元勇者提督 作:無し
日本海
軽巡洋艦 木曾
「大井姉さん!」
「遅かったわね!」
「その分仕事はする!」
標的までの距離3000メートル
有効射程外か、どうやら戦場は騒がしい膠着状態を保つことができたらしい、いや、間に合っただけで案外…
「…何だ…待て!後方から酸素魚雷!」
「背後クマ!?速力最大!回避しろクマ!」
「……敵潜水艦隊!爆雷は!?」
「これは違うか!?」
「そ、それは主砲のようなもので…いえ、物は試しです…貸してください!」
神通にデータ兵器を投げ渡す
「うっ…これは重いですね…」
レバーを引き、ガコンと音を立てて弾が装填されるのが見える
「…衝撃はどれほどのものか…球磨さん!私の肩を押さえておいてください」
「人使いが荒いクマ…!」
「行きます…!」
バシュンっと音を立ててプラズマのような光が着弾と同時にパルスを展開し、中にいる敵を消滅させる
「…なんだこれ…!」
「っ…反動が重い…大丈夫ですか」
「この程度で根を上げるとは華の二水戦が笑わせるクマ…!」
「…なら!もう一撃行きます!」
「そこだ!あそこに潜水艦がいる!」
「木曾!前を見ろ!魚雷が来てる!」
早速盾として使う事になるか…!
馬鹿でかい剣を水面に突き立てる、魚雷が剣に当たり破裂するも、此方にダメージはない
「…ハハッ…あんまりに軽いモンだからハリボテかと思ってたぜ…!」
剣の方も傷一つないか、正しい使い方じゃないのはわかりきってるが
「これなら多少無茶できるな…!」
「木曾!?1人で突っ込まないで!」
「戦いは敵の懐に飛び込んでやるモンだろ!!それとも臆病風に吹かれちまったか!?」
剣を振り抜き、水飛沫をあげる
水のカーテンが自分の位置を隠してくれる
「へへ…こう言うのの中から水上機とばしてそれで観測射撃とかやるのも乙なんだろうけどな…!」
主砲を向ける
ガコンと音を立てて射撃の用意が完了したことを伝えてくる
「そんなモンより…俺はこっちだな!!」
ドン ドン
連装砲を発射し続ける
「浮いてる敵は俺がやる!!潜水艦とでも遊んでてくれ!」
「あんの馬鹿…!!球磨姉さん!早く仕留めてください!」
「わーかってるクマ!神通!」
「よく……狙って…!」
視界の端で光が弾ける
「くそ!良いなぁアレ!あんだけ派手にやりてぇよなぁ…!」
目の前の深海棲艦にそう言う
「お前はどうだ?なぁ!?」
主砲を叩き込みながら剣でカーテンを作り出す
両手を水面につき、姿勢を低くする、先ほどまで肩があったところを砲弾が通り抜ける
「涼しいねぇ…!」
もうちょっとばかしやれそうだ
剣を振り抜き、その遠心力を利用して近づいてきていた深海棲艦にむけてぶん投げる
剣の刃の部分についた細かな刃がチェーンソーみたいに音を立てて回転し始め、ぶち当たる
バキッとかメキャッとか言いながら深海棲艦の顔面をグチャグチャにした
「おっと失礼、手が滑っちまったな……」
R-18G確定だなありゃ
佐世保鎮守府
正規空母 瑞鶴
「………」
惨敗だ、化け物にとことん惨敗した
一対の石板のような化け物
小馬鹿にするような言葉を喋り、私たちを嘲りながら一蹴して見せた
手も足も出なくて…とことんやられて…
みんな重症、瑞鳳が帰ってきた時にはほぼ全滅…
「瑞鶴さん、司令ですが、明日の到着になるそうです、瑞鳳さんの時より交通機関の麻痺が激しくなったそうです」
民間の船にも被害が出たこと、いろんな場所に出没していることから安全な場所など無いのに、その安全を求めてみんな色々なところへと行った
鎮守府の側など安全だろうと九州旅行のプランは今大幅値上げだ
「………ダメね、これは」
「…入渠ドッグはもうすぐ空きます」
「修復剤、使っても良いんじゃない?」
「……今、敵はいません」
私たちを弄ぶだけ弄んだ敵は私たちが全滅した後すぐに消えた
ならばまあ…落ち着いて次に備える必要がある…のだが、みんなして心が落ち窪んでしまった
やる気は全く出ない
「瑞鶴さん」
「何よ…陽炎のところに行かなくていいの?」
「………今代理は貴女ですので、此方を」
「………なにこれ、斧?槍の先端?」
「渡会さんによろしくとおっしゃってました」
「…提督さん知り合いかな…とりあえず預か…る……」
「瑞鶴さん?」
「…コレ、触ってないよね」
「…はい、やはり感じますか」
本能的恐怖
「………なんだろう、なんでだろう…」
「……」
でも、コレは私たちを救う武器になるかもしれない、明らかに異質なこれは
私たちにどう変化を与えるかわからないコレは
東京 某所
九竜トキオ
「…ふー、こっちは終わったよ」
「誤字脱字はないのです」
「確認ありがとう…うーん、割とややこしい文字も多いはずなのによく読めるね」
「……慣れてますので」
「ふーん、凄いなぁ…」
2人係で格ゲーの攻略情報誌の編集作業というアルバイトを終わらせる
相方はつい最近拾ったホームレス…というか孤児、名前は電というらしい
そういう子供を保護する施設に連れて行った際、なぜか施設側から拒否された、警察も同じく…その場で問いただしたが、どうもカンムスという存在で、軍が管理しているので対応しかねるだの、そいつは人間じゃないだの言われて頭にきて切り上げてしまった
見た目もまだ小学生低学年ほど…こんな子を放っておくわけにもいかずウチの居候としている
一人暮らしの高校生には金銭的に若干厳しいものがあるが、新聞配達のアルバイトも始めたことでなんとか賄えている
と、ここまでが現状だ、未来設計ゼロの高校生にはなかなか辛い
「じゃあ俺はコレを提出してくるから、好きにしていいよ、出かけてもいいけどあまり遅くならないようにね」
「了解なのです」
「よし、問題なしかー…折角だしお土産にケーキか何か買っていこうかな」
「動くな、今背中に当たってものがわかるか?大人しく其処の喫茶店に入ってもらおうか」
「………あのー、曽我部さん、せめてもう少しまともに声かけてもらえませんか?」
「いやー、悪い悪い、なんか悪戯心がさぁ」
「俺も暇じゃないんですけど…」
「あらぁ?マジ?マジマジのマジ?」
「…なんですか?」
「カイトに会ってみたくないか?」
「…カイトに…?」
勇者カイト、The・Worldが好きなやつなら知らない奴はいないというほどの有名人
俺の憧れでもある
「そう、今度ばかりは正真正銘の勇者カイトに…」
「何が目的ですか?」
「……ちょっと目覚まし時計がほしくてな」
相変わらず意味わからない事を…
「あ、今意味わからんオッサンとか思ったでしょ、傷つくなー」
「そういうのはいいんで、いつですか?」
「できるだけ早く、なんなら今から」
「わかりました」
電ちゃんには遅くなるって連絡しておこう…あ、しまったな…携帯も何も渡してないから連絡が出来ない
「あ、ごめんなさい、一度家に寄ってもいいですか?」
「ん?まあいいが、場所は?車を出す」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「へー、孤児を拾った、ねぇ…警察には?」
「勿論伝えました、でも管轄外だのなんだので…」
「………なんかクサいなぁ…あ、飴ちゃん舐める?俺の嫌いなアロエ味」
「…遠慮しておきます」
「アロエ味ってさぁ、苦くて不味いんだけど俺の好きなコーヒー味と包装が似ててたまに間違うんだよね、ゲーッてなっちまう」
「あ、そこです、止めてください」
「あいあい、おじさん無視は悲しいぞっと…」
「あ、いたいた、電ちゃん」
「…電…?」
「あ、トキオさん、おかえりなさい」
「ちょっと帰りがいつになるかわからないからそれだけ伝えたかったんだ、ご飯は何か食べておいて」
「わかったのです」
「…おい、少年…この子艦娘じゃねぇか…つーか、お前さん…火野のとこの…?」
「……貴女は確かたまに来てた胡散臭い人なのですか?」
「…なんか色々ダメージあるし日本語おかしいし……」
「…つまり、その解体とやらを免れる為に逃げてる、と」
「……はい」
「しっかし軍も馬鹿だねぇ…警察にも知らん顔してるなんて」
「海軍と陸軍の仲の悪さはオカシイっていうレベルなのです」
「…なるほど、大体話は理解できました、艦娘という存在も…」
「……」
「……あーちょっと失礼、俺先方にアポ取っておくから、準備できたら車に来てくれ」
「わかりました」
「………その、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんなのです…すぐに出て行きますので…」
「え、え?いや、別に出て行く事無いんじゃないかなぁ…」
「なんでなのです?」
「…別に悪いことなんて何もしてないのに、なのに逃げなきゃいけない人生なんておかしい…と思ったからかな、此処なら少しは隠れられるし、見つかりそうになるまででもいいから俺の仕事も手伝ってよ」
「………人間さんも…みんなトキオさんみたいに優しければ良かったのに…」
「おー、来たか少年…って、そっちの嬢ちゃんも連れてくのか?」
「よく考えてみたら電ちゃんはあまり家から出ませんでした、なので服とかを変えて変装すれば、気分転換に出かけることくらいできないかなって」
「…私は別にいいと言ったのですが…」
「……つまり、決断したんだな」
「はい、俺は電ちゃんを護ります」
「…じゃあ、丁度いいかもしれねぇな、急ぐぞ」
「それで…カイトって、どんな人なんですか?」
「カイト…?」
「……お前さんと同じような目をしたヤツだよ、ただ、優柔不断というか…向こう見ずになれないせいで…いや、歳をとったせいで悪く変わったんだろうな…」
「…悪く変わった?」
「……守る側の人間になったってことだよ、守られてるのは自分の癖にな…だから発破をかける、刺激があればきっと全盛期の気持ちで、考え方で生きてくれるかもしれない…まあ、要するに俺も勇者の本気ってヤツを見たくなったのさ」
「……勇者…カイト…あの…もしかして…」
「…その推測は当たりだ」
「どうかしたの?電ちゃん」
「………私の司令官さんのお友達…です…つまりこれからいく先は…」
「横須賀…だが鎮守府からは離れてる、あー…俺もさっき知ったんだがな、横須賀鎮守府に襲撃があったらしい、そのせいでお偉いさん含め全員逃げ出したんだと」
「……そう…ですか…」
「…通夜だけは済ませたそうだ、仲間に囲まれたそうだぜ」
「……それは良かったのです…」
提督 倉持海斗
急いで泊地に帰るべきだ、それはわかっている、でも情報や協力者を無碍にはできない
リョースから書類を受け取り、此方が指定した場所でゆっくりと待つ
「…来たね」
軽自動車が近くに止まる
運転席から此方をみてウインクしてくる
後部座席は外から覗けない暗い窓になっていた
「やー、お待たせしました…ってそちらは………三崎亮…か」
「…初対面のはずだが?」
「私もミーハーなものでねぇ、100人斬りのPKKにしてアリーナ三冠王、限定モデルのキャラエディットに…語り切れないほどの伝説があるんじゃ、知らない方が無理な話ですよ」
「そいつはどうも、で?」
「……いや、いいか…倉持さん、アンタに合わせたい人間がいて、連れてきた、降りてくれ」
促されて出てきた赤毛の少年はどこか緊張した面持ちだった
てっきり誘拐されてきたのかと思ったけど、そんなことはなさそうだ
「…初めまして、俺、九竜トキオって言います、よろしくお願いします」
そう言って手を差し出してきた
「倉持海斗です、よろしく」
差し出された手を掴み、握手する
何か違和感があった、わからない何か
異質な何か
「…キミは…何者……?」
「おや、何か感じ取るものでもありましたか」
「…俺、ダブルウェアって言う…ネットとリアル、両方に存在できる体質なんです」
「ネットとリアル両方に…?」
「……マジか…」
「俺、一回The・Worldに生身で取り込まれてて…その中でいろんな経験をしました、カイトさんをはじめとした、色んな人の世界の記憶を辿って、頼って戦ってました」
生身で取り込まれた、その苦労は想像できるものじゃないな…
「…つまり、アンタらの次の勇者って訳ですよ」
「……僕に、トキオくんを会わせたかった理由って何ですか?」
「さあ、なんでしょうね」
なんだ、何が目的なんだろう…わからない
でも…
「その時の話を聞かせてくれるかな」
「…はい!」
トキオくん…トキオは、いろいろな事を語ってくれた
実はハセヲとも戦ってたり、色んな姿の敵がいたり、時代を飛び越えたりもした、僕に憧れていた、とも言ってくれた
そして、気づいたんだ
僕は彼のように、今を楽しんでいない、全力じゃない
必死だった、みんなを守る為に、みんなのためにと
時に楽しくて笑うことがあっても、辛いことがあっても、全力でぶつかる事を避けていた
全力疾走をして、壁に当たれば壁が壊れるか、僕が大怪我をするから
彼は違った、先のことを考えてない訳じゃないけど…まだハッキリ見えてないからこそ無謀な事までやっている
九竜トキオ
カイトさんは、いや、カイトは俺の話を真剣に聞いてくれた
何処か焦った様子で
どこか暗い面持ちで話を聞いてくれた
段々と、話が進むにつれてそんな空気は溶けていった
楽しく話せた、自分の知ってる事を全部話した
フリューゲルが卑怯な手を使ってカイトを封印した話
ネットの世界でも美味しいものが食べられた話
三崎亮という人は実はハセヲだったらしく、途中で蹴りをいれられたが
幸せで、何事にも変え難い時間だった
「……ハセヲ、キミはどう?」
「…俺もそうなりかけてたみたいだな」
「……そっか」
「なあ、カイト…まだ先のことはわからねぇけど…勝負しようぜ」
「うん、僕もそのつもりだよ、どっちが先に解決するか…その決着の先に何があるかはわからないけど」
「…アンタは崩壊の先の世界を救おうとしてる、俺は崩壊を止めて世界を救おうとしてる…どっちが早いか楽しみだ」
……なんか凄い話をしているぞ…?
「……いやー、わざわざ時間をとった価値はありそうだ」
車の方をチラリと見ると電ちゃんが手招きをしていた
それに従ってそっちに向かう
「…できれば、あの2人に会うことなく此処を出たいのです、話を切り上げてもらえるようにお願いしてもらえますか?」
「……そっか、2人とも軍の関係者なんだよね…大丈夫だと思うけど…」
「……そういう理由じゃないのです、車でお待ちしています」
「…わかったよ」
「……前向きにお願いします」
「わかってます」
「俺はノーだけどな、またな」
ちょうど良かった、話が終わったみたいだ
「……またね、トキオ」
「じゃあな、トキオ」
「カイト、ハセヲ、今日はありがとう…それじゃあまた」
「……どうだった、少年」
「感動、よりも…悩みが出てきました…俺は今の生き方でいいのかなって」
「……そんなもんハタチ超えてからでいいんだよ、まだ守られるだけの子供でいい…いや、そうもいかないか……」
「…ええ、俺も勇者ですから」
日本海
軽巡洋艦 木曾
「ハァ…ハァ……!」
最高だ、最高の気分だ
俺がここまで強くなれるなんて、なれたなんて…!
「木曾!次はアンタよ!一度撤退しなさい!」
「冗談だろ?あとあんだけしか居ねぇ…此処で帰っちまったら遊ぶ時間がなくなるぜ!!」
水面を駆る
「いいぞ…!」
主砲が敵を捉える
衝撃と音が心地良い
「もう1発!!……チッ…弾切れか」
だいぶん持ってきたのにもう無いのか
「丁度いいわ!戻りなさい!」
「……いや、まだコレがある…!」
剣を振り抜く
「一匹仕留めた…!」
まだまだ俺はやれる…!
「全部…全部よこせぇぇ!!!」
呉鎮守府
提督 三崎亮
「……お前馬鹿?」
「…いや、いけると思ったんだよ」
「何が!いけると思ったよ!あんた弾切れであの数に挑むなんて…信っじらんない…!」
「北上に続いてアホーだクマ」
「いや、原型ねぇしそれ!」
「ク曾にするニャ」
「色々やばいからやめてくれ!」
「……なんで無茶した」
「…その……剣が強くてテンシャンあがっちまった……」
……は?
「は?」
「いや、大戦果上げて気分がだな……」
「………くっっっそ、くだんねぇ…!」
「そうですね、沈めてきましょうか」
「水責めなら球磨に任せるクマー」
「多摩は海軍式の根性を…」
「や、待ってくれ!ま、待ってぇぇぇ!!」
「で、その結果がコレ、と」
「……まだ不安なのか?大丈夫だ、俺を信じろ!」
「いや、不安の元凶お前だし、球磨も水責めと称してなに大規模改装してんだよ、成功したからいいものの」
「生死の境を彷徨わせないと学ばないと思ったクマ」
「……逆に勢いつかせただけニャ」
「クックック…俺もこれで改二…鎮守府最強の名は貰った…!早速北上姉に…」
「……あ、やべ…」
「…提督、北上さんに何か?」
「………記憶喪失になったって聞いたんだけどお前らにいうの忘れてた」
「…記憶…喪失……?」
「……記憶喪失ってなんだクマ?」
「…確か、記憶が消し飛ぶことらしいニャ」
「………敵も退けました、今は私たちはオフです、急ぎ会いに行ってきます」
「…いや、一日待て……明日行け」
「なぜですか!」
「……頼む、明日まで待っててくれ」
「…何か理由があるなら言ってください!」
「………勘だ、とにかく今日はやめてくれ」
「………」
宿毛湾泊地
提督 倉持海斗
「明石、遅くなってごめん、みんな無事なのかな」
「ええ、その…今のところ東に展開していた連合艦隊が戻れば……ただ、大破が多いです…」
「………そうか…わかった、迎えの準備をしよう、今残ってる戦力には出撃してもらって援護を、暁達が帰ってくる時に一緒に帰投させよう、目隠しの為に」
「はい、提督」
「はぁ…こんなになるまでこき使いやがって…クソが…!」
「ごめん、摩耶、おかげで色々助かったよ」
「あ?色々ってなんだよ」
「……摩耶、今後は好きに暴れてくれていいよ」
「何?」
「ブラックローズの力でもなんでも、好きに使っていい…今は敵を倒すことにのみ集中しよう」
「その敵は」
「……深海棲艦、そして八相」
「本当の敵は?」
「今見る必要は無い…僕たちが暴れてたら自然と出てくるんじゃ無い?」
「……お前、適当じゃねぇか…?」
「シンプルにしただけだよ」
「…上等…いいぜ!やってやる!!」
「…やぁ、北上」
[こんにちは]
「……言いたいことがあるみたいだね、時間はあるからゆっくり話そうか」
北上はゆっくりと頷いてくれた
「……此処だと人目があるな、場所を移そう」
「はい、お茶」
会釈をしてくれる
[私は記憶がありません、貴方との関係性もよく分かりません、私が思ってることは適切では無いことだとはおもいます]
「構わないよ、キミは僕の仲間だ、何を思ってたとしても、だから僕はその意見を聞かなきゃ行けない」
[ここの方々は当たり前の事しかしていない貴方に対し、深く感謝…敬服しているように感じます]
「…今まで、大変だったからね、決して僕の力では無いけど、今の幸せを大事にしたいんだと思う……」
[私は貴方が自分がコントロールしやすいように操っているように見えました]
「……そうか、そう見えるのか…」
そう見えるということはそういうことだ
なんの関係もない第三者にはそう見えるのか、僕が扱い易い私兵を抱えている様に…
[貴方は仲間の幸せを望んでいるのですか?]
「…そうだよ、もちろんそうだ」
[ならば貴方はここには不要なのでは?]
「……っ…」
まさか、まさか北上にそんな事を言われるなんて
いや違う、仕方ないんだ
今までやったことが間違っていた…訳ではないけど、褒められたものではないということだ
今後改善していけばいい
[私たちは既に考えることができます、私たちはものを考え、感じることができます、貴方がやってる仕事は果たして貴方しかできないことですか?]
確かにそうかもしれない、確かに今まで僕のやってた仕事は書類の処理くらいか
「そうだね、確かに僕はあまり特別な仕事はしていないかもしれない」
[ハッキリ言って私は人間が、貴方が嫌いです、私は戦争を続ける人間が嫌いです]
「……そう、それは仕方のない事だね」
[なぜ何も言い返さないのですか?私は貴方を否定し、罵倒しています、腹も立たないのですか?]
「…わからない、だけど僕はキミに言い返せる様な立場ではないよ」
[上司なのに?]
「形だけね、僕は縦より横の繋がりとしてみんなを見ている」
[貴方がわかりません]
「……とりあえず、試しに明日から明石に代理を頼んでみようか」
[給料泥棒]
うーん、思ったより恨みを買っているみたいだ…
というか憎まれてる?
「大丈夫、どのみち使わないから……ところで、僕からもお話しして良いかな」
[どうぞ]
「端的にいえばキミの記憶は戻らない」
[何故?]
「キミの記憶はデータドレインという超常的な力で吸い取られた、通常の記憶喪失と違い、完全に失われたんだ」
明らかに狼狽えた様子の北上
[それはどういう事ですか]
「…どういう事、と言われても正確な答えは返せないかな、とりあえず言えることは…キミはキミとして、記憶を失う前のことを考える事なく過ごしてくれて構わない…という事だよ」
[前の北上に未練はないのですか]
「…キミも北上じゃないか…って答えは求めてないよね、うん、未練はあるさ、でものほほんとした雰囲気なのに芯がある、そんな北上をキミに求めることはしないよ、別人になる訳だし」
[記憶がないだけで同一人物です]
「…そうだね、ごめん、配慮のない発言だった」
[北上に女としての未練はないのですか?]
「え?」
[貴方のことを好いていたと聞いています]
「そうなの?」
[やはり貴方は嫌いです]
「あはは、ごめん、基本的にのらりくらりとしてたからハッキリと感じ取れなかったんだよ…そっか、そうだったんだ……」
…知ってるさ、そんな事
[話は終わりですか?]
「あー、うん…そうだね」
ショックで生返事をしてしまった
[それでは失礼します]
杖をつきながら歩く彼女を見て、少し前の自分を重ねる
1人で生きることが難しいということへの感情は…北上の今の気持ちはよくわかる気がする
「………」
お互いに頑張ろう、とも言えなかった
「なるほど、それで私に白羽の矢が」
「うん、頼めるかな」
「…もはやそれ北上さんにやらせればどうですか?」
意外だった、明石がそういうとは
「……北上はまだ目覚めたばかりで何もわからないから」
「…別に良いんですけど、提督…無理しないでくださいね」
「無理はしない…いや、無理することにしたよ」
「え?」
「…常に全力で行く、息切れするまで走り続けることにした」
「…何かあったんですか?」
「………自分を見つめ直したんだよ、それだけさ」
「とりあえず…私が北上さんに仕事を教えます、ずっと病床というわけにもいきませんので」
「…よろしくね、僕は島風に会いに行く」
「……成る程、本気ですか」
「全力で戦うとしたら、この体じゃ戦えないからね」
「…提督なら深海棲艦が何万、何億といても勝てますよ」
「それは無理だよ、1人での戦いには限界がある、だからみんなで戦うんだ」
「…そうですね、工作艦明石、微力ながら…!」
「頼りにしているよ」