仮面ライダーツルギ・スピンオフ/ドキュメント・レイダー   作:マフ30

3 / 4

皆さま、お世話になっております。
どうにか第三話、更新させていただきました!

今回からは前後編の強敵編!
色々と過激な描写をたくさん入れたので苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。
それでは、どうか此度もよろしければ最後までお付き合いくださいませ。


第三話 ファイル:02 極限遊戯

 

 蒸し暑い八月のとある真夜中の出来事。

 凪河区にある一軒の廃倉庫からぞろぞろと若い男たちが賑やかに騒ぎながら出てくる姿があった。見張り役をしていた下っ端を含めるとその数は十数名ほど。男たちはみな十代後半から二十代前半あたりの背格好で見るからに素行不良な外見をしている。

 

「いやーヤッた、ヤッた! 地味子ちゃんかと思ったけど、イイもん持ってたじゃん」

「ガッハッハ! 搾り取られちまったぜ」

「それ、お前が早漏なだけだろ! ぶっははは!!」

「ホント! 姫にお仕え出来て俺たち幸せもんだよな!!」

「ああ、全くだぜ」

 

 汗と雄の臭いをむせ返らせて、男たちは下卑た笑顔でそんなことを語らいながら、お次は酒でも呑むかと夜の街へと消えていった。

 そして、気が狂いそうになる程に静寂が訪れた廃倉庫の中では――。

 

「うぅ……ぉぇ、ひっぐ……クソ……くそぉ……」

 

 若い女が泣いていた。深い絶望に犯されながら咽び泣いていた。

 まだ十代の少女と言っていい年頃の女が身体を火照らせて泣いていた。

 否応なしに神経を蝕む雌としての快感に顔を青ざめさせて泣いていた。

 

「あんな奴らなんて……本当は怖くないのに、簡単にやっつけることだって……できるのに……ぐずっ……ぅっ」

 

 衣服は乱されて、瑞々しい柔肌には愛の欠片も無い、獣欲が形になったような赤い痕があちこちに刻まれていた。

 黒い髪にも、お気に入りのメガネにも、願いを叶えるためのカードデッキにも、吐き気を催すような雄たちの汚らわしい体液が纏わりついている。

 

 チーターのようなクレストが刻まれたカードデッキ。

 彼女もまた、この聖山市で繰り広げられるライダーバトルの参加者。仮面ライダーの一人だった。けれど、それでもこの社会――この世界では所詮はただの少女であるが故に今宵、彼女には女性として最低の悲劇が降りかかった。

 ライダーの力を使えば、回避できる悲劇だったかもしれない。しかし、譲れない願いを持ちながら善性の心の持ち主だったこの少女はただの人間相手にライダーの力を行使することはなかった。出来なかった。

 だから、彼女は十人もの男たちに色欲の限りに凌辱され、愚弄され、貪り尽くされた。まるで野山に咲く可憐な花が汚水の付いた靴で無神経に踏み躙られるように。

 

 だが、だが、しかし――それらは全て、彼女を見舞う悲劇のほんの序曲であった。

 

 心身ともに酷く摩耗して、傷つきながらも少女が立ち上がり家に帰ろうとした時だった。廃倉庫のシャッターが開け放たれて、月明かりをバックに白骨の竜の鎧を纏った騎士が姿を現したのだ。

 

「あら? 競争相手の気配を感じて準備万端で来てみれば、災難に遭ったみたいね」

「こんなときに……嘘でしょ」

 

 自分では無い、仮面ライダー。

 それすなわち、殺し殺され合う相容れない敵対者。 

 強姦魔たちよりも絶望的に厄介な相手との遭遇にメガネの少女は深く顔を曇らせた。むしろ、男たちに辱しめられたばかりの痴態を同世代の少女に目撃されたことに言い様のない恥ずかしさが溢れ出て、彼女の顔はついさっき無理やりに男たちの逸物を受け入れていた時よりも紅潮させてしまう。

 

「どうしましょう? あたしはヤりたいんだけど、同じ女としていまの貴女に同情が禁じ得ないのも確か。貴女が嫌なら、退散するけど?」

「いいよ。気にしないで……むしろ、八つ当たりさせてよ?」

「くふ♪ よくってよ。 自己紹介がまだだったね……仮面ライダードラクルよ」

 

 鬼気迫る表情で凄んでいるのはこちらの筈なのに、何故かドラクルに見つめられていると少女は背筋が凍るような気分になった。仮面で隠されて伺えないはずなのに、目の前の少女がひどく嗜虐的に自分を嘲笑っているように思えて。

 

「私はいいや。これから倒す相手に名乗っても意味ないから! 変身!!」

 

 そんな不安を振り払って、少女は触るのも嫌なぐらいべとべとになったメガネを投げ捨てて、チーターの意匠のある黄色い騎士に変身するとドラクルと共にミラーワールドへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 真夜中に開戦を告げたドラクルと黄色い騎士の戦いは哀れなほどに一方的だった。

 

「ホラァ♪ オラァ♪ もっともっとあたしの手で踊りなさい!!」

「んぎぃ! ッアア!? こ、この……変なところばかり狙うなぁっ!!」

 

 ドラクルがスイングベントで召喚した大型の爬虫類の舌のようなピンク色の鞭・カースホイップが風を切って唸りを上げる。

 唾液のようなぬめぬめとした粘液を常に溢れさせるカースホイップがドラクルの手によってまるで本物の生物の舌先のように黄色い騎士の肉体を打ち据える。

 胸を、臀部を、そして股間を――露骨に、呆れるほど露骨に女を意識させる部分をピンポイントで鞭打つドラクルの執拗な攻めに黄色い騎士は上擦った声で怒りの言葉をぶつける。

 

「思ったよりも可愛い声で鳴くじゃないの? もしかして、また疼いてきちゃった?」

「こ……殺してやるッ!!」

 

 明らかに狙ってそんな風に侮蔑に近い煽りを浴びせるドラクルに黄色い騎士は仮面の奥で顔を羞恥で真っ赤にしながらマチェーテ型の武器を振るって突っ込んできた。だが、ドラクルはそんな相手の行動を予定調和とばかりに涼しい態度で迎え撃つと、巧みな鞭捌きで今度は足首に素早く一撃を入れる。

 

「そんなもの……くっ、きゃあぁ!?」

 

 痛みもほぼない軽い一撃。僅かに体勢が崩れるだけと走る速度を上げようとした黄色い騎士は足元を滑らせて、面白いぐらいにその場で転んでしまった。慌てて立ち上がろうと地面に手を付くが、力を入れた瞬間にその体はぬるりと気持ちの良いぐらいに滑って、より盛大に転倒してしまう。

 

「まさか……あんたの鞭の気色悪い液体で!?」

「やっと理解したの? お馬鹿さん!!」

 

 手加減なしの重い鞭打が黄色い騎士の仮面を揺らして、彼女はうつ伏せに倒れ込んでしまう。ドラクルの鞭・カースホイップは付着しているぬるぬるのローションのような粘液を相手の体に塗りつけて、体表を滑りやすくすると言う隠し効果を持つ武器だった。

 立ち上がって反撃なり、防御なり何かしらの行動を取りたい騎士の精神を大きく動揺させられた。彼女の肉体はドラクルの仕掛ける趣味の悪い辱しめに隠された罠でほぼ行動不能に陥ってしまっていたのだ。

 

「くふ♪ お馬鹿さんには相応しい姿勢を取ってもらおうかしら? えーい!」

「きゃあッ!? あ、あんた……一体何をす……ひゃぁん!?」

 

 鏡映しの廃工場にバシーンと甲高い女体を叩く音が響いた。

 ドラクルはうつ伏せから四つん這いを経て立ち上がろうとしていた黄色い騎士の背中に跨ると突然にそのスーツ越しにでも張りのあるのが見受けられる瑞々しい臀部を平手打ちにしたのだ。一見すれば滑稽にすら見える光景が広がる。ドラクルは何発も何発も俗に言うお尻ペンペンという行為を敵対するライダーにお見舞いしていた。

 

「ほらほら、お馬鹿なお馬さん? 元気よく鳴いて走ってみなさいな。乗馬のお稽古よ?」

「ひぎぃん!? や、やめろ……そんなところを叩くなぁああああ!!」

 

 願いを叶えるための命懸けの戦いで、こんなふざけた扱いをされたことに。

 女として最悪の悲劇を受けた直後に、こんな恥塗れの扱いをされたことに。

 黄色い騎士は絹を裂くような悲鳴を上げた。

 

「畜生……なんなのよぉ。殺してやる、絶対にあんたなんか殺してやるぅうう!」

 

 怒りと殺意と憎しみと、ほんの一抹……自分の体がドラクルの洗礼に女として反応してしまっているというおぞましい感覚とでグチャグチャに掻き乱れた心で狂ったような声を上げた。その全てがドラクルによって演出された物だとも知らずに。

 

「あら、思いの外何もできない愚図な娘ねえ。じゃあ、せめて見せ物として一時だけでも煌めきなさい!」

「ぐわあ!? やだ……私ったら、なんて恰好を……ッ!?」

 

 自分の尻のしたで惨めに暴れて抵抗する黄色い騎士を駄馬以下と評価しながらドラクルは優雅に彼女の背中から降りると同時に蹴りを入れて無理やりに棒立ちにさせた。

 そして、手慣れた手つきでカースホイップを彼女の全身に瞬く間に這わせると自らが大きくジャンプして天上の鉄骨の一本を飛び越えて着地する。

 

「まあ! 思ったとおり、よく似合っているわよメス猫さん♡」

「いやぁあああああ! 見るな! 見るなぁ!! 恥ずかしい……こんなの、あんまりだよぉ」

 

 気持ちの悪い生物の舌のような鞭を下半身を重点的に肢体の全てに這わされた黄色い騎士は天上の鉄骨を支点にM字開脚の状態で吊り上げられてしまったのだ。

 精神の許容量を容易く超える恥ずかしさが洪水のように押し寄せて、彼女は身体をくねらせて可愛らしい少女の悲鳴を上げてしまう。

 

「恥ずかしがる必要なんてどこにもないわ。いまの貴女はとっても綺麗で素敵よ。さっきのようにね♪」

「え……」

 

 艶めかしい手つきで自分の仮面を撫で回して、鳥肌が立ってしまうような甘い声色で耳元で囁くドラクルの意味深な言葉に黄色い騎士は凍りついて絶句した。

 

「始めは野犬のように荒んで抵抗していたのに貴女、最後には自分から足を絡ませて悦んでいたじゃない? アンアン♪ キャンキャン♪ってねえ?」

「みてたの……そんな、さいしょのほうから……なんで、どうして?」

「とってもだらしなくて、淫らな女の顔をしていたわよ。姫なら恥ずかしくて真似できないなぁ」

 

 わざとらしく、ねっとりとした口調で語るドラクルの言葉に怖いほど冷静になった思考状態の黄色い騎士は全てを理解した。ドラクルがわざわざ表に出した姫という一人称が決定的な証拠だ。

 先程の悪夢も、この最悪な遭遇も全てが目の前の姑息なライダーによって計画されていたことだと言うことに。

 

「卑怯者! 恥知らず!! 命や誇りを懸けて戦う相手をライダーじゃなく、一人の女の子として男たちに襲わせたわけ!? そんな相手に勝って、何が嬉しいの!? この卑怯者ぉおおおおお!!」

「言いたいことはそれだけかしら?」

 

 山積みにされた火薬が一気に爆発したように怒号を上げて黄色い騎士はドラクルが行った卑劣極まる集団戦法を紛糾する。

 ライバルである仮面ライダーをただの少女として捉えて、考えられうる最低最悪の手段で徹底的に弱体化させてから、偶然を装って勝負を仕掛ける。直接の戦闘においても、言葉で、物理攻撃で、精神攻撃で、ありとあらゆる攻撃手段に相手を女として徹底的に攻め立てるという趣向性を足し加えて心身の弱体化を促す。

 それがこの仮面ライダードラクルの常勝の秘策であったのは紛れもない事実だった。けれど、当のドラクルはその反則染みた行為を咎められてもケロリとした態度で短く返事を返した。

 

「姫は貴女に勝負への拒否権を与えたはずよ? それを無碍にして、戦いを受け容れたのは貴女ではなくて?」

「それは……」

「姫の言葉攻めにどんな意図があったにせよ、それは貴女が無視すればただの雑音にしかならないのではなくて?」

「でも、だって……」

「そうね、しょうがないことよね。負け犬はいつだって『でも』と『だって』と見苦しく喚くのが常だもの」

「おげ……ぇっ!?」

 

 突如、左腕に装備したカースバイザーによる強烈な打撃が恥辱の姿勢で吊り上げられたままの黄色い騎士の鳩尾にのめり込んだ。ドラクルはその一撃を皮切りに骨が折れるぐらいの強さで相手の首を片手で掴み絞めながら、数え切れないぐらいの打撃を無抵抗な身体に打ち込んでいく。

 

「よくって? 姫たちがやっているのは戦争なのよ? 一度や二度の勝利になんて何の価値も無い。願いを叶えたその時こそが唯一無二の勝利。あらゆる手段を尽くす、その気概があなたには足りていなくてよ?」

「も、もう……や、やめ……ヒュー……ゼェー……く、だ……さい」

「い・や・よ。だって、姫が勝者になるんだもの。負け犬の言うことなんて聞いてあげないんだから♪」

 

 仮面の奥の素顔を涙と涎と鼻水で一杯にしながら、恥も誇りもかなぐり捨てて許しを乞う黄色い騎士の懇願をドラクルは路傍の小石を蹴飛ばすように却下すると彼女の人生に終幕を降ろすカードを切った。

 

「でも、姫は優しい未来の君主だから慈悲を恵んであげるわ。この初体験、喜んでくれるといいなぁ」

 

【FINALVENT】

 

『カロロロロロ――!!』

 

 ドラクルの後方から現れたのは紫色の皮膚の上から白骨のような硬い外殻で全身を覆い尽したコモドオオトカゲ型のミラーモンスター・カースドランだ。

 カースドランは不気味な鳴き声を上げながら飛び上がると変形しながら契約者であるドラクルの右腕に一体化するように装着された。

 

「ひぃ……た、す……けて」

 

 朦朧とした意識の中で黄色い騎士はそんな言葉を絞り出した。

 虚ろな眼差しに映るのは悪竜の顔を持つ巨大な異形の右腕だ。

 禍々しい大顎がゆっくりと向けられる。それは処刑執行のカウントダウンに他ならない。

 

「最後に一つ聞かせてちょうだい? 貴女、何を願って戦いに参加したの? 貴女の夢は何かしら?」

 

 ふいにドラクルは黄色い騎士に向けてそんな言葉を投げかけた。

 清楚な貴婦人にも、卑猥な淫婦にも聞こえる、美しい少女の声をしていた。

 

「弟がいるの……親がいなくてずっと苦労して生きてきた。弟だけは幸せに生きて欲しいから! だから――!!」

 

 ぶつけられた質問に黄色い騎士はほぼ本能で滔々と答え出した。

 そして、心の底で萎えきっていた闘志が徐々に燃え上がり始めていた。

 そうだ。愛する弟の幸せな未来のためにもこんな恥辱はなんてこともないんだ。勇気を出して、限界以上の力を出して、この窮地を脱してみせるんだと自らを鼓舞した。

 

「ふぅん……つまんない夢だこと。えい!」

「アギャ――!?!?」

 

 吐き気がするほど冷たく無感情な言葉と共にドラクルは自らが問いかけた質問の返事を聞き終える前にカースドランを装着した凶悪なる武装腕・デッドリードラクルで相手の半身に噛みついた。

 大きく鋭い悪竜の牙が黄色い騎士の体を抉り取るように喰らいついてめり込むと、大きく仰け反った騎士は言葉にならない絶叫を上げる。絶望と苦痛に苛まれた大きな悲鳴だ。

 

「ありがたく賜りなさい。最上の気分で逝けるんだから!!」

「あっあぁっ……ひぐぅううううううううううううう!!?!」

 

 デッドリードラクルの上下の大顎が閉じていく。黄色い騎士の鎧を、肌を、肉を、骨を食い潰して――閉じていく。想像絶する致死の激痛を受けながら、彼女はいつしか、絶望の悲鳴を、恍惚とした歓喜の声に変えて、はしたない雄叫びを上げていた。

 それはデッドリードラクル、もとい悪竜にして、毒竜であるカースドランの持つ常識の枠を超えた恐るべき毒液による変貌だった。

 牙から流し込まれた毒液によって、黄色い騎士は痛みを強制的に快感に変換されていた。故に必滅に至るドラクルのファイナルベント――サクリファイス・エクスタシーをあろうことか抵抗するどころか求めるように自ら喰らった末に彼女は哀れにも野性動物染みた絶頂の嬌声を上げて爆散して力尽きたのだ。

 

「くふ♪ また勝った。また姫の宿願に一歩近づいたわ」

 

 完全なる勝利を収めたドラクルは微かに昂った呟きを漏らすとすぐに感情をリセットして、周囲の気配を索敵した。勝利の直後ほど、落とし穴は大きいことをこのライダーは熟知していた。

 

『ガルルル!!』

「あら、子猫ちゃんもしかしていまの彼女のペットさんかしら」

 

 案の定、物陰から飛び掛かって来た前傾姿勢の人型の攻撃をドラクルは左腕のカースバイザーで完全に防ぎきる。謎の襲撃者はひどく激昂した様子のチーターのようなミラーモンスター。紛れも無く、今しがた死亡退場したライダーの契約モンスター・ヘイルイエーガーだ。

 

「人型でスピードタイプか……うんうん。ちょうどこちらの世界で小間使いに便利な駒を捜していたのよ」

 

 主人の仇を討つべく、獰猛に襲い掛かるミラーモンスターの攻撃を無難に捌きながらドラクルはデッキから一枚のカードを引き抜いた。

 それは『CONTRACT』のカード。極めて希少な契約カードを複数所持するタイプのライダーであったドラクルは品定めを終えると飛び掛かって来たミラーモンスターに手にしたカードを翳す。

 

「貴方にこの姫の下僕となる許可を与えましょう」

 

 真夜中の海辺の廃倉庫に一際強い白い光が瞬いた。まるでドラクルの覇道を祝福するように。

 

 

 

 

 それは喜多村遊が仮面ライダーになってから一週間後の出来事だった。

 聖山市の一角で営まれている、とある孤児院の大きな庭では施設の子供たちが暑い日差しを物ともせずに楽しそうに水遊びをしていた。今日はこの孤児院で毎年行われる夏のお楽しみ会ということで小さな子供たちの手には竹で作った手作りの水鉄砲が握られていた。

 

「にははは! さあ、どこからでもかかって来なさい! わたしを倒せる子はいるかー?」

 

 子供たちにも負けない底抜けに明るい声で高らかに宣言して、大ボス役の遊は自作の1mサイズの特大竹水鉄砲を勢いよく放水する。それが合図になって子供たちは一斉に競泳水着の上から白いTシャツを着て、ポーニーテール姿の遊に四方八方から水鉄砲をお見舞いしていく。

 

「やるじゃないか、君たち! だけど、お姉さんも負けないぞー! これならどうだーい!」

「すげえ! 遊ねえちゃんのもう一つの新作竹水鉄砲、ガトリングみたいになってる!」

「負けるなー突撃だー!」

「よっしゃぁ、おっぱい揉んでやれー!」

「男子サイテー! あたしたち遊お姉ちゃんの味方しちゃうもんね」

「にははは! よく分かんないけど、みんなまとめてずぶ濡れにしてあげよう! 女子高生パワーを受けてみよー!!」

 

 夏休みで元気がエンスト知らずの子供たちの遊び相手を天真爛漫な笑顔でこなす遊。何故、彼女がこんなところでこんなことをしているかというと、彼女なりの恩返しのようなものだった。というのも、遊の自宅の大家さんがこの孤児院の職員も兼業しており家賃を安くしてもらっている恩返しに数年前からこんな風に行事や人手がいる時は遊は自発的にボランティアに赴いていたのだ。

 孤児院の子供たちも人懐っこく、自分たちにも不必要な同情や憐みを持たずに自然体で接してくれる面白いお姉ちゃんとして遊は意外と人気があった。自分たちと同じように親が居ないという部分も子供たちにとっては親しみが持てたのかもしれない。

 

「おーい! あんたたち、もうすぐバーベキュー出来るからそろそろ片付け始めろよ!!」

「ハーイ!!」

 

 遊と子供たちがびしょ濡れになって遊んでいると遊に巻き込まれてボランティアで来ていた炊事担当の佳奈が桜色の髪をかき上げながらサングラスに日焼け止め対応完備の姿でやって来た。

 その鶴の一声で遊に肩車されていたり、正面から抱きついていたりと砂糖に群がる蟻のように遊にくっついていた子どもたちは一斉に佳奈の指示に従い始めた。

 遊びよりも美味しいご飯。子供は残酷なまでに正直なものだ。

 

「あちー……ホント、あんたよくやるよ。ってか、マセガキ共に乳揉まれてなかったか?」

「にはは! まあまあ、ちびっ子のやることだから、減るもんでもなし」

「それにあんた最近前にも増して生き生きしてる気がするんだけど、気のせい?」

「んー……佳奈じゃないけど、会いたい人に会えないもどかしさとそわそわの心地良さは格別だなとねえ」

「うっそだろぉ! あんたに好きな人が出来たってか!?」

「ムフー! 内緒♪」

「誰だよ、ドウェイン・ジョンソンみたいなのか? それともステイサム? それとも東山動物園のシャバーニくんみたいな奴だったり!?」

「にはは! いくら佳奈でもちょっと怒るよ?」

 

 笑顔がやめられない。とめられない。

 佳奈の指摘通り、遊は現在進行形で幸せの絶頂期だった。

 ガッツフォルテにやられた大怪我は何故か分からないが五日も家で大人しく寝ていたら驚くべき速度で回復して、残りの二日は朝から晩までミラーワールドに通い詰めでモンスターと戦いまくりの最高の夏休みだった。

 定期的に現実世界に戻っては再度、突入するの繰り返しは少し面倒臭かったが自分のことを食い殺すために本気で襲ってくるミラーモンスターとの戦いは遊にとって至福の時間だった。

 残念ながら、肝心の他の仮面ライダーと遭遇することは叶わなかったがいまの遊はまさに最高に生きている状態だったのだ。

 

「どうでもいいけど、競泳水着は気合入れすぎじゃないの?」

「ビキニタイプだと本気で動くと零れちゃうからさ、面倒なものだよ」

「喧嘩売ってんのか? トングで挟むぞこんにゃろー」

「にはは! 冗談だから、ゆるしてー」

 

 口をへの字に曲げて、怒りを隠さない佳奈に遊は下手に肩を揉みながら平謝りをする。実のところ半分は本当だが、競泳水着をわざわざ来ているのはいつでも変身できるように胸の谷間の奥にカードデッキを忍ばせているからだなんて流石に言えないのである。

 

「まあいいや。ほれ、あんたも腹減っただろ? あたしらは肉焼きながらだけど、BBQを堪能するぞ。今日は脂や糖質ともトモダチだ」

「遊んで食べるだけなんて、なんて良いボランティアなんだろうね。おや?」

 

 水遊びの後片付けを終えて、佳奈の後を追おうとした遊だったがふと視界に入った一人の子供が気になって足を止めた。その子供はどこか怯えた様子で鏡のように外の景色を映す窓ガラスを見つめていた。

 

「アオくんどうしたー? 昼間にお化けでも見つけたのかい?」

「遊ねえちゃん……いや、その、なんでもないよ」

 

 鏡面を見ていた少年。梅原葵は遊とも仲の良い子供なのだが今日に至っては水遊び中にもなんだか元気のない様子だったのを遊自身は密かに子供たちを観察していた中で気にしていた。

 

「それともお腹でも痛いか? 水遊びすると冷えるもんね。 よし、これでどうだ?」

「え……わあぁっ?」

 

 歯切れの悪い葵が気になった遊は何かを思いついて一人で自信満々に頷くといきなり彼を後ろからひょいっと抱き上げた。そして、葵が窓ガラスを見てしまわないように近場に座ると遊は彼を自分の膝に座らせて、お腹を温めるために優しく両腕を回して抱きしめた。

 

「お肉はちょっとみんなに食べられちゃうけど、しばらくこうしてれば身体も温まって具合もきっと良くなるよ」

「はわ……あわわ。ありがと、じゃなくて、その……」

「恥ずかしがらなくってもいいって。わたしとアオくんの仲じゃないかー」

「……ねえ、遊ねえちゃんにだけ、ボクが見た秘密教えてもいい?」

「ひみつ? いいよ、誰にも言わないから教えておくれよ」

 

 燃える火のように温かな遊の手の体温がお腹から伝わってくる感じに葵は思わずまどろみのような甘い心地を覚えて、すぐに年上のお姉さん(水着)に抱きつかれている状況にあわてふためいた。

 だけれど、こんな直感と本能で生きているような素直な遊の優しさに触れて。遊がくれたぬくもりが彼がずっと恋しかったある想いと似ていたこともあって、葵はぽつりと数日前から抱えていた秘密を明かす気になった。

 

「三日前の夜にね、たまたま目が覚めてトイレに行った時に鏡の中にいる人に出会ったの」

 

 葵の言葉にずっと笑顔だった遊の表情が固まった。

 

「変身ヒーローみたいなすごい恰好の人がいて、その人が話しかけてきたんだ」

「……なんて言ってたの?」

「もう少ししたら、ボクに幸せなことが起きるよって。それからしばらくは危ないから一人でいる時や夜は鏡の前に立っちゃダメだって」

 

 自分ではない仮面ライダーだと遊は確信した。

 思わぬ幸運だった。こんなところでずっと会いたくて、会いたくて待ち焦がれていた強敵の情報を手に入れられるなんて、考えてもいなかった。葵を後ろから抱き抱えていることをいいことに自然と口角が上に吊り上がっていく。血色の良い唇が細長い三日月を作っていく。

 

「だからね、ボクも話しかけたんだ。お仕事するために孤児院を出ていっちゃったお姉ちゃんにもまた会えるって? ボクのお姉ちゃん、少し前から電話に出てくれないの。それまでそんなことなかったのに、先生たちも連絡が全然取れないって心配してたの聞いちゃったんだ」

「え?」

 

 間の抜けた声が遊の口から出てしまった。

 大事なことを忘れていた。

 葵には高校卒業を機に就職して先に孤児院を出たまだ十代の姉がいたことを。その姉は葵と二人で暮らしていくために纏まったお金を稼ぐために昼夜を問わずに必死になって働いていることを大家さんから以前聞かされていたことを思い出した。

 

「そうしたら、鏡の中の人はまたそのうち会いにくるって言って消えちゃったんだ」

「あ……そうか。そうだよね」

「遊ねえちゃん?」

 

 そこでずっと戦いのことを考えていた遊の思考回路が大きなバグを起こしてしまっていた。まず、葵の前に現れたのは仮面ライダーになった彼の姉なのは明白だった。きっとライダーバトルに専念するためか、大切な家族である葵に危険が及ばないようにと配慮した行動なのだろう。

 弟想いの素敵なお姉ちゃんだ。問題なのはそれだ――他のライダーと戦って倒すということは誰かの大切な家族を奪うことに他ならない事実。数年前に両親と死別していたものだから家族という存在を彼女はすっかり忘却していた。遊の顔から笑顔が消えて、彼女はしばらく電池の切れた玩具の人形のように無言で固まっていた。

 

「ねえ、アオくん……お姉ちゃんの写真とか持ってない? わたしも夏休みで暇だし、ちょっと捜してみるよ」

 

 しばらくして、遊の口から出たものはそんな言葉だった。

 喉奥に魚の骨が刺さったような、もどかしい気持ちを抱えてはいたがそれでも彼女は奪う側なのだ。モンスターならば怪物だと何の躊躇いも無く屠れててきた。けれど、敵対することになる仮面ライダーたちは自分と同じ人間だ。それも自分と違って、愛する親兄弟や、恋人なんかもいるのだろう。叩きのめしてお終いには出来ない。決着をつける手段は命を奪うこと――殺人ただそれ一択だ。

 

「ありがとう! 遊お姉ちゃんも大好きだよ!」

「……うん。お役に立てるか分かんないけど、がんばってみるよ」

 

 わたしはなにを頑張るのだろう。

 この子の世界にただ一人だけのお姉さんを殴り殺すことを頑張ればいいのか?

 この子とそのお姉さんの悲願のためにわざわざ殺されることを頑張ればいいのか?

 少なくとも後者は違う。

 

 わたしは生きて、戦いたい。

 生きて、生きて、生きて。

 戦って、戦って、戦って。

 だけど、殺すことは出来るのか?

 

「ふぃー……困ったなぁ」

 

 出会ってしまった時どうするのかはまだ決められない。けれど、自分以外の仮面ライダーに会いたいと言う想いが揺らぐ筈はない。襲撃者(レイダー)の名は伊達ではないのだから。

 

 

 ※

 

 

 楽しい夏のお楽しみ会も終わり、夜が更けた孤児院は普段以上に静まり返っていた。昼間の内に全力で遊び尽くした小さな子供たちはみんなぐっすり夢の中。だからこそ、こんな夜は怪物にとっての絶好の餌場になってしまう。

 

『ギキキキ――!!』

 

 5mはあろう巨体を持つ蜘蛛型ミラーモンスター・ディスパイダーもまたそんな無防備な子供たちを餌として狙う捕食者の一匹だ。ミラーワールドから現実世界へと粘性の糸を飛ばして寝静まる子供を捕らえようとした時だった。

 

「フウン!!」

 

 獲物を狩ることに夢中になっていたディスパイダーをメタリックグリーンの拳が横薙ぎに殴り飛ばした。ミラーワールド内の孤児院の壁をぶち破って、その巨体は屋外へと転がる。

 

「悪いけど、ここの子供たちは今日一日楽しいことだらけで気持ちよく眠ってるんだ」

 

 今更、正義のヒーローを気取るつもりはないが昼間の葵とのやり取りが縁で気まぐれに孤児院の周辺を見回っていたレイダー。

 案の定出くわしたこのディスパイダー相手に普段とは一変して静かで棘のある戦意を醸し出して剛腕を振りかぶる。

 

「後味が悪くなるような真似をするんなら……遠慮なく殴り潰す!!」

 

 ディスパイダーが不意打ちを狙って口から発射した蜘蛛糸を紙一重で避けるとレイダーはそれを掴んで引っ張ると逆に相手を手繰り寄せる。そして、大振りのアッパーカットを叩き込み、ディスパイダーの巨体をカチ上げた。

 

「ギギィイイイ!!」

「なんの! そおおりゃあ!!」

 

 ガラ空きになった腹部をサンドバックのように殴りまくろうとしたレイダーだったがディスパイダーも負けじと槍のように鋭い前足を突き放って応戦する。

 だが、瞬時に反応したレイダーは顔に目掛けて飛んできた脚先を掴み取るとそのまま力任せに引き千切った。

 

「そっちもいただきだあああ!!」

 

 続けて、ディスパイダーの右前脚も向こうが仕掛ける前に片手で掴み、踏み抜くようなキックをぶつけて圧し折る。

 

「ギギ……!!」

「おわっ……あきらめ悪いなッ!!」

 

 大きく戦力ダウンしたディスパイダーだが執拗にレイダーへの攻撃の手を止めようとはしなかった。両足を潰して、僅かに浮ついているであろうレイダーの隙を期待して、口からの糸攻撃で逆転を狙った。しかし、そこは全知全能が戦いに傾いているようなレイダーである。

 間一髪でディスパイダーの思惑に反応すると素早くガッツバイザーを握り、顔だか口だか曖昧な部位を殴りつける。そして、そのまま直撃したメリケンサック型のガッツバイザーをグリグリと力任せに押し込みながらデッキからカードを引き抜いてセットする。

 

【STRIKEVENT】

 

「おらあああ!!」

 

 巨大で堅牢なガントレット・ガッツナックルを両腕に装備したレイダーは大きく伸びをするように両腕を一度高々と振り上げるとディスパイダーの背中へ目掛けて怪力の限りに振り下ろした。巨大な岩の落石のような衝撃にディスパイダーは残った六本の脚を伸び切らせてうつ伏せに倒れ込むとピクピクと痙攣を起こしていた。

 

「ムフー! 一気にトドメだぁあああああ!!」

 

 ファイナルベントを使うまでも無いと判断したレイダーは文字通り、虫の息状態のディスパイダーをジャイアントスイングで豪快に空高く投げ飛ばすと両腕のガッツナックルをロケットパンチよろしく夜空を舞う的に狙いを定めて撃ち出した。

 唸りを上げてミサイルのように飛んできた二つのガッツナックルが炸裂したディスパイダーは花火のように爆発四散した。

 

「これで今夜は流石にこの辺をうろつくモンスターはいないでしょう」

 

 ガッツフォルテがディスパイダーの魂を食べるのを見ながら、レイダーは安心したように呟いた。それと同時に迷走気味の自分自身に半分呆れかえっていた。

 昼間の葵少年とのやり取りからずっと、いまいち調子が狂っている。

 

「あんまり楽しくない。わたし、なにやってんだろ」

 

 ろくでなしの性分で、生まれる環境を間違えた常人とは大きくズレている感性の持ち主だと言う自覚を持っている癖にいまになって急に善良な人間ぶったことをやっている自分がなんとも気持ちが悪かった。

 モヤモヤした心の気晴らしにもう少し他のモンスターを見つけて殴り倒そうかと思っていた時だった。

 

「ンンッ!? 誰かいるのかい!」

 

 言葉ではうまく説明できないがなんとも不快な気配を背筋に覚えて、レイダーはガッツバイザーを握った左手を突き出すように構えて後ろを振り向いた。

 しばらく、固唾を呑んで警戒を続けたが周囲には何の変化も起きない。やがて、指先から微かに消滅が始まり出したのでレイダーはミラーワールドを後にした。

 

 それから、数分後のことだ――

 

「なんて勘をしているのかしら? 戦士というより獣だわ、あの野蛮人」

 

 クリアーベントを用いて、透明化していたドラクルが姿を現して悪態を付いた。

 新たに配下に加えたチーター型のミラーモンスター・ヘイルイエーガーの餌付けと強化のため狩りを行っていたのだが見知らぬライダーを発見したドラクルはずっとレイダーを観察していたのだ。

 

「おバカそうだから考えも無しにファイナルベントを使うと思ったのに、意外と手の内を明かしてくれなかったわね……悪い子だこと」

 

 妖しい微笑みを浮かべながらドラクルはレイダーが消えていったカーブミラーを一瞥する。まだ仕掛けるには早いと彼女は素早くレイダーへの対処を脳内で取り纏めていた。

 

「それにしても、彼女もライダーだったなんて……本当に世界は面白い。姫が世界を手に入れたらもっともっと面白くしてあげないとね。やることが多そうで楽しみだわ」

 

 白亜の悪竜姫はほくそ笑みながら闇の中へと消えていった。

 この聖山市を複雑怪奇に巡る数奇な運命に思いを馳せながら。

 

 

 

 

 翌日。早速行方不明になった葵の姉捜しを始めた遊であったが一人で行うつもりだったその隣には当たり前のように佳奈がいた。実のところ、葵から写真を借りた時点で遊が何をする気でいるのか佳奈に筒抜けになっており、作戦会議と称してファミレスへと連行させていた。

 

「ありがたいとはいえ、どうして佳奈が首突っ込んでくるのさ?」

「その姉ってのがよ、彼氏の職場の同僚ってのが分かってな」

 

 ドリンクバーで注いできたコーラを飲みながら佳奈が電撃参戦の理由を明かした。

 今度は逆に遊の方も彼女がこんなにも積極的に協力する気になったことへの目星がついて、思わず苦笑い。

 

「金型加工の職人さんね。わたしが夏風邪で寝込んでた間はデートとかしたの?」

「ハッ……このお姉さまはどうも職場にも急に来なくなって工場は人手が足りないで彼氏のいる部署も臨時の応援とかで余計な残業が増えちまってるんだとさ」

 

 片眉を吊り上げて、佳奈は忌々しく葵の姉が映った写真を乱暴に指差した。ジャンボはちみつパフェを食べていた遊の手が思わず止る。短くない付き合いで分かってしまうのだ――これは良くない怒り方だと。

 

「つまり、一緒にいる時間が減っちゃったのを何とかしたいと?」

「当ったり前だ! いくらそいつにお涙頂戴のバックボーンがあろうと無断欠勤のツケでこっちは迷惑被ってんだ。意地でも見つけ出して文句言ってやる」

 

 コーラを一気飲みした佳奈はべらんべえ口調になって荒っぽい啖呵を切った。

 

「それじゃあ、食べたら早速聞き込み開始といきますか!」

「待て、開始と行くな。あんた何のためにファミレス来たと思ってるんだ?」

「糖分を摂取してやる気をチャージするため?」

「なわけあるか! 聖山市しらみ潰しに聞きこむわけにもいかないから目星を付けて捜すための会議だよ」

 

 地頭は良い方だがそもそも全知全能の殆どが戦いかスイーツのことに向いているような極端な脳の持ち主の遊に知恵を活かした人探しなんて夢のまた夢だ。そのことを良く知る佳奈は無駄な労力を抑えようとアドバイスしたのだ。

 

「だけどさぁ……情報なんてこの写真しかないんだよ? 片っ端から聞いて探したほうが確実だよ」

「却下。こういう時は頭良いやつの知恵でも借りてみるってのもありだろ?」

「おお、そういう手もあるね。けど、頭の良い人に知り合いいるの佳奈?」

 

 感心したように明るい顔をして具体例を尋ねる遊に佳奈はしばらく記憶を漁ってから学校でもその手の有名どころをピックアップして挙げだした。

 

「そうだね……知り合いじゃないけど2-Dの射澄はどうだ? 夏休み中なら街の図書館いけば会えるだろ、あいつ頭良いし物知りだぞ」

「うーん……」

「じゃあ、同じクラスの咲洲は? 新聞部でこっちも成績優秀だ。情報通かもよ」

「やっぱり、堅気の娘さんたちを巻き込むのは気が引けるんだよね」

 

 名前の出た二人は遊でも知っているぐらいの学校のちょっとした有名人だ。確かにきっと役立つ知恵を授けてくれると思う。しかし、喧嘩LOVEの無法者ではあるが下衆と言うわけではない遊は無関係の人間を不用意に巻き込むことに気が引けていた。

 

「だったら、駄目もとであの孤児院出身らしいし氷梨んとこ行くか? あいつに関しては完全に無駄骨だと思うけどな」

「あ、そうだ。佳奈の彼氏さんの職場ってどこか教えてよ」

「いいけど、何か思いついたのか?」

「まあちょっとね。佳奈の言う狙って捜すの応用かな」

 

 得意げな顔をする遊に佳奈は不思議そうな顔をしつつもスマホの地図アプリで凪河区にある彼氏の勤め先の場所を教えた。

 

「佳奈には悪いけど、ここからは悪い子意外は立ち入り禁止になるから、付き合ってくれてありがとう」

「ああ? 水臭いこというなよ。あたしにもがんばらせろよって……あー、悪いお友達連中と遊ぶわけか?」

 

 唐突に何かを閃いて立ち上がった遊に別れを切り出された佳奈は不服な顔をするがすぐに彼女の探し方では自分が足手纏いになる可能性が高い未来を予想すると渋々ながらも引き下がる決心をした。

 

「そんな感じ。だから、ここからはやっぱりわたし一人でやってみるよ」

「わかったよ。あたしも足を引っ張って迷惑かける側にはなりたくないしな。ヤバい時はすぐに連絡しろよな遊」

「ありがと。がんばってみるよ!」

 

 こうして、ある程度の捜索方針が定まると遊は佳奈と別れて単独行動でこの事件の真相に着々と近付きつつあった。意気揚々とファミレスを立ち去る親友を少し心配そうに見送った佳奈はそのあとすぐに遊の食べたパフェのお金まで支払うことになった事実に気付いて、軽く怒りに燃えるわけだがそれはまた別のお話。

 

 

 

 

 佳奈と別れた遊は軽いフットワークで聖山市の海に面した地域である凪河区にやってくると人気の多い場所や、普段自分がよく練り歩く屋戸岐町の路地裏のようなきな臭い空気の漂う場所をあちこち見て回る。

 立派な海水浴場もある凪河区はサマーシーズンということもあって、地元の人間以外にも他県からの観光客も大勢流れ込んで来ていて繁華街とはまた違った賑わいを見せている。

 

「自宅のアパートも同じ地区って話だったから、たぶんこの界隈にヒントの一つぐらいあると思うんだけどな」

 

 一見するとやはり行き当たりばったりに探しているように思える遊だが一つの共通点があった。彼女が見て回っているポイントに共通するのは全てミラーモンスターにとって餌場になりそうな場所ということだ。

 仮面ライダーであれば、契約モンスターを従えるための餌の工面は必要不可欠だ。だから、表の生活との両立なども考えると葵の姉も自分の生活圏内でライダーとしても活動していた可能性を考えて何か手掛かりがないかと遊は閃いたのだ。

 

「ねえ、そこの銀髪がキレイなキミ? この辺じゃあ見かけない顔だけど、どうしたの」

「へへ! 夏休みなんだから楽しまないともったいないよ。キミが良ければ俺たちが楽しい遊びを教えてあげよっか?」

 

 一見のコンビニの裏手をうろついていた時だ。遊の期待していた副産物がやってきた。チャラそうな若い男たちがニヤけた顔をして夏服のセーラー服姿の遊を見つけて下心を隠しきれていない様子で声をかけてきた。反応からして、遊のことも知らない様子だ。

 

「お! 待ってました!」

 

 あからさまに遊んでいそうなナンパ男たちの出現に遊は弾むような笑顔を見せて喜んだ。やはり、こういう裏事情が絡むことはその筋の人間に聞いてみるのが一番だ。

 

「ナニナニ? キミってばもしかして、誘われるの待ってたわけ?」

「その余裕そうな感じを見ると案外すごく遊び慣れてるのかな? イケない子じゃん!」

 

 一方でナンパ男たちの方は遊の言葉を完全に別の意味として勘違いしており、馴れ馴れしい様子で彼女の下半身に手が伸びる。

 

「お兄さんたちさあ! この写真のお姉さん見たことないですか?」

「ぐえあッ!?」

「おっふぅ!?」

 

 遊は二人組の軟派男のうち、手を伸ばしてきた方はその手首を掴んで投げ飛ばして、さらにニードロップ気味に背中にのしかかって拘束。もう一人は一度胸倉を掴んで近くまで引き寄せると何の躊躇いもなく股間を強く鷲掴みにして動けなくした。

 

「何なんだよ急に! そんな女知らないよ!?」

「俺も知らない! 何もしてない!」

 

 写真を見せられた男たちは荒事慣れした遊に驚き恐怖しながら必死に叫んだ。

 二人の反応を見ながら遊は股座を握り締めている方の男の言葉に妙な引っ掛かりを感じて、言葉を重ねる。

 

「お尻に敷いてるお兄さんは正直者だから見逃してあげるよ。だけど、もう一人のお兄さんは嘘ついているよね?」

「おぅうううう!? や、やめてく……れえ!」

 

 自分は写真の人物を知っているのかを質問したのに何故か余計な言葉も付け足して否定する様子が遊には違和感があった。ぐにゅぐにゅと気持ち悪い感触を気にも留めずに遊は男の股間を掴んだ手にさらに力を込めて自分の元へと手繰り寄せる。

 

「お兄さんに選ばせてあげよう。わたしに本当のことを話すか、お股についてる大事なものを握り潰されるの、どっちがいい?」

「た、頼むから……この手をはな、離してくれぇ!」

 

 自分が手で触れているモノについて特に恥ずかしがる様子もなく遊は獰猛な笑みを浮かべて脅しをかけてみた。

 

「正直に話せばなにもしないよ? それとも一生えっち出来ない体になってもいいの? わたしはよく知らないけど、佳奈なんてわたしン家でわたしが留守の間にしょっちゅう彼氏さんとやってるみたいだから、気持ちいいことなんでしょ? いやー大事な我が家をいくら親友だからって、大人のホテル代わりにするのには参っちゃうよね」

「いいぎいいいぃい!!」

 

 万力のようにギリギリと力を込めていくと男は脂汗をだらだらと流しながら激しく悶絶するがまだ口を割ろうとしない。

 

「しょうがないな……じゃあ、このまま握り潰した後に引き千切ってあげるね。3、2……」

「話す! 話すからやめてくれ!!」

 

 終始、人懐っこい物腰でまるで友達と接するような態度の遊に寒気を覚えるような恐怖を感じて遂に口を割る気になった。

 男は女子高生に股間を鷲掴みされて脅迫されると言う情けない恰好のままで、数日前の深夜に写真の少女を人気のない廃倉庫に追い込んで仲間たちと襲ったことを白状した。自分は見張り役で手は出していないことを強調しながら。

 

「ありがとー! 助かったよ!」

 

 知りたい情報を手に入れた遊は約束通りナンパ男達にはそれ以上何もせずに軽快な走りで教えられた廃倉庫へと向かって行った。残された男の一人はガタガタと震える手でスマホを操作すると大慌てである番号へと電話を掛けた。

 

「もしもし! い、急いで姫に報告を……倉庫でヤッた女の子ことを嗅ぎまわってるガキがいます!!」

 

 男は忠誠心から、あるいはご主人さまからの罰を恐れて最後まで自分たちを束ねる絶対君主の存在だけは隠し通していたのだ。

 

 

 

 

 時刻は少し遡る。

 聖山市の繁華街・屋戸岐町の特に夜の店が連なる歓楽街エリアに建つ最高級ラブホテルの入り口に一台のタクシーが横付けに停車すると一人の少女が降りてきた。黒髪にメガネを掛けた清楚な雰囲気の少女だ。

 タクシーの到着と同時にホテルの軒先にたむろしていた黒服の男たちが壁のように整列して、少女が中へと入っていく姿を第三者の何者にも見せないようにガードをする。

 少女はタクシーに対して一切代金を払わなかった。何故なら、この運転手は彼女の下僕で所有物だ。理由はそれだけで十分だろう。

 

「お疲れ様です。姫」

「ええ、貴方達もご苦労さま。三時間後にカクテルをお願いね。ノンアルコールで」

 

 ラブホテルのエントランスで控えていたこの店のオーナーである壮年の男性に堂々たる態度で言葉を掛けると少女はスタッフ専用通路とエレベーターを当然のように使って最上階へと向かう。目指すは常に彼女の個室として貸し切り状態になっている大きなプール付きの特別スイートルームだ。

 

 とてもラブホテルとは思えない素晴らしい調度品だらけの豪華な一室へと入って早々に彼女は服を脱ぎ捨てて、一糸纏わぬ艶姿になると伊達眼鏡も外し洗面台に専用に備え付けさせたピンク色のヘアカラースプレーで絹のような黒髪を派手な色彩へと塗り替えていく。

 表の世界で生きる清楚で慎ましいお嬢様の姿から仮面ライダードラクルとして覇道を目指して暗躍する姫の姿へと完全に変身を遂げた彼女は夏の暑さにうっすらとかいた汗も流さずにこの部屋目玉の室内プールへと進む。

 

「待たせたわね、姫の可愛い子犬ちゃんたち♪ さあ、ご褒美をあげるわ。感謝して貪りなさいな♪」

 

 プールサイドには既に全裸の男たちが十人。姫の到着を待ち侘びていた。彼らは皆、先の戦いでドラクルの勝利に貢献した実行部隊だ。みな、厳命に従い雄の欲をあの夜から一度も発散させること無く限界まで興奮状態で犬で言うところの待て。を守っている状態だった。

 それがやっと現れてくれた姫の甘く脳髄が溶けてしまいそうになる声を合図に一斉に彼女へと押し寄せた。一瞬でそこは男たちと女が貪り合う煩悩の吹き溜まりに変貌した。絶世の美女が男たちの上で凄絶に、妖艶に踊り狂う。

 筆舌に尽くし難い、快楽と愛欲を満たしてはぶちまける色欲地獄は二時間半にも及び続けられた。恐るべきことは男たちが一人、また一人と精も根も尽き果てて気絶する中で姫は最後まで男たちを抱いていた。

 

 抱かれるのではない。彼女が男たちを抱くのだ。

 そうだ。彼女こそが常に雄たちの上に立つ存在だ。

 自らの完璧に近い麗しく美しく艶やかな肢体を以って。

 時には清濁問わずあらゆる策と術を用いて。

 姫を名乗る少女はこの聖山市に暮らす多くの男たちを魅了し、誑かし、篭絡して、自らの忠実な下僕たち。可愛い所有物にしてきた。年齢を問わず、身分を問わず、性癖を問わず。

 

 女という生き物の特性を自他問わず恐ろしいまでに徹底的に利用して、彼女はこの聖山市の裏の世界に君臨するようになった。全ては女尊男卑を貫徹した自らが最高の君主として世界を統治する夢想を実現するために。

 そして、それはライダーバトルの勝者という到達点で実現可能なものへと昇華した。事実、彼女の哲学を応用した戦法でドラクルは目覚ましい戦績を打ち立て、強かに破竹の快進撃を続けている。

 

 乱れに乱れた行為が終わり、プールで一泳ぎして汗を流した姫がくつろぎながらお気に入りのカクテルを飲んでいるとひとつの影が現れて、アリスが浮上した。

 

「こんにちは♪ お楽しみのところお邪魔しまーす♪ 無敵にかわいい、清純派有能管理者のアリスでーす! またまたの大勝利おめでとうございます♪」

「あら、ごきげんよう。貴女も一杯どうかしら?」

「ご好意は感謝しますがここ変なにおいで気持ち悪いじゃないですか? アリスは潔癖で清廉な美少女ですので粗相をしないようにお断りしまーす」

 

 などど、アリスは有象無象の男たちの裸が視界に入っても顔色一つ変えずに冷やかな笑顔でそう答えた。そんなあきらかに癇に障る言葉を口にして挑発している様な態度のアリスに姫の方も裸のまま堂々とビーチチェアに座ったまま、足を組み直して睨みを利かせる。

 室内プールには鏡の魔女と邪智に長けし悪竜が一触即発寸前の張り詰めた空気が流れた。

 

「もったいぶらずに用件を言いなさい。姫の勝利を祝いに来たんじゃないのでしょ?」

「そんなことないですよ? 私は強くてやる気のあるライダーさんはみんな大好きですもの。ただ……姫ちゃんはもっと見応えのある戦いをしてくれるのになーって残念なだけです」

「反則はしていないわよ。敵を仕留める時は必ず姫がライダーとして手を下しているんだから」 

 

 下手をすれば一方的なワンサイドゲームになりかねない姫陣営の戦法。ライダーバトルに参加するのは十代の少女だけという条件を逆手にとって、競争相手である彼女たちを執拗に女性として破壊工作を仕掛けるやり方に微かに苦言を呈するアリスに姫は一切悪びれない態度を貫く。

 

「ハア……分かりました。いえ、それで特にペナルティなどを科すつもりはありませんのでご安心を。でもでも、強くてカッコいい姫ちゃんの勇姿も見たかったなーと、アリスはしょんぼりと退散するのです」

 

 姫の姿勢が変わらないことを直に確認したアリスは演技なのが丸分かりなリアクションをとって、姫自身も内心驚くほどにあっさりと影に沈んで消え始めた。

 

「ご武運をお祈りしていますよ。綾芥子撫子ちゃーん♪」

 

 最後の最後に、姫が普段日常で正体が露見しないように隠すことに細心の注意を払っている彼女の本名をわざとらしく大きな声に出して、アリスは姿を消し去った。

 

「チッ……嫌な女」

 

 姫――綾芥子撫子は大きな舌打ちをその美貌を険しく歪めた。

 その数分後に齎された末端の所有物からの連絡を受けて、彼女はすぐに二度目の舌打ちを打つことになる。

 

 一方で撫子の前から姿を消したアリスは彼女が本拠地にしているラブホテルの屋上に浮上していた。

 

「まったく、聞き分けの悪い子はいけませんね。私が望んでいるのはもっともっと命と執念をぶつけ合う死に物狂いの戦いなのに……ロマンのない人ですね」

 

 絶対零度の剃刀のような怖気が走るような冷やかな声で言い放ち、精肉加工場への出荷を翌日に控えた家畜を見るような眼差しで撫子の小さくおぞましい王国を見下す。

 

「遊び心のないつまらない女の子にはキツめのお仕置きを考えないといけませんよね」

 

 可愛らしく小首を傾げて両手をポンと叩きながら、アリスは可憐なダンスを舞うようなステップで屋上から飛び降りると瞬く間に姿を消していた。

 

 

 

 

 その頃、聞き出した情報を頼りに海辺の寂れた廃倉庫を見つけ出していた遊は力任せに錆付いて重たいシャッターを抉じ開けると中に入っていた。

 

「これって……うえっ、くっさー」

 

 何の変哲もない廃倉庫。

 特に収穫も無くてガックリと肩を落として早々に立ち去ろうとした矢先に遊は倉庫の隅に捨てられてあった女性物のメガネを発見した。手にとって間近で見ようとするもメガネにこべりついた独特の臭いが鼻をついて顔をしかめる。

 その臭いは嗅ぎ覚えがあった。具体的に言うと遊の留守中に佳奈が付き合っている彼氏と自宅で好き勝手に愛を育んだ後によく漂っている残り香のそれだった。

 

「そっか、酷い目に遭ったんだね。アオくんのお姉ちゃんは……」

 

 彼女の身に降りかかった不幸の概ねを悟った遊は僅かに顔色を曇らせた。

 同じ女性としての同情というよりは可愛がっている少年の大事な親族に不幸があったことを憂いていた。

 

「さてはて、これからどうしたもんかなー」

『ガルルル!!』

「んんっ!? おわああ!!」

 

 気持ちを切り替えて、再び振り出しに戻ってしまった人探しにどうしたものかと唸っていた遊はキィン……キィン……と耳に響いた音色を聞くや否や倉庫内に置き去りにされていた割れた業務用の鏡から飛び出してきたヘイルイエーガーに襲撃されてミラーワールドへと引きずり込まれてしまった。

 

「このッ……お腹空いてるのかな君ィ!!」

 

 ミラーワールドの廃倉庫でも、自分を乱暴に引きずって襲い掛かるヘイルイエーガーをどうにか蹴り飛ばして距離と取った遊は素早くデッキを取り出して構えた。

 

「変身!!」

 

 何処からともなく出現して腰に装着されたベルトにデッキを装填すると丸みのある分厚い装甲を纏った騎士の鏡像が遊に重なって彼女を仮面の騎士に変える。

 いつになく唐突に始まったミラーモンスターとの戦いに多少奇妙な違和感を覚えながらもレイダーは瞬時に戦意を最高潮にまで燃え上がらせるとヘイルイエーガーに突撃していく。

 

「おらぁ! おっと、速いなチーター君!?」

『ガルルル――!!』

 

 砲弾のようなレイダーのパンチは大きく空振りして、代わりに背中に微弱だが鋭い痛みが走った。俊足を武器にするヘイルイエーガーはマチェーテを自在に振り回しながら素早い動きでレイダーを翻弄して斬撃を当てていく。

 

「チクチク、チクチクと鬱陶しいな! 夜中の蚊か何かかい!」

 

 強固な装甲と遊自身の打たれ強さも相まって高い防御力を有するレイダーにとってヘイルイエーガーの攻撃はよほどの油断をしなければ他愛のないものだった。しかし、攻撃を当てられないもどかしさがレイダーのフラストレーションを加速させていった。

 

「悪いけど、鬼ごっこはお終いだよ」

 

【NASTYVENT】

 

 四方八方から斬りつけてくるヘイルイエーガーの攻撃を空手の三戦に似た構えで防御しながら少し苛立ったような低い声で宣言するとレイダーは余程の難局でしか使わないカードを引き抜いた。

 

『ホッ! ホッ! ウホワアアアアァ!!』

「頼んだよ、相棒!!」

 

 電子音声の響きを打ち破って召喚されたガッツフォルテは気合の方向を上げながら盛り上がった胸板を激しく両手で叩いて、猛烈なドラミングを開始した。

 巨大な和太鼓の何倍も大きく激しい音の衝撃波が廃倉庫に轟いて、ヘイルイエーガーにもダメージを与えていく。

 

『ガ……ルルワアァ!?』

「そこにいたか! 悪いけど、足を潰す!!」

『ガァアアアッ!?』

 

 広範囲に及ぶ音波攻撃を回避することは出来ずに足を止めたヘイルイエーガーに一気に肉薄したレイダーは相手の膝を迷わず全力で踏み抜いて逆方向へと折り曲げた。

 

【STRIKEVENT】

 

「戦いはやっぱりコレが一番だよね? オラオラオラァッ!!

 

 片足を容赦なく潰されたヘイルイエーガーがのたうち回るのを横目に素早くガッツナックルを装備したレイダーは仮面の奥でギラギラに煌めく双眸を細めて笑うと待ち望んだ拳闘を開始する。

 

「どうした! どうしたぁ!! 君もミラーモンスターなら殴り返しておくれよ! 怪物の意地を見せてごらん!!」

 

 激しい拳の乱打にあっという間にボロボロに傷ついていくヘイルイエーガー。レイガーの挑発に殺意は湧くものの、その攻撃の凄まじさにスピードタイプのこのモンスターは反撃したくても反撃できなかった。

 

「全力ぅうううう!!」

『ブッギャアッハアア――!!?』

 

 力を溜めて溜めて打ち込んだ渾身の鉄拳がヘイルイエーガーをシャッターを突き破って外の殺風景な埠頭の片隅にまで殴り飛ばした。

 

「意外と情けないモンスターだったな。最初のやる気はどこ行ったんだい?」

 

【FINALVENT】

 

 戦いを楽しみたい気持ちはあるが今日のところは別に専念すべき用事があるレイダーは確実に決着をつけるために切り札を切った。

 ガッツフォルテに我が身を預けると彼女は風車の扇のように相棒諸共激しく回転しては必殺の力を充填していく。

 

『強くなってから出直してこぉおおおおい!!』

 

 満足に動けないヘイルイエーガーにロケットランチャーのように投げ飛ばされたレイダーの強烈な拳が直撃する。デスペラードメガブローの一撃の前にヘイルイエーガーは成す術も無く爆発して消滅した。

 

「ふー……楽しかった! 相棒もご飯にありつけたし、まあ良しとしよう。さてと――」

 

【SHOOTVENT】

 

 葵の姉の行方を捜そうとミラーワールドを退去しようとした時だった。

 自分のバイザーの物ではない電子音声が響き渡った。

 

「痛ったぁ!? な、なんだ……ッ!?」

 

 不測の事態に身体が反応するより前にレイダーの全身に激しい銃弾の洗礼が浴びせられた。器用なことに二の腕や首筋に太ももと装甲が薄く、着実にダメージを与えられる部位をピンポイントで銃撃してくる隙のなさだ。

 

 慌てて地面をゴロゴロと転がって物陰に隠れ、襲撃者を確認しようとするレイダーに更なる不測の事態が襲い掛かる。

 レイダーが身を隠して防御を取ったと思えば謎の襲撃者は廃倉庫を始めとして近くにある建物や建築物を手当たり次第に射撃して、窓ガラスやカーブミラーなど出入り口になりえるものを破壊し尽くしてしまったのだ。

 

「やっば……く、くそぅ! どこの誰だい、顔を見せてみろ!」

「貴女に指図されなくても、姫はちゃんとここにいるわよ」

 

 怒りに燃えるレイダーの声に甘い女の声が返される。

 そして、隠れ潜んでいた死角からライドシューターを駆って目の前に現れた遊にとって初めて出会う殺し合うべき仮面ライダーはその白く猛々しい姿を堂々と見せつける。

 毒竜の白骨のような鎧を纏う仮面の騎士。右手には恐竜の太く力強い尻尾を模した鈍器にも見える銃器型の武器・カースアームズを装備したそれは騎士というよりは暴君のイメージに近い。

 

「はじめまして。姫の名は仮面ライダードラクル。お見知りおきを♪」

「わたしはレイダー。仮面ライダーレイダーだよ。でも、なんだか君は殴っても楽しくなさそうだな」

 

 不意打ち染みた姑息な手を使ってくるドラクルの第一印象は最悪だった。

 ようやく遭遇出来た敵ライダーに対する期待の火種を意地悪く吹き消されたような心持のレイダーは不機嫌で興味の薄そうな態度でドラクルのことを睨みつけていた。

 

「くふ♪ 試してみてもよくってよ?」

「じゃあ、遠慮なく!!」

 

 新参者ながら既に強者の風格を放つレイダーにドラクルは不敵に笑って手を招く。やってやるとその喧嘩を買うことにしたレイダーはガッツバイザーを武器として握ると猛突進で駆け出した。

 

「だりゃああああ!!」

「甘いわよ、おサルさん」

「え……のわっ!?」

 

 豪快な左ストレートを繰り出すレイダーだったがドラクルはカースアームズの先端でその腕を巧みに絡め取ると相手の力も利用して後方へと投げ飛ばしてしまった。さながら、合気道の技めいた動きだ。

 

「どうしたの? 姫のことを殴るんじゃなくって」

「ごめんよ。君にさっき言った言葉を謝罪して訂正するよ」

 

 憎たらしい猫撫で声で挑発してくるドラクルに飛び起きたレイダーは十数秒俯いてから、歓喜で震えた声で言う。

 

「どうやら、君と戦うのは最高に楽しそうだ」

 

 いまの僅かな攻防でドラクルの高い実力を肌で感じ取ったレイダーは喜び勇み過ぎてブルブルと震えながら、熱っぽい声で呟いた。

 本当に、本当に、本当に――敵の仮面ライダーと戦うことはミラーモンスターを相手にするよりも何千倍も、何万倍も胸が躍るという実感を味わっていた。

 

「仕切り直して、思いっきりやろうじゃないか!!」

「姫は構わないけれど、貴女の体は持つかしらね?」

 

 臨界点まで燃え上がった闘志がドラクルのもったいぶった言葉で一気に鎮火した。微かな音を立てて、レイダーの指先から消滅が始まっていた。

 思えばヘイルイエーガー戦からの休む間もない二戦目で長居し続けていたのだ。正確には意図的に長い時間滞在させられていたと言うのが正しいか。

 

「あ……やばい。ちょっと、タンマ!」

「言質は取ったから、卑怯とは言わせないわよ」

 

 これは不味いと冷や汗を浮かべるレイダーにドラクルはいまになって急に積極的に攻撃を開始した。そう、全てはドラクルの思う壺な流れだった。

 

「ぐうああ!? ちょっとピンチだな、こりゃ……」

「簡単な話じゃない。貴女が消滅する前に姫を殺せばいいだけのお話。切り札をジャンジャン使えばできるんじゃないかしら?」

「そうしたいんだけどさぁ! 財布が寂しいというかだね!! ぐわあ!?」

 

 いちいち痛いところを突いてくるドラクルの口撃にレイダーは苦虫を噛み潰した顔を浮かべながら、ドラクルの猛攻をどうにか捌くが戦況は最悪だった。

 残り時間が少ないことに加えて、ファイナルベントを始めとして主力のカードは殆ど使い切ってしまっている有様。そして、ご丁寧に近場にあった使えそうな脱出口を全て使用不可能にされてしまっていると来た。

 消滅が近づく肉体に気を取られて、レイダーはドラクルのカースバイザーによる重い打撃を食らって火花を上げながら地面を転がる。

 集中するのが難しい思考の中で、これだけの条件が揃ってようやくレイダーはこれらが全て目の前のライダーによって仕組まれたのではないかという疑惑を覚えた。

 

「君ってば、結構なベテランさんなんじゃないの? それも随分とやり手だね」

「何のことかしら? まさか、ずる賢いだなんて褒めてくれるつもり」

「いやいや……ただ、気持ち良く殴り合うには骨が折れそうだなって!!」

 

 やるべきことを逃走に切り替えたレイダーはどうにか隙を突いてドラクルにドロップキックを決めて引き剥がすと一目散に背中を向けて逃げ出した。目指すは彼女が乗って来たライドシューターだ。

 

「逃がさなくてよ? 貴女はここで死ぬの♪」

 

【ADVENT】

 

 レイダーの逃亡とその進行先を見て、ミラーワールド脱出のための効率的な移動手段を手に入れるつもりだと判断したドラクルは非情にも彼女が生き延びる筋道を潰すべく、愛しきペットを呼ぶカードを切る。

 もとい、ドラクルはこの場でレイダーを必ず葬るつもりでいた。普段用いる常勝手段を仕掛けることなく変身して戦いを挑んだのもタイムリミットが迫る状況やレイダーがファイナルベントを始めとした主力カードを偶然にも使い潰したいまが勝機だと踏んだからこその博打だったのだ。

 

『カロロロロ――!!』

「おおっと!? でっかいトカゲ? 恐竜!? ど、どっちだぁ!」

 

 レイダーの行く手を遮るように横から割り込むように不気味な顔を突き出してきたカースドラン。舌をチロチロと気色悪く出しながら威嚇する圧倒的な威容にレイダーが驚いた一瞬の出来事だった。

 

『カロロロロォオオ――――!!』

「さよなら、レイダーちゃん」

 

 レイダーは声さえ発することも出来ずに大きく口を開けたカースドランに頭部を丸呑みされるように噛みつかれた。全身がだらりと力が抜けたと思うとその体はカースドランに咥えられたまま、口先の動きに巻き込まれて宙吊りのまま乱雑に振り回されている。

 粒子のように散っていく消滅化のスピードが目覚ましく早まり、既にレイダーの全身がゆっくりと着実に終焉へと向かっていた。

 そんな哀れなレイダーの姿を眺めながら、白き悪竜姫は優雅な微笑みを絶やすことはなかった。

 





『キャラクタープロフィール』

綾芥子 撫子

 藤花学園に在籍する三年生。
 本来の姿は長い艶のある黒髪の清楚な雰囲気の大和撫子だがライダーとして行動する際はピンクのヘアカラースプレーで髪を染め、「姫」という源氏名と顔を用いている。
表向きは品行方正なお嬢様だがその本質は女帝と表現できるような苛烈で克己心の強い人物。女尊主義であると同時に目的を達成するためなら自身も含めて、徹底的に女性であることを利用・活用する強かさの持ち主である。
 聖山市の多くの男たちを知恵と情交の限りを尽くして籠絡して自分の手下に手懐けている。彼らを用いて、情報収集を行うなど事前準備を怠らない入念な戦術プランを実践している。
 更には事前に部下の男たちに狙いを付けた仮面ライダーの少女を「女」として暴行させて、心身ともに徹底的に消耗させた上で勝負を仕掛けるなど勝つために可能な限りの手を尽くすハングリー精神を覗かせる。
 ライダーバトルに託す願いは全ての男を隷属させて、女帝として優れた統治者になること。

 【仮面ライダードラクル】

 『契約モンスター・カースドラン』
 巨大なコモドオオトカゲ型ミラーモンスター。体色は紫だが頭部を始めとして全体に骨のような白い外殻で覆われた外見をしている
 見た目に反して挙動は素早く、時には静かに忍び寄り急襲するなどクレバーな行動を見せる。主人に似て狡猾で残忍な性質の持ち主。

『毒竜召機甲カースバイザー』
 口を開いたコモドオオトカゲの頭部を模した籠手型の召喚機。左腕に装備。
 サイズとしては大型に分類され、バイザー自体がハンマーや他ライダーのストライクベントのように使用できる。

デッキ構成
シュートベント『カースアームズ』
AP3000 カースドランの尻尾を模した銃剣型の複合武装。一見すると鈍器のような外見だが隠し刃と銃口が内蔵されている。

スイングベント『カースホイップ』
AP2500 カースドランの舌を模したピンク色の鞭。粘液が付着しており、攻撃を受ければ受けるほど付与されたぬめりによって思うように動けなくなる追加効果を持っている。

ポイズンベント
AP2000 自身の武器に強い毒薬効果を付与する。毒の種類は麻痺や激痛、溶解性など様々で強力だがカード使用時にランダムで効力が決まるので少々のデメリットも内包している。

クリアーベント
AP―― 一定時間、透明化する。

アドベント『カースドラン』
AP5000 カースドランを召喚して攻撃させる。攻撃方法は大顎による強力な噛みつき。口から溶解性の毒液を放射する。

ファイナルベント『サクリファイス・エクスタシー』
AP6000 自分と右腕とカースドランが合体変形して誕生する巨大な武装腕・デッドリードランで敵を噛み潰す技。牙からの毒液で相手は痛みを強制的に快楽に変換されて、逃げると言う選択肢を奪う効果も持っている。


外見
不気味な白いライダー。アンダースーツは紫。
契約モンスターのカースドラゴ同様にトカゲの骨のような装甲を全身に纏っている。
イメージとしては仮面ライダーアークワンのアーマーに白骨と恐竜要素を加えた感じ。


さて、こんな感じで役者は全員出揃いました。
次回が一応メインストーリー最終話。
今回のノリのまま、振り切れた連中のデスゲームもラストスパートでございます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。