元勇者提督   作:無し

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苦労

舞鶴鎮守府

駆逐艦 弥生

 

「ただいま、鳳翔さん」

 

「お帰りなさい…報告は聞いています」

 

「鳳翔さん、みんなはどうですか…?」

 

「………私では抑えることができそうにありませんでした」

 

みんな親離れができてないね

 

「…薫は?」

 

「外に居ます…あの、弥生ちゃん…」

 

「……プライベート」

 

便利な言葉

 

 

 

 

「薫」

 

「弥生、おつかれ」

 

「……今日も借りた」

 

「わかってる、でも一度こっちに返還してほしい、君はやりすぎだよ」

 

「………1人でいいの?」

 

「マハは、1対多こそが本領を発揮するから…」

 

「……頑張れ、エンデュランス」

 

「うん、ありがとう」

 

剣を手渡す

装飾がチューリップから薔薇に変わる

 

「…チューリップも好きだけど、やっぱり僕の力で有る時は…僕に染まるんだね」

 

「………」

 

「何かあった?」

 

「コルベニクを発現してた、曙が」

 

「…曙って、あの?」

 

「……ウーラニアに伝えておいて…繋がりを断つ必要がある」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

佐世保鎮守府

軽空母 瑞鳳

 

「はぁぁぁ!?本気なの!?」

 

報告を済ませた途端の怒鳴り声

 

「…耳がキーンって…」

 

「せっかく……こんな物まで手に入れたのに」

 

…そう、気になっていた、身の丈を遥かに超える蒼い杖…そして先端部の光輪…明らかに現実のものとは思えないそれ…

 

「瑞鶴さん、それは?」

 

「陽炎ト踊ル巫女」

 

「…陽炎と…?」

 

「おーい、おかえりー」

 

…噂をすれば影…?

 

「陽炎ちゃんと…?」

 

「え?何?私が何?」

 

いや、というかこの奇抜な名前

 

「……あぁ、ロストウェポンか」

 

「やっぱり瑞鳳はわかるわよね、そう、アンタのいう通りなら…残り3人のうちの1人は私って事…私は、イニスの碑文使い…」

 

「…じゃあ、残るはゴレとフィドヘルか…」

 

「え?だからなんの話?」

 

「私たちも混ぜて〜?」

 

「……碑文の話です、瑞鶴さんも碑文使いとして覚醒したそうです」

 

「………いいものとは言えないけどね…最悪の形だったし」

 

「…一体何が?」

 

「………流石に相手も職業で殺しやってるだけあるわ…普通に戦って勝てる相手じゃなかったの……守る為に殺し続けるしかなかった…」

 

「…殺したんですか…」

 

「…………それも、あんな小さな子の前でね…」

 

仕方ないか、守るにはそれしかなかった…

 

「私が次は行きます」

 

「…必要ないわ、ここに移ってもらってるから」

 

「……そうですか……できるだけ皆さんに会わせないようにしましょうか」

 

トラウマ、攻撃態度…危険視するべきものは多い

 

「…心配ないわよ、私達が思ってるより、遙さん凄く強いから…精神面でね…それに、お礼まで言われちゃったし…全力で護衛するしかないなぁって感じ?」

 

「………でも負担はかかり続けます」

 

「……わかってる……何か聞いてないの?」

 

「…いえ、でもこういう時の頼る相手は…」

 

 

 

 

 

 

 

『成る程、我々も襲撃されたところでね…あんまり力にはなれませんね』

 

「……チッ…」

 

『ずいぶん悪態をつきますねぇ…全くなる気はないなんて言ったつもりはないのに』

 

「黒のビトさんでしたっけ?もう切ってもいいですか?」

 

『ああ、御自由に、ただ私たちの掴んだじょ』

 

ガチャリ

 

「えっ、なんか今言おうとしてなかった?」

 

「気の所為です」

 

「気の所為なら仕方ないわねぇ〜」

 

ジリリリリッ ガチャ

 

「はい、こちら佐世保鎮守府執務室です」

 

『ああ、申し訳な「本日の営業時間は終了しております、月曜日から金曜日までは午前9時から午後5時まで、土日祝日は午前10時から午後15時までです、何卒よろしくお願いします、緊急用の電話の際は○○-○○○○-○○○○までお願い致します」いや、申し訳なかった、反省してるので少し…』

 

ガチャリ

 

「……あれ?うちって営業時間あったっけ」

 

「月火水木金土日、全て24時間体制の交代制ですね」

 

「サービス業?いや、国民へのサービス業だったわ」

 

「この調子ならもう少し遊べそうねぇ」

 

ジリリリリッ ガチャ

 

『悪かったとは思ってるんですが遊ばないでいただけますか?』

 

「………」

 

『え、無言になってる、怖い』

 

「………」

 

『…要件だけ言いますね』

 

ガチャリ

 

「いや、今切る必要あった!?」

 

「勝手に言わせればいいと思ったんだけど…」

 

「まあ、見てて、次はこっちからかけるから」

 

『はい、もしもし?』

 

「あー、ごめんなさい、さっきかけてきてくれたのもそっちからですよね、無言だったから切っちゃった」

 

「うわっ性格悪っ」

 

『…それは……そうですか…』

 

「まあそう言われたら何も言えないわよねぇ…」

 

「いや言えるよ、私は…ねぇ、黒のビトさん」

 

『……なんでしょう』

 

「私の鼻ってさ…信じられないくらいにいいんだよねぇ、それこそ警察犬の精度は知らないけど…余裕で勝つんじゃないかな?」

 

『…だから?』

 

「ここに設置してる隠しカメラと盗聴器から部外者の匂いがするなぁ…そこんとこどうなの?黒のビトさーん?」

 

『………撤去します、わかりました、参りましたよ…』

 

「護衛のため、ってのはわかる、けどまあ、色々ダメです」

 

『……さて、こっちの話もさせてくださいよ、あなた方を狙った連中ですが……どうやら人間じゃなさそうだ』

 

「…艦娘って事ですか?」

 

『…いいえ、まだはっきりは言い切れませんので詳細を省きますが…相手は人間じゃない可能性が高い…死体も、血も……我々を襲った敵は跡形なく消えてしまいましたよ』

 

「……何?今朝見てた夢の話?」

 

『………伏せる必要もないのでストレートに行きましょう、碑文使いが作り出せる空間によく似たものが検知されています』

 

アレは検知できるものなのか…

 

『…ここから導き出せる仮説は、あの襲撃者はネットのものではないか、ということです人の形をした…そう、ネットで作り出された存在』

 

「……ふざけた冗談…」

 

「馬鹿馬鹿しい話よね」

 

『……あなた方の主戦場は海かもしれませんが、海の専門家というわけではない』

 

「…どういう意味?」

 

『私達はデータの専門家ですが…あなた方より海に詳しい自信がある』

 

「もっと噛み砕いてくれる?」

 

『あぁ…もぐもぐ…失礼…もぐもぐ…』

 

「どうしよう瑞鳳、私コイツ嫌いだわ」

 

「私もです、次であったら碑文の実験台にしましょう」

 

『おや、電話代の心配よりも命の心配が必要らしい』

 

「そうね、で?」

 

『今の海とは高濃度のデータの塊です…碑文の力が陸上では弱いと感じたことはありませんか?』

 

「……いや、昨日陸で発現したばかりだし…」

 

「比較するだけのデータがないです」

 

『…いや……理論的には落ちてしまうんです…うん、決して海の上でしか使えないわけではないのですが、海の上だと本来の動き以上のものができるようになりやすい…艦娘の艤装に関してもそう、であるはずなんです』

 

「……あ、あの…この前の九州への深海棲艦の侵攻、確か…陸上に上がった深海棲艦を倒す為に槍を使いましたよね…普段アレだけ砲撃を当てなきゃいけない深海棲艦の、装甲に…突き立てましたよね…」

 

「……言いたいことはわかるわぁ〜、少し弱かったように感じたし…」

 

「………ねぇ、それって深海棲艦も…データ…って事…?」

 

「じ、じゃあ…それってさ、つまり……」

 

『…しまった……』

 

「……そういう事なのね…私たちも…」

 

「………これで話がしやすくなりましたよね、早く続きを」

 

立ち止まる暇はない…

 

『……先ほどデータの濃度が高いと言いましたが…意味的には、巨大なコンピュータになっているという事なんです、スマホのブラウザでサイトにアクセスしようと思ったら性能がいい方が早くて正確ですよね?その性能を大きさで補っている…』

 

「……待って、話が見えない」

 

「つまり、海が巨大なパソコン…ってこと?」

 

『そうです、その巨大なパソコンの力を借りれば碑文やあなた達のパワーは上がる…ということになるはずなんですが』

 

「………なるほどね、なんでこんな話に路線がずれたかは忘れたけど」

 

『我々を襲った敵が…というところからですね、まあ、要点だけ絞り続けるのでもう少し聞いてください、この話のキモは敵がネットから出てきたとして…その敵がいる空間から碑文使いが作り出す空間に似たものが検知されている事です』

 

「シンプルに考えて全力で殺す為に、って話じゃないの?」

 

『そこにしか存在できないとしたら?』

 

「………そうか、消えた理由はそれか…」

 

「待ってくれるかしら?私達は碑文使いじゃないからそんな空間作り出せない、なのに消えないのは何故?」

 

『……艦娘は電子生命体と言われるかなり特殊なものであると我々は仮説を立てています、現実のオイルや鉄などから身体を使っている…いわゆるサイボーグに近いのかと私は考えていますが…詳細は不明です』

 

「……とりあえず敵のことを考えましょう、次は海上の戦力がくると?」

 

『……いや、それなら艦娘同士の戦いになるでしょう』

 

「………備える必要がありますね」

 

『渡会さんにはこちらからコンタクトを取り続けていますが…あの人もなかなかやる…月の樹のアクセスをブロックした上に言伝を頼まれました』

 

「最初にそれからいうべきだったのでは?」

 

『1週間ほしい、との事です』

 

「………長すぎ…」

 

「そんなに待ってたら2月になるっての…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督 倉持海斗

 

「そう思い詰めた顔しないでよ…アンタのせいじゃないんだから」

 

「…………キミたちは、どう思う?」

 

「…命を軽んじてる、というのは…あまりにも軽すぎる言葉です…私には…現実味がまだ…」

 

「……正直、納得したわ、殺された、意識を掌握された、その結果がアレなら…納得もいくし、元帥をぶちのめせばアイツを許す事も…できる」

 

[頑張って、連れ戻しましょう]

 

「…そうだね、不知火さんありがとう、ここで良いよ」

 

「わかりました、では私はこれで…師匠、ご自愛ください」

 

[ありがとうございました、また今度、一緒にお話ができれば嬉しいです]

 

「…はい、是非…!」

 

「…大事なのは記憶じゃないのね、相手と真剣に向き合えば…分かり合えるもの…」

 

「技術に惹かれた、と言ってましたけど……それ以外にも、仲良くなれる何かがあったのでしょうね…」

 

「………」

 

そう言えば、一度も一緒にゲームができなかったな…曙とは…

凄く楽しみだったのに

 

「ようっやく…帰ってきたのね…長かったような気がしてならないわ…」

 

「………気は抜けないよ、泊地で何が起きたのかわからないし」

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地

 

「あ、提督…!?お、おかえりなさい…その傷は…?」

 

「ただいま、潮、みんなは?」

 

「…え、あ、あの……ちょっと疲れ果ててますね…青葉さんが誤解で連れていかれそうになったりして…」

 

「…そういや青葉は青葉だし、間違われたのね…」

 

「……今はどうしてるんですか…?」

 

「その…翔鶴さんが宥めてますけど…掴まれたりとか、乱暴な扱いだったので…憲兵さんのことも怖がってて、部屋から出てきません……」

 

「僕も近寄らない方がいいかもね…北上、頼める?」

 

[提督が行った方がいいと思います]

 

「…アンタも行きなさい、2人でいけば少しは緊張も減るでしょ」

 

「わかったよ、他の子は?」

 

「寝てます、片付けが大変だったもので…ただ、明石さんはまだ修理が…」

 

「修理…片付け…?」

 

「……その、前回来た時に暁ちゃん達が倉庫に隠れてたってバレたみたいで…床を剥がしたり壁を壊されたり…有りとあらゆるものを……」

 

「………流石に、横暴がすぎるかと…」

 

「すぐ問い合わせるよ、ごめん、潮、また後で…明石にもしっかり休むように言っておいて、北上、先に青葉の方に行っておいて、僕は後から合流するから…天龍と曙は…休んでもいいけど、可能なら明石を手伝ってあげて、じゃあ僕は執務室に…っあれ…?」

 

「……全く、気が効く上司だこと」

 

「…優しいんですけど…もう少し自分のことに敏感になってほしいですね…」

 

[足を撃たれてる上に体も顔もボコボコに殴られて…支え無しで歩ける訳がないです]

 

「て、提督〜…つ、杖は北上さんが使ってるし…えっと…っていうか天龍さんも血塗れ…!?」

 

「あ、私のは全部提督の血です…支えてたので…コンビニに行った時も驚かれました」

 

「よく入れましたね!?警察呼ばれなかったんですか!?というかどうやって帰ってきたんですか!?」

 

「……出血死しないわよね?今更だけど」

 

「血はもう止まってるから平気だよ…まあ、輸血は必要かもだけど」

 

「輸血袋なんてどうせないわよ…一回入院しとく?」

 

「…そんな暇はない、ごめん天龍、もう一度肩を貸してくれる?」

 

「は、はい…でも一度病院に行かれた方が…」

 

「……行ったら当分出られないからね」

 

「確かに入院確定だけど犯罪犯した奴にとっての刑務所みたいな言い方しないでくれる?」

 

[潮さん、これ]

 

「えっと…明日は緊急朝礼ですか、わかりました、じゃあ…わ、私も手伝った方がいいかなぁ?アオボノちゃん…」

 

「知らないわよ…まぁ、3人も必要ないと思うけど」

 

「え、曙?天龍だけでも充分…」

 

「うっさい!このクソ提督…」

 

[微笑ましい筈なのに…]

 

「あ、北上さんもですか…なんなんでしょうね…この感情」

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、青葉、入ってもいいかな?」

 

「し、司令官…?」

 

「うん、僕だよ、すでに北上がいると思うけど」

 

「…待ってください、今開けます…」

 

「あ、ちょっと…」

 

「お待たせし……きゃぁぁぁぁぁ!?オバケぇぇぇぇ!?」

 

青葉は僕の顔を見るなら突き飛ばし、また扉を閉めてしまった

 

「て、提督!?あ、青葉さん…提督は怪我をおしてここまで来てくださったんです…なのにこれは…」

 

「ったたた……ごめん、天龍…先に変えの包帯とガーゼを持ってきてくれるかな…足の傷が…」

 

「わかりました、すぐお待ちします…!」

 

べこんっ

という音がして青葉の部屋の扉が開く

 

「ご、ごめんなひゃい…び、びび、びっくりしてしまっへ…」

 

「舌が回ってないけど…大丈夫…?」

 

「は、はい…ど、どうぞ中に…」

 

「……ごめん、ちょっと待ってね…ぐ……」

 

「あ!む、無理しないでください…あ、青葉が肩を貸しますから…」

 

「…いや、今近づいたら血がつくよ…」

 

「…青葉のせいですし……」

 

 

 

 

「ごめん、カーペットにも血が…」

 

「気にしないでください…その、先に病院に行った方がいいんじゃ…黒いスーツでもわかる血の量ってかなり不味いと思います…」

 

「大丈夫だから、前よりはマシだし…それに弾も骨には当たらず突き抜けたみたいだし、運が良かったよ…」

 

「…え?う、撃たれたんですか!?と、東京で何が…というかなんでそんな怪我をしてるんですか……!!」

 

「…まあ、色々ね…それより、僕は青葉の方が心配なんだよ……青葉?」

 

「……司令官、私は今、すごく怒っています…」

 

「え?」

 

「司令官、あなたは私たちのために死ぬ事ができますか?」

 

「……覚悟は持っているよ」

 

「じゃあそんなもの捨ててください!!私達の事なんてどうでもいいんです!私は司令官に元気でいて欲しいんです!司令官に喜んで欲しいんです!司令官が私たちを大事に思ってるのは知ってます…私達のためになんでもしてくれるのはよく知ってます…!でも、それは司令官だけが辛いとかじゃないですか!」

 

「青葉…?」

 

「私たちが辛い時には司令官は必ず来てくれるかもしれません、いや、来てくれます、手を差し出してくれます!私は誰より信頼してます……だけど…だけど…!司令官は私たちが楽しい時や幸せな時には側に居てくれない…なんでですか…!?」

 

「…そんなつもりは…」

 

「摩耶さんやアオボノさんが困ってたら、何かサポートできることを必死に探してます、明石さんが暴走した時もケアを怠らなかったし、潮ちゃんが轟沈したって騒ぎの時も司令官は悲しみながらも立ち止まらなかった…私は頑張り続けてる司令官を見てるのは…もう…辛いんです……!」

 

「……青葉、僕は…仲間と過ごす時間が唯一、幸せな時なんだ…だからキミたちが楽しそうに過ごしてくれることが一番嬉しいんだよ」

 

「貴方はなんなんですか…!?人間ですよね!?人間ならもっと幸せになってください!貴方は人間なんです!貴方は脆いんですよ…!だから…だから……!」

 

「……青葉、大丈夫…僕は居なくならないよ」

 

「………やめてよぉ…!私の事を気にしないでよ…!自分のために生きてよ……!」

 

「………」

 

「く……ふぁ……青葉さん…?だ、大丈夫…?」

 

「翔鶴…おはよう」

 

「……おはようございます、提督、御怪我をされているようですが」

 

「…気にしないで」

 

「北上さんもおはようございます…失礼します、総員お越しをかけてきます」

 

「ダメだよ、みんな疲れてるんでしょ?ゆっくり休ませてあげないと」

 

「……私が許容できません、我々の指揮者がそんな状態でダラダラと寝ているなどもってのほかです」

 

「僕のために起こすならやめて」

 

「…止めたいのなら、ご自由に」

 

「………止められる訳ないかぁ…せっかく座らせてくれた椅子からも落ちちゃったし…」

 

「…お待たせしました…包帯とガーゼ、見つけました…」

 

「あ、天龍…ごめん、青葉、ここで変えてもいいかな?」

 

「……司令官…」

 

「……何かな」

 

「…壊れてますよ、司令官の心」

 

 

 

 

 

 

「壊れてる、か…」

 

結局、僕は青葉を元気にするどころか怒らせるだけ、最後には追い出される始末、仕方が無いので天龍に肩を借りて執務室に向かう

 

「……ひどい有り様だね」

 

「そういえば既に連絡はされてましたよね…どうなったんですか?」

 

「修理費用は向こうが持つってさ…明石にも伝えなきゃ…」

 

心が壊れてる…壊れてるかぁ…

意識したことがなかったけど、美味しいものを食べて嬉しい気持ちになったり、仲間と楽しく過ごすことが好きなことは…異常じゃない筈だ

 

「……天龍…」

 

「…北上さん曰く、少し病的なんじゃないかと…」

 

「北上もそんなこと言うかぁ…」

 

ちょっとショックだなぁ……

 

「提督…趣味はなんですか?」

 

「……なんだろうね、ゲームかな」

 

「……久しぶりにゲームに没頭する、と言うのは?」

 

「…できないよ、こんな時に」

 

「………失礼しました…」

 

僕の部屋の前で天龍が止まる

 

「…天龍?ここじゃないよ?執務室に…」

 

「ちょっと用事がある方がいるんです、時間は取らせないから提督をお連れしろと」

 

「…まあ、わかったよ」

 

誰だろう

 

「失礼します」

 

部屋の主を抱えたままそう言って天龍は僕を電気すらついていない部屋に連れ込む

 

「…暗くない?誰がいるの?」

 

「…今来たじゃないですか…」

 

「え?」

 

……あ、ハメられた

 

抵抗することも叶わず僕はベッドに引きずられ、その上に寝かされた

 

「…お許しください…病院に無理矢理連れて行くことも考えました…でも、私は提督の意思を尊重しますので……」

 

「じゃあ執務室に…」

 

「……折衷案です」

 

総員起こしの放送が鳴る

 

「……早く寝ないとすぐに人がなだれ込みますよ」

 

「…シャワーが浴びたいんだけど」

 

体はドロドロのベタベタだ

 

「…後で拭くものをお持ちします」

 

「……やっぱりいいや、うん、なんでもない」

 

「逃げられませんからね、提督…」

 

「……わかってるさ…」

 

僕は、この戦いから逃げない

ヴェロニカ・ベイン、そして海軍元帥を討つ…

 

世界を再誕させ、やり直したい…だけどそれよりも先に…これは私闘だ

絶対に誰も巻き込まない、だからこの感情は殺せ…たとえ這いずってでも、血を舐め続け、その先が地獄だろうと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐艦 朝潮

 

「………はぁ…」

 

「どうしました?」

 

「…司令官のことで…」

 

「…アレはもう病気なんじゃない?」

 

「…霞…言い過ぎ…」

 

……何を求めてるのかがわからない

力だというなら私たちを振るえばいい

 

だと言うのに…

 

思い出せ、そういえばあの腕輪は盗まれた…はず

ならば何処にある?いや、当然横須賀か

 

私たちに期待しないなら…それはそれで仕方ない

ならば、何かを供することで満足するのなら、私はそうするべきだろう

 

…胸が締め付けられるような想いだ

 

私では役に立たないと言うのなら…私はどうすればいい…私の存在価値はもう失われた…

アウラは消えた、私の元から…それは構わない、私が私である事を示すチャンスなのに

 

「あの〜、司令さんは姉さんに期待してないんじゃないですよ〜?」

 

「山雲?」

 

「私たちが死ぬのが嫌だから、自分の手の届く範囲だけで完全に終わらせたいんですよ〜」

 

「……そんな理由…?」

 

「だとしたら今更だからないと思うわぁ〜」

 

「…多分、私達には、情報が足りてない」

 

「……予想するだけ無駄なようですね」

 

「………明日の朝礼、早く来ないかな」

 

「…そうですね…」

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