元勇者提督 作:無し
佐世保鎮守府
軽空母 瑞鳳
ジュ〜ッと油が音を立てる
「…やっ………ほっ……」
鍋を振り、クルクルと卵を返す
「……よし」
まな板に取り、切り分けて皿に移す
「…よし…形よし、火通しよし……あふっ、味も良ひ…あふ…」
良い卵焼き、何処に出しても恥ずかしくない完成度…!
「また卵焼き?」
「……何か文句でもある?」
「いいえ、一つもらっても良い?」
「……だめ、コレはリコちゃんの分だから」
「またぁ…?」
「……良いでしょ、別に」
私は幸せな日々を過ごしている
そして1日ごとに…心が重くなるんだ
私の心は、常に重い
私の中には、罪悪感があり続ける
これは誰の罪悪感?
これは誰に対する罪悪感なの?
北上さんの私に対する罪悪感
私の北上さんに対する罪悪感
私は許されるために戦う
「…タルヴォス!!』
私が力を振るうのは誰かのため
自分のためじゃない…
私は北上さんの今までの人生を奪った
だから私は代わりに…覚悟を決めた
すごく遅かったけど
その時が来るまで私は頑張り続けるって約束したから
「あら、瑞鳳さん」
「…不知火、どうかした?」
「…いえ、でも最近思い詰めた顔をされてますね、どうかしましたか?」
「……そう見える?」
「はい」
…思い詰めた…か
私自身が今に納得してないのも、落ち着いてないのも…仕方ないんだ
だから、私は戦ってるんだから
「…ちょっと付き合ってよ、気晴らしに」
「気晴らしですか、何を?」
「………なんでもいい、何でも良いから…楽しみたいかなぁ…」
私はこの与えられた力をもう少しだけ振るわなきゃいけない、私が終わりを決めるのなら
それはまだ先の事だから
「そう、か…」
花びらが舞い散る
薔薇の濃厚な匂いが…鼻に残る
「……お前が……」
今こそが…
「瑞鳳、どうしたのよ」
「瑞鶴さん、これ」
「…アンタ最近疲れてるんじゃない?もっとゆっくりして良いのよ?」
「………思ったより早かったから」
「何が?」
「……瑞鶴さん、私は私の意思でしか動かないから、その指示は聞かない」
「…別に指示なんて…」
だめだ、焦るな…
「あ、ごめんなさい…ちょっと最近卵焼きがスランプ気味で…八つ当たりしてしまいました」
「……そう、まあ、弓の訓練も怠らないでね」
「……最近の私の艦載機の発艦は素手ですけどね」
「タルヴォスの能力ってやつ?何で腕力が上がってんのよ」
「呉の提督が詳しいらしいので聞いたんですけど、どうやら元々格闘系統の人の碑文だったとか」
「…だからアンタは肉弾戦に頼るわけ?」
「織り交ぜながらやりますけど…最後はそれしかないんでしょうね」
「ロストウェポンもそうだしねぇ…」
……私は、多分…
『……やるの?』
『ケリをつけるのは、私の役目だから』
『…………じゃあ、後は…』
『任せて』
崩れ落ちる世界
砕け散る世界
私だけは帰れない、進めない
私だけは…ここでみんなの為に…自分自身の為に
最期の香りはずっとあった
どんどん強くなる、薔薇の香り
貴方に全部、これを返す
利子もつけちゃえ
遠くのあなたはきっと泣いてくれる
その一粒の涙が私の心を救ってくれるから
『鬱陶しいよ、私の邪魔をしないで』
目の前の敵を叩いて潰す
私の目に映るのは地に伏した仲間たち
死んではないものの…気を失っている
そして、一体の敵
唯一立っているのは私だけ
私が守らなきゃ、いけないんだ…
『…………ごめんみんな、さようなら』
私は、全部…
全部もらった、もう一回生きたし、大事な仲間もできたし、楽しかったから…
もう満足だから
『後は…お願いします………北上さん」
途切れゆく意識の中で、空を掴もうとした
最期の瞬間までも、私は欲張りである為に