元勇者提督 作:無し
宿毛湾泊地
提督 倉持海斗
「北上、ちょっといいかな?」
頷いてくれる
「知ってると思うけど君の姉妹艦が、会いにきてる、会ってくれる?」
[私と親しかった人たちなのですか?]
「そうだね、君とはとても親しかった…はずだよ」
[なぜ言い淀むんですか?]
「ごめん、僕はあんまりその光景を見てないからね」
[そうですか]
「…北上は前の北上になりたいの?」
[はい、私は前の私のように活躍したいです]
「………」
あまり良い気はしないな、僕が現実でカイトとして戦おうとするようなものだ
体の作り自体が変わってしまってるのに無理をするのは自分を苦しめるだけだ
「…北上、球磨達がわかるかクマ」
北上は首を振って否定する
「…北上…」
[お名前を伺ってもよろしいですか?」
「球磨だ、クマ…お前のねーちゃんだクマ」
「多摩だニャ、一応姉ということになってるニャ…」
「大井です、立場的には妹ですね」
「…木曾だ、俺のこともわからないか…」
[自己紹介ありがとうございます、私は戦争の記憶はありますが、艦娘としての記憶も、基礎知識も欠落しており、1人では歩行はおろか、立ち続けることも耐えなしではできません]
「………なぁ、お前」
こっちに振ってくるよね、それは
「北上がこうなったのに相手に特に何も責任を追求しなかったらしいな、なんでだクマ」
「向こう側が既に罰を与えていたのと、その艦娘はその時正常な判断能力を失っていた、という点からこちらからできる事はないと判断しました、北上の過去の話などを周りに聞き取り調査し、北上自身もそれ以上は望まないという風に考えました」
「……北上、お前は納得してるのかクマ」
[わかりません、何が起こったのかも、何があったのかも、説明されてもよくわかりません、ただ、最初に思ったのは瑞鳳に一言謝りたいと]
「…その瑞鳳ってやつには会えたのかニャ」
「いいえ、営倉に入れられてましたので」
「…そうか、つまりそいつが北上をこんな風にしたのかクマ」
「はい」
4人で話してる、か
どうなるかな…
「北上、こっちに来ないかクマ、ここでは記憶を失う前のお前とのギャップで生活しづらいと思うクマ、お前さえ良ければウチの鎮守府に来れば良いクマ」
「そうだニャ、こっちなら何かあっても絶対に守るニャ、好き勝手言わせることはしないニャ」
「…………」
「姉さん?…なんだ、俺たちは北上姉がどうなっても、絶対に変わんねえ、記憶だってもしかしたらいつか戻るかもしれねぇんだ、な?」
悩む北上に此方を睨む球磨型
下手に何かをいうこともできない
「おい、お前は曙についてどう思ってるクマ」
「…ここには2名在籍していますが、両名とも仲間を率いて戦うことのできる優秀な…という話ではないか……うん、大事な仲間です」
「じゃあ北上は」
「北上も変わらず、大事な仲間です」
「……曙はもちろんお前にも問題があるクマ、なんで仲間の不仲を仲裁しない、気づいてないのかクマ…だったらお前は提督なんてやめちまえクマ!」
曙と北上の件は直接の報告が上がっている
全体の雰囲気がギクシャクし始めていたのにも気づいている
周りに問題がないというつもりはないし、全て北上の責任というつもりもない
ただ、報告を聞く限り曙は前の北上に強い執着を示している、北上自身も…
動かない理由にはならないが、自分の存在を確立するまでは執着も必要なのかもしれないとも思う
まあ、それも問題の先延ばしだ、良い機会かもしれない
「北上も曙も、記憶を失う前に強く執着している点からその考えを変えさせようとしていました、記憶がないのなら一から始めれば良い、と」
「…お前、記憶喪失になる前の北上に戻したくないのかクマ」
「………可能なら、ですがそれは北上にも、みんなにもストレスを与え続けます、自然に戻るならそれでも良い、戻らないならそれはそれで、新しい北上としての人生も考えて欲しいんです、なのでできれば、皆さんにも一からやり直す上で、新しい姉妹として接してあげて欲しいんです」
「………チッ…」
「北上姉、どうするんだ、来るのか、来ないのか」
[正直、ここには居辛いと感じてます]
「…じゃあ来るニャ」
「そうだ、こっちに来るクマ」
そう言って不安そうな北上の手を引く
手を引かれ、立たされ、手を肩に回され、2人係で歩かせられる
北上が不安げな顔でこっちを見る
「…ま………ゃ…ぁ……」
声がほとんど出ないながらも何かを必死に伝えようとしてくる
「待ってください、まだ何か言おうとしてます」
「…代弁してやろうかクマ…地獄に堕ちろって言ってんだクマ」
そうして部屋には僕だけが取り残された
追えるはずだ、追うべきだ、たとえ何を言われても、なんと思われても
だけど、もう少し待つのも良いかもしれない
北上は決して嫌われてるわけじゃない、君なら北上を止められるかもしれない
軽巡洋艦 阿武隈
「………」
2人で北上さんを支えて引き摺るように廊下を歩く四人組
別に見送っても良かったけど、北上さんは泣きそうな顔してるし、このまま行かせたら私が一番後悔する…
私は後悔しない、やれることをやって後悔したくない
「おい、どけ、邪魔だクマ」
「4人係で誘拐ですか」
「…邪魔するならここでやってもいいニャ」
「こんな所で攻撃しようものなら1発で解体ですよ、貴方はもちろん、姉妹艦も全員」
「……ならさっさと退けよ、俺らは帰るんだ、見送りはあってもその邪魔は必要ない」
「私は誘拐犯を止めに来ただけです」
「北上はここには居たくないと言ったクマ」
「…居辛いって言ってましたけどね」
「大井黙るクマ、北上は助けを求めたクマ」
「北上さんが納得してるならなぜそんなに不安そうで、泣きそうな顔してるんですか」
「お前が出てきたからだろ、ここに引き留められるのが怖いんじゃないのか?」
「………」
あー言えばこう言う、か…
もー、めんどくさいなぁ…
曙さんには「アンタでも勝てる」なんて言われたけど、倒した所で納得はしてもらえない…
「じゃあ、わかりました、止めるのはやめましょう」
「物分かりがいいクマ、さっさと退け」
「止めないので、少しお話しさせてください、私は北上さんに何度もお世話になりました、お礼くらい言わせてください」
「…さっさとしろニャ」
「せめて座らせてあげませんか?その格好、かなり負担がかかると思いますよ、北上さんに」
「………」
ムカついてるなぁ…こっちだって結構頭に来てるんだから…
北上さんには記憶は戻らない、だけど、北上さんへの恩は返したい、北上さんが望むなら止める、望まないなら見送る…
たとえ姉妹艦でもあなた達に決める権利はない
「北上さん、はい、ボードとマーカー」
「…あまり時間はないクマ」
「10分ください」
「長いニャ」
「命の恩人にお礼を言うなら一日かけても足りないと思いますケド?」
「姉さん、大人しくここは…」
「…10分だからな、クマ」
「ご理解感謝します、では……北上さん、昨日もたくさん話しましたね、一昨日も、でも一度も言えてませんでした、私に生きる術を教えてくれてありがとうございます」
戦い方を、生き方を教えてくれた
「私は北上さんに憧れて、北上さんのできることはとことんなんでも真似して、ようやく魚雷の扱いも納得できるものになりました、甲標的の観測に関してはまだまだなので、イムヤさんに頼ってしまいますが…北上さん、教えるのは下手なのに、なんでも教えようとするからみんな混乱しちゃったりしたんですよ?」
北上さんは困ったように笑う、でも焦りの方が大きく見えるあたり、やっぱり行きたく無いんじゃないかと思う
「………北上さん誰も迷惑なんて思ってませんよ、私たちは何度も何度も、北上さんに助けられたんですから」
[ありがとう]
「北上さん、私が一番大事にして欲しいのは、北上さんがどうしたいかです…北上さん、どうしたいですか?」
「お前が北上を大事にしてるのはわかったクマ、ならば一緒に来れば良いクマ」
「いいえ行きません、私はここの所属で北上さん以外にも恩がありますし、なにより私は…あなた達に背中を任せるつもりはありません」
「…なんだと」
「私情を優先し、本人の意思すらも無視するような方々と一緒に戦えるわけないじゃないですか」
「…いつ球磨達が北上の意思を無視したクマ」
「無理やり連れて帰ろうとしておいてそれは無いんじゃないですか?」
「北上がここに居辛いと感じるのはお前達のせいだクマ!だから環境を変える!何が悪いクマ!」
「確かに私たちも北上さんへの配慮や理解が足りていないでしょう、でも私達は悪い点を学び取り、改善する努力をしています」
「結果が伴わなければ意味はないクマ!」
「ろくに時間も与えず努力の結果が出ると思ってるなら大間違いです、私も、北上さんも、強くなるためにどれだけの努力を、どれだけの時間をしたと思いますか?それに比べればきっとわずかな時間で、改めて仲間として過ごすことができます、私たちに今必要なのは時間なんです!」
「その時間が北上を傷つけるクマ!お前達が北上を傷つけない保証はどこにある!時間が解決するものはなんだクマ!」
「じゃああなた方が北上さんを傷つけない保証はどこにあるんですか!」
「このッ…!」
「姉さんやめましょう、時間の無駄です」
「…そうだ、話は終わりだクマ、行くクマ、北上」
「…今、北上さんを立たせましたよね、さっきも引きずるように歩かせてた、なんでですか?」
「……北上が立てないからだ、何が問題があるクマ…!」
「……確かに北上さんは大きく筋肉量が減っています、ですが杖さえあれば立つことも歩くこともできますよ?何故あなた方が無理矢理立たせ、移動させる必要があるんですか?」
「………何…」
「北上さんは、動きたくないから動いてないんですよ、考える時間も充分にあげたんですか?間違いなくあなた達の行動は正しいんですか?」
「………姉さん、そう言うことです、帰りましょう」
「大井!お前…!」
「大井、なんとも思わんのかニャ!」
「…だって今の北上さんは…あんまりにもわがままな腑抜けですから、もう少しまともになったら、改めて迎えに来ますよ」
「……お待ちしてます、まあ、渡す気はさらさらありませんが」
「大井!」
「……多摩姉さん、こうなった大井姉はダメだ、一回帰ろうぜ…」
「…ニャ……」
「お前ら…!…クマァァァァ!!もう知らんクマ!!」
重雷装巡洋艦 北上
「………勝手に北上さんの気持ちを語ってごめんなさい、もし、行きたいのであれば今からでも送らせていただきます」
なんでこの人はこんなに強いのかな、なんで優しいんだろう
「…北上さん、提督は、北上さんのことを大事にしてくれてます、私達も、まだ変わってしまったあなたを心のどこかで受け入れ切れてません、それでも私達は努力し続けるので、だから…だからここに居てください」
「………」
狡いなぁ、絶対ここを離れられないじゃん、そんなの…
私案外ダメな人を好きになるタイプなのかもしれないな〜……
重雷装巡洋艦 大井
「……ありがとうございます、退いてくれて」
「…できた妹クマ、球磨もヒートアップしすぎて退き際がわからなくなってたクマ…北上のことを大事にしてるつもりだったクマ、でも…意思を尊重できなかったクマ…!」
「……ニャ…」
「…………結局、納得いかねえのは俺だけか」
「…あんな北上さんが帰ってきても、私達は受け入れられないわ、きっとね…それに、艦としての記憶しかないと言っていた、だから恐らく私とは仲良くしてくれるかもしれないけど、それ以上は求められないわ」
「………艦…として…か…」
「殆どの艦娘は自分の記憶としてではなく知識としてそれを見てるニャ…けど、北上は多分自分のものと考えてると思うニャ」
「ええ、おそらくそうでしょうね、でも、別の自分や、沈んだ仲間への執着などを測るうちに気づくんじゃないんですか?今度は大丈夫って……というか、私は記憶をなくす前の方が艦としての記憶に引っ張られてるように見えますよ、あの無我夢中に強さを追い求める感じ」
「………クマ…北上の痛みをわかってやれなかったクマ…球磨は…球磨はねーちゃん失格だクマ……」
「まったくだな、妹として恥ずかしいぜ」
「木曾だけは言う権利ないニャ」
「じゃあ私が言いましょうか」
「………誰も言い返せなくなるからやめるニャ」
駆逐艦 曙(青)
「なに?その機械」
「これに含まれてるデータを、君にあげる、カイトを」
「…カイトを…って、どう言うコト?」
「ゲームの体だよ、多少の無茶は効くんじゃないかな」
「……クソ提督が使えば良いじゃない」
「…腕輪が盗まれたんだ」
「は!?」
「査察に来た人達だとは思う、だけど取り返す手段がない、つまり僕は腕輪も何もない、その体でリアルには出て来れないんだ」
「…………じゃあ、アンタがこの腕輪を使えば…」
「それでも良い、君がやりたいようにしてくれれば良いよ」
「……はぁ…………私が勇者、ねぇ…」
「嫌かな?」
「…上等よ!」
右手を差し出す、腕輪が展開される
「勇者カイト、その名、体ごと貰い受けるわ!」
「……任せたよ、曙」
「データドレイン!」
体が熱い、かつて右腕にあった感覚が今、全身に走る
何もかもが変わる、わかる
これは私以外の何かが
そして、私以外の記憶が
「ふふっ……なんだ、こんだけ?期待させといて、冗談じゃないわ!」
「んー、鏡見てみる?」
促されるままに鏡を見る
「なっ!!なによこれ!」
両頬に赤い三角のマーク、そして目の色が深い青に変わっている…
「ちょっ、こんな変化があるなんて聞いてないわよ!」
「うーん、僕もまさかこんなことになるとは」
「…変化すると思ってた服も何も変化してないわよ…?ど、どうしよう…外歩く時は…マスク…じゃ隠れないわね…ファンデーションで隠せるかな……」
「うーん、双剣もないし、今まで通り艤装で戦う事になるのかな?」
「……ものは試し!さっさと行くわよ!」
「え、僕も?」
「当たり前でしょ!!」
重巡洋艦 摩耶
「なんでいきなりアタシとやるんだ?しかも提督の前でよぉ…」
「ブラックローズってのを見せてみなさいよ、摩耶、今のアタシはカイトよ」
「……あー?」
提督の方を見る
困ったような笑いを浮かべながら頷くサマからまあ、事実なんだろうな
「……良いぜ、提督の真似事じゃ勝てねぇって教えてやる」
そう言って右手を思いっきり海面に叩きつける
「うわっ!?水飛沫が目に入った、最悪!!」
「…摩耶…それは…!」
「カッコよく行こうぜ…そうだな、変身ヒーローみたいにな…!」
頭から水飛沫をかぶる、水飛沫が一通り落ちる頃にはアタシの姿はブラックローズだ
「さ、やろうか?勇者カイトのなり損ない」
「…それ、どうやって姿を変えたワケ?」
「ハハハ!勝てたら教えてやるよ!!」
「この!いいわ!やってやる!!」
距離を取るつもりか、艤装を稼働させて反転する
「わっ!?わわわわっ!」
「な、速っ…!」
何ノット出てやがる、初速でもう35は出てるんじゃねぇか!?
「くっ…せ、制御できない!ちょ、ちょっと待ってて!」
「あ、あー…ごゆっくり?」
加速してるし、あの速度でアウトレンジでやられたらやり辛いことこの上ないな
「……あれって速度緩められないのかな?」
「曙ー、原速にできるかー!」
「い、いましたけど…!」
「30ノット上回ってねぇ…?お前さっき何速だったんだ!?」
「強速!」
「………よし!一杯空けてみろ!」
「ちょ、調子乗んなぁぁぁぁ!!!!」
「はぁ…これならまあ良いわね」
「微速で普段の原速か、それ以上弱めることは…まあ、お前の微調整か…」
「艤装の速力調整しやすいように作り直してもらうわ」
「………で、演習どうする?」
「………一杯開けたら60ノット超えるのよ、扱い切れたらもう何も当たることはないわね」
「……扱いきれたらな」
「…………はぁ…これじゃ出撃できない…今まで通りの速力になるように調整してもらって、リミッターでもつけるしかないのかしら
「カッコいいじゃねぇか、リミッター解除!とかやるんだろ?」
「…ターン終わりにフィールドガラ空きになりそうね、それ……」
「んー、にしてもカイトになる…かぁ、よし!目を瞑れ!」
「え、あ、うん」
「よーく、よーくカイトのイメージをしろ、しっかり覚えてるか?」
「お、覚えてるわよ!」
「……何赤くなってんだよ、ちゃんと想像できたな?」
「え、あ、うん…」
「そのまま…そら!」
剣で水を救ってひっかけてやる
「ぷぇっ!何すんのよ!」
「おーおー…お?……成功…なのか?これ」
「……なにこれ、なんか服が…?」
「なるほど、海の水をかけたらそうなるの?」
「ってことだな、ほら、鏡代わりに使うか?」
曙は剣をマジマジと見る
朱の衣に身を包んだ勇者カイト…の装備の曙って感じか、顔と髪型が変化しないのはアタシのその姿自体のイメージと違って、自分がその姿になったイメージだったんだろう
「……わ、ホントにクソ提督と同じカッコ……」
「ほら、ニヤついてないで、動けるか?」
「にっ!?ニヤついてなんかない!!」
「で?」
「……動ける、わ…うん、うん!いける!今ならなんでもできそう!」
「じゃ、近接戦闘の演習と行くか!」
「やるわよ!!」
「遅い!」
「なんでそんなデカい剣でついて来れるのよ…!」
「扱いを学ぶ努力はしてきたからな!オラオラ!どうしたぁ!」
「チッ!クソ提督!遠距離はないワケ?!」
「ないね、アイテム欄とかは開ける?」
「これゲームじゃないっての!!」
「うーん、じゃあ諦めて」
「……クソ提督…!!いいわよ!艤装取りに行くから待ってなさい!」
「あっ!ひっでぇ!アタシも艤装持ってきちまうぞ!」