元勇者提督   作:無し

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侵食汚染

佐世保鎮守府

提督 渡会一詞

 

「………タイミングが悪すぎる…」

 

「うん、うち応接室が一つしかないから両方そこにいるんだよね」

 

「……瑞鶴…今後は不知火に一挙手一投足確認を取れ…!」

 

「べー!だ、瑞鶴を放置した罰だもんね!」

 

そう言って瑞鶴は逃げて行った

 

「………仕方ない、瑞鳳は…」

 

瑞鳳を捕まえ、応接室に向かう

 

「………呉と宿毛湾…両方か…」

 

「………私はどうすれば…」

 

「宿毛湾に謝りながら呉に怒れ…」

 

もう、面倒になって来た

 

 

 

「…渡会さん、急にすいません」

 

「………いえ」

 

倉持海斗…寛大な対応をしてもらっている以上こちらは強く出られない

そして、それが目の前に居る以上…呉にも強くは出難いな

 

「こっちも急に申し訳ありません、昨日、件の暴走した神通を確保しました、現在は治療中ですので本人は連れては来られませんでしたが」

 

三崎亮の方は一度話しただけだが…此処まで丁寧な物言いをしていただろうか…

 

「そうですか、申し訳ないですがあまり時間がありません、話を済ませましょう」

 

「…では先に」

 

倉持の方からか、こっちの応対には気を使う必要がある分、苦しい物があるな

 

「………うちで秘密裏に保護している艦娘を暫く預かってもらいたいんです、長くて一週間程」

 

「…どう言うことかお伺いしても?」

 

「……あまり深くは聞かないでくださるとありがたいのですが…」

 

そう言われては何も返せないか

 

「…すいません、貴方のことはヘルバから聞きましたので、受け入れてくれるだろう、と」

 

「……ヘルバ?…ヘルバだと!?」

 

つまり…黒のビトの上の人間…

 

「…ヘルバと何かありましたか?」

 

「……クソッ…」

 

倉持海斗は何も知らない、のか?

どうなっている…

 

「……ちょっと失礼します」

 

倉持は確認の為だろう、携帯を握ったまま外に出て行った

となれば…先に話を進めておくべきか

 

「…先の一件では…うちの艦隊の三分の一が潰されました」

 

「それについては、誠に申し訳ありませんでした」

 

「…その神通の処分はどうされるのですか」

 

「…こちらの判断で加えるより、そちら側による制裁の方が納得していただけるかと思い、まだ何も」

 

「………」

 

面倒だな…

 

「瑞鳳、お前に一任する」

 

「……わかりました、では、再戦させてください、あの神通と」

 

「…何?本気か?」

 

まさかそんな事を望むとは

 

「…それで良いのならば、此方は幾らでも用意します」

 

「……一度だけで結構です、負けたままは性に合わない物で、提督、かまいませんか」

 

「……好きにしろ」

 

足柄や那智は怒るだろうか…

いや、あれでかなり理解ある方だし、結果的に鎮守府の盾となっている瑞鳳の意思を尊重するだろう

 

…これは意思というのか?願望に近い気もするが

 

「それで良いですか」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

「お待たせしてすいません」

 

「…貴方は、ヘルバの何なのですか」

 

「……仲間です、ただし、月の樹とは関係ありません」

 

「月の樹…」

 

「関係ない仲間というのは気になりますが」

 

「…正確には確かに何度も手を借りています、自分自身、ヘルバを大事な仲間だと考えています…ですが、今回の手段は…とても…」

 

…成る程、悪役とヒーロー役か?

 

「そうですか、ではどうされるつもりですか」

 

「…事情自体も聞いています、ご家族の安全の保証は継続します、確実に」

 

「…何…?」

 

結局人質のままか…?

 

「…その上で、必要な情報を月の樹に問い合わせられるように頼んでおきました」

 

月の樹、その情報網を使えるのだとすれば…此方としてもメリットは…非常に大きい…か

 

「…提督…迷わないでよ」

 

瑞鳳は…優しいやつだ、俺の家族を優先しろとそう言っている…しかし…

 

「この度は、不愉快な思いをさせて申し訳ありません、では、失礼します」

 

「…何?そっちの用件は」

 

「迷惑をかけた相手に頼み事をするほど図々しい事はできませんから…」

 

わからん、此処まで織り込み済みか?

だが、受けたとしても十分すぎる条件…

 

「それでは」

 

どうする…?

6名の艦娘の保護か…

 

「提督、もう帰っちゃったけど」

 

「何?」

 

気づけばその場には3人しかいなかった

 

「……あー、じゃあ、俺も…」

 

「あ、あぁ…ご、ご苦労様でした」

 

…向こうに何のメリットもない話になったが、それで良かったのか…?

 

「…わからんな」

 

 

 

 

 

 

提督 倉持海斗

 

「どうしたものかなぁ…」

 

『月の樹は?』

 

「ダメだと思うよ、内通者がいるかもって言われて佐世保を紹介された訳だし」

 

『どうしましょうか…でも、本当に必要なんですか?その行動』

 

「念には念を…さ、腕輪を盗めた事で向こうは強気に出てきてもおかしくない…前回の進入時に痕跡を見つけ、暁達がいる事を確信しても…何ら不思議じゃないよ」

 

『……どうしましょうか…』

 

「…ん?知らない番号だ…ごめん、明石、ちょっと別の電話がかかってきた」

 

『はーい』

 

「もしもし、どちら様ですか」

 

『渡会です、先程は気づいたら帰られてましたので』

 

「あー、すいません、時間がなかったもので」

 

『先程の件、受けさせていただきます』

 

「いや、そんな」

 

『貴方とヘルバは別の人間で、そのヘルバの責任を貴方が取る理由なんてありません』

 

「………そうですか」

 

『…あまり広い家じゃないですが、そっちならバレる心配もないでしょう』

 

「そ、そこまでしていただかなくても」

 

『…俺の自宅なので…まあ、なんです…子供がいるのでできれば行儀良くするようにとだけ…』

 

「もちろんです、全員落ち着いた人なので」

 

『………しかし、話せて光栄です、勇者カイト』

 

「……僕はもう勇者じゃありませんよ、でも、双星のアルビレオにそう呼んでいただけて光栄です」

 

『…オルカとバルムンクは?』

 

「元気にやってます、お気遣いいただき、ありがとうございます」

 

『……此方としては、借りを返し切れたつもりはないが…』

 

「むしろこっちが借りを作ったと思いましたけど」

 

『…貴方はそういう人らしい、倉持さん、それでは』

 

「ありがとうございます、また詳しい日取りを連絡します」

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府

駆逐艦 曙

 

「全体構え……撃て」

 

毎日、毎日毎日…同じことの繰り返し

私の心は、せっかく生き延びた私の心は死んでいく

 

「東雲さん、あの撃ち方を教えてください」

 

「…言語化に時間を要します、明日の訓練時までにまとめておきます」

 

「ありがとうございます!」

 

…コイツらもみんなそうなのか?

私同様、死んだ艦…?

 

いや、違うな、たまにあの部屋に入れられた時に聞かされる言葉から…おそらくまだ実験段階

 

私の意識が残ってるのも…失敗が原因か

 

死んでも問題ない、脳と誤認…

 

つまりAIチップ…AIにAIチップを組み込むなんてなかなか気の利いた事をしてくれるものだ…

 

「東雲、来い」

 

「はい」

 

………は、最悪の気分…

 

 

 

「へぇ、3人目は東雲か」

 

「問題ないでしょう、楽しみですねぇ?」

 

「2日後、宴席に出席する、用意をしておけ」

 

「かしこまりました」

 

…指の一本でも良い、動いて…

私の意思で…1分…いや、30秒…10秒でも良い…私の意思で動いてくれたのなら、何かを使って此処の情報全てを送り出すのに

 

私は…私は生きてるのか…?

人道的には?科学的には?生物的には?AI学的には?

 

私は、死んでいるのだろうか…

 

私の全てを知って、私を肯定してくれる人…この世にたった1人だけのあの人が…私の全て…

 

 

 

 

「お前の好みなど、全て細かく報告しろ」

 

…は?

 

「好みとは何の好みでしょうか」

 

き、気持ち悪い……

コイツ…今更私を知ってもうするつもりなんだ?

私の体が私のものなら鳥肌の一つもたったいたはずだろう…

 

「食事、装飾品、人、全てについて答えろ」

 

「はい、私は食事の好みは特にありません、不味いと感じるものでなければ何でも構いません、装飾品にもあまりこだわりや興味はありません…少し前に提督に頂いたマフラーとバッジは…大変惜しかったです」

 

…私の感情を語るな、私の心を…

私の事を…

 

「ほう、あれはやはり倉持海斗に貰ったものか、残念だったな、ハハハ」

 

「人の好みは…誠実であったり、真っ直ぐであることに好印象を抱きます、私に優しい人には特に」

 

やめろ、私は、そんなこと喋りたくなんか…

 

「それは倉持海斗のことを指すのか?」

 

「はい」

 

……私のこれは、恋愛感情と言って良いのだろうか

もしそうだとしたら、自惚れてるのだろう、私は…AIで……私は…提督には相応しくないのに…何で期待しちゃったんだろ、明石さんにはあんな事を言っておいて…

 

 

 

 

「これを纏え」

 

「はい」

 

チェックのマフラー…

くそっ、こんなものなんか欲しくない…

 

「よく似合ってるじゃないか、東雲」

 

「ありがとうございます」

 

やめろ、やめてくれ、私の口からこんな奴にそんな言葉をかけるのは

 

冬の寒さを凌ぐためだ、仕方ない

 

 

 

それから、元帥は急に優しい素振りを見せ続けた

 

目的はわかっている

 

 

別に気にすることはない、利用すればいい…

いや、何で言い聞かせてるんだ、やめてくれ

私の心を侵食しないでくれ…

 

芽生えて欲しくない、こんな感情…

 

この感情は存在しちゃいけない…

 

1人で、ただ涙を流すことしかできない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地

駆逐艦 曙(青)

 

「摩耶!まだまだ行くわよ!」

 

「来い!」

 

剣での打ち合い

と言っても、演習用に作ってもらった刃のないものだが

 

「ここで…こうッ!」

 

体を捻り、体制を変えながら、斬りかかる

 

「やぁぁぁッ!」

 

「クソッ!サマになってんじゃねぇか…だが…やらせねぇ!オラァッ!」

 

「このッ…!見せてあげるわ…!」

 

雷が身体を疾る

 

「雷舞!!」

 

雷を纏った斬撃

 

「クソが!ガンドライブ!」

 

「なっ!?うぅッ…こんなのたかが足と両腕が潰されただけなんだから…!」

 

「いや、お前それじゃ戦えないだろ」

 

 

 

 

「…やっぱりまだダメね」

 

「いや…真剣勝負なら厳しいかもな、召喚式の砲弾を組み込むんだろ?」

 

「うん、だけどベースがただの水じゃあね、流石に厳しいって嘆いてたわ」

 

「まあ、無理もないよな、でもできたら最高だろうぜ」

 

「……アイツには負けられないわ」

 

私は、私に勝つ必要がある

 

 

 

 

 

 

 

 

正規空母 赤城

 

「上々ね」

 

「……これ、果たして意味があるのでしょうか」

 

「私達には翔鶴さんのようなAIDAによる知覚増大すらない、私たちが最近活躍した覚えがありますか?」

 

「……活躍だけが生き甲斐ですか」

 

「………欲張りなんですよ、私は……」

 

「紋章砲…すこし、威力が落ちた気がします」

 

「……提督がくれた力も、どんどん薄まっていく、ということでしょうね」

 

「………私には、赤城さんの精神面の問題に見えるのですが…」

 

「加賀さんは手厳しいですね、ですが………私は、自分の力に頼ることにします…いつまでも借り物では…いけませんから」

 

「………」

 

「昨日見し人はいかにとおどろけど …なほ長き夜の夢にぞありける」

 

「……私達の生きた時間は、夢ではありませんよ」

 

「ええ、決してそうはさせません」

 

「我が背子は物な思ひそ事しあらば 、火にも水にも我がなけなくに」

 

「…知ってますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呉鎮守府

提督 三崎亮

 

「………って事になった、いいな?」

 

「…良いなも何も無いですよ」

 

「まあ、神通が腕試しに襲った以上、これで済んだのは破格だ、ラッキーだった、として所持する他ねぇよ」

 

「……それより、これ、どうするんですか?」

 

「…………主力は残せ、その為に神通が負傷して動けないことにしてるんだ…ん、これ………予定変更だ、神通、川内を同行させる、他2名は大井、お前に任せる」

 

「…合計4名になりますけど?」

 

「神通は中には入れねぇ、仕事をさせる」

 

「はぁ…?」

 

「…招待状は海軍だけに送られた訳じゃ無いみたいだからな…流石に那珂は動かせねぇけど」

 

「…そもそもあの子まだ脚が生えてる途中じゃないですか…うっ……思い出したら…」

 

「やめろ、色々グロい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベイクトンホテル エントランス

重雷装巡洋艦 北上

 

「……大丈夫だ、僕は…全部に備えてる」

 

「…提督、大丈夫ですか…?」

 

「……不安なんでしょ、暁達が」

 

……最近、私の中でこの人を見る目が変わりつつある、この人は私達を軽んじる事なく…それどころか、自分の命より重いものとして見ている節がある

 

[何で私がこんなところに連れてこられたんですか?]

 

「………まあ、直感、かな…君はこっちにいたほうがいい気がした」

 

…喋れない私がこんなところにいたところで…晒し者にしかならないのに

 

 

煌びやかな世界に吸い込まれていく

一歩進むたびに豪華で、それでいて無駄のない装飾が私達を包んでいく

 

「………」

 

異様なまでに人がいない…

 

「これ、こんなに人がいないもんなの?」

 

「……曙、君の月給は大体のサラリーマンより高いと思う…だけど此処での一泊は君の3ヶ月より高いんだよ」

 

「………」

 

「さ、さささ流石に冗談でしょ?だ、だだだだ騙されないんだから!」

 

ネット検索をかけ、レビューサイトを閲覧する

 

…一泊7桁か…最低価格は…6桁後半…

 

「何見てん………」

 

「あの、提督、曙さんが固まりました…」

 

「………まあ、うん、わざわざ正装を用意した訳がわかったと思うけど…」

 

「………」

 

「……必要なら、躊躇わないで」

 

「…わ、わかってます」

 

「………本気…え?これ必要になるの……?」

 

ただ、頷いた

 

コレすらも…私達のためを思ってと言われれば、信じる他なかったのだから

 

 

 

 

「この先だね、ボディチェックを受けるかもしれないけど、暴れないでね」

 

「……」

 

「失礼します、ボディチェックをさせていただきます」

 

黒人のガードか…

 

「お久しぶりです、スティーブさん、女性のガードの方はいませんか?」

 

「……名前を覚えていただけて光栄です、日本人は皆物覚えが悪いのかと、そちらの女性の方は杖だけ預からせていただければ結構です」

 

「名札がついてますからね、杖なんですが、あの通り、歩くこともままならないので杖をついているんです、チェックしても構わないので持ち込ませてくれませんか?」

 

「確認してまいります」

 

「……随分と親しそうね」

 

「そんなことないさ」

 

 

 

「杖の方、此方で用意したラバー加工の物になりますが、こちらでしたらお使いになってくださって構いません」

 

「北上、問題ないかな」

 

頷く

 

「ありがとう、スティーブさん、ところで携帯は良いんですか?録音機器とか」

 

「今回は公の場と言うことになっております、構いません」

 

…成る程

 

「さ、早くいきましょ」

 

「どうも、それじゃあ」

 

「お気をつけて」

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 弥生

 

「提督、来たよ」

 

「…勇者サマが3着か、さて……ん?島風は?」

 

「…もう行ってるよ」

 

「……俺たちも行くかね…って五月雨はどこいきやがった」

 

「……また迷子…?」

 

「人選間違えたかな…」

 

 

 

 

 

 

 

軽巡洋艦 龍田

 

「ねぇ、提督〜?」

 

「なんだ」

 

「あっち」

 

宿毛湾泊地御一行様、の中の1人…白いドレスが似合ってるし、眼帯もない…まるで艦娘とは思えないけど…

 

「思うところが?」

 

「姉妹艦だもの〜」

 

「……行くか、瑞鳳、不知火」

 

「はい」

 

「了解いたしました」

 

……あら、あの子…

 

「危ないオモチャなんて持っちゃって…うふふふふ〜♪」

 

「………えらく上機嫌だな」

 

「槍がないんですもの、ここじゃ誰ともやり合えませんからね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重雷装巡洋艦 北上

 

「師匠、その後如何でしょう」

 

「…!……!」

 

ピンク色の髪の人に詰め寄られて慌てふためくことしかできない、手帳に文字を書くにも…射殺さんという目に動けない…

 

「失礼します、陽炎型の不知火さん…ですよね……北上さんは喋ることができないので…もう少し、落ち着かせてあげてくれませんか…?」

 

「…そうでしたね、失礼しました…」

 

[貴方については色々と伺ってます、私にはもう何の力もありませんが、仲良くしてくだされば幸いです]

 

「…勿論です、聞いてください、私、ちゃんとマスターしました、あの撃ち方を…今なら、たとえ何を持ったとしても、それが自分の艤装でなくても、初めて扱う銃座でも、何であろうと…私は、あなたの教えの通りに…扱ってみせますから…!」

 

強い意志を感じる

この人も、私に憧れてたんだろうか

 

「…北上……さん…」

 

「……!」

 

「師匠、何をしてるんですか、頭をあげてください」

 

無意識に頭を下げてしまった

なんでだろう、私は…全身から冷や汗が噴き出す

 

「……私は…もう、わかってるから…もう、気にしてないから…」

 

「瑞鳳ちゃ〜ん?」

 

気にしてない、その一言で、重く、重く沈んだ心が少し、楽になった気がする…

 

「…違うの…私は、全部の記憶を奪ったつもりだった、奪うつもりだった…だけど、知りたくなかった事実に…私は無意識にストップをかけてしまってた………ゆっくりと受け入れていく中で、あなたの心が、足りないことに……私は…あなたに、負の感情だけを残してしまった…ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…」

 

「……!…!」

 

首を振って、大きく口を開けて、声を、出したいのに…

私の声は…誰にも届かない、僅かな、小さな声しかでない…

私こそごめんなさい、それだけ、過去の私の、心残りを…

 

「……ごめんなさい、北上さん…ちゃんと…わかるから…ありがとう…」

 

「……!」

 

伝わった……?

私の声が、届いたの…?

 

「わかるよ……私は、わかるから…」

 

ようやく、救われた……

そんな気が…する……

 

 

 

 

 

提督 倉持海斗

 

「倉持君」

 

「…これは、元帥、ご無沙汰しています」

 

…着任の時以来か…会いたくはなかったな…

 

「少し話がある、1人で来てくれるかね」

 

「……わかりました」

 

僕が案内された部屋は、個室ではなく、いつかのバーだった

そして、その部屋には…あの時同様に、悪魔が鎮座していた

 

「暫くぶりね、カイトクン?」

 

「会長、知り合いでしたか」

 

「……」

 

ヴェロニカ・ベイン…

そして、帝国海軍、元帥…

 

こんなメンバーで…何の話をするつもりだ?

 

「話というのは、腕輪についてだ」

 

「…腕輪はもう僕の手元には一つも残っていませんが」

 

「そうかな、まあ知っているが……君のところから腕輪を持ち出したのはウチの部隊だからな」

 

「………」

 

何故誇らしげにそれを語るのか、よくわからないけど…

 

「…何が言いたいんでしょうか」

 

「随分と腕輪に対して関心がないように見えるな、君にとってあれはモノかね」

 

「…モノでしょう、腕輪は、力でしかない…」

 

…質問の意味がわからない

 

「たとえ人の形をしていても?」

 

「…仰ってる意味が分かりかねます」

 

「……まあ良い、そうだ、貴様らの鎮守府より来た東雲だが」

 

「…曙です」

 

「本人がそう名乗っているのだから仕方あるまい、アイツは優秀だ、我々の艦隊でもトップクラスにな」

 

……何故今曙の話を持ち出した…?

 

「あまりにも優秀すぎて、怖いモノでなぁ…制御下に置かせてもらった」

 

「…制御下…?」

 

何だろう、すごく、嫌な感じが…

 

「あれはもはや艦娘とすら呼べんな、ただの機械と化した、実にいい貰い物をしたものだ」

 

「…何を…!……曙に…何を…!?」

 

コイツらは…仲間を、友達を…どれだけ奪えば気が済むんだ…?

曙はどうなった…?わからない…どうなったんだ…?

 

「まあ、簡単に言えば、殺した、そして脳にチップを埋め込み……おい、貴様…その手を離せ」

 

元帥の胸ぐらを掴み、引き寄せる

 

殺した?殺しただって?

頭をよぎってはいた、さっきから…

 

許せない、許される訳がない、そんな行為が…

 

「殺したとは言っても、正常な活動はしている、あとでいくらでも会わせてやろう…それとも、貴様の泊地の全員をそうしてやろうか?」

 

「……ッ〜〜!」

 

僕にできることは…何一つ、ないのか?戦うと決めたのに…守られる事しかできず、そして…仇すら討てず…

 

ただ、座り込むしかなかった

 

「さて、次だ、暁型駆逐艦、暁、響、雷、青葉型重巡洋艦、青葉、衣笠、夕張型軽巡洋艦、夕張、この6名が泊地にいるな、差し出せ」

 

「……居ません…」

 

「嘘を言う必要はない、東雲から確認を取った」

 

「…本当に、居ません」

 

「貴様、私の言うことが聞けんのか?さっきどうなるかは言ったはずだが」

 

「……本当に…居ません」

 

「……ふむ、まあ、どのみち今頃泊地を改めているはずだ…その報告によっては、わかっているな」

 

「…はい…」

 

「……話は終わったのかしら?」

 

「ええ、会長、お待たせしました」

 

「……フフフ…カイト、アナタ…ワタシの下に来ない?」

 

…コイツの、下に?

 

「会長もモノ好きだ」

 

「お断りします」

 

「…あら、残念ね…」

 

何でコイツと居ると、こんなに不快な感情が…

 

違う…この感じ……

 

「…………モル…ガナ……?」

 

「あら?」

 

「何だ、それは」

 

「………そう、だったのか…モルガナは…」

 

違和感はあった、あまりにもAIらしくない憎悪の塊となったモルガナ、それをコントロールしてる何かがいたとしたら…?

 

「あら、気づいちゃったの、勇者の勘ってトコかしら?」

 

ヴェロニカ・ベインはその顔を醜悪に歪めて笑う

 

「せっかく、ワタシの側でじっくりと教えてあげようと思ったのに」

 

…立ち上がれない

 

体に、力が…入らなかった…

 

コイツは…つまり……殺さなければならない相手…コイツさえ…居なければ…全てが…起きなかった

 

 

 

 

 

 

「提督、お顔が優れませんが…」

 

「………ごめん…僕、ちょっと…」

 

「……」

 

戻って、迎えてくれた3人が…僕には…どう見えてるんだろう…3人の首に、刃を突き立てられてるような錯覚に陥る

 

いや、それでは済まない…

泊地の全員…それどころか、下手をすれば…晶良や…ヤスヒコ達も…

 

……世界を滅ぼせば、みんな死ぬ…僕が殺すのに…

 

だと言うのに…みんなが死ぬことに耐えきれない…

 

「………クソ…!」

 

あたっては駄目だ

覚悟しろ…

 

 

 

 

 

提督 三崎亮

 

「……何があったんだ、あいつ」

 

「……すごい顔してるね…今にも死にそうな…殺しそうな…」

 

「…俺、来るんじゃなかったかなぁ…」

 

「似合ってるわよ、眼帯も外す?」

 

「…やめてくれよ」

 

馬鹿やってる奴らを置いてカイトに近寄る

 

「よう、暗いじゃねぇか」

 

「………そうかもね」

 

「…何があった」

 

「………悪魔に会った、僕は、漸く…気づいてしまった…」

 

「何を言ってるんだ…?」

 

会場の扉が開く、全員の視線がそちらに集まる

 

「来てくれてありがとう、ワタシが主催者のヴェロニカ・ベインよ」

 

…アイツは…この感じ、間違える訳がない…アイツだ…

川内がこっちに視線を送ってくる、アイツも何かを感じとってるか

 

……カイト…?

 

「今日この会を開いたのは、アナタ達にCC社と海軍の関係について理解してもらう為…アナタ達日本海軍はCC社に養われている、そこのところを理解してもらいたくてね」

 

「…なんだと…?」

 

川内がそろりと近づいてくる

 

「…提督…神通から無線、やっぱり居たみたいだよ、狙撃手」

 

「………やれ」

 

「すでに仕留めてるよ…誰を狙ってるのか、今口を割らせてるところ」

 

「そうか、気取られるな……しかし…もはやコレはただの会じゃねぇな…邪魔者を消す処刑場…と考えるべきか」

 

「………間違いないね、狙撃手も口内の毒を服用して自殺したってさ」

 

「…迷いがねぇな、1人じゃない」

 

「……那珂も連れてくるべきだったよ…絶対」

 

「………かもな、だが呉にも盾が必要だ…それにアイツは陸上では動けねぇし」

 

「……あたしも行こうか?」

 

「…いや、備えておけ」

 

「了解」

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