元勇者提督   作:無し

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辿る足跡

呉鎮守府

 

「あんの馬鹿上がぁぁぁぁ!クマ!」

 

「次あったらタダじゃおかんニャ」

 

「ま、まあ、姉さんも仲間を守ろうとしただけなんだし…」

 

「そ、そうですよ、北上さんだけが悪いわけじゃ…」

 

「おーおー、騒ぐならよそでやれ、仕事が進まん」

 

「うるっせークマ!さっさと出撃許可をよこせクマ!」

 

「何処にだよ」

 

「北上に決まってるクマ!」

 

「個人相手に出撃してどうすんだよ…」

 

「ボコボコにするんだニャ」

 

「悪かった、今のは質問じゃねぇんだわ」

 

「おらー!!さっさと出撃させろクマー!」

 

 

 

 

 

離島鎮守府

 

重雷装巡洋艦北上

 

「…っ……寒気が…」

 

「風邪ですか?」

 

「いや、その…曙のせいかな…」

 

「……あー…あんなに怒ることないのにね」

 

「まあでも褒められたことじゃないのは間違いないわね、うちで一番の戦力が落ちたらどうするのって話よ」

 

「…霞もなかなかキツイねぇ…」

 

「私も同意見です」

 

「……やっぱ駆逐艦苦手…」

 

「聞こえてるわよ!」

 

「やだぁ…甘やかしてくれる人が欲しぃ……」

 

「何もしてないのによくいうわね」

 

ここしばらくは出撃させてもらえてない

だから周りには怒られるし、面倒見られてるし、でも心は治らない

心の肩こりってやつ

 

「…せめて訓練させてくれない?」

 

「提督代理の許可をとればね」

 

「……明石はまだ許してくれないよねぇ…」

 

正式に明石は提督代理に就任した

鳳翔さんが秘書官につき、二人がかりで仕事を進めている

内容に関しては青ざめたり赤くなったりと、とても大変そうだった

 

「執務の手伝いもダメ、出撃もダメ、なんなら訓練もダメ」

 

「ぜーんぶダメね」

 

「そんだけ愛されてんのよ」

 

「うへぇ…大井っちより重いよ…冗談でもきついって」

 

「ま、でも確かに流石に長すぎよね、一週間は」

 

「私たちも具申してあげるからもう少し辛抱しなさい」

 

「ありがとねー、やっぱ駆逐艦はいい子が多いなぁ」

 

「あんたの手のひらは高角砲かなんかなの?」

 

「例えが新しいわね…」

 

 

 

夜 丑三つ時

 

「…さて、行きますか」

 

何もせず眠れるわけがない

艤装を纏い、あの感覚を呼び覚ます

 

あの時の、あの部屋の、あの中で感じた微かな違和感を手繰り寄せるために

 

「私だけ今のままじゃダメ、助ける力を手に入れなきゃいけない」

 

私には所謂紋章方は手に入らなかった

砲から放つ方も結局そう呼んでる

魚雷の強化もなかったし

何が悪いのかわからない

 

でも一つ違和感が残った

 

「なんであの時はあんなに…」

 

そう、あんなに主砲の威力が出たのか

 

まさか空母や重巡型の敵を一撃で倒せるような威力が?そんなわけがない

 

「………来ない、あの感じが」

 

精神を統一して、待つ

 

ピリッ

 

「………」

 

反応しない、この神経がピリピリし始めた、それを理解しても反応はしちゃいけない

まだ奥に

もっと深いところにあるそれを目指して

 

「………」

 

なんだろうこの感じ

違う、あの時と

 

「…………」

 

でも見える、今後ろから近づくのが誰なのかも

 

「…明石、どうしたの?」

 

「え、あ、よくわかりましたね」

 

「ん、寝てると思ってたけど」

 

「…まあ、窓を見たら艤装をつけて歩いてるのが見えたので」

 

「そう、大丈夫、ただイメージしてるだけだから」

 

「……別に止める気もないです、あと、明日から執務手伝いをお願いします」

 

「おっけー、話はそれだけ?」

 

「…はい」

 

「…………」

 

明石には悪いけどそんな暇はない

感覚を鋭敏にし、何度も研ぐようにする

 

いつ、辿り着けるのだろう、この先に

長い長い道を見ている気分になる

 

だけど、今、踏みしめた、一歩目を

 

 

 

 

工作艦明石

 

正直、舐めていた

大本営がここに求めるものは最悪だった

大量の資源と戦果を求める書類

そしてそれを果たせなかったことに対する叱責の文

解体を強要する文書

建造で指定の艦を出せという脅し文

 

目を晒せばキリがないが、必要なものと不要なものに分け始める

 

この書類の束を終わらせれば、ようやく楽しみが待っている

 

深夜のこの時間に、私はカイトを覗き見ることが楽しみになっていた

パソコン自体はよくわかっている、組むことも修理することも容易い

だが操作して、遊ぶ、計算するとなるとできない

私にはこのデータは高級すぎる教本だった

 

ブラックボックスと言われるそれを覗き見た

その名に違わぬ警備があるはずが、そんなものはなかって

なんの抵抗もなく中身を見られた

 

そして、何もかもを理解したかのような悦に浸れた

だが、とても辛かった

私が求めてるものじゃなかったから

そして私にない温もりが機械にあったから

 

辛さを紛らわすために海を見たかった、窓を覗き込むと艤装をつけた北上が港に向かったいるのを見てしまった

思わず走って止めにいった 

 

 

「ただイメージしてるだけだから」

 

この一言に徹底的な差を感じた

私には分からない戦闘の、そして、強者の言葉だと受け取った

 

私ではこの人のように役に立たない

だから執務を頑張っていた

でも、この人なら何をしても腐らず頑張るんだろうな

 

そう思うと悔しくなった

でも同時に見たくなった、この人の強さを

 

私が強くなるために

この人のようにではなく、私なりに

どうにかしてみんなのために

 

 

 

 

 

駆逐艦曙

 

「そ、いいんじゃない?」

 

「適当ねぇ!あんたそれでも私なわけ?」

 

「別人なのはわかってるでしょ?それとも何?名前変えろっていうの?」

 

「…ふんっ!」

 

毎日喧嘩喧嘩の日々

だけど仲が悪いわけじゃない、お互いの考えてることはわかるから、連携なら抜きん出ている

 

「ねぇ、抱いて欲しいんだけど」

 

「なんでよ」

 

「…今日、間宮さんのお手伝い当番なんだけど、っていうか私たちニコイチよね?」

 

「……やば…」

 

鳳翔さんが食堂を離れたからみんなで順番にお手伝いをしている

日替わりは担当のリクエストや得意料理となるため、料理下手な人がつくと少しおぞましいことになったことがある

 

例えば朧と潮は酷かった

潮の甘いもの好きと朧の海鮮好きを活かして海鮮パフェ丼などが出てきた時は絶望したものだ

当の本人たちは美味しそうに食べていたから余計にわからない

それ以来私はカレーを毎日頼むようにしている

曙は懲りずに日替わりを頼むけど

 

 

「何か作りたいものかリクエストはありますか?」

 

「…ハンバーグ」

 

「あぁ、ニンジンたっぷりのやつね」

 

「それって確か漣ちゃんの好物じゃない?喜んでくれるわよ!」

 

「そうだったかしら」 

 

素直じゃないやつ

 

「なんか言った!?」

 

「思っただけよ、じゃあ私はフレンチフライが食べたい」

 

「じゃあ日替わりはハンバーグ定食ね、頑張りましょう」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

駆逐艦曙

 

日々不安が募る

 

なんでもう一人の私はこんなに落ち着いてるんだろう

本当に私なのだろうか

 

「別人なのはわかってるでしょ?」

 

そうなのに…どうして…私に私を求めちゃいけないけど、求めたい気持ちでいっぱいいっぱいになる

 

私に特別な力があって、それはまだ目覚めてなくて

誰も救えなくて…

 

毎日が辛くなる

もう一人の曙はすごいな、私より強くて、素直で、立派で

 

「…今日、間宮さんのお手伝い当番なんだけど、っていうか私たちニコイチよね?」

 

忘れてた

漣のためにハンバーグを作りたかった

未だにちゃんとお礼ができてない

あの子は優しいからわかってくれている

そんな甘えた感情は許せない

だからせめて形あるもので伝えたかった

 

間宮さんのところに向かう途中でふと曙が呟いた

 

「海鮮パフェ丼…」

 

ああ、あれか…赤城と加賀が食べきれなかったことで有名になった…

私はそれよりも漣と北上さんのハイパー魚雷スペシャルの方が辛かった

まあ、実際は名前こそ変だが、唯のエビフライ定食(爆盛)というだけ

でも辛くてもなんでも全部食べる、みんなが作ってくれたものを食べると少し仲良くなれる気がして、嬉しい、この気持ちを伝えられない自分が嫌になるけど

 

 

 

 

「ぼのたんありがとねー!さすがだったよ!美味しかった!」

 

「あ、そう…」

 

「喜びなさいよ、直接言いに来てくれたんだから」

 

「良いんだよボーノ、ぼのたんの気持ちはよく伝わってるから」

 

「勝手に理解した気にならないでよね、勘違いだとか思わないの!?」

 

しまった、心にもないことを

漣も一瞬暗い顔してたし…ええい、ままよ!

 

「ま、でも、前に連れて帰ってきてくれたお礼ってことは言っといてあげるわ、もう期待しないでね」

 

「!……もうぼのたんったら…私惚れちゃう!」

 

「うっさい!きもい!あーもう!くっつくな!」

 

「本音は全部逆」

 

「だまれぇぇぇぇ!」

 

「否定しないぼのたん尊み…」

 

 

 

夜になる

夜は嫌い

考えてしまうから

早く、この手が、力を手にしないと……

 

「早くみんなを助けないと」

 

ずっと焦ってる

 

だから

 

「早く帰ってきてよ……クソ提督…」

 

この力は私のものじゃない

だからさっさとあんたが奮えばいい

 

あんたが使えば良いのになんで私なんかに

 

「…ダメ、私も…前を向かなきゃ……」

 

広大な世界の中から、足跡を追う

果たして進んでるのか、戻ってるのか

誰のものなのかもわからない

道を切り開くのは己だと誰かが言った

でも、足跡を辿ることを否定する奴はいない

 

だって、みんな誰かの背中を追いかけているから

私には見えない背中でも、足跡くらいはまだ見える

 

「……勇者ねぇ……向いてないし、何より柄じゃないわよ」

 

それでもやらなきゃ

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