翌日、ハジメたちは【オルクス大迷宮】へ挑みにやって来ていた。
一階層にあるドーム状の広間では戦闘音が鳴り響いている。
「“悪を砕く強き意志が、鉄となりて拳を纏う”!! 『
「“刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け”! 『光刃』!」
龍太郎の鈍く鉄色に光る拳と光輝の光り輝く聖剣が灰色の体毛のマッチョネズミ、通称ラットマンに向けられる。
一方は頭を粉砕され、もう一方は肩から腹にかけて袈裟斬りにされ絶命した。
「“抑する光の聖痕、虚より来りて災禍を封じよ”……『縛光刃』! 雫ちゃん!」
「ありがとう香織! “全てを切り裂く至上の一閃”! 『絶断』!」
香織が杖から光で造られた十字架をラットマンに放つ。十字架がラットマンに触れると光がラットマンにまとわりつきその動きを止める。身動きの取れないラットマンを魔力で強化した刃で斬り裂く。
「おーおー流石トップクラス組の実力は抜きん出ているな。よし、光輝たちは下がれ! 次のパーティは前に出ろ!」
各パーティが一周する頃には広間のラットマンは全滅していた。どうやら一階層の敵のレベルでは相手にならないようだ。
「どいつもこいつも凄まじいな。よし、これから二十階層を目標に潜っていくぞ! 道中仕掛けられているトラップに気をつけろよ! 中には致死性のものもあるからな!」
致死性と聞いて先程までモンスターを倒してはしゃいでいた生徒たちの顔が強ばる。少し脅しすぎたかと肩を竦めながらフォローする。
「と言ってもそんな危険なトラップなんかそうそうないんだがな。それにトラップ対策にこのフェアスコープがある。こいつは魔力の流れを感知してトラップを発見することが出来るんだ。索敵範囲が狭いのがネックだが……まあ何かあった時のために俺たちがいるんだ。安心して探索しろ!」
メルドの言葉を聞いて安心したようでホッと肩を撫で下ろす者が多かった。こういう所はまだまだ子供だな、そう思ったメルドだった。
探索すること半日、一行は二十階層に辿り着いた。幾らステータスが高いとはいえ慣れない迷宮探索で疲労が溜まっているだろうと考えたメルドは休憩の合図を出した。
「ようし休憩! 警戒は俺たちがするからしっかりと休んでおけ!」
号令を聞いてそれぞれ地面に腰を降ろす。ハジメと黒乃はへたり込むように座り、シュウは二人の近くに膝を立てて座った。肩で息をするのを見るに少なからず疲労が溜まっているのが分かる。
「おい二人とも、大丈夫か?」
「あはは……大丈夫大丈夫。流石にちょっと疲れたけどね」
「僕もー無理ぃ! シュウ膝枕!」
「はいはい」
胡座に組み直したのを見て黒乃はシュウの膝に頭を乗せる。そのまま流れるように黒乃の頭を撫で初めるシュウ。ゴツゴツとした手だが大きく暖かいシュウの手は安心するみたいだ。瞼を閉じて「んふふ」と気持ちよさそうに声を漏らす。
その様子を微笑ましそうに見守っていたハジメが何かを思い出したようにステータスプレートを取り出しシュウに見せる。
「見てみてシュウ。レベルが上がって派生技能も増えたんだ!」
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8
天職:錬成師
筋力:24
体力:24
耐性:24
敏捷:24
魔力:24
魔耐:24
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・言語理解
確かに錬成技能の派生が三つも増えている。それにレベルも上がっており、少しずつだがステータスも上昇している。ハジメが真面目に訓練に取り組んできた成果が現れた証拠だ。シュウは自分の事のように嬉しくなってハジメの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「やるじゃんかハジメ!」
「うわわっ! もうシュウったら……」
恥ずかしそうにしているが撫でるのをやめろとは言わない。ハジメ自身も自分の努力が認められ褒められたことが嬉しいのだろう。顔が綻んでいる。
「そうだ。シュウのも見せてよ!」
「ほらよ」
澤田シュウ 17歳 男 レベル:10
天職:炎闘士
筋力:150
体力:150
耐性:150
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:超直感・炎属性適正[+魔力消費減少]・縮地・限界突破・復活・言語理解
別段断る理由もないので素直に見せる。ステータスプレートを見るとハジメは自分のステータスとの差に打ちひしがれながら苦笑していた。
「うわぁ……やっぱりシュウは凄いなぁ……」
「そうでもねぇよ。ところで黒乃、お前はどうなんだ?」
「んー? ほーい」
寝ていたように見えて話は聞いていた黒乃がポーチからステータスプレートを取り出しシュウに渡す。ハジメとシュウは渡されたステータスプレートを覗き込んだ。
日狩黒乃 17歳 女 レベル:7
天職:陰陽師
筋力:12
体力:12
耐性:12
敏捷:12
魔力:70
魔耐:60
技能:陰陽術[+木属性]・不吉[+不運]・言語理解
ステータスの上がり具合は魔力と魔耐だけならハジメより高いのだが、その他のステータスは非戦系職のハジメよりも低いものだった。それに加えて不吉の技能が派生しており、新たに不運が追加されている。
「おい黒乃、お前これ……」
「あーあー聞こえなーい。不運なんて見えなーいやーい」
「それで今日やたらヘイトが黒乃に向いてたんだね……」
戦闘訓練の時、魔物たちは前衛で戦っているシュウよりも後衛の黒乃を狙うことが多かった。その時は珍しいこともあるものだと流していたが、まさか技能が原因だとは誰も思うまい。
「この陰陽術の『木属性』で敵を縛ってたんだね」
「うん。やっと戦えるようになって僕も嬉しかったよ、あ〜そこそこ、いい感じ」
「オッサンかよ……でもそういうとこも可愛いな。流石黒乃可愛い」
「おいおい事実だよ参ったね」
「謙遜しないんだね……まあいつもの事か」
はたから見たらイチャついているようにしか見えないが、シュウと黒乃は付き合っていない。これはスキンシップなのだ。ハジメが『いつもの事』で流していることから日常生活でどれだけイチャついていたのかが分かる。
周りからの視線が痛いのはハジメだけで、シュウと黒乃は意に介さなかった。
「よし休憩終了! 探索を再開するぞ!」
メルドの号令で迷宮探索が再開された。
探索を再開してからしばらく歩いていると、二十一階層に続く入口に辿り着いた。つまりは二十階層の終着点だ。今回の実験訓練ははここまで来たら終了するつもりだったのだが、メルドたち騎士団は戦闘態勢を取る。
「ボサっとするな! 戦闘準備! 魔物が擬態しているぞ!」
メルドの言葉に驚き慌てながらも生徒たちは戦闘体勢に入る。
その直後に壁が隆起しながら変色する。壁と同化していた体表は褐色の肌となり、二本足で立ち上がった。胸を叩きドラミングを始めたところから推測するにどうやらカメレオンのような擬態能力を持つゴリラ型の魔物のようだ。
「ロックマウントだ! 豪腕に気をつけろ!」
ロックマウントは説明するかのごとく巨大な腕を振り下ろしてきた。その腕を龍太郎とシュウが受け止める。
「オラァ!!」
「どっせい!!」
「いいぞシュウ! 龍太郎! 魔法組攻撃!」
メルドの指示通り、後方で待機していた支援組が魔法を発動させる。ロックマウントの身体に炎がまとわりつき、断末魔を上げながら燃え尽きた。
「グガァアアア!!!」
同胞を倒された恨みか、敵討ちか、巨大な岩石を香織たち後方支援組に投げつけてきた。
迎え打とうとした香織たちが岩を凝視して悲鳴を上げる。投げられた岩だと思ってた塊はなんと丸まってロックマウントだったのだ。
「危ない香織! “万翔羽ばたき、天へと至れ”『天翔閃』!」
「グゴォアアアア!?」
「ウホォオオオ!!?」
聖なる光を纏った聖剣からエネルギーが収束し斬撃として放たれる。天職『勇者』である光輝の攻撃は二十階層の敵相手でも一撃だった。
『天翔閃』はロックマウントを投げつけてきたもう一体のロックマウント諸共斬り裂くほどの威力が込められていた。香織を守るという意思がもたらした結果だろう。
脅威が無くなったことを確認した光輝は怯えていた香織たちを安心させるために爽やかイケメンスマイルを浮かべて振り返る。
「これでもう大丈ブヘッ!?」
「馬鹿者!! こんな狭いところで使う威力の技じゃないだろうが! 気持ちはわからんでもないが、そのせいで崩落したらどうする!」
「す、すみません……」
メルドが笑顔で歩み寄ってきたので褒めてくれるのかと思いきや拳骨を貰った光輝はバツが悪そうに謝る。
そんな様子を見て香織たちが苦笑いしながらお礼を言いに来た。
「あはは……光輝くんありがとね……ってあれなんだろう? キラキラしてる……」
先程の『天翔閃』で壁の一部が崩れたのだろう。青白い光を発している鉱石がまるで花のように生えていた。女子生徒たちはその美しさにうっとりと見惚れている。
「ほお。あれはグランツ鉱石だな。あれほどの大きさのものも珍しい」
「だんちょー、グランツ鉱石って?」
「うむ、特別な効果がある訳でもないがあの通り綺麗な鉱石なんでな。貴族のご令嬢にとても人気がある。求婚の際に選ばれることが多いらしいぞ」
「へぇ〜……確かに綺麗だもんね」
「うん。とっても素敵……」
黒乃がメルドに説明を求め、その説明を聞いた香織は頬を紅潮させ更にうっとりとする。求婚というワードを聞いた瞬間、誰にも気づかれない程度にハジメに視線を送ったのだが彼は気づいていないようだった。もっとも、ハジメの隣にいるシュウと香織の隣にいる雫は気づいていたが。
「だったら俺らで回収しちまおうぜ!」
「あ、コラ馬鹿者! 安全確認もまだなんだぞ! 戻れ大介!!」
「ちっ、うっせーな。はいはーい。とったらすぐに戻りますよっ、と」
メルドの注意も虚しく檜山はグランツ鉱石に手をかけてしまった。そしてフェアスコープで確認していた団員が青ざめた顔で声を荒らげる。
「団長! あれはトラップです!!」
「何っ!? 全員ここから──」
メルドが言い切る前に部屋一帯に魔法陣が広がり魔力の光で満ちた。浮遊感を感じたのも束の間、ハジメたちは巨大な石造りの橋に転移した。十メートル程の横幅だが手すりや縁石もないので落ちたら奈落の底へ一直線だ。
慌てふためく生徒たちをよそに、騎士団の団員たちの行動は冷静で迅速なものだった。
「落ち着けお前ら! アラン、カイルは周囲警戒! ベイルはコイツらを連れて脱出だ!」
「「「「了解!!」」」」
メルドの声に正気を取り戻した生徒たちだったが、再び前方と後方に魔法陣が現れ輝きだしたのを見てパニックに陥る。後方、上層へ続く扉側の魔法陣からは大量の骸骨兵士たちが、前方、恐らく地下へ続く扉側の魔法陣からは優に十メートルを超える巨大な魔物が現れた。
「炎を放つ兜のような角に鋼鉄も切り裂けそうな鋭い爪を持つ四足歩行の魔物……まさか、まさか……ベヒモスなのか……!?」
「ベヒモス……? よく分からないけどかなり強そうな魔物だ……! メルドさん! 俺たちも戦います!!」
「馬鹿野郎! あいつが本当にベヒモスなら今のお前らでは敵わん相手だ!! かつて最強と言わしめた冒険者だって歯が立たなかったんだぞ!! いいから早くいけ! 私はお前たちを死なせる訳にはいかんのだ!!」
メルドの剣幕に怯む光輝だったが光輝の正義感が『仲間を置いて逃げるなんて出来ない!』と叫んでいる。聖剣を構えメルドの横に並ぶ。
「逃げろと言っているんだ馬鹿野郎!!」
「メルドさんたちを置いて逃げるなんて出来ません!!」
「くっ、このわからず屋が! アラン、カイル、ベイル! ベヒモスの攻撃を防ぐぞ! 結界準備!!」
押し問答をしているうちにベヒモスが咆哮を上げながら突進してした。このままでは騎士団だけでなく撤退しようとしている生徒たち全員が轢き殺されてしまうだろう。
「「「“全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず“『聖絶』!!!」」」
一回しか使えない切り札だが、使えば一分間どんな攻撃も通さない絶対防御の障壁を展開する。それを三人分使ったのだ、ベヒモスの突進をなんとか防ぐことが出来た。しかし橋全体が石造りで出来ているのにも関わらず大きく揺れた。振動と衝撃に生徒たちから悲鳴が上がる。
そんな生徒たちに骸骨兵士の魔物、『トラウムソルジャー』が襲いかかる。トラウムソルジャーは三十八階層の魔物なのだが生徒たちの実力でも充分倒せる相手だ。しかしパニック状態でまともに戦える精神じゃない今の彼らには『落ち着いて戦う』なんて出来るわけがない。
「ひいっ!? きゃっ──」
我先にと逃げようとした生徒に突き飛ばされ女子生徒の一人がバランスを崩す。後ろは暗くそこが見えない奈落、『死』、頭の中にその文字が浮かんだ。
「う、おおおおお!! “掴め、見えざる手”! 『
黒く禍々しい四つの手が女子生徒の肩や腰、腕、足を掴み抱え術者の元へ引き寄せる。
「きゃあっ!」
「おっと、と。大丈夫か!?」
「う、うん。ありがとう清水」
『闇手』を使ったのは天職『闇術師』の清水だったようだ。本来なら相手を拘束する魔法なのだが、今回は落ちそうになった女子生徒を支えるために使用した。
女子生徒は意外な相手に助けられ目を丸くして感謝の言葉を言うが、清水は焦った様子で辺りを見渡す。
「礼はいいから早く
「わ、分かったわ!」
女子生徒、園部優花はポーチからナイフを取り出して蠢いているトラウムソルジャーたちに向かって投擲した。
「ギガッ―」
「“薙ぎ払え、見えざる腕“『
「ゴガァ―」
「皆! 落ち着いて! この骸骨たちは私らでも勝てる相手だよ!!」
「ちっ! 火力が足りねぇ! 主力の大半がベヒモスの方に行ってるからだ!」
園部の声に反応して落ち着きを取り戻す生徒もいたが、未だにパニックになっている生徒の方が多い。清水はこの場で何が足りてないのか分析し口に出すが、光輝たちに伝えに行く隙もなく歯がゆい思いをする。
そんな清水の不安を砕くように三人の声が響いた。
「燃えろっ!!」
「『錬成』!」
「“木行よ、我に力を”! 『
トラウムソルジャーの一帯が炎に包まれて爆る。橋の脇にいた敵に対してはハジメの錬成によって足場を滑り台のように持ち上げられ奈落へ滑り落ちて行く。そして武器を振り下ろそうとした敵は風で貫かれ動きを止める。
「澤田! 南雲! 日狩! ってあれ?」
「清水くん! ここ任せるね!」
「お、おい! どこ行くんだ南雲! 澤田!」
トラウムソルジャーをこのまま倒すのかと思いきやベヒモスの方は走り出した二人に戸惑う清水。珍しく真剣な顔で黒乃が説明する。
「君さっき自分で言ってたじゃないか。『火力が足りない』って。だから呼びに行ったのさ、とおぉっっっっっっっっても! 不本意だけど……この中で一番火力があるのはあのアホ勇者だからね」
「な、なるほど……」
「ま、ハジメに考えがあるみたいだしさ。信じてここをどうにかしてよう」
「……おう!」
黒乃は風を操り、清水は闇を操り、トラウムソルジャーへ攻撃を再開した。
……胸のざわつきを気にしないよう無視しながら。
「大丈夫だよね、シュウ……ハジメ……」
以前障壁に突進を続けるベヒモスを前にメルドは必死に光輝を説得していた。
「いい加減にしろ光輝! もう結界も持たん! 早く撤退しろ!!」
「嫌です! 自分たちだけ逃げるなんて出来ません!!」
「こんな時にわがままを言いおって……!」
ベヒモスのような格上の魔物の攻撃をこのような限定された空間で回避するのは難しい。逃げ切るためにはタイミングを見図りながら障壁の展開を繰り返し押し出されるように脱出するのが最適な撤退方法だ。
しかしそれはベテランの冒険者であるメルドたちであるから出来ることで、素人に毛が生えた程度の光輝たちではその判断は難しい。
掻い摘んで説明したのだが光輝にとって『置いていく=見捨てる』という考えになるらしく、光輝はそれがどうしても許せないようだった。
「光輝! メルド団長の言う通りだ! 俺らが敵う相手じゃねぇ!!」
「そうよ! 私たちがここに居ても邪魔になるだけよ!」
「龍太郎……雫……お前たちはメルドさんたちを見捨てろって言うのか!?」
「雫ちゃん、光輝くん、龍太郎くん……落ち着いてよ!」
いつベヒモスが障壁を破ってくるか分からないというのに口論をすることは異常だ。だからこそ雫たちは焦っているし、光輝も焦っている。
そんな四人の前に二人の男子が飛び込んできた。
「南雲!? それに澤田まで!?」
「天之河くん! 早くこっちに戻って来るんだ!! リーダーがいなくてまともに戦えていない! 一撃で切り抜ける力が必要なんだ! それは君にしか出来ない!!」
「こういう時こそ勇者様の出番なんじゃないのか? それとも……足引っ張って迷惑かけんのが勇者の仕事なのか?」
「……ッ! そう、だな。すみませんメルド団長、先に撤退します!」
「やっとか、早くしろ! そろそろ崩壊するぞ!」
メルドの言葉通り、結界のあちこちにヒビが入り込んでいた。それを見てようやく事の重大さが分かったのか光輝は顔を青ざめさせる。
「っ、行こう!」
「うん南雲くんも……南雲くん!?」
光輝と龍太郎がトラウムソルジャーの軍勢の元へ駆け出したのと同時にハジメとシュウはベヒモスに向き直り対峙する。既に向こう側に行っている男子二人は気づいていないようだが、雫は視界の端に慌てる香織を捉え何事かと振り向いた。
「ちょっと! 何してるの二人とも!」
「そうだよ! 早く逃げないとメルド団長たちの邪魔になっちゃうよ!」
「アホが。どっちみち団長たちの障壁が砕けたら轢かれちまうだろうが。……ハジメに考えがある。 お前らは骸骨たちを倒してこい」
「安心してよ白崎さん。何かあってもシュウが助けてくれるから」
口ではそう言っても怖いのだろう、体が震えている。当たり前だ。一流の冒険者であるメルドたちでさえ恐怖を感じているのだ、ついこの間までただの学生だったハジメが恐怖を感じないわけが無い。
「……出来るのか?」
「出来ます」
メルドの問いに迷わず力強く答える。ハジメの目には『絶対にやり遂げてみせる』という強い意志とこんな状況だと言うのに『安心』の色がある。恐怖で体が震えているというのに、だ。
「安心してくれよメルド団長。何かあっても俺がハジメを助けるからよ」
「……そうか、なら。頼むぞ。本来守らなければならないお前らにこんなことを頼むなんて騎士失格なんだがな……」
「そんな事ないですよ。今まで守って貰ってたんですから……」
「そう言って貰えると助かる……じゃあ、合図を出したらスイッチしてくれ。いいな?」
障壁はもってあと十秒といったところだろう。ハジメが深呼吸して緊張を解しているとシュウに背中をバシッと叩かれた。突然叩かれたことに驚くが、それがシュウなりの激励だと気づき笑みを浮かべる。
「よし、頼んだぞハジメ! “吹き散らせ”『風壁』! スイッチだ!!」
障壁が砕け散った瞬間、ベヒモスが突貫してくるのだが、その勢いを風の壁を使い上手くいなした。そのままバックステップでその場を離脱する。
「『錬成』!!」
岩盤が盛り上がりベヒモスを拘束しようとするがそれだけでは拘束が弱いのか簡単に振りほどかれてしまう。
「くっ……!」
「待ってろハジメ」
シュウは跳躍してベヒモスの頭上に躍りでる。そして炎を足に纏わせ回転しながら踵落としをくらわせた。威力は凄まじく、ベヒモスの頭部を橋にめり込ませる程だった。
「グルガァアアアアア!!!」
「ハジメ! 今だ!」
「うん! 『錬成』!!」
頭部が地面に埋まっているので先程とは違いガッチリと拘束することが出来た。ベヒモスは抜け出そうと足をジタバタさせてもがいているが、ちょっとやそっとでは抜け出せないようだ。
「これで……どうだ!!」
「よし、逃げるぞハジメ!」
「うん!」
ダメ押しに四肢も地中に埋め込むように錬成して二人は上層へ上がる道へ走り出す。魔法陣からまだトラウムソルジャーが沸いているが、それもすぐに倒される。光輝たちが来たことでパニック状態を脱出したクラスメイトたちにとっては恐れる相手では無かった。
メルドたち騎士団も辿り着いたようで光輝たちに指示を出している。
「お前らぁあ!! 走れぇええ!! ベヒモスが抜け出そうとしているぞ!」
「なっ!? 結構しっかりと拘束したよ!?」
「拘束しすぎたみたいだな。力任せに外そうとしてるからこのままだと橋が崩れるぞ」
シュウの言葉通りベヒモスは拘束を抜け出そうと力任せに暴れている。その度に橋が悲鳴を上げて粉塵と瓦礫が舞う。
「魔法援護準備!! まだ撃つなよ! 拘束を逆に解いてしまう恐れが大きい! ベヒモスが迫って来た時に放つんだ! いいな!?」
「「「「「はい!!!」」」」」
返事とともに各自いつでも魔法を撃てるように準備する。誰もが緊張した顔つきをしている中、一人だけ仄暗い笑みを浮かべている者がいた……。
「クソが……!」
「ヤバいな……間に合わねぇぞこれじゃ」
「はあっ、はあっ、しゅ、シュウはっ、僕をっ、置いてっ!」
「逃げれるかよ! しっかり掴まってろハジメ!」
「うわわっ!」
魔力を使い切り倦怠感が襲う中、全力疾走をしていたハジメは今にも倒れそうな様子だった。このままでは間に合わないと判断したシュウはハジメをお姫様抱っこで抱えて走ることにした。
「あ、ありがとうシュウ……っやばい! ベヒモスが!!」
「ちっ! 燃えてろ!!」
「グガァアアア!!」
抱えられて余裕が出来たハジメが状況を報告する。ベヒモスは拘束を振り解き、抑え込められた怒りからか角を赤熱化させて突貫してきた。
このままでは直撃する、そう思ったシュウは炎をクッションにすることで何とか突進を凌いだ。しかし──
「うわあああ!?」
「グハッ!」
衝撃を全て殺す事は出来ず、抱えていたハジメ諸共吹き飛ばされる。メルドたちの元まであと100mといったところだ。ベヒモスはのそりと顔を上げて再び角を赤熱化させる。
「くそっ……あと少しだってのに……!」
「撃てえええええ!!!!」
メルドの号令により色とりどりの様々な魔法がベヒモスに向けて放たれた。攻撃態勢に入っていたベヒモスは回避することも出来ず、それらの魔法を全て受け止める。
「グガァアア……!!」
「今のうちだ! 走れお前ら!!」
「立てるか、ハジメ?」
「な、なんとか……!」
再びハジメと共にメルドたちの元へ走り出す。視線を向ければ第二射が放たれるところだった。
瞬間、寒気が背筋を駆け抜ける。ここに来てから何度も感じたことのある、『超直感』が働いた証拠だ。
「……ッ!? 避けろハジメ!!」
魔法の1つが方向を変えてハジメに降り注いだ。咄嗟のことで防御できなかったハジメは為す術なくそれを喰らってしまう。魔法の威力に押されハジメの体は奈落の方へ傾く。
「な、うわぁああ!!?」
「畜生っ!! ハジメぇえええ!!!」
このままではハジメは橋から落ちてしまう。
(ふざけるな! ふざけるな!! ふざけるな!!!)
足に力を込め、飛び込む。
「うおおおおおお!!!」
シュウの手は確かにハジメを掴んだ。
「がっ!?」
掴んだ瞬間、熱と衝撃を受けシュウの体は押されるように奈落へ滑る。
(な、んだと……?)
「逃げろお前たち!!!」
メルドの叫びも虚しく、ベヒモスが怯みから回復して赤熱化した角をシュウとハジメに向ける。
あまりにも強力な一撃にシュウの意識はぐらつく。
「ハジメ、だけでも……!!」
ハジメを抱きしめて受け止めるがメルドたちの元へ戻れるわけもなく、重力に従って奈落の底へ落ちていく。
「ハジメぇえええええ!!!! シュウぅうううううううう!!!!!」
黒乃の悲痛な叫びを最後に、シュウの意識はブラックアウトした。
清水「奈落へと落ちてしまった南雲と澤田、しかしあれは檜山の悪意によるものだった。
断罪するために檜山を尋問していると天之河が口を挟んで来やがった。
お前のご都合主義はうんざりだぜくそったれ!
次回ありふれた親友、
『光輝の成長! ジャッジ、イメージ、チェンジング!』
熱き闘志を、チャアアアジ、イン!」
清水くんから溢れ出る誰だお前オーラ。次回も清水くんはイケメンです。
オリジナル魔法とか技能とかはそのうちまとめて解説します。多分