元勇者提督   作:無し

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招来

呉鎮守府

提督 三崎亮

 

「………碑文使いと碑文使いはひかれ合う」

 

「何?それ」

 

「お前と瑞鳳が出会ったのは、偶然じゃねぇ…いや、偶然ではあるが、碑文使い同士は出会う、川内…お前は今そういう星の下にあるんだよ」

 

「………じゃあ、これも?」

 

「そうなる、んだろうなぁ…クソ、どうなってやがる」

 

「…あの青いのかな、白いのかな、よくわからないけど、とても大きいことだけはわかる」

 

「スケィスよりバカでけえよ…船を用意してくれ、直接行く」

 

「提督が?危険だよ」

 

「……仲間かもしれねぇ、なら自分で迎えにいくのが当然だろ」

 

「…私達より?」

 

「人に優劣つけてもロクな事ねぇだろ」

 

 

 

 

 

第二相惑乱の蜃気楼イニス

間違いない、アレはイニスだ…そして

 

「………霧が出て来たね」

 

「霧、というより…蜃気楼か、チッ…アトリ」

 

「なに、提督知り合いなの?」

 

「ああ、壺売りメンヘラ偏食でー」

 

巨大なイニスのの中心にいるアトリを見る

 

「俺の仲間だ」

 

「悪意あるよね」

 

「ねぇよ、んなもん…川内、やるぞ」

 

「やるぞったって…なんもできないくせに、はぁ…やりますかぁ…」

 

確かに俺は何もできない…のかもな

 

俺がダメなら、もし、このアトリとの再会が何かの因果なら…

それを信じて良いなら…

 

「来い…来い…!!」

 

「えっ…ちょっ、まさか…」

 

AIDAだろうと、なんだろうと

それに魂を売ってでも、なんでも良い

 

「さっさと来やがれ…!」

 

何かの目覚め

 

「………来た…来た、来た来た来た来た来た!」

 

「え、来たの!?」

 

紫色のAIDAが体を包む

体が熱い、まとわりつくような感触

 

「お前は…!」

 

「透明な…魚…!?」

 

AIDA〈Helen〉

過去にアトリの碑文を食らい、その力で偽装サーバーを作るなどした凶悪なAIDA

 

「チッ…!川内!俺が暴走したら容赦なくやれよ!」

 

「そ、それより提督、身体!モンスターみたいになってるけど!?」

 

川内に言われてようやく気付いたが、慣れ親しんだこの赤黒い生体装甲のような鎧…この姿は現実のものではない

 

「………お前の記憶か?チクショウ、味な真似しやがる」

 

右手を伸ばし、開く、Helenが鎌のように形を変え、手に収まる

 

「精々利用させて貰うか…!行くぞ!」

 

「えぇ…大丈夫なのかなこれ…まあ、なるようになるよね……来て!…スケィス!!」

 

 

 

 

 

「つよっ…!」

 

「焦るな!遠距離から仕掛けろ!」

 

『遠距離…?……そっか…これだ!』

 

川内が主砲を向けるとスケィスの片手が砲塔のように変化する

 

「…マジかよ…!」

 

『さあ!仕掛けるよ!…てー!!』

 

『っ…!』

 

「俺も負けてられねぇな…オイ!なんかやってみろよ!」

 

Helenが手を離れ、本来の透明な細長い魚のような姿になる

優雅に泳ぐように、狙いをつけ、体のコアから四本の光線を放つ

 

『あァっ!』

 

「中々やるじゃねぇか!」

 

『ほら!こっちも見ないとかがするよ!?』

 

スケィスが斬りかかったその瞬間、イニスの体が揺れる

 

「…待て!川内!逃げろ!!」

 

『…え…?』

 

川内の攻撃は空を切り裂き

背後から現れたイニスの両手に掴まれる

 

『放せ!放せって…!この…!』

 

もがいているようだが、抜け出せない、スケィスの何倍も大きいその体躯に締め上げられる

 

『…ふふっ…』

 

『っ…!…お前…!』

 

イニスの全体に幾何学模様が現れる

 

「クソッ!川内!逃げろ!」

 

『無理だっての…!』

 

「だろうな…!クソが!スケィス!根性見せやがれ!!』

 

俺の中に何かが渦巻く

何かが、この殻を、破ろうと…

 

ピシッー

 

俺の背後の空間に亀裂が入った

二つの黒い爪がその亀裂から伸びてくる

 

ピシッバリッー

 

空間をはっきり掴み

 

バキッ ベリベリ 

 

三つの赤い目がこちらを覗き込んだ

 

『…ハハハッ…やるじゃねぇか…!待ってたぜ…スケィス!!』

 

空間に大きな穴を開けると同時に世界が変わる

スケィスが作り出した巨大な空間

 

『…手加減は、してやるよ……アトリ!少しだけ我慢してろよ!』

 

スケィスが手を伸ばし、Helenを掴む

Helenは紫色の泡となり、スケィスに纏わり付いた

 

感じる、確かなスケィスに近い力を

 

『行くぜ!』

 

イニスへと突進

 

衝撃で展開していたデータドレインが壊れる

 

『あぁっ!』

 

『さっさと正気に戻れよ!…さもねぇと……食い殺すぞォォォッ!』

 

イニスを鎌で斬りつける

何度も、何度でも

 

『これが……スケィス…』

 

『こんなもんじゃねぇ!スケィスの力の殆どはお前が持ってる、これは殆どAIDAと変わんねぇ!』

 

大鎌の一閃

完全にプロテクトを壊した感覚

 

『よし!プロテクトはやった…だが…』

 

アトリはAIDAに感染してる訳ではないはずだ

ここで力を奪う事は…なんの解決にもならない

 

『提督!?なんで止まってるの!?』

 

『…待て、アトリはここで倒したとして…何か解決するのか?』

 

『提督!』

 

アトリを倒せる、確かにこのままデータドレインするなりすれば充分に倒せる

 

だがそれでアトリはどうなる?

倒して解決といくだろうか…

 

『おい!アトリ!』

 

答えはない

 

『お前がそうなっちまった理由はなんだ!?教えてくれ!頼む!答えてくれ!アトリ!』

 

考えろ、なんでこうなったのか、どうすれば目の前の仲間を助けられるか

 

俺は、どうやって助かった…?俺は、意識不明に陥った時、カイトに助けられた…今、アトリもあの夢の中にいるのか?

 

だとしたらどうしたら良い

どうすれば俺はあの世界に入り込める

 

どうすれば…考えろ、もっと考えろ…

 

入り込む…?

 

『提督!』

 

『川内、よく聞けよ』

 

『何!?こんな時に!』

 

『俺が死んだら艦隊の指揮権は大井に譲る、あいつならなんとかしてくれるだろ』

 

『何言ってんの!?』

 

『俺は、イニスにデータドレインされる…それで、アトリの一番そばまで行く…もし、それでもダメなら…俺ごとやれ』

 

『本当に馬鹿なんじゃないの!?』

 

イニスがまた動き出した

 

『馬鹿だろうがなんだろうが、やるしかねぇ!離れてろ!』

 

何が有効かはわからない、第一オレはAIDAこそ纏っているが生身だ…この空間にオレが存在してることもイレギュラーだろう

 

『もう少し…もう少しだけ持ってくれよ…!』

 

イニスに向かって突っ込む

 

『アトリィィィィィィ!』

 

スケィスの爪が空を切る

イニスの姿が歪む

 

来た…!

 

 

 

『うわぁァァァァァァッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

軽巡洋艦 川内

 

いきなり自分が死んだら、とか、もしダメだったら、とか言われても…どうやって判断したら良い?

あと一歩のところで帰って来れたのに、私が手を下してしまうのではないか

 

それよりも何よりも…

 

提督の背後に出てきた巨人がデータドレインを構えた、それを認識してしまった

 

そうなったら、もう…命令とか一切関係ないじゃん

 

『うわぁァァァァァァッ!』

 

『なっ…!』

 

データドレインの射線に割り込み、提督のスケィスを掴んで投げ飛ばす

 

『川内…!』

 

視界がセピア色に染まる

 

これが、データドレインをされる側の感覚か…

 

 

 

 

 

 

提督 三崎亮

 

『クソ!あの馬鹿…!』

 

ダラリと肢体が宙に垂れた川内

結果はどうなるか、想像もつかない

 

『……!』

 

川内のスケィスが此方を見る

赤い目を光らせ、イニスと共に迫り来る

 

事態は最悪か

 

『クソッ…川内!しくじるなよ!』

 

大振りな攻撃を進路に置き、接近を拒む

 

『うおォォォッ!』

 

イニスへ向けての一振りはいとも簡単に弾かれる

 

『なッ…パワーが落ちてる…時間もないのか!』

 

スケィスのパワーが落ちている、このまま耐え続けることも許されない

 

となれば、倒すか、逃げるか…それでも待つか

 

轟音を立て、打ち合う、逃げることなどできるわけがない、ならば戦いながら待つしかない

 

イニスは両腕を剣に変化させ、此方の攻撃を優雅に受け止めてみせる

まるで遊んでいるように

此方の全力など全く気にならないように

 

この程度のパワーでは、スピードでは

 

頭を働かせても、この苦しい状況は変わらない

 

『クソッ…!』

 

川内のスケィスは操られてるらしく、細かな行動はして来ないが、進路を潰し、イニスとの戦いを強いてくる

 

『邪魔だ!』

 

そちらは攻撃すればあちらから

完封され、徐々に徐々にと殺される

 

『クソが!』

 

一瞬の隙を突き、イニスに向けて全力で鎌を振り被る

しかし川内のスケィスが間に割り込む

本当に攻撃して良いのか?と問うように

 

どうする?

ただでさえこの不利な状況

 

勝つことさえ絶望的な戦いで待ち続けるなど不可能

 

『川内!さっさとなんとかしろ!』

 

果たしてこの声も届いてるのかどうか

そもそも、まだ川内が生きているのかすら不確かなのに…

 

 

 

 

 

 

軽巡洋艦 川内

 

「ここは……」

 

喫茶店のテーブル席…?

なんでこんな所に…いや、私はデータドレインを受けて…じゃあ、潜り込めたか…死後の世界か

 

他に客は…結構いるな…

どうしよ…いや…

 

なんか違う、あそこにいる1人だけ

 

ま、この状況でそう感じるのが1人しかいないなら…話しかけるしかないか

黒髪のロング、なんともテンプレな感じの女性

 

「ねぇ、ちょっと良いかな」

 

「………なんでしょうか」

 

うっわぁ…なんかこの感じ知ってる

 

「此処どこ?って言うか、あなたがアトリ?」

 

「……そうです、私がアトリで…日下千草」

 

「うん、良かった、しゃべれるね」

 

重そうな人だけど

 

「…私はAIDA感染者じゃありませんから…でも…何故あなたが割り込んできたんですか?折角、もう一度私を見てくれるチャンスだったのに」

 

「…ん?ねぇ、外の…あの戦い、意識があったの?」

 

「私の意思は介在してませんけど、何が起きていたかは聴いていました」

 

「…見てて、私になんで割り込んだかなんて聞くんだ」

 

「…あなたが割り込まなければ、ハセヲさんは此処にきてくれましたから」

 

「はせお?」

 

「ハセヲ、三崎亮、どちらも同じ人を指す名前です」

 

「…ふーん、で、何?取り込んでどうしたかったわけ?」

 

「どうする事もしません、ただ、少し幸せな時間を過ごしたかったんですよ」

 

「幸せな時間…?」

 

…なんか、頭ちょっとおかしいのかな?

 

「………わかってるんです、此処はモルガナが作り出した世界、偽物の世界…此処に私たちを閉じ込め、好きなものを与えて夢中にさせる、そしてその間碑文を操るのが狙い…」

 

「…じゃあ大人しく出てくれるワケ?」

 

「出方すらわかりませんけどね」

 

「はぁ…思ったより協力的なのかなと思ったら…」

 

「残念ながらあっさりとは行かないと思います、貴方はこの世界にとって異物ですから」

 

他の客が立ち上がる

 

「…まるで、あなたの声に反応したように見えたけど」

 

「……表面上ではいくらでも言い繕えます、そんなつもりはないんですって…でも、奥底では邪魔だと感じてるんだと思います」

 

「なにそれ、ハッキリしないなぁ…スケィス!……あれ?」

 

スケィスが出ない?

 

「此処はモルガナの世界といっても良いような場所です、残念ながらスケィスは…」

 

「あぁー!もう!めんどくさいなぁ!」

 

腕の艤装を向ける

 

「コイツら人間に見えるけど人間じゃないワケね!?」

 

「多分…」

 

「ハッキリしてよもう!」

 

「此処はモルガナの世界、そこにいる人たちがどこかで意識を奪われた人なのか、創り出された幻像なのかはわかりません」

 

「…あーもう!来るなら死なない程度に痛めつけるから!言ったからね!?」

 

客が近づいてくる、まあ、殴って痛めつければ反抗はしてこないだろう

 

どうすれば良い?

考えなしに割り込んだのは良くなかったとは思う

でも、だから何もできないワケじゃない

 

感覚を研ぎ澄ませ

此処はどこだ?よく考えろ、モルガナの世界とはなんだ?スケィスは頼れないならそれは良い、私は何ができる?

 

モルガナの世界…碑文はモルガナの因子に適応することで発現する力、なら何故此処では使えない?モルガナの世界で使えない理由は?

 

「なんでここでスケィスが使えないのかわかる?」

 

ゾンビみたいに迫ってくる一般人っぽい何かをいなしながら問う

 

「いいえ、全く」

 

「………どうしようかな…」

 

モルガナの世界から抜け出すには、どうすれば…

 

モルガナの世界…モルガナ因子…

 

「…モルガナ因子を破棄する、イニスを手放せばこの世界から出られないかな!?」

 

「…さあ…」

 

「モルガナとの繋がりさえ断てば可能性はあると思うんだけど!」

 

「って言われても、どうやって?」

 

そこが問題だ

 

「どうにかして!」

 

私にはどうにもできない

 

「イニスを使えるなら、データドレインで私の中のモルガナ因子を書き換える…できるかはわかりませんけどね、あとはこの世界に大穴開けちゃうとか」

 

「思ったより大胆だなぁ…そもそも碑文の力がなきゃ何もできないけどね」

 

『そう、碑文の力がなきゃなんもできん…やったらある奴が助けたるってのはどうや?』

 

ヘンテコな帽子を被った子供が割り込んでくる

 

「…何者…!?」

 

「貴方は…!」

 

『久しぶりや言う間に…ドーン!!』

 

床を突き破りピンク色の人形のような巨人が現れる

指のない手でモノのように掴まれる

 

「うわっ!?」

 

『あのクソアホンダラのケツ引っ叩いて来ぃや!』

 

「待って!朔さん!」

 

朔という名前なのか

 

『呼ぶな!名前は呼んだらあかん、ウチはもう居らんから!』

 

 

 

 

 

 

提督 三崎亮

 

眼前のイニスが砕け散ると同時に襲いかかってきていたスケィスが消滅する

 

「来た…ここに…スケェェェェィス!』

 

目の前に紋様を浮かべた川内が着地してみせた

 

『遅ぇ!死ぬ所だったぞ!』

 

『まだ終わってないよ!』

 

空間が揺らぎ、その中からまたイニス

 

『チッ!どうなった!?』

 

『多分精神と解離した!今のイニスをモルガナの支配下から解き放てば解決するはず!』

 

『じゃあ、倒して良いんだな?』

 

『倒せるの?そんなにボロボロになって』

 

流石に、あれから時間が経った事もあり、かなりダメージは受けてはいるが

 

『…あぁ、いけるだろ、なぁ?』

 

『……なるほどね、私も頑張れと…良いよ、やろう!』

 

イニスへと向き直る

 

『あと少し辛抱しろよ…!』

 

『さぁて…やりますか!』

 

左右に分かれて同時に攻撃を仕掛ける

 

手数、とにかく手数で押し切る

金属音を立てながら鎌を振り抜く

 

『大分ダメージ与えたつもりなんだけどなぁ…!』

 

『……川内!背後からくるぞ!』

 

大きく前方へと振り抜く、イニスの姿はかき消える

すぐ背後を何かが通り抜ける感覚

 

『うひぃ…!やってくれるねぇ!』

 

『そのままやってろ…!』

 

右腕から幾何学模様を展開する

川内なれまあ十分にかわせるだろう

 

『データ…ドレイン!』

 

『ちょっ!?』

 

光弾がイニスへと命中し、データを吸い上げる

 

『これ、こんなパイプみたいな奴あった!?』

 

イニスへと無数の管が突き刺さる、そして何かを送り込むような…

つまり、これさえ切り飛ばせば

 

『よぉ、久しぶりだなババァ…!やっぱ胡散臭えだけあって…碌でもねぇ…!』

 

紋章を消し、鎌を握る

片っ端から管を切る

 

『川内!全部潰しちまえ!』

 

『了解!』

 

大きく飛び上がり、大鎌に力を込める

 

『……堕ちろォッ!』

 

振り抜いた鎌から放たれた三日月が大きくイニスごと切り裂いた

 

『消えてく…また幻影?』

 

『いや、完全に倒した…頼む…アトリ、目覚めていてくれ…」

 

 

 

 

 

 

東京 病院

 

「成る程、そう言う理由だったか」

 

「ああ、だが助かったぜ、理解がある先生で」

 

「私は以前と同じ対応をしただけだ、原因不明の患者を集め、何もせず生き長らえさせるだけ…」

 

「AIDAと変わらず訳がわからないしな、仕方ねぇよ、黒貝先生」

 

「日下さんは目が覚めた事だし、暫くすれば退院だろう、早いとこいってきたらどうだ、王子様」

 

「…ガラじゃねぇ…」

 

 

 

 

「へー、そんな事があったんだ」

 

「そうなんです、その時の三崎さんが…」

 

廊下にまで声が響いてくる

 

「その時のメンバーの1人がヘタレだからヘタヲだー、なんて」

 

「確かに重要な所でヘタレっぽいよね、命の危機になったらうひゃぁぁぁって叫んでそう」

 

「おい、良い身分だな」

 

「ああ、ヘタヲさん」

 

「ヘタ提督お疲れ〜」

 

「川内お前後で締めるからな…千草、しばらくしたら退院できるそうだ、よかったな」

 

「そうですか…ご心配をおかけしました」

 

「ああ、まあ、気にすんな…それより」

 

「朔さん、ですね…確かに間違いなく、朔さんでした」

 

「………アイツは…まあ、あんな弟じゃ不安だろうからな」

 

朔は、弟である望のために消失した双子の姉…の、人格

 

「ついつい心配で戻ってきちゃったんですよ」

 

「アイツもダメな姉貴だな、ったく…俺にも挨拶ぐらいしていけよ…」

 

「三崎さん、嫌われてますからね」

 

そう言って笑われた

 

 

 

「さて、長居はできないから早いとこ帰ろうか」

 

川内に手を引かれる

 

「もうか?」

 

「そうですね、また今度」

 

「また今度って言われてもな、なかなか会いに来れる距離じゃねぇし…」

 

「ええ、知ってます」

 

そう言って笑う千草に若干の不安を覚えずにはいられなかったが、口に出せる雰囲気でもない

 

「じゃ、またね、千草さん」

 

「川内さん、また会いましょうね」

 

なんか、嫌な予感がするな…

と言うか、いつの間に仲良くなったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 曙

 

「…はぁっ……はぁっ……」

 

血反吐を吐くほどの、自分の全力で

 

常にぶつかり続ける

 

提督は食堂に余分なほどの移動費と食料、水、寝袋を置いておいてくれた

私のやることは全て筒抜けだったらしい、その日のうちに泊地を発ち、着任予定の鎮守府のそばの山で寝泊まりをした

 

別にホテルを借りても充分な金額があったけど、できるだけ長い時間をトレーニングに割きたかった

 

あんなに沢山の情報、少しずつゆっくりと、濾過するように吸収する

 

「…違う、この動きじゃない…」

 

だけど、どうしても吸収できない、あの瑞鳳の動き…近接戦闘

見えないほどの拳、どうやって私に叩き込んだ?瞬きすらする暇なく私は海面に倒れて…

 

「………ダメ、ダメだ、休もう…」

 

しんしんと雪が降り積もる

 

寝袋だけでは死ぬだろうか?

いや、AIなら問題ないか

 

「…ぁ…」

 

寝袋の中にはマフラーが入っていた、白いマフラー

首に巻いて、同封されていたバッジで止める

 

「……ふふ…」

 

寝袋に包まり、雪を凌げる場所で休む

 

「………」

 

新しい場所で、誰の汚い口が私の名を呼ぶのか…

 

そう考えるとゾッとする

 

早く、なんとかしなくては

私の精神衛生上良くない

 

 

「提督…」

 

今はただ微睡の中に

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