タグつけないとか……
視界から光が消えていく。カメラがズームアウトするように暗闇しか見えなくなっていく。
「ハジメ! 絶対に離すなよ!!」
シュウが僕を抱きしめる温もりだけを感じながら、奈落の底へ落ちていく。肌が焼け付くほど暑かったベヒモスの熱気が嘘のように冷えていく中、その温もりだけは暖かった。
「ヤバいっ! ハジメッ! 息止めろ!!」
その温もりは突然かき消された。滝行のような勢いの水流がハジメとシュウを飲み込む。熱は消え体温が一気に下がっていくのが分かる。
だがハジメは自分の体を抱きしめる感触が消えてないことに気づいた。シュウが抱きしめる力を緩めないのだ。シュウは何があってもハジメを離さない、安心したハジメの意識は徐々に薄れていった。
頬に滴が当たる感触で目が覚める。気だるい身体を起き上がらせて周りを見渡す。全体的に暗いが視界が全く効かない訳ではない。
「……ここは、奈落の底か……? っそうだハジメ!!」
決して離さないよう力いっぱい抱き留めていたハジメは少し離れたところに横たわっていた。すぐに駆け寄り声をかける。
「おいハジメ! ハジメ!! ……くそっ! 息してねぇ……!」
水流に飲まれた時に水を飲んでしまったのだろう。ハジメは息をしていなかった。慌てて人工呼吸を行い蘇生を試みる。どうやら気を失ってからそんなに時間は経っていなかったようで、何事もなくハジメは目を覚ますことが出来た。
「げほっ、かほっ! ううっ……しゅ、シュウ……? 僕は……ここは……一体……? くしゅんっ!」
「それよりまず服を乾かさないとだな。風邪引いちまう……」
炎魔法で火をつけて暖を取る。ハジメは落ちる前後の記憶が曖昧になっているようで混乱していた。シュウが話すと朧気に思い出してきたようで苦痛に顔を歪ます。
「ハジメ、大丈夫か?」
「う、うん……正直まだ混乱してるけどね……」
「誰が撃ったか、考えるまでもないな」
「……檜山だね」
明らかな殺意。異世界に来てから何度も感じた視線。シュウの『超直感』と今までの行動から察するに犯人は檜山しかいない。シュウは激怒するでもなく、悲観するでもなく、『無』だった。まさに能面、そう呼ぶのに相応しい無表情だった。
「殺すか?」
「……いいや」
「生かしておくのか?」
「そういう話じゃないよ。まずはここから上に戻らないと……あっちの言い分も聞かなきゃいけないしね」
「……まあ、こっちが生き残らなきゃ意味ないしな。しゃあない、これからの行動方針を決めようぜ」
足を投げ出しダラりと脱力する。奈落に落ちたというのに危機感が感じられないシュウにハジメは浮かび慣れた苦笑を見せる。
「そうだね。まず飲み水と食料の確保が最優先だと思う」
「水は最悪俺が沸騰させてハジメが錬成で濾過装置作ればいけるけど食いもんはなぁ……なんかあるか?」
「なーんにも。シュウは?」
「奇遇だな、俺もだ」
腰に着けていたハズのポーチはびしょびしょのボロボロになっていた。流水に打たれた時に駄目になったのだろう。携帯食、コンパス、包帯、全ての道具は使い物にならなくなっていた。
「……魔物って食えるんだっけ?」
「毒だよ。食べたら身体が爆発四散! 南無三! って感じでお陀仏らしいよ」
「さいですか」
「でも木の実とか魚とか、なんにも無かったら食べなくちゃいけないかもね」
「選択肢はほぼ無し、か。うっし服も乾いただろ。そろそろ探索しよう」
「そうだね。どこに危険が潜んでいるか分からないから注意しながら進もう」
ハジメの言葉通り、奈落の魔物はまさに化け物揃いだった。電撃を帯びた狼の群れに、その狼を一対五という数の不利を無視して蹴り殺した白兎、そして──
「……んだ、この化け物は……!?」
「ぁ、あぁああぁ……!!」
その兎すら食い物にする怪物、ベヒモスなどとは比べるのも烏滸がましいほど恐ろしい爪を持つ巨大な熊の魔物。放たれる殺意は鋭利な刃となってハジメとシュウの喉元に突きつけられていた。
「くっそ……!? ハジメ! 気をしっかり持て! 逃げるぞ!!」
「あ、ぁ、ぅ、うん……っ」
「っ! 悪いハジメッ!」
「え、ぐあっ!?」
シュウはハジメに蹴りを入れた。突然蹴られ怒りよりも混乱が先に来る。が、すぐに理由がわかった。先程までハジメがいた地面にはまるでショベルカーで抉ったような傷跡がついていたからだ。もしシュウが反応していなかったらと思うとハジメの体温が一気に下がる。
「ハジメ!! 逃げろ!!」
「シュ、シュウっ……!?」
「俺はいいから行け!!」
シュウの左足は酷い裂傷を負っていた。傷口からは血が止めどなく流れ出ておりこのままでは失血死しそうな量だ。
「その傷じゃ──」
「早く行け! どっちみち俺はこの足じゃ無理だ!!」
「くっ……! ごめん、シュウ!」
ハジメの足音とともに気配が遠ざかる。安心したのも束の間、魔物が緩慢な動作で腕を振り下ろす。咄嗟に至近距離で炎を爆破させて無理矢理回避したが、ダメージが大きすぎる。もう一度は無理だろう。
「うおおお!? あっぶねぇなぁ!」
「グルルゥ……」
「クソが……掠っただけでコレかよ……!!」
忌々しげに呟くシュウのその脇腹は足と同じように裂傷が出来ていた。回避しきれなかったようだが、足の傷よりは軽い傷だ。
「ハジメ……生きろよ……! ォォオオオオオ!!!」
「グルォオオオ!!」
人と獣の雄叫びが交差した。
「はあっ……ぐっ……くそ……!」
「ガルルゥ……」
数分後、血溜まりの中に沈むシュウの姿があった。身体中傷だらけで無事なところを探す方が難しい。四肢がくっついているだけ僥倖だ。
魔物はまだ目に闘志を灯しているシュウを見て苛立ちを表すように吼え散らした。
「グガァアアア!!!」
「熊公が……!!」
「『錬成』!」
「グルゥウウ……!?」
岩が腕の形に変化し魔物の身体を拘束する。
「シュウ! 大丈夫!?」
「ハジメ……逃げろって、言っただろ……」
「シュウを置いて逃げれないよ! 肩貸すから捕まって! 逃げ道を造ってきたから!」
「造ってきた? くっ!」
「グルオオオオ!!!」
魔物は力任せに拘束を振りほどこうとしている。折角仕留めきれそうだった獲物をみすみす逃がすのだ。魔物からしたら大層な屈辱だろう。
「説明は後! いいから入って、っと! はい『錬成』!」
「おわぁ!?」
魔物の視界から逃れて少し歩いた先に横穴がぽつんと空いており、ハジメはシュウと自身の身体をそこに押し込むと『錬成』で入口を塞いだ。
中に潜っていくのと同時に入口の壁を更に厚くするのを忘れない。足を引きずりながら辿り着いた先には、青白い神秘的な光を中心に広い空間が出来ていた。
「こりゃあ一体……」
「これは『神結晶』っていう鉱石なんだ。鑑定してみたんだけど、悠久の時を経て大地の魔力が結晶化したものみたい。で、驚くのはここから! シュウ、この水を飲んでみて!」
「水って、この石から出ているのをか?」
「いいから早く!」
言われるがままに水を掬い口をつける。するとボロボロだった肉体がみるみるうちに癒されていくでは無いか。驚きのあまり声を失うシュウを他所に、ハジメはテンションを上げて説明する。
「傷が……!?」
「凄いでしょ!? 神結晶から流れた流れた水は失った魔力を満たす効果とあらゆる傷を癒す効果があるみたいなんだ!」
「まるでエリクサーだな……」
「一応傷口にもかけておこう。染みるかもしれないけどちょっと我慢してね」
そう言ってシュウの傷口に水をかけていく。傷はみるみるうちに塞がりそこに傷など無かったように元通りになった。余りの効力にシュウは空いた口が塞がらない。
「す、すげぇな……」
「この水、う〜んと神結晶から流れる水だから……『神水』とかかな? さっきは緊急事態だったからそのまま飲んじゃったけど、一先ず容器とか濾過装置とか作らないとね」
「錬成師様々だな」
「自分でもこんなに役に立つとは思わなかったよ」
それからハジメたちは神結晶がある場所を拠点とし探索を始めた。そしたら出るわ出るわ錬成師にとっての
例えば『緑光石』、これは魔力を吸収する性質を持っており、魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。その状態で鉱石を砕くと溜めていた分の光を放出する。
こちらは『燃焼石』、可燃性の鉱石で点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。
ただ密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する危険性があるので使用には注意が必要だ。
最後に『タウル鉱石』。黒色の硬い鉱石で、十段階評価中硬度八の硬さを持つ鉱石だ。衝撃や熱に強いが冷気には弱く、冷やすことで脆くなり熱を加えると再び結合する性質を持つ。
ハジメはこれらの鉱石を使って一体何を作るつもりなのか、少し考えればすぐ分かる。簡単な話、今のハジメたちには武器がない。ステータスの差を埋めるには圧倒的な強さの武器が必要になってくる。
「それで拳銃か……?」
「うん。と言ってもこのままじゃ火力が足りないと思うんだよね……」
「そんくらいの岩をぶち抜ければ十分だろ……」
シュウの眼前にはシュウの背丈を超える大岩があった。中心には弾痕らしき跡があり、そこから外側に広がるように大きな亀裂が入っている。ほぼほぼ砕けていると言ってもいい。
「いやダメだよ。ここら辺の魔物には通用するかまだ分からない……せめてもっと大型の銃が使えればなぁ……」
「ロマン求めすぎだろ。肉体改造でもしなきゃ叶わない望みだな」
「いやでも理論上はどんな魔物にも通用するはずなんだよ!」
「なんの理論だよ──っと、敵さんのお出ましだ」
そう言って立ち上がり構えを取るシュウ。二人の前には二尾の狼魔物が二体現れ敵意をあらわにする。それに気づいたハジメも銃を魔物に向け交戦状態に入る。
「二体か……一人一殺、いけるか?」
「任せてよ、勝てるさ……多分」
「気張れよハジメ!」
「シュウこそ!」
互いに鼓舞し合いながら狼魔物に相対する。圧倒的なステータス差があるはずなのに不思議とシュウの心に恐れはなかった。
(なんだ……まるで心が凪いだように穏やかだ……不思議な感じだ……)
「ガルルル!!!」
「ふぅー……燃えろっ!」
両手から火球を生み出し牽制のために狼魔物に放つ。
(分かる。アイツが次にどう避けるのか、どう動くのか。何故だろう……動きが読める! 分かるぞ!)
「グルルァア!!」
「オラァ!!」
「ギャウン!?」
鋭い牙を立てようと飛びかかるがシュウはそれを予見してたかのごとく攻撃を躱し炎を纏った蹴りをくらわせる。怯んだ狼魔物に向かって数十発もの火球をぶつけ更に追撃を行う 。
狼魔物の硬い表皮も超高温の炎を纏ったシュウの蹴りや拳を受け続けボロボロと崩れていく。そして表皮が薄くなった箇所に狙いを定め貫手を構える。
「これで、トドメだ!!」
「ギャウッ!? ルゥ……」
「ハジメの方は……!」
パパパパッ、銃声が洞窟内に響く。同時に狼魔物の断末魔も聞こえた。
「ふぅ。あっ、シュウ! 凄いよこれ! 狼が二、三発で怯んだんだ!」
「ほんと凄いな……こんなスムーズに進むなんて……」
「僕も驚いたよ。さて、と」
ハジメは銃をホルスターにしまいながら狼魔物の死体に目を向ける。
何もわざわざ銃の試し打ちをするためだけに魔物と戦ったのではない。二人は生物として根本的な危機に陥っていたのだ。
そう──
「肉だ!!」
「飯だ!!」
空腹という名の危機に。
魔物の肉を解体して焼く。あまりにも酷い匂いにハジメとシュウは二人揃って噎せる。
「ゲホッゲホッ!」
「おえぇ……でも食いたくねぇとか言ってられないからな。ハジメ、まず俺が食ってみる。ヤバそうだったら神水を渡してくれ」
「了解……」
ハジメの瞳はシュウの身を案じるように揺れて潤んでいる。長い付き合いのシュウだからこそ気づいた、今のハジメは魔物を倒した高揚感から解放されシュウを失ってしまう不安が胸中を渦巻いていることに。
シュウはハジメを安心させるために優しく抱きしめた。この程度のスキンシップは子供の頃から今に至るまでやり続けていたのでハジメが動揺することはない。
「大丈夫だハジメ。俺は死なない。ほら、技能欄にもあるだろ? 『復活』の技能が」
「シュウ……うん。信じるよ」
おどけるようにステータスプレートに書いてある技能を見せる。『復活』がどのように作用する技能なのか分かっていないので死んでも生き返れる確証なんてない。それがハジメを励ます為の方便だと言うのはハジメ自身も理解していた。だからこそ、ハジメはそれ以上何も言わずシュウの背に腕を回した。
抱擁を止めて魔物の肉を一口サイズに千切り、ごくりと喉を鳴らす。
「よし……じゃあ、いただきます」
男は度胸。口の中に肉を放り込み咀嚼する。久しぶりに胃に食べ物が入ったせいか空腹が更に肉を求めるよう主張した。
そして直ぐに異変は起こった。
「ガッ──ゲハッ!」
血の塊を口から吐き出すと同時に、シュウの身体のあちこちがひび割れていくではないか。血管はこれでもかと言わんばかりに膨張し、中には破裂したところもあるのか皮膚がトマトのように赤く染っていく。
ハジメは用意してた神水をシュウの体に振りかけ、尚且つ試験管容器に入れている神水をシュウの口元に当てた。
「ガ、ア、アアあアァアぁア!!!!?」
「シュウ! 飲んで!! 早く!!」
やはり経口摂取でないと内傷には効果が薄いのか、シュウは神水を掛けられても以前苦しんだままだった。
口元に当てた神水も自力では飲めないようで痛みにのたうち回る。ハジメの判断は早かった。神水を自分の口に含ませシュウに口付けする。ようは口移しだ。
緊急事態の時、負傷者が自力で水分を取れない場合は口移しで流し込むことが推奨されている。ハジメの行動は緊急意識にあった正しい行動だった。
「かはっ、う、ガァアアア!!!」
「なんで、治らないの……!?」
神水を飲んだシュウの身体は崩壊を一旦止めた。しかし止まったのも束の間、再び身体が崩れていく。けれども神水の効力が身体を治し、また魔物の毒が暴れ狂う。
無限ループだった。破壊され、治り、また破壊され、治る。カードゲームのループ証明より単純な繰り返し、単純だからこそ、それは地獄だった。
言葉では言い表せないほどの激痛のせいで意識を失うことも出来ない。そんな中、人はどうなるのか。簡単な答えだ、狂ってしまう。正気を失い、自我を保つことさえ難しい。
シュウの精神も例外ではなく、既に人の道からは半ばはみ出している状態だった。
ハジメの声も届かなくなってきた所で、シュウは死を覚悟した。
「──」
視界が白に染る。気がつくとシュウは何も無い空間にいた。
見渡す限り白白白、シュウの体もそこにはなく、ただ意識だけがぼんやりと浮かんでいるようだった。
突然白しかない空間に映像が映し出された。ハジメと黒乃が談笑している映像だ。視点の高さからして自分の記憶なのだろう。
そこで理解した。『これが走馬灯か』、と。
学校生活の思い出、子供時代の思い出、悲しいものや楽しいもの、全ての記憶が流れて行った。
それで終わりだと思っていた。
しかし映像は流れ続ける。
見覚えのない男性、その手には銃を持っており自分に蹴りを入れてくる。
『なんだ?』
親しい友人であり、家族でもある仲間たち。いつもいつも自分の無茶に付き合ってくれるかけがえのない絆の証。
『知っている……』
強敵、自分の力が通用しない時が何度もあった。けれども諦めず、仲間に支えられながらその度に限界を超えて、死ぬ気で戦ってきた。
『俺は……覚えている……』
大空。それは自分の力であり、自分の象徴でもある。
ふと指先に熱を感じる。視線を向けてみれば見慣れたような見慣れないを指輪をつけていた。
「リング……? なんなんだ、この記憶は……」
「それは君の記憶だよ」
「っ誰だ!!」
振り向くと見知らぬ男が立っていた。傲岸不遜な自分とは違い随分弱気そうだ。しかし、その目は違った。全てを見透かす力強い意志を灯した瞳、この男の前では嘘をついても無意味なのだろう。そんな確信がある。
「俺は君でもあり、君は俺でもある」
「どういう意味だ」
「君は前世って信じるかい?」
そう言って人懐っこい笑みを浮かべる。
「前世、だと? まさかさっきの映像が俺の前世だとでも言うのかよ」
「そうだよ。理解できないと思うけどね」
「当たり前だ。そんな簡単に理解出来るわけないだろ馬鹿かてめぇは」
「ちょっと今世の俺辛辣すぎない?」
一応前世の自分だと言うのにシュウの辛辣な言い草に男は困惑を隠せないでいる。仕切り直すようにコホンと咳をして空気を戻す。
「今のままじゃ彼の力になれない。君も分かっているよね?」
「ちっ……そうだよ。あの狼魔物はどうにかなったが熊公相手じゃ分からねぇ……」
「死ぬ気で頑張ったって敵わないだろうね。今の君は『炎』の力を使いこなせていないからね」
「炎の力だと……?」
どういう意味か測りかねていると男は自分のグローブに炎を灯した。炎はグローブだけでなく額にも灯っているが男は熱がることも慌てることも無く落ち着いていた。
「この炎は『死ぬ気の炎』。俺の武器であり、力であり、覚悟でもある」
「死ぬ気の……炎……」
「聞き覚えがあるはずだ。死ぬ気の力は覚悟の力。君の覚悟が、そのまま力となって炎になる」
「覚悟の力……」
「君は何のために力を求める?」
朗らかな笑みを浮かべていた男だったはずなのに、今は鋭い眼差しでシュウを見つめていた。本当に同一人物なのか疑わしい。
男の問いにシュウは考えた。頭に思い浮かぶのは大切な
「……俺はハジメと黒乃を守るために強くなったんだ! 何のために力を求める? はっ、決まってんだろ!」
不敵な笑みを浮かべ親指を自身に向け宣言する。
「俺がアイツらを守るためだ!! 矛となり、盾となる。その覚悟はとっくの昔からできてらァ!!」
幼い頃、シュウは虐められていた。生まれつき髪が白かったから、悪い目立ち方をしていたのだ。ただでさえ人は自分と違うものを、常軌を逸脱したものを恐れる。子供であったらなお顕著になることだろう。
幼いシュウを守ってくれていたのは南雲ハジメと日狩黒乃だ。二人の背中に憧れたし、二人が困っていたら今度は自分が助けになりたいと思った。
格闘技を教わることは決して楽しいことばかりではなかった。痛かったし辛かった。それでもシュウが格闘技を続けることが出来たのは二人を守るという強い意志が、覚悟があったからだ。
それが澤田シュウという人間を構成する根幹であり、全てである。
シュウの答えに納得したのか、男は炎を消して先程の朗らかな笑みに戻った。
「うん、そうだよね。君ならそう言うと思ったよ。じゃあ炎の使い方を教えようか」
映像が再び流れる。同時に頭にひび割れるような痛みが走った。
「ぐっ、うがぁあああ!!!」
「頭で覚えてもらってから、体で覚えてもらう。例えここでの記憶が消えても身体に染み付くように」
「上ッ等……!!」
痛む頭を抑えながら目の前の男を睨みつける。絶対にものにして見せるという気概を見せる獰猛な笑みをシュウは浮かべていた。
「──! シュウ!」
「は、じめ?」
目を覚ますとハジメの顔がドアップで映る。泣き腫らしたのだろう、ハジメの目元は真っ赤だった。起き上がろうと身体を動かすが、身体に走る激痛で上手く動かすことが出来ない。
「良かった……本当に良かった……シュウが生きてて……本当に……」
「おいおい泣くなよハジメ……確かに死にかけたが生きてる」
ハジメから神水を飲ませてもらいよろよろと身体を起こす。バキ、ボキ、ゴキ、と身体から骨が軋む音が鳴る。
自分がどうなっていたのかハジメが説明してくれた。どうやら魔物の毒による破壊と神水による再生を繰り返していたのだが突然それらのループが収まり、橙色の炎に包まれたらしい。
いきなりシュウの身体から炎が吹き出て驚いたハジメは神水をふりかけた。だが炎は消えずシュウの身体を包み込んだままだった。
しかしここでハジメは気づく。そう、シュウは炎に包まれてから苦しんでいないのだ。炎がシュウを焼き尽くすような感じでもないので様子を見守ることにした。
不安に押し潰れそうになりながらもシュウの手を握って名前を呼びかけていた。
しばらくしてシュウの身体を纏っていた炎が収まり目を覚ましたという訳だ。
「成程な。ありがとな、ハジメ」
「あっ、えへへ……シュウが無事で良かったよ」
ハジメの頭を撫でると花が咲くような笑みを見せる。同性であるシュウも思わず見惚れてしまうほどの笑みだ、ここに白崎香織がいたら鼻血ものだっただろう。
「ところでシュウ。身体に不調はない?」
「そこら中が痛いがそれ以外は特にないな……」
「そうだ! ステータスプレートを見てみれば何か分かるかも!」
そう言われてステータスプレートの存在を思い出した。取り出して確認してみる。
澤田シュウ 17歳 男 レベル:11
天職:炎闘士
筋力:300
体力:300
耐性:200
敏捷:300
魔力:200
魔耐:200
技能:超直感・炎属性適正[+性質変化柔炎][+魔力消費減少]・大空七属性適性[+調和]・魔力操作・縮地・限界突破・復活・言語理解
「なんだこれ……」
「ステータスが上がっている……!? それだけじゃない、技能も増えてる! まさか魔物を食べたから?」
「かもな……待てハジメ、その魔物の肉を置け」
「で、でも僕もこの肉を食べれば……シュウの役に……」
「馬鹿、俺が魔物の肉を食ってどうなったか見てなかったのか。確かに神水があればどうにかなるかもしれないが……」
「えい!」
「あ、こらバカ!? すぐに吐き出せ!!」
「いやふぁ!」
ハジメはシュウが止める間も無く神水で流し込む。すぐに異変が起こり苦しみ始める。
「ガアあァアあ!!?」
「言わんこっちゃねぇ……! くそ、何か出来ることはないのか!」
その時ふと思い出した、自分の技能欄に謎の技能が追加されているのを。
『大空七属性適性』の派生技能、『調和』……字面を見るに不安定な状態を整えることができるはずだ。
痛みで白目を向きながら血を吐くハジメの身体を抱きしめて毛布を被るように炎を纏う。
「ぐ、が、ぁあ……」
「大丈夫だハジメ……大丈夫……」
「ああ、あ……」
炎を纏ってもハジメは熱がる様子はなく、むしろ痛みが引いていくのか苦痛に歪んでいた顔が穏やかなものに変わっていく。痛みが激しいストレスになっていたのだろう、ハジメの髪の根元は白く染まっていた。
撫で続けてどれくらい経ったのだろうか、ハジメがゆっくりと瞼を開けた。
「おはようハジメ」
「……うん、おはようシュウ」
そうしてハジメは強さを手に入れた。
龍太郎「人外の強さを手に入れた澤田と南雲。
真のオルクス大迷宮を探索していく中で不思議な場所に辿り着いたみてぇだ。
そこには少女が封印されていて、って全裸ァ!?
次回ありふれた親友、
『暗闇に浮かぶ月! シールド、グリード、ムーンナイト!』
熱き闘志をチャァアアアアジ! インだオラァアア!!」
シュウの前世とか全く掘り下げるつもりないんで忘れてもらって構わないです。ただ作者が死ぬ気の炎もったキャラクターを作りたかったけど上手い設定を考えられなかっただけですから。リボーン知らない人のための用語説明は挟むかもしれませんが前世がどーたらこーたらとか死ぬ気の炎がオルクスにもある!?なんてことは絶対にしません。というかしたくない。