあと、デビットは満面の笑みを浮かべてそう言った。部下たちの表情は固まった。

 

 奇妙な友情が芽生えた中、旅は続く。目的地である湖畔の町、ウルまでもう少しだ。

 

「そもそもケモ耳の起源って言うのはなあ……」

「清水しつこい! キモイ!」

 

 もう少しの辛抱である。頑張れ優香。

 

 

 

 

 


 

 愛子「はぁ……生徒たちに心配されるなんてダメダメ教師ですね……。いけないいけない、気をしっかり持たなきゃ、私はあの子たちの教師なんだから!南雲くんたちは……なんかかっこいい名前がついたみたいですね!

 

 次回、ありふれた親友!

『やかましい二つ名! ネーム、ハーレム、ビューティフル!』

 

 熱き闘志に〜、チャージ、イン!ですよ!」

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