元勇者提督 作:無し
駆逐艦 曙
「……ふふっ…あはっ…あははは…!」
ああ、涙が出るほどおかしい、悔しい、嬉しい
眼前の光景は、嫉妬に狂いそうなもので
待ち望んだものであり、自分にこそと望んだもので
なんでそれを持ってるの?なんでその姿を、きっと私の方が、私にこそと思ってしまう
悔しい、狂いそうなほど羨ましい
2人のうちどちらでもよかった、どっちでも良かったんだ
欲しくて欲しくて仕方なかったものは一つも手に入ってない
だから、自分のものにするために、自分のために…!
私は私のためだけに…失い続けるなら、作り出せば良い、無くなった分だけ、私のものにすれば良い
工作艦 明石
「あ、珍しいですね曙ちゃん」
「こんばんは、こちら装備の改修依頼書です」
「え、あ、了解です…うーん、改修って設備はありましたけど資材の都合上こっちにきてようやくできるようになりましたから勝手がまだよくわからないんですよねぇ……」
「開発してても良いですか?こちら許可証です」
「あ、良いですよ、何を開発します?」
「適当にやりますよ、安いのを」
「わかりました、ご自由にどうぞ…うーん、難しいなぁ……」
「そんなにですか?」
「え、あー…あはは、知事としては完璧なんですけどやったことないのが本当に…」
「……どのくらいかかりそうですか?」
「うーん…」
「まあ、失敗しないように慎重にお願いします」
「あ、あはは…釘を刺されましたか」
「貴重な資源、資材ですからね、あと私の連装砲もお願いしますね」
「ヒェェェ…」
駆逐艦 曙(青)
「はぁ……つ、疲れたわ…」
「こっちも死ぬかと思ったぜ、なんでいきなりあんな強くなったんだよ」
「……わかんない、と言うか…フェイスペイント?含めて全部水に消えたわね…目の色は戻らなかったけど」
「まあ良いんじゃねぇの?」
「…そうね、気にしても仕方ないし、はー!疲れた疲れた!今日の日替わり何かしら」
「阿武隈と北上らしいぜ、一応まともなもんが出てくるとは思うが」
「……料理、できるのかしら」
「さぁな…確認しておきたいんだが、お前はどう思ってるんだ?」
「…北上の事?」
「以外にあるか?」
「………腑抜けだと思ったわ、思い通りにいかないことに駄々をこねる子供にしか見えない」
「……だよなぁ…」
「でも、別の形でも良い、どんな形でも良い…また前に進んでくれると思うわよ」
「そうか、お前がそう言うならそうなんだろうな」
「なんの信頼よ…それより私が気になるのは曙ね、私だけこんなに強くなっちゃって、また拗ねたらどうしようかしら」
「………演習見てたぞ」
「さっきの?じゃあもうバレてるわねぇ」
「…そっちもだが、アタシが曙の演習を見てたって言ってるんだよ」
「……なるほど、言いたいことはわかるわ」
「あの無理矢理な戦い方、北上のやり方にそっくりだなら自分のことを顧みない、目の前の敵だけをとことん叩いて潰す、そのための戦い方」
「…しかも、大規模作戦でも見たけど…あの砲撃、北上と同じ正確な、精密な…」
「朧に聞いたぜ、対空射撃も完璧だったってな…練習してるところなんて見たことないけどな」
「………一発の無駄弾もなかったわ」
「…何?」
「私の見てる限りね、もちろん戦闘中で余裕なんてなかった、だから完全に把握してるワケじゃないけど…全部当ててるように見えた…」
「……だとしたら北上より…」
「多分北上もそれはできる、やらないだけでね…決定的なのは佐世保との演習、阿武隈から聞いたけど…自分より上だって」
「…阿武隈より上だと…?」
「本人が言うならそうなんでしょうね…それに、今日の演習見たでしょ?アレもやれるなんて知らなかったわよ」
「……あの魚雷攻撃か、ありえねぇよな、阿武隈でもイムヤの観測が必須らしいのに…」
「何もなしでやってのけるなんて…ありえないのよ、北上はAIDAを使って観測してた、潮流を読んで流すのよ?海中の潮の流れなんて私たちにはわかりようもないのに…」
「………本物の天才ってやつなのか?」
「…多分…北上が努力の天才だとするなら…曙はただの天才ね」
「………ま、敵じゃなくて良かったよな」
「………曙は…なんで北上の戦い方をしたのかしら」
「…見せつけるためだろ、北上にも、あいつらにも」
「そう…なる…わね」
「………あいつも陰湿だな」
「…根はいいやつなのよ、人付き合いが苦手なだけでね…それに、元々北上から仕掛けてたのよ…ずっと曙の倒し方を考えてた、私よりね………まあ、私も腕輪がなければノーマルな駆逐艦だったし、当然っちゃ当然だけど」
「お互いライバル意識があったのかもな」
「悔しいけど私以上にあるはずよ…強いかな、2人とも…艦娘としても」
「艦娘を超越した強さの北上と、艦娘としての限界までの強さを持った曙ってとこか?………面白い勝負になりそうだよな」
「記憶が戻ったらやらせてみましょうか、私は北上に賭けるわ、もちろん勝つ方」
「自分以外に倒されて欲しくないってか?」
「ま、そんなとこね…正直、アタシもデータドレインが先に決まらなければ勝てなかった…艦娘としての能力だけなら間違いなく勝てない…」
「………確かに、北上は艦娘としては、軽巡洋艦としては最強格かもな」
「…先があるなら、進むわ、私達もね」
「ああ」
提督 倉持海斗
「やあ、お疲れ、曙」
「こちら結果報告書です」
「………開発の方は?」
「報告すべき成果はありませんでした」
「そう、わかったよ、まあ一応報告書は上げてくれると嬉しいかな」
「明日までに用意します、といっても何も完成しませんでしたが」
「…何か辛いこととかあったら、言ってね」
「提督には特に期待しておりませんので」
「手厳しいな…」
「では、失礼します」
「………ま、そりゃ怒るよね…特に曙同士で思うところもあるみたいだし」
そもそも僕が戦う必要があったのについ曙にカイトを渡してしまったのも軽率だったかな
うーん……
「悩み事ですか?」
「明石」
「はい、仕事が終わりましたのでちょっと来てみました」
「………顔が暗いけど何かあった?」
「あー、慣れない仕事したので疲れちゃって…」
「そっか、お疲れ」
「…いや……提督、曙ちゃんのことなんですけど」
「どうかした?」
「………なんと言うか、怖いんですよね、問題はないんですけど…改修中じっと見てくるし」
「へぇ、退屈だったのかな?」
「…さぁ…」
「あ、そうだ、これ建造指令書、4隻だって」
「………うーん…生い立ちを知らされてからなるとなると思うところがありますね」
「…気が乗らない?」
「まあ、そうですね、しかもこれ直接大本営行きでしょう?」
「横須賀以外にも、各地に警備府を配置するための戦力増強だからね…」
「日本海側への侵攻からかなり弱気になってしまってますよね」
「…………よし、僕からも建造依頼を出してもいい?」
「そりゃ、いいですけど…?」
「うん、じゃあこれでお願い」
「…提督、焦ってます?」
「あ、わかる?僕も戦えればなーって思ってさ」
「……まあ、ゲームの体はアオボノちゃんにあげちゃいましたしね…海の上歩けたりしないんですか?提督は上半身をブラさず海上を走ることができるってネットに書いてましたよ」
「無理だよ、それデマだし…それにしても…力になりたいのになぁ、射撃の名手でもないし、格闘技だってろくにやってない、何ができるだろう」
「………お留守番?」
「手厳しいな…」
「あはは…」
「………明日から、海域攻略に乗り出そう、僕らは後手後手だったけど、今なら攻められるんじゃないかな」
「……だと良いですね」
「曙2人と摩耶をそれぞれ旗艦にして三方向に同時に進軍してもらうつもりだよ」
「………青葉さんの事ですけど…」
「うん、そっちについては目星がついてるんだ、ただ人道的な手段ではない」
「………詳しく伺っても良いですか」
「…意識に関してのデータを調べたり、送ったりしてたんだよ、ヘルバにね」
「それで?」
「……君にも辛い話かもしれないよ」
「もう遅いです」
「そうだね、言ってしまえば意識は完全に焼かれていた、AIDAの攻撃である点、そして………君達電子生命体であることが大きく理由として関連づけられると」
「………そうですか…」
「傷自体は治っても、内側のダメージが深刻だ、かと言ってAIDAに侵食されてるわけでもない…容器は無事だけど中身がぐちゃぐちゃになったみたいな状態なんだよ、人間で言えば脳死に近い…いや、君たちにも臓器や脳はあるから…うーん、でも脳死とは違って…」
「…………」
「とりあえず、それで取る手段としては中身を入れ替える」
「えっと…意味がわからないんですけど」
「まず、意識の修復の為に一度中身を取り出す、データとしてね」
「………なるほど人道的ではない話ですね」
「…うん、データドレインで書き換えてしまったらそれは青葉ではない、だから直接組み直してもらうつもりだよ」
「…………どうなるんでしょう」
「わからない、だけどこのままなら永遠に意識は戻らない」
「…わかりました、私にもやれることがあったらなんでもさせてください」
「いや、気負わないで」
「ダメなんです!私がやった事です、提督も後遺症こそ残りませんでしたが傷跡は残りました、それすら目を瞑ってもらってるのに…私自身が耐えられません…!」
「………そっか、じゃあ…明石、君が組み直す?」
「…え…?」
「…………僕が組み直そうと思ってた、いや、組み直すって何か言い方がおかしいんだけどさ…」
「いや、そんな話じゃなくて…私に任せるつもりですか…!?」
「…明石は僕より長い間青葉と過ごしてるはずだよ」
「………いや…あ………あの……う…」
「…どうする?」
「……責任は取ります、やらせてください…」
「…善は急げ、だね…用意をしようか」
「…今からですか…」
「できるだけ誰にも知られたくないからね、でも毎日通ってる明石には隠せないと思って」
「………そうですね、やりましょう」
工作艦 明石
「よし、始めようか」
「……っ…」
見た目は全くもって普通で、なにも異常がない、ただ眠ってるだけにすら見える
「明石、これ」
「………どうすれば?」
「血管に刺して、点滴と同じように」
「……わかりました」
改めてまじまじとみると…何が違うのかわからない、私達は人間じゃないの…?
「提督…」
「……臓器に問題はないんだ、他も全て…というか…僕から見ても人間にしか見えない、人間だと、それ以外だとは思えない…」
「………」
「………でも、青葉が治るなら僕はそれで良い、どんなに恨まれても」
「…組み直したら、考え方や思想は操作されてしまうんですか…?」
「………………わからない…わからないよ…」
「…提督?」
「………やろう、はやく」
「…はい…」
「これがデータ、ですか…」
「うん、それを一度こっちに移すんだ」
「………提督はやったことが?」
「無いよ、だけどここでやらなきゃならない、ヘルバは来れないし、送れば何が起きるかわからない、ここだけで解決する」
「…わかりました」
「これは?」
「……こっちですね…」
「青葉の思考、って事なのかな、これは」
「…多分」
「どうだろう…意識が戻るのか…」
「………整理された感じはしますよね…」
「……うん」
「…提督……」
「よし、これで戻すよ、いい?」
「………はい、覚悟は決めてます」
「…青葉……」
重巡洋艦 青葉
「………」
「………」
色々思うところはあるけれど
「おはようございます…その…青葉です……恐縮です…」
「…お、おはようございます…」
「………な、なんで敬語なんですか…?し、司令官も何か言ってください」
「……その、調子はどう…?」
「…えっと、多分そこそこです………」
「き、記憶は…」
「全部あります…多分…というか置き忘れがなければ多分…」
「………聞こえてたの?」
「はい、耳は機能してましたから、目は閉じてましたけど…触覚も、聴覚も、視覚も嗅覚も、全部」
「……驚いたな…」
「全く動けませんでしたけど………ようやく元通り…ですか?」
「…本当によかった…ごめんなさい……本当にごめんなさい………」
「その………き、気にしないでくれたら嬉しいなぁ…なんて……」
「そう言うわけには…!」
「ま、毎日来てたのは知ってますし…本当に一日も欠かさず来てたし、ここで色々喋ってたことも………」
「………え…え?」
「…明石は何を喋ってたの?」
「…例えば…夕張さんがいなくなって寂しいとか」
「」
「あ、あと明石さんのおうれ…むぐっ」
「それ以上はやめておきましょう……わ、私、それ以上言われると死を選びますから、泊地ごと吹っ飛ばしますから…」
「…あ、明石、鼻まで塞いでるから息ができてないよ…?」
「あ、ごめんなさい!」
「………本当に死を覚悟したのは久々です…でも、横須賀の青葉の気持ちもわかった気がします」
「と言うと?」
「……人の秘密を暴くのって、少し楽しいかもしれません…」
「なっ…」
「でも、相手を傷つけることはよく無いですから…そうならないことに限って、青葉も新聞を書きましょうか…?」
「うーん、それは好きにしても良いよ?」
「そうですね、衣笠さんと青葉さんにも……ぁ…」
「どうしたの?明石」
「………また名前問題が…」
「ああ…」
「うーん、気にすることじゃ無いと思うけどなぁ……僕、同じ苗字の人が2人いても遠慮なく呼んじゃうし」
「………それはそれで失礼では?」
「で、この漣を頼るわけですか、ご主人様」
「うーん、多分そうなるのかな」
「と言うかなってますけどね」
「………正直言って良いですか?」
「うん、良いと思うけど」
「…いや、わかるんですけど、わかるんですけどね、違い、若干髪のクセの感じ違うし、長さも違うし、雰囲気もどよどよしたのとわーわーしたので違うし」
「漣ちゃん言い方…」
「でも、遠くから見たらわかんないんですよね、というか特徴で言うならどよばさんとあおわーさんになりますよ私に任せたら」
「流石にそれはダメかなぁ」
「…じゃあ代わりにジェダイとシスで!」
「別に2人とも悪いことしてないからシスになる人はいないかな」
「もう両方青葉さんで良いじゃ無いですか」
「だよね」
「………結局そうなるんですね…」
「生まれた時から呼ばれてる名前ですから、愛着もありますよ、艦としての記憶は正直分かりませんけど…」
「まあ、そうですねぇ…」
呉鎮守府
軽巡洋艦 神通
「はぁ〜…」
「どうしたんですか姉さん、こんなところで管を巻いて」
「飲まなきゃやってらんないよー、せっかく私救助任務成功させたのに…確かに行かなくてもなんとかなった雰囲気だったけどさぁ…」
「お、落ち着いてください…」
「私の活躍なんて微々たるもんですよーだ、だからって無かったことにすることないじゃん…もー…」
「………なかったことになったとしても、その強さは変わりませんから…」
「えー、えへへ…そうかなぁ…あれ?神通…どうしたの?そんな怖い顔して」
「酔いは覚めましたか?」
「………あー、うん、これジュース、ノンアルだから酔ってないよ…?」
「……面倒な姉ですね」
「…神通の方がアルコールが欲しいんじゃない?そんな顔してるけど」
「………そうですね、あっという間に姉さんに追い抜かされてしまって、複雑なんです」
「…そっか!神通、今練度は?」
「76です」
「私は78、確かに改装してから強くなったけど…」
「違いますよね、姉さんは改装が理由で強くなったんじゃない…というより、改装は受けてないはずです」
「………」
「…あの戦いで何があったのかは視ていませんでしたが…なにがあったんですか?何故私は姉さんより強くなれないんですか…!」
「……神通…私は神通の努力は知ってるけど……これは努力とは違う…偶然だったんだ…」
「偶然で私の努力なんか意味がなくなるんですか?だとしたら今までの私はなんなんですか…!」
「………神通は弱いわけじゃないでしょ?」
「球磨型の4人、姉さん…那珂ちゃんも場合によっては負けるでしょう…」
「…うちの主力だよ、全員」
「私は一番強くありたいんです!」
「それは難しいね」
「………わかってます、だから誰よりも辛い修行を積んだはずなのに…確かに姐さんの修行は信じられないほど、私を超えたハードなスケジュールでした、だとしても…あんなわずかな時間で…!」
「………」
「私は、姉さんのようになることはできない…!」
「神通は神通の強さがある、あのデータ兵器だっけ、それも神通しか扱えないものじゃないの?」
「あんなもの…私一人で撃てない上に…誰かと一緒なら誰でも撃ててしまう………!」
「………」
「艦の私はみんなの前に立ち、囮となり戦ったと言います…この名に恥じる事はしたくない…私だってみんなのために戦うまで沈みたい…!」
「馬鹿言わないで、沈むなんて冗談でもやめなよ!」
「こんな気持ちで生きてるくらいなら死んだ方がマシです!」
「死んで救われる?そんな訳ない!」
「…姉さんに相談したのが間違いでした…!」
「神通!」
「所詮私は努力すら実らない雑魚です…!」
「待って!神通!」
「どうだった?」
「………もう知りません」
「…那珂ちゃんにはね、神通姉さんの方が悪く見えたな」
「……そうですか、ならそうなんでしょう」
「………どうする?」
「どうにも、私にはもう何も」
「………私を止めるなら今だよ」
「私から仕掛けたのに今更止めようとは思いません」