元勇者提督 作:無し
提督 倉持海斗
「うん、こんな状況だけど、行かないわけにはいかないよ」
「…北上さんのことは任せてください、他の方も…」
「任せたよ、明石」
「護衛には摩耶さんをつけますので」
「…必要ないけどね」
「それは死にに行くという意味ですか?」
「違うよ、流石にお葬式に護衛をつけるのはおかしいと思って…というか、現役の憲兵2人も連れて行くしね」
「お二人とも先に出られたじゃないですか、それに最近思い詰めた様子ですから」
「……夕張さん達だけど」
「はい、上手く遠征に行ってもらいました、あのタイミングなら誰にも見られてません」
「助かるよ、きっと僕の留守に調査が入る、明石は探知機をよろしくね」
「もちろん、隠しカメラやら盗聴器なんて設置させません」
「ありがとう、やれる事はやったし、僕も行くよ」
「行ってらっしゃい、提督」
重雷装巡洋艦 北上
「………」
ここの皆さんは私を優しく迎え入れてくれた
どうやら、私は艦娘として長い間活動しているらしく、私に助けられた、という子までいる
「おーい北上サマー、お食事お待ちしたよー」
「……」
漣さんに会釈で返す、部屋を出て歩き回っても良いのだが、体が不思議な感じでよくこけてしまう
夕張さんという人によると、なんでも見た目に変化がないのに筋肉量が大きく減っているとのことで、艤装の装備すら危ういという事だ
しかも、そのせいで重いものを持ち運ぶことも出来ないと
「1人で食べられますか?」
「……ん…」
「じゃあ、おーい、ボノエッティ〜ヌ!」
「…その呼び方はやめて、ボーノに戻して」
「ボーノ、私の分は?」
「菓子パンで良かったかしら」
「ごめんなさい、その片手にお持ちのプレートをいただきたいです」
「騒がしくしてごめんなさい、一緒に食べても良いかしら」
「ん…」
「あれ?ボーノはカレーじゃないの?」
「…今日だけよ、みんな日替わりならいいでしょ?」
ここに来て2日目だから全員の名前は覚えられないけど、曙さん、この人は露骨に私の記憶喪失を悲しんでくれた…と思ったけど「まだ勝負してないのに」と言われ、反応に困った
「…あ、ちょっと味が濃いね、今日担当加賀さん?」
「赤城さんね、コレでもマシになった方でしょ?」
塩っからい吸い物を啜り、顔を顰めながらお浸しを口に運ぶ
これはこれで甘すぎる気もする
「ぅげ…相方絶対潮だわ…」
「……あ、ほんとだ…このメインのカツ何が入ってんのかな」
そんなに怖がるものだろうか
平べったいフライを頬張る
サクッ もにゅっ 変な食感…口からカツを離すと何か伸びている
「…北上さん…それ……」
「菱餅ね…やっぱりカレーが1番だわ…」
「って言いながら一瞬でカツ食べきってるし…」
「…甘いけど、単品ならまだ食べられるものよ」
確かにお菓子としてなら美味しいかもしれない
「ん、よし、これでやっと食事になるわね」
プレートに残ってるのは塩辛いお味噌汁と、炊き込みご飯、サラダと御漬物
「間宮さん、気を利かせてくれたね…おかげで食べ方には困らないよ」
「そうね、何より炊き込みご飯が嬉しいわ、お漬物と白米とお味噌汁だけじゃ質素ね」
「え?サラダは?」
「私のやつはなしよ、ほら、キャベツアレルギーなのよ私」
「うそでー、この前お好み焼き食べてたじゃん」
「大人しく騙されときなさい」
こんなに仲のいい2人が羨ましい
私は誰と仲が良かったのかな
「…ご馳走様でした」
「はー!お腹いっぱい!」
[あの、質問していいですか?]
「え?別にいいですけど、なんですかー?」
[私は誰と仲が良かったんですか?]
「え…?」
「うーん…」
あれ?もしかして私嫌われてたのかな
「あ、そんな不安げな顔しなくていいですよ、決して嫌われてはないので」
「そうね、ただ…誰と…って言われると悩むわ、みんな仲良かったし」
[そうなんですか?]
「強いて言うなら阿武隈さんか、明石さん?」
「阿武隈は仲良いというか…いや、仲良いってことでいいのかしら」
[阿部熊さんと明石さんですね]
「漢字違うわよそれ」
「でも、正直北上さんがーって意味だったらご主人様だよね〜」
[ご主人様?]
「提督よ」
提督
私たちを指揮する人間
私たちが命懸けで戦う事を強いる人間
[なぜ私はその人と仲が良かったんですか?]
「…なんでって…」
「惚れてたからでしょ、アンタが」
「ちょっボーノ、北上さん混乱するって!」
惚れてた…?私が…そんな人間に…?
[理解できません]
「……そう、ですか…」
「ふーん、まあいいんじゃない?」
なんで私が?
いや、揶揄われてるだけかもしれない
それに別に今の私に関係のない話だ
としても、そんな奴を慕う自分がわからないが…
[なんで私はそんな人を好きになったんですか?]
「……さあ、でも嫌いな人はここにはいませんよ」
[なんで?私たちに殺し合いをさせる人なんでしょ?]
「アンタ、そこまでにしときなさいよ」
急に強めの語気で咎められる
「…北上、喋れないのは知ってるけどよく覚えておきなさい、口から出た言葉は消せないのよ、私の前で提督をそれ以上コケにするつもりなら私はアンタを殺してやる」
「ぼ、ボーノ…流石に言い過ぎ…」
「コイツのためでもあるのよ、記憶を取り戻した時、1番後悔するのはコイツなんだから」
さっきから高圧的、流石にムッとくる
文句を書こうかと思ったが、手を掴まれる
「…アンタね…わかってるの?自分が好きで好きでどうしようもない相手なのよ?記憶がないからってアンタ自身が許せない事を自分でやろうとしてる、その自覚を持ちなさいよ」
[私は、戦争が嫌いだし、それをさせようとする人間も嫌い]
「人間を一括りにするな!」
一括りにしたいわけじゃない、だけど仲間の命を顧みない兵器を作った人間もいる
命を軽んじる人間は嫌いだ
「ボーノ!ボーノ…落ち着こ、気持ちはわかるけど、いま北上さん何もわかってないんだよ?」
「………わかってないとかじゃないわ…最低よアンタ」
何が悪いと言うのだろう
私の何が最低だと言うのだろう
「北上さん、ま、また来るから…」
私は何故責められてるんだろう
私は誰に縋ればいいんだろ
誰なら私を受け入れてくれるんだろう
横須賀鎮守府
倉持海斗
「なぁ、提督、あんまり人がいないけどほんとに日付とか合ってんのか?」
「…多分ね、喪主は誰が勤めてるんだろう」
「…そっか、ここの艦娘全員解体ってことになってるもんな」
「徳岡さんが喪主なんですね」
「…俺じゃなくてもいいはずなんだがな、面倒ごとを押しつけられちまった」
「なんだ?提督、知り合いか?」
「うん、それと島風の異動先の提督でもあるんだよ」
「おっ!じゃあ島風は元気なのか?あいつ弱っちぃからな〜」
「大丈夫だ、しっかり馴染んでくれたよ、
「よかったな!提督!」
「うん、といっても僕は文通してるから知ってたけどね」
「鳳翔も島風も次の手紙はまだかーって楽しみにしてたぞ、まあ、2人とも連れて来てるんだがな」
「そうなんですか?」
「今別室で待機させてる、しかし…なんだかな」
「そうだ、徳岡さん、気になってたんですが、なんで人があんまり来てないんですか?一応大将だったし、軍関係者は出てくるはずだと思ってましたけど」
「通夜は友人たちだけを呼んで静かに終わらせたい、というのが本人たっての希望らしくてな、少数しか招待状はいってないんだ」
「…もう拓海の死から1週間経とうとしてますけど、ようやく通夜…ですか」
「軍人だからな、ご遺体を調べるのに時間がかかっちまったらしい」
「………徳岡さんはどこまで知ってますか?」
「火野拓海は民間人の手によって殺された…って事にはなってるが、実際は違う、俺は別の組織の手を借りて…って感じだな、あんま深くまでは言わん方がいいか」
「大体察しました、それでは先に」
「ああ、お仲間も揃ってるぜ」
「……ありがとうございます」
「遅かったじゃねぇか、海斗」
「…いろいろあるんだよ」
「よっカイト、摩耶ちゃん、またこんなにすぐ会うことになるなんてね」
「晶良…そうだね」
「……みんな暗いわ、やってらんない」
「……」
「カイト、今日くらいは…他のことを忘れて死を悼んでもいいんじゃない?」
「…そう、だね…」
そうはいかないのが現実だ
火野拓海の死は、僕には特別な意味を持たせてしまった
僕には退けない理由を作ってしまった
彼は僕に託した、託された僕は、進まなくては
「ご無沙汰しております、提督」
「鳳翔、まだひと月と経ってないよ」
「あら、そうでしたか?」
「久しぶり!」
「うわっ、明るくなりやがって、島風にとってもいい環境みたいだな」
「元気そうで良かったよ、島風」
「提督がくれたキャラのおかげでみんなと仲良くなれたんだよ!」
「それは違うよ、ただのキッカケ、島風がみんなと仲良くしようとしたから、みんな友達になってくれた」
「そうなのかな…?」
「そうさ、これからも頑張ってね、島風」
「うん!提督もアレをくれてありがとう!おかげで出撃も楽しいよ!」
「よう、いや、こういう場だと社交辞令優先か?」
「いいんじゃないかな、知らない大本営やこっちの関係者もほとんどいないし、どうする?三崎提督」
「あー、堅苦しいのはやめるか、アイツもそれは嫌ってるだろうしな、全員落ち込んでたんじゃやってらんねぇ」
「…意外だな、キミはもっと感情的になると思ってた」
「………今日はこんなノリだ、明日は違う」
「…葬儀の時は感情的になる?」
「…明日いるのは軍の高官とか関係者だ、拓海は国に殺された、もっと言えば大本営に殺された」
「……まさか」
「大淀は明日ここを襲撃すると言っていた、碑文の力を使ってな」
「…碑文の力?」
「あいつも碑文使いだ」
「………そんな…本当に?」
「艦娘にも碑文使いが現れ始めてる、俺のところにもいる…あ?川内?川内!」
「…連れてきてるの?」
「万が一を止めるために…っておい!マジでどこ行きやがった…」
「捜した方が良さそうだね」
「…いや、大井!」
「なんですか?提督…」
「うわっ、びっくりした…」
「川内はどこだ」
「向こうで佐世保の方と話してましたよ」
「佐世保か、僕も用事があるし、行こうか」
「…そうだな、大井はどうする」
「北上さんはきてないようなので…通夜が始まるまでここにつけられた盗聴器の駆除作業に戻ります」
「……頼んだわ」
「渡会さん」
「あ…その節は、誠に申し訳ありません」
「いえ、結構です、そっちが?」
「…軽空母、瑞鳳です…」
「…穏やかな雰囲気じゃなさそうだな、おい、川内」
「あ、提督じゃん、なんか同じ気配がして…いたたたたっ、耳引っ張らないで!」
「さて、過去に何があったかは聞いてます、約束の通り、いくつか質問に答えてもらえればそれ以上は望んでません」
「…感謝します」
「それで、何故あんな行動に出たのか、教えてもらえますか」
「…私は、北上…さんを、恨んでました、沈められたのも、わざとだと思ってて…」
「それで何故他のメンバーを?」
「……メンバーに北上さんがいなかったから…他の人を痛めつければ出てくるかなって思いました…」
「………北上に精神的苦痛を与える為じゃなくて?」
「そんな事はありません…だって…意味はないし…やり返せれば…それで良かった……」
「質問は以上です、渡会さん、わざわざ有難うございました」
「本当にこれだけで良いのですか?聞けば、そちらの北上は戦える状況ではないと…」
「…きっと、それ以上を望んで苦しむのは北上です、たとえ誰が望んだとしても、北上の心にまた枷を付けることになる…瑞鳳、キミも許せないなら許す必要はない、だけど、よく考えて欲しい、キミが何をしたのか、キミの価値観はわからないけど、許すに値するのか」
「………はい…」
「…ちょっといい?」
「おい、川内…」
「瑞鳳だっけ、碑文使いなの?」
「ひぶん…?」
「……同じ気配って…まさか」
「すいません、話が見えないのですが…」
「…こういう事」
「それ…!貴女も使えるの…!?」
「…マジに碑文使いな訳だ…」
軽空母 瑞鳳
「…なるほど、つまり私はモルガナ因子と言うものに適応し、碑文という特殊な力が使える…」
「そうだね」
「そして私の…タルヴォスは、嗅覚をも増大させてる?」
「ああ、俺の知ってるタルヴォスの碑文使いは匂いに敏感になってたな」
「………確かに、私はいろんな匂いを感じ取れます、それこそ…気配に近いものも…」
「ねぇ、えーと…倉持さん?」
「何かな」
「…碑文は、この力は私たちの精神を大きく揺さぶる…やった事は褒められたことじゃないけど、瑞鳳は自分の意思だけで動いたわけじゃないと思うよ」
「そうかもね、ただ、勘違いしてるかもしれないけど、許す許さないの話じゃない、僕は知りたかっただけなんだ…瑞鳳がどんな考え方をしてたのか」
北上の記憶にあった、あの文面が思い出される
「それは、AI的な思考回路かどうか…という意味ですか」
「AI?」
「…もしかしてキミは北上の記憶を持ってる?」
「…はい」
「返す事は?できるかな」
「……やり方がわかりません」
「そう、じゃあ仕方ないね、北上の記憶を持ってるなら…キミは北上がなんていうか、よくわかるでしょ?」
きっと、私が謝れば許してくれるし、向こうも本気で謝ってくれる
だが、それはあの時までの話、今は罪滅ぼしでもしよう
「………あの、本当に申し訳ありませんでした」
「僕じゃなく、艦隊のみんなに…ってそれは意地悪か、その言葉は代理で受け取っておくよ」
倉持海斗
通夜は何事もなく進んだ
終盤までは
『皆、集まってくれて感謝する』
「拓海の声だ…!」
「どこからだ?」
場が騒がしくなる、葬儀屋が落ち着いているところをみるに予定の内らしいが
『このメッセージは、正真正銘、私が最後に残すものだ、と言っても個人宛ではないが…私は現実と呼ばれる世界について深く調べた、艦娘、深海棲艦、この世にも謎は多い』
最後に遺した手紙と別のメッセージ
『私と共に戦ってくれた仲間に頼みがある……私はこの世界が滅ぶことを予見した』
場がより騒がしくなる
『この先何が起こるか、まるでわからない…だが、私は今一度賭けた、どうだろうか、この分の悪い賭けに乗ってもらえるだろうか』
「分の悪い賭けか、どうなんだ、勇者サマ」
「………僕はもう退けない所まで来た」
「チッ…アイツに何吹き込まれた…!」
『今、ネットとリアルの境界は揺らいでいる…この世界を再誕させる必要があると私は認識した』
再誕…全てを消しとばし、また一から…
『近く、きっと近いうちに…状況が大きく変わる、逃れようのない運命だ…どうか、覚悟をしておいてほしい』
音声に雑音が混じり始める、ドアを叩く音、そして脅すような声が入る
『きっとそこにいるであろう私の部下に、一つだけ…決して命は捨てるな』
ドアが蹴破られたような音と共に、音声は終わった
「………覚悟…?」
「死ぬ覚悟をしろってことだろ」
「…火野さん…」
色々なところで声が上がる
「………」
拓海、キミは一番最初の犠牲者となった…
ならばキミの分まで僕はやらなくてはならない
「カイト、勘違いするな、アイツはお前に託したんじゃねぇ…アイツは世界が滅ぶから再誕を選んだ、滅亡は止められる」
「…お互い頑張ろう、ハセヲ」
キミは、世界を救う勇者
ボクは、世界を滅ぼす勇者
いや、勇者である事は捨てたんだった…
三崎亮
「よ、亮、凄いことになったな」
「智成…か、お前、メイガスは?」
「…言われた通り確認したが、失われてた」
「………全ての碑文が失われた…人の手には残らなかったわけだ」
「いいや、まだある…第八相…再誕コルベニク、あれはまだどちらの手にあるかわからないんだろ?」
「……誰と争うことになるかは知らねぇが、コルベニクを手にしたやつがこの戦いの勝者、か?」
「少なくとも一つの野望は防げるだろ」
「野望、なのか…?」
重巡用艦 摩耶
「…居たな、大淀」
「どうも、重巡用艦の摩耶さん」
「………さっきのお前の提督の話は聞いたんだろ?」
「それでもやりますよ、私は命なんて惜しくありませんから」
「……で?わざわざアタシに見つかって、追わせた理由はなんだ」
「たとえば、マジックなんてどうですか?」
そう言ってコップに汲んである水を自分の手にかける
「はぁ?巫山戯るのも…」
「これ、どこから出てきたと思います?」
一瞬前まで素手だった大淀の手には、紙の代わりに刃をあしらった扇子
「…やる気か…」
「違いますよ、貴方は碑文使いではないけれど…これをできる素養がある」
「マジックの講習会なんて予約した覚えはねぇ」
「…これは、ロストウェポンと呼ばれる武器です」
「…なんだそれは」
「碑文使いだけが扱える、特殊な武器…ここにきてる碑文使いなら、川内さん、瑞鳳さんが該当していますね…」
「それで?アタシは関係ねぇだろ」
「………貴方と、島風さんにも深く関係してきます」
「…何?」
「貴方はブラックローズと成れる」
「もう必要ない時はならねぇよ、世界のバランスが崩れちまうんだってさ」
「………手遅れなんですよ、何人の碑文使いが目覚めましたか?敵は碑文の力を、あの化け物を使わないでいてくれますか?」
「………だったらどうした…」
「対抗手段として、覚えておいて損はないでしょう?」
「……」
一理あるどころか…あの化け物への対抗手段を捨てろ、と言われた時…馬鹿げてると思っていた節はあった
「やり方は簡単ですよ?こうやって…」
鉄扇を振って消して見せる
水浸しの腕を振って乾かす
「ね?簡単でしょう?」
「巫山戯てんなら帰る」
「ふふっ、リラックスリラックス」
腹が立つやつだ
「……お前、命狙われてんだろ?」
「解体されるだけですけどね、まあ私は死ぬと言っても過言ではないと考えてます」
「…なんでそんなヘラヘラしてられるんだよ」
「言ったでしょう?怖いものなんてない、私は…私の提督に酔って、心酔して…ふふっ………せっかく中毒になったのに、急に取り上げるんだもの…!」
狂っちまった、訳か…
「まあ、でも私が最後まで望むのは、提督の望むことを成し遂げる事です…そしてそのために貴方は力の使い方を知らねばならない」
「…聞いてやる」
「自分をイメージしなさい、ブラックローズを」
ブラックローズを…
あの姿を……
「そのまま…それっ」
「なにすっゔぇっ!」
頭から水をかけられる、口の中に水が入る
海水だった
「ほら、自分の姿を見てください」
「………な、なんで…」
指さされた通り鏡を見れば、私はブラックローズになっていた
「今なら戻れますよ、自分をイメージすれば」
言われた通りに摩耶をイメージする、確かに摩耶の姿に戻る
「……海水か…」
「そう、母なる海は…データの海…今の海はデータが活性化する空間…」
海を使い、データを手や体に被せてる…?
「違います、作り替えたんですよ」
「…質問はしてないんだけどな」
「未来が見えるもので」
「………じゃあ、明日お前はどうなる?」
「…大本営のお偉いさんが連れてくる、大和型2つの首を取り、死にます」
「……それだけか?」
「…大量に殺しますよ?」
「止めるぞ…」
「無理です、碑文使いにそんなの通じるわけがない」
「………お前の提督はそんなこと望んでないだろ…!」
「…我慢なんかできません、私は許せないから許さない、闘いたいから戦う…………ああ、ほら、確かに貴方はその足元に溜まった水から、剣を取り出せるでしょうが…それを一振りする前に私は貴方を殺してしまえる…止めようにも力不足ですね」
全部読まれてる、か
「……私は提督が信じた、倉持海斗さんを信じることにしました…きっと、死の先にある世界で…」
「…本気か…!?」
「諦めが悪いですね、私は貴方達までは殺しませんよ、巻き込まれたくないなら途中で抜け出しなさい………いや、そもそも急いで帰らないといけなくなりますけど」
ニィッと笑うその笑みに背筋が凍る
「海からくる化け物、随分と大人しいですねぇ…まるで、何かを待ってたみたいに」
「………おい、まさか」
「主力がここに集まってるんですよ?あー、大変大変」
「お前、深海棲艦とも繋がってんのか…!」
剣を水溜りから取り出し、向ける
「……私が繋がってるんじゃないんですよ、この世界にはおそらく…自称ゲームマスターがいる…」
「……」
「………深海棲艦を操って楽しむ、グズでゲスでゴミのようなやつがいる……叶うのなら私の手で殺したいけど…もうだめなんです、だから貴方に伝えた…」
剣が水溜りに還る
「……艦娘に寿命があるっていうのか…?」
「いいえ、おそらくないでしょう…私は第一次に作られた艦娘ですから」
「第一次…まさか…」
「ベースは人間、データでこねくり回して作られたのが私…どのみちもうわずかな命なんです」
「……いつ気づいたんだ?」
「提督と調べ始めてすぐに…」
「…………わかった、お前の無念は晴らしてやる」
「…そうですか」
「…AIらしくねぇ…か…」
「お互い様です、でも………らしいとか、らしくないとか…どうでも良いじゃないですか、私達は生きていて…」
「意思がある、ウチの提督も個人を見てくれる」
「…良い人ですね」
「………最後に一つ聞きたい、何故暁達と別れた?」
「…あんまりにも、危険な橋だったものですから…私の逝く道は………それに貴方達、あの話を聞けば真っ先に助けに行くでしょう?」
「ギリギリだった、嫌な賭けだ…クソが」
「………ありがとう、多分他の子達も?」
「…電は知らねぇ」
「…本当にありがとう…それじゃあ、さようならね」
「…あばよ…アタシはお前のことなんかしらねぇからな…」
悪人の様相のまま…消えて欲しかった
なんで最後に、笑顔のまま泣くんだよ…