元勇者提督   作:無し

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絶望

ベイクトンホテル ペントハウス・スイート

曽我部隆二

 

「いやぁ〜、今回で貴方のツラを見るのも最後になりそうだから、嬉しいもんですねぇ」

 

「あら、随分な挨拶ね、リュージ」

 

今すぐにでもそのツラに唾を吐きかけてやりたい

 

冷静を装って書類を取り出す

 

「さて、これは私の独自調査による謎解きの結果です」

 

「あら」

 

「…まず貴方の経歴から行きましょうか…貴方はALTIMIT社のプログラマーから役員に上り詰め、そしてサイバーコネクトサンディエゴに出向…そのあと最終的にはいまの会長職に就いている…不思議なもんですねぇ」

 

「それがどうしたの?貴方の知ってる通り、私は貴方の奥さん達がこの地位に登らせてくれたのよ」

 

「………貴方は、The・Worldというゲームを作り出した天才、ハロルドのプログラムに…アウラの創造主たるハロルドのプログラムに細工を施した」

 

「肯定するわ」

 

…余裕たっぷり…か

腹立たしい限りだ…

 

書類を握る手に力がこもる

 

「貴方はモルガナ・モードゴンのデータを書き換えた…アウラを守る母に悪意を植えつけた」

 

「正確には自己保存の自我を与えただけよ、あんな行動に出たのはモルガナの意思」

 

「……そんなことはどうでも良い、重要なのは…何故今となってモルガナという存在が出てきたかだ」

 

「あら、随分と推理小説が好きなのね」

 

「ええ、江戸川乱歩とかコナンドイルは大好きでしたよ、でも…これはそんなに素敵な推理小説と比べるにはあまりにも馬鹿馬鹿しい…」

 

「馬鹿馬鹿しい?」

 

…どうやら、自分の物語を随分と高尚なソレと考えていたらしい

ようやく泥を塗ってやれた…なら,秘密兵器を見せてやろう

 

「ヴェロニカさん、貴方は以前私にこう言った…『私は才能のある人間が好きなの。瀬戸悠里は思想が歪んで狂っていたけれど、まぎれもなく天才の一人だった。彼が何を生み出すのか。今すでにある既存のテクノロジーを駆使して何を生み出すのか。私はそれが見たかった』…と」

 

つい最近あった、語られることのない戦いの記録…

お前には致命的なダメージだろう…

 

「……どうやって録音したのかしら」

 

「ああ、これは合成音声です、よく似てるでしょ?でもこれじゃ声紋認証を通らないなぁって思って、でもその反応を見たらこれでも充分通用したんだなぁ…いやぁー、惜しい事したなぁ!」

 

お前グラスを呷る姿は実に心地いい

物事が思い通りにいってることを証明する瞬間だ

 

「さて、あ、これですけどこのネクタイピンに仕込んでました,まあもう要らないので、はいどうぞ」

 

それは音声を流すことしかできない

だからもう要らない

 

「貴方はゲームマスターに憧れてましたねぇ…あ、そういえばモルガナ…あれは当事者になっちまってましたが…似たような立場かぁ…ねぇ?」

 

「…何が言いたいのかしら」

 

歪ませろ、その醜悪なツラを…

 

「…例えば、貴方がモルガナに成り代わる…とか、やりそうだなぁって思って」

 

「……へぇ…?」

 

「貴方は…才能のあるプログラマーかもしれない、いや,そうなんでしょうね…だけど、人の心はない」

 

「何が言いたいのかしら」

 

「…その体に未練はないんでしょう?」

 

「ええ、全くないわ」

 

「………流石に、ここのチェックの目を盗んで銃を持ち込むことはできませんでした」

 

「あら、残念そうね」

 

「ええ、全くだ…」

 

……何かいるな…

マズイか…これ以上はこちらが危うい可能性がある

 

「正直な所、俺は今日、殺しに来たつもりでした…でもどうやらソレも叶わないらしい」

 

「私にはガードがいるわ、優秀なのをつけてくれたから」

 

…ここまでか

 

「………仕方ない、俺ももう少し上手くやりたかったんですが、持ち込めたのはこれが限度でした」

 

「…VRスキャナ…?……捕らえなさい!!」

 

「次会う時は…アンタのそのツラ潰してやる」

 

VRスキャナを装着した時点で俺はもう帰れない、その肉体と完全に乖離する

 

 

 

 

 

「あ、どうも、お元気ぃ?」

 

「………え、なんでいんの…」

 

目をパチクリ、口をあんぐり

いい反応だ、どうやら…まだ生きてるらしい

 

「少年…俺に対しての当たりがきつくないか…そーんなに俺が嫌い?傷つくなぁ」

 

「…待って、なんで…フリューゲルの格好で…現実に…?」

 

「…そりゃお前…ここがゲームの中だからに決まってんだろ…」

 

「え!?お、俺いつの間にリアルデジタライズを…!」

 

遊ぶのはこんくらいにしといてやるか

 

「あー、トキオくん?嘘だから、嘘」

 

「嘘なのかよ!!で?なんでその格好で…」

 

「……俺の身体は捨てたからかなぁ…多分今頃ミンチだぜ、ひでぇひでぇ」

 

「…一体何が…」

 

「悪の親玉と差し違えてやろうかと思ったんだけど…ソレも無理そうだから逃げちゃった…って感じだねぇ…情け無い?やめてくれよぉ…」

 

笑ってみせても…ダメか、空気が和むかと思ったんだけどなぁ

 

「リーリエは…」

 

「頼んであるよ、安全なとこにいる…」

 

ウーちゃんなら任せてもいい、俺の決めた答えだ

あいつに守れないなら俺にも守れないだろうし…

 

「…どうやって?」

 

「VRスキャナ…わかるだろ?The・Worldプレイするときに使う奴…あれをチョチョイと弄ってな、俺の記憶や記録だけをしっかり抜き取って…作らせた」

 

「……まさか…」

 

「多分、俺は記憶だけで自我が形成されてる…俺自身は死んでるだろうからな…」

 

「…そんな…」

 

「でも思ったより死んだ感じってしないもんだねぇ、本当に俺自身だったりして」

 

「…なんで…何でそんな事したんだよ!!」

 

「…命狙われたからに決まってんだろぉ…別に俺も死にたかねぇよ、でも一度明確に狙われた以上は今後も危険だ、リーリエが日本に居なかったのは偶然だが、俺にはそうしろと言われてるようにしか思えなかった」

 

あの襲撃がカイトを狙ったものだったのか

ソレはわからない、だけど俺もあの場に居た以上…時間は残されてないはずだ

 

「ま,心配しなさんな、俺は俺だからよ」

 

「………」

 

このフリューゲルってキャラが死ぬ時が俺の死ぬ時…

 

「…なぁ、ところで何でお前さんがここにいるんだ?カイトの痕跡を追ってきたんだが…」

 

「俺も命を狙われたから…雲隠れしたんだよ」

 

「……そうか、お互い大変だなぁ!少年!」

 

「……軽すぎるよ…」

 

……軽くはない、だが俺が取り乱すことは…トキオに戦意を失わせることになる

この先、トキオに戦ってもらう必要があるだろうからな

 

「…ま、気を落とすなよ!しっかし、ここどこなんだ?地図にも載ってねぇだろ」

 

「……離島鎮守府って言うらしい…」

 

「…そこは確かこの前の新聞で…」

 

落とされた、と言う報告から一月もたっていない

取り返したのなら大々的に宣伝する筈だから…表向きには報告してないのか

つまり…俺やトキオの隠れ蓑にはピッタリなわけだ

 

「……なあ、フリューゲル…」

 

「あ、なに?何で俺がこの身体リアルに持ってかれるか?ソレ聞いちゃう?いやぁ…これ実は秘密なんだぜ?」

 

「じゃなくて!……リーリエのこと、本当に大丈夫なんだよな…?」

 

「…だーかーら、大丈夫だっての…何?惚れた?」

 

「……もういい」

 

話を切り上げたい時は相手に切り上げさせるに限る

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地

提督 倉持海斗

 

「…そう、そうか…うん、わかった、起こった以上仕方ないよ」

 

曽我部さんが…ネットの体で現実に出て来たか…

 

少し弱ったな…でも逆に考えれば専門家がより近くに来たような物だし.良く考えておこう

 

「提督、お客様がお見えです」

 

「通して」

 

…外国人か…いや、確か会った事がある

 

「どうも、倉持はん、ワタシ、デビット・ステインバーグって言うんやけど、覚えてはります?」

 

「はい、曽我部さんと一緒に来られた方ですよね、今日は何か?」

 

「…いや、ワタシの方も手詰まりな状況で、どーしたらええんかわからんのや」 

 

「…何か聞きたい事は?」

 

「……タイムリミット」

 

成る程…

 

「…リアルデジタライズ学については」

 

「曽我部はんほどやない」

 

「充分ですね、認知外依存症もご存知ですか」

 

「…あれやろ、日本語にするのが難しいけどネットにリアルデジタライズしたらデリートされるって事やろ」

 

「正確には自然に拡散消滅する、らしいです…」

 

「まあ、概ね曽我部はんから聞いとる通りやろ」

 

「…じゃあこの世界の状況も?」

 

「…知っとる」

 

ネットとリアルの境界を失いつつある世界…

それがわかっているなら何をしに?

 

「…何故わざわざここに?」

 

「曽我部はんにアンタを訪ねろと言われた」

 

「…成る程…その…僕は、認知外依存症です」

 

「…現実で、か…?ここまでは聞いてない…」

 

「現実で認知外依存症が発症する…その意味がわかりますか」

 

「……いつ、消滅するんや」

 

「わかりません、どんどん現実との境界が無くなっていく…それがハッキリ観測できてしまっていると言う事はかなり事態は深刻です…曽我部さんには来年を迎えるどころか、夏まで自分が存在してるかわからないと言われました」

 

「…曽我部はんが、って事やとしたら…曽我部はんも発症しとった?」

 

「…確かめてはいないそうですが恐らく発症はしていません、でもいつか、誰でも発症すると」

 

「…誰でもか…それが…タイムリミット…」

 

「それと、コレは憶測の域を出ないのですが…」

 

「聞かせてもらえるとありがたいですわ」

 

「…おそらく一般人はまだ発症してないのではないか、と考えています」

 

「…一般人以外というのは、艦娘?いや、それやと倉持はんがかかってるのがおかしいか」

 

「…いや、その認識で合っています、僕は例外…その例外とは、ネットに深く入り込みすぎた人間です」

 

「……話が見えへんな」

 

「現実において、ネットの中の力が行使できるんです」

 

「…意味がわからん」

 

当然だろう、説明より見せた方が早いだろうが…

ここで見せる事はあまりしたくない、NABの裏側がわからない…

 

「…来年までにはみんな死ぬ、として…これは自然に起きたことなんかな?」

 

「いいえ、ヴェロニカ・ベインが引き起こしたことです」

 

「…何の為に…」

 

「……そこまでは」

 

だけど、ヴェロニカ・ベインには目的がある…何か、必ず

 

「…タイムリミットがわかって良かったわ…またお邪魔するやもしれませんけど」

 

「お力になれる事があるとは限りませんけど…」

 

「……正直本部もかなり頭がイカれとるんですわ、黒い森ってわかりますか」

 

「…一応」

 

「それの奪い合いが始まっとります、ヴェロニカ・ベインの暗殺も企ててたらしいけど失敗したらしいし、日本の中で戦争が起こっとる…あんさんらは海の軍人さんやもしれんけど…ホンマに危険なのは陸かもしれん」

 

陸か…陸上戦闘は…誰もできなかったな…

 

「お邪魔しました、ほなまた」

 

……陸での戦いにも備える必要があるか

だとすると今のシステムは通用しないな

 

「………もしもし明石?ちょっとお願いしたいんだけど…」

 

 

 

 

 

ベイクトンホテル ペントハウススイート

ヴェロニカ・ベイン

 

「………はぁ…とんだ災難ね、また一つ才能が散った」

 

「ご自分命に興味はないのですか」

 

「全くないわ、だって私は生き返るのだから……ところで、貴女、名前は?」

 

「東雲です」

 

「……素敵な素体ね,でも貴女には天才的な何かを感じない…何故かしら」

 

「理解できません」

 

所詮機械なんてこんなもの…か

私が身を宿すのはこんなちっぽけな存在ではないことだけは確かなのだから関係ない

 

「…黄昏の碑文を知ってるかしら」

 

「いいえ、知りません」

 

「聞いてみるといいわ、貴女の上司に…貴女の力の強さを知れるはずよ」

 

最強の碑文コルベニク

これを私のガードに送り込む理由がわからない

 

だけど可能性はいくらかある…

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府

駆逐艦 東雲

 

「…黄昏の碑文だと?そんな資料もあったか、大和」

 

「はい、こちらに…確か新車が出没したあたりで用意した資料です」

 

…つまり私たちが着任した後の資料か

 

「まあ何の役にも立たなかったがな、お前が求めているのはこの一節だろう、読んでやれ」

 

「禍々しき波の何処に生ぜしかを知らず…星辰の巡りめぐりて後東の空昏く大気に悲しみ満ちるとき、分かつ森の果て、定命の者の地より、波来る先駆けあり」

 

…これが、黄昏の碑文…?

私はこの始まり方を知ってる…

 

「行く手を疾駆するはスケィス、死の影をもちて、阻みしものを掃討す……惑乱の蜃気楼たるイニス…偽りの光景にて見るものを欺き、波を助く………天を摩す波、その頭にて砕け、滴り、新たなる波の現出す、こはメイガスの力なり……波の訪なう所希望の光失せ、憂いと諦観の支配す……暗き未来を語りし者フィドヘルの技なるかな、禍々しき波に呑まれしとき策をめぐらすはゴレ、甘き罠にて懐柔せしはマハ……波、猖獗を極め、逃れうるものなし…仮令逃れたに思えどもタルヴォス在りき、いやまさる過酷さにて、その者を滅す…そは返報の激烈さなり、かくて、波の背に残るは虚無のみ…虚ろなる闇の奥よりコルベニク来るとなむ、 されば波とても、そが先駆けなるか」

 

「…これが黄昏の碑文、ですか…?」

 

「どうしました、間違い無いですよ」

 

…これを読んだのは…向こうにいた時だった…

 

「……これは、黄昏の碑文…」

 

倉持海斗の私物にあったデータだった

しかし名前は…薄明の碑文…

 

黄昏と薄明…

 

「なんだ、何かあるのか」

 

「いえ、少し別の名前を思い描いてしまったもので」

 

「…元々日本のものでは無い、翻訳の時に誤訳があったのだろう」

 

…東の空…に、禍々しい波…

波に呑まれ、暗くなる…夕暮れを指すには…黄昏という言葉が最適に見える

 

「このややこしい文章、良くわかりませんねぇ」

 

「識者に聞いた話では結局のところコルベニクが1番強いと言う話だ、それ以外はただの先駆けに過ぎん、と謳われているらしい、東雲、貴様の力はそういうものだ」

 

……だけど、なぜあの男は薄明と…

波の向こうに…夜明けを見たのか…?

 

「………」

 

「…東雲」

 

わからない、わからない…!

なぜこうも胸がざわめく…何を見落としている、何を求めている…!

私の心が死ぬ度に何かを求めて叫ぶ

私の心が死ぬ度に…何かに近づいている

 

蘇る度に…何かを…求めている

 

「大和」

 

「勿論です」

 

何故だ、私は今満たされていなければならないのに…

死ねば死ぬ程…満たされないと思ってしまうのは…

 

不意に後頭部に圧迫感を感じ、体が宙に浮かぶ

 

「ちょーっと甘く扱ったらコレなんですから、制御スイッチはどこでしたっけねぇ」

 

大和が私の頭蓋を潰しそうな力で握る

 

「あっ…ぁぐ…」

 

「やめておけ、殺してはならん」

 

「優しい優しい提督のおかげで生きてますけど、貴女、誰を無視したかわかってますか?」

 

無視?私が…?

 

「東雲、私の言葉を無視するとは随分酷いでは無いか」

 

「そ…んな…私は…そんなこと…」

 

「自分の世界に没頭しすぎたんですか?失礼な子ですねぇ、ほら、下ろしてあげるからどうするか、わかってますよね?」

 

下されるとすぐに五体投地の形になる

大和に頭を踏みつけられる

 

「申し訳ありません、どうかお許しください…!」

 

捨てられたくない、それだけが私の中に存在する全ての感情…

 

「私がお前を捨てる?なぜそんな事をする、おまえは謝った、許してやるのが道理だろう?」

 

「慈悲深い提督に感謝してくださいね?ほんとは踏み殺してもいいんですよ?」

 

「ありがとうございます…」

 

…なぜ、私は…こんなに…

 

 

 

 

 

また、この感じ…夢…?

私は今寝てるの?そんな訳ない…はず

 

「曙ちゃん、何やってるの?」

 

「……潮…?なんで…ここは…」

 

街?…見覚えがある、離島時代に外出した街…

 

「ほら、ボーノも早く行こうよ、ぼーっとしてると何も買えなくなっちゃうよ」

 

「…漣……無事だったの…?」

 

「早くしなさいよね、朧の分のお土産も買わなきゃ行けないんだから」

 

「………何を…」

 

何で私の体は勝手に進んでるの…?

 

わかる、私の顔は今、笑ってる

楽しんでる…この今を…

 

ああ、これは…あの時の記憶なんだ

 

……良く、憶えてる…

 

「アオボノちゃんはセンスあるよね」

 

…みんなで服を買って

 

「四つ子コーデ!しましょ!」

 

 

「うーん…うまー!」

 

「アンタなんでせっかく外に来てまでカレー食べてるのよ」

 

「…間宮のカレーの方が美味しい」

 

そう、私の言葉だ…私の思ってた事だ

 

 

 

 

「…やっぱり、アンタとあたしは似てるわよ」

 

………ほんとは聞こえてたよ、私は…

私もそう思ってた、良く似てて、でも真逆で…

 

そう思ってたのに…

 

 

 

「うるっさいのよ!このモノマネ野郎!」

 

…私は、邪魔だったんだ…

私は貴女にとっても邪魔だったんだ…

 

だから、私は…

 

 

 

あの時マフラーを焼いたのは自分の意思で…

もう、帰れないんだから

 

 

 

 

 

「……ほう、泣くほどに反省したか、大和、退いてやれ」

 

「はい、今後気をつけてくださいね」

 

「……申し訳ありませんでした…」

 

…気づいてしまった、帰りたいという感情に

あの頃の感情が呼び覚まされてしまった

 

「さて、東雲、早速仕事だ、研究素体が足りないらしい、取りに行くのを手伝え」

 

「…はい」

 

……私の体はもう私の物じゃない…

 

私は、帰れない

 

 

 

 

 

「ええ、これ、見てくださいよ」

 

「…無傷に見えるが」

 

「確かに!たしっかに私は徹底的に虐めたんですよ、ほら、これ…」

 

「修復剤で治したという事だろう」

 

「そうなんですよ!なんて酷い!……ってのは置いといて…この子、もう一回虐めたいなって」

 

「………好きにしろ、東雲お前も行け、ついでに他の仕事も振っておく」

 

「喜んで、今回は優秀な助手もいますし、楽な仕事ですよ」

 

……私に、漣を殺す手伝いをしろ…って事…?

 

私が漣を殺すの…?

 

「頼りにしてますよ、ね、東雲さん」

 

笑顔でスイッチを押された瞬間

とうとう…全てが呑まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

宿毛湾泊地

駆逐艦 漣

 

「……ダメ…また吐きそう…」

 

「よしよし、怖かったねー…うーん…一向に元気になる気配がないね」

 

「………本当に悪かったわよ、漣…」

 

…そんなんじゃない…

ウッシーオにもぼのたんにも迷惑をかけてるけど

誰のせいでもない…

 

なんだろう…何かが私の肌を撫でてる

カミソリが素肌をなぞってるような感覚が全身を走る

 

「おぇっ…うえぇぇ…」

 

「流石に深刻だよ、これ…このままじゃ死んじゃうんじゃ…」

 

「脱水症状と栄養不足に気をつければ問題ないってネットに書いてたけど…怖いわね」

 

「…ごめん…2人とも…もういいよ…私、ちょっとしたら横になりたいから…先、戻ってて……」

 

「……そういう訳にはいかないよ」

 

「そうよ…あ、朧呼んでくる、朧なら安心できるでしょ」

 

……助けてくれた事もあって…ボーロがいたら少しは気持ちがマシになる、正直ありがたい

 

「じゃあ私は提督呼んでくるよ、ちょっとだけ我慢できる?」

 

「……うん…ごめん……うぇっ…!」

 

……何この感じ、さっきよりもキツい…

この悍ましい感じは…なんなの…?

 

何かが来てる…

 

「ダメ…やっぱり行かないで…」

 

遠ざかっていく2人に声は届かない

 

心のどこかで安心した

何となくわかる、何かが私を付け狙ってる感覚

蛇のとぐろの中に居るような…

 

私だけが襲われるなら、それでも…いい

 

 

 

「………そっか…久しぶりだね、ボーノ…」

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