仮面ライダーツルギ・スピンオフ/ドキュメント・レイダー 作:マフ30
前回の投稿から気が付けばほぼひと月が経過してしまうことになってしましたがどうにか第4話書き上がりました(汗)
このお話で一応メインシナリオは終了となります。
どうか最後までお付き合いお願い致します。
『カロロロロロ!!!!』
ドラクルのミラーモンスター・カースドランは全身に白骨を思わせる外殻を纏った四足歩行の竜に似た不気味なシルエットで依然として頭部を咥えたレイダーを執拗に振り回していた。まるでレイダーを噛み殺すだけでは飽き足らず、首をねじり切らんばかりの勢いだ。
「くふ♪ 貴女の夢を聞くのを忘れていたわね。残念なことをしたわ」
そんな残酷な光景を嬉々として眺めながらドラクルは勝利を確信して呟いた。
葵の姉にした時と同じように。いままで屠ってきた競争相手である敵ライダーたちにそうして来たように、彼女たちの願いをその命ごと破壊するのは至極の快感なのだから。
今回は順序が逆になってしまったのでレイダーが持っていた勝利の報酬たる願いの詳細を知ることは出来ないことが少し惜しかったとドラクルが考えていた時だった。
「夢ってほど大層なものでもないし、半分願いは叶ってるみたいなものなんだけどさ」
「なッ!?」
「ぐぬぬ……うおりゃああああ!!」
カースドランの口の中から確かに聞こえてくるレイダーの声にドラクルは自分の目と耳を疑った。とっくの昔に頭を噛み砕かれていたと思われたレイダーはなんとカースドランの両顎を力づくで抉じ開けると強烈な噛みつきから自力で脱出してみせた。
着地したレイダーの左腕から大粒の血の雫がボタボタと流れ落ちた。彼女はカースドランに噛みつかれる瞬間に咄嗟に左肩を突き上げ頭部の代わりに噛ませることで致命傷を回避していたのだ。
「わたしの願いは強い人たちともっとずっと戦いたいってところかな。それが叶うのなら宇宙だろうと異世界にだろうと飛び出したって構わない!」
「――この野蛮人め」
「褒めてくれてありがとー! けど……いまのは本気で死ぬかと思ったよ」
忌々しく吐き捨てるドラクルにレイダーは痛みを空元気で誤魔化しながら明るげな声で言い返した。けれど、左肩の装甲は無残に噛み砕かれて傷口から溢れる血で赤黒く汚れている。そして、ミラーワールドに滞在できる残り時間もまた刻一刻と消費されている、極めて危機的状況なのには変わりはない。
「姫の完璧な作戦を一時とは言え凌いだことには褒めてあげるわ。だけど、姫が直接仕掛けた以上は貴女の死は絶対なのよ? 分かったら、さっさと死になさい!」
「せっかくだけど、お断りだ!!」
「どこに逃げても無駄よ! カースドラン、今度こそちゃぁんと喰い殺しなさい!!」
性懲りも無く、ドラクルが乗って来たライドシューターを目指して駆け出したレイダーを狙って命令を受けたカースドランが追撃する。ドラクルは彼女がライドシューターを奪ってこの場から逃走するものと思い込んでいた。
ようやくライダーシューターの元へと辿りついたレイダーは一目散に座席に乗り込む――のではなく、機体フロント部分の持ちやすい場所を手探りで探すと迷わず両手で強く掴んだ。
「さっきのお返しだああああ!!」
『カロッ……バァアアアア!?』
なんとレイダーは二輪車としては巨大にも程があるライドシューターを持ち前の怪力で持ち上げると棍棒のように横一閃に振り回して後ろから追ってきていたカースドランを殴り飛ばしたのだ。
「キャアッ……くっ、出鱈目ばかりを!?」
【ADVENT】
「しまった! あいつの狙いはそれか!?」
カースドランはドラクルの目の前まで吹っ飛ぶと大きな砂ぼこりを巻き起こしながら倒れ込んだ。自身の契約モンスターの巨体と周囲と包む砂煙、そして視界が効きにくくなった奥から聞こえた電子音声によってドラクルは自分が見誤ってしまったことに気付いた。
レイダーの目的は未練がましい逃亡ではなく、最初からまだ残っていた切り札を使用するための時間稼ぎにあったのだ。そして、レイダーの元には起死回生の一手を託された心強い深緑の相棒が駆けつける。
『ウホォオオワアアアア!!』
「相棒! ご覧の通りの大ピンチなんだ。なんとかできるかな!?」
召喚されたガッツフォルテは既に粒子化が全身に起こり始めているレイダーの姿を一瞥するや否や何を思ったのか大きな手で彼女のことを掴むと一目散にドラクル達へと背中を向けて駆け出した。
「おお相棒!? どうするの? どうする気ぃ? わたしってばどうなるの!?」
『ホワァアアアアアア!!』
「うひゃあああああ……あっ!! なるほど、OK! ありがと相棒ぅううううう――!!」
往年の怪獣映画さながらにレイダーを片手に掴んで近場にあった倉庫の屋根に飛び乗ったガッツフォルテはそこから更に大ジャンプすると海の方角へと全力で自分の契約者をブン投げた。
晴れ渡る夏空の下で穏やかな海面は見事な水鏡となって白い雲もくっきりと映していた。そんな大海原の鏡面を出口にしてレイダーは大きな水柱を作りながらも間一髪でミラーワールドから脱出していった。
「契約者が非常識なら、モンスターも非常識ってわけ? ふざけた真似を!!」
一方でレイダーの逃走を許してしまったドラクルは苛立ちで歯を食いしばりながら怒声を上げた。ライドシューターを武器にする意味不明な行動で窮地を脱したレイダーの奇想天外さ。可能な限り遠方の海面へとレイダーを投げ放ったガッツフォルテの知性を感じる想定外の行動。
何よりも先日手に入れたばかりの貴重な手駒を失うリスクを考慮しながらも、また必勝法から外れたタイミングで仕掛けることになっても仕留められると睨んでの襲撃が失敗したことへの怒りはそう簡単に抑えられるものではなかった。
「くふ♪ いいわ、レイダーちゃん……どの道、貴女はもう姫の築いた蜘蛛の巣の上にいるのよ。たっぷりと生き地獄を振舞ってあげるから覚悟しなさい」
レイダー逃走から数分が経過してから、ドラクルは現実世界での罠の算段を組み立てながら自らもミラーワールドを退去した。戦士としても高い実力を有する彼女だが現実世界に置いて集団戦法が可能なほどの手勢を持っていることが綾芥子撫子の確固たる強みなのだから。今回もそれを徹底的に活かすのみだ。
※
「ぜえ……はあ……けほっ、げほっ! ケータイや財布持ってこなくてホント良かったよ」
海から現実世界へと帰還した遊はというと海水浴場に程近い岩場にどうにか泳ぎ着いて、ぐったりとその場に大の字で寝転んだ。
戦いのダメージに加えて、まさかの着衣泳での遠泳と普通なら疲労の余り気を失っても可笑しくない修羅場だったが丈夫で元気が取り柄の遊はまだ幾らか余裕がありそうな様子だった。
「痛たた……うげぇ、噛まれたとこ穴空いて、骨っぽいの見えてるよ。こんな左腕でよくここまで泳いだよ、わたし」
海水で濡れて身体にへばりつき、健康的で凹凸のハッキリした遊のボディラインを包み隠さず露わにするセーラー服の左肩部分が海から出たことでじわりと赤く染まっていく。
恐る恐る遊がカースドランに噛みつかれた傷口を覗き込んでみると、そこは血の気が引くような痛ましい状態になっていた。
「えらいぞーわたし! 今夜はご褒美にホームサイズのアイス食べちゃおう……なんて、ね。これからどうしたもんかなー」
制服のスカーフを包帯代わりに巻いて応急処置を済ませて、濡れたネズミのような状態のままで遊は移動を始めた。何か一つでも間違っていたら命を落としていた窮地から脱した自分を褒めてみるが流石の遊も複雑化していく状況に顔色を曇らせて、溜息をついた。
「アオくんのお姉さん、たぶんもう死んでるよね。で、たぶん倒したのはあのガイコツドラゴンみたいなライダーだよなー……あの子になんて説明しよう。ぐぅう、思ってたよりも痛んできたか」
折角遭遇出来た敵の仮面ライダー。そこに至るまでに判明した残酷な事実に本当なら小躍りして喜ぶところを葵との先約がそれに待ったを掛けた。戦いが絡むと途端に狂人へと切り替わる遊だが、それを取り払った時に残るのは明朗快活で人懐っこく、子供に慕われやすい女子高生なのだ。
だから、彼女には葵と交わした約束を適当な言葉で誤魔化すと言う選択が出来なかった。
今回は色々と喧嘩以外の事に振り回されるなと左肩を苛む激痛を堪えながら遊が歩道に出ようとした時だった。切羽詰まったような男たちの声が近くで聞こえてきたので彼女は無意識に身を隠して様子を窺う。
「おい! 見かけたか?」
「いや、俺たちの方は空振りだ。 海水浴の客たちに紛れてるかもしれねえ!」
「相手は喧嘩好きで屋戸岐町界隈でそれなりに有名な女だ! 顔写真が手に入らないか各自で連れや知り合いにも当たってみろ! いいか、銀髪の聖山高校の女だぞ!」
「姫のためにもなんとしてでも見つけ出せ! 手柄を上げたらまた姫が俺たちを可愛がってくれるぞ!!」
遊が偶然に隠れ見たものは幸か不幸か自分の事を血眼になって捜している柄の悪い男たちの姿だった。それは紛れも無く姫の――綾芥撫子の手下の者たちだ。
絶好の機会を逃した撫子は常套手段に切り替えるのと同時にレイダーの逃亡ルートから遊が現実世界で流れ着きそうな場所を予想して周辺の探索を素早く命じていたのだ。
(どうなってるの!? わたし別に悪いお尋ね者にされるようなこと……してるけど! だからって、こんなこと初めてだよ?)
予想外の事態の連続で遊の頭はパニック寸前だった。
いままでも喧嘩の現場を偶然に目撃された警察官や見回りの教師に追い掛けられることはあったがこんな風に不良やチンピラに徒党を組まれて捜されたことは一度も無かった。
これらが綾芥子撫子の反則スレスレの必勝法だとは露も知らない遊にとっては聖山市の誰も彼もが敵に思えてしまうほどのショックであることは言うまでも無かった。
「よく分かんないけど急いでどっかに逃げないと不味いねこれは……は、ハクシュン! うへぇー……お風呂入るかせめて着替えたいよぉ」
事態を呑み込めぬまま、逃亡者めいた立ち位置にされてしまった遊は海水で濡れて冷え始めた疲労困憊の体を引きずって一目散に逃げ出した。
※
その頃、拠点にしているラブホテルのスイートルームに戻った撫子は露出度の高いキャミソール姿でソファーに腰掛けて物思いに耽っていたがその表情は険しいものだった。原因は言うまでもなく、自らライダーとして攻めたにも関わらずいまも生きているレイダーの存在だ。
(落ち着きなさい、姫。状況はこちらが圧倒的に有利なのよ、ここで性急に動けば余計な損害を被るだけ。いつも通りにあの野蛮人も女として痛めつければ二度も逃げられはしないわよ)
目を閉じ、両手を合わせて静かに思考を巡らして自重に努める撫子。
ここに戻るまでに彼女もまたレイダー=喜多村遊という情報や遊の通う高校から喧嘩屋まがいの不良だといった一通りの情報を入手して、倒すべき相手についての入念な分析を行っていた。
結論から言って、ライダーとしての実力は侮りがたいものを持っている遊ではあるが自分の戦術を以ってすれば他愛のない相手というのが撫子が彼女に抱いた所感だった。
ライダーになってからも日が浅く、別の誰かと同盟や共闘関係を結んでいる様子も無く、単純に戦いを嗜んでいる野性動物にも劣る行き当たりばったりの行動をする遊と万全の準備を常に行う自分とでは戦う前から勝負は決まっている。分かり切ったことなのに撫子はあのただ一度の奇想天外な逃亡劇を目の当たりにして胸のざわつきが収まらないのだ。
「そうよ、落ち着いて。姫はやるわ、姫は必ずやれるのよ。姫は絶対に頂きに登りつめて、無双の女帝になってやるんだから」
まるで自己暗示のように強く、強く、自分に言い聞かせて不安を払拭しようとする撫子。そして、自らの願いを口に出して己を鼓舞していく。
綾芥子撫子がライダーバトルの報償として望む願い――それは女帝となって世界を統治することだった。暴君でも暗君でも無い、有能で完全無欠な理想的な指導者たる女帝というものが彼女の最終的な到達点だった。唯一、歪な部分があるとすれば彼女が夢想する優れた世界に置いて雄は全てが女性に隷属する所有物であるということだ。
「足踏みなんでしている暇はないのよ、この
少し、綾芥子撫子という女の生い立ちについて語らなければならない。
彼女は幼い頃から容姿端麗で文武両道な絵に描いたような優等生だった。家族の誰もが彼女を誇らしく思い、愛してくれた。ただ不幸だったのは撫子の生家の価値観の古さが彼女を苦しめ、世界を恨ませた。
綾芥子家は古くからの名家であり、聖山市の市政にも強い影響力を持つ地主の家でもあった。故に家の人間は公務員や市議会委員など上に立つ職務に就くことが当然だった。それと同時にかの一族は時代錯誤なまでに男尊女卑が根を張る家でもあったのだ。
祖母は先祖の威光を妄信して、時代の変化を見るどころか感じることも出来ない埃まみれの骨董品のような人間だった。
母は父の三歩先をついて歩き続けることしか能のない典型的なイエスマンでさながら車輪のついた案山子のような人間だった。
兄は撫子と同等の能力を持つが病弱で優秀な妹を羨むばかりで挑戦をしない枯れ木のような人間だった。
弟は無邪気で可愛く姉を慕ってはいたが容姿も能力も凡庸で哀れなほどに旨味のない出涸らしのお茶のような人間だった。
そして、父は娘のことを愛して、誇りに思いはするも一族の将来を担って行く有能な人材として期待すると言うことが出来ない低俗で貧相な価値観の人間だった。ただ女だと言うことだけで娘の可能性を狭めて、勝手に一族の繁栄のために余所の有力な家柄の息子と結婚させれば十分という程度の付録にしか考えられない狭量で撫子からすれば汚物のような人間だった。
「
「
「お前が男なら何も不満はなかったのに」
いつか、父か臆面もなく自分に言い放った言葉がいまも撫子の脳裏に焼き付いていた。
何故、自分に期待をしてくれない?
そんなにも男であることが重要なのか。そんなにも女であることが枷になるのか。
こんなことは可笑しいと撫子はいつからか、自らの一族に対して憎悪に近い感情を募らせていった。
こんなことが未だに罷り通ってしまう世界は間違っていると撫子はこの世の理に怒りを覚えて、反撃の機会を窺い続けていた。
高校入学直後から聖山市の裏社会に密かに出入りして、時に自らの身体を売ってまで下卑た男たちを下僕に隷属させ始めたのも自分だけの勢力を手に入れて家族達を出し抜くためだった。
そして――。
「こんばんは。私はアリス。貴女の願いを叶える方法と機会をプレゼントするキュートでセクシー。可憐で純情な女の子です♪」
そして、彼女にもまた運命が訪れたのだ。
カースドランと契約して仮面ライダードラクルになった彼女は手始めに猟奇的な殺人鬼の犯行に見せかけて自分の家族達を殺した。
自分のアリバイを入念に確保した上で凄惨に残酷にカースドランにやがて自分の弱みになってしまうであろうお荷物たちを餌として食い殺させたのだ。
「姫は必ず頂点になってみせるんだから。姫のこの夢は何処の誰にも邪魔させない」
揺るぎない覚悟を改めて決めると撫子は立ち上がって行動を再開する。
レイダーだけにかまけているわけにはいかない。ライダーバトルとは無数の個人同士の戦争なのだから、視野を狭めては別の誰かに足元を掬われかねないと他の競争相手たちの捜索にも余念がなかった。
※
「ぜああああ!!」
「おっぶあっ!?」
海水浴場の存在もあり、夏場は特に人が賑わい活気に満ち溢れる凪河区ではあるのだが一度人気のある場所から外れるとそう言う訳にもいかなくなる。
同地区の山中にある廃病院などがそうだ。名前さえも人々の記憶から忘れ去られて、ごく稀に好奇心に駆られて肝試しをする若者が年に何人かいるぐらいのこの場所はついさっきまで無数の男たちの怒声と一色の少女の咆哮が入り混じる狂奔の場と化していた。
いましがた遊渾身の右ストレートが鳩尾にめり込んで昏倒した男の悲鳴を最後に廃病院は再びの長い静寂に包まれる。正確には痛みと疲労で何時もよりも荒く苦しげな彼女の息使いだけが幾年も風雨に晒されて朽ち果てた廃病院を人の気配で慰めている。
「終わった。全く……こんなヤな気分になった喧嘩は初めてだよ」
額から不快感を伴って流れる汗と血が混じった水気を乱暴に右手で拭いながら遊は不愉快そうに毒づいた。彼女の挙動と共にそれなりの大きさのある遊の二つの双丘が無防備に揺れる。
信じられないことだが彼女はいまのいままでスカート一丁の半裸というあられもない恰好で十人以上はいるゴロツキたちと喧嘩を繰り広げていたのである。それだけでも驚愕の事態なのだが乱闘を経たことによって遊の肢体はナイフによる切り傷や打撲に擦過傷に加えて、殴り倒した相手の返り血を浴びて正気の沙汰とは思えない異様なことになっていた。
「人の胸を勝手に揉みしだいてくるわ、服脱がそうとしてくるわ……君たちのやり口がどういうのかってのはよく分かったよ。忙しくなかったら一人二人吊るして人間サンドバックにしてやるのにね」
サイズの合いそうな服をのびている男から適当に剥ぎ取りながら遊は悪態をついた。いつもは滅多なことでは怒りの感情を表情に出さない筈の遊がここまで強張った剣幕を浮かべているのは無理もないことだった。
あの後、結局逃げる途中で綾芥子一派に見つかった遊は次々に湧いて出てくる彼女の下僕を殴り倒しながらもその人海作戦の前にこの廃病院に追い込まれた。
そして、過去の撫子の犠牲者と同じく大勢の男たちに無理やり組み敷かれて遊もまた性的な洗礼を受けそうになった。ただ、そこは常人と色々な意味でズレた遊の感性が彼女自身を助けた。
セーラー服を切り裂こうとゴロツキの一人がチラつかせたナイフを奪い取り、あちこちを引っ張り抑えつけられて身動きが取れない原因である着衣を自ら切り刻んで脱出。そのまま男たちが予想しない形で半裸になった彼女に動揺する隙をついて一気に攻勢に出たのだ。
結果、異性に裸を見られることに対して抵抗のないことも功を奏して遊はかなりのダメージが蓄積され、左肩に大きな怪我を負った不利な状況でもどうにかゴロツキ達を返り討ちにすることが出来たのだ。
「汗臭いけど、しょうがない。うっ……おかしいな。さっきまで寒かったのに今度はまだ熱いままだよ。んーまあ、夏だから暑いのは当然なんだけど……なんか、変だな」
いまは兎に角、一度身を隠して体勢を立て直そうと急ぎ足で逃げ去る気でいた遊だったがおかしなことにふらついた足取りで数歩進んだだけで止ってしゃがみ込んでしまった。遊の顔はボカボカと燃える火のように赤く染まり、目は苦しげに潤んでいる。
彼女本人はまだ完全に自覚出来ていないが戦いで消耗したところに海水で冷えて弱った遊はいま熱風邪を引いてしまっていた。さらに刃物による切り傷が加算されて、遊の全身を不愉快な倦怠感と熱気が容赦なく襲いついにふらふらになるまで悪化してしまったのだ。
「頭まで痛くなってきた? うぇええ……踏んだり蹴ったりだよ」
苦しそうな口調で弱音を漏らしながらも遊はなんとか立ち上がると悲鳴を上げっぱなしの身体に鞭を入れてなるべく急いで廃病院の跡地を離れた。この様子では真っ直ぐ自宅に帰れそうになく、赤心軒や友人の佳奈の自宅に転がり込むのも迷惑が掛りすぎると鈍った思考で考えながらいまの遊は逃げることに全力で打ち込んだ。
それから時間だけが過ぎ去り、夏の空も夕暮れに染まり始めた頃だ。風邪を患って意識も朦朧となるような満身創痍の状態であてもなく逃げに逃げた遊は未だ苦しそうに顔を赤くしながらとある地区の木々の豊富な住宅地の一角に辿りついていた。
「っぁ……これはまずいな。喧嘩で負けて死ぬならまだしも、風邪が原因で野垂れ死にかもだなんて一番わたしに似合ってないじゃん」
両足に力が入らなくなって、遊はどことも知らない路地裏の入り口でへたり込んでしまった。熱と頭痛で割れそうな頭を自棄になって乱暴に何度か振りながら、遊は弱々しく呟く。正直、心身ともにいまの彼女にはここが限界だった。
カースドランにやられた怪我も相変わらず激しく痛み、奪った男物のTシャツに大きなシミを作るぐらいに出血が続いている。戦いとは関係のない場所で力尽きてライダーバトルからも退場すると言う最悪のシナリオが脳裏によぎったそんな時だった。
「遊ねえちゃん? そんなところでなにやってるの?」
「……アオくん? なんで?」
聞き覚えのある声が頭の上から降ってきたのでぼやけた意識で遊が重々しく視線を向けるとそこには酷い恰好をした自分を心配そうに見つめる葵がいた。
「ボクは図書館で夏休みの宿題やった帰り道だけど……遊姉ちゃん、肩のそれ、血が出てるんじゃ?」
「えらいねー優等生。あれ……ってことはここって孤児院の近所?」
「そうだよ。秘密の近道だから施設の子供しか知らないけどね。そんなことより、遊姉ちゃんこそ大丈夫なの?」
「わたしのことは平気へーき。ちょっと厄介な人たちと喧嘩して追っかけられてるだけだから」
「それ、すっごくマズイことじゃ!? ウチに来て先生たちにお巡りさん呼んでもらおうよ。怪我の手当てもしないと」
「それはダメ。わたしの問題でみんなに迷惑はかけられないからさ。ホント、ちょっと休憩しているだけだから。アオくんは気にせずに暗くなる前にお家に帰りな」
「でも……! じゃあ、遊ねえちゃん。孤児院じゃなきゃいいんだよね? もっとちゃんと休めるところがあるから一緒に来て」
じんわりと赤黒い染みが広がる遊の左肩を見て、血相を変える葵。そんな彼を安心させようと遊は空元気に振舞ってみるが歳の割にしっかりしている葵の前ではそんな誤魔化しは無意味だった。
堅気の人たちを巻き込むわけにはいかないと意地になって詳しい事情も話そうとしない遊を不安そうに見つめる葵。彼はしばし思い悩んだ後、いつもの陽気で自分たちに優しくしてくれる遊の弱り切った姿を前にして、何かを強く決心すると遊の熱く汗ばんだ手を取って、ある場所へと案内し始めた。
「ここならボクたちに迷惑とか考えなくてもいいでしょ?」
ふらついた足取りで遊が葵に連れてこられたのは孤児院の裏手から少し離れた雑木林にある簡素な小屋だった。電気も水道も通っていない、ホームセンターにあるような物置の方が立派にも思えるような作りではあるが室内には使い古したクッションやくたくたになった漫画雑誌などが散乱している。
「これどうしたの? ワクワク気分全開な感じじゃない」
「ボクたちの秘密基地だよ。近所の大工さんやってるおじいさんが余った材料分けてくれて一緒になって作ってくれたんだ。まだみんなで改造途中だけどね」
「ありがとねアオくん。それじゃあ、ちょっとだけここで休ませてもらうよ」
ここならドラクルの手下たちにも見つかり難いだろうと考えた遊はお言葉に甘えて葵たちの秘密基地を使わせてもらうことにした。
秘密基地の中はつっかえ棒式の窓こそあるが空調などもないので外とそれほど暑さも変わらないが屋根のある場所と言うだけでも随分と精神的に安心できるものだ。
重ねて、木の壁にはありあわせの材料で建てたからか、隙間が目立ちそこから適度に風が流れ込んでくるので息が詰まるような蒸し暑さとは無縁そうだった。
「待っててね! 救急箱か何か取ってくるよ。そういえば、遊ねえちゃんお腹空いてない?」
「アオくん、気持ちだけで十分だよ。みんなの大事な場所を使わせてくれてありがとね。わたしは好きに休んで落ち着いたら、すぐにどっか行くからもう心配しないで」
「イヤだよ。だって、そんなつらそうな遊ねえちゃん見たくないから……ボクが戻ってくるまで絶対どこにも行っちゃダメだよ。ほら、指切りして」
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる葵に感謝しながらも、万が一彼に危害が及ぶことを望まなかった遊ではあったが熱で本調子になれないこともあって、ついつい押し切られてしまう。気付けば葵と指切りげんまんを結んでしまいしばらくの間は一人で横になって身体を休めることに専念するしかなかった。
「わたし……さっき、ホントに自分以外の
木の香りが強い小屋の天井を見つめながら遊はまだ熱で浮ついた意識の中でぽつりと呟いた。一人きりの落ち着いた時間が手に入ったことで遊の胸中では色々な思いがふつふつと湧きだし始めていた。
本格的な戦闘ではないにしろ、ほんの数時間前に自分は確かに赤の他人――それも同世代、同性の人間と命を懸けて戦いを繰り広げたのだ。喧嘩ではない、正真正銘の殺し合いだ。
「当たり前だけど、モンスターなんかよりもずっとずっと手強くて、何よりも殺気が段違いだったなあの子……すごかったな。わたしにもできるのかな?」
訪れる静寂。
遠くでは蝉の鳴く音が聞こえるし、風が吹けば雑木林の木々がざわめいて決して無音という訳ではないが遊の思考かバッドコンディションな体調とは裏腹に研ぎ澄まされていくようだった。
だからこそ、意識して向き合わざるを得なかった。
いま一度、遊は自分自身に問わねばならなかった。
自分は喧嘩という領分を飛び越えて、仮面ライダーとして人を殺すことが出来るのかと?
「ムフー……ライダーって思ってたよりも面倒臭いな」
いろいろと考えて、思わず遊の口から本音が漏れた。
誰かの大切な家族を奪ってしまったらどうするのだろう?
罪に問われないとはいえ、本当に自分じゃない誰かを殺すことは出来るのだろう?
どちらかが倒れるまで殴り合って、スカッとしてそれでお終いないままで彼女が嗜んできた喧嘩と違って、勝敗がそのまま生死に直結するライダーバトルはこうして一度経験してみて、遊にとって不慣れなことが存外に多かった。
「殺しちゃったら、気に入った相手とまた喧嘩できないのも悩ましいんだよね。でも、手加減したら嫌われて、喧嘩に誘っても無視されるかもだしなぁ……参ったなぁ」
ただし、感性が常人と様々な部分でズレがある遊にとって最も悩めるポイントは自分が罪を犯すことへの葛藤というよりももっと、個人的な欲求に関する事柄ではあるのだが、そんなことを一人で悶々と考えていると遠くの方から子供の足音が聞こえてきた。
「ハァ……ハァ……おまたせ遊ねえちゃん! あんまり良いものはないけど、持ってこれるだけ持って来たよ」
元気よく扉を開けて戻って来た葵は水の入ったペットボトルやらガーゼなどが詰め込まれたリックサックを背負っていた。孤児院の職員や他の子供たちの目を盗んでこっそりと手に入れただけあって、その品揃えはとてもまばらだ。
「にはは。本当にいろいろ入ってる。いまから冒険にでもいけちゃうね♪」
「もう、遊ねえちゃん! 体力が赤ゲージで冒険に行く人はいないでしょ?」
「そりゃそうか。アオくん……ありがとね」
葵の健気さがくすぐったくて、ついおどけた態度を取ってしまう遊だったがそれでも自分を心配して真剣な眼差しを向けてくれる彼にキュッと口元を結ぶと心からの感謝を伝えた。
何はともあれ、葵が持って来てくれた包帯とガーゼ、それに消毒液で左肩を始めとしたあちこちに負った傷の手当てをすることが出来た遊の身体はいくらかマシになった。
それから、葵が孤児院から拝借してきたバナナや近所のコンビニで買ってきてくれた菓子パンをペロッと平らげた遊は人心地ついた様子で顔色も少し良くなっていた。
「はぁー生き返ったよ。アオくんは命の恩人さんだねー」
「おおげさだよ、遊ねえちゃん。でもよかった……遊ねえちゃんが笑ってるの見るのボク大好きだもん」
いつもの良く知る遊が戻って来たのを空気で感じ取ったのか葵の態度もどこか緊張してよそよそしかったぎこちなさが消えて、自然なものへと変化していった。ストレートな好意を伝える言葉もそれゆえに出たものだろう。
「こらこらー男の子がそんな簡単に女の子に大好きだなんて言っちゃダメだよー」
「なんで? ボク、カノジョにするなら遊ねえちゃんみたいな人がいいな。楽しいし、優しいもん」
「にはは。おませさんめ。いいかい? そういうのはねえ、学校や同じクラスにいる気になる女子相手に使いなさ……は、はーくしょん!!」
「うわっ!? だ、大丈夫?」
微かに流れた甘酸っぱい雰囲気は遊の特大のくしゃみで吹き飛んでしまった。
ビクッと肩を跳ねて驚いた葵だったが彼はたははと笑って謝る遊がまだ微かにだが震えているのを見逃さなかった。
「ごめんごめん。逃げる途中で海に入ったりとかもしたからちょっと冷えちゃったかな? ま、夏だし問題ないでしょ?」
「そんなわけないよ。夏風邪拗らせちゃうよ遊ねえちゃん……よ、よし。じゃあ、これでどうかな?」
「ふわっ? アオ、くん?」
怪我以外にも顔を赤くして見るからに体調が悪そうな遊を見かねた葵は少し勇気を出して優しく包み込むように両腕で抱きしめた。
「昨日、遊ねえちゃんもボクにやってくれたでしょ? ちょっとは楽になるかな?」
「うん。とっても、気持ちいいよ」
幼い胸板で抱かれるような姿勢になっているので葵の顔は窺えないがとても優しい声が遊の耳元に届いてくる。夏の暑さとはまるで違う人肌のぬくもりは家族を亡くして久しい彼女には懐かしいものだった。
小さな子供の葵に抱かれて、遊は夢心地のような気分だった。
彼の体温が全身を蝕んでいた不快な悪寒を治してくれているようで。耳元から伝わってくる少し駆け足な胸の鼓動がすり減って疲れ果てていた心を癒してくれているようで。
この安らかで気持ちの良い熱さにどこまでも底なしに自分を委ねてしまいたいくらいだった。
「どう? さっきよりも気分は良くなった?」
「……」
「遊ねえちゃん?」
「くー……かー……」
遊のことを抱きしめてあたためること数分が経った頃、あまりにも静かなことを心配して葵が声を掛けると返ってきたのは呑気そうな寝息だった。
葵の無垢で誠実なぬくもりが相当気持ち良かったのか遊はそれまでの疲れもあり、思わず彼の胸の中で寝入ってしまっていた。
「あのね、遊ねえちゃん。このあいだ教えた秘密のことなんだけどさ」
すると眠る遊のことを抱きしめたまま葵はふと口を開いた。
「このあいだの夜に鏡の中に出てきたあの仮面の人が……もしかしたらお姉ちゃんだったんじゃないかなって」
言葉を交わしたわけではない。
一方的に声を掛けられただけのやり取りだったが葵には姉弟の絆から直感でそれが分かっていた。分かってしまった。
「あの人はボクに幸せなことが起きるよって言ってたけど、だったらボクはお姉ちゃんと一緒ならそれで十分幸せなのにさ……どうして、あれからちっとも会いにきてくれないのかな?」
それは答えが欲しくて声に出した言葉ではなかった。
けれど、まだ小さな子供の葵が胸の奥で仕舞い込み続けるには余りにも辛い、重たい言葉だ。だから、どこかに吐き出したかった。
例え、眠っていようとも信頼して心を許せる遊がいるこんな時でなければ打ち明けることが出来ない切なる言葉だった。
「会いたいよ……お姉ちゃん」
それから葵は眠る遊を抱きしめたまま空が青黒く染まり、星が瞬く頃になるまで堰が切れたように唯一の肉親である姉への慕情と恋しさを声に出して漏らし続けていた。
彼の腕の中で遊は密かに一度は開いた瞼を再び閉じるとそんな想いが詰まりに詰まった言葉にずっと耳を傾けていた。
※
「ふぁあぁぁ……よく寝たぁ。うん……頭もすっきり。それに……」
あれから、葵の抱かれたまま大胆にも二度寝した遊は真夜中の頃に目を覚ました。
微かに月明かりが差し込む秘密基地の中で手を探ると葵が置いていったのかペンライトを見つけて部屋の中を照らす。
遊の身体にはタオルケットが掛けられていて、枕元には明日の朝また来ると葵の書置きまであった。本当に小さいのに気配り上手な子供だと遊は苦笑しながら自分の体調を確かめる。
「やっぱり、軽い傷はもう治ってる。肩の怪我もたぶん手術しなきゃいけないレベルだったのに……この治りの良さは異常だよね」
眠っている間に熱の方は引き、さらに腕の包帯を外すと比較的浅い傷はもう既にほぼ完治している状態にまで回復していた。遊でも首を傾げるほどの変異である。けれど、その原因と思われる要因は至極分かり切っていた。
「ライダーになるってことは身も心も人間やめるってことかな」
カードデッキに秘められた持ち主に作用する驚異的な回復機能。
管理者であるアリスと一握りのライダーたちだけが知る隠された力を遊は本能的なもので察知した。そして、同時に一つの独自の結論に思い至る。
「願いのためならどんなことだってやれる生き物……なるほど、確かにそれはバケモノって言っても間違いじゃないよね」
人間は法律と理性と言う、見えないし形もないルールの中で生きている。
野に生きる動物たちもそれぞれに習性があり、掟がありこれらもまた不可視の決まり事を守って暮らすことで多くが共に生きている。
ならば、確かに何を犠牲にしても悲願を叶えたいという目的で争う自分たち仮面ライダーは全ての秩序から逸脱した新種のバケモノと定義しても無理はないだろうと遊は自ら考え、自らで納得した。
そして、バケモノなのだからこうして気が付けば常人よりも傷の回復が速くなるような異変が生じても案じることではないと出鱈目な理論立てを行うとずっと悶々としていた葛藤への答えを導き出す。
「にはは! なんだ
あまりにも簡単に、あまりにも単純に、誰かを殺めると言う罪への躊躇いを解決してしまった遊は久しく出来なかった満面の笑みを浮かべて夜空の月に向かって喜び吠えた。
「まだハロウィンはかなり先ですよ、いつからオオカミ女さんになったんですか遊ちゃんは?」
喉奥に引っ掛かった魚の小骨のような悩みが解決して、意気揚々としていた彼女の元に純粋さと妖艶さを併せ持った少女の声が聞こえたのはそんな時だった。
月明かりに照らされる雑木林にひとつの影が現れるとアリスが浮上した。
「おや、アリス?」
「一時は大ピンチのようでしたが紙一重で持ちこたえましたね。えらい、えらい♪」
「うえっ!? なんでそんなこと知ってるのさぁ?」
「それはもう、アリスちゃんはお仕事熱心なライダーバトルの敏腕有能管理者ですので皆様のモニタリングはバッチリです」
「わたしが必死になって逃げ回ってるのをコーラ片手に映画みたいなノリで観戦してたのかい? 今度はチケット代請求しちゃうからね」
何食わぬ顔で自分はそちらの状況を把握していると切り出してくるアリスに遊は隠すことなくげんなりした顔を浮かべて見せた。遊としてはこういうタイプには下手に不慣れな誤魔化しなんてするよりは小細工抜きの自然体で接した方が気持ちが楽だという考えである。
「残念♪ アリスちゃんはライダーバトルに関しては年間フリーパスを持っていますので既に見放題なのです。と、おふざけはこれぐらいにして……遊ちゃんはいま揉めてる相手とどうするつもりなんですか?」
「揉めてる相手ってあのドラクルとかいうライダーこと言ってる?」
「ええ、そうです。ライダーバトルは別にトーナメント方式という訳ではありませんからね。逃げても良し、誰か味方を引き入れて袋叩きにしても良し、無視して違う相手を探すのも良しのバトルロワイヤルですから」
「それはもちろん――大喧嘩するに決まってるじゃん♪」
意味ありげなアリスの問いかけに遊はお腹をすかせた獣の笑みを見せて、ヤる気満々の意思表示を見せた。そんな彼女の予想通りの答えに妖しげな笑みを浮かべて意外な言葉を投げかけた。
「ドラクルちゃんの居場所、教えてさしあげましょうか?」
※
翌日のことだ。
ニュータウン化が目覚ましい月見区の華やかな街並みを綾芥子撫子は周囲の雑踏に混じって歩いていた。ヘアカラースプレーを落とした黒髪にメガネの表向きの姿で向かうのは自宅のあるタワーマンションだ。
世間的には家族を残酷な殺人鬼に殺された悲劇の才女として通している撫子である。昼夜を問わず聖山市の裏側で暗躍したいところだが二重生活を送る上で拠点であるラブホテル暮らしばかりするわけにもいかずに適度な回数はこうして善良などこにでもいる女子高生を演出しなければならなかった。
「チッ……どこに消えたのかしらあの野蛮人」
一人になったエレベーターの中で撫子は苛立った様子で爪を噛みながら言葉を漏らした。下僕たちが廃病院で撃退されたのを最後に遊の消息が途端に掴めなくなったのがイライラの原因だった。
逃げる途中でモンスターか他のライダーの襲撃にあって命を落としたのであれば問題はないが撫子に限ってはそんな都合の良い展開が早々あるわけないと早々に考えていたしかし、手傷を負わせながらここまで獲物が見つけられないと言うのも初めての経験だった。
再びレイダーを見つけ出して今度こそ必ず仕留めるか、諸々の損失が口惜しさを呑み込んで別の相手に切り替えるべきか大きな判断を決めなければならないと眉間に皺を寄せていると目的の階に到着したベルが鳴った。
エレベーターの扉が開くと同時に撫子は偽りの笑顔の仮面を貼り付けて、すれ違う他の住人達に愛想よく挨拶を交わしながら自宅のドアの鍵を開けて中へと入った。
「ただい……っ!?」
返事を返してくれるはずの家族を自らの手で葬っておきながら、無意識にその言葉を言いかけて撫子は自宅の異変に気付いて固まった。
部屋の奥で何かの音がするのだ。恐らくはエアコンか何か家電製品の駆動音だろう。確かに鍵を掛けてあったこの部屋に自分ではない誰かがいる。
撫子は素早く考えを巡らせた。一度部屋を出て、腕っ節の強い下僕の誰かを呼び寄せるべきかとも。しかし、彼女の高すぎるプライドが自分以外の誰かに弱みを見せることを受け容れられなかった。その上、鍵を開ける音が聞こえた以上は奥にいる何者かは自分の帰宅に気付いただろう、ならば逃げることもできない。誰かは知らないが簡単に逃げ出すなんてことは彼女自身が許さなかった。
「誰か知らないけど、ふざけた真似をして!」
即決即断した撫子は用心してデッキを構えながら奥のリビングへと続く廊下を駆けると勢い良くドアを開け放った。そこには完全に撫子の想定外の人物がいたことに彼女は愕然とする。
「おかえりー! また会ったね、君がドラクルだったか」
「レイダー……いいえ、喜多村遊」
キンキンに冷えた快適な空間のリビングにはまるで風呂上りのようなラフな格好の遊が革張りのソファーに座っていた。まるで我が家のように寛ぎながら、ビックサイズのアイスクリームをパクついていた彼女は血相を変えて飛び込んできた撫子を見て、不敵な笑顔で出迎えた。
「人の家で随分と勝手な……」
「いやぁ誰かさんのお陰で昨日は大変な目に遭ったよ。悪いけど、勝手にお風呂使わせてもらったよ。あんな広い浴槽あるんだねえ、極楽だったよ」
「なんのつもり?」
初めて生身の姿で相対する遊と撫子。
いつぞや偶然出会った真面目そうな他校の生徒が仮面ライダーだったことには多少の驚いた様子の遊だったがすぐに気持ちを切り替えると両者の間には張り詰めた緊張の空気が流れた。
額に青筋を浮かべて恫喝する撫子に対して、いつもの人懐っこい態度で飄々と喋っていた遊は急に立ち上がって真顔になったかと思うと目にも止らぬ動きで力強く踏み込んだ。
「――ぐえっあぁ!?」
「これは君のお仲間にお世話になったお返しってことで!」
撫子は自分に何が起こったのか一瞬わけが分からなかった。
腹部から伝わる激しい鈍痛。身構えることも出来ない間に鳩尾に殴り込まれた遊の拳を受けて撫子は後ろに吹き飛ぶと大きな音を立てて壁に叩きつけられた。
「うぷっ……おげえええ!!」
当たり所によっては大の大人でも昏倒させるの遊の鉄拳を生身でまともに食らった撫子は脂汗を浮かべながら溜まらずその場で嘔吐した。綺麗なフローリングの床が彼女の吐瀉物で汚れていく。
「ありゃりゃ。意外と脆いんだねえ? ドSさんは打たれ弱いってのは都市伝説じゃなかったかな?」
「ど……どうして」
「んー?」
「どうして、あんたが私の家を知ってるのよ。いや、例え知れてもどうやって密室の部屋に侵入できるわけ!?」
思った以上にダメージを受けている様子の撫子にその気になっている遊は驚くリアクションを見せるが憐みも罪悪感も持っていない様子だ。それに対して、乱暴に片手で口元を拭いながら撫子はこの予期せぬ侵入者に理解し難い疑問の数々をぶつけた。
「よくぞ聞いてくれたね。ほらこれ見てよ! 君にやられたのを教訓に用意してみたんだけど、面白いぐらい想像通りに上手くいってさ。これでいつでもどこでも変身して喧嘩し放題だよ。まあ、ここを知れたのは完全に可愛くて素敵なラッキーガールのお陰だけどね」
そう言って遊はどこから手に入れてきたのか歪な円形の鏡の破片を取り出した。
得意げに語る彼女を見て、未だに痛む腹部をさすりながら撫子は忌々しくも納得した。確かにああやって媒介となる鏡を携帯していれば変身やミラーワールドへの出入りに不便はしない。しかし、それは言い換えれば常にミラーモンスターの襲撃に遭う危険性が伴う極めて命知らずな行為だ。
そして、もう一つの疑問。そもそも何故、遊がこちらの素性を知っているのかという謎も彼女の背後にある電源の入っていないTVの黒い画面に映り込んだ黒髪の少女の存在で明らかになった。
「お前……お前かアリス! このクズ運営がああ!! 何がペナルティは与えないだこのえこ贔屓女めッ!!」
白々しくほくそ笑むアリスに撫子は豹変したように殺意に満ちた怒声を上げた。そんなビリビリと大気を震わせるような罵声を飛ばして怒る撫子とどこか惨めな姿にアリスは隠すことなくわざとらしく黒い笑みを浮かべて喋り始めた。
「人聞きの悪いこと言わないでもらえます。私は別に撫子ちゃんに罰を与えたわけじゃありませんよ? 遊ちゃんにご褒美を上げただけですので♪」
まるで出来の悪い馬鹿な生徒を慇懃無礼に指導する女教師のようにアリスは人差し指を立てて、撫子に言い聞かせる。
「だって、そうでしょう? みんなで楽しくサッカーをやっているのにラグビーのルールを持ち出してくるような勘違いちゃんと清く正しく理想の戦い方でゲームを盛り上げてくれる優良プレイヤーとを比べたら、どっちにサービスするのかなんて決まってるじゃないですか?」
「まあ、安心しなよ。今日はいまの一発意外に君を攻撃するつもりはないからさ」
「は……?」
今すぐにでもTVの画面を叩き割ってあの性悪女を引き摺り出して、半殺しにした上でそのへんの野良犬にでも犯させてやりたい気持ちだった撫子だがすぐ隣にいる遊の存在がそれを阻んだ。
なんとかこの状況を打破する策を思案していると肝心の遊の方が先に思いもよらない言葉を言い放ってきた。
「正々堂々と二人で思いっきり喧嘩して白黒つけようって言ってるのさ! ほい、この紙に集合場所書いといたから」
言うよりも早く遊は蹲ったままの撫子の目の前に一枚のメモ用紙を放り投げる。
紙には彼女が決闘場として選んだ沼田区にある廃工場の地図と時間が書かれていた。
「最高の喧嘩をしようじゃないか! それとも、お姫様は一人じゃなにもできないのかな? なんてね、にはは!!」
「な、ん……ですって」
「そいじゃ、またね。お邪魔しましたー」
珍しくあからさまな挑発を吹っ掛けて撫子と焚きつけると遊は陽気な笑い声を残して足取り軽く綾芥子宅を去っていった。
嵐のような来訪者にまんまと一杯喰わされた撫子は遊の気配が完全に消えてからゆらりと立ち上がるとわなわなと震える両手を目一杯に握り締めた。
「この姫が……一人じゃなにもできない? くふ♪ くはははは! 馬鹿にしてェエエ!!」
火山の噴火を思わせる怒りの叫びを部屋中に響かせて、撫子はやり場のない怒りを白い壁が自分の拳から滲む血で真っ赤になるまで叩いて、叩いて、叩き続けた。
管理者であるアリスの介入こそ予想外ではあったがそれを差し引いても下等な野蛮人と見下していた遊に自分の必勝の策を覆されたことを筆頭に思惑の全てをここまで狂わされたことが彼女にとっては耐え難い屈辱だったのだ。
「フー……フー……姫は大きな勘違いをしていたようね。あの女はそもそも人じゃなくて、薄汚い獣だったのよ。それなら辱しめるなんて方法確かに無意味だったわね」
自らの内に溜まりにたまった激情を放出して、落ち着きを取り戻した撫子は抑揚のない口調で滔々と呟きはじめた。その瞳は一線を越える覚悟を決めた狂人のように濁っている。
「姫の統治する世界にあんな獣はいらない。ここで必ず駆除してあげるわ」
撫子は遊を取るに足らない雑魚から、必ず葬り去らねばならない不倶戴天の敵と改めると完勝するためにやらねばならない儀式を思い立ち下僕の中でも一番の側近に電話を掛けた。
「一時間以内に姫が飼っている
一方的に会話を切り終えた撫子は鬼気迫る剣幕で自らも拠点にしているラブホテルへと向かった。奇しくもこれから行われる二人のライダーによる決闘は撫子にとっても初めてとなる正々堂々、真っ向勝負のサシの戦いでもあったのだ。
「くふ♪ 悦びなさい、カースドラン。いまからアナタと姫を一気に強くしてあげるわ」
※
翌朝、二人の決闘場となる廃工場の入り口には既に遊が撫子の到着を今かいまかと待っていた。あれからゴロツキたちの襲撃もピタリと止んだため、食事も睡眠もバッチリの遊は最高のコンディションで闘志を高めていた。すると沼田区の市街地からこの廃工場を結ぶ一本道から別の誰かの気配が近づいてきた。
「待たせたわね。喜多村ちゃん」
「お! 案外早くきたねぇええ!? え、なに? 車にでも轢かれてきたのかい?」
聞き覚えのある撫子の声に何となく別の方角を眺めていた遊は彼女の異様な姿に思わず驚きの声を上げた。恐ろしいことにいまの撫子はピンクに髪を染めた姫モードの状態でどういうわけか全身に夥しい返り血を浴びた凄絶な姿をしていたのだ。
「貴女が気を揉む必要はないわ。ちょっとね、姫の可愛いカースドランに景気付けにたっぷりごちそうしてきたのよ」
「もしかして……君の手下くんたちをご飯にしちゃったわけ?」
「あら、ご明察♪ だっていいでしょう。あんなカス共の命なんて別に」
他のミラーモンスターや人間の魂を食らわせることで仮面ライダーは自らの契約モンスターを強化できる。それはひいては自らのステータスアップにも繋がっていく重要な行動だ。そして、撫子はその餌となる魂を手っ取り早く稼ぐために何の未練も躊躇いも無く自分の手足となって働くゴロツキ達を一カ所に集めて生贄のようにカースドランに喰わせていた。
如何に女尊男卑の考えを持つとはいえ余りにも良心や常識をド返しした撫子の振舞いに流石の遊も言葉に詰まった。複雑な顔で遊が撫子を睨んでいると昨日とは逆に彼女の方が口火を切った。
「あら? 貴女でも絶句することがあるのね。丁度いいわ、早くやりましょうよ? 姫たちに無駄な言葉なんて要らないでしょう?」
「……には! そうだね、そうだったよ! じゃあ、やろう!!」
お互いに妖艶な笑みと爛漫な笑みを浮かべた二人はデッキを取り出すと肩を並べて廃工場の敷地内へと進んでいった。もう、両者の間に会話は無く殺意と闘志がバチバチとせめぎ合っている。
「「変身!!」」
錆ついたカーブミラーの前で遊と撫子はそれぞれ気合を込めた構えを取ってデッキをベルトに装填する。騎士の鏡像が幾重も彼女たちに重なって二人は仮面の戦士へと変わる。
勢い良く突入したミラーワールドの廃工場にて、ついに二人は雌雄を決する時を迎えたのだ。
「楽しくておかしくなりそうだよ! やっと君と気持ちよく殴り合えるんだからさ!!」
「姫も嬉しいわ! 姫の覇道を卑しくも邪魔する害獣を駆除できるんだからねえ!!」
深緑の狂戦士・レイダーと白亜の悪竜姫・ドラクル。
二人は狂奔の叫びを上げて目の前の敵を屠るために駆け出した。
【SWINGVENT】
爬虫類の舌を模したネバついた鞭・カースホイップを召喚して振るうドラクルだが敢えて無手で肉薄してきたレイダーが一歩早く攻撃を掻い潜って間合いに侵入してきた。
「うおりゃあああ!!」
やる気に満ちた叫びを上げながらレイダーの渾身の拳が景気良く乱発されていく。その破壊力を昨日その身を以って味わったドラクルはカースドランの頭部を模した大きな籠手型のバイザーを盾のように扱い防御に徹する。
「どうした! どうしたぁ!? 埠頭の倉庫でやった時はこんなもんじゃなかったでしょうに!!」
「そうね。じゃあ、こういうのは如何かしら!!」
ドラクルはレイダーの拳を防ぎながらバイザーを押し出して一時的に彼女の視界を遮った。その隙にカースホイップを無防備になっていたレイダーの足首に巻きつけると思いっきり引っ張った。
「ホラホラホラ!! 貴女の方こそだらしないんじゃなくて?」
「ぐおわぁっ!?」
足の自由を奪われて、無様にすっ転んだレイダーをドラクルは見た目からは想像も出来ない腕力を見せつけてハンマー投げのように振り回すと何度も乱暴に鉄柱やコンクリートの床に叩きつける。
「ムフー! いいね、いいねえ!! そうこなくっちゃ大喧嘩の意味がないよね!!」
【STRIKEVENT】
相当に大きなダメージを受けているはずのレイダーだが強い相手と戦えることへの僥倖がそのまま活力へと変換させているように歓喜の声を上げながら、振り回されている状態で両腕にガッツナックルを召喚して装着する。
「狙い撃ちだぁ!」
「ぎゃう!? これぐらいで!」
再び鉄の柱に叩きつけられた瞬間にレイダーは片腕で柱にしがみついてその場に止まると間髪入れずに右拳のガッツナックルをロケットパンチとして発射した。
大砲のような一撃を受けてドラクルは後ろに転がり、カースホイップの拘束が解けるもすぐに立ち上がった彼女は迫るレイダーを打ち据えようとピンクの鞭を鋭く振るう。
「それがどうした! だぁああありゃりゃりゃりゃ!!!!」
大気を裂いてドラクルの鞭がレイダーの体を打つ。肉が裂けるような痛みが彼女に襲い掛かるがレイダーは左のガッツナックルを盾代わりに真正面から鞭の洗礼を突っ切ると意表をついたローリングソバットをドラクルの腹に蹴り込む。
更に予期せぬ一撃を受けて、くの字に体勢を崩したドラクルの片手を掴んで捕らえるとその顔面を自由の効く左の拳で猛然と殴りまくる。
「あがあああ!? なめ……るなぁあああ!!」
【SHOOTVENT】
雪崩の如き無慈悲な暴力の応酬に一瞬意識が飛びそうになったドラクルだが圧倒的な克己心で踏み止まると殴られ続ける顔面を自ら振ってヘッドバットをレイダーに浴びせた。
堪らずレイダーが後ずさった好機を活かしてドラクルもカードを引き抜いて恐竜の尾のような複合武装カースアームズを右腕に装着する。
「シャアアアア!!」
至近距離から気迫に満ちた声を上げながらレイダーに銃弾を浴びせまくるドラクル。しかし、連射性に富む反面、一発の威力は低いカースアームズの銃撃では決定打にならないのは先の戦いで二人とも把握済みだ。
「こんな豆鉄砲何発食らったって問題なーし!!」
「ええ、でしょうね。でも、やっぱり馬鹿はバカね!」
「むっ……っ痛ぁ!?」
尻尾のような銃口から吐き出される弾丸を物ともせずに前進するレイダーだったがドラクルは何を思ったのか相手が近距離の間合いに入り込んだ瞬間に銃撃を止めて、カースアームズを逆袈裟に振るう。するとレイダーの片腕が切り裂かれて鮮血が散った。
それは銃剣型武器であるカースアームズの尻尾を模した鈍器に見せかけた銃身に秘められた隠し刃の仕業だった。
「クッ……ただの銃じゃなかったのか」
「くふ♪ 銃剣というものよ。今更学習しても手遅れでしょうけどね!!」
「いいいいぃだだだだーー!?」
レイダーの優勢を覆して、今度はドラクルが激しい攻勢に転じる番だった。
斬撃と銃撃を巧みに切り替えながらジリジリとレイダーを押し返すと先日深手を負わせた左肩の傷口を重点的に狙って執拗な攻撃を仕掛けまくる。
「卑怯とは言わせないわよ……観念して、姫のために死になさい!!」
「やだね! 君でこんなに強いんだ。きっともっともっと強いライダーが山程いるんでしょ? そんな最高の喧嘩相手たちを目の前にしてあっさり死んでやるもんか!!」
「ナチュラルに姫を下から数えてるんじゃないわよ!! キイイイイエエエエ!!」
仮面の奥で脂汗を垂らしながら、この強敵を打ち破った向こう側で待っているまだ見ぬ好敵手たちに胸を躍らせるレイダー。そんなレイダーの悪意のない的確な煽りに逆鱗を触れられたドラクルは怪鳥音のような奇声を上げて、より激しい斬撃を繰り出していく。
堅牢で分厚いレイダーの装甲もとっくの昔に傷だらけでボロボロになっていた。とはいえドラクルの方もおぞましさを醸し出す白い装甲は汚れて無残な有様である。
【NASTYVENT】
「出し惜しみは無しだ! よろしく相棒!!」
一進一退の熾烈な激闘を繰り広げるレイダーとドラクル。
先に大きな賭けに出たのはレイダーの方だった。右半身で攻撃を凌ぎながらどうにかカードをバイザーにセットすると頼れる相棒を戦場に呼び出す。
『ウホォワアアアアア!!』
「いぎ! ああああ……あぁっ!?
コンクリートの壁をぶち破って戦場に参戦したガッツフォルテは主に猛攻を加えるドラクルへ激しいドラミングから発生する衝撃波を浴びせた。
両手で仮面の上から耳元を押さえて悶え苦しむドラクルの背後にレイダーはすかさず入り込むと両腕を回した。
「どっせええええい!! 沈めええええ!!」
「ガッ……ハッ――!?」
美しいアーチを描いて炸裂したジャーマンスープレックスで地面に叩きつけられたドラクルは確かに意識を失った。だが自分が堅いコンクリートの床に叩きつけられる寸前にバイザーにカードをセットすることを完遂させきったのは流石の執念だった。
【ADVENT】
「!? 来るよ、相棒! 気をつけて!!」
【ADVENT】
相手のバイザーから流れた電子音声に先の地獄のような体験を思い出したレイダーはやむなくぐったりと倒れたドラクルから離れて、自身もアドベントのカードでガッツフォルテを続投させると周囲を警戒する。
張り詰める緊張と不気味に続く無音。こうしている間にドラクルが復活してしまうと僅かにレイダーの石木がブレたその時だった。
『カロロロロロ――!!』
「ちょっ、おわ――!?
なんとカースドランは口から吐く毒液で地面を溶かしながら地下から襲撃を仕掛けてきたのだ。不意打ちの重い尻尾の一撃を受けたレイダーは人形のように吹っ飛んで廃棄されていた鉄製の棚に突っ込んでしまった。
契約者を襲われたガッツフォルテが怒りに燃えてカースドランに飛び掛かるが短期間で大量の魂を食べて強化されたいまのカースドランのと戦力差は明白だった。
『カロロロロ――!!』
『ホワァアアアア!?』
工場内では怪獣映画さながらの巨体VS巨体の大激戦が繰り広げられていた。カースドランはガッツフォルテの格闘攻撃を歯牙にもかけずに体当たりをぶちかますと怯んだところを容赦なく噛みつきを決めてくる。
右腕を噛みつかれたガッツフォルテは苦悶の叫びを上げながら哀れにもカースドランに振り回されて瞬く間にボロボロにされていく。
「ぐうっ……やばい! 相棒になにすんだこのトカゲ!!」
棚の下敷きからなんとか抜け出したレイダーは窮地に陥ったガッツフォルテの元へと大慌てで駆け出す。純粋に相棒の身を案じるのもそうだが先にガッツフォルテに斃れられたら、それはレイダー自身の能力も喪失することになる一大事だからだ。
残っていた右のガッツナックルを上手い具合にカースドランの右目に直撃させたレイダーはガッツバイザーを片手に左目も潰してやろうと跳び上がった。
「本当にバカな女ね」
「ぐわあっ!?」
しかし、レイダーはカースドランを殴る前に横からの射撃で撃ち落とされてしまう。魔の悪いことに昏倒していたドラクルが意識を取り戻したのだ。
幸いにもガッツフォルテの方は疲弊しながらもなんとか持ち直して、正面からは勝ち目のないカースドランに対して瓦礫の投擲を駆使した遠距離戦を開始している。賢い相棒を信頼して、レイダーは目の前の難敵に改めて意識を向ける。
「モンスターなんて他に幾らでもいるのだから見切りをつけて姫を狙っていれば勝てたのにね」
「残念だけど、わたしは君と違って友達や相棒を大事にする主義だからさ」
「友達ねえ……くふ♪ くふふ、くはははは!!」
千載一遇のチャンスを棒に振ったレイダーを嘲笑うドラクルだったが彼女は負けじと皮肉を返した。するとドラクルは解っていないなと溜息を吐くとゲラゲラと笑い始めた。
「バカを言わないで貰えないかしら? 友も相棒もいらないわ。姫に必要なものは隷属するに足る有能な臣民よ」
地の底から響くような凄みのある声でドラクルはそんな突拍子もない時代錯誤な発言を大真面目に語り始めた。
「姫の夢を教えてあげる。姫はねえ、この世界を統べる並ぶ者のない絶対者になるのよ! 姫は最も優れた政治を行い、優れた人間を選りすぐって何の汚点もない完璧な世界を造るのよ! 友達とか相棒なんてくだらないもの、むしろ掃いて捨てたいところよ」
「よく分からないけど、あんまり楽しそうな世界じゃないのは理解できるよ」
「安心なさい。姫の世界に貴女は生きる価値無しだからね、喜多村」
いま一つドラクルの語る夢の壮大さや魅力が分からないレイダーはつまらなそうに笑い飛ばした。そんな彼女の態度をドラクルもまた嘲笑しながら一蹴するとデッキから新しいカードを引き抜いた。
【POISONVENT】
どこか不気味な電子音声が響くとドラクルのカースアームズが妖しげな紫の光を纏い始めた。何か仕掛けがあるのは分かるがそれがどういうものか謎に包まれていることを警戒して、普段の様に突っ込んでこないレイダーを仮面の奥で嗤ってドラクルは先手を取った。
「そろそろ終わりにしましょうか!!」
「おっと! だから、正面からそんなの撃ったって……!? なんだ、焼けて……いや、溶けてる!?」
フェイントも何も無く撃ち出された数発の銃撃。些細なものだと片腕で防御したレイダーだったがすぐにその体には異変が生じ始めていた。
レイダーの腕の装甲がまるで硫酸でも浴びせられたように煙と熱を出しながら溶け始めたのだ。
「これがポイズンベントの力よ。ライダーの中には最初から毒を帯びた武器を使う連中もいたけど、毒の効果単体がカードとして成立しているその意味が分かるかしら」
「さ、さあ?」
「くふ♪ それだけ強力で便利ってことよ! さあ、覚悟なさい!!」
恐るべきポイズンベントの効果。ドラクルの使用する武器に強い毒薬効果を付与するこのカードがもたらす毒の種類は麻痺や激痛、溶解性など様々で強力なものである。
唯一デメリットとしてカードを使うまでランダムで変質する毒の効果がドラクル本人にも分からないというギャンブル性を内包しているが今回の毒性は強烈な溶解毒。十二分に当たりと言える効力を付与されたカースアームズを以って、ドラクルは勝負を仕掛けた。
「うおわああ!? 鉄板なんかじゃ盾にもならないって冗談でしょう!?」
乱射される溶解弾を廃工場に残された資材なども駆使して凌ごうと足掻くレイダーだったがポイズンベントによる毒の威力は想像以上の物だった。
厚さ5cmの鉄板ですら水に浸けたティッシュの様にあっという間に溶けて使いものにならなくなるのだ。一瞬で窮地に陥ったレイダーはついに壁際に追い込まれてしまった。
「チェックメイトかしら? 残念だけど、命乞いは受け付けないわよ」
「する気はないからご心配なく。ムフー……ここは気合とガッツと根性の見せどころだね」
一点の曇りもなく自分に狙いを定められたカースアームズの銃口を見つめながら、レイダーは深呼吸をしてこれから始まる我慢比べへの覚悟を決めると中腰に構えて、右脚を一歩後ろへ引いた。
レイダーの取った姿勢から彼女が何をする気でいるのか察知したドラクルはその愚かしさを爆笑するのを抑えながら、やれるものならやってみろとカースアームズをくいくいと動かして挑発してみせた。
そして――。
「いくぞぉおおおおおおおお!!」
「くたばれええ! 喜多村ぁああああああああ!!」
意を決したレイダーは猛然と駆け出し、対峙するドラクルは溶解弾を連射する。
両腕をピーカブースタイルで障壁に見立てたレイダーは恐るべき弾雨の中を果敢に突撃する。しかし、溶解毒の効果を付与された銃弾の猛威は恐ろしく彼女の両腕はあっという間に痛々しく焼け溶けていく。当然、普通なら失禁や気絶してしまうような激痛が遊を襲うが彼女は執念と闘争本能だけで意識を繋ぎ止めている。
「届けええええええ!!」
そして、視界が何度も眩みながらドラクルを拳の射程範囲内に捉えるまで前進したレイダーは渾身の一撃を叩き込もうと拳を振りかぶる。
「無駄よ」
「く……そぉ……ッ!」
だが、ドラクルの冷たく短い一言と共にレイダーの胴体に焼け溶けた斬傷が袈裟掛けに一閃走ると彼女は拳を撃ち出す前に糸が切れたように仰向けで倒れてしまった。
「あ……あ、あ……ぁ」
「くふ♪ まだ生きてるなんて流石の生命力ね。獣を通り越してゴキブリの様だわ」
時折ビクビクと痙攣しながら、まだ息のあるレイダーの顔を足蹴にしてドラクルは勝利を確信してほくそ笑んだ。そして、まだ余裕のある時間の中でこの忌まわしかった女をどんな風に殺してやろうかと嬉々として思案する。それが彼女自身の命運を分けることだとも知らずに。
「強い相手と戦いたいだなんて低俗な願いで参加したのは貴女ぐらいだと思うけど、そんなちっぽけな夢を引っ提げてこの姫をここまで苦戦させたことだけはあの世で誇るといいわ。それじゃあ――さよなら!」
わざわざレイダーを跨いでその顔を一突きに刺し穿って殺そうとドラクルは両手でカースアームズを思い切り振り下ろした。
だが、その一撃はレイダーには届かない。何故ならば、毒に苦しみながらもずっと身体を動かそうと足掻き続けていたレイダーの執念がガッツバイザーを掴んだその右手を天へと突き上げたのだ。
ギリギリでカースアームズの先端を受け止めたレイダーはそのままの状態で残る二枚のカードのうちの一枚を切った。
【COPYVENT】
「だあああああああ!!」
拳で殴ることを好む遊の趣味趣向もあって今まで一度も使われなかったこのカードだがこの絶体絶命の窮地に際して、まさに起死回生の切り札となった。
ドラクルのカースアームズのコピーがレイダーの右手に握られると彼女は間髪入れずに剣のように眼前の相手へと突き上げた。
「そん、な……」
肉を抉る生々しい音が響いて、ドラクルの口からは呆然とした声が漏れた。カウンターで決まったレイダーの一撃によってコピーのカースアームズはドラクルの腹部に深々と突き刺さり、綺麗な紅い血がとめどなく流れている。
紙一重の攻防。
真に千載一遇のチャンスを逃したのはドラクルの方だったのだ。
「ハァ……ハァ……笑う暇がないぐらいの喧嘩ってのも悪くないね。でも、もう終わりにしよう」
未だに自分の状況が受け入れられないドラクルを蹴り退けて立ち上がったレイダーがそう告げた。
「終わり? いや……嫌だッ! そんなの嫌よ……認めない。姫はこんなところで終わる人間じゃないんだから! 喜多村! 貴女も姫のような強敵を失うのは惜しいんじゃないの!?」
レイダーの明確な殺意の前に僅かにたじろぎながら、ドラクルは生きることをあきらめず必死に現状を打破しようと足掻き続ける。それに手段は選ばず無様な命乞い地味な真似さえ迷わず取れるのは自分の悲願である夢の実現を見据えた大局的な視野とも言えなくもないがそんなドラクルの思惑をレイダーは叩き壊す。
「悪いけど答えはNOだよ。先約があってね……君、アオ君のお姉さんを殺したでしょ?」
「あおくん? なにをいっているの? なんのはなしをしているのよ、喜多村???」
「こっちの話だから、君は知らなくても別にいよ」
当然のことだがドラクルは自分が殺めた敵のライダーたちの事情など逐一覚えているはずもなく困惑しているのを余所にレイダーも自分の義理と身勝手を貫くために決着のラストカードを引き抜いた。
「ただ……この一撃だけはわたしじゃなくて、あの子のための一撃だ!!」
【FINALVENT】
最後の力を振り絞って地面を強く蹴り反転したレイダーの両足をガッツフォルテがガッチリと掴むと嵐のような大回転を始める。
そんな圧倒的な力の具現とも言える光景を眺めながら大きくな孔が空いたような腹の傷口から血を流し続けるドラクルは死告の烈風を浴びて立っているのがやっとだった。
「ウオオオリャァアアアアアア!!!!!」
『ウホォオオオオオオオオオオ!!!!!』
裂帛の気合いに満ちた二色の咆哮が轟いて、深緑の砲弾となったレイダーがドラクルに直撃する。初撃の一撃だけで白骨竜を思わせる仮面は砕けるもレイダーはそこから更に自らも痛みに耐えながら全身全霊の拳の連打を叩き込んでいく。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアア――!!」
「い、や……だ。死、に…たく……な――」
「アオくん。仇だけは取っといたよ。ダッシャアアアァ!!」
ドラクルの仮面もカードデッキも、装甲も――肉も骨も命も全て、すべて殴り壊してレイダーは冥土の土産とばかりにダメ押しの右ストレートで初めてにして最大の強敵と遥か彼方まで殴り飛ばしてこの戦いの幕を引いた。
ドラクルはレイダーが視認できない遠方まで吹っ飛ぶととっくの昔に殴り殺されていたこともあり断末魔さえ上げずに爆散してミラーワールドの塵となってその生涯を終えたのだ。
「にはははははははは!! 勝ったぁあああああああああ!!!!!」
そして、廃工場には満身創痍ながら激闘を制したレイダーの心の底から嬉しそうな勝利の雄叫びがタイムリミットぎりぎりまで木霊し続けていた。
これが喜多村遊/仮面ライダーレイダーの最初の激闘にして、最初の殺人の顛末だ。
深緑の狂戦士の本当の意味でのライダーバトルの第一歩はこのように波乱に満ちたものだった。
そして、時の流れは現在へと回帰する。
※
夏休みも終盤に差し掛かったある日のこと。
聖山市にあるモダンな雰囲気のする喫茶アイスルームに遊の姿はあった。
「ムフー! うま~♪ 美味しいもの食べてると生きてるって感じがするよね」
「感謝しろよ。彼氏に教えてもらったとっておきの場所だったんだから」
チョコレートケーキを蕩けた顔で頬張る遊の隣には友人も佳奈もいて、残り僅かな夏休みの日々を何だかんだで波長のあるこの二人は今日もぐだぐだ、まったりと過ごしていた。
「こういう美味しいもの作れる人にこそノーベル平和賞とかあげればいいのにね。いやぁ本当に美味しくて参っちゃうよ。いまのわたしにはもったいないぐらいだよ」
「どうした? 今日はなんか哲学的じゃん」
パクパクとケーキを平らげながらもどこか悩ましい顔をする遊に不思議がった佳奈は面白半分にそんな言葉を投げかける。ちなみに遊の方はケーキはこれで三皿目だ。
「この間、強い奴と喧嘩したんだけど勝つのに必死で笑う暇もなくてね。わたしもこれで結構未熟だなって痛感したのだよー」
「マジでか。あんたが苦戦するとそれもうプロの喧嘩師か何かだろう」
「にはは! 本当に強くて何だかんだで面白い相手だったよ。学ぶことも多かったな」
何度が実際に喧嘩現場に居合わせてその実力を知っている佳奈も驚く遊の内緒の激闘を思い返して、彼女も感慨深い表情を浮かべていた。
「喧嘩の強さは夢の大きさっていうのかな。もっといろんな人と思い切り喧嘩し続けようと思ったら、わたしもまだまだ夢がたりないよ」
爽やかな笑顔を浮かべて遊はそう告げると言葉の意味がいまいちよく分からず?な顔をしている佳奈を尻目に四皿目のケーキのおかわりと注文した。
ドラクルとの死闘は遊にとって得難い戦いであったのは間違いではなく。彼女はあの喧嘩を超越した綾芥子撫子が言うところの個人と個人の戦争を勝ち抜いて、戦士として大きく成長を遂げたのだ。
「ところでよ。もうすぐ新学期になるけど9月からは少しは遊も学校来いよ」
「んー気が向いたらね?」
「留年しても知らねえぞ。ダブったらちゃんとあたしのこと佳奈先輩って呼べよな」
「うえっ!? それはちょっと嫌だなぁ」
「だったら気合入れて登校しろ。文化祭の準備とかもあってただでさえ人手がいるんだしね」
「佳奈ってば本当はそれが理由でわたしに学校こいなんて言ってるんでしょ?」
「そもそもあんたも高校生なんだから学校行くのが普通だろうがよ! いいか、ちゃんと学校来ないなら文化祭の男装女装コンテストにお前代表にしてエントリーしてやるからな!」
「なにそれ!? そんなおかしなイベントやるなんてわたし聞いてないんだけど!?」
「うるせー! それが嫌なら学校来て準備手伝え! さもないとその無駄にご立派な胸にガンガンにサラシ巻きつけてどこに出しても恥ずかしくないイケメン野郎に魔改造してやるからな!」
気心の知れた友人と他愛のない会話を交わしながら喜多村遊の波乱に満ちた運命の夏はこうして緩やかなに終わろうとしていた。
激動の9月はもうすぐそこだ――。
※
時は僅かに流れて新学期が始まってすぐのことだ。
梅原葵は蝉の鳴き声がうるさいある日の夕暮れを最後に忽然と姿を消した。
誘拐犯に攫われたとか、神隠しに遭ったとか、巷で噂の鏡の中から現れる怪物に襲われただとか、様々な噂話が飛び交ったがいつしかそれらも話題の熱が冷めると一部の物たちを除いては呆気なく忘れ去られていった。
仲の良かった友達の証言によると葵は何日か前からよく鏡のある場所に立ってはとても寂しそうな顔で何かを呟いていたと言う。いずれにしても全てはもう過去の話だ。もうどうにもならないし、誰も帰ってくることはない。
「アオくん、お姉さんと出逢えたかな? なわけないか、天国なんてあるのかも分かんないし」
遊は最後に葵が居たと噂されるカーブミラーのところへ何の気なしに立ち寄っていた。
彼女にしては少し浮かない顔をしているがそこまでだ。
別に葵に対してもう義理を果たした遊は悲しみも愛おしさもそんな特別な感情は深くは湧いてこない。強いて未練があるというのなら結局、姉の死と行方について結局葵に直接説明することが出来なかったのがある種の心残りにはなってしまったのだが。
「けど、良かったかもね。絶対に帰ってこない人を待つよりはきっとアオくんは自分からお姉さんを探しに冒険に出たんだよ。そうじゃなきゃ……この世界はわたしよりも遥かにマヌケだよ」
誰に向けた想いでも言葉でも無く、何となく胸の奥から溢れ出したものを言葉にして吐き出すと遊は自分にだけ聞こえる耳障りな鏡界への続く音色に誘われて歩きだした。
そうとも、喜多村遊という少女は今までも、これからも自分のためだけに戦うのだ。
ほんの気まぐれに誰かのために拳を振るうのはあの一度だけと決めたんだ。
だって、他人の命を奪う以上――例えそれが同じ
だから、遊は自分のためだけにその拳、その力を使うと決めたんだ。
けれど――けれど、もしも、このライダーバトルで強い誰かとお腹一杯になるまで喧嘩をして十分過ぎるほど満たされて、その上まだどんな願いも叶えられると言うのなら。
その時は何かの気まぐれに彼女は幸せになるべきだったある姉弟の蘇生を願うことがあるのかもしれない。
いずれにしてもその答えはまだ誰にも分からない。
全ては鏡の向こうの世界の果て、少女たちの切なる願いの叫びの果てに待っている。
「さてと、今夜の喧嘩相手を探しにでもいこうかな」
喜多村遊はまた歩き始める。
彼女と言う人間がこの世界で生きる実感を満たすための戦いを探して。
命が歓喜に震えるような血沸き肉躍る極上の喧嘩が出来る強敵を探して。
今夜は久しぶりに埠頭の辺りにでも顔を出して見ようかと遊は期待に胸躍らせる。
そして、彼女もまた運命の好敵手たちに出会うのだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
以上を持ちまして、ドキュメント・レイダー本編は終了となります。
今後、本編である仮面ライダーツルギの進行に沿うような形でサイドストーリーや
パラレル時空でのギャグ回のようなものを不定期に書く可能性もありますが一先ずはこれにて一巻の終わりとさせていただきます。
改めて、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
それでは!