ありふれたハジメさんには親友達がいます   作:妖魔夜行@

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第九話「暗闇に浮かぶ月」

「『纏雷』か」

「これで僕が思い描いてた機能が作れるよ」

 

 ハジメのステータスもシュウと同様に成長していた。それだけではなく技能まで追加されていた。ハジメはその技能に覚えがあり、狼魔物が使っていた雷の固有魔法だと考えた。

 

「シュウの調和の力があれば痛みを気にせずに魔物の肉を食べれるね」

「そうだな。じゃ、ここらの魔物狩りまくるか」

 

 その言葉通り二人は辺りの魔物を片っ端から狩って食いまくった。最初に食べた狼の魔物に加え足の筋肉が異様に発達した白兎の魔物、それとシュウを血たち磨にした凶悪な爪を持つ熊の魔物。

 

「二人がかりだと楽勝だったね」

「ハジメのドンナーのお陰でもあるな」

「えへへ……」

 

 ドンナーとはハジメが製作した銃を改造した大型リボルバーのことだ。電磁加速機能も搭載されており、端的に言うと小型のレールガンとなっている。火力は熊魔物の腕を一発で簡単に吹き飛ばせる程度と言えばどれくらいぶっ壊れた性能をしているか分かるだろう。

 

「んじゃ食料も飲水も確保したことだし」

「下の階層に降りていこうか」

 

 何故ハジメとシュウが下へ向かっているのかと言うと、この階層から上へ戻る入口が見つからなかったからだ。どれだけ探してもそれらしき場所は見つからなかった。マッピングも完璧に済ませてしまい、移動できるのは下層だけだった。

 恐らくここがスタート地点になることがイレギュラーなのだろう。当初ハジメたちが探索していたオルクス大迷宮の最初から百階層は入口に過ぎず、真の大迷宮はその先から始まるとハジメは考察した。進んでいけばいつかはゴールに辿り着くはずだし、強くなれるはずだ。

 一人だったら絶望していただろう。けれどもハジメは一人じゃない、シュウがいる。それだけでどんな敵が出てこようとも負ける気はしなかった。

 

 下へ下へと降りていく二人。道中強力な魔物が何体も現れたが、その度に蹴散らしながら進んで行った。勿論倒した魔物の肉は忘れずに確保した。中には口にするのも躊躇う姿をした魔物もいたが、そこは男子。男は度胸の精神を思い出しかぶりついた。

 ちなみに魔物と言っても動物のような魔物ばかりでなく、蛾や百足といった虫のような魔物や蛙のような爬虫類の魔物もいる。蛙はまだいいとして蛾や百足を食べるのには相当度胸がいるだろう。ハジメもシュウも男として一皮向けたはずだ、決してSAN値は削れていない。白目を向いているが削れていないったらいない。多分、恐らく、メイビー……。

 

 そんなゲテモノが続く二人に転機が訪れた。二人に襲いかかってきた木の魔物がいたのだが、その魔物はなんと身体に瑞々しい赤い果実を実らせていたのだ。

 シュウの『超直感』が訴える、『あの果実は美味しい』と。ハジメの直感が訴える、『あれ絶対美味いって』と。

 試しに木の魔物によじ登り一つもぎ取って齧ってみた。

 

 不味い魔物肉続きだった二人は思い出した。これが甘味か、と。それから二人はその魔物を狩って狩って狩り尽くした。シュウは炎魔法を封印してまで狩った。それ程二人は感動したのだろう、久方ぶりの甘味に、美味しさに。

 

 木の魔物がその階層から消え去ってやっと二人は迷宮探索を再開させた。

 

 探索を続けて二人は異様な空間に辿り着いた。下層へ降りる道は見つけていたのだが、その空間が気になって進めずにいた。

 脇道にあった空間には優に3mを超える大きな扉があった。しかもその扉は荘厳な装飾を施されており、殺伐としたこの大迷宮からしたら明らかにミスマッチしていた。

 

「んでもって壁に埋まってるでっけー彫刻か」

「如何にも、って感じだね」

 

 軽い感じで話すがハジメの表情は堅い。シュウも軽口を叩いてはいるがその顔は険しい。

 二人の言葉通り扉の横には今にも動き出しそうな巨人の彫刻が彫られていた。

 

「ま、動いたら動いたで倒せばいいだけだ。ハジメ、この扉開けれそうか?」

「うーんどうだろ。なんか見たことない魔法陣書かれてるし、それにこの窪み、明らかに鍵っぽいんだよね。しかも二つも」

「二つ、ね」

「横の彫像の数とぴったしなんだよね。多分この扉を弄ろうとすれば……」

 

 ハジメが扉に手を当てて錬成を開始した。するとバチッ、と赤い放電が走り、手が弾かれた。ハジメの手は放電のせいか煙が上がっている。して痛がる様子もなく神水を飲んで回復していると、横の彫像が咆哮を上げながら動き出した。

 

「オオオオオオオ!!!!」

「グォオオオオオ!!!」

 

 同化していた壁を砕きながら這い出て来る様はRPGめいている。体を覆っていた灰色の肌がバラバラと剥がれていき中から暗緑色の肌を覗かす。そして単眼をギョロりと覗かせハジメとシュウを睨みつけた。

 

「サイクロプスか」

「定番っちゃ定番だよね」

 

 一緒に埋められていたのだろうか、サイクロプスは自分の背丈と同じサイズの大剣を取り出した。もう片方も同じく大剣を取り出して二人を威圧する。

 この扉を守る門番なのだろう。そう考えれば『開きたければ我らを倒して見せよ』と言ってるようにも見える。

 

「燃えろ」

「ばきゅーん」

 

 サイクロプスたちの願いは叶わなかった。シュウの手から高速で放たれた炎弾とハジメのドンナーがサイクロプスたちの頭を撃ち抜いたのだ。二体の頭部は腐った果実を踏み潰したようにグチャりと飛び散り、巨体を地面に沈めた。

 

「手甲の調子はどう?」

「軽くて頑丈だし問題ないぜ。流石ハジメだ」

「でも素材と設備があればそんな急ごしらえの手甲じゃなくてもっといいのが作れるんだけどな……」

「これでも十分だよ。ありがとなハジメ」

 

 現在のシュウの装備はハジメお手製の手甲と臑当てだ。どちらもタウル鉱石を用いた頑丈な装備だった。熱にも強いのでシュウの戦い方と合っている。

 二人はサイクロプスの死体から魔石を取り出して扉の窪みに当てはめた。すると魔石を当てはめた箇所から扉全体にかけて赤黒い魔力光が迸る。何かが割れる音が響き光がおさまる。すると周りの壁が淡く発行し始め、辺りは光で満たされた。

 薄暗い迷宮を歩いていた二人にとってその光量は久々なもので、思わず目を顰めるほどだ。

 

「さっきの音、多分扉が開いた音だよな」

「そうだろうね」

「……」

「……」

 

 沈黙が流れる。好奇心には勝てなかったようで、二人は扉を開けた。仕方がない、だって男の子なんだもん。封印されし〜〜とか禁断の〜〜とかは大好きなのだ。

 

 扉を開きつつ警戒を忘れない。シュウには薄暗くてよく見えないが、ハジメには暗い場所も問題なく視力が効く『夜目』という技能がある。目を凝らしてじぃっと見てみる。

 部屋の中は歴史に疎いハジメでも一目見てわかるくらい立派な作りになっていた。大理石のような石造りで作られており、巨大な柱が奥へ向かって二列に並んでいる。沿うように視線を向けてみれば中央に立方体の巨大な石が置かれていた。鉱物鑑定を行うまでもなく分かる、傷一つ無く光沢を輝かせたそれはあからさまに特殊な鉱石で出来ていた。

 

 そして、その鉱石から何かが生えていた。

 

 ハンドジェスチャーでシュウにそのことを伝える。シュウは頷くと扉を固定するように動いた。

 すると生えている何かから声が発せられる。

 

「……だれ?」

「おわっ」

「女の子?」

 

 そう、長く話していないような掠れた声は確かに少女の声だった。部屋の外から差し込む光が生えていた何かを照らす。下半身は石に埋まっており、両腕も拘束されている。垂れ下がった金色の長髪から覗く紅き双眸は紅月を思わせる。やつれてはいるが元は美しい容姿だったことが見てわかる。

 

 ハジメの目と少女の赤い瞳が合う。

 

「えっ〜と、初めまして?」

「……初めまして」

 

 場違いな挨拶をしつつもハジメは警戒を解かない。女の子だと思って近づいたらバクン! なんてことも有り得る。すぐに逃走することも忘れずに会話を行う。

 

「君はなんでこんな所に?」

「……わた、わたし、裏切られた。先祖返りの吸血鬼で、その力を国のために使っていた……そしたらある日、家臣の皆が……おじ様が、お前は……お前は必要ないって……これからは、自分が王になるって……私は、それでもよかった……けど、私の力が危険だから、殺せないから、封印するって言われて……ここに……」

「それは、なんともまあ……」

「ハードな人生歩んでなぁおい」

 

 掠れた声で話された内容は昼ドラも真っ青なほど濃い内容だった。しかも所々気になるワードもあった。何よりもハジメの心を揺さぶったのは『裏切られた』という言葉。

 

「……ねぇシュウ」

「まだだ。まだ罠の可能性は拭いきれてねぇ」

「うん……分かってる……」

「嘘じゃ、ない……! お願い……たすけて……!」

「助けてか。お前のことを庇ってくれるやつはいなかったのか?」

 

 見極めるにはまだ情報が必要だ。ハジメは揺れているが、シュウは簡単に判断するわけにはいかないと考えて質問した。

 

「一人、いた。従姉妹の……妹みたいな子が…………けど、私を庇ったせいでおじ様たちに拘束された……私のせいで……」

 

 話しているうちに当時の状況を鮮明に思い出したのか、ポロポロと涙を流す少女。

 

「シュウ……」

「あー……そうだな。流石にここで『知らねぇよじゃあな』は可哀想すぎるな」

「じゃあ!」

「ああ。助けようぜ。つってもどう助けるのかはこれから考えねぇとだけどな」

 

 シュウも良心は残っていたようで、少女の悲痛な叫びに心を打たれた。ハジメはシュウが助けることを選択してくれたことが嬉しく、笑顔を綻ばせている。

 少女は二人の話を理解出来ていないのか目をぱちくりとさせている。そんな少女をよそにハジメは石を鉱物鑑定で調べていた。

 

「どうだハジメ」

「う〜ん……多分錬成を使えばいけそうだけど、正規の方法じゃないっぽいから凄い魔力が必要だと思う」

「……助けてくれるの?」

「あの話を聞いて助けないっていうのはね……」

「俺でも非人道的だってことが分かる」

 

 うんうんと頷くシュウの横であらかた調べ終わったハジメがシュウに石から離れるよう話す。

 

「じゃあ、やりますか。『錬成』!」

 

 魔物を食べて変色した紅色の魔力光が輝く。しかし石は魔力を流し込んでも思い通りに変形されず波打つだけで留まっている。

 

「うっ……! 抵抗が強くて魔力が……!」

「神水飲むか?」

「いいや、今の僕なら!!」

 

 以前のハジメなら触れることすら難しかっただろう。だが今のハジメは違う、ハジメは自身の持てる魔力を全てをつぎ込み錬成を行う。少女を拘束していた石はドロドロと融解していき、少女はその身体を顕にした。

 やせ細ってはいるがどこか神秘性を感じる身体、一糸まとわぬその裸体は思春期の男子たちの目にとっては猛毒だった。

 魔力枯渇の激しい倦怠感に襲われながらも神水を流し込む。身体中に魔力が満ちていくのがわかるのと同時に倦怠感が和らいでいく。一息吐いたハジメの元に少女が近寄り、震える手でハジメの手を握った。

 

「あり、がとう……本当に、ありがとう……!!」

「……どういたしまして」

 

 長い年月のせいで表情筋が上手く動かないのか、感謝を伝えるその顔は無表情だ。しかしその瞳からは溢れんばかりの想いが篭っていた。

 ハジメはそれがどうしようもなく嬉しくなり、握られている手に力を入れて握り返した。少女は嬉しさを表すようにはにかんだ。

 

「一件落着だな。とりあえず服着とけよ」

「あ」

「え……? っ!!」

 

 シュウが布切れを渡すと少女は自分の体に気づいたようで、奪い取るように布を受け取り身にまとった。

 

「……えっち」

「んな!?」

「ぷっくく……」

 

 感謝の言葉の次に来るのが『えっち』と来たもんだ。シュウは堪えきれず笑いを漏らし、ハジメに睨まれた。

 

「……名前、なに?」

 

 羞恥心が落ち着いたのか、自己紹介を求めてきた。こんな危険なダンジョンでお見合いのようなシチュエーションを体験することになるとは夢にも思わないだろう。事実ハジメは苦笑を浮かべている。

 

「僕は南雲ハジメ。こっちは」

「澤田シュウだ。お前は?」

「……名前、つけて欲しい。前の私は、もう死んだ……だから、名前をつけて欲しい」

「って言われてもねぇ……」

 

 新しい自分として、新しい人生を踏み出したいのだろう。少女の気持ちは分かるが名付け親になるのは責任重大だ。とんぬらとかゲレゲレとか適当な名前はつけれない。

 

「つけてやれよ。得意だろ、そういうの」

 

 ハジメの両親はそこそこ特殊で、父親はゲーム会社の社長、母親は売れっ子の少女漫画家の職についており、息子のハジメは修羅場のたびにお手伝いに呼び出されている。なんなら新キャラのキャラデザも任されたこともあるので適任といったら適任なのだ。

 

「うーん……急に言われてもなあ……」

「そんな難しく考えんなよ。この女の子を見て一番強い印象から連想すればいいだろ」

「じゃあそういうシュウはどうなのさ」

「フランシスコザビ……」

「おい」

 

 ネタに走ったシュウは置いといて真剣に考える。思えば一目見て綺麗だと思ったのは少女の紅い瞳だった。

 

「うん? でも型月か。確かに月っぽいし……紅月……いや、ルナ? ムーン? しっくり来るのは…………ユエ? うん、ユエ。これがいちばんいい。どうかな?」

「ユエ……それが私の名前?」

「気に入らなかったら別のを考えるけど」

「んーん。ユエ、ユエがいい」

「それはよかった」

 

 ユエ、ユエ、と刻み込むように自分の新たな名前を呟いている。その光景を微笑ましそうに見ていたハジメだったが、突然険しいものに変わる。それはシュウも同じで頭上を睨んでいた。

 

「ハジメ!?」

「分かってる!!」

「んうっ!?」

 

 シュウの言葉とともにハジメはユエを抱き寄せて縮地でその場を飛び退く。

 

「どーりでユエを助けても『超直感』が反応してたわけだぜ」

「それっぽい名前をつけるとしたら大サソリかな?」

 

 体長5mを超える巨体に二対の巨大なハサミ、蜘蛛を連想させるような八本の足を動かしている。二本の尻尾も持っており、先端には鋭い針、サソリから考えるに毒針だと思った方がよさそうだ。

 そして一番注目がいくのは背中に半ば同化するように背負っている氷のような水晶だ。あれだけ明らかに異質な雰囲気を発している。

 

「うそ……」

「どうしたのユエ?」

「あの水晶の中、わたし、知ってる」

「なんだ? 何がいるんだ?」

 

 ハジメが夜目を使いよく目を凝らしてみると、確かに水晶の中には何かが埋まっていた。じぃっと見つめてみるとぼんやりと何かの輪郭が見えるようになってきた。

 

「あれは……人?」

「あの子は、さっき話した……庇ってくれた妹みたいな子。まさか、封印されてるなんて……」

 

 ユエの顔は絶望に染まっていた。サソリから醸し出されるオーラと相まってユエは体を震わせていた。ユエの体に温もりが広がる。ハジメが抱きしめたのだ。ゆっくりと頭を撫でる手は優しく、こんな時だと言うのに安心するもので、動揺していたユエの心を落ち着かせるのには十分だった。

 

「大丈夫だよ、ユエ。僕たちが必ず助けるから」

「乗りかかった船ってやつだ。こうなったら最後まで戦ってやるぜ」

 

 グローブに炎を灯して構える。ハジメもユエを抱き寄せながらドンナーを取り出す。今まで戦ってきた魔物とは一線をきす強者の圧力がある。

 

「さあ、サソリ退治とお姫様の救出と行こうじゃねえか」

「ユエ、僕から離れないでね」

「ん!」

 

 背中にまわりハジメの首に手を回す。おんぶしながらの戦闘は初めてだがユエを守るためだ。それにユエに対してシンパシーを感じてしまったハジメにとっては、むしろ近くにいてくれた方が安心する。

 

「その前にこれ飲んどいてね」

「水?」

「傷が治って魔力が回復するから」

「ん」

 

 こくりこくりと試験管に入った神水を飲み干す。体に活力が湧いて驚いたのだろう、ユエは目を大きく見開いていた。

 シュウが先手を撃ち、戦闘が開始した。

 

「燃え尽きろ!!!」

「キシャアー!!」

 

 高熱の火球がサソリに直撃した。普通の魔物であれば問題なく溶解するくらい高温なのだがサソリの硬い外殻に阻まれダメージはさほど無いようだった。ハジメのドンナーから最大威力の弾丸がサソリの頭部に炸裂するが、火球と同じく大したダメージにはなってないようだ。

 

 ハジメの背中でユエが驚愕して息を飲んだことを感じる。ユエからしたら片手で持てるサイズの武器から閃光の速さで上級魔法並の威力で攻撃したのだ。そして魔法の気配が微かにした、しかし魔法陣も詠唱も必要としていない。つまりそれは自分と同じように直接魔力を操作できる術を持っているということだ。それはシュウも同じようで、ユエは不思議で仕方なかった。サソリよりも二人に、特にハジメに意識がいってしまうのは仕方がないだろう。

 

 そんなユエの心も露知らず、シュウは手から炎を噴射した推進力で、ハジメは空力で跳躍を繰り返してサソリを翻弄する。

 ハジメはドンナーを撃ちつつポーチから手榴弾を投げる。振り下ろされたサソリの鋏や尻尾は豪脚や風爪といった技能で叩き落とすが、決定打にはならない。

 それはシュウも同じで火球を連発するのだが全く効いてる様子を見せない。

 火球が当たった瞬間、背中の水晶体から冷気が広がりシュウの攻撃を無効化しているのだ。

 そのことに気づいたシュウは苦しげに唸りながら後ろに下がる。

 

「ちっ。冷気のせいで俺の攻撃が効きやしねぇ」

「先に水晶を破壊した方がいいね」

「待って! あの中には!」

「分かってる。ユエの妹がいるんだよね?」

「助けるさ」

 

 そう言うとシュウはグローブに灯していた炎を消して目を閉じた。瞑想、精神統一だ。

 心を落ち着かせる、それは明鏡止水の心、覚悟が雫となって波紋を穿つ。それは炎となって額に灯り、覚悟を顕す。

 

「シュ、シュウ! 頭から炎が!」

「燃えてる……? でも魔力を感じない……」

「大丈夫だ。この炎なら少女を傷つけずに水晶を溶かせる。だから、サソリの相手は頼んだぞ」

「……任せてよ!」

「シュウ、お願い……!」

「おうよ」

 

 グローブに炎が再点火、ロケットの如きスピードでサソリに肉薄する。そのままサソリの頭部を踏み台にして背中に埋まっている水晶まで近づいた。

 

「キシャアアア!!」

「させないよっ!」

 

 二尾の毒針をシュウに振り下ろそうとしたところをドンナーで撃ち抜かれる。弾丸は貫通しないが尻尾を弾くには十分な威力だった。

 水晶付近に辿り着いたシュウは手を当てて水晶に炎を灯す。その炎の色は額に灯っているソレと同じく混じり気のない純粋な橙色をしていた。

 

 炎は瞬く間に広がり水晶が霧散していく。数秒もしないうちに水晶の中にいた少女は解放され、シュウの腕の中に収まった。

 

「ぅ、ぁ……」

「息はしてるみたいだな。おっと」

 

 少女を抱えたままハジメたちの元へ戻る。特に外傷も見当たらず穏やかな呼吸をしているので問題は無さそうだが、念の為神水を口に流し込む。ついでとばかりに顔にも浴びせる。

 

「んく、ぷはあっ!? な、なにごと!?」

「……起こし方雑じゃない?」

「別にいいだろ、起きたんだから」

「レイシア!」

「わわっ、お姉様! え? お姉様!? ど、どういうことかしら!? 私はだって、お父様に襲われてるお姉様を助けようとして……殺されたはずじゃ……」

「話はあとでしてくれ。今は奴を倒す方が優先だ。しっかり掴まってろよ」

「へ? ちょ、貴方誰よもぎゃああ〜!!?」

 

 レイシア、そう呼ばれた少女を抱きしめているユエから無理やり引き剥がし背負う。そのまま高速で飛行し、サソリを惑わす。攻撃を避けようと旋回や急停止する度にレイシアが「うげぇ、もげぇ」と女子からぬ叫び声を上げる。

 

「ちょ──げぇ。まち──むぐぅ。やめ──くぎゅう。止まれって言ってんのかしら!!」

「ぐごっ! テメェいきなり何しやがる!」

 

 突然頭をおもいっきり殴られてはシュウも飛行をやめざるをえない。近くの足場に降り立ちレイシアを睨みつける。

 

「それはこっちのセリフかしら! 貴方は誰!? なんでお姉様がここに!? 私は何故生きているの!?」

「俺は澤田シュウ。お姉様は多分ユエのことだな? それは後で話す、三つ目は知らねぇよボケ」

「んなっ、な、な、無礼な! なんて言い草なのかしら!?」

「知らねぇつってんだろ。死にたくなきゃ振り落とされないようにしっかり掴まってろ」

「ふえ? ひ、ひぃっ!? 何よあの大サソリ!!」

 

 言い争っていて視界に入らなかったのかサソリに今気づいたレイシアは情けない悲鳴を上げてシュウの背中に隠れる。『怒ったりビビったり忙しいやつだな』と呆れたシュウだったが、『背中にいるなら丁度いいや』と自然な動作で背負い込む。

 

「……んえ?」

「舌噛むから口閉じてろよー」

「ちょま──」

「待たない」

「ひうっゆるし──」

 

「て」まで発することを許さずにシュウはグローブから炎を噴射させた。因みにここまでの間、ハジメはユエを背負ったまま一人でサソリを食い止めていた。ドンナーも手榴弾の効きも悪いので少し涙目になっていた。

 

「高速……Xカノン!!」

 

 先程まで放っていたただの火球とは違い、純度の高い橙色の炎が込められている。名前は勝手に口に出たが、何故かしっくりくるのでこのまま使っていこうと思う。

 やはりレイシアが封印されていた水晶が今まで熱を阻害していたようで、Xカノンが炸裂するとサソリの外殻はレンジでタマゴを温めたように弾け飛んだ。

 

「キシャアァアア!!?」

「凄い……貴方、何者なの?」

「さっき言っただろ、澤田シュウだ。ハジメー!」

「任せて! 体に穴が空いた今なら……! ちぇえええい!」

 

 直径8センチほどの手榴弾を投げつける。研ぎ澄まされたコントロールで吸い込まれるようにサソリの傷穴に入っていった。瞬間、爆発音と共に黒い泥を撒き散らした。黒い泥は大迷宮で手に入れたフラム鉱石という鉱石がタール状になったもので、これは摂氏3000℃の付着する炎を撒き散らす。

 体の中から焼かれる苦痛を味わうサソリは悲鳴に近い雄叫びを上げ、手当り次第ハサミを振り回して暴れる。

 

「やるじゃねぇか。流石ハジメ」

「な、なによあの武器は……あの子、大人しそうな顔して貴方より怖いかしら……」

「そうだな。けど厄介だなあのサソリ……硬いだけじゃなくタフだ。あと一押し、強力な一撃が欲しいんだがな」

「それなら、私に任せて欲しいのかしら! お姉様程じゃないけどそれなりに凄腕の術士なのよ、私!」

「え〜〜〜」

「なによその目はァ!? 信じてないわね!? 見てなさいよぉ〜!!」

 

 シュウに背中ではなく前に抱えるよう伝え、渋々お姫様抱っこに変える。めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたが。

 

 レイシアは先程神水を飲ませてかけたからか、完全とはいかずとも上級魔法を発動させるには十分な魔力が回復している。レイシアが両手を掲げると銀がかった青白い魔力光が暗闇に輝く。同時に莫大な魔力が吹き上がりレイシアを中心に風が巻き起こる。

 淡い青色の長髪が風に靡く、その風は凍てつく吹雪へと変貌し巨大な氷塊となる。

 

「こいつは……」

「ふっふーん。どうかしら? 凄いかしら? 天才かしら?」

「かしらかしらうっせーな、さっさと撃てよかしら女」

「むきー! 見てなさいよぉー!!! 『氷獄』! 凍てつくがいいかしら!!」

 

 レイシアが腕を振り下ろすと巨大な氷塊が嵐となって大サソリに襲いかかる。あの巨体を全て氷漬け、ではなくハサミ、足、尻尾を氷の柱に閉じ込めた。何故全身を凍らせなかったのか? その疑問は直ぐに解消された。

 震えるほどの冷気が消え、凄まじい熱気が辺りを支配する。目を向けてみれば青白い炎が巨大な球体となって大サソリの頭上に出来ていた。

 氷に拘束され身動きの取れない大サソリに炎が直撃する。青白い炎が閃光となり部屋を光で埋めつくした。

 

「グゥギィギャアアア!!!!?」

「くっ、こっちもすげぇな……!」

「ああん! 流石お姉様かしら!!」

「ユエかよ……まあ絞り込まれるのはユエだよな」

 

 やがて炎が収まると、そこには外殻の表面をドロドロに融解させた瀕死の大サソリが悶え苦しんでいた。

 急激な温度変化についていけなかったのだろう、レイシアが凍り付かせた大サソリの足、ハサミ、尻尾は炭化して崩れていた。

 地上に降りたシュウはレイシアを地面に放り投げ、ハジメと共に大サソリに近づく。

 

「トドメだ。Xカノン!」

「ふっ!」

 

 地面にひれ伏す大サソリの口内にドンナー数発と橙色の火球が撃ち込まれたのを最後に大サソリは動かなくなった。

 色々とあったがなんとか魔物は倒せたし、強力な仲間……? も増えた。色々と話すことはあるがまずは飯だな、と二人はお互いの腹を見つめあった。

 

 

 

 

 


 

 ハジメ「オルクス大迷宮の深部に封印されていたユエとレイシアを助けた僕たちは似たような境遇の二人に親近感を抱き、力を合わせながら最深部を目指していた。

 そして辿り着いた最深部の扉前で僕たちはラスボス戦前の最後の休息をとるのだった……。

 

 次回、ありふれた親友

『ボス前の休息、チャージ、パージ、ヒーリング』

 

 熱き闘志に、チャージ……イン」

 




 シュウの炎は基本的には魔力で発動させている魔法扱いですが、額に炎が灯った場合は死ぬ気の炎という扱いに変わります。魔法か特技かの違いですね。
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