元勇者提督 作:無し
離島鎮守府
軽巡洋艦 川内
「………」
「何してるの?」
「…春雨?いや、別に何も」
自嘲気味に笑い、簡単な受け答え
自分に自信を持てないが故の…
「…川内、これ」
「え?おにぎり?今日の御飯じゃないの?」
「………うん、でも、私はもう食べなくて良いから」
春雨は何かを抱えていて
そして片手で差し出すおにぎりは…
空腹で何も考えられなかった
「………」
差し出されたおにぎりを、受け取り、頬張る
米は最低品質で、炊き方も悪い
べちゃべちゃ、カサカサの米を無我夢中で頬張り、喉に流し込む
たまらなく、美味しく感じてしまう
「川内、普段から食べてないからさ…神通や那珂にばっかりあげてるでしょ?」
「……そのためにわざわざ抜けてきたの?バレたら処罰だよ?」
「……それは偶々、それに…もういいんだ」
「…?」
「……月が綺麗だね、蒼くて…」
そう言って、春雨が指を指すままに私も月を見る
「…本当に…月が…キレイ…」
「うん、1月だから風が寒いけ…ど……」
直後に水の中に何かが落ちる音がした
目の前で水柱が立った
「え…?」
水柱の中に落ちていく、春雨の顔を見ながら、私は立ちすくむことしかできなかった
「姉さん、夜戦に突入します!」
「…よ…る…?」
夜は…暗くて、寒くて…
『月が綺麗だね』
「うわっ…うわぁぁぁぁ!!」
「姉さん!?」
「だ、ダメ!」
なんて非情なんだろう
「姉さん、大丈夫ですか?」
「…ご、ごめん…本当に…ほんとにごめんなさい…ごめんなさい…!」
「…神通姉さん…」
「……那珂ちゃん、不安にならないで…私たちも…いつまでも守られる側じゃダメなんです…」
違う、私が守らなきゃ…
2人は、私が守らなきゃ……
その思いとは裏腹に
2人は強くなり、私だけ戦果が奮わない
「夜戦に突入する…!」
「うぐっ…!」
夜戦が始まるだけで、私は頭が締め付けられるように痛くなった
速度に振り回されてバランスを崩したり、急に吐いたり、パニック障害も起こした
だけど誰もそれを責めなかった、だから私はより病んで行った
報告はいつも神通がこう言う
「姉さんがサポートしてくれたおかげで乗り切れました」
他の誰も何も言わない
私を憐れんで…ここを早く出られるように…
その楽さに甘えたいなんて思わなかった、この環境が続くだけで私は余計に苦しむ、だから私は夜を克服する努力をしていた
でも、それが逆に私を悪化させて行った
「な、なに…?ダメ…ダメ!!」
「嘘でしょ…?また沈んだの…!?」
夜はとても残酷で、一瞬でも油断したものの命を奪っていく
「朝潮!ダメ!行っちゃダメ!」
「姉さん!ダメなのに…何で私を庇って……!」
「やだよ…嫌だ…もうやめてよ…!」
沈んだ子は帰ってこないのだ
「駆逐艦朝潮です、よろしくお願いします」
たとえ同じ姿でも、別人で、違う存在
「…姉さん、此処が今日から、私たちが過ごす鎮守府ですよ」
「……此処なら大丈夫だから…ほら、元気だそ?」
「………うん」
暫くしてから、私たちは呉鎮守府に移ることになった
「あらぁ〜、お久しぶりね〜」
「荒潮さん…」
「良かった…また仲間に会えたよ…!」
「……荒潮…」
荒潮が此処を出た後に、朝潮が着任した
でも、私たちはそれを伝えることは憚られた
生きて、出られるとは限らないから
「ふーん、まあ、俺も新人だし宜しくな」
そう言って片手をあげる提督
「…あの……私、夜戦ができなくて…」
「夜戦ができないってどう言うことだ…?」
「夜恐怖症なんです、夜は、たくさんの味方が死んでしまうから……」
「……そうか、まあ一応頭に入れておく、流石にいきなりそこまで対応するのは難しいからな…」
「…お願いします…!」
それから、朝潮が来て…
「…おめでとうって言って良いのかな、朝潮」
「…はい、あの子達のことは、受け止めた上でここに来ています」
朝潮は私より強い…覚悟があった
演習で那珂が大破した時は本当に沈むかと思ったし…AIDAに感染して後ろから殴られた時なんか…本当に怖くて…
それでも、無我夢中で生きていて…
でも、そうすればするほど…私が孤独になって、苦しくなって…
立ち向かおうとした時に…また出逢って……
『もう違う』
あの時は、気付くのが遅れて伸ばせなかったけど
手の届くところまで、仲間が戻ってきたから
必死に何度も手を伸ばして、掴もうとして
何度も空を切っても、諦めなくて
『……なんで…解体しなかったの……』
『………相手にならない…!なんで…貴女は……何でこんなに弱いのに此処にいるの…!』
『生かしてあげる……もう2度と姿を見せないで…お願いだから…!』
負けても諦めなかった
私は、本気だったんだって、自分に言いたかったから
私は殻を破れるんだって
『行クよ…川内…!』
『ココカらハ…私ノ世界…スケィス!』
深い海の底に沈められて
それでも、私は、手を伸ばし続けて
来い…
来い……!
[ミ・ツ・ケ・タ……!!!!]
改二になって…
「そして…コレも見せてあげる…此処に…」
新たな力も手に入れた
「来て!スケェェェィス!!」
私は、強くなれた
だから、春雨を…連れ帰れた
それが春雨の望んだ結果とは違ったかもしれないけど…
『……月ガ……月…が…綺麗」
また、笑ってくれたから…私は正しい事をしたと信じてる
でも、私は姉妹を軽んじた
だから、私から2人が離れて行った
「私ヲ受ケ入レてクレナイ…!」
『…確カニ、川内姉サンノタメニ…ミンナノタメニ…強クナッタ、ダケド…ソレハ昔ノ話!』
私は、1人では生きていけないんだ…
力があることが、私を救ったことなんてないんだよ
ずっと守ってくれてありがとう…私は、もう大丈夫だから…次は、私に守らせて…
足りなければ補うしかない
だから、私はずっと誰かの手を求めてる、必死に掴もうとしてるんだ
だから、貴方も…私に手を伸ばしてよ…お願いだから……
ポーーン
ハ長調ラ音、そう呼ばれるこの音は私の芯を木霊し…
『……来て…そう…ここに……』
私の中を駆け回り…
『良いよ………来てッ!!…スケェェェェィス!!』
開花する
『……これが…Extend…』
赤いマフラーを、靡かせて
『これが…新しいスケィス…』
暗闇を自分で追い払い…
『呉鎮守府、第一艦隊所属…川内型軽巡洋艦一番艦、川内…参る』
進む